研究成果報告書

Similar documents
<4D F736F F D F4390B38CE3816A90528DB88C8B89CA2E646F63>

研究成果報告書

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

接歯や粘膜上皮に付着できない菌も組織定着が可能です ( 図 2) 口腔ケアが低下し異菌種間の凝集を仲介する細菌種の Fusobacterium や Actinomyces などが増えると プラーク量は一気に増加します ( 図 2) 徐々にプラーク内の嫌気度が増し 歯周病原菌 Porphyromona

< 背景 > HMGB1 は 真核生物に存在する分子量 30 kda の非ヒストン DNA 結合タンパク質であり クロマチン構造変換因子として機能し 転写制御および DNA の修復に関与します 一方 HMGB1 は 組織の損傷や壊死によって細胞外へ分泌された場合 炎症性サイトカイン遺伝子の発現を増強

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

様式 C-19 科学研究費補助金研究成果報告書 平成 21 年 6 月 2 日現在 研究種目 : 若手研究 (B) 研究期間 :26 ~ 28 課題番号 : 研究課題名 ( 和文 ) 炭酸ガスおよび半導体レーザーによるオーラルアンチエイジング 研究課題名 ( 英文 ) Oral an

研究成果報告書

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

平成 2 3 年 2 月 9 日 科学技術振興機構 (JST) Tel: ( 広報ポータル部 ) 慶應義塾大学 Tel: ( 医学部庶務課 ) 腸における炎症を抑える新しいメカニズムを発見 - 炎症性腸疾患の新たな治療法開発に期待 - JST 課題解決型基

No146三浦.indd

研究成果報告書

報道発表資料 2007 年 4 月 30 日 独立行政法人理化学研究所 炎症反応を制御する新たなメカニズムを解明 - アレルギー 炎症性疾患の病態解明に新たな手掛かり - ポイント 免疫反応を正常に終息させる必須の分子は核内タンパク質 PDLIM2 炎症反応にかかわる転写因子を分解に導く新制御メカニ

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

インプラント周囲炎を惹起してから 1 ヶ月毎に 4 ヶ月間 放射線学的周囲骨レベル probing depth clinical attachment level modified gingival index を測定した 実験 2: インプラント周囲炎の進行状況の評価結紮線によってインプラント周囲

平成14年度研究報告

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

脂肪滴周囲蛋白Perilipin 1の機能解析 [全文の要約]

学位論文の要約

平成24年7月x日

研究成果報告書

Powered by TCPDF ( Title 組織のスラック探索に関する包括的モデルの構築と実証研究 Sub Title On the comprehensive model of organizational slack search Author 三橋, 平 (M

<4D F736F F D C A838A815B83588CB48D655F927C93E0284A535489FC92F932298B9E91E58F4390B3284A53542C4D F542D312E646F63>

<4D F736F F D E7390AD8B4C8ED2834E A A838A815B83588E9197BF3388C E690B6816A2E646F63>

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

Powered by TCPDF ( Title Sub Title Author 喫煙による涙腺 眼表面ダメージのメカニズム解明 Assessment of the lacrimal and ocular surface damage mechanism related

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

報道関係者各位

は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

研究成果報告書

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

in vivo

11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています


ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

関節リウマチ ( RA) 治療薬の効果評価法と応答性の個人差に関する 遺伝要因の検討 Studies on Scoring Methods of Drug E fficac y and G enetic Factors Associat ed with Inter-p atient Variab i

研究の背景 1 細菌 ウイルス 寄生虫などの病原体が人体に侵入し感染すると 血液中を流れている炎症性単球注と呼ばれる免疫細胞が血管壁を通過し 感染局所に集積します ( 図 1) 炎症性単球は そこで病原体を貪食するマクロファ 1 ージ注と呼ばれる細胞に分化して感染から体を守る重要な働きをしています

Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

考えられている 一部の痒疹反応は, 長時間持続する蕁麻疹様の反応から始まり, 持続性の丘疹や結節を形成するに至る マウスでは IgE 存在下に抗原を投与すると, 即時型アレルギー反応, 遅発型アレルギー反応に引き続いて, 好塩基球依存性の第 3 相反応 (IgE-CAI: IgE-dependent

