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北病防第 平成 23 年 142 号 2 月 18 日 関係総合振興局産業振興部長 関係振興局産業振興部長 様 様 技術普及課長 病害虫防除所長 水稲いもち病防除の徹底について 水稲の重要病害であるいもち病は 平成 2 年以降 3 年連続して多発生し 平成 22 年の 葉いもち と 穂いもち の発生面積率は過去 3 年で最も高 くなるなど 被害が拡大しており 道産米の安定的な生産はもとより流通への 影響も懸念されるところです いもち病は 汚染した種籾や稲わら等が感染源となりますが 特に 汚染し た種籾による苗床での感染は 本田においては葉いもちの早期発生の原因とな るため 健全な種籾の使用が重要です 平成 22 年の多発生に伴い 感染籾の割合は例年より高いと考えられること から いもち病防除に万全を尽くすため 道立総合研究機構農業研究本部 ホ クレン農業協同組合連合会及び北海道米麦改良協会との連携の下 通常の種子 消毒に追加してベノミル水和剤 ( 商品名 : ベンレート水和剤 ) による種子消毒 もくしは育苗箱灌注の励行を推進することとしました つきましては いもち防除指導に資するため 今般 平成 23 年産水稲の いもち病防除技術対策 を作成しましたので 御了知の上 貴局管内の市町村 農業協同組合 農業改良普及センター等への周知についてよろしくお願いしま す 連絡先 69-1395 夕張郡長沼町東 6 線北 15 号北海道立総合研究機構農業研究本部内 ) TEL 123-89- 28/ FAX 123-89-282 mail:hayashi-kouji@hro.or.jp

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上述したように 平成 22 年は穂いもちの発生面積率が非常に高かったことから 感染籾の割合も例年より高いと考えられる このため自家採種種子は使用せず 指導されている方法による種子消毒を徹底することに加え 育苗ハウス内やその周辺にわらや籾殻を放置せず 育苗ハウス内でそれらを利用しないなど 苗床感染を防ぐための対策を徹底することが重要である 更に本田では しろ掻き後に畦畔にあげた前年の残渣の処分を行い 放置された取り置き苗の処分を早期に実施する 移植後は BLASTAM 等の発生予察情報や関係機関からの営農技術対策情報を活用して葉いもちの早期発見に努め 発生を確認した時は早急に防除対策を行う 特に 育苗箱処理剤の効果を過信し 本田での葉いもちに対する対応が遅れた事例が見られたので留意する ( 平成 22 年度発生にかんがみ注意すべき病害虫 より抜粋 ) いもち病の発生については気象によって大きく左右されるものであるが 3 年連続の発生でもあり 菌の密度は高まっているものと考えられる このため 今後いもち病の発生を抑制していくために防除対策を整理する 平成 22 年の気象の経過を見ると 6 月中下旬の高温により平年より早い発病が各地で確認された その発生の要因については 感染と発病の時差を考慮するとほとんどが 種子感染および育苗期感染によるものである 種子消毒及び育苗期の防除が一つのキーワードとなると思われる 図 2 いもち病の伝染経路 - 2 -

2 過去にいもち病が多発した事例現地でのいもち病多発生事例の要因解析を行った結果 保菌種子あるいは保菌籾殻を伝染源とした苗床感染による保菌苗が本田に持ち込まれ 多発生になった可能性が高いことが分かった 同一ハウスで トマトを育苗育苗床として籾殻を使用 歩きやすいように通路に籾殻を敷いていた 写真 多発生農家の育苗ハウスで利用されていた籾殻 表 1 いもち病が多発した農家の育苗ハウスとその周辺 年次 農家 品種 育苗ハウスとその周辺環境 A 農家 はくちょうもち 育苗ハウス近くの作業場で収穫後籾すり 籾殻が堆積および散乱 2 年 B 農家 ほしのゆめ 育苗ハウス近くの作業場で収穫後籾すり きらら 3 9 7 籾殻が散乱 C 農家 ほしのゆめ 育苗ハウス近くの作業場で収穫後籾すり きらら 3 9 7 籾殻が堆積および散乱 D 農家 ほしのゆめ 育苗ハウス近くの作業場で収穫後籾すり 21 年 きらら 3 9 7 籾殻が散乱 同一ハウスでトマトの育苗床として籾殻を使用 注 ) いずれの農家も前年度にもいもち病が発生している - 3 -

