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9 大見頼一 スポーツ傷害予防チームリーダー 日本鋼管病院リハビリテーション科理学療法士 保健医療学修士スポーツ現場からすると 予防トレーニングは予防のためだけであれば なかなか実施しにくい面があるだろう 今回は予防トレーニングを行うことで 動作がどのように変化するかについてまとめている 果をみていく際には 実施前後にジ前回は 予防トレーニングによるャンプやカッティングなどの動作解予防効果について紹介しました 今析を行い それがどのように変化し回は 予防トレーニングを実施するたのかを調べるという研究デザインことによって ジャンプ動作や筋力になります この動作試技に何を行がどのように変化するのかをお話しうかが 1 つのポイントになります していきます 皆さんもご存じのよこの研究は 2007 年から取り組みうに 膝外傷はストップ動作 着地始めて 3 段階にレベルアップしてお動作 カッティング動作などが受傷りますので その流れと内容につい機転となります その受傷機転になて述べていきたいと思います る動作のときに膝関節 股関節や足第一段階として 2007 年にまず関節がどのような動きをしているの高校女子バスケットボール選手に対か どのようなモーメントが発生しする予防トレーニングの効果としているのか 床反力はどうなのかをて Hewettらが提唱していたDrop 調べていく必要があります そして jump test( 図 1 ) を行うことで 効予防トレーニングのトレーニング効果を検証しました 実施したプログ ラムはHewettの提唱したSports- metrics program( プライオメトリクス中心 ) に バランスエクササイズと筋力強化 ( ハムストリングス ) を加えたものでした 19 名の選手を対象にレベル 1 レベル 2 ( 各 5 週間 ) 計 10 週間のプログラムを週 3 回実施しました プログラム実施前後で Drop jump testを行い 三次元動作解析 (Ariel Performance Analysis System:ARIEL DYNAMICS 社製 ) で 膝屈曲角度とKnee/Hip 比を算出しました ( 図 2 ) プログラム実施前の測定で 19 名中 Knee-in 傾向がありKnee/Hip 比が下位の 7 名をKnee- in 群 ( 以下 K I 群 ) Knee in 傾向がなくKnee/Hip 比が上位の 7 名を Neutral 群 ( 以下 N 群 ) に分けて検討した結果 KI 群はKnee/Hip 比が実施前 51± 7 % から実施後 62±11% で有意に増加しました つまりknee-in が改善しました 30 box box 図 1 Drop jump test 図 2 Knee / Hip 比 (%) 42 Training Journal July 2013

膝の傷害予防トレーニング a b a.マーカー貼付位置 測定には 3 次元動作解析システムVICONMX VICON社製 床反力計 AMTI社製 2 枚 サンプリング周波数 100Hzの赤外線カメラ 8 台を用い 直径14mmの赤外線反射マーカーを 22個貼付した b. 片脚着地動作 20cm台の線上に片脚で立ち 前方に引いてある線の上に同側の片脚で着地するよう指示した 図3 三次元動作解析と片脚着地動作 第二段階 しかし 私たちはプライオメトリ 固定用ベルト 固定用ベルト クスを中心にしたプログラムは 筋 力やバランス能力の未熟な高校女子 選手にとってあまり有益ではないと 考え 新しいプログラムを開発する 必要を感じました ジャンプエクサ サイズは バスケットボールに多い 着地やストップ動作に着目して ジ ャンプ着地やストップ動作を改善す 股関節外転筋力測定 股関節開排筋力測定 徒手筋力測定器µTas MF-01 アニマ社製 を用い 固定用ベルトを使用して等尺性 筋力測定を実施した るプログラムに変えました また三 次元動作解析についても デジタイ 図4 股関節筋力測定 ズするタイプの解析装置ではなく VICONなどの反射マーカー 赤外線 等尺性筋力測定を実施しました 図 カ月の間に 3 回行いました 9 カ月 カメラ 床反力計を用いた最新の三 4 この徒手筋力測定については 終了後に再び片脚着地動作と筋力測 次元動作解析を使用していくことを 誤差をできるだけなくすために固定 定を行いました 考えました 用ベルトを使用して行いました 対 その結果ですが 片脚着地動作の 象は大学女子バスケットボール選手 各関節角度では つま先接地時の膝 9 名 新入生 としました 屈曲角度 着地時の最大膝屈曲 股 第二段階としては ジャンプ着地 トレーニング 筋力強化 ハムスト まずは 知識教育などを行ってい 屈曲角度が有意に増加しました 残 バランスの 3 種の要素から構成され ない状況で 新入生に対して片脚着 念ながら膝外反角度に変化はありま る 予 防 ト レ ー ニ ン グ を 作 成 し 地動作の三次元動作解析と上記の下 せんでした VICONを用いて片脚着地動作の三次 肢筋力測定を実施しました その後 元動作解析 図 3 を行うことにし 1 週間以内に新しく作成した予防ト 股外転モーメントが有意に減少しま ました また 筋力評価として ① レーニング指導を行い レベル 1 3 した また垂直方向の最大床反力が 等速性筋力測定 膝伸展 屈曲 片 カ月 レベル 2 6 カ月 を計 9 カ 有意に減少しました 膝 股関節を 脚スクワット と ②徒手筋力測定 月間実施しました 指導方法は本連 深く曲げて 柔らかい着地ができる 器μTas MF-01 アニマ社製 を用い 載でこれまでに紹介した方法で 知 ことによって 垂直方向の最大床反 股関節外転 外旋 開排の 3 種類の 識教育のための講義と実技指導を 9 力が減少し それが関節モーメント リング 股関節外転筋 体幹など 関節モーメントでは 最大膝伸展 Training Journal July 2013 43