未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

2012 年 1 月 25 日放送 歯性感染症における経口抗菌薬療法 東海大学外科学系口腔外科教授金子明寛 今回は歯性感染症における経口抗菌薬療法と題し歯性感染症からの分離菌および薬 剤感受性を元に歯性感染症の第一選択薬についてお話し致します 抗菌化学療法のポイント歯性感染症原因菌は嫌気性菌および好

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

Untitled


<4D F736F F D F4390B388C4817A C A838A815B8358>

研究成果報告書

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 山田淳 論文審査担当者 主査副査 大川淳野田政樹 上阪等 論文題目 Follistatin Alleviates Synovitis and Articular Cartilage Degeneration Induced by Carrageenan ( 論文

Untitled

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

Microsoft Word - プレスリリース最終版

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

Powered by TCPDF ( Title フィラグリン変異マウスを用いた新規アトピー性皮膚炎マウスモデルの作製 Sub Title Development of a new model for atopic dermatitis using filaggrin m

Microsoft Word - 【要旨】_かぜ症候群の原因ウイルス

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

Powered by TCPDF ( Title 非アルコール性脂肪肝 (NAFLD) 発症に関わる免疫学的検討 Sub Title The role of immune system to non-alcoholic fatty liver disease Author

Untitled

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

スライド 1

1508目次.indd

口腔内細菌コントロールによる感染予防

<4D F736F F D2082A8926D82E782B995B68F E834E838D838A E3132>

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

学報_台紙20まで

<4D F736F F F696E74202D2097D58FB08E8E8CB1838F815B834E F197D58FB E96D8816A66696E616C CF68A4A2E >

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

原提示細胞によって調査すること 2 イベントの異なる黄砂のアレルギー喘息への影響を評価すること 3 黄砂に付着している微生物成分 (LPS 真菌 ) や化学物質 ( タール成分 ) のアレルギー喘息や花粉症への影響を評価すること 4 アレルギー喘息等の増悪メカニズムを 病原体分子パターン認識受容体

葉酸とビタミンQ&A_201607改訂_ indd

日本標準商品分類番号 カリジノゲナーゼの血管新生抑制作用 カリジノゲナーゼは強力な血管拡張物質であるキニンを遊離することにより 高血圧や末梢循環障害の治療に広く用いられてきた 最近では 糖尿病モデルラットにおいて増加する眼内液中 VEGF 濃度を低下させることにより 血管透過性を抑制す

Microsoft PowerPoint - 新技術説明会配付資料rev提出版(後藤)修正.pp

八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

第51回日本小児感染症学会総会・学術集会 採択結果演題一覧

グルコースは膵 β 細胞内に糖輸送担体を介して取り込まれて代謝され A T P が産生される その結果 A T P 感受性 K チャンネルの閉鎖 細胞膜の脱分極 電位依存性 Caチャンネルの開口 細胞内 Ca 2+ 濃度の上昇が起こり インスリンが分泌される これをインスリン分泌の惹起経路と呼ぶ イ

H28_大和証券_研究業績_C本文_p indd

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

ヒト胎盤における

博第265号

界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

<4D F736F F D BE391E58B4C8ED2834E C8CA48B8690AC89CA F88E490E690B62E646F63>

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

-119-

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

年219 番 生体防御のしくみとその破綻 (Immunity in Host Defense and Disease) 責任者: 黒田悦史主任教授 免疫学 黒田悦史主任教授 安田好文講師 2中平雅清講師 松下一史講師 目的 (1) 病原体や異物の侵入から宿主を守る 免疫系を中心とした生体防御機構を理

PT51_p69_77.indd

Transcription:

