Economic Trends    マクロ経済分析レポート

Similar documents
Economic Trends    マクロ経済分析レポート

Microsoft Word - N_ _2030年の各国GDP.doc

図表 02 の 01 の 1 世界人口 地域別 年 図表 2-1-1A 世界人口 地域別 年 ( 実数 1000 人 ) 地域 国 世界全体 2,532,229 3,038,413 3,69

エコノミスト便り

2030年のアジア

1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(216 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43

別紙2

平成28年版高齢社会白書(概要版)

目次はじめに 1. 中国の少子高齢化 人口ボーナス論と中国経済 中国の人口ボーナスの課題 人口ボーナスと地域間経済格差 はじめに , demographic dividend 15 6

1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(217 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43

社会保障給付の規模 伸びと経済との関係 (2) 年金 平成 16 年年金制度改革において 少子化 高齢化の進展や平均寿命の伸び等に応じて給付水準を調整する マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びはの伸びとほぼ同程度に収まる ( ) マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びは 1.6

タイトル

2017 年訪日外客数 ( 総数 ) 出典 : 日本政府観光局 (JNTO) 総数 2,295, ,035, ,205, ,578, ,294, ,346, ,681, ,477

参考資料 1 約束草案関連資料 中央環境審議会地球環境部会 2020 年以降の地球温暖化対策検討小委員会 産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会約束草案検討ワーキンググループ合同会合事務局 平成 27 年 4 月 30 日

先進国化する中国 東南アジアの大都市 ~ メガシティ ( 大都市 ) からメガリージョン ( 大都市圏 ) へ ~ 要 旨 調査部環太平洋戦略研究センター 主任研究員 大泉啓一郎 GDP 8,000 10,00

1. 世界における日 経済 人口 (216 年 ) GDP(216 年 ) 貿易 ( 輸出 + 輸入 )(216 年 ) +=8.6% +=28.4% +=36.8% 1.7% 6.9% 6.6% 4.% 68.6% 中国 18.5% 米国 4.3% 32.1% 中国 14.9% 米国 24.7%

和RIM62 大泉氏.indd

生産性 イノベーション関係指標の国際比較 平成 29 年 11 月 9 日 財務総合政策研究所酒巻哲朗 1

1 / 5 発表日 :2019 年 6 月 18 日 ( 火 ) テーマ : 貯蓄額から見たシニアの平均生活可能年数 ~ 平均値や中央値で見れば 今のシニアは人生 100 年時代に十分な貯蓄を保有 ~ 第一生命経済研究所調査研究本部経済調査部首席エコノミスト永濱利廣 ( : )

第45回中期経済予測 要旨

表 1) また 従属人口指数 は 生産年齢 (15~64 歳 ) 人口 100 人で 年少者 (0~14 歳 ) と高齢者 (65 歳以上 ) を何名支えているのかを示す指数である 一般的に 従属人口指数 が低下する局面は 全人口に占める生産年齢人口の割合が高まり 人口構造が経済にプラスに作用すると

1999

IT 人材需給に関する調査 ( 概要 ) 平成 31 年 4 月経済産業省情報技術利用促進課 1. 調査の目的 実施体制 未来投資戦略 2017 ( 平成 29 年 6 月 9 日閣議決定 ) に基づき 第四次産業革命下で求められる人材の必要性やミスマッチの状況を明確化するため 経済産業省 厚生労働

目 次 Ⅰ. 総括編 1. 世界各地域の人口, 面積, 人口密度の推移と予測およびGDP( 名目 ) の状況 ( 1) 2. 世界の自動車保有状況と予測 ( 5) 3. 世界の自動車販売状況と予測 ( 9) 4. 世界の自動車生産状況と予測 ( 12) 5. 自動車産業にとって将来魅力のある国々 (

<4D F736F F D DC58F4994C5817A C A838A815B83585F984A93AD90B68E5990AB82CC8D918DDB94E48A E646F6378>

スライド 1

2017年第3四半期 スマートフォンのグローバル販売動向 - GfK Japan

< F2D906C8CFB93AE91D48A77322E6A7464>

平成27年版高齢社会白書(全体版)

