Microsoft Word - cap5-2013torikumi

Similar documents

Taro-40-11[15号p86-84]気候変動

気候変化レポート2015 -関東甲信・北陸・東海地方- 第1章第4節

正誤表 ( 抜粋版 ) 気象庁訳 (2015 年 7 月 1 日版 ) 注意 この資料は IPCC 第 5 次評価報告書第 1 作業部会報告書の正誤表を 日本語訳版に関連する部分について抜粋して翻訳 作成したものである この翻訳は IPCC ホームページに掲載された正誤表 (2015 年 4 月 1

(1) 継続的な観測 監視 研究調査の推進及び情報や知見の集積〇気候変動の進行状況の継続的な監視体制 気象庁では WMO の枠組みの中で 気象要素と各種大気質の観測を行っている 1 現場で観測をしっかりと行っている 2 データの標準化をしっかりと行っている 3 データは公開 提供している 気象庁気象

1. 天候の特徴 2013 年の夏は 全国で暑夏となりました 特に 西日本の夏平均気温平年差は +1.2 となり 統計を開始した 1946 年以降で最も高くなりました ( 表 1) 8 月上旬後半 ~ 中旬前半の高温ピーク時には 東 西日本太平洋側を中心に気温が著しく高くなりました ( 図 1) 特

go.jp/wdcgg_i.html CD-ROM , IPCC, , ppm 32 / / 17 / / IPCC

IPCC 第1作業部会 第5次評価報告書 政策決定者のためのサマリー

( 第 1 章 はじめに ) などの総称 ) の信頼性自体は現在気候の再現性を評価することで確認できるが 将来気候における 数年から数十年周期の自然変動の影響に伴う不確実性は定量的に評価することができなかった こ の不確実性は 降水量の将来変化において特に顕著である ( 詳細は 1.4 節を参照 )

平成10年度 ヒートアイランド現象に関する対策手法検討調査報告書

電気使用量集計 年 月 kw 平均気温冷暖平均 基準比 基準比半期集計年間集計 , , ,

橡Ⅰ.企業の天候リスクマネジメントと中長期気象情

Microsoft PowerPoint - Ikeda_ ppt [互換モード]

地球温暖化に関する知識

風力発電インデックスの算出方法について 1. 風力発電インデックスについて風力発電インデックスは 気象庁 GPV(RSM) 1 局地気象モデル 2 (ANEMOS:LAWEPS-1 次領域モデル ) マスコンモデル 3 により 1km メッシュの地上高 70m における 24 時間の毎時風速を予測し

Microsoft Word - 1.1_kion_4th_newcolor.doc

日本の海氷 降雪 積雪と温暖化 高野清治 気象庁地球環境 海洋部 気候情報課

Microsoft Word - cap3-2013kaiyo

資料6 (気象庁提出資料)

(c) (d) (e) 図 及び付表地域別の平均気温の変化 ( 将来気候の現在気候との差 ) 棒グラフが現在気候との差 縦棒は年々変動の標準偏差 ( 左 : 現在気候 右 : 将来気候 ) を示す : 年間 : 春 (3~5 月 ) (c): 夏 (6~8 月 ) (d): 秋 (9~1

IPCC 第 5 次報告書における排出ガスの抑制シナリオ 最新の IPCC 第 5 次報告書 (AR5) では 温室効果ガス濃度の推移の違いによる 4 つの RCP シナリオが用意されている パリ協定における将来の気温上昇を 2 以下に抑えるという目標に相当する排出量の最も低い RCP2.6 や最大

IPCC 第 5 次評価報告書第 1 作業部会報告書概要 ( 気象庁訳 ) 正誤表 (2015 年 12 月 1 日修正 ) 第 10 章気候変動の検出と原因特定 : 地球全体から地域まで 41 ページ気候システムの特性第 1 パラグラフ 15 行目 ( 誤 ) 平衡気候感度が 1 以下である可能性

