平成16年2月10日

Similar documents
特別な支援を必要とする 子どもの受け入れと対応

平成24年5月17日


職業訓練実践マニュアル 発達障害者編Ⅰ

3 情緒障害 選択性かん黙等のある児童生徒については 情緒障害の状態になった時期や その要因などに応じて中心となる指導内容が異なります 例えば カウンセリング等を中心とする時期 緊張を和らげるための指導を行う時期 学習空白による遅れなどを補いながら心理的な不安定さに応じた指導を行って自信を回復する時

資料3-1 特別支援教育の現状について

Ⅲ 目指すべき姿 特別支援教育推進の基本方針を受けて 小中学校 高等学校 特別支援学校などそれぞれの場面で 具体的な取組において目指すべき姿のイメージを示します 1 小中学校普通学級 1 小中学校普通学級の目指すべき姿 支援体制 多様な学びの場 特別支援教室の有効活用 1チームによる支援校内委員会を

Taro-自立活動とは

S.E.N.S養成カリキュラム(2012年度版)シラバス

Microsoft Word - 目次・奥付.doc


■ 第一章 発達障害児に対する適切な指導 ■

Taro 情緒障害のある児童生徒の理解

PowerPoint プレゼンテーション

資料5 親の会が主体となって構築した発達障害児のための教材・教具データベース

回数 テーマ 内容 2 発達障害のある児童の心理 行動特性 1 学習障害のある人の心理 行動特性 3 発達障害のある児童の心理 行動特性 2 ADHD のある人の心理 行動特性 4 発達障害のある児童の心理 行動特性 3 自閉スペクトラム症のある人の心理 行動特性 5 発達障害に対する支援 1 学習

Q1 診断書等がない子どもへの合理的配慮はどう考えたらよいのか A1 診断書や障がい者手帳等の有無が 合理的配慮の提供に関する判断の基準ではありません 教育支援資料 ( 文部科学省平成 25 年 10 月 ) において 各障がいは以下のように定義されています ( 参考 ) 教育支援資料における各障が

回数テーマ学習内容学びのポイント 2 過去に行われた自閉症児の教育 2 感覚統合法によるアプローチ 認知発達を重視したアプローチ 感覚統合法における指導段階について学ぶ 自閉症児に対する感覚統合法の実際を学ぶ 感覚統合法の問題点について学ぶ 言語 認知障害説について学ぶ 自閉症児における認知障害につ


第 2 部 東京都発達障害教育推進計画の 具体的な展開 第 1 章小 中学校における取組 第 2 章高等学校における取組 第 3 章教員の専門性向上 第 4 章総合支援体制の充実 13

特別な教育的支援を必要とする生徒の理解と対応

家庭における教育

高田 : 発達障害傾向のある児童を担任する小学校教師の支援 そこで本研究では, 発達障害傾向児担任教師の支援のため, 小学校教師の発達障害傾向児の認知, メンタルヘルスの指標であるバーンアウト傾向, 職場環境ストレッサー及び自己効力感との関連を検討することを目的とした なお, 本研究では高田 (20

tokusyu.pdf

Microsoft Word - 1.doc

A4見開き

目 次 はじめに... p1 1. 発達障害 の定義... p2 発達障害それぞれの特性について... p3 2. 発達障害をめぐる状況... p4 3. 江戸川区の発達障害者 ( 児 ) の現況... p 発達障害者 ( 児 ) 支援の江戸川区の課題... p6 施策の5つの課題 5.

乳幼児健診と発達障害 1 歳 6 か月児健診 3 歳児健診 5 歳児健診 1 歳 6 か月児健診と発達障害 自閉症の一部は発見される (Kanner 型 ) 言語発達の遅れ通常は自発言語での判定 非言語的なコミュニケーションの遅れ正確なスクリーニングが難しい ADHD は発見されない 学習障害も発見

untitled

家政_08紀要48号_人文&社会 横組

P5 26 行目 なお 農村部は 地理的状況や通学時 間等の関係から なお 農村部は 地理的状況や通学時 間等から P5 27 行目 複式学級は 小規模化による学習面 生活面のデメリットがより顕著となる 複式学級は 教育上の課題が大きいことから ことが懸念されるなど 教育上の課題が大きいことから P