様式 C-19 科学研究費補助金研究成果報告書 平成 21 年 5 月 20 日現在 研究種目 : 基盤研究 (C) 研究期間 :2007~2008 課題番号 :19592419 研究課題名 ( 和文 ) 漢方薬による歯周疾患治療への応用とその作用機序解明 研究課題名 ( 英文 ) Application of Kampo medicine to periodontal disease treatment and clarification of its mechanisms 研究代表者王宝禮 (WANG PAO-LI) 松本歯科大学 歯学部 教授研究者番号 :20213613 研究成果の概要 : 歯周病は 歯周病関連細菌の菌体成分 (LPS など ) 刺激によりヒト歯肉線維芽細胞 (HGFs) などが炎症性サイトカイン プロスタグランジン (PG)E 2 などを産生することで生じる慢性炎症疾患である 一般的に歯周病治療は歯石 プラークの除去を行うが 炎症症状が著しい場合には抗炎症薬を投与することがある しかし 一般的な抗炎症薬は胃腸障害などの副作用がある 抗炎症作用を示す漢方薬 小柴胡湯にはこれら副作用がない 小柴胡湯による HGFs の炎症性物質産生抑制効果を検討し 明らかにした 交付額 ( 金額単位 : 円 ) 直接経費 間接経費 合計 2007 年度 1,800,000 540,000 2,340,000 2008 年度 1,700,000 510,000 2,210,000 年度年度年度総計 3,500,000 1,050,000 4,550,000 研究分野 : 医歯薬学科研費の分科 細目 : 歯学 社会系歯学キーワード : 歯周病 LPS PGE 2 COX-2 小柴胡湯 抗炎症作用 1. 研究開始当初の背景 歯周病は 歯肉縁下に存在するグラム陰性嫌気性菌由来リポポリサッカライド (LPS) などの毒素により発症する慢性炎症疾患である LPS は歯周組織破壊における主要な病原因子であり ヒト歯肉線維芽細胞 ( HGFs ) を歯周病原因菌 Porphyromonas gingivalis (P. g.) 由来の LPS で刺激すると IL-1 IL-6 などの炎症性サイトカイン産生が誘導される これまでに HGFs において CD14 および Toll 様受容体 (TLR)4 が LPS の受容体として作用し 炎症性サイトカインの産生をコントロールしていることを明らか

にした また 歯周炎患者の炎症部位から採取した HGFs は 健常者から採取された HGFs よりも LPS 刺激によるサイトカイン産生量が多いことを報告した これらの反応は 単球 マクロファージで観察される反応と同様であるため HGFs が単に結合組織としての作用だけではなく 歯周組織における自然免疫担当細胞であることを提唱した 炎症性サイトカインなどは細菌に対する防御反応を誘導するが 過剰な免疫応答により炎症 骨吸収を引き起こす 歯周疾患の治療は その原因となるプラーク 歯石などを除去することが必須である また 炎症が著しい場合においては 酸性非ステロイド性抗炎症薬などを全身あるいは局所投与することがある しかしながら この副作用として胃腸 肝 造血障害などがあり 患者の負担が大きいことが示唆されている 漢方薬は数千年にわたる効能 安全性に関する経験に基づいて確立された特有の理論体系として処方される薬物である 患者の症状に応じ 一つの漢方薬で様々な症状を治し 複合的な治療効果が期待できる また 漢方薬は西洋医学では対処しにくい半健康状態から慢性疾患の様々な症状に対処でき 適切に使えば驚く程の効果があり 副作用も比較的少なく 一人一人に合わせた処方が可能である 漢方薬は医科領域の疾患で使用されることが多いが 歯科領域疾患への適応は少なく 口内炎 歯痛 抜歯後疼痛などに限定されている これまでに 歯周病における抗炎症作用を有する漢方薬を用いた治療は 殆ど行われていない また 漢方薬は一般的な抗炎症薬による胃腸障害といった副作用の軽減を期待させることが考えられる 2. 研究の目的 一般的な抗炎症薬を用いた歯周病炎症治療に伴う副作用の軽減方法として 漢方薬の適応がある 小柴胡湯は抗炎症作用をもつ漢方薬であり 肺炎 気管支炎 慢性肝炎などの炎症性疾患に対して使用されている これは 副作用 特に胃腸障害に関する報告はなく また 投与禁忌として胃腸障害は含まれ ていない このことは 小柴胡湯が歯周病における抗炎症薬として実際に使用できることを意味する そこで本研究では まず小柴胡湯が歯周病の抗炎症作用を示す可能性があるのかどうかを明らかにするために in vitro 実験系で検討した 3. 研究の方法 ヒト歯肉片から分離した HGFs を 10 ng/ml の Porphyromonas gingivalis(p. gingivalis) 由来 LPS で 24 時間刺激し 培養上清中に産生された IL-6 IL-8 PGE 2 量を ELISA により解析した また この系に小柴胡湯を 0.1 0.3 1 ng/ml の濃度で同時添加することにより 小柴胡湯の作用を同様に検討した 更に PGE 2 の産生に関わる COX-1, 2 の発現をウェスタンブロッティング法により また これらの活性について小柴胡湯存在下で HGFs 細胞抽出液を用いて検討した 4. 研究成果 本研究から 以下のことが明らかとなった (1) 小柴胡湯は P. gingivalis 由来 LPS 刺激による HGFs の IL-6 IL-8 産生量に影響を与えなかったが ( 図 1 2) PGE 2 の産生量を濃度依存的に減少させた また 小柴胡湯は HGFs でもともと産生されている PGE 2 量に影響を与えなかった ( 図 3) (2) 小柴胡湯は P. gingivalis 由来 LPS 刺激による HGFs の COX-2 発現量を濃度依存的に低下させた ( 図 4) (3)in vitro 実験系において 小柴胡湯は HGFs 由来 COX-1 の活性に影響を与えなかったが COX-2 の活性を濃度依存的に抑制した ( 図 5,6)