2. エルニーニョ / ラニーニャ現象の日本への影響前記 1. で触れたように エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海洋 大気場と密接な関わりを持つ大規模な現象です そのため エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海流や大気の流れを通じたテレコネクション ( キーワード ) を経て日本へも影響

<4D F736F F D F193B994AD955C8E9197BF816A89C482A982E78F4882C982A982AF82C482CC92AA88CA2E646F63>

2. 背景わが国では気候変動による様々な影響に対し 政府全体として整合のとれた取組を総合的かつ計画的に推進するため 2015 年 11 月 27 日に 気候変動の影響への適応計画 が閣議決定されました また 同年 12 月の国連気候変動枠組条約第 21 回締約国会議で取りまとめられた 新たな国際的な

IPCC 第 1 作業部会 評価報告書の歴史

<4D F736F F D A6D92E894C5817A F193B994AD955C8E9197BF2E646F63>

Microsoft PowerPoint - Chigakub-04.pptx

Executive summary

Microsoft Word - cap4-2013chugoku-hirosima

WTENK4-1_982.pdf

資料1-1 「日本海沿岸域における温暖化に伴う積雪の変化予測と適応策のための先進的ダウンスケーリング手法の開発」(海洋研究開発機構 木村特任上席研究員 提出資料)

Microsoft Word - 1.3_yuki_4th.doc

過去約 130 年の年平均気温の変化傾向 (1891~2017 年 ) 図 緯度経度 5 度の格子ごとに見た年平均気温の長期変化傾向 (1891~2017 年 ) 図中の丸印は 5 5 格子で平均した 1891~2017 年の長期変化傾向 (10 年あたりの変化量 ) を示す 灰色は長期

Microsoft Word - ondan.doc

<4D F736F F D208AEE D8EAF B838B837D836A B5F46322E646F6378>

NEWS 特定非営利活動法人環境エネルギーネットワーク 21 No 年 9 月 IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change) の概要 環境エネルギーネットワーク 21 主任研究員大崎歌奈子 今年の夏は世界各国で猛暑や洪水 干ばつ

気候変動に関する科学的知見の整理について (前回資料2)

(別紙1)気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書統合報告書 政策決定者向け要約(SPM)の概要(速報版)

Microsoft Word - ブレチン2日本版3.1.doc

( 第 2 章異常気象と気候変動の将来の見通し ) 第 2 章異常気象と気候変動の将来の見通し 2.1 気候変動予測と将来シナリオ本節では 異常気象と気候変動の将来の予測を述べる前に それらの定量的な評価を可能にしている気候モデルと これに入力する将来の社会像について述べる 気候変動予測

<4D F736F F D20826D C C835895B681698DC58F4994C5816A89FC322E646F63>

Microsoft Word - 01.doc

報道発表資料

背景 ヤマセと海洋の関係 図 1: 親潮の流れ ( 気象庁 HP より ) 図 2:02 年 7 月上旬の深さ 100m の水温図 ( )( 気象庁 HP より ) 黒潮続流域 親潮の貫入 ヤマセは混合域の影響を強く受ける現象 ヤマセの気温や鉛直構造に沿岸の海面水温 (SST) や親潮フロントの影響

Microsoft PowerPoint - Noda2009SS.ppt

報道発表資料 平成 26 年 11 月 2 日 文 部 科 学 省 経 済 産 業 省 気 象 庁 環 境 省 気候変動に関する政府間パネル (IPCC) 第 5 次評価報告書 統合報告書の公表について 気候変動に関する政府間パネル (IPCC) 第 40 回総会 ( 平成 26 年 10 月 27

布 ) の提供を開始するとともに 国民に対し分かりやすい説明を行い普及に努めること 図った 複数地震の同時発生時においても緊急地震速報の精度を維持するための手法を導入するとともに 緊急地震速報の迅速化を進める 特に 日本海溝沿いで発生する地震については 緊急地震速報 ( 予報 ) の第 1 報を発表

