日本知財学会誌 Vol. 8 No. 3 2012 : 39-51 最近の韓国の知財動向と政府間協力 岩谷一臣 ( ジェトロソウル事務所副所長 知財チーム ) The Latest Trends and Intergovernmental Cooperation of the Intellectual Property Field in Korea Kazuomi Iwatani JETRO Seoul Dupty Director General, IP Team 近年躍進著しい韓国であるが, 増大する技術貿易赤字や対日貿易赤字, 中小企業の立遅れ等, 問題も少なくない. しかし, 韓国では, 知的財産の側面を含め, 国を挙げてこれらの問題に取り組んでいるところである. また, 企業のグローバル展開に伴い, 知財分野における政府間協力も活発化している. そこで, 本稿は, 韓国政府の知財に対する動向について, 政府間協力も含めて紹介するものである. キーワード 1. はじめに 2. 知的財産からみた韓国のポジション IT 2011 EU FTA FTA PLT 2012 FTA ISSN 1349-421X 2012 IPAJ All rights reserved. 2.1. 出願状況 1980 1990 1995 1998 1980 15 IMF 2005 39
日本知財学会誌 Vol.8 No.3 2012 図 1 韓国における出願動向 出所 : ジェトロ 韓国知的財産政策レポート ( 特許庁委託事業 ) より抜粋. 図 2 各国の出願動向 出所 : ジェトロ 韓国知的財産政策レポート ( 特許庁委託事業 ) より抜粋. 1 2000 2005 2 3 2.2. 知的財産をめぐる韓国の諸問題 1 40
最近の韓国の知財動向と政府間協力 図 3 韓国大手企業の出願動向 出所 : ジェトロ 韓国知的財産政策レポート ( 特許庁委託事業 ) より抜粋. 41
日本知財学会誌 Vol.8 No.3 2012 図 4 対日貿易の状況 出所 : ジェトロ 韓国知的財産政策レポート ( 特許庁委託事業 ) より抜粋. 図 5 技術貿易の状況 出所 : ジェトロ 韓国知的財産政策レポート ( 特許庁委託事業 ) より抜粋. 2 3 1997 IMF 2 10% 1 1995 42
最近の韓国の知財動向と政府間協力 IT R&D 1,000 400 10 2020 4 2020 図 6 韓国の主な模倣品対策体制図 43
日本知財学会誌 Vol.8 No.3 2012 図 7 商標権特別司法警察隊の活動実績 出典 :2011.9.8 韓国特許庁報道資料より作成. 2.3. 模倣品対策 2009 2006 2006 2010 IPOMS IPMS 3. 知識財産基本法の制定 3.1. 知識財産基本法 2005 7 20 2 1 2 3 4 4 6 8 16 19 44
最近の韓国の知財動向と政府間協力 20 24 25 28 29 38 5 40 4. 特許法の改正状況 3.2. 国家知識財産基本計画 11 22 2012 2016 1 5 1 2012 2014 2 2015 2016 2011 PLT FTA 11117 12 2 4.1. PLT 対応のための特許法改正立法予告 PLT 8 2 2011-386 図 8 第 1 次国家知識財産基本計画重点項目 出典 : 国家知的財産委員会 第 1 次国家知的財産基本計画 (2012~2016) より作成. 45
日本知財学会誌 Vol.8 No.3 2012 図 9 国家知識財産委員会 出所 : ジェトロ 韓国知的財産政策レポート ( 特許庁委託事業 ) より抜粋. 2013 1 42 2 3 3 42 2 2 5 3 42 1 2 46 16 1 46 16 1 42 2 2 42 3 4 4 2 42 2 3 1 3 3 2 42 5 4 5 42 5 5 47 6 PCT 62 5 133 6 3 1 4 4 54 4 55 3 46
最近の韓国の知財動向と政府間協力 6 2 54 2 1 2 1 15 3 16 1 3 42 2 2 42 5 1 2 59 2 3 67 2 7 81 3 16 2 16 3 81 3 4 8 4.2. プログラム保護のための特許法改正立法予告 SJC 2011-514 2011 10 14 2 4.3. 韓米 FTA に対応した改正特許法公布 FTA 11117 2011 12 2 FAT 1 6 12 30 2 4 3 92 2 3 2 116 4 224 3 5. デザイン保護法 ( 意匠法 ) の改正状況 2011 75 8 2012 7 9 47
日本知財学会誌 Vol.8 No.3 2012 図 10 国際デザイン出願制度 出所 : 韓国特許庁 2011 年 6 月デザイン保護法立法予告主要内容説明資料. 48
最近の韓国の知財動向と政府間協力 2 1 EU FTA 2 6 63 74 6. 商標法の改正状況 6.1. 韓 EU FTA 対応のための法改正 EU FTA EU FTA 10811 2012 1 1 7 1 10 8 9 16 17 EU 11 7 97 2 1 97 2 1 6.2. 韓米 FTA 対応のための法改正 FTA 11113 FTA 1 2 1 1 2 4 4 2 3 56 58 56 1 2 3 58 4 67 2 67 5,000 7. 政府間協力の状況 WIPO 2007 5 IP5 IP5 2 49
