結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

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関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

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博士の学位論文審査結果の要旨

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

子として同定され 前立腺癌をはじめとした癌細胞や不死化細胞で著しい発現低下が認められ 癌抑制遺伝子として発見された Dkk-3 は前立腺癌以外にも膵臓癌 乳癌 子宮内膜癌 大腸癌 脳腫瘍 子宮頸癌など様々な癌で発現が低下し 癌抑制遺伝子としてアポトーシス促進的に働くと考えられている 先行研究では ヒ

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

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能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

ス化した さらに 正常から上皮性異形成 上皮性異形成から浸潤癌への変化に伴い有意に発現が変化する 15 遺伝子を同定し 報告した [Int J Cancer. 132(3) (2013)] 本研究では 上記データベースから 特に異形成から浸潤癌への移行で重要な役割を果たす可能性がある

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妊娠認識および胎盤形成時のウシ子宮におけるI型IFNシグナル調節機構に関する研究 [全文の要約]

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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博士学位論文 内容の要旨及び論文審査結果の要旨 第 11 号 2015 年 3 月 武蔵野大学大学院

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

博士学位論文審査報告書

平成14年度研究報告

博第265号

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

15 氏 名 し志 だ田 よう陽 すけ介 学位の種類学位記番号学位授与の日付学位授与の要件 博士 ( 医学 ) 甲第 632 号平成 26 年 3 月 5 日学位規則第 4 条第 1 項 ( 腫瘍外科学 ) 学位論文題目 Clinicopathological features of serrate

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EBウイルス関連胃癌の分子生物学的・病理学的検討

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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論文の内容の要旨


を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

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ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス


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報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

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本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

長期/島本1

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

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報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

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一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

いることが推測されました そこで東京大学医科学研究所の氣駕恒太朗特任研究員 三室仁美 准教授と千葉大学真菌医学研究センターの笹川千尋特任教授らの研究グループは 胃がんの発 症に深く関与しているピロリ菌の感染現象に着目し その過程で重要な役割を果たす mirna を同定し その機能を解明しました スナ

石黒和博 1) なお酪酸はヒストンのアセチル化を誘導する一方 で tubulin alpha のアセチル化を誘導しなかった ( 図 1) マウスの脾臓から取り出した primary T cells でも酢酸 による tubulin alpha のアセチル化を観察できた これまで tubulin al

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Powered by TCPDF ( Title 造血器腫瘍のリプログラミング治療 Sub Title Reprogramming of hematological malignancies Author 松木, 絵里 (Matsuki, Eri) Publisher P

1. 背景 NAFLD は非飲酒者 ( エタノール換算で男性一日 30g 女性で 20g 以下 ) で肝炎ウイルス感染など他の要因がなく 肝臓に脂肪が蓄積する病気の総称であり 国内に約 1,000~1,500 万人の患者が存在すると推定されています NAFLD には良性の経過をたどる単純性脂肪肝と

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急性骨髄性白血病の新しい転写因子調節メカニズムを解明 従来とは逆にがん抑制遺伝子をターゲットにした治療戦略を提唱 概要従来 <がん抑制因子 >と考えられてきた転写因子 :Runt-related transcription factor 1 (RUNX1) は RUNX ファミリー因子 (RUNX1

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現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

するものであり 分子標的治療薬の 標的 とする分子です 表 : 日本で承認されている分子標的治療薬 薬剤名 ( 商品の名称 ) 一般名 ( 国際的に用いられる名称 ) 分類 主な標的分子 対象となるがん イレッサ ゲフィニチブ 低分子 EGFR 非小細胞肺がん タルセバ エルロチニブ 低分子 EGF