三重県の気象概況 ( 平成 30 年 9 月 ) 表紙 目次気象概況 1P 旬別気象表 2P 気象経過図 5P 気象分布図 8P 資料の説明 9P 情報の閲覧 検索のご案内 10P 津地方気象台 2018 年本資料は津地方気象台ホームページ利用規約 (

気象庁 札幌管区気象台 資料 -6 Sapporo Regional Headquarters Japan Meteorological Agency 平成 29 年度防災気象情報の改善 5 日先までの 警報級の可能性 について 危険度を色分けした時系列で分かりやすく提供 大雨警報 ( 浸水害 )

kouenyoushi_kyoshida


第 41 巻 21 号 大分県農業気象速報令和元年 7 月下旬 大分県大分地方気象台令和元年 8 月 1 日

図 1 COBE-SST のオリジナル格子から JCDAS の格子に変換を行う際に用いられている海陸マスク 緑色は陸域 青色は海域 赤色は内海を表す 内海では気候値 (COBE-SST 作成時に用いられている 1951~2 年の平均値 ) が利用されている (a) (b) SST (K) SST a

<4D F736F F F696E74202D E63289F1934B899E8DF E BBF975C91AA82CC8CA992CA82B55F FC92F988C42E >

福島第1原子力発電所事故に伴う 131 Iと 137 Csの大気放出量に関する試算(II)

(00)顕著速報(表紙).xls

An ensemble downscaling prediction experiment of summertime cool weather caused by Yamase

表 2-2 北海道地方における年平均風速データベース作成に関する仕様 計算領域計算期間水平解像度時間解像度 20 年間 365 日 水平解像度 500m 1991 年 ~2010 年 24 時間 =175,200 メッシュ以下の詳北海道電力供給管内の詳細メッシュの時間分のデータを細メッシュの風況風況

<4D F736F F D C A838A815B B438CF395CF93AE91CE8DF D48505F205F F8DC58F4994C5205F838D835393FC82E88F4390B3816A2E646F63>

Microsoft Word - 615_07k【07月】01_概況

などの極端現象も含め 気候変動による影響を評価している さらに AR4 は 長期的な展望として 適応策と緩和策のどちらも その一方だけではすべての気候変動の影響を防ぐことができないが 両者は互いに補完し合い 気候変動のリスクを大きく低減することが可能であることは 確信度が高い とし 最も厳しい緩和努

第 41 巻 13 号 大分県農業気象速報令和元年 5 月上旬 大分県大分地方気象台令和元年 5 月 1 3 日

参考資料

Microsoft Word - 卒業論文v7_4BKJ1130兼上海

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft PowerPoint - .U-04 .C XML...E.E.ESNET

特集 IPCC 第 5 次評価報告書 (AR5) 第 3 作業部会 (WG3) 報告書について RITE Today 2015 IPCC 第 5 次評価報告書 (AR5) 第 3 作業部会 (WG3) 報告書について システム研究グループリーダー秋元圭吾 1. はじめに 気候変動に関する政府間パネル

<4D F736F F D2091E E8FDB C588ECE926E816A2E646F63>

(40_10)615_04_1【4月上旬】01-06

マルチRCMによる日本域における 力学的ダウンスケーリング

図 表 2-1 所 得 階 層 別 国 ごとの 将 来 人 口 の 推 移 ( 億 人 ) 開 発 途 上 国 中 間 国 先 進 国


2.1 の気温の長期変化 の 6 地点の 1890~2010 年の 121 年間における年平均気温平年 差の推移を図 2.1-2に示す の年平均気温は 100 年あたり1. 2 ( 統計期間 1890~2010 年 ) の割合で 統計的に有意に上昇している 長期変化傾向を除くと 1900 年代後半と

黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 日数 8~ 年度において長崎 松江 富山で観測された気象台黄砂日は合計で延べ 53 日である これらの日におけるの頻度分布を図 6- に示している が.4 以下は全体の約 5% であり.6 以上の