住宅宿泊事業の宿泊実績について 令和元年 5 月 16 日観光庁 ( 平成 31 年 2-3 月分及び平成 30 年度累計値 : 住宅宿泊事業者からの定期報告の集計 ) 概要 住宅宿泊事業の宿泊実績について 住宅宿泊事業法第 14 条に基づく住宅宿泊事業者から の定期報告に基づき観光庁において集計

平成19年度文部科学省 専修学校教育重点支援プラン事業

2017 電波産業調査統計

我が国中小企業の課題と対応策

ITI-stat91

平成30年版高齢社会白書(概要版)

< 目次 > Ⅰ. 基準シナリオ : 経済成長持続ケース 1. 中間所得層 + 高所得層の推移 2. 中間所得層の推移 3. 高所得層の推移 Ⅱ. シナリオ2: 中国とインド経済が急激にダウンしたら? 1. 中間所得層 + 高所得層の推移 2. 中間所得層の推移 3. 高所得層の推移 Ⅲ. シナリオ

JNTO

<4D F736F F D CC93E08EF982F08CA188F882B782E98F8A93BE F72648F4390B3816A2E646F63>

<4D F736F F D E937890AC96F18EC090D195F18D C A E646F63>

平成29年版高齢社会白書(全体版)

Microsoft Word - 20_2

[000]目次.indd

42

本日の主な内容 1.. 総論 主要国の GDP 成長率 人口伸び率 主要国の経済規模 2.. 日本経済の見通し 人口動態と労働力人口 潜在成長率と実質 GDP 成長率 GDP ギャップと物価上昇率 日本経済再生への処方箋 1

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(1月号)~輸出の好調続くも新型スマホ関連がピークアウトへ

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(5月号)~輸出は好調も、旧正月の影響を均せば増勢鈍化

図表 -6 図表 -7 労働力人口の増加は続く ASEAN の労働力人口 ( 億人 ) 年にかけて % 程度の成長を維持 ASEAN の潜在成長率 ( 前年比 %) 労働生産性の伸び労働力人口の伸び 資料 :ILO 国連 World Popula

Microsoft Word - 04_data_product_4

Microsoft Word - 世界のエアコン2014 (Word)

リサーチ Press Release 報道関係者各位 2015 年 7 月 29 日 アウンコンサルティング株式会社 世界 40 カ国 主要 OS 機種シェア状況 2015 年 6 月 ~ iphone 大国 日本 高い Apple シェア率 ~ アジア 8 拠点で SEM( 検索エンジンマーケティ

2. トピックス 中国 インドを除くアジア主要国の特徴について 中国やインドが高い成長を続けている中にあって 韓国 台湾 タイ インドネシアなどの東南アジアの国々の成長率は過去 7 年間を平均すると 4.3% と安定している しかし 成長率には国によって差があり フィリピン ベトナム インドネシアな

Microsoft PowerPoint - Itoh_IEEJ(150410)_rev

人口 世帯に関する項目 (1) 人口増加率 0.07% 指標の説明 人口増加率 とは ある期間の始めの時点の人口総数に対する 期間中の人口増加数 ( 自然増減 + 社会増減 ) の割合で 人口の変化量を総合的に表す指標として用いられる 指標の算出根拠 基礎データの資料 人口増加率 = 期間中の人口増

地域別世界のエアコン需要の推定について 年 月 一般社団法人 日本冷凍空調工業会 日本冷凍空調工業会ではこのほど 年までの世界各国のエアコン需要の推定結果を まとめましたのでご紹介します この推定は 工業会の空調グローバル委員会が毎年行 なっているもので 今回は 年から 年までの過去 ヵ年について主

IMF世界経済見通し 2015 年 4月 第 章 要旨



Microsoft Word - 18_2

2 / 6 不安が生じたため 景気は腰折れをしてしまった 確かに 97 年度は消費増税以外の負担増もあったため 消費増税の影響だけで景気が腰折れしたとは判断できない しかし 前回 2014 年の消費税率 3% の引き上げは それだけで8 兆円以上の負担増になり 家計にも相当大きな負担がのしかかった

