Ⅱ 事業成果 a-1 中課題名 : 海藻バイオマスからのオリゴ糖等生産技術の開発担当機関 : 水産総合研究センター中央水産研究所 水産物応用開発研究センター ( 地独 ) 北海道立総合研究機構 水産研究本部明治大学理工学部東京農工大学農学部担当者 : 主任研究員 石原賢司 ( 中央水研 ) 研究員 松嶋良次 ( 中央水研 ) 主査 武田忠明 ( 北海道 ) 研究主任 小玉裕幸 ( 北海道 ) 専任講師 室田昭彦 ( 明治大学 ) 准教授 野村義宏 ( 農工大 ) 1 通期の課題の推移を示す図 2 目的本課題では 海藻バイオマスから エタノール等エネルギー原料となりにくいアルギン酸等を除去しつつ オリゴ糖として高付加価値化をはかることで海藻バイオマスのカスケード的利用を可能にすることを目的とする オリゴ糖製造技術としては 微生物を用いるサイレージ貯蔵手法 熱や圧力を利用す 4
る工学的手法 微生物が産生する酵素を利用する生物学的手法を検討した さらに 得られたオリゴ糖類の食品 化粧品 生化学資材としての利用を目指した機能性の評価も行った 3 通期の成果サイレージ貯蔵技術により 海藻分解菌 Pseudoalteromonas atlantica AR06 株 ( 以下 AR06 株 ) を用いたサイレージ貯蔵手法 (AR06 株とともに貯蔵する ) により 海藻バイオマスのうち コンブ漁場で発生する雑海藻 ( アイヌワカメ スジメ ) について アルギン酸オリゴ糖を調製する条件を解明した スジメについてはさらに反応をスケールアップして オリゴ糖を大量に調製することを可能にした さらに活性炭処理などによって色やにおいを改善し 食品や化粧品原料に用いることが可能な品質のオリゴ糖を調製する技術を確立した 工学的手法により触媒として炭酸ガスか弱い有機酸のみを用い 熱と圧力でオリゴ糖を生産する技術を開発した フコイダンはオリゴ糖レベルまで分解すると硫酸基の脱離が起こるため分子量としては 1 万程度までが限界であったが アルギン酸はオリゴ糖レベル ( 分子量 5000 以下 ) まで調製することが可能になった 生物学的手法によるオリゴ糖調製技術開発では AR06 株が菌体外に産生するアルギン酸リアーゼ ( 酵素 ) を用いてアルギン酸ナトリウムから高純度のアルギン酸オリゴ糖を調整する技術を確立した また 薄層クロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィーによりアルギン酸オリゴ糖の分子量分布と組成を定量的に測定する技術を確立した 機能性評価は 平成 22 年度までは1 課題で対応していたが サイレージ手法によるアルギン酸オリゴ糖類の製造技術開発が進展し 大量調製のめどが付いたため 平成 2 3 年度より 2 課題に増やし それぞれ食品への応用をめざした機能評価 化粧品 生化学材料への応用をめざした機能評価を行い 事業の出口の明確化を計った 食品としての応用をめざした機能評価においては 各種手法で調製したアルギン酸オリゴ糖の生理活性を評価し 分子量と生理活性の関連を解明し 機能性を発揮するのに最適な分子量を明らかにした さらに サイレージ貯蔵手法で作られたスジメ由来アルギン酸オリゴ糖について 動物実験によって免疫賦活作用とプレバイオティック活性を見出した 化粧品 生化学材料への応用をめざした機能評価においては サイレージ貯蔵手法によるアルギン酸オリゴ糖の皮膚細胞への効果を調べ ヒアルロン酸産生促進作用を見出した また ヒトによる皮膚刺激性験 動物による感作試験 エイムステスト等で安全性を確認した さらにアルギン酸オリゴ糖類添加石鹸を試作し アグリビジネス創出フェアで展示 配布を行った 4 各課題の成果概要小課題名 1 サイレージ貯蔵によるアルギン酸オリゴ糖の調製技術開発バイオエタノールの原料として想定されている褐藻類は 主成分としてアルギン酸を 5
含んでいるが 現状の技術水準では アルギン酸はバイオエタノール原料としては好適ではない 一方で アルギン酸は増粘剤などの食品添加物として利用される他 低分子化したアルギン酸オリゴ糖類はその機能性を生かして商品化されている そのため本課題では 原料海藻バイオマスに アルギン酸分解酵素を産生し強い海藻分解活性を示す細菌を作用させ 藻体中のアルギン酸を分解 可溶化して除去し アルギン酸を除去した好適なバイオエタノール原料を得るとともに 付加価値の高いアルギン酸オリゴ糖類を得ることを目的とした 対象とする海藻バイオマスは コンブ漁場で発生する雑海藻 ( スジメ アイヌワカメ ) を対象とした 海藻分解菌には 水産総合研究センターで海藻から分離された Pseudoalteromonas atlantica AR06 株を用いた 種々の前処理条件や反応条件を検討し アイヌワカメとスジメについてアルギン酸オリゴ糖の調製が試験管レベルで可能になった スジメについてはさらに反応をスケールアップして1kgスケールで反応が可能になった さらに AR06 株の培地や人工海水などについても検討し コストダウンも可能になった 得られるアルギン酸オリゴ糖は高分子から単糖まで幅広い分子量のアルギン酸が含まれていた 小課題名 2 海藻バイオマスからの工学的手法によるオリゴ糖等生産技術の開発アルギン酸等海藻バイオマスの多糖成分をオリゴ糖化する手法は 微生物や酵素を用いる手法などがあるが 酸や熱 圧力などを用いる工学的手法がある 工学的手法は 設備などに初期投資が必要となるが 大規模化することでコストダウンが可能となる 本課題では アルギン酸等を低分子化してオリゴ糖を得るために 工学的手法のうち 触媒として炭酸ガスや弱い有機酸のみを用い ( 通常は鉱酸 ) 圧力と熱により比較的穏和(100~200 程度 ) な条件でオリゴ糖を生産する技術の開発を行った その結果 ギ酸を触媒に用いることでアルギン酸から 6
