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については 各国の統合医療の状況について 文献調査 インターネットでの検索 関連機関 施設への訪問調査などを行った ( 倫理面への配慮 ) 国内在住者を対象とした質問票調査では 登録者の個人情報保護に配慮しているとの認定を受けた調査会社のリサーチ パネルから対象者を選び 個人を特定できるような質問項目は省いた 研究報告書のレビューや外国施設訪問調査には 倫理的に問題となるような点はない C. 研究結果 (1) 安全性 有効性 経済性等に関する評価方法の問題点については 研究報告書には統合医療の評価をRCT(Randomized Controlled Study) やEBM(Evidence-based Medicine) の考え方で評価するのは不十分との記載が多くなされ QOLなどの新たなエンドポイントの開発 新たなバイオマーカー 医工学的手法などの開発 NBMなどの定性的方法による評価 統計モデルやバイオインフォマティックスを用いた評価などが提案されていた しかしながら RCTやEBMによる評価では不十分であることの理由は明確にされておらず EBMについての誤解 (RCTのみがエビデンスを提供する あるいは対象者全員に均一な治療法を行うことを目的としている など ) に基づく記述がみられた したがって EBMの考え方を基本に評価すること自体に問題はないが いくつかの点で工夫が必要と思われる 臨床研究上 通常の西洋医学と比較した場合の統合医療の特異性は 1 疾病や病態の概念 ( 病態認識 ) が異なる 2 治療によ るアウトカムが定性的で主観に基づく 3 治療によるアウトカムが複数で複合的なことが多い 4わが国の漢方薬は生薬の品質が厳格に規定されていて 外国 ( 中国や韓国など ) で用いられている生薬とは異なる などの4 点にまとめられよう 1 疾病や病態の概念 ( 病態認識 ) の違いについては とくに漢方医学における 陰陽 虚実 など 西洋医学とは異なる診断概念に基づいて被験者を割り当てた臨床研究では そもそも研究対象となっている患者の疾病や病態が異なる可能性が高くなり 研究の外的妥当性 ( External Validity) に重大な問題を生じる 2 治療のアウトカムが定性的で主観に基づくことが多い点については 西洋医学でも 近年 生活の質 QOL(Quality of Life) の評価研究が精力的に行われてきていて EBMの枠組みで定性的 主観的なアウトカムの評価も可能となった 3 治療のアウトカムが複数で複合的なことが多い点については 西洋医学でも 多軸指標の同時比較 統合指標 ( 効用値 Utility Value や質で調整した余命 Quality-adjusted Life Yearsなど ) の開発などの研究が行われていて 統合医療と同じ問題意識を有している 4わが国で用いられている漢方は 天然素材の生薬により構成されるエキス製剤であり 日本薬局方 により品質が厳格に規定されている 一方 中国や韓国の伝統医学で処方される生薬はわが国のような一定の品質基準を満たしていない したがって 臨床試験での評価にはわが国の漢方が適していると考えられる (2) 国民への情報提供の実態のうち 1 2

統合医療に対するイメージの調査 (20 歳代から60 歳代の3,107 人が回答 ) では マッサージ と 漢方 は わかっている 既知 な療法であり 安全 で 感じがよい 好き 興味がある 役に立つ というイメージが持たれていた 2 利用状況についての調査 (20 歳代から 60 歳代の3,227 人が回答 ) では 過去 1ヶ月間に サプリメント 健康食品 30.1% マッサージ 7.9% 整体 6.0% 温熱療法 5.5% ヨガ 4.6% アロマテラピー 4.5% 漢方 4.3% が利用していた それら利用者のうち 医師に相談したのは 温熱療法 32.4% はり きゅう 30.2% 骨つぎ 接骨 26.7% 食事療法 25.9% であった 医療機関以外で提供される情報で利用の際に参考とするのは 価格 58.9% 一般の人々の体験談 38.5% 研究結果( データ ) の提示 37.7% 効果を示す文句 37.0% であった 3 新聞記事検索エンジンを用いて 2001 年から2009 年の間の新聞記事中 統合医療 代替医療 補完 代替医療 民間療法 医療類似行為 伝統医療 の6 単語のいずれかが用いられている記事を調べたところ 1 年間平均 118 件の記事が掲載されていたが 2008 年 2009 年は90 件以下と少なくなっていた 用いられる用語は 民間療法 (55.9%) 代替療法 (27.6%) が多く 生活面 社会面に相当する紙面に掲載される傾向があった (3) 外国 ( 米国 インド 韓国 ) の状況の調査のうち 1 米国の政府 Department of Health and Human Service の NIH (National Institute of Health) の一部局 NCCAM ( National Center for Complementary and Alternative Medicine) では CAMの安全性を最も重視していて 安全性や有効性についての研究費を外部の研究組織や大学に依頼するとともに (i) 患者 / 一般向け (ii) 医療従事者向け の2 種類の情報配信を行っている ( i ) 患者 / 一般向けの情報配信は NCCAM 主導で行った研究成果をWebサイトの Health Information で紹介 随時更新している CAMに関する質問等は 週日 Text Chatやe-mailを通じてやり取りしている (ii) 医療従事者向けは Lecture Series E-Learning Summary of CAM ResearchesなどのWebサイトを通じて配信している それ以外にも 紙媒体のニューズ レター Get the Fact も発行している 2ハーバード大学内に1995 年に設立されたHarvard Osher Research Centerでは CAMに関する (i) 研究の実践 (ii) 研究者の育成 (iii) 臨床応用 の3つの役割を果たしている (i) 研究の実践は 全米レベルの横断調査 RCT メタ分析 費用効果分析 効果発現メカニズム 質的研究など さまざまな方法論が用いられてきた (ii) 研究者の育成では 臨床疫学や医療統計学を学びCAM 関連の臨床研究を行う 3 年間のFellowshipプログラムを運営していて (iii) 臨床応用では 2011 年 10 月から Beth Israel and Deaconess Medical Centerの一般外来部門で60 人の内科医に 3