年 年 に設定した 世界合計 の輸出金額は 年 3 兆 2,310 億ドルから 年 6 兆 1,930 億ドル 年 14 兆 6,520 億ドルと 4.5 倍に拡大した後 年秋のリーマンショックを契機として 2009 年には前年の約 3/4 に急激に落ち込み その後 徐々に回復が進み 年 16 兆

各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

ブラジル中国インド インドネシア ロシア 図表 新興国の消費者物価上昇率 ( 単位 :%)( 資料 :IMF 世界経済見通し ) 通常であれば 成長率が低下すれば 国内の需給バランスが緩和し むしろ物価は低下するのが自然である しかし 中国以外の カ国は逆に物価上

人口減少と将来の労働力不足について(資料編)

輸入バイオマス燃料の状況 2019 年 10 月 株式会社 FT カーボン 目 次 1. 概要 PKS PKS の輸入動向 年の PKS の輸入動向 PKS の輸入単価 木質ペレット

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

Microsoft Word - 49_2

Microsoft Word ミル消費報告2014

図 3 世界の GDP 成長率の実績と見通し ( 出所 ) Capital in the 21st century by Thomas Piketty ホームページ 図 4 世界の資本所得比率の実績と見通し ( 出所 ) Capital in the 21st century by Thomas P

特許庁工業所有権保護適正化対策事業

スライド 0

Microsoft Word - 10 統計 参考.doc

29 歳以下 3~39 歳 4~49 歳 5~59 歳 6~69 歳 7 歳以上 2 万円未満 2 万円以 22 年度 23 年度 24 年度 25 年度 26 年度 27 年度 28 年度 29 年度 21 年度 211 年度 212 年度 213 年度 214 年度 215 年度 216 年度

2011 年度第 63 回日本人口学会 2011 年 6 月 12 日 カンボジアの職業別人口構造 総務省統計研修所西文彦 注 ) 本資料に記載されている内容は すべて個人の見解に基づくものである 1 本報告の目的 カンボジアの人材の状況に視点を置いて 持続的な経済成長の可能性を検証する 人口ボーナ

Microsoft Word _中国トピックス_人口問題.doc

金融調査研究会報告書 少子高齢化社会の進展と今後の経済成長を支える金融ビジネスのあり方

お知らせ 平成 27 年 2 月 2 日 公益財団法人京都文化交流コンベンションビューロー 平成 26 年 12 月外国人客宿泊状況調査 の発表について ( 公財 ) 京都文化交流コンベンションビューローでは 京都市内 25 ホテルの協力 を得て月別 国籍別宿泊外国人の状況調査を行っております 平成

第4章 日系家電メーカーにおけるグローバル化の進展と分業再編成

,112 1,630 1,992 1,879 2,674 3,912 はじめに ア

日経平均株価 22,27.3 NY ダウ工業株 3 種 25,9.32 米ドル 2, 2, 22, 円 2, 1, 1, 1, 12, 1,,, 2, 22, 1, 1, 1, 21 年 月 2 日発行休場の場合は直前の営業日までのデータ 長期 ( 週次ベース ) (27 年 1 月第 1 週末 ~

平成24年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度(閣議了解)

< 目次 > 概要 1 1. 香港 2. 台湾 3. 韓国 4. 中国 5. シンガポール 6. マレーシア 7. ブルネイ 8. インドネシア 9. タイ 10. ベトナム ミャンマー 12. フィリピン 13. インド 14. 中

Microsoft Word - 校了 11 統計 ①増田、田辺.doc

日経平均株価 22,97. 2, 2, 22, 円 2, 1, 1, 1,, 1,,, 21 年 7 月 23 日発行休場の場合は直前の営業日までのデータ 長期 ( 週次ベース ) (27 年 1 月第 1 週末 ~21 年 7 月第 3 週末 ) 短期 ( 日次ベース ) (217 年 1 月初

地域別世界のエアコン需要の推定について 2018 年 4 月一般社団法人日本冷凍空調工業会日本冷凍空調工業会ではこのほど 2017 年までの世界各国のエアコン需要の推定結果をまとめましたのでご紹介します この推定は 工業会の空調グローバル委員会が毎年行なっているもので 今回は 2012 年から 20