a. b. e. a c e c d b d 図 5 片脚着地動作での下肢関節角度と垂直方向最大床反力 の減少にもつながったと考えられました ( 図 5 ) これについては わかりやすい例をスティックピクチャーで解説します ( 図 6 ) この例は一番変化がわかりやすかった選手の例で 上が予防トレーニング実施前で下が予防トレーニング実施後です 左がつま先接地時で 真ん中が最大床反力時 右が着地時 ( 着地をして最大に膝が曲がったとき ) を表しています つま先接地時をみると 実施前は膝と股関節がほぼ伸展位 ( 伸びきってしまっている ) ですが 実施後は明らかに股関節が曲がっていて着地前から着地の準備を行っていることがわかります 着地時も実施後は膝 股関節を屈曲させて 体幹と下腿の前傾角度が平行で 私たちが指導しているパワーポジションに近い姿勢になっています 垂直方向の最大床反力も33.3から24.1 へ減少し ていました 実際 測定のときに感じたのですが 予防トレーニング実施前は着地がドスンという感じで かなり伸びた状態で着地をする選手が多いなという印象でした それが実施後の測定では ピタッという着地をする選手ばかりになり 明らかに着地動作が違っているなという印象だったので 解析が楽しみだったことをよく覚えています また 下肢筋力では 膝伸展 屈曲 股外転 外旋 開排筋力が有意に向上し 片脚スクワットも向上傾向でした このような下肢筋力の向上は 正しいジャンプ着地姿勢をつくるために必要な筋力の基盤になると考えられます このような結果を通じて この予防トレーニングによって 損傷リスクが減少すると結論づけました ただし また新しい課題もみつかりました それは 第一に動作試技について 第二に前額面 ( 前からみた動き ) の変化が少なかった点 第三に三次元動作解析に時間がかかりすぎることでした 予防トレーニングの効果を判定する際には いくつかの試技を行いますが 一番多く使われているのがDrop jumpです この試技は 30cm 台から両脚で飛び降りて すぐに上方に最大ジャンプをするというプライオメトリックの要素の試技です これはHewettらのグループが行っているために 日本でも多くの先生方が行い 学会でもよく発表されています 私たちも第一段階では この試技を使用して研究を行い また第二段階でも片脚着地動作とともにこの Drop jumpも動作解析として測定を行いました ただ 第二段階では解 44 Training Journal July 2013

析がうまくいかず Drop jumpのデータは使用できませんでした 1 つ私が疑問に思ったのは この飛び降りて上方に飛ぶというジャンプは 試技者によってばらつきが多いという点でした やってみるとわかるのですが 台から飛び降りて飛ぼうとするとどうしても上方というよりは上前方に飛んでしまうのです 上方にうまく跳べる人もいますが 前方向に跳んでしまう人もいて これを同じ試技方法としてよいのかと思いました Hewettらは 台の上方にボールをおいて これをキャッチするという方法によって 試技を統一させているようでしたが この装置をつくるのは簡単ではなく この試技が効果判定によいのかどうか 私は疑問を持っています 一方 片脚着地動作は 台から飛び降りるというタスクに試技者間のばらつきが少なく よい方法ではないかと考え 現在も片脚着地動作を主に使用しています 次に前額面の問題としては 第 2 回で紹介した受傷メカニズムの研究も考慮して より股関節に着目したエクササイズに変えるべきだと考えて プログラム内容をやや変更しました それが この連載で取り上げてきたミニバンドを使用したプログラムです そして この股関節により着目したプログラムに変えることによって どのようなトレーニング効果があるのかを検証していくことにしました また 動作解析については 三次元動作解析は精度の高さというメリットがありますが 想像以上に解析に時間がかかり 現場へのフィードバックも遅れてしまうということを実感したため より簡便に行える二次元動作解析を取り入れることにしました 図 6 スティックピクチャー で 選手たちは問題点を実感できまそして第三段階として 2012 年す ぜひみなさんも試してみて下さに新しいプログラムを導入するととい もに 第二段階と同じ方法で実施前話がそれましたが 上記の測定の後に片脚着地動作の測定を行いまし結果です 解析については 股関節た 対象は大学女子バスケットボー屈曲 内転 膝関節屈曲 外反 足ル選手の新入生で 9 カ月間プログ関節底背屈の接地時および接地後 50 ラム実施が可能だった11 名としましミリ秒の角度を実施前後で比較しまた 二次元動作解析では ハイスピした ( 図 7 ) 接地後 50ミリ秒では ードデジタルカメラ ( ハイスピード股関節屈曲が有意に増加し 膝外反エクシリム :EX-ZR200 CASIO 社製 ) と股関節内転が有意に減少しましを用いて 正面と側面から撮影しまた 接地時では 股関節屈曲が有意した (120Hz = 1 