第 4 章水素燃料電池漁船の基本仕様と試設計 次世代型漁船である水素燃料電池漁船について試設計するに当たり 対象調査漁船の中か ら試設計漁船を選定し その漁船に搭載する燃料電池等の機器について検討を行った 4-1. 燃料電池漁船の選定燃料電池漁船の選定理由としては 次の内容を考慮して選択した (1) 燃料電池等の搭載機器が 現在 燃料電池自動車で開発されている機器を搭載できる漁船の規模であること (2) 漁労機器が出来るだけ少ない漁船であること (3) 作業負荷 ( 出力 ) の少ない漁船であること (4) 年間の操業頻度が低い漁船であること (5) 沿岸漁船であって 技術的データがある漁船であること (6) 水素の供給体制が比較的容易な地域にある漁船であること ( 将来的な要素として ) 現地実態調査の漁船の中で 大分県国東漁港の一本釣り漁船は 上述の (1)~(5) を満足しており 同船を試設計漁船に選定した また 第 3 章漁船調査の 3-1-2-3. 項の燃 料電池漁船の適用で記述のとおりであり 既存船の性能曲線図からも確認出来ている 図 4-1 国東 1 本釣り漁船の速力回転数曲線 図 4-2 国東 1 本釣り漁船の搭載機関速力馬力曲線 4-2. 一本釣り漁船 ( 大分県国東漁港 ) での検討 ( 船内外機船 ) 4-2-1. 水素燃料電池の選定現状では 自動車業界で開発されている燃料電池を参考にして 選択搭載する方法を考えざるを得ない しかしながら 各メーカーも詳細な寸法等のデータを公開していない状況での基本仕様の検討に当たって 自動車用と船舶用の用途の違いは 船舶用については負荷が自動車よりはるかに大きいことにある 自動車は 発進すれば ある程度惰性で走ることが可能で 回生ブレーキによる発電吸収も可能である 一方 船舶の場合 航走中は 造波抵抗や摩擦抵抗により常に負荷がかかるとともに 停船時に回生ブレーキによる電力の回収は - 46 -
出来ない このようなことから 自動車の出力をそのままで使用することは不可能であり ここでは 耐久面を考慮して自動車用の出力の 1/2 を舶用定格出力として使用する 右図のトヨタ自動車 (FCHV-adv)90kW の燃料電池から 高さ 奥行 幅の寸法比率が 1: 1.38:2.45 であり 車体幅大きさを考えた結果 スタックの高さ 奥行 幅の大きさを 300mm 420mm 730mmの寸法で設定する この大きさでは 容積約 92l 重量約 116kg になると考えられる 日産自動車の燃料電池スタックの 2008 年型モデルの (130kW) 緒元も参考にした (68l:86kg) 図 4-3 トヨタ自動車のスタック ( トヨタ HP より ) 図 4-4 日産自動車のスタックと出力密度とコスト推移 ( http://www.webcg.net/webcg/impressions/i0000019811.html より ) なお 現地調査漁船 ( 一本釣り漁船 ( 大分県国東漁港 )) の建網 ひき釣りの場合の実操業状態のデータ解析から必要出力は 30kW もあれば充分 ( 最高操業船速 14 ノット ) であることから 余裕のある容量の燃料電池を搭載することとなる 現在開発中の燃料電池スタックは 出力密度も加速度的に改善されており コストも低下してきている 4-2-2. 原動機としての電動機容量の選択上述の水素燃料電池の選定で 90kW の燃料電池を選定 ( 定格 45kW で対応 ) したことから 原動機の出力は定格 45kW( 最大 90kW) とする 原動機の寸法は車載の状況から 530mm 530mm 720mmとする 530 530 720 4-2-3. 水素タンクの容量図 4-5 原動機 2009 年 11 月に経済産業省主催で実施された燃料電池自動車 1,100km( 東京 福岡 ) の公道長距離走行実証における日産自動車 (X-TRIAL FCV) やトヨタ自動車 (FCHV-adv) 及び本田技研工業 (FCX-CLARITY) の搭載燃料電池の出力は 90kW( トヨタ 日産 ) と 100kW( 本田 ) - 47 -