【No

フ ァ ン ド の 特 色 ハイグレード ハイグレード オセアニア オセアニ ニア ボンド マザーファンド マザーファンド を通じて オーストラリア ドル建ておよびニュージーラ ドル建ておよびニュージーランド ドル 建ての 債券等 に投資します 債券等 には コマーシャル ペーパー等の短期金融商品を

【資料1-1】人口ビジョン編・表紙(案) 省略版

3_2

2025年の住宅市場 ~新設住宅着工戸数、60万戸台の時代に~

参考資料1

図表 1 人口と高齢化率の推移と見通し ( 億人 ) 歳以上人口 推計 高齢化率 ( 右目盛 ) ~64 歳人口 ~14 歳人口 212 年推計 217 年推計

近畿圏における電気機器の貿易動向 平成 24 年 10 月 22 日大阪税関調査統計課 貿易額推移 近畿圏における電気機器の貿易額は 2000 年に初めて輸出額が 3 兆円を突破し 輸入額が 1 兆円を突破しました 輸出額は 2001 年に一旦減尐しますが その後は右肩上がりで増加し 2005 年に

概要3

第2章_プラントコストインデックス

Microsoft PowerPoint EU経済格差

日本経済の現状と見通し ( インフレーションを中心に ) 2017 年 2 月 17 日 関根敏隆日本銀行調査統計局

日経平均株価 21,1. NY ダウ工業株 3 種 2,.31 米ドル 2, 2, 22, 円 2, 1, 1, 1, 12, 1,,, 22, 1, 1, 1,, 21 年 1 月 29 日発行休場の場合は直前の営業日までのデータ 長期 ( 週次ベース ) (27 年 1 月第 1 週末 ~21

訪日数 JNTO 日本政府観光局統計より〇 2 月の訪日外客数 138 万 7,000 人 ( 前年同月 157.6%) 〇中国が月間過去最高 史上初単月で 35 万 9 千人 (359,100 人前年同月 259.8%) 〇東アジア ( 中国 台湾 韓国 香港 ) だけで構成比が約 8 割 ( 前

Economic Trends    マクロ経済分析レポート

Transcription:

Economic Trends マクロ経済分析レポート テーマ : 人口動態に基づいた世界経済の見通し 2016 年 9 月 27 日 ( 火 ) ~ 世界経済は20 年代にかけて3% 程度の成長へ緩やかに減速 ~ 第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト永濱利廣 (03-5221-4531) 副主任エコノミスト星野卓也 (03-5221-4547) ( 要旨 ) 人口動態は長期的な経済成長を左右する要因であり その将来予測の精度が比較的高いことが特徴だ 本稿では 人口動態を基に将来の各国の経済成長率を把握することを試みる 人口ボーナス期 には 生産年齢人口の増加が経済全体の労働供給力を高める 同時に 老年人口の比率も低い状況のもと 社会保障費などを抑制することができ その分インフラなど将来への投資に資金を投じることが可能になる これが生産性向上を通じて 一層経済成長を高める方向に作用する 逆に 生産年齢人口比率が低下 ( 高齢人口比率が上昇 ) する時期を 人口オーナス期 と呼ぶ この間は人口動態が経済成長にマイナスに作用する 世界における人口ボーナス期から人口オーナス期へと転換する時期をみると (1) 第一グループ (~ 年代 ): 日 欧 米 (2) 第二グループ ( 年代 ): オセアニア アジアN IEs 中国等 (3) 第三グループ ( 年代 ):ASEAN 中南米 (4) 第四グループ ( 年代 ~): インド フィリピン 南アフリカ等の4つのグループに分けることができる 第一グループの中でも既に生産年齢人口がピークアウトしている ドイツ イタリアと 生産年齢人口が増え続ける米国 英国 フランスに分けることができる また 第二グループの中では生産年齢人口のピークアウトが予想される韓国 タイ 中国 シンガポール カナダと 生産年齢人口が増え続けるオーストラリア ベトナムに分けることができる 生産年齢人口伸び率 と 人口ボーナス指数 に基づき 年までの経済成長率を推計すると 今後労働力人口の減少幅が縮小すると見込まれるは 成長率が1% 台に加速する 一方 中国や韓国は大幅低下が予想される これに対し 労働力人口の増加が継続し 労働投入の伸び率が 20 年代も引き続きプラスと見込まれるインド フィリピンについては高成長の持続が期待される 欧州は 10 年代 20 年代を通じ成長率が鈍化する見通し 北米とオセアニアで移民の流入により生産年齢人口が増加 成長率も維持される見通し 世界全体に占めるシェアは 15 年時点で大きい順にアメリカ 中国 ドイツであったものが 30 年になるとアメリカと中国がほぼ同水準 次いでインド となる見込み 我が国のアジア戦略については インフラ輸出 自由貿易圏構築 海外人材の受け入れといった大枠の議論にとどまっている面がある 各企業が国境を越えアジアと一体で経済圏を形成できるよう 官民一体で取り組むことが 経済全体を活性化させる鍵となろう 経済成長と人口ボーナス オーナス期 世界では 1965~ 年のや 年代半ばの中国などが 著しい経済成長を遂げた国として注目 された これらの国が高成長を実現できた背景の一つには 生産年齢人口 ( 労働力の中核をなす年齢