man2

神経発達障害診療ノート

Taro13-04.ガイドライン【1部~

72 豊橋創造大学紀要第 21 号 Ⅱ. 研究目的 Ⅲ. 研究方法 1. 対象 A B

13 Ⅱ-1-(2)-2 経営の改善や業務の実行性を高める取組に指導力を発揮している Ⅱ-2 福祉人材の確保 育成 Ⅱ-2-(1) 福祉人材の確保 育成計画 人事管理の体制が整備されている 14 Ⅱ-2-(1)-1 必要な福祉人材の確保 定着等に関する具体的な計画が確立し 取組が実施されている 15

発達障害者支援に関する行政評価・監視-概要

スライド 1

表紙.indd

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

”ƒ.pdf

北見市特別支援教育の指針 平成 25 年 11 月

教員の専門性向上第 3 章 教員の専門性向上 第1 研修の充実 2 人材の有効活用 3 採用前からの人材養成 3章43

3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

<4D F736F F F696E74202D FE396EC90E690B6816A93C195CA8E BB388E782CC8EC DB91E B789AA816A>

スライド 1

1 発達とそのメカニズム 7/21 幼児教育 保育に関する理解を深め 適切 (1) 幼児教育 保育の意義 2 幼児教育 保育の役割と機能及び現状と課題 8/21 12/15 2/13 3 幼児教育 保育と児童福祉の関係性 12/19 な環境を構成し 個々 1 幼児期にふさわしい生活 7/21 12/

Microsoft Word - 9概要(多保田春美).docx

平成25年度 障害学生支援セミナー 発達障害のある人の大学進学 ライフステージを通しての意義と支援のあり方を考える

小学生の英語学習に関する調査

Taro12-a表紙.PDF

宮城県内の高校における軽度発達障害生徒の受け入れ状況についてのアンケート調査

表紙

PowerPoint プレゼンテーション

01 表紙

目 次 1 学力調査の概要 1 2 内容別調査結果の概要 (1) 内容別正答率 2 (2) 分類 区分別正答率 小学校国語 A( 知識 ) 国語 B( 活用 ) 3 小学校算数 A( 知識 ) 算数 B( 活用 ) 5 中学校国語 A( 知識 ) 国語 B( 活用 ) 7 中学校数学 A( 知識 )

H30全国HP

2 教科に関する調査の結果 ( 各教科での % ) (1) 小学校 国語 4 年生 5 年生 6 年生 狭山市埼玉県狭山市埼玉県狭山市埼玉県 平領均域正等答別率 話すこと 聞くこと 書くこと

茨城県における 通級による指導 と 特別支援学級 の現状と課題 IbarakiChristianUniversityLibrary ~ 文部科学省 特別支援教育に関する調査の結果 特別支援教育資料 に基づいて茨城キリスト教大学紀要第 52 ~号社会科学 p.145~ 茨城県における 通

 

CW2_03-263本文.indb

通常の学級における

校外教育施設について

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

2 学校は 防災や防犯についての体制作りや情報収集を適切に行っている 十分 おおむね十分 やや十分 不十分 分からない 不明 計 学校は 防災や防犯についての体制作りや情報収

2017 年 9 月 8 日 このリリースは文部科学記者会でも発表しています 報道関係各位 株式会社イーオンイーオン 中学 高校の英語教師を対象とした 中高における英語教育実態調査 2017 を実施 英会話教室を運営する株式会社イーオン ( 本社 : 東京都新宿区 代表取締役 : 三宅義和 以下 イ

3-2 学びの機会 グループワークやプレゼンテーション ディスカッションを取り入れた授業が 8 年間で大きく増加 この8 年間で グループワークなどの協同作業をする授業 ( よく+ある程度あった ) と回答した比率は18.1ポイント プレゼンテーションの機会を取り入れた授業 ( 同 ) は 16.0