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氏名 ( 本籍 ) 田辺敦 ( 神奈川県 ) 学位の種類博士 ( 学術 ) 学位記番号学位授与年月日学位授与の要件学位論文題名 甲第 64 号平成 28 年 3 月 15 日学位規則第 3 条第 2 項該当 RNA ヘリカーゼ YTHDC2 の転写制御機構と癌転移における YTHDC2 の 役割についての解析 論文審査委員 ( 主査 ) 佐原弘益 ( 副査 ) 村上賢 滝沢達也 代田欣二 論文内容の要旨 背景と目的 近年 筆者らは C 型肝炎ウイルスのゲノム複製に寄与する新規の RNA ヘリカーゼ遺伝子として YTH domain containing 2 (YTHDC2) を同定した ヒトの正常組織および様々な癌細胞株を用いて YTHDC2 遺伝子の発現を調べた結果 正常組織では発現が低いが 一方で多くの癌細胞株では発現が高いことが明らかになった [ 参考論文 (B), 3 ; Morohashi, Tanabe (9 th author) et al., PLoS one, 6, e18285, 2011] また これまでの研究で 様々な RNA ヘリカーゼが癌遺伝子の翻訳を促進することで癌細胞の悪性化に寄与していることが報告されている そこで本研究では 癌化に伴って発現が亢進する YTHDC2 の転写制御機構および癌細胞の主要な悪性形質の一つである癌転移における YTHDC2 の役割について解析した 第 1 章 :YTHDC2 の転写制御機構解析はじめに YTHDC2 の転写開始に重要なプロモーター領域を同定するために ルシフェラーゼレポーターアッセイを行った ヒト肝癌細胞株 Huh-7 を用いて実験した結果 転写開始点より 261 から +159 塩基の領域が重要であることが示唆された データベースによる解析により その領域内には camp Response Element(CRE) GATA AP-1 の 3 種類の転写因子結合サイトが含まれていることがわかった そこで それぞれの結合サイトに変異を導入して 再度ルシフェラーゼレポーターアッセイを行った結果 CRE サイトに変異を導入したときのみプロモーターの活性が低下したため この CRE サイトが YTHDC2 遺伝子の転写に重要であることが示唆された 次にこの CRE サイトに結合する転写因子を同定するためにクロマチン免疫沈降法 (ChIP) を行った Huh-7 細胞を用いて実験した - 1 -

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al., Gene, 535, 24-32, 2014) 第 2 章 :YTHDC2 の転移促進効果についての解析 YTHDC2 における癌化形質 特に癌細胞転移への役割を調べるために ヒト大腸癌細胞株 HCT116 において RNA 干渉法による YTHDC2 遺伝子発現が持続的抑制された細胞株の作出を試みた まずは既知のヒト遺伝子を標的としていない shrna (non-target shrna) と YTHDC2 を標的とする shrna (YTHDC2-shRNA) をそれぞれ形質導入した その結果 YTHDC2 の mrna 発現量が野生型の HCT116 細胞とほとんど変わらないコントロール HCT116 細胞株 (sh-cont 細胞 ) と YTHDC2 の mrna 発現量が野生型の HCT116 細胞に比べて約 80% 低下した YTHDC2 ノックダウン細胞株 (Y2-KD 細胞 ) を樹立した 樹立した細胞株の運動能力を Wound Healing アッセイと Transwell アッセイによって解析した Wound Healing アッセイは 高密度で培養されている細胞が人工的に作った新しいスペース (Wound) に移動する量を調べることで二次元的な細胞運動能力を測定する方法である Transwell アッセイは 細胞が Transwell のメンブレンに開いている 8μm の穴を通り抜けて反対側に移動した量を調べることで三次元的な運動能力を測定する方法である in vitro における 2 種類の運動能力測定法により Y2-KD 細胞の運動能力が sh-cont 細胞に比べて大きく低下していることがわかった また Y2-KD 細胞に YTHDC2 遺伝子を再発現させることで細胞の運動能力が回復するか否かを Transwell アッセイによって解析した その結果 YTHDC2 遺伝子を再発現させた Y2-KD 細胞の運動能力は sh-cont 細胞と同程度まで回復した さらに in vivo における Y2-KD 細胞の転移能力を調べるために ヌードマウスの脾臓に Y2-KD 細胞を移植し 肝臓に転移するか否かを調べた その結果 sh-cont 細胞の移植を移植したマウスでは全例で肝臓への転移が見られたが Y2-KD 細胞を移植したマウスでは 5 例中 2 例だけにしか肝臓への転移が見られなかった 以上の結果から YTHDC2 は大腸癌細胞の転移に寄与していることが示唆された サイクロスポリン A(CsA) には YTHDC2 の分子機能を阻害する効果が認められている [ 参考論文 (B), 3 ; Morohashi, Tanabe (9 th author) et al., PLoS one, 6, e18285, 2011] そこで 先の野生型 HCT116 細胞を移植した肝転移モデルマウスに CsA を投与すると やはり転移が抑制された 以上の結果から CsA が YTHDC2 の分子機能を阻害し 大腸癌細胞の転移を抑制したことが示唆された 次に YTHDC2 の作用が実際にヒト大腸癌の進行度に関連しているのか否かを外科病理学的に調べた ヒト大腸癌患者由来の 72 例の病理組織標本 ( 札幌医科大学医学部 消化器外科講座との共同研究 ) を当研究室で作製した抗 YTHDC2 モノクローナル抗体を用い 免疫組織化学染色を行った その結果 YTHDC2 の発現レベルと癌の進行度 (Stage) およびリンパ節転移の間に有意な正の相関が認められ 臨床的にも YTHDC2 が転移を伴う大腸癌の進行に重要な役割を持つことが示唆された - 2 -