の人口のことで 本稿では 15~64 歳人口を指す ) の総人口に占める割合 ( 生産年齢人口比率 ) が増加する 人口ボーナス期 が成長を後押ししたことがある 具体的には 人口ボーナス期は人口ボーナス指数 ( 国の生産年齢人口 (15~64 歳 ) を従属人口 (14 歳以下と 65 歳以上 ) で割って算出 ) が上昇する時期と定義される 人口ボーナス期 には 生産年齢人口の増加が経済全体の労働供給力を高める 同時に 老年人口の比率も低い状況のもと 社会保障費などを抑制することができ その分インフラなど将来への投資に資金を投じることが可能になる これが生産性向上を通じて 一層経済成長を高める方向に作用する 逆に 生産年齢人口比率が低下 ( 高齢人口比率が上昇 ) する時期を 人口オーナス期 と呼ぶ この間は労働供給力の低下や社会保障費の増加など 人口動態が経済成長にマイナスに作用する の人口ボーナス期は 19 年代初頭に終了 現在は人口オーナス期に突入している 国内では出生率の低位推移が長期化 少子高齢化の進行とともに 総人口に対する労働力人口の割合の減少が見込まれている 国内の経済成長にとって 人口動態がより重荷となっていくことが予想される中 海外の経済成長を経済に取り込んでいくことの重要性が一層高まっている 中でも 東南アジアやインドは 高い経済成長を遂げ注目されてきた これらの高成長国は人口規模が大きく 経済成長率も高いことから 将来において世界経済におけるプレゼンスを一層高めるものと予測される 以下では 世界における人口動態と経済発展の関係について概観した後 今後の世界の成長率に対する人口動態の変化のインパクトを検討し 年までの長期展望を行う 各国における人口ボーナス オーナス期の確認世界における人口ボーナス期から人口オーナス期へと転換する時期をみると (1) 第一グループ (~ 年代 ): 日 欧 米 (2) 第二グループ ( 年代 ): オセアニア アジアNIEs 中国等 (3) 第三グループ ( 年代 ):ASEAN 中南米 (4) 第四グループ ( 年代 ~): インド フィリピン 南アフリカ等というように 4つのグループに分けることができる ( 資料 1) 一方 人口ボーナス指数と生産年齢人口ピークの時期を見ると 第一グループの中でも既に生産年齢人口がピークアウトしている ドイツ イタリアと 生産年齢人口が増え続ける米国 英国 フランスに分けることができる また 第二グループの中では生産年齢人口のピークアウトが予想される韓国 タイ 中国 シンガポール カナダと 生産年齢人口が増え続けるオーストラリア ベトナムに分けることができる ( 資料 2)