<4D F736F F D ED82A982E C582AB82E B E288DC58F4994C5955C8E8682C882B529>


Microsoft Word - 研究の概要他(西小) 最終

③専門B.indd

010国語の観点

第 1 章 通級による指導 ~ 開始前に知っておくべき基礎知識 ~ 1 通級による指導とは 通級による指導とは 通常の学級に在籍する障がいのある児童生徒が 各教科等の大部分の授業を通常の学級で受けながら 一部の授業について 障がいに応じた特別の指導を 通級指導教室 といった特別な場で受ける指導形態の

平成29年度通級による指導実施状況調査結果について(別紙2)

Water Sunshine

(2) 国語科 国語 A 国語 A においては 平均正答率が平均を上回っている 国語 A の正答数の分布では 平均に比べ 中位層が薄く 上位層 下位層が厚い傾向が見られる 漢字を読む 漢字を書く 設問において 平均正答率が平均を下回っている 国語 B 国語 B においては 平均正答率が平均を上回って

通常学級における特別支援教育の取り組み ( 中村義行 ) れまでの特殊教育をしのぐ特別支援教育での 実践知 を提案し, 現場教員の動揺 困惑に対応できる展望と具体的取り組みが求められる 本論文では, このような特別支援教育への転換内容を把握し, 特別支援教育の理念と実践を模索する取り組みとして, 大

<8A778D5A8EBF96E28E862E6D6364>

<8E9197BF81698E518D6C33816A95DB88E78E6D8E8E8CB A8F4389C896DA88EA97972E786C7378>

4 拠点校による授業公開及び研究成果の発表会の実施さらに, 教育委員会としては, 大原小学校での公開研究授業に向けて, 市教育委員会主任指導主事が指導案作成 検討の段階から参加し, 主に若手教員の授業づくりに関する指導に取り組む また, 毎月の定期訪問の際にはユニバーサルデザインを生かした授業づくり

ご両親にも先生方にも会社の方々にも読んでいただきたいパンフレットです 障害とは 理解と支援を必要とする個性である 日本 LD 学会 一般社団法人 Japan Academy of Learning Disabilities 東京都港区高輪 高輪エンパイヤビル 8F

かたがみ79PDF用

総合的な探究の時間 は 何を 何のために学ぶ学習なのか? 総合的な探究の時間 は与えられたテーマから みなさんが自分で 課題 を見つけて調べる学習です 総合的な探究の時間 ( 総合的な学習の時間 ) には教科書がありません だから 自分で調べるべき課題を設定し 自分の力で探究学習 ( 調べ学習 )

<4D F736F F D20955C8E DA8E9F8F4390B394C52E646F63>

難聴児童の伝える力を 高めるための指導の工夫 -iPadを活用した取り組みを通して-

アトモキセチン ニプロ を服用される皆様とご家族の方へ 注意欠如 多動症 (ADHD) について 監修 : 岩波明先生 ( 昭和大学医学部精神医学講座主任教授 )

発達障害

課題研究の進め方 これは,10 年経験者研修講座の各教科の課題研究の研修で使っている資料をまとめたものです 課題研究の進め方 と 課題研究報告書の書き方 について, 教科を限定せずに一般的に紹介してありますので, 校内研修などにご活用ください

教育研究集録25年度 H1

特別支援教育関係資料

年中児スクリーニングの事後支援 年中児スクリーニングの事後支援として 22 市町村が園巡回を実施しているが SST は 5 市町村の実施 ペアレントトレーニングは 7 市町村の実施に止まっており 事後支援を実施する市町村の拡大が課題 園巡回 : 専門職が保育所 幼稚園を巡回し 保育士等に指導 助言

信州大学 学生支援GPの取り組み

≪障がい者雇用について≫

<8BB388E78A E786C73>

24 京都教育大学教育実践研究紀要 第17号 内容 発達段階に応じてどのように充実を図るかが重要であるとされ CAN-DOの形で指標形式が示されてい る そこでは ヨーロッパ言語共通参照枠 CEFR の日本版であるCEFR-Jを参考に 系統だった指導と学習 評価 筆記テストのみならず スピーチ イン

学習指導要領の領域等の平均正答率をみると 各教科のすべての領域でほぼ同じ値か わずかに低い値を示しています 国語では A 問題のすべての領域で 全国の平均正答率をわずかながら低い値を示しています このことから 基礎知識をしっかりと定着させるための日常的な学習活動が必要です 家庭学習が形式的になってい