であり 貯蔵水素タンク圧力は トヨタ自動車の 70MPa 以外は 35MPa であった しかし 日産自動車 本田技研工業も水素タンクについては 現在 70MPa を計画している また タンク容量は トヨタ自動車では 156l 本田技研工業は 171lの容量である トヨタ自動車の 70MPa の 156lは 4 本の高圧水素タンクを床下に設置している (1 本の高圧水素タンク 39l) ここでは トヨタ自動車が採用している 70MPa の4 本の高圧水素タンク ( 計 156l) を採用する なお 高圧水素タンクメーカーが製造している容量の大きい水素タンク (35MPa) を搭載することも選択肢に入れておく 図 4-6 に外観写真を示す < 高圧水素タンク (35MPa) 寸法 > 外径 : 600mm 全長 :1,500mm 容量 : 280l 図 4-6 高圧水素ボンベ (35MPa) 4-2-4. 制御装置 ( パワーコントロールユニット ) 制御装置は 燃料電池スタックと二次電池をこのパワーコントロールユニットで繋ぎ 負荷状況等に合わせ それぞれを最適に制御する役割を担っている この制御装置のサイズについては トヨタ燃料電池自動車 90kW を参考として 燃料電池の大きさとの比較から検討して H B L( 高さ 奥行き 幅 ) の寸法を 150mm 400mm 700mmとする 図 4-7 ボンネット内トヨタ自動車のHPにある燃料電池自動 ( トヨタ自動車のHPより ) 車の搭載機器の配置が判るイラスト図を掲載する また さらにその配置構成が理解できるように図 4-9 に示す 図 4-8 トヨタ燃料電池自動車の搭載機器配置図 ( トヨタ HP より ) - 48 -
図 4-9 トヨタ燃料電池自動車の機器配置構成 (FC EXPO 2010 におけるセミナー資料 FC-4 より ) 4-2-5. リチウムイオン電池の容量一本釣り漁船 ( 大分県国東漁港 ) に搭載しているバッテリーは 12V 120Ah 3 個で 機関室に2 個 舵機室に1 個となっている 搭載エンジン (4LM-HTZ) は 12V 仕様なので 舵機室の1 個が機関始動専用分で 機関室の2 個は 電動釣機 24V250W の駆動動力源用で 主機関の前部からベルト駆動している発電機 (980W) から このバッテリーを充電している よって 水素燃料電池船とした場合には 電動釣機用の容量分の2 次電池を最低限保有すれば良い 従って 機関室の 24V 120Ah 分をリチウムイオン電池に置き換える仕様とする ENAX 製 Lタイプセル (324mm 136mm 7mm-550g) のリチウムイオン電池を採用すれば 6 直列で6 並列の搭載となる バッテリーパック寸法 縦 横 厚さを計算すると 324 mm 816mm 42mmとなる リチウムイオン電池重量は Lタイプセルが 36 個で 19.8kg となる 鉛電池の搭載時に比べると 1/2 の軽量化が可能である 燃料電池スタックの補機関 ( エアコンプレッサー 水ポンプ インバータ コンバータ等 ) については 市販品を選択するものとする 図 4-10 ENAX 製リチウムイオン電池 L タイプセル - 49 -
4-3. 燃料電池漁船の基本仕様と試設計 4-3-1. 既存船 ( 一本釣り漁船 ( 大分県国東 )) 改造時の基本仕様 上記 (4-2-1.)~(4-2-5.) を検討した仕様及び寸法を以下にとりまとめた 表 4-1 燃料電池漁船の主要機器の仕様及び寸法 なお 既存船と試設計漁船の基本仕様との比較は表 4-2 のとおりである 表 4-2 既存船と試設計漁船の基本仕様 NO 項目 既存船の要目 試設計の燃料電池推進漁船 備 考 1 船体寸法 全長 :L B D 9.42 2.28 0.87 登録 :L B D 7.84 2.25 0.87 総トン数 2.0 トン 搭載機関 ( 定格出力 ) 4LM-HTZ (53kW) ー 実用最大 69.9kW/3200rpm 2 原動機 電動機出力 ー 定格 45kW( 最大 90kW) 減速機 ( 比率 ) ( i=1.61 ) 3 水素燃料電池 ー 定格 45kW( 最大 90kW) 自動車用燃料電池搭載 4 燃料タンク軽油タンク 100リットルー容量水素タンクー 280l( or 156l ) 5 2 次電池 バッテリー 12V 120A 3 個ー機関室 2 個 舵機室 1 個リチウムイオン電池ーセル数 6/324 136 42 6 制御装置 ー 150 400 700 燃料電池およびリチウムイオン電池の出力制御用 7 船尾装置 船尾ドライブ装置 (SZ160) ドライブ装置 (SZ160) プロペラサイズ 3 翼 16 17 ( インチ ) 3 翼 16 (17)( インチ ) ペラピッチは計算設定 8 漁労 装備機器 発電機 ( 主機前駆動 ) 24V-980W ー電動釣機 ( 船尾設置 ) 24V-250W < 参考 > 軽荷船速 ( 進水時 25.5ノット ) 4-3-2. 