1 膵内分泌腫瘍に対する手術を受ける方へ 1. あなたの病名 病状 病名 : 膵内分泌腫瘍 ( 膵島腫瘍 ) 病状 : 膵臓に内分泌腫瘍 ( 膵島腫瘍 ) 性病変がある 2. 治療の方法 膵島腫瘍摘出術 手術の内容 : 皮膚切開は 患者さんの体型や腫瘍の部位により またどのような術式を行うかで異なります 図 1 に示すようないろいろな切開方法があります 1. 膵島腫瘍核出術この手術は正常な膵臓はできるだけ温存して腫瘍だけを摘出する方法です 茶碗蒸しの中に入っている銀杏を 周囲のたまごと一緒にすくうのではなく 銀杏だけを取り出すことをイメージしていただくとわかりやすいと思います すべての膵島腫瘍がこの方法で手術できるのではなく 膵臓の中にある膵管という大事な管が近いとこの方法は無理です ( 図 2) 2. 膵体尾部切除術膵臓の中央に腸から肝臓へ血液が流れる門脈という太い静脈が膵臓の裏側に半分埋まりこむようにあります この門脈より左を膵体尾部と呼びます この部分にある膵島腫瘍を摘出するために門脈から左全部を摘出する方法が膵体尾部切除術です 左全部ではなく半分くらいの小さい範囲を切除するときは膵尾部切除術と呼びます 膵管という管に近く腫瘍がある場合 核出術を行って膵管から膵液が漏れると膵液瘻というやっかいな合併症となりますので そのようにならないように膵臓を切断して膵管もきちんと結紮しておく方法です ( 図 3) 3. 膵頭十二指腸切除術門脈より右を膵頭部と呼びます この部分は十二指腸と接しており 膵管以外に総胆管という大事な管も通っています ここにある膵島腫瘍はできるだけ核出術を試みるのですが 多発している場合や大きな腫瘍では核出術が不可能なことがあります 膵臓の門脈から右全部を十二指腸とともに摘出する方法が膵頭十二指腸切除術です ( 図 4) 4. 腹腔鏡下手術
2 腹腔鏡という手術が普及しはじめて 10 年以上経過し 技術や器具の進歩に伴ってより複雑な手術が腹腔鏡で可能となってきました そのひとつに腹腔鏡による膵島腫瘍の摘出術があります 文献や学会では上記の核出術 膵体尾部切除術 膵頭十二指腸切除術などすべて腹腔鏡で行い成功したという報告がありますが まだまだ標準的な治療とはなっていません ごく限られた施設で十分安全と考えられた場合にのみ行われているのが現状です われわれの施設においても 核出術および膵体尾部切除術を腹腔鏡や腹腔鏡補助という手術の一部に使う手術を行っていますが 腫瘍の位置や大きさ 患者様の年令や体格などを十分考えて安全という場合にのみ適応としております 腹腔鏡手術の場合は患者さんの体型や手術方法によって皮膚切開を行う部位が異なってきます どのような手術方法を受けるかによって手術時間や出血量は大きく異なります 膵島腫瘍が膵臓の表面にひとつだけあるような場合は 2 時間以内に終わることもありますが 多くの手術は 3 時間以上かかります 出血も 100ml 以下のこともあれば 輸血が必要となるくらい出血することもあります 3. 期待される効果 膵臓の腫瘍性病変が手術により摘出できます 腫瘍がホルモンを過剰に分泌している場合は 手術後にホルモン過剰による症状が消失することが期待できます 摘出した腫瘍を顕微鏡で詳しく検査することにより どのような病気であったか確実に診断することができます 悪性腫瘍を完全に摘出することができた場合は治癒を期待することができます 4. 予想される副作用と対処方法 膵臓の手術に特有の合併症として膵液瘻というものがあります これは膵臓にキズがつくことによって膵臓の外分泌腺から分泌される消化酵素を含む膵液がお腹の中に漏れることです 膵液は食物を溶かす働きがありますが 胃や腸の中では粘膜が保護しているため自分の組織を溶かすことはありません しかし腹腔に膵液が漏れたときは 周囲の組織を消化するように溶かし腹膜炎を併発することがあります 血管を溶かしてしまった場合には出血することもあります 膵液が漏れる膵液瘻が発生しても 膵液が腹腔内に貯まらずに外へ出るようにうまく誘導する道 ( これをドレナージと呼びます ) があれば ほとんどの場合膵液瘻は自然に治癒します 食事をすると消化酵素をたくさん分泌する刺激となりますので 多くの場合は絶食で治癒するのを待つことになります そのあいだは点滴で栄養を補います このような合併症がおこる可能性があるので膵臓からの膵液の漏れがおこらないか観察するために 手術後少なくとも 14 日間の入院は必要です 膵液の漏れが生じた場合はしばらく食事ができずに点滴で栄養を補給する期間が必要ですので 1 ヶ月以上かかることもあります 腹腔鏡手術では 外套管を挿入する際に腹腔内臓器や血管を損傷する合併症が報