DE0087−Ö“ª…v…›



佐賀県気象月報 平成 29 年 (2017 年 )6 月 佐賀地方気象台

< F2D81798B438FDB817A95BD90AC E93788EC090D1955D89BF>

目次 1 降雨時に土砂災害の危険性を知りたい 土砂災害危険度メッシュ図を見る 5 スネークライン図を見る 6 土砂災害危険度判定図を見る 7 雨量解析値を見る 8 土砂災害警戒情報の発表状況を見る 9 2 土砂災害のおそれが高い地域 ( 土砂災害危険箇所 ) を調べたい 土砂災害危険箇所情報を見る

宮城県災害時気象資料平成 30 年台風第 24 号による暴風と大雨 ( 平成 30 年 9 月 29 日 ~10 月 1 日 ) 平成 30 年 10 月 3 日仙台管区気象台 < 概況 > 9 月 21 日 21 時にマリアナ諸島で発生した台風第 24 号は 25 日 00 時にはフィリピンの東で

2018_2_2.pdf

降下物中の 放射性物質 セシウムとヨウ素の降下量 福島県の経時変化 単位 MBq/km2/月 福島県双葉郡 I-131 Cs Cs-137 3 8,000,000 環境モニタリング 6,000,000 4,000,000 2,000,000 0 震災の影響等により 測定時期が2011年7

武蔵 狭山台工業団地周辺大気 環境調査結果について 埼玉県環境科学国際センター 化学物質担当 1

あおぞら彩時記 2017 第 5 号今号の話題 トリオ : 地方勤務の先輩記者からの質問です 気象庁は今年度 (H 29 年度 )7 月 4 日から これまで発表していた土砂災害警戒判定メッシュ情報に加え 浸水害や洪水害の危険度の高まりが一目で分かる 危険度分布 の提供を開始したというのは本当ですか

WTENK5-6_26265.pdf

IPCC 第5次評価報告書の概要 -WG1(自然科学的根拠)-

Microsoft PowerPoint _HARU_Keisoku_LETKF.ppt [互換モード]


Microsoft Word _IPCC AR4 SPM日本語訳.doc

資料1:地球温暖化対策基本法案(環境大臣案の概要)

資料 2 3 平成 29 年 1 月 18 日火力部会資料 西条発電所 1 号機リプレース計画 環境影響評価方法書 補足説明資料 平成 29 年 1 月 四国電力株式会社 - 1 -

Microsoft PowerPoint nakagawa.ppt [互換モード]

1. 水温分布 ( 図 1) 7 月沖合定線海洋観測結果 平成 26 年 7 月 14 日 岩手県水産技術センター TEL: FAX: 全域で表面水温は高め 県南部に北上暖水が流入 1) 本県沿岸

天気予報 防災情報への機械学習 の利 ( 概要 ) 2

プレス発表資料 平成 27 年 3 月 10 日独立行政法人防災科学技術研究所 インドネシア フィリピン チリにおけるリアルタイム 津波予測システムを公開 独立行政法人防災科学技術研究所 ( 理事長 : 岡田義光 以下 防災科研 ) は インドネシア フィリピン チリにおけるリアルタイム地震パラメー

ここでは GOSAT の L2 プロダクトである 酸化炭素カラム平均濃度 (XCO 2 ) を活用 して 地球の大気全体の平均の濃度を推定する 法を検討した 以下にその算出 法について解説する 2. 酸化炭素全大気平均濃度の推定 法 いぶき の観測データから算出されたXCO 2 データ (SWIR

委員会報告書「気候変動への賢い適応」

い水が海面近くに湧き上っている 図 (a) をみると 太平洋赤道域の海面水温は西部で高く 東部で低くなっていることがわかる また 北半球 ( 南半球 ) の大陸の西岸付近では 岸に沿って南向き ( 北向き ) の風が吹くと 海面付近の暖かい海水は風の方向に力を受けるとともに 地球自転に

