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奈良県土砂災害対策基本方針 奈良県 平成 22 年 6 月

目 次 1. 策定の趣旨...2 2. 現状と課題...3 (1) 他県に学ぶ土砂災害の課題...3 (2) 本県の情報伝達体制の整備などのソフト施策の現状と課題...3 (3) 本県の土砂災害対策のハード施策の現状と課題...5 3. 対策の基本的な考え方...6 4. 具体的な取り組み...6 (1) 県 市町村 地域住民が連携した防災体制の強化...6 (2) 選択と集中 による計画的 重点的な土砂災害対策のハード施策の実施...8 (3) 職員のスキルアップと技術の伝承...8 1

1. 策定の趣旨 奈良県は県土の約 8 割が山地である 県土の北部は大和平野に代表される平坦部と周辺の青垣と呼ばれる生駒 葛城山地などに囲まれた地形であり 併せて北東部の大和高原 宇陀山地などの丘陵地帯で構成される 南部は近畿でも有数の山岳地帯を呈しており 渓流は V 字をなしている こうした山地にも集落が形成されているため 県内には土砂災害の発生する恐れのある箇所が約 8,200 箇所もあり これらの箇所における県民生活の安全 安心の確保が求められている 全国では毎年約 1,000 件の土砂災害が発生し尊い人命が失われており 本県においても着実な土砂災害対策が必要であるという認識の下 これまで砂防えん堤の設置や斜面対策 ( 以下 土砂災害対策のハード施策 という ) 危険な箇所の区域指定や情報伝達体制の整備を進めてきたところである 平成 21 年 7 月に山口県で発生した土砂災害では 情報伝達の認識不足等の課題が挙げられているが 本県においても同様の状況にあるため これらの課題を踏まえ奈良県における防災体制を再確認し より適切な土砂災害対策に取り組む必要がある このため 本県における土砂災害対策については地域住民の安全な避難を念頭におき 危険な箇所の区域指定や情報伝達体制の整備を最優先で取り組むとともに 地域の防災体制の充実を支援する また 土砂災害に対してある一定の安全性を確保するには土砂災害対策のハード施策が必要であることから 情報伝達などのソフト施策との連携を重視して優先度を明確にし 土砂災害対策のハード施策に 選択と集中 で計画的に取り組むこととする これらの土砂災害対策を総合的に進める方針を 奈良県土砂災害対策基本方針 としてとりまとめ 県民の安全 安心な生活の確保を図るものである なお 本方針については 今後の災害発生状況や財政状況 社会情勢により 適宜見直しを行うものである 2

2. 現状と課題 (1) 他県に学ぶ土砂災害の課題 平成 21 年 7 月に中国 九州北部豪雨により 500 件を超える土砂災害が発生し 22 名の方が犠牲になった 特に 山口県においては土石流により特別養護老人ホームの入居者が犠牲になり 情報伝達の不備など以下のような課題が報じられているため 本県の防災体制についてもこれら課題を踏まえた現状の確認と対応が必要である 課題 1: 市町村から住民や災害時要援護者関連施設 * 1 の管理者への危険な箇所に関する事前の周知が不足していた 課題 2: 土砂災害警戒情報が発表されていたが住民や災害時要援護者関連施設へ適切に伝達されていなかった 特に 災害時要援護者関連施設への情報伝達に関する市町村の認識が不足していた 課題 3: 市町村の定める避難勧告等の発令基準に具体性が不足していた (2) 本県の情報伝達体制の整備などのソフト施策の現状と課題 1 区域指定や危険箇所の周知県内には 土砂災害が発生する恐れのある箇所が約 8,200 箇所あるが 全ての箇所で土砂災害対策のハード施策を行うには膨大な時間と費用を要するため 本県では 土砂災害法に基づく土砂災害警戒区域 * 2 ( 以下 イエロー区域 という ) を指定する取り組みを進めてきた 当該区域の指定は約 4,300 箇所となっており 全体の約 5 割弱の進捗である ( 平成 22 年 3 月現在 ) 図 -1 イエロー区域とレッド区域の指定イメージ ( 左 : 土石流 右 : 急傾斜地の崩壊 ) * 1 高齢者 障害者 乳幼児等の防災に対して特に配慮を要する方が利用する施設 * 2 土砂災害防止法に基づき 土砂災害が発生した場合に住民等の生命又は身体に危害が生ずる恐れがあると認められる土地の区域 3