改造時の重量比較と船速推定既存船から燃料電池漁船に改造する場合には 搭載機器及び機材関係を新設すると共に不要な機器については撤去することとなる 搭載重量の増減が排水トン数に関係し 船速に影響する 従って 改造時には重量の増減を把握しておく必要がある 表 4-3 に改造時の搭載機材等の重量増減をまとめた - 50 -
表 4-3 改造時の搭載機材等の重量 改造時の搭載機器及び機材関係の重量増減の計算結果 約 262kg 重量が増加することが判 明した 船速への影響を計算するため諸元を表 4-4 にまとめた - 51 -
表 4-4 船速推定諸元 現状船の出航時の排水量は 約 1,825kg( 計算値 ) であり 重心位置は船体中央 ( ミッドシップ ) から船尾側へ約 1.34m である 改造により 約 262kg 重くなり 水素高圧タンクを船体中央付近に配置したため 重心が約 20cm 船首側に移動する 最大船速は 重量増加と出力の減少により約 3.4 ノット低下するが 重心の移動による影響は少ないものと思われる 電動モーターの定格回転数は 45kW 3,600rpm とし 最大出力は 90kW であるが 定格出力時の回転数に対して 11% アップの 4,000rpm 60.7kW が舶用機関における実用最大出力に相当するとしてプロペラ計算を実施した 表 4-5 に重心位置とプロペラ寸法を示す 表 4-5 重心位置とプロペラ寸法 4-3-3. 改造要領図試設計の段階では 改めて主体となる機器 ( 表 4-1) について 設置位置や配置場所のスペースを考え 次葉の燃料電池漁船の機関部改造図と改造時の一般配置図を図 4-11 と図 4-12 に示す 出来るだけ改造を少なくするため 電動機や燃料電池資部材を従来の機関室に納めた ただし 燃料電池を納めるために 機関室横のデッキを約 70mm 嵩上げした また 水素燃料タンク (35MPa 280l) は 船体の隔壁改造を避けるため 一本釣りの用途では漁労作業に支障が無いため デッキ上に設置とした - 52 -
図 4-11 機関部改造図 ( 燃料電池漁船 ) - 53 -
図 4-12 一般配置図 ( 燃料電池漁船 改造 ) - 54 -
4-3-4. 新造時の一般配置図燃料電池漁船を新造船として建造する場合は 高圧水素ボンベを漁労作業上からもデッキ下に収納出来るなど設計の自由度が広い このため 水素ボンベ容量を確保し 併せて設置スペースを削減するため 水素圧力を 35MPa から 70MPa として 4 本の高圧ボンベ (40l/ 本 ) を搭載することで 操業時間及び航行時間を延ばすことを考慮した また 改造時のデッキ上に設置する場合と比較すると 高圧水素タンク格納用の本体台 カバー等の重量で 45kg は低減されると推定する しかし 既存船より全体で 217kg 重くなる 表 4-6 新造時の搭載機材等の重量 ( 改造方式で試算 ) - 55 -
船速推定諸元を表 4-6 に示す 表 4-6 船速推定諸元 出航時の排水トン数に基づく 現状船と新造船を比較した重心位置の変化と船速の違い 並びにプロペラ寸法を表 4-7 に示す 表 4-7 重心位置とプロペラ寸法 燃料電池を納めるために 機関室周囲のデッキを全体に約 70mm 嵩上げするとともに 水素高圧タンク (70MPa) を機関室前のデッキ下に納めた このため 活魚艙が 現状よりも 800mm 船首側に移動したが 漁労作業の支障にはならないと判断した 以下に作成した新造の場合の燃料電池漁船の一般配置図を図 4-13 に示す - 56 -
図 4-13 一般配置図 ( 燃料電池漁船 新造 ) - 57 -