(1) 体育・保健体育の授業を改善するために

基調講演Ⅱ.indd

必要性 学習指導要領の改訂により総則において情報モラルを身に付けるよう指導することを明示 背 景 ひぼう インターネット上での誹謗中傷やいじめ, 犯罪や違法 有害情報などの問題が発生している現状 情報社会に積極的に参画する態度を育てることは今後ますます重要 目 情報モラル教育とは 標 情報手段をいか

2. 小学校での ADHD が疑われる児童への対応における課題多くの小学校教師は ADHD が疑われる児童を担当した経験があり 学校内での連携した対応は実施していたが 地域の保健 福祉 医療機関などの外部との連携はあまり行われていなかった また ADHD が疑われる児童への指導や対応に自信があると回

Transcription:

第 1 分科会研究協議 LD ADHD 高機能自閉症等の発達障害 講師篁倫子 ( お茶の水女子大学生活科学部教授 ) 事例報告 Ⅰ 林克昌 (IEP のびのび教室代表 ) 事例報告 Ⅱ 長谷川安佐子 ( 新宿区立天神小学校教諭 ) 1. 講義 LD,ADHD, 高機能自閉症等の子どもへの教育 心理的支援 はじめに特殊教育から従来特別支援学校への転換には, 特殊教育の情勢の変化, 世界的潮流であるノーマライゼーションなど, いくつかの重要な事柄がある そして, 通常の教室で学ぶ学習障害 (LD), 注意欠陥 / 多動性障害 (ADHD), 高機能自閉症等の子どもたちについての社会的認知, 教育的認知もまた, 特殊教育の改革を牽引した要因であった ここでは, これらの障害理解を確認した上で, 協議をすすめたい (1)LD= 学習障害 (Learning Disabilities) の概念 特定の基礎的学力の習得に著しい困難がある ( 聞く 話す 読む 書く 計算する 推論する ) 基本的には, 知的発達に遅れはない 脳の機能障害が推定される その他障害や環境的な要因が直接の原因ではない (2)ADHD(Attention-Deficit /Hyperactivity Disorder) の概念 不注意注意の持続が困難 多動性過剰な活動, 動き 衝動性衝動のコントロールが困難 年齢, 発達水準に不釣り合い (3) 自閉症 (Autism) の概念 対人的相互反応の質的な障害 ( 人と社会的関係を築くことの障害 ) コミュニケーションの質的な障害 ( 言語, 意思伝達の能力の障害 ) 想像力 行動の障害 ( 興味 活動の限定, 常同的行動 ) (4) 高機能広汎性発達障害 高機能自閉症知的障害を伴わない自閉症 IQ は 70 以上 アスペルガー障害( 症候群 ) - 23 -