Transcription:

第 5 章気象庁の取り組み 気象庁では 世界気象機関 (WMO) を始めとする国内外の関係機関と連携し 地球温暖化に関する観測 監視 その要因の解明や将来予測を推進しており これらの最新の成果をもとに 地球温暖化の緩和策 適応策の基礎となる地球温暖化に関する科学的知見の公表 普及を行っている 5.1 長期的な観測の継続 5.1.1 大気 海洋を対象とした観測気象庁では 地上における気圧 気温 湿度 風向 風速 降水量 日照時間などを観測し 気象庁ホームページに掲載しているほか 報道機関などに提供している 観測データは国内外に提供され 日々の気象監視 予測に加えて 地球温暖化などの気候変動の監視にも利用されている 全国約 1,300 か所の地域気象観測所 ( アメダス ) において 降水量の観測を行っている このうち約 850か所では 降水量に加えて 気温 風向 風速 日照時間の観測を さらに 豪雪地帯などの約 290 か所では積雪の深さの観測を行っている また 全国約 60ヶ所の気象台 測候所では 気圧 気温 湿度 風向 風速 降水量 積雪の深さ 降雪の深さ 日照時間 日射量 雲 視程 大気現象等の気象観測を行っている 雲 視程 大気現象等は観測者が目視によって観測しているが その他は地上気象観測装置によって自動的に観測を行っている また 全国約 90ヶ所の特別地域気象観測所では 地上気象観測装置による自動観測のみを行っている また 大気の上空約 30キロメートルまでの気温 湿度 気圧 風向 風速をラジオゾンデにより観測するとともに 高さ約 5キロメートルまでの風向 風速をレーダーの一種のウィンドプロファイラにより観測している 海洋については 海洋気象観測船や中層フロートなどによる観測を実施している 海洋気象観測船では 北西太平洋全体の主要な海流を横切るように設定した航海コース ( 観測線 ) に沿って 海面から海底付近までの海流や水温 塩分の高精度な観測のほか 海面付近や上空における気温や風向 風速 気圧などの観測を行っている 中層フロートは 海面から深さ2000メートル付近までの水温 塩分を自動的に観測する機器である 気象庁は アルゴ計画 という全世界の海洋をリアルタイムで監視する国際的な観測計画の下 文部科学省などの関係省庁と連携して中層フロートによる観測を推進している また 全国 13か所の検潮所に設置した精密型水位計により海面水位の精密な観測を行っている 5.1.2 大気 海中の温室効果ガスの観測気象庁は大気環境観測所 ( 岩手県大船渡市綾里 ) 南鳥島気象観測所( 東京都小笠原村 ) 与那国島特別地域気象観測所 ( 沖縄県八重山郡与那国町 ) において 温室効果ガス オゾン層破壊物質 エーロゾル 降水 降下じん ( 大気中から地表に降下してくる微粒子 ) 中の化学成分などを観測している また 北西太平洋においては 海洋気象観測船の 凌風丸 と 啓風丸 により大気中と表面海水中の二酸化炭素濃度を観測している また 南鳥島までの上空で温室効果ガス濃度を観測している これらの温室効果ガスの情報は 温室効果ガス削減対策の計画策定や地球温暖化監視 予測等の基礎資料として重要である 気象庁は世界気象機関 (WMO) 温室効果ガス世界資料センター (WDCGG) を運営しており 世界中の温室効果ガスなどの観測データを収集 解析 提供しているほか WMOが毎年の世界全体の温室効果ガスの状況についてとりまとめている WMO 温室効果ガス年報 (URLは第 6 章に記載 ) の作成に参画している ( 図 5.1.1)