オリゴ糖を調製することが可能になった 反応時間の調整で分子量のコントロールも可能であ った さらに フコイダンは反応中に硫酸基の脱離がおこるためオリゴ糖は調製できなかったが 分子量 1 万程度までの低分子化が可能になった PolyG: ポリグルロン酸 PolyM: ポリマンヌロン酸 Mw: 重量平均分子量 Mn: 数平均分子量 小課題名 3 生物学的手法による海藻からのオリゴ糖等生産技術の開発サイレージ貯蔵手法によるアルギン酸オリゴ糖は分子量分布が幅広く オリゴ糖としては純度の高いものではない また工学的手法により加水分解によって調製されるアルギン酸オリゴ糖は 微生物や酵素によるものに比べて末端構造が異なることが知られている 本課題では AR06 株が産生する酵素アルギン酸リアーゼ ( アルギン酸分解酵素 ) を用いて厳密に反応条件をコントロールすることで 高純度なアルギン酸オリゴ糖を調製する技術を確立するとともに アルギン酸オリゴ糖の分析用標準品を調製し アルギン酸および同オリゴ糖の分析手法を確立して他の小課題のサポートを行った 7
小課題名 4 海藻オリゴ糖等の機能性評価小課題 1,2,3の各手法で調製されたオリゴ糖類について 機能性の評価を行い 付加価値の向上を図ることを目的とした 本課題では 事業の前半は主として工学的手法で生産されたフコイダンオリゴ糖のがん細胞増殖抑制効果や血管新生抑制効果 ( がん組織などに血管ができるのを阻止し 抗がん作用を発揮する ) を調べ 至適活性を示す分子量が存在することを明らかにした 8
事業の後半では サイレージ貯蔵手法によるアルギン酸オリゴ糖の生産技術が確立したため サイレージ手法によるアルギン酸オリゴ糖について主として動物実験で機能性を検討したところ 腸内の有用細菌 ( ビフィズス菌 ) を増やすプレバイオティック活性や 食物アレルギーや食中毒菌に対抗する腸管免疫系に対する賦活作用を見いだした 小課題名 5 化粧品 生化学資材 ( 培養資材 ) としての応用を目指した機能解明小課題 1のサイレージ貯蔵手法によるアルギン酸オリゴ糖の生産において雑海藻からのアルギン酸オリゴ糖の大量調製のめどがたったことを受けて 事業の出口を明確化するために平成 23 年度より本課題を設け 小課題 1で調製されたアルギン酸オリゴ糖を化粧品 生化学資材に用いるための機能性 安全性の評価を行った 化粧品用素材用に調製されたアルギン酸オリゴ糖について 安全性評価 ( 皮膚一時刺激テ 9
スト エイムステスト 感作性テスト ) を行って 実用濃度 (0.1%) における安全性が確認された また 動物試験や細胞試験で紫外線照射に対する防護能や ヒアルロン酸合成促進作用を見いだした さらに同オリゴ糖を添加した化粧品 ( 洗顔石けん ) を試作し 展示会で展示を行った また アルギン酸を細胞培養基材使用するために発泡させてビーズ状に加工した 5 今後の課題 10
海藻バイオマス ( 未利用褐藻類 ) をバイオエネルギーとして利用しようとする際 通常バイオ燃料は安価なため コスト面が課題となる そのため 海藻バイオマスから付加価値の高い成分を抽出して利用した上で 残さをバイオ燃料として利用する いわゆるカスケード利用システムを構築する必要がある 本課題は 海藻バイオマスのカスケード利用システムの一段目の技術開発を行った コンブ漁場で発生する雑海藻であるスジメやアイヌワカメなどの褐藻類の主成分であるアルギン酸から 付加価値の高いアルギン酸オリゴ糖を調製する技術を開発し 調製したアルギン酸オリゴ糖について 食品素材化を目指した機能性評価と 化粧品 生化学資材化を目指した機能性 安全性評価を行った 本課題により 海藻分解菌 AR06 株を利用したサイレージ貯蔵手法により海藻からアルギン酸オリゴ糖を簡便に調製することが可能になり さらに同オリゴ糖が機能性食品素材や化粧品素材として期待できる機能性を有することが明らかになった アルギン酸オリゴ糖の製造コストについても検討し 一部の行程でコストを1/10 程度に圧縮することも可能になった 今後本技術を実用化するための課題としては スケールアップによるコストダウン効果を推定し 適正な事業スケールを算出することや 広い地域に薄く分布すると考えられる海藻バイオマスの効率的な収集技術の開発が必要と考えられる また 本技術は 残さをバイオエネルギー原料として利用することが前提となっているため カスケード利用の二段階目以降 ( バイオ燃料化 ) の技術が確立されていることが必要と考えられる 11