自閉症の 3 障害のうち, 明らかにコミュニケーションの障害 ( 早期の言語 認知の 遅れ ) を示さない 大方知的な遅れがない (5) 軽度発達障害の共通性と不利益 発達障害であるが, 明らかな知的発達の遅れはないため, 発達の問題 ( 異常 ) が把握されにくい 発達の偏りがあるため, やる気やしつけの問題と思われることがある 学童期に入ってから明らかになることが多いため, 正しい理解と適切な対応が遅れがちになりやすい 学習のつまずき, 行動の抑制と偏り, 対人関係能力の不足などから生活全般の困難になりやすい (6) 二次障害と合併症 LD,ADHD, 高機能自閉症の子どもたちの状況認知の悪さ, 抑制の効きにくさ, 人づきあいの稚拙さは, 勝手で不適切とみられる言動をもたらし, 仲間からは疎んじられ, 大人からは叱責されることが多くなる となれば, 本人が劣等感を持ち, 人から受け入れられない寂しさや怒りを秘めるようにもなる 不安や葛藤を様々な心や体の不調として表わしても不思議ではなく, 問題行動を起こし, 反社会的行動に結びつくこともありうる これらは障害の基本的, 必須の問題 ( 一次障害 ) ではなく, まわりの人 環境との関わりの中で生じてくるもので, 二次障害と理解できる 障害そのものは脳機能に起因するが, その障害がどのように子どもの生活に支障をもたらし, どのような経過をたどるかは家庭, 教育, 仲間, 地域社会といった環境要因に大きく影響を受ける 環境との相互作用の中で, 障害のあり様が変わってくるわけで, 一次障害に対して気長に援助していくことと, 二次障害を予防していくことが支援の鍵となる 2. 事例 1 軽度発達障害の事例から (1) 事例概要 1 事例の視点一般的に理解されにくい軽度発達障害を伴う子どもを持つ親の子育ての困難さを理解する 2 本人の状態 ( 小学校 1 年生男児 ) 認知的なアンバランスがあるものの知的な遅れは見られない 見通しが立たないこと, 注目されること, 失敗等で不安や緊張が強まり, 衝動的な行動が出やすい 行動面の困難が本人, 家族, 関係者の大きなストレス, 課題になっている 自己調整力を育てていくこと, 家族の負担を軽減することが課題となっているケースである 3 家族の状態父, 母, 本人の3 人家族 父は, 自分の考えや疑問点を単刀直入に話し, 一見挑戦的にとられる印象があるが, 妻や子どものことでは協力的に行動する 母は, 子どもを保育園に預け勤務先では信頼されるポジションで生きがいを感じながら働いていた - 24 -

ものの, 子どもの就学を機に退職する 周囲の人への配慮に気遣いが細かい反面, 不安が強い 4 事例の経過 保育園の年中(4 歳 ) 頃から本人の行動が気になりはじめた 親の相談先は, 保育園 子ども発達支援センター 医療機関と進んだが, 小集団での対応が困難となり, 個別指導の民間療育機関の相談 指導を受けるようになった 教育委員会の就学相談により学区域の普通学級に進んだ 小学校に入り, 親子ともに過剰な不安 緊張感で過ごす 学校生活では衝動性が強く, 周りからつい注意される対象になってしまう 親は担任の対応に不安を覚える 母子で過ごすことが多くなった夏休みに, 母に対して攻撃的になり, 母は鬱状態になり受診が必要となる 2 学期から, これまで躊躇していた通級を利用するとともに, 投薬が始まり, 現在経過を観察中である 5 軽度発達障害を伴う子どもを育てる家族支援のポイント 本人の特性とともに, 家族から受ける影響は大きいため, 家族全体への支援が必要である 本人が困っていることに気づき, よいところを見つけられる相談者に, 親は信頼を寄せていくものである 具体的な対応方法を一緒に考えていく支援が必要 親の会のような社会資源を提供する 親の意思を尊重した連携は安心感を与える 親はつまずきへの対応はわかっていても, 障害を受け止めることは容易ではない場合が多い (2) 質疑応答 事例協議 (Q: 質疑,A: 回答 ) Q( 参加者 ) 医療機関ではどのような検査をしたのか A( 事例報告者 ) 脳波の検査及び知能テスト等を行った ちなみにIQは 100 を超えていたが, テストでは見えてこない ばらつき が重要である Q( 参加者 ) 将来的にこの子は治るのかどうか, その見通しは? A( 事例報告者 ) 自己の障害をどのように認識できるかが重要である Q( 参加者 ) 医学的にはどのような診断 処置がなされているのか? A( 事例報告者 ) アスペルガー障害と診断されているが, 一部にLDやADHDの症状も見られる 投薬も処方されている 本人には障害について説明せず, 具体的な目標を与え, 成功体験を積ませることに主眼をおいている Q( 参加者 ) このような軽度発達障害の子どもは昔と比べ増えてきているのか, また, その要因は? A( 事例報告者 ) 子どもたち全体の社会性が低下してきていることに問題がある 子育てしにくくなっている現状をどうするかが重要であるとともに, 診断力の向上が求められている - 25 -

