年 福岡市都心部における交通環境改善に向けたソフト施策の活用について 福岡国道事務所計画課 池田稔浩 木村義成 二口卓史他 1. はじめに 福岡市は 九州を代表する人口約 148 万人 ( 千人 ) ( 千人 ) 135,000 1,500 の都市であり 中心市街地である天神 博多地 130,000 125,000 区には九州だけでなくアジア各国からも来訪が 120,000 ある活気あふれる魅力的な都市である しかし 115,000 商業や業務の集積地である天神 博多の都心部 110,000 への交通集中等により 慢性的な交通渋滞 環 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 ( 年 ) 全国人口福岡市福岡市境悪化といった交通問題が発生しており これ ( 予測値 ) ( 予測値 ) ( 実績値 ) まで道路整備やTDM 施策などの対策を講じて図 -1 全国と福岡市の将来人口の推移きたが 全ての交通課題の解決には至ってない状況である また今後も人口の増加が予測され ( 図 -1) なおかつ 自動車の依存度も年々増加していることから ( 図 -2) さらなる交通問題の深刻化が懸念される 一方で 全国的な取り組みとして 近年 市民ひとり一人に対してコミュニケーションを通じて自発的な交通行動の変容を促し クルマの使い方図 -2 福岡市の移動手段の推移を見直す取り組みである モビリティ マネジメント が各地で展開され 渋滞の緩和やCO2 排出量の削減効果などが報告されている 本稿は 昨年度に実施したモビリティ マネジメントの取り組みと効果検証 さらには ソフト施策の一環として古賀市において実証運用した ITSを活用したパーク & ライド の取り組みと評価 そして今後の展開について紹介する 1,450 1,400 1,350 1,300 1,250 1,200 資料 : 北部九州圏 PT 調査 2. モビリティ マネジメントの取り組み 2.1. モビリティ マネジメントとは? モビリティ マネジメント ( 以下 MMという ) とは 過度にクルマに頼る状態 から 公共交通や徒歩 自転車などの交通手段を適度に (=かしこく) 利用する状態 へ少しずつ変えていく交通マネジメントの施策である つまり 無理にクルマから離れさせることではなく 自ら納得した上でクルマ利用を控えてもらい 公共交通や徒歩 自転車などを使ってもらう自発的な交通行動の転換を促していくための取り組みである
2.2. 過年度の MM プログラム実施概要 福岡国道事務所では 平成 17 年度より MM プログラムを実施している 平成 22 年 度までに実施してきたプログラムの概要について以下のとおり整理した ( 表 -1) また 関係機関の各種施策を連携し継続的に実施するための組織として平成 20 年度 より 福岡モビリティ マネジメント推進連絡会 (fuku-pomm) ( 座長 : 京都大学藤井聡 ) を立ち上げ 関係機関と連携したプログラム手法の検討および実施をしている 時期プログラム名実施地区対象者 H 17 家庭訪問型プログラム南区長住 H18 区役所窓口プログラム城南区 H19 大規模なポスティングプログラム城南区 H22 ポスティングプログラム Web プログラム 表 -1 過年度 ( 平成 22 年度まで ) のプログラム実施概要 東区 居住者 [1,054 人 ] 転入者 [434 人 ] 居住者 [36,000 人 ] 居住者 [18,000 人 ] 概要家庭訪問による対話方式のコミュニケーションによる情報提供を行い 居住者の自発的な交通行動の転換を促す施策 [ 効果 ] クルマ利用時間 20% 減少 (2ヶ月後) 情報提供年 9ヶ月後も効果継続を確認公共交通情報の所有が少なく 移動に関して確立されていないと考えられる福岡市外からの転入者を対象に情報提供し 転入者の自発的な交通行動の転換を促す施策 [ 効果 ] 鉄道利用時間 52% 増加 バス利用時間 18% 増加 情報提供 1 年後も効果継続を確認より 大規模 で より 効率的 な効果を得るために 大勢の居住者にポスティング方式の情報提供を行い 居住者の自発的な交通行動の転換を促す施策 [ 効果 ] クルマ利用時間 8.5% 減少 地下鉄七隈線の乗車人員 3.6% 増加従来の ポスティングプログラム と Webを活用したプログラム による情報提供を行い 定性的な行動変容の差異を検証 [ 結果 ] アンケート回収率ポスティング :10% Web:2% 公共交通への転換の可能性は大きな差異はない 今後に向けた新たなプログラムを展開するにあたり 上記の過年度プログラムの実績を踏まえて 比較的に大規模な実施に適していると考えられるポスティング形式とWeb 形式を選定した 平成 23 年度の取り組みは 将来的に自治体が主体的かつ継続的に実施できるように実施規模や得られる効果と掛かるコストを考慮し