図 1 P. gingivalis 由来 LPS 刺激により HGFs から産生される IL-6 の小柴胡湯 (TJ-9) による影響. :LPS 未刺激 :LPS 刺激 図 3 P. gingivalis 由来 LPS 刺激により HGFs から産生される PGE 2 の小柴胡湯 (TJ-9) による影響. :LPS 未刺激 :LPS 刺激 *** p < 0.001 図 4 P. gingivalis 由来 LPS 刺激による HGFs の COX-2 発現とその小柴胡湯 (TJ-9) による影響. 図 2 P. gingivalis 由来 LPS 刺激により HGFs から産生される IL-8 の小柴胡湯 (TJ-9) による影響. :LPS 未刺激 :LPS 刺激

図 5 P. gingivalis 由来 LPS で HGFs を刺激後 その細胞抽出液を調製し 小柴胡湯 (TJ-9) 添加時の COX-1 酵素活性に及ぼす影響. 以上の結果から 小柴胡湯は HGFs の COX-2 発現及び活性の両方を抑制することにより PGE 2 の産生を抑制し 抗炎症作用を示すことが示唆された また COX-2 を選択的に阻害するため 患者に胃腸障害を生じさせる危険性が少なくなる可能性が示唆された 従って 既に臨床で使用されている小柴胡湯は 歯周病や口腔内疾患における抗炎症薬として使用可能な漢方薬であることが明らかとなった 現在 他の候補漢方薬として半夏瀉心湯 黄連湯 黄連解毒湯について実験を行っている これまでに いずれの漢方薬においても HGFs から産生される PGE 2 量を低下させるという結果が得られている 今後 更に詳細な漢方薬の作用機序解明と臨床適応を目指した検討を行う必要がある 5. 主な発表論文等 ( 研究代表者 研究分担者及び連携研究者には下線 ) 雑誌論文 ( 計 1 件 ) 1 Ara, T., Maeda, Y., Fujinami, Y., Imamura, Y., Hattori, T., and Wang, P.-L. Preventive effects of a Kampo medicine, Shosaikoto, on inflammatory responses in LPS-treated human gingival fibroblasts. Biol. Pharm. Bull. (2008) 31, 1141-1144, 査読有 学会発表 ( 計 1 件 ) 1 荒敏昭. ヒト歯肉線維芽細胞を用いた歯周病モデルにおける小柴胡湯の抗炎症作用の解明. 第 51 回秋季日本歯周病学会学術大会. 2008 年 10 月 19 日. 愛知県四日市市 図 6 P. gingivalis 由来 LPS で HGFs を刺激後 その細胞抽出液を調製し 小柴胡湯 (TJ-9) 添加時の COX-2 酵素活性に及ぼす影響. * p < 0.05 *** p < 0.001 6. 研究組織 (1) 研究代表者王宝禮 (WANG PAO-LI) 松本歯科大学 歯学部 教授研究者番号 :20213613

(2) 研究分担者今村泰弘 (IMAMURA YASUHIRO) 松本歯科大学 歯学部 講師研究者番号 :00339136 荒敏昭 (ARA TOSHIAKI) 松本歯科大学 歯学部 助教研究者番号 :90387423 藤垣佳久 (HUJIGAKI YOSHIHISA) 松本歯科大学 歯学部 助教研究者番号 :80367523 (3) 連携研究者