日本知財学会誌 Vol.8 No.3 2012 7.1. 制度調和 IP5 7.2. サーチ 審査結果の相互活用 PPH 2007 2008 9 3 PPH PCT-PPH 7.3. 人材育成 1 INPIT IIPTI CIPTC 2 E- E- IP WIPO IP 2010 2011 IP 7.4. 二国間協力 2010 IP5 2011 ARIPO KIPOnet ASEAN 2010 7.5. 商標分野 OHIM 2010 2011 4 TM4 OHIM MOU 7.6. 模倣品 海賊版拡散防止条約 (ACTA) ACTA 8 1 2010 50
最近の韓国の知財動向と政府間協力 注 1 例えば, サムスン電子は,2005 年から No Patent, No Future というスローガンを掲げ, 特許経営革新 を進め,IP センターを CEO 直属機関とし,550 名規模としている. また,LG 電子も, 同年, グローバル特許経営の積極的展開 を行い,IP センター長を CPO として配置している. 2 ただし,2003 年ごろから韓国中小企業の出願が順調に増加しており, その結果, 韓国の特許出願数が横ばいとなっている点が興味深い. すなわち, 韓国中小企業の知財マインドの向上, 技術力の向上が現実になっている可能性がある. 3 PLT では, 外見上明細書と認められる部分及び引用する先出願についての言語制限が認められておらず, ヨーロッパ特許庁等の例においても, すべての言語による出願が可能とされているが, 韓国政府は, 外国語の許容範囲について相互主義とし, 段階的に拡大する方針をとっている. そのため, 当面は, 英語のみ許容する方向で検討している. そのため, この点では,PLT に準拠していない. 4 韓国特許法の改正案の場合, 日本の外国語出願制度とは異なり, 翻訳文を願書に添付した明細書等とみなす規定は置かれておらず, あくまでも外国語も含めた外見上明細書等面が願書に添付された明細書等の地位を占め ( 例えば, 改正案第 47 条第 2 項では, 補正の制限について, 特許出願をした時の外見上明細書及び図面に記載されている事項の範囲内とすることを規定している ), 翻訳文は, 新規事項追加の判断基準となるものの, 基本的に手続補正書としての機能を担う ( 例えば, 同第 42 条の 5 第 4 項では, 翻訳文と共に明細書の補正であるという主旨を記載した書面を提出することにより, 翻訳文と同一の内容で明細書及び図面の補正がなされたものとみなす規定が置かれている ). 構造になっているようである. 立法予告と共に韓国特許庁が発表した 特許法 実用新案法改定案説明資料 の II.7. 韓国語翻訳文の提出と法的地位 にも同趣旨の説明がなされている. 5 日本の外国語出願の場合, 誤訳の訂正 を目的とした補正 ( 日本国特許法第 17 条の 2 第 2 項 ) が認められているところ, 今般立法予告された韓国特許法法律案においては, 条文案上, 明らかな誤訳 の訂正のみを認めることとされており, その違いをウォッチングする必要があるだろう. 6 韓国特許庁では, 相当な注意として, すべての相当な注意 (all due care) は, すべての適切な (appropriate) 注意, すなわち普通の水準の合理的に能力がある (average resonably competent) 特許権者や代理人により, そのときどきの状況によってなされるすべての適切な注意を意味する という,EPO の審決を引用して説明している. 7 現行特許法第 81 条の 3 では, 特許権者等が その責めに帰することができない事由 の場合, 救済措置を受けることが可能とされていたが, 今般の改正案では, 相当な注意 をした場合に緩和された. 8 現行韓国特許法では, 日本特許法等のように, 明細書と特許請求の範囲とを区別していなかったが, 今般の改正により, 明細書を発明の説明と請求範囲とに分離する改正 ( 第 42 条第 2 項 ) が行われる予定である. ただし, 改正後もそれらを併せて明細書と定義しているため, 発明の説明と請求範囲とは区別されるものの, 明細書には依然として特許請求の範囲が含まれることになるため, 注意されたい. 9 ロカルノ分類第 32 類におけるグラフィックシンボル, ロゴ等については, いたずらに対象が広がるとして反対の声が聞かれており, 今後の改正動向に注意すべきである. 10 農産物品質管理法 と 水産物品質管理法 は, 韓国国内の地理的表示のみ保護対象としているところ, 組織統合等により, 2012 年 7 月に農水産物品質管理法に改正される予定である. 11 一方, 不正競争防止法及び営業秘密保持に関する法律において, 正当な権限がない者による当該地理的表示の禁止規定が置かれ, いわゆる積極的な保護が行われる. 51