Web 形式 とした しかし平成 22 年度も同様にWebを活用したプログラムを行ったが 前回のWeb 方式の改善として MM の効果を計測するための情報を提供しないグループの設定やアクセス率 回答率の向上を目指し 初めての試みとしてプログラム対象者をWebアンケートモニターとした 2.3.Webアンケートモニターを対象としたMMプログラム 2.3.1 実施エリアの選定福岡市は 天神 博多およびその周辺部において 渋滞が発生している 自動車すべてが天神 博多を目的とするわけではないものの これらの都心部へ集中する自動車を都心部へ集中する自動車を他の交通手段に転換することは 都心部の渋滞緩和に貢献することが期待できる このため 自動車を用いて多くの人が移動している地域として 天神へ自動車を利用した移動が多い地域をプログラム実施エリアとして選定した 図 -3 ゾーン別天神への自動車分担率 ( 私用目的 ) 資料 : 北部九州圏 PT 調査
自動車に過度に依存している地域の選定に あたっては 次の選定条件を満たす地域を抽出 した 1 天神への自動車分担率が高い地域 ( 図 -3) 2 天神への自動車分担率が 近年急激に上昇 した地域 ( 図 -4) 公共交通が充実しており 上記 1 または 2 に 該当する地域を実施候補エリアとして設定した 結果 香椎エリア 姪浜エリア 外環南部エリア 雑餉隈エリアの 4 エリアを抽出した Web プログラム実施対象エリアは 福岡市の 郊外部に位置し 相対的に自動車に依存している と考えられる 福岡市東区 福岡市南区 福岡市西区 の Web アンケートモニターを対象 とした ( 図 -5) 実施にあたり 自動車を運転する可能性の高い 層として 20 代以上のアンケート モニター (3 区合計 13,203 名 ) を選定 してプログラムを実施した ( 表 -2) 2.3.2 プログラムの実施 Web アンケートを用いたプログラムは 1 コミュニケーションアンケート 2 事後ア ンケートと 3 フィードバックで構成する ( 図 -6) アンケート画面へ誘導する URL を含むメールを配信 モニターがアンケート画面にア クセス 日常の移動状況を伺うとともに かしこいクルマの使い方に向けた態度 行動 変容を促すために クイズ形式を用いた簡単な動機付けを行うアンケート調査を実施し た ( 図 -7) 表 -2 Web アンケートのモニター数 福岡市西区 福岡市南区 図 -4 ゾーン別天神への自動車分担率の増減 ( 私用目的 ) 資料 : 北部九州圏 PT 調査 姪浜エリア 香椎エリア 外環南部エリア 雑餉隈エリア 福岡市東区 凡 例 MM 施策実施候補エリア 人口 0 ~ 1000 1000 ~ 2000 2000 ~ 3000 3000 ~ 4000 4000 ~ 5000 > 5000 交通ネットワーク 鉄道主要幹線道路 図 -5 Web アンケートの対象エリア資料 : 平成 17 年国勢調査 クイズ形式で回答を促した 図 -6 プログラム (Web アンケート ) の全体構成 図 -7 コミュニケーションアンケートの流れ
2.3.3 効果検証福岡市東区 南区 西区の3 区合計 13,203 名 のWebアンケートモニターに対してコミュニケーション調査については 1,976 名 (15.0%) 事後調査については 1,543 名 (11.7%) からの回答を得た 平成 22 年度に実施したWebプログラムでは 9,379 世帯 を対象にポスティングにて配布したチラシにWebアンケートの協力を依頼した結果 コミュニケーション調査については 163 世帯 (1.7%) 事後調査については 47 世帯 (0.5%) の回収のみであったことから Webアンケートモニターを活用したプログラムのほうが より効率的に参加者を募集することが可能であることが確認できた 移動に関する意識の変化について 健康 環境 安全 コストに関する情報を事前提供したグループ ( 施策群 ) と提供してないグループ ( 制御群 ) との比較を行った 健康に関する意識の変化として 施策群にはクルマからバス 電車に変えることによる消費カロリーについて情報提供を行った結果 制御群のポジティブな意識が3.6% 低下していることに対し 施策群は4.6% 向上した ( 図 -8) 他に環境 安全 自動車利用に関する意識の変化も概ね同様な結果図 -8 健康意識の変化となった また プログラム実施前後の自動車利用時間の変化を見ると3 区合計で6.1% の減少となった 西区においては もともと自動車の利用が多く かつ情報提供前の意識 情報提供への反応が相対的に低かったことが この結果の一つの要因と考えられる ( 図 -9) 図 -9 自動車利用時間の変化 図 -10 自動車利用からの転換の有無 図 -11 自動車利用からの転換内容