秒間に120コマ に増加しました この結果より 股通常のビデオカメラが30コマ ) こ関節により着目した新しい予防トレのデジタルカメラは 2 万円台というーニングの実施によって 前額面上安価にもかかわらず ハイスピードの問題となる膝関節外反と股関節内で撮影できる利点があり 病院内の転が減少し ACL 損傷リスクが軽減リハビリでも患者さん 選手にみせしたと考えられました また 股るためによく利用しています 投球関節を曲げる という指導が 実際動作 ジャンプ動作 ランニング動のジャンプ着地動作にも活かされて作など 速い動きを通常のビデオでいることがわかりました 講義によみてもわからない点がありますが る知識教育を行って どういう肢位このハイスピードデジカメはスローが悪い肢位なのか どういう肢位がモーションで動きを伝えられるの正しい肢位なのかを選手自身が理解 Training Journal July 2013 45

図 7 30cm 120Hz 片脚着地動作の二次元解析 最後に情報提供です 日本鋼管病院 佐々木病院 青葉さわい病院リハビリテーション科スタッフで協力して作成したACL 損傷ガイドライン Q&Aが当院のホームページ ( 日本鋼管病院リハビリテーション科 ) からダウンロードできます ACL 損傷に関する知見が詰まっていますので ぜひご覧いただけると幸いです 次回は 予防チームスタッフで足関節捻挫予防に取り組んでいる尹成祚 PTが 足関節捻挫予防トレーニングについて紹介させていただきます すること それを実際に行うことができるように股関節周囲の筋力を向上させること バランス能力を改善させること 股関節の使い方を意識させたジャンプ着地動作を繰り返すことによって いわゆるknee-in になってしまう着地をNeutralな着地に改善できることがわかりました 今回は私たちが取り組んできた予防トレーニングがジャンプ着地動作の改善にどのように影響するのかを取り上げました これまでの流れをまとめてみると 動作解析はいろんな方法にチャレンジし またその解析結果から予防トレーニングの内容の改善につながっていることがよくわかります 近年 外転筋や外旋筋などの股関節周囲筋や体幹スタビリゼーションが注目されています ただ 外転筋を強化するだけで動きが改善するわけではないと思います 現場での印象としては そのような筋力強化がベースとなって 選手自身が予防トレーニングで行うようなジャンプ動作で鍛えた筋を使って 股関節を意識 できるようになり それがスポーツ動作の中で意識できるようになることが大切だと思います 先日聞いた講演で このような言葉がありました The safe technique is the best technique すなわち 安全な技術は最高の技術 であるという意味です これはラグビーで多い肩関節脱臼を防ぐためのタックル技術についての話だったのですが 正しいタックル姿勢でタックルすれば 脱臼しない そしてタックルとしても素晴らしいという意味だと思います 予防トレーニングでよく聞かれるのは パフォーマンスは向上するのですか? ということです 私は 予防トレーニングによって実際の競技動作でも正しい姿勢で止まれるようになるという意味でのパフォーマンス向上はあると思っています 今後は 片脚着地動作以外に 実際のバスケットボールのストップ動作やリバウンドのようなジャンプ動作の動作解析をすることによって バスケットボールの競技動作の改善につながっているかを調べていきたいと思っています [ 参考文献 ] 1) 大見頼一ほか : 実践的膝前十字靭帯損傷予防プログラムが下肢動的アライメント 膝屈曲筋力 ジャンプ力に及ぼすトレーニング効果とその予防効果. 日本臨床スポーツ医学会誌.16:241-249.2008. 2) 大見頼一ほか : 膝前十字靭帯損傷予防プログラムのトレーニング効果 ~ 三次元動作解析による片脚着地動作と下肢筋力評価 ~. 日本臨床スポーツ医学会誌.20:56-65.2012. 3) 大見頼一 : 膝前十字靭帯損傷予防プログラムと動作解析.NO.122.10-17.2010. Sportsmedecine 4) 膝前十字靭帯 (ACL) 損傷理学療法診療ガイドラインQ & A 5)Lim BO.et al.:effects of sports injury prevention training on the biomechanical risk factors of anterior cruciate ligament injury in high school female basketball players. Am J Sports Med. 37:1728-34.2009. 6)Chappell JD:Effect of a neuromuscular training program on the kinetics and kinematics of jumping tasks.am J Sports Med. 36:1081-6.2008. 7)Pollard CD.et al.:the influence of in-season injury prevention training on lowerextremity kinematics during landing in female soccer players.clin.j.sports Med.16: 223-227.2006. メモ大見頼一連絡先 yoriohmi1118@yahoo.co.jp 46 Training Journal July 2013