図 5.1.1( 左 ) 気象庁の温室効果ガス観測点 ( 右 )WMO 温室効果ガス世界資料センターがデータを収集している二酸化炭素の観測点 5.2 観測成果の解析と気候変動の監視 5.2.1 気温 降水量の長期変化傾向の解析気象庁は 地球温暖化による影響を検出するために 世界および日本の気温や降水量の経年変化を監視している (URL は第 6 章に記載 ) なお 世界の平均気温は 全世界の千数百か所の観測所における気温 (17 地点 ) 観測データや海面水温データから算出している 日本の平均気温は 網走 根室 寿都 ( すっつ ) 山形 国内の気象庁の観測点のうち 長期にわたって観測条件に大きな変石巻 伏木 ( 高岡市 ) 長野 水戸 飯田 銚子 境 浜田 彦根 化がなく かつ都市化の影響が少ない17 地点の観測データを選び 宮崎 多度津 名瀬 石垣島算出している ( 図 5.2.1) 図 5.2.1 日本の年平均気温偏差の経年変化 (1898~2012 年 ) 折れ線は各年の偏差 青の曲線は 5 年移動平均 赤の直線は長期的変化傾向を表す 図 5.2.2 確率降水量の分布図 1976~2007 年のアメダス地点の 24 時間降水量をもとに推定した確率降水量 5.2.2 異常気象リスクマップ地球温暖化に伴って異常気象の増加が懸念される中 異常気象の発生頻度等に関する 空間的 時間的に詳細な情報が求められている 気象庁では こうした要望に応えるため 全国各地における極端な現象の発生頻度や長期変化傾向に関する情報をわかりやすい図表形式で示した 異常気象リスクマップ の提供を 平成 18 年度から開始した (URLは第 6 章に記載 )

平成 18 年度には 過去 100 年以上にわたる気象庁の観測データを用いて推定した全国 51 地点における 100 年に1 回の大雨 やアメダスの観測を用いた 10 年に1 回の少雨 などを公表した 平成 20 年度には 全国約 1,300のアメダス地点における30 年に1 回の大雨を示すリスクマップなどを追加した ( 図 5.2.2) 今後は利用者からの要望などを踏まえ 気温に関連した要素などを追加する予定である 5.2.3 長期再解析計画長期再解析とは 過去の観測データを 最新の技術を用いて解析することにより 過去の気象の状況や大気の立体構造を一貫した品質で再現することである 気象庁と ( 財 ) 電力中央研究所は アジアでは初めて1979 年 ~2004 年の26 年間について長期再解析 (JRA-25) を実施し 水平方向に120km 間隔 鉛直方向に高度 50kmまでの40 層の解像度で 気温 気圧 風 降水量 海面水温など100 種類以上の気象要素を6 時間ごとに解析した その成果は 国内外の研究者に公開され 過去の大気現象の詳細な解析や 長期間にわたる気候系の変動の研究 調査に幅広く活用されている 5.2.4 海洋の健康診断表気象庁では 平成 17 年 4 月から 海洋の情報をとりまとめて 海洋の健康診断表 として定期的に気象庁ホームページで発表している この中では 地球環境に伴う海洋の変化や海域ごとの海水温 海面水位 海流 海氷 海洋汚染などの状態 変動の要因 今後の推移の見通しなどについて グラフや分布図などを用いてわかりやすく解説している (URLは第 6 章に記載 ) 5.2.5 二酸化炭素分布情報二酸化炭素の観測点は図 5.1.1のように少ないため これまで世界的な濃度分布の状況はわからなかったが 解析手法の発展によって観測データのない地域の濃度の推定が可能になった そこで 気象庁は平成 21 年 2 月から二酸化炭素に関する世界全体の分布情報 二酸化炭素分布情報 を発表している ( 図 5.2.3) 二酸化炭素分布情報のページでは 過去から現在にかけて二酸化炭素濃度が増加している様子や 季節ごとの濃度分布の特徴など 期間や地域の分布情報を選択して閲覧することが可能である また 分布情報の着目すべき点も解説している (URLは第 6 章に記載 ) 図 5.2.3 二酸化炭素分布情報 1985~2011 年までの世界の二酸化炭素の分布情報を提供 している ( 年 1 回更新 平成 25 年 3 月 13 日現在 ) 5.3 地球温暖化の将来予測 5.3.1 地球温暖化予測情報気象庁では 日本周辺の気候をきめ細かく再現できる気候モデルを用いて 今後の世界の社会 経済動向に関する想定から算出された温室効果ガスの排出量の将来変化シナリオに基づき 将来の気温 降水量等の気候変化を計算している その結果を 地球温暖化予測情報 としてまとめ 平成 25 年 (2013 年 )3 月には 地球温暖化予測情報第 8 巻を公表した 予測情報は 地球温暖化の影響等を評価する行政