3 告されています 気腹に伴い炭酸ガスが血液中に入るガス塞栓症という合併症がおこる可能性もあります 炭酸ガスは空気などと比べて血液に溶ける割合が高いので塞栓による障害は発生しにくくなっていますが 塞栓をおこした臓器の機能障害がおこることが報告されています 気腹で心臓に負担がかかっているので 不整脈 心筋梗塞などの予期しない合併症も併発する可能性があります 腹腔鏡を使った手術では 手術中の所見 ( 出血が多くて止血できない 腫瘍が周囲臓器へ癒着 浸潤していて腹腔鏡では切除できないなど ) によっては 安全のため開放手術に切り替える必要があります 手術を終える際には止血は確実にしますが 止血の確認の際には出血していなかったものの傷を閉じて病室に帰ったあとから出血しだす場合もあります ( 後出血と呼びます ) 後出血の程度がひどければ再度全身麻酔をかけ傷をもう一度開き止血術をおこなわなければいけないことがあります 手術した部位に感染がおこり排膿などの処置を要することがあります その他の一般的な合併症として感染症 血栓症 肺合併症 心合併症 腸閉塞があげられます 腹腔内の感染 ( 腹腔内膿瘍 ) 胸腔内の感染 ( 膿胸 ) 創感染 尿路感染など 病原性の弱い細菌でも麻酔や手術で体力が落ちたときに病原性を発揮して発症することがあります 抗生物質などで治療しますが もし MRSA という細菌が検出された場合には 院内感染を防ぐために隔離した部屋に移っていただくことがあります 長時間の手術中や手術後に足の静脈の血が塊り下肢静脈血栓症をおこすことや 血の塊りが肺まで流れて肺の血管が詰まる肺塞栓症を発症することがあります 肺塞栓症は突然死の原因となりうる重篤な合併症で 予防のためにストッキングをはいていただきます 肺合併症には肺炎 無気肺 胸水などが 心合併症には心不全 狭心症 不整脈 心筋梗塞などがあります ストレスによる胃十二指腸潰瘍や脳出血が突発的に起こることもまれにありますが その他の非常にまれな合併症や予期せぬ事態に関しましては 万一発症したときにその時々で説明させていただきます 5. 本治療をうけなかった場合の予後 また当該疾患に対する他の治療法の有無 ホルモンを産生する腫瘍の場合は ホルモン過剰症による障害が発生する危険があります インスリンを分泌するインスリノーマの場合は 極端な低血糖がおこると脳細胞が壊死をおこし 意識障害などの後遺症が残ることがあります ひどい場合は生命の危険を生じることもあります 低血糖を予防するために糖分を多く摂取しなければいけないため 体重増加 肥満となり そのための種々の障害が生じることがあります ガストリンを分泌するガストリノーマの場合は 胃潰瘍や十二指腸潰瘍が発生しやすく 消化管穿孔や消化管出血という重篤な合併症がおこることがあります 膵内分泌腫瘍は多くの場合は良性ですが 中には悪性腫瘍 ( 膵島細胞癌 ) もあります 特に大きな腫瘍は悪性の可能性が高くなります 悪性腫瘍かどうかの診断はむつかしいものですが もし悪性腫瘍を手術せずにおいた場合は 腫瘍が近接臓器
4 へ浸潤あるいは肝臓などの遠隔臓器へ転移して種々の障害や生命を脅かすことがあります 他の方法との比較 ( 利点 欠点 ): 手術以外の治療方法について 膵島腫瘍の場合は腫瘍の大きさ 分泌するホルモンの種類によって手術以外の治療法が異なります インスリノーマの場合は手術治療が一番いい治療法です 手術以外の治療としては低血糖を起こさないように食事や糖分摂取に注意することがありますが 肥満となりいろいろな合併症を引き起こす危険があります 腫瘍に直接効く薬や低血糖を予防する薬は残念ながら満足に使えるものはありません ガストリノーマの場合はソマトスタチンアナログという注射薬が有効です ソマトスタチンアナログは血液中のガストリン値を低下させますが 腫瘍そのものが縮小するかどうかはまだはっきりとわかっていません ガストリノーマに効くソマトスタチンアナログがインスリノーマに有効である場合もありますが 個々の患者さんによって効果は異なります ソマトスタチンアナログは月 1 回の筋肉注射ですが 非常に高価な薬剤でガストリノーマ以外は VIP 産生腫瘍とカルチノイド症候群にしか保険適用がありません 6. 