資料 1 人口ボーナス指数 : 年以降 段階的に低下に転換 2.0 1.6 1.2 0.8 人口ボーナス指数 第一グループ 人口ボーナス 指数 ドイツ イタリア 2.0 フランス 1.6 英国 1.2 米国 0.8 第二グループ 韓国ヘ トナムタイ中国シンカ ホ ールカナダオーストラリア 2.0 1.6 1.2 0.8 人口ボーナス指数 第三グループ フ ラシ ル マレーシア イント ネシア 2.0 1.6 1.2 0.8 人口ボーナス指数 第四グループ 南アフリカアルセ ンチンインドフィリヒ ンメキシコ ( 出所 )United Nations World Population Prospects: The Revision より第一生命経済研究所作成 資料 2 生産年齢人口 : 同じグループでも二極化 = 第一グループ 140 ドイツイタリア 130 フランス 英国 米国 = 140 130 第二グループ韓国ベトナムタイ豪州中国カナダシンガポール = ブラジル インドネシア 第三グループ マレーシア = 130 南アフリカアルゼンチンインドフィリピンメキシコ 第四グループ ( 出所 )United Nations World Population Prospects: The Revision より第一生命経済研究所作成

人口動態に基づいた世界の長期経済見通し (1) 経済成長率と人口動態の関係続いて 国連データに基づく世界各国の人口動態と経済成長率の関係を計測する 経済成長率についてはIMFデータを用い アジア 欧米 中南米 オセアニアなど 37 か国と世界の ~ 年の平均成長率を用いた 推計は 実質経済成長率を被説明変数として 生産年齢 (15~64 歳 ) 人口伸び率 と 人口ボーナス指数 (15~64 歳人口 /(0~14 歳人口 +65 歳以上人口 )) の2 種類の人口指標を説明変数としてパネルデータ分析を行った 推計結果を資料 3に示した 資料 3 人口動態の変化が経済成長率に及ぼす影響 被説明変数 定数項 生産年齢人口人口ボーナス変化率 (%) 指数 ( 倍 ) 係数 -0.506 0.140 48 (t 値 ) (-0.23) (2.) (1.32) * 固定効果モデルにて推計 自由度調整済み決定係数 サンプル数 0.861 111 ( 出所 ) 第一生命経済研究所 今後の世界では少子高齢化の問題が顕在化するとみられ 主要新興国の経済成長も遠からず減速すると予想される 世界経済の長期的な動向を見通すに当たり 人口動態が各国の経済成長にどの程度の影響を与えるのかという点を分析しておくことは極めて重要である そこで以下では 少子高齢化や人口動態がどの程度各国の経済成長を押し下げるのか 定量的な把握を試みる (2) 推計を踏まえた予測こうした前提の下 国連の人口推計をもとに 年までの経済成長率を推計 推計誤差の調整などを行い 世界各国の成長率の予測を行った 世界各国の成長率は 人口ボーナス指数のピークアウトや生産年齢人口の伸びが鈍化することなどにより これまでの伸びに比べて総じて鈍化すると見込まれる ( 資料 4) 予測結果においては アジア主要国 地域では成長率の鈍化はみられるものの その他主要国に比べて高い成長率が続く見通しとなる 個別に見ていくと は労働力人口の減少幅が縮小すると見込まれることから 2016- 年の平均成長率は成長率が1% 台へ高まる形になるが その後は減少幅拡大に伴って成長率は鈍化へ向かう見込みだ 年代以降 生産年齢人口が減少に転じていく中国や韓国においては 経済成長率の大幅な鈍化が見込まれよう ベトナム マレーシア インドネシアは 労働力人口の増加は継続するが その伸び率の低下により成長率への寄与が低下するため 20 年代以降の成長率はやや低下する見通しである これに対し 労働力人口の増加が継続し 労働投入の伸び率が 20 年代も引き続きプラスと見込まれるインド フィリピンについては 高成長が維持される見通しとなっている その他の地域では ヨーロッパにおいて 10 年代 20 年代を通じ成長率が鈍化する見通しである 特に 10 年代以降 労働力人口の減少が深刻化するフランス ドイツでは成長率が0% 台に低下し イタリアでは 20 年代に成長率がマイナスに転じる見通しである 一方 米国 オセアニアでは移民の流入により労働力人口が下支えされる影響が大きく 成長率も比較的高位に維持される見通しである