( 参考論文 (A), 2; Tanabe et al., Cancer Letters, in press) 第 3 章 :YTHDC2 による HIF-1αの翻訳促進機構の解析固形癌における癌細胞転移では 固形癌内部の低酸素環境が引き金となって 上皮間葉系転換が誘導されて癌細胞が転移能力を獲得することが知られている そこで筆者は 低酸素環境下において重要な役割を果たしている低酸素誘導因子 1α (Hypoxia Inducible Factor-1α:HIF-1α) と YTHDC2 との相互作用について解析した HIF-1αは正常酸素環境では ユビキチン-プロテアソーム経路を介してタンパク質分解されるため タンパク質の発現量が減少しているが 低酸素環境では ユビキチン化が阻害されるのでタンパク質の発現量が増加する そこでまず始めに sh-cont 細胞と Y2-KD 細胞を酸素濃度 1% の低酸素環境で培養し HIF-1αの発現量を調べた その結果 低酸素環境における HIF-1αの mrna 発現量には sh-cont 細胞と Y2-KD 細胞の間で有意な差がなかった しかしながら HIF-1αタンパク質発現量は sh-cont 細胞では大きく増加しているが Y2-KD 細胞では増加していなかった これらの結果から 低酸素環境において YTHDC2 は HIF-1αの翻訳を促進していることが示唆された RNA ヘリカーゼは遺伝子 mrna の 5 末端非翻訳領域 (5 UTR) の二次構造を解くことで翻訳を促進することが知られている データベースによる解析により HIF-1α mrna の 5 UTR は平均的な mrna の 5 UTR に比べて 複雑な二次構造を形成しやすいことが示された そこで YTHDC2 が HIF-1α mrna の 5 UTR の二次構造を解くことで翻訳を促進しているか否かを解析するため ルシフェラーゼレポーターアッセイを応用して次の実験を行った まず ホタルルシフェラーゼ発現ベクターのプロモーター領域とホタルルシフェラーゼ遺伝子領域の間に HIF-1α mrna の 5 UTR を挿入した このベクターからホタルルシフェラーゼ遺伝子の mrna が転写されると HIF-1α mrna の 5 UTR と同じ二次構造が形成される したがって YTHDC2 が 5 UTR の二次構造を解くことで翻訳を促進するならば Y2-KD 細胞ではこの二次構造が解けないので sh-cont 細胞と比べてホタルルシフェラーゼ活性が低下すると予想される ルシフェラーゼレポーターアッセイの結果 Y2-KD 細胞では sh-cont 細胞と比べてホタルルシフェラーゼの活性が有意に低下した この結果から HIF-1αの翻訳には YTHDC2 が必要とされていることが示唆された HIF-1αは低酸素環境で 上皮間葉系転換形質に関わる遺伝子群の転写に必要であるとされ 転移に重要な働きを持つ遺伝子である YTHDC2 がそれを標的としていることは YTHDC2 の転移促進作用の結果を強く支持するものであった これらの結果から RNA ヘリカーゼ YTHDC2 が HIF-1αの翻訳を促進することで大腸癌細胞の転移に寄与すること そして YTHDC2 が癌治療の予後予測因子や治療標的遺伝子になり得ることが示唆された ( 参考論文 (A), 2; Tanabe et al., Cancer Letters, in press) - 3 -