10~20 人のCAM Therapistが加わり 患者中心の医療を推進する予定である 3インドの医療体制は 西洋医学と伝統医学の二本立てで 西洋医師に加えて伝統医師が存在する 伝統医師は 西洋医師と同様 5.5 年間の大学教育 研修を受けなくてはならない 政府の支援のもと 伝統医学を用いた健康関連産業が盛んで 多くのインド国民が利用している 西洋医学と伝統医学の併用モデルの試みや 大学や研究機関での伝統医学由来の製薬研究開発など 学術産業界を巻き込んだ国策としての統合医学の推進がうかがえる 4 韓国の医療体制も二本立てで 西洋医学に加えて東洋医学 ( 韓医学 ) が存在する 2009 年時点で 西洋医学の医科大学 41 校 韓医科大学 12 校あり 韓医師になるためには 西洋医師と同様 6 年間の大学教育と1 年間のインターンシップ 3 年間のレジデンシ を経なくてはならない ( 西洋医学については 近年 4 年制のメディカルスクールも導入されている ) 韓国政府は 機能性食品の認証や管理を積極的に行っており 健康食品産業が盛んで CAMも多くの国民に利用されている インドと同様 学術産業界を巻き込んだ国策としての統合医学の推進がうかがえる D. 考察上記の調査結果を踏まえて 統合医療の情報発信の在り方につき 以下のような考え 提言が可能となろう (1) 統合医療の安全性や有効性 経済性に関する評価については 既存の研究報告書に EBMの枠組みでは難しく 新たな手法が必要との論調が多々見受けられる しかしながら その理由は明確でなく 多くの場合 EBMの誤解 (RCTでなければエビデンスでない すべての患者に均一な治療を強制する など ) に起因していると思われる したがって 基本的には 現代西洋医学における医療評価の基本的な考え方であるEBMと同じ土俵で評価しうるが EBMと同様 臨床評価の研究手法には今後とも更なる工夫 開発が必要である 臨床試験において患者を割り付け基準とされる疾病や病態の概念 ( 病態概念 ) が西洋医学と異なる場合は 結果の解釈 臨床応用に重大な問題を生じる (2) 国民が統合医療を利用する際に参考とするのは 価格 が最も多く (58.9%) 一般の人々の体験談 と 研究結果( データ ) の提示 効果を示す文句 がそれぞれ40% 弱であった 統合医療は 多くの国民にとって 医療というよりも一般消費財と捉えられているとも言えよう (3)2001 年 ~2009 年の新聞記事中 統合医療関係の単語が扱われていた記事は年間平均 118 件 ( 約 10 件 / 月 ) とそれほど多くはなく 2008 年 2009 年は減少傾向を示していた (4) 統合医療の専門医の養成は インドや中国 韓国のように医学部教育から西洋医学とは別のコースを設ける国と 米国のようにメディカルスクールを卒業した後 研究員 ( フェロー ) 養成の過程で特化する国とがある ( 5 ) 米国 Harvard Osher Research CenterでのFellowshipプログラムでは 臨床疫学や統計学など 臨床研究の方法論が教えられていて 統合医療の厳格な評価に貢献している 4

(6) 米国 NCCAMでは 統合医療の情報提供が 一般国民向け 医療従事者向けとも インターネットを介して行われている (7) インドや中国 韓国では国家戦略のもと 統合医療を推進すべく 学術面 産業面での支援が行われている E. 結論統合医療の安全性 有効性 経済性等に関する評価については 現代西洋医学におけるEBMと同じ土俵で評価しうるが EBMと同様 臨床評価の研究手法には今後とも更なる工夫 開発が必要である 疾病や病態の概念 ( 病態概念 ) が西洋医学と統合医学で異なる場合は 臨床試験の結果の解釈 臨床応用上 注意が必要である わが国での統合医療に関する一般国民に向けた情報提供は 少なくとも米国に比べると 断片的で不十分な感は免れない 統合医療分野の専門医養成についても インドや中国 韓国のような大学での別ルートは言うに及ばず 米国のような研究員レベルでの研修コースから学ぶところは多い 国家戦略として学術面 産業面で統合医療を推進しているインドや中国 韓国からも学ぶ点は多い G. 知的財産権の出願 登録状況 ( 予定を含む ) 1. 特許取得なし 2. 実用新案登録なし 3. その他なし F. 研究発表 1. 論文発表なし 2. 学会発表なし 5