警戒区域では 特別警戒区域ではさらに 警戒避難体制の整備 特定開発行為に 対する許可制 建築物の構造規制 建築物の移転勧告 図 -2 イエロー区域とレッド区域にかかる規制などのイメージ さらに イエロー区域の内 特に著しい被害が発生する恐れのある箇所を土砂災害特別警戒区域 * 3 ( 以下 レッド区域 という ) として指定し 危険な箇所への新たな立地抑制等を図る必要があるが 本県ではレッド区域の指定は 26 箇所に留まっている また イエロー区域の指定に伴い 地域の住民に土砂災害に対する危険性を周知するために 土砂災害が発生する恐れのある箇所を地図上に明示し 避難所や情報伝達の流れを明記したもの ( 以下 土砂災害ハザードマップ という ) などを作成し配布することが必要であるが 土砂災害ハザードマップの配布が行われているのは 土砂災害の恐れのある箇所を有する 33 市町村のうち 2 村だけとなっている 危険な箇所を明示することは 地域住民が土砂災害から安全に避難するために必要な情報であるため 早期に区域指定するとともに適切に周知する必要がある 2 防災に関する情報の伝達 提供土砂災害に対しては 危険な状況であることを広く知らせることにより 市町村の適時適切な避難勧告の発令や地域住民の自主的な避難を促すことが重要である そのため本県では 平成 20 年から土砂災害が発生する危険性が高まった際に土砂災害警戒情報 * 4 を奈良地方気象台と共同で発表する取り組みを始めている 併せて ホームページで1km 四方毎の降雨状況などを提供しているが 情報の量や質 表現方法などに改善が必要な点もある こうした防災に関する情報は市町村の防災担当部局のみならず 情報を必要としている自主防災組織の長や災害時要援護者関連施設の管理者などにもタイムリーに伝達されることが重要であるが 現状では行政のホームページやケーブルテレビの行政チャンネルなどを閲覧しないと情報が入手できない また これまでの情報伝達は県から市町村 市町村から地域住民という経路を * 3 土砂災害防止法に基づき 土砂災害警戒区域のうち 土砂災害が発生した場合に建築物に損壊が生じ住民等の生命又は身体に著しい危害が生ずる恐れがあると認められる土地の区域 * 4 大雨警報が発表中にさらに土砂災害が発生する恐れが高まった際に都道府県と地方気象台との共同で発表される情報 4

通じて行われていたため 情報伝達に時間を要することや伝達が途切れるリスクがあった これらの状況を踏まえると 緊急時の情報を必要な方へ迅速かつ確実に伝達する手法が必要であり 併せて 県民の自主避難に資する防災に関する各種情報の提供に努めることが必要である 3 防災に関するその他の取り組み防災においては 日常からの防災意識の向上や情報伝達の迅速性 確実性を高める取り組みを継続的に実施することが重要である そのため 本県では平成 18 年より土砂災害を想定した地域単位の防災訓練を市町村と連携し実施しており 併せて土砂災害に関する講習会なども開催しているところである しかし 対象となる 33 市町村のうち当該防災訓練を実施した地域はまだ少なく 各市町村には多数の自治会があることから 計画的かつ効果的に地域の防災体制を充実させるための支援が必要である また 市町村長が発令する避難勧告等の具体的な発令基準を定めていない市町村が多いことや市町村の地域防災計画に指定されている避難所が土砂災害の発生する恐れのある箇所に所在するケースもあることから 県から適切な情報を提供し地域防災計画の充実を促す必要がある さらに イエロー区域の指定後には 市町村は地域防災計画の中で地域毎の避難計画を策定することが義務づけられるが 対象となる地域数が膨大であることや土砂災害に精通する担当者の不足などからこれまでに策定された地域毎の避難計画はほとんどなく 策定を促すために県から適切な情報提供や技術的支援を行うことが求められている また 災害時要援護者関連施設の管理者が定める防災に関する計画は 火災や地震を想定しているものが多いため 土砂災害の発生する恐れのある箇所に所在する施設では土砂災害を想定した計画となるよう内容の充実を促す必要がある (3) 本県の土砂災害対策のハード施策の現状と課題 本県におけるこれまでの土砂災害対策のハード施策は 崩落やその兆候を有する箇所 避難所や避難路を有する箇所など緊急性や守るべき対象の重要性を考慮して取り組んで来たところであるが その整備状況は 土砂災害の発生する恐れのある箇所については対象となる約 2,500 箇所のうち約 2 割 守るべき重要な対象である避難所や災害時要援護者関連施設がある箇所についても約 3 割に留まっている 土砂災害対策のハード施策には膨大な時間と費用を要することから 今後は情報伝達などのソフト施策の取り組みを踏まえて優先度を明確にし 選択と集中 で計画的に取り組む必要がある 5