費用について 費用に関してご質問がある場合は医事課へご相談ください 7. 遠慮なく質問して下さい また 同意はいつでも取り消せます ご不明な点 疑問点などがありましたら 我々スタッフにいつでもご相談下さい 以上でも説明しましたが 一旦治療が始まった後でもあなたの希望によりいつでも治療を中止することができますので 担当医まで申し出てください 平成年月日 ご説明担当医師 乳腺 内分泌外科 医師
5 図 1 図 2 図 3 図 4
6 名古屋大学医学部附属病院治療同意書 ( 原本を全ページコピーし コピーを患者様にお渡しください ) 名古屋大学医学部附属病院病院長殿 患者氏名 : 担当医署名 : ご説明年月日 : 平成年月日 治療名 : 膵島腫瘍摘出術 治療予定日 : 平成 年 月 日 説明内容 : 病名 病状 治療の方法 期待される効果 予想される副作用と対処方法 本治療をうけなかった場合の予後 また当該疾患に対する他の治療法の有無 同意はいつでも取り消せること その他 ( ) 上記の治療について 担当医から説明を受け 良く理解しましたので同意いたします 今回は同意いたしません セカンドオピニオン等 再度検討させていただきます 署名年月日 : 平成年月日 患者本人または代理人の署名 : 代理人の場合 その患者本人との続柄 :
膵島腫瘍摘出術 術前検査 ( 外来 ) から退院までの概要 日付検査処方食事安静排泄 外来入院手術前日 月日 ( ) 月日 ( ) 月日 ( ) 日付術前月日 ( ) 胸部 Xp 採血 尿検査 心電図 肺活量 今飲んでいる薬を確認します 午前 9 時すぎ入院 口腔内消毒 ( 感染予防 ) うがい薬をお使い下さい 普通食 制限なし トイレへ 食事は夕食まで水分は夜 9 時まで ( 特別なときは指示に従ってください ) 治療 処方 食事 点滴をします 絶飲食 手術日 手術 ( 全身麻酔 ) 術後 酸素マスク 心電図モニター 点滴 ドレーンがつながっています キズにガーゼはあたっていませんが 水に濡れても大丈夫な保護剤で覆ってあります 発熱時 痛い時は適宜お薬を使います 遠慮なく言って下さい 清潔 入浴可 入浴 安静 ベッドで手術室に移動 ベッド上安静 ( 寝返り可能 ) 説明 手術について詳しく ( 輸血に関することも ) 説明します 書類があります 看護師から必要な物品などの説明などがあります 麻酔科医師の説明があります 手術前の注意事項を説明をします 排泄 清潔 説明 手術室へ出発前に排尿 バルーン ( 排尿管 ) が入っています 看護師が清拭します 手術終了時に付添の方に手術内容について医師から説明します その他 入院前からの禁煙が大切です リストバンドの装着 携帯電話禁止 (PHS は使えます ) 持ち物に注意を その他 リストバンドの確認 名古屋大学医学部附属病院 キズの痛みを和らげる硬膜外カテーテルが入っています 乳腺 内分泌外科 2006 年 7 月版
膵島腫瘍摘出術 術前検査 ( 外来 ) から退院までの概要 日付 術後 1 日目 術後 2~3 日目ころ 術後 7~10 日目ころ 術後 14~21 日目ころ ドレーンを抜去します 退院 治療 抜糸はありません 普通病室へ戻ります (ICU 入室した場合 ) 硬膜外カテーテルを抜きますバルーンを抜去します 点滴を抜きます 処方 食事 水分開始 食事開始 安静 歩行できます 排泄 トイレへ 清潔 全身清拭をします 下半身シャワー可 全身入浴可 傷にシャワーをあてても大丈夫です 石鹸水がついても大丈夫です やさしく洗ってください 説明 その他 外来受診の予約日時をお知らせします 名古屋大学医学部附属病院 乳腺 内分泌外科 2006 年 7 月版