論文審査の結果の要旨 RNA ヘリカーゼ YTH domain containing 2(YTHDC2) は癌細胞では高発現しているが 正常細胞では炎症状態でないと発現しない分子である [ 参考論文 (B), 3 ; Morohashi, Tanabe (9 th author) et al., PLoS one, 6, e18285, 2011] また これまでの研究で 種々の RNA ヘリカーゼが癌遺伝子の翻訳を促進することで癌細胞の悪性化に寄与していることが報告されている 従って YTHDC2 は正常細胞の炎症に伴う癌化の過程や癌の進行に必要とされる様々なタンパク分子の翻訳において重要な役割を果たしていることが示唆された そこで筆者は 本研究の第 1 章で YTHDC2 の転写制御機構をヒト正常肝細胞およびヒト肝癌細胞を用いて解析した 続く第 2 章では YTHDC2 が癌の悪性形質の一つである転移形質に関与しているかを解析し さらに第 3 章では YTHDC2 によって翻訳が促進される標的遺伝子を探索した 各章の実験結果を以下に示す 第 1 章 :YTHDC2 の転写制御機構解析はじめに YTHDC2 のプロモーター領域を同定するために ルシフェラーゼレポーターアッセイを行った ヒト肝癌細胞株 Huh-7 を用いて実験した結果 転写開始点より 261 から +159 塩基の領域が重要であることが示唆された データベースによる解析により その領域内には camp Response Element(CRE) GATA AP-1 の 3 種類の転写因子結合サイトが含まれていることがわかった そこで それぞれの結合サイトに変異を導入した結果 CRE サイトに変異を導入したときのみプロモーターの活性が低下したため この CRE サイトが転写制御に重要であることが示唆された 次にクロマチン免疫沈降法によって CRE サイトに結合する転写因子を調べた結果 ヒト肝癌細胞では転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これらの転写因子は炎症性サイトカイン TNFαで刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al., Gene, 535, 24-32, 2014) 第 2 章 :YTHDC2 の転移促進効果についての解析ヒト大腸癌細胞株 HCT116 における YTHDC2 遺伝子発現を RNA 干渉法を用いて YTHDC2 ノックダウン細胞株 (Y2-KD 細胞 ) を樹立した Y2-KD 細胞の運動能力を Wound Healing アッセイと Transwell アッセイによって解析した結果 Y2-KD 細胞の in vitro における運動能力がコントロールの細胞株に比べて大きく低下していることがわかった また Y2-KD 細胞に YTHDC2 を再発現させることで細胞の運動能力が回復するかを調べた結果 YTHDC2 を再発現させた Y2-KD 細胞の運動能力は コントロールの細胞株と同程度まで回復した さらに in vivo における Y2-KD 細胞の転移能力を調べるために ヌードマウスの脾臓に Y2-KD 細胞を移植し 肝臓に転移するかを調べた その結果 コントロールの細胞株を移植したマウスでは全例で肝転移が見られたが Y2-KD 細胞を移植したマウスでは 5 例中 2 例だけにしか肝転移が見られなかった さらに YTHDC2 の分子機能を阻害することが認められている薬剤 ( サイクロスポリン A; - 4 -