( 1 ) 育苗ハウスで籾殻を使ったら育苗ハウスに籾殻があった場合 籾殻からの苗床感染による保菌苗の持ち込みは本田および補植用取り置き苗において早期に発病し 多発生につながることが明らかになった ( 図 3 図 4 ) 発病株率 (%) 2 1.8 1.6 1.4 1.2 1 籾殻有り籾殻無し 初発 (7 月 3 日 ).93.8 初発 (7 月 17 日 ).6.36.36.4.111.2.97 6 月 27 日 6 月 3 日 7 月 3 日 7 月 6 日 7 月 9 日 7 月 12 日 7 月 15 日 7 月 18 日 月日 図 3 籾殻の有無が本田初発に及ぼす影響 ( 平成 14 年 ) 病斑面積率 (%) 6. 5. 4. 3. 2. 1. 346. 病斑面積率 (%) 収量 (kg/1a) 1.4 5.18 117. 4. 35. 3. 25. 2. 15. 1. 5. 収量 (kg/1a). 籾殻無し 籾殻有り. 図 4 籾殻の有無が発病と収量に及ぼす影響 ( 平成 14 年 ) - 4 -

3 種子籾の消毒 本年は全道で穂いもちの発生が45 ということから 種子籾における保菌率も 高まることが予想される 籾が保菌したいもち病菌のうち 1 割程度は内部 玄米 に感染し 発病の環境が 整うと同時に胞子を形成し他の苗に飛散し感染拡大していく 玄米感染は種子消毒効果は期待できない これらのことから 種子籾段階 育苗期の防除の徹底が重要となる 1 保菌種子を使ったら 保菌種子由来の苗を移植した場合 補植用取り置き苗および本田において初発が 明 ら か に 早 ま っ た 図 5 図 6 1.2 購入種子 消毒有 保菌種子 消毒有 保菌種子 未消毒 発病株率 1.8.6 初発 (7 月 1 日 ).4 初発 (7 月1 7 日 ) 初発 (7 月2 5 日 ).2 7月3日 7月6日 7月9日 7月12日 7月15日 7月18日 7月21日 7月24日 7月27日 月日 図5 保 菌 種 子 の 本 田 初 発 に 及 ぼ す 影 響 平 成 14年 -5-

.6 病斑面積率(%) 収量(kg/1a) 51.1.5 5.4.3 収量(kg/1a) 病斑面積率.5 52 51 5 49 48 47 46 45 44 43 42 459.6.2 4 51.6.1.133.6 購入種子 消毒有 図6 表2 保菌種子 消毒有 保菌種子 未消毒 保 菌 種 子 の 発 病 と 収 量 に 及 ぼ す 影 響 平 成 14年 保菌種子への各種子消毒方法の効果 浸種7日後 供試種子 保菌種子 種子消毒 処理方法 の胞子形成率% 玄米 育苗 慣行苗 枯死 病斑 枯死苗率% 苗率 苗率 テクリード C フロアブル 2 倍 24 時間浸 8. 4.1 4.12.33 ベンレート T 水和剤 2 倍 1 分間浸漬 温湯消毒 6 1 分 1.67 2.1.2.4 37.3 8.67 15.3 9.13 19.43 無処理 購入種子 籾 試験管内 テクリード C フロアブル 2 倍 24 時間浸 温湯消毒 6 1 分 注 枯死苗は他の要因による枯死と区別するため胞子形成の有無を顕微鏡で観察 判断した 図7 ベンレート水和剤の種子消毒による籾 玄米のいもち病菌殺菌効果 平 成 14 年 佐 賀 県 農 試 -6-

以上の結果から 保菌の可能性のある種子を使用する場合には現行の基幹薬剤を 用いた種子消毒によっても完全に殺菌することは困難である 表 2 に示されるように玄米への防除効果も高いベンレートT水和剤について モ ミガードCやテクリードCフロアブルなどと二重処理をした場合 チウラム T と銅剤 C の相性が悪く 銅剤の効果を劣らせることから ベンレート水和剤の 効果 図7 について 玄米感染の防除効果や薬害に対する知見を検討し 本年の 種子消毒への利用を徹底することとした 4 早期多発を防ぐための伝染源対策 表3 いもち病の早期多発を防ぐための伝染源対策 項目 重要度 種子対策 種子更新を毎年行い 自家採種種子は使用しない 種子消毒は徹底する 育苗ハウス内およびその周辺では 籾殻やわらは放 育苗ハウス内 外の圃場衛生 補植用取置苗 伝染源対策 置しない 育苗ハウス内で籾殻やわらは利用しない 早期に除去する 注 特に重要 重要 畦畔などにひっくり返して置いた おくだけではダメ 土中に深く埋めるか 水田から離 れたところに持って行って捨てるこ と 写真 取り置き苗は水田内だけでなく 畦畔か らもすぐ片づける -7-