中国 韓国 タイ シンガポール マレーシア インドネシア インド フィリピン ベトナム 米国 カナダ 豪州 ドイツ フランス 英国 イタリア ブラジル メキシコ 南アフリカ アルゼンチン 資料 4 主要国の経済成長率見通し (%) 10 8 6 4 2 0-2 -4 (%) 10 8 6 4 2 0-2 -4 2011-2016- 2021-2026- 2011-2016- 2021-2026- 世界 中国 韓国 タイ シンカ ホ ール マレーシア イント ネシア インド フィリピン ベトナム 1981-1985 4.3 10.7 9.4 5.4 6.9 5.2 5.1 5.2-1.1 7.0 1986-19 3.9 5.0 8.0 10.5 10.4 8.7 6.9 7.8 6.0 4.7 4.8 1991-1995 2.7 12.3 8.4 8.5 8.7 9.5 7.8 5.1 8.2 1996-3.8 0.9 8.6 5.7 0.9 5.7 5.0 6.0 3.6 7.0 2001-4.0 1.2 9.8 4.7 5.5 4.9 4.7 4.7 6.8 4.6 7.3 2006-3.9 0.4 11.3 4.1 3.8 6.9 4.5 6.1 8.3 5.0 6.3 2011-3.5 0.6 7.8 2.9 4.0 5.3 5.5 6.7 5.9 5.9 2016-3.4 1.2 6.0 3.3 3.4 4.9 5.4 6.6 5.7 5.3 2021-3.3 0.8 5.4 1.6 4.3 5.1 6.5 5.6 5.1 2026-3.1 0.6 4.5 2.3 1.6 4.2 5.1 6.4 5.6 4.9 米国 カナダ 豪州 ドイツ フランス 英国 イタリア ブラジル メキシコ 南アフリカ アルゼンチン 1981-1985 3.4 2.7 3.1 1.2 1.6 1.7 1.2 2.0-2.0 1986-19 3.4 3.5 3.5 3.4 3.5 3.1 2.1 1.7-0.1 1991-1995 1.7 2.7 2.0 1.3 1.7 1.2 0.9 6.0 1996-4.3 4.0 4.1 1.9 2.9 3.2 2.0 5.1 2.7 2001-2.5 3.3 0.5 1.7 0.9 2.9 1.7 3.8 2006-0.8 1.2 1.3 0.8 0.4-0.3 4.5 2.0 3.1 5.8 2011-2.0 2.7 1.6 0.8 2.1-0.7 2.1 2.7 2016-2.0 1.5 0.9 1.5 0.7 1.9 2.1 2.7 2021-1.9 1.6 0.8 1.5 0.5 1.5 2.5 2.7 2026-1.7 2.3 0.5 0.6 1.2-0.1 1.1 2.3 2.1 2.7 ( 出所 )United Nations IMF などを基に第一生命経済研究所が作成 また 推計結果を基に市場レートベースでドル換算したGDP 規模の変化をみると 高い成長率を背景にアジアのGDPシェア増加が際立っている アジア全体のGDPが世界全体に占めるシェアは 年時点で約 29% だったものが 年には約 34% へ拡大する 中でもインドは 15 年に 2.9% だったものが 30 年には 4.5% まで拡大する見通しである 他方で を始めとする先進国のGDP 規模は緩やかに拡大するが 全体に占めるシェアは軒並み減少が予想される 1 世界全体に占めるシェアは 15 年時点で大きい順にアメリカ 中国 ドイツであったものが 30 年になるとアメリカと中国がほぼ同水準 次いでインド となる見込みである ( 資料 6) 世界経済全体の -25 年 26-30 年の平均成長率は3% 台が維持される見込みだ 1 年から 年の G7 国の GDP シェアの変化は以下の通り :5.6% 4.0% アメリカ :24.5% 20.1% カナダ :2.1% 1.7% ドイツ :4.6% 3.3% フランス :3.3% 2.3% イギリス :3.9% % イタリア :2.5% 1.6%