機関や研究機関に提供され 地球温暖化による影響の評価や適応策の検討に活用されている 第 8 巻では 新たに開発した詳細な気候モデルにより 今回初めて日本を対象とした大雨や短時間強雨の発生頻度の将来予測を行った ( 図 5.2.4) (URLは第 8 章に記載 ) 5.3.2 地球温暖化予測の研究気象研究所では 地球全体の気候変化を予測する全球気候モデルと 日本付近などの気候変化を詳細に予測する地域気候モデルを開発している その成果は気象庁の発表する 地球温暖化予測情報 に活用されているとともに 気候変動に関する政府間 図 5.2.4 21 世紀末の日降水量 100 ミリ以上の変化 パネル (IPCC) の第 1 次 ~ 第 4 次評価報告書で引用されるなど 国際的にも大きな貢献を果たしている また 地球規模の気象をより高精度に予測するため 大気や海洋だけでなく 温室効果ガス オゾン エーロゾル等の影響を導入した 地球システムモデル を開発している さらに 海洋現象の理解 予測のための研究にも取り組んでおり 中小規模の乱れが海洋の平均的な状態に及ぼす効果を調べて気候変動等の研究に用いる海洋 海氷モデルを高度化する研究や 海洋 海氷モデルに観測データを取り入れるためのデータ同化技術を開発し 様々な領域 ( 全球 北西太平洋 赤道域等 ) に対する海洋変動を解析する研究を行っている 5.4 地球温暖化に関する見解の取りまとめと分かりやすい情報提供 5.4.1 異常気象レポート 気候変動監視レポートなどの刊行物気象庁では 気候変動に関する情報を提供する目的で以下のような資料を刊行している 異常気象レポート : 国内外の長期間の気候状態などに関する観測 監視結果や最新の予測結果などを総合的に解析し 概ね 5 年に 1 回刊行 気候変動監視レポート : 世界と日本の気候 海洋および温室効果ガスとオゾン層等の状況について 毎年のとりまとめを掲載 大気 海洋環境観測報告 : 気象庁が実施している 大気および海洋での温室効果ガス オゾン層 紫外線 エーロゾル 大気混濁度 酸性雨 および海洋汚染に関する観測結果および解析結果について 毎年のとりまとめを掲載 5.4.2 気候変動に関する政府間パネル (IPCC) への参画 評価報告書の日本語訳気象庁は 気候変動に関する政府間パネル (IPCC) の 主に第 1 作業部会 ( 科学的根拠 ) の活動に積極的に関与している IPCCは平成 19 年 (2007 年 ) に気候変動の現状と予測に関する総合的な報告書である第 4 次評価報告書を公表したが 気象庁は地球温暖化予測監視の結果を提供し 第 4 次評価報告書の原稿執筆や査読を行うなど その取りまとめに大きく貢献した また 第 4 次評価報告書の日本語訳については 気象庁のほか関係省庁が分担して日本語訳を作成している

5.4.3 各種講演など気象庁では 気候変動に関する知識と理解を広めることを目的として 毎年 日本の主要都市数箇所で 気候講演会を開催している また 各気象台でも 部外からの要請にこたえて講演を行うとともに 独自に講演会を開催するなど 気候変動に関する知識と理解を広めることに努めている