CsA) を 野生型 HCT116 細胞を移植した肝転移モデルマウスに投与すると それでも肝転移が抑制された 以上の結果から YTHDC2 は大腸癌細胞の in vivo における転移能力に寄与していることが示唆された 次に YTHDC2 の作用が実際にヒト大腸癌の進行度に関連しているのかを外科病理学的に調べるために ヒト大腸癌患者由来の 72 例の病理組織標本を抗 YTHDC2 モノクローナル抗体で免疫組織化学染色した その結果 YTHDC2 の発現レベルと癌の進行度およびリンパ節転移の間に有意な正の相関が認められ 臨床的にも YTHDC2 が転移を伴う大腸癌の進行に重要な役割を持つことが示唆された ( 参考論文 (A), 2; Tanabe et al., Cancer Letters, in press) 第 3 章 :YTHDC2 による HIF-1αの翻訳促進機構の解析固形癌における癌細胞転移では 固形癌内部の低酸素環境が引き金となって 上皮間葉系転換が誘導されて癌細胞が転移能力を獲得することが知られている そこで筆者は 低酸素環境下において重要な役割を果たしている低酸素誘導因子 1α (Hypoxia Inducible Factor-1α:HIF-1α) と YTHDC2 との相互作用について解析した HIF-1αは正常酸素環境では ユビキチン-プロテアソーム経路を介してタンパク質分解されるため タンパク質の発現量が減少しているが 低酸素環境では ユビキチン化が阻害されるのでタンパク質の発現量が増加する そこでまず始めに sh-cont 細胞と Y2-KD 細胞を酸素濃度 1% の低酸素環境で培養し HIF-1αの発現量を調べた その結果 低酸素環境における HIF-1αの mrna 発現量には sh-cont 細胞と Y2-KD 細胞の間で有意な差がなかった しかしながら HIF-1αタンパク質発現量を調べた結果 低酸素環境における HIF-1αのタンパク質発現量はコントロールの細胞株では大きく増加しているが Y2-KD 細胞ではあまり増加していないことが示された これらの結果から 低酸素環境において YTHDC2 は HIF-1αの翻訳を促進していることが示唆された 種々の RNA ヘリカーゼが遺伝子 mrna の 5 末端非翻訳領域 (5 UTR) の二次構造を解くことで翻訳を促進することが知られている そこで YTHDC2 が HIF-1α mrna の 5 UTR の二次構造を解くことで翻訳を促進しているかを解析するため プロモーター領域の直後に HIF-1α mrna の 5 UTR を挿入したホタルルシフェラーゼ発現ベクターを作製した このベクターからホタルルシフェラーゼ遺伝子の mrna が転写されると HIF-1α mrna の 5 UTR と同じ二次構造が形成される このベクターを用いてルシフェラーゼレポーターアッセイを行った結果 Y2-KD 細胞におけるルシフェラーゼ活性がコントロールの細胞株と比べて有意に低下した 即ち YTHDC2 が HIF-1α mrna の 5 UTR 二次構造を解くことで翻訳を促進していることが強く示唆された HIF-1αは低酸素環境で 上皮間葉系転換形質に関わる遺伝子群の転写に必要であるとされ 転移に重要な働きを持つ遺伝子である YTHDC2 がそれを標的としていることは YTHDC2 の転移促進作用の結果を強く支持するものであった ( 参考論文 (A), 2; Tanabe et al., Cancer Letters, in press) 本研究から得られた YTHDC2 遺伝子の転写制御機構や癌転移における役割に関する知見は YTHDC2 が癌治療の予後予測因子や治療標的遺伝子になり得ることを強く示唆するものであった - 5 -

従って 学術的価値がある研究成果として十分に評価できることから 博士 ( 学術 ) の学位を授与す るのにふさわしい研究と判定した - 6 -