資料 5 世界 GDP( ドルベース ) の見通し1 (10 億ドル ),000,000,000,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 その他オーストラリア+ 南ア独仏英伊メキシコ+フ ラシ ル+カナタ アメリカ ASEAN5+シンカ ホ ール+ 韓国イント 中国 ( 出所 )United Nations IMF などを基に第一生命経済研究所が作成 資料 6 世界 GDP( ドルベース ) の見通し 2 世界 GDP シェア ( 年 ) 世界 GDP シェア ( 年 ) 4.0% オーストラリア + 南ア 2.1% メキシコ + フ ラシ ル + カナタ 6.1% その他 24.4% 独仏英伊 14.3% 5.6% 中国 15.0% アメリカ 24.5% イント 2.9% ASEAN5+ シンカ ホ ール + 韓国 5.1% オーストラリア + 南ア % メキシコ + フ ラシ ル + カナタ 4.9% その他 29.2% 独仏英伊 10.1% アメリカ 20.1% 中国 20.1% イント 4.5% ASEAN5+ シンカ ホ ール + 韓国 5.3% ( 出所 )United Nations IMF などを基に第一生命経済研究所が作成 予測における留意点ただし 以上の結果は人口動態のみを考慮した予測である ソローの成長会計モデルに基づけば 長期の経済成長率は 労働投入量 資本投入量 それらの生産性に沿って決まる 人口動態に基づく今回の予測は 主に労働投入量の変化を基にしたものであるといえる すなわち インドや東南アジア等 足元で高い経済成長を実現している国においては 資本ストックや全要素生産性の伸びが高い傾向にあり そのトレンドが将来も続くという前提に立っている これら諸国においては 先進国同様に将来の労働力人口の伸びの鈍化 減少が予想されているものの 労働投入以外の要因による高い成長トレンドに支えられて GDP 成長率が先進国に比べて高くなっ

ているケースが多い したがって 将来 投資や全要素生産性の伸びが今回の推計の前提を下回った場合 実際のGDP 成長率は 今回の推計結果を下回る可能性がある 逆に 資本ストックや全要素生産性の伸びが低い傾向にあるや欧州等 足元で低い成長率にとどまっている国においては そのトレンドが将来も続くという前提に立っている これら諸国においても 将来の労働力人口の伸びの鈍化 減少が予想されているものの 労働投入以外の要因による低い成長トレンドの影響を受けて GDP 成長率が低く計測されているケースが多い したがって 将来 投資や全要素生産性の伸びが今回の推計の前提を上回った場合 実際のGDP 成長率は 今回の推計結果を上回る可能性があることが指摘できる アジア経済の成長取り込みが鍵世界の主要国 地域の経済を長期展望すると アジア 北米 中南米 オセアニア アフリカ各国では今後も生産年齢人口増加が成長率を押し上げていくと予想される 特にインド 東南アジアでは 高い経済成長が続くことが見込まれ 今後インドや東南アジアの存在感はますます高まっていくものとみられる 一方で 我が国を含む東アジアやヨーロッパについては これらのような高い成長率は期待できず 労働力人口減少の影響も拡大するとみられることから 一国の経済成長を持続させていくためには 長期的な視点に立った成長戦略の策定及びその早期実行が求められる 労働力人口の伸びが鈍化 減少していく中では 他の条件が一定であれば経済全体としての成長率も鈍化せざるを得ない しかし 具体的にどの程度の成長を期待することができるかは 労働力率の動向 国内の貯蓄率や海外からの投資の利用可能性 全要素生産性の動向等多くの要因に依存し 高齢化 人口減少が経済成長に及ぼす影響は決して確定的なものではない 具体的にどのような戦略を採れば成長率の低下を防ぐことができるのかは 国によって異なるが 我が国では 近年 人 モノ 金の流れにおいて急速に一体化が進むアジア経済の活力をいかに取り込んでいくかが重要であろう 我が国のアジア戦略については インフラ輸出 自由貿易圏構築 海外人材の受け入れといった大枠の議論にとどまっている面がある 各企業が国境を越えアジアと一体で経済圏を形成できるよう 官民一体で取り組むことが 経済全体を活性化させる鍵となろう