3. 事例 2 通級指導学級での指導実践 (1) 事例概要 1 情緒障害通級学級の増加傾向について子ども全体の数は減少傾向にあるにもかかわらず, 東京都ではここ数年, 通級希望の児童 生徒の増加が著しく, 学級数 設置学校数が増加しており, どの区 市でもその対応に追われている 2 通級指導の実際新宿区では, 小学校 2 校, 中学校 1 校に通級指導学級が設置されている 通級時間は週 1~2 回,1 回の時間は2~5 時間で, 子どもの実態に応じて決定している 通級児のほとんどが軽度発達障害の子どもたちである 個別指導と小集団指導を併用して, コミュニケーション, ルール理解, 運動 動作, 集中力, 表現力などの力を育て伸ばすことを目標としている 一人一人に応じて指導計画をたて指導を行っている 3 連携と巡回相談子どもたちが在籍する通常の学級の担任や保護者とは相談しながら連携をとり, 通級での指導を行っている また, 去年から通級児以外の相談に近隣の小学校に出向いて学級担任の指導の相談にのっている ( 巡回相談 ) 4 理解の難しさ軽度発達障害の子どもたちは外見上普通に見えるので, 理解してもらうのが難しい 在籍する学級の他の子どもたちや保護者から, 態度が悪い, なまけていると思われがちになる また, 通常学級の担任の中にもこういう子どもたちにどう関わっていったら良いかが分からず対応に困っている例が多い 5 家庭の問題保護者の抱えるストレスはかなり大きい しつけが悪いと小さなころから言われ続けて疲れており, 躁鬱で通院している場合もある ひとり親であったり, 親も軽度発達障害であったりと, 子どもだけでなく家庭の問題も大きいケースが多い 6 特別支援教育実施に伴って平成 19 年度から新たに実施される特別支援教育によって, どう教育現場が変わっていくか, 支援体制がどう変わっていくかに注目している (2) 質疑応答 事例協議 (Q: 質疑,A: 回答,C: 意見 ) Q( 参加者 ) 通級指導でまず教えることは何か? A( 事例報告者 ) 対人関係の中で言葉のコミュニケーションのトレーニングが効果的である 具体的な場面で, 同じ課題を繰り返し何ヶ月も続けてじっくりやらせ, 成功体験を積ませることが重要である すぐに新しい課題に移らないことである Q( 参加者 ) 一度崩れてしまった人間関係を修復するにはどうしたらよいか? A( 事例報告者 ) その子との相性というものがたぶんにあると思われる ベテランだからいいとも限らない 相性のいい教師を見つけ, 交代させることができればいいが, 難しいことである Q( 参加者 ) 親も障害を持っている場合の対処方法は? - 26 -

A( 事例報告者 ) 多くは望まないことである 親も子どもと同じと考え, ~だけはやってください といったように具体的な課題を一つだけやってもらうことである Q( 参加者 ) 親に子どもの障害について告知するときの注意すべきことは何か? A( 事例報告者 ) 非常に慎重にすべきである 他の学級や他の先生へのコンセンサスを十分にとってから行うべきである Q( 参加者 ) 複数の子どもを一度に指導するときのポイントは? A( 事例報告者 ) その子と相性のいい子どもをそばにつけるなど, 子どもの力を借りることができる 学生ボランティアの活用も検討してはどうか 四六時中つく必要はない C( 参加者 ) 定時制高校に通っている障害を持った生徒がいるが, 高校を卒業してからのサポート体制が十分でなく不安である 障害者手帳を持ちながら就労している者はほんの一握りであり, その他ほとんどは家に引きこもってしまうのではないだろうか 小 中学校までは手厚く支援されても, その先の支援が十分でないことが問題であると思う 3. 講師によるまとめ学習面の指導 支援のポイントとしては, 視覚的及び聴覚的な回路 情報を活用した教材 教具をつかった指導の工夫が重要であるとともに, いかに現実的で達成できる目標を設定し, その成功体験 達成感を積み上げていくかが重要である 行動面の指導 支援のポイントとしては, 行動の言語化, すなわち行動で表している感情や欲求を意識し, 言葉で表していく力を身につけることが必要である また, 目標設定が具体的でない場合が教育現場では意外に多い 何を評価の指標とするかなどを明確にし, 小さな成果を見逃さずに評価していく ( 褒める ) ことが大切である - 27 -