コミュニケーション調査以降 クルマ利用を他の交通手段に変更したことが 一度でもあった と回答した人は約 30% いた ( 図 -10) 転換内容としては クルマの代わりに電車やバスを使う が55% 程度と最も多く 次いで クルマの代わりに自転車やバイクを使う が35% 程度となっている ( 図 -11) また プログラム実施前後の1 日当たりCO2 排出量の変化を見ると CO2 排出量が約 6% 1 日当たり約 290kg 減少し これは福岡ドーム (7ha)1.4 個分の面積の土地に木を植えた時のCO2 吸収量に相当し 今回の取り組みが有効であることが確認できた ( 図 -12) 図 -12 参加者当たりの CO2 排出量の変化 3. ITS の取り組み 3.1. 古賀市におけるパーク & ライド JR 古賀駅 3.1.1 実施箇所の選定平成 22 年度の福岡市西区橋本で実施したITS 活用パーク & ライドの成果を基に ETC と 携帯電話 を連携し 他の地域でも従来のパーク & ライドの更なる利用促進を図る目的で 実施可能な地域の検討と実証運用を行った 具体には 福岡市郊外で福岡市都心部まで自動車による通勤圏内に入る地域で かつ交通結節点に近接している駐車場を条件に候補地を抽出し 調整した結果 JR 古賀駅に近い駐車場を選定した ( 図 -13) JR 古賀駅周辺駐車場ゲート 実施駐車場 3.1.2. 実施内容 図 -13 ITS 活用パーク & ライド実施位置図 平成 23 年 9 月 12 日より JR 古賀駅近くで行った ITS を活用したパーク & ライ ド の実証運用は 以下のサービス内容で実施した ( 表 -3) 表 -3 古賀で実施した P&R の特長 1ETCを使って幅寄せいらずの入出庫が可能に駐車場のゲートに設置したETCアンテナが あらかじめ登録した車載のETCカードリーダーのID を読み取り バーが自動開閉 これにより発券機 精算機に幅寄せせずにスムーズな入出庫が可能 また 入庫直後の時刻に合わせてJRの時刻表や列車遅延等の情報を携帯電話に配信 ( 図 -14) 2 携帯電話への情報配信 JR 古賀駅の発車時刻について 入庫直後の時刻から3 本先まで配信 JR 鹿児島本線上下線の列車が事故 災害等で30 分以上の遅れが見込まれる場合に配信 駐車場より運営 管理に関するお知らせや駐車場周辺のイベント等の情報を配信 ( 図 -15)
自宅 クルマ 駅 古賀駅 都心部駅 P&R 駐車場 アンテナ設置 JR の発車時刻等の情報を受信 制御盤設置 図 -14 古賀市におけるパーク & ライドの流れ 図 -15 携帯電話への配信内容 3.1.3. 評価利用者のアンケートで ETCゲートの自動開閉サービスで便利になったとの回答が殆どであったが 改善要望として代車利用時の対応策や利用料金の自動引き落とし精算等のニーズがあった また 携帯電話への情報配信については ほぼ定時性の保たれたJRのパーク & ライドのため 利用の必要性を感じる方は少なかったが JRとバスの乗り継ぎ情報のニーズがあった 駐車場事業者やゲート保守業者からは コストに関する問題が挙がったが 利用者から今回のサービス内容に対して利用料の上乗せをしても利用意向があることを確認したため 他地域へ展開するためには これを踏まえて導入費用や運営費用を考慮したサービスモデルの仕組みの構築が必要である ( 表 -4) 表 -4 利用者 事業者からの意見 利用者からの意見 ( 回答数 :7) ETCゲートについて精算機への幅寄せの必要がなくなった (6) 精算機での窓の開閉をする手間が省けた (7) 代車利用によるETCと駐車場カードの併用希望 (4) ETCによる自動引き落とし精算希望 (4) 携帯電話への情報配信について直近の時刻表が分かったので慌てず乗車できた (2) JRとバスの乗り継ぎ情報の希望 (2) 今回の付加サービスの貨幣価値駐車料金にプラス500 円程度は加算されてもよい (6) 事業者からの意見駐車場事業者利用者の半数近くはETC 車載器のない車両のため 開発費を出してまでシステムを改善しても回収費がペイ出来ないと考えるゲート保守業者現状は受注生産のため ETCシステムの導入費用を抑えるためにはパッケージ化等が必要 4. 今後の展開に向けて MMプログラムの対象エリアとして抽出した福岡市東区 ( 香椎エリア ) 西区( 姪浜エリア ) 南区( 外環南部エリア ) 博多区( 雑餉隈エリア ) において 計画的にMMを展開していくこととするが その際には 平成 23 年度に実施したWeb 方式のプログラム実施のノウハウを有効に活用するとともに 平成 22 年度以前に実施したポスティング方式についての有効性が実証されていることも踏まえて展開していきたい 併せて MMとITSを活用した仕組みをコラボすることにより クルマから公共交通等への転換意識を更に高め 効果が持続できるような取り組みを実践していきたい