土砂災害の発生する恐れのある箇所 8,186 箇所 人家 5 戸以上ある箇所 2,531 箇所 ( うち 避難所のある箇所 440 箇所 ) [ うち 災害時要援護者関連施設のある箇所 179 箇所 ] 対策済み箇所 548 箇所 (135 箇所 ) [53 箇所 ] 図 -2 土砂災害の発生するおそれのある箇所のハード施策の実施状況 対策済み箇所の ( ) 及び [ ] 内の数値は それぞれ避難所がある箇所 災害時要援護者関連施設がある箇所の対策済み箇所数を示す ( 平成 22 年 3 月末時点 ) 3. 対策の基本的な考え方 危険な箇所の区域指定や住民の迅速な避難を促す情報伝達などのソフト施策の充実を最優先で取り組むとともに より積極的にレッド区域の指定を図る また 地域の防災体制の充実を支援する取り組みを進める 土砂災害対策のハード施策については これらソフト施策との連携を重視した優先度を明確にするとともに 重点的に守るべき対象から対策を図る 山口県で発生した土砂災害における課題を踏まえ 本県の現状を鑑みると まず 危険な箇所の周知や地域住民の適時適切な避難を促す情報伝達の充実を最優先で取り組む また イエロー区域の指定に併せ 危険な箇所への新たな立地抑制を図るためレッド区域の指定推進に取り組む さらに 市町村や地域の防災体制の充実を促すため 市町村や地域との連携を更に強化し 技術的な支援などにも取り組む 土砂災害対策のハード施策については 崩落やその兆候が見られる箇所の対策を最優先で取り組む また 効果的なハード施策を計画的に進めるため 適切な避難を促す情報伝達などのソフト施策との連携を重視した優先度を明確にし 重点的に守るべき対象から対策を図る 4. 具体的な取り組み (1) 県 市町村 地域住民が連携した防災体制の強化 1 イエロー区域やレッド区域の調査 指定を推進イエロー区域の指定と併せレッド区域の指定にも取り組む また 土砂災害に対する危険な区域について住民への速やかな周知を支援する 6

ため 土砂災害ハザードマップの原案を県が作成することで 市町村が早期に成案し印刷 配布することを促す さらに イエロー区域やレッド区域を明示した看板を現地に設置し 見える化 を図る なお イエロー区域の調査と土砂災害ハザードマップ原案の作成については 平成 22 年度末を目途に実施する 2 市町村 災害時要援護者関連施設との情報伝達体制を強化土砂災害防止法が定める緊急時における市町村からイエロー区域内の災害時要援護者関連施設の管理者への情報伝達体制の充実を促すため 各施設に市町村とともに直接訪問し 土砂災害ハザードマップを配布 説明することで危険な区域についての周知を図る 併せて 県 市町村 災害時要援護者関連施設の管理者の三者で防災情報の伝達手段等を相互に確認し 県が伝達リストとしてとりまとめ情報共有を図る また 毎年出水期前に当該三者で情報伝達訓練を実施し 伝達リストの実効性を確認し防災体制の強化を図る さらに 情報伝達手段の充実を図るために 緊急時に気象台等から発表される防災情報 ( 例えば 大雨警報 土砂災害警戒情報など ) を県民や災害時要援護者関連施設の管理者 自主防災組織の長などに県から直接伝達する手法を構築する また 防災情報の提供については 県民の自主避難の判断を促すために過去の災害履歴の情報をホームページに掲載するなど内容の充実に努める 3 市町村が定める地域防災計画の充実を支援県から過去の災害事例や降雨データ等の情報を提供し 市町村が定める避難勧告等の具体的な発令基準の策定を支援する また 他の市町村の参考とするため 策定された具体的な発令基準を県のホームページで公開し 対象となる全市町村における具体的な発令基準の早期策定を促す さらに より安全な避難所の設定がなされるよう県からイエロー区域やレッド区域 過去の災害履歴等の情報を市町村に提供する 4 地域毎の避難計画の策定を支援イエロー区域の指定後に 市町村が地域毎の避難計画の策定にスムーズに移行できるよう市町村が選定したモデル地域における避難計画の策定を支援する また 避難計画が策定された地域では県 市町村および自主防災組織等が共同で防災訓練を実施し 市町村が避難計画の実効性を確認できるよう支援する 5 緊急時における住民の適切な避難を支援 避難計画が策定された地域では住民の適切な避難を支援するため 土砂災害ハ ザードマップの看板を現地に設置するなどの市町村の取り組みを支援する 6 災害時要援護者関連施設が定める防災に関する計画の充実を支援 各施設に策定が義務づけられている防災に関する計画について 土砂災害のお 7

それのある箇所に所在する施設については 県が各施設の管理者に防災に関する 各種情報 ( 例えば イエロー区域やレッド区域 過去の災害履歴 降雨データな ど ) の提供や避難に関するアドバイスを行い 当該計画の充実を支援する (2) 選択と集中 による計画的 重点的な土砂災害対策のハード施策の実施 - 従前は 崩落やその兆候が見られる箇所や保全対象の重要性を踏まえて施設整備を進めてきたところである 今後は 引き続き崩落やその兆候が見られる箇所については最優先で対応することとする また 情報伝達などのソフト施策との連携を重視した以下の優先度に基づき 計画的なハード施策を重点的に実施し 総合的な土砂災害対策を図る 選択と集中によるハード施策を優先する箇所 Ⅰ. 崩落やその兆候が見られる箇所を最優先で対策を実施 5 Ⅱ. 適切な避難を促す情報伝達などのソフト施策との連携をより重視し 代替性のない避難所 * 5 や自力で避難することが困難な方が 24 時間入居している災害時要援護者関連施設を守る対策を先行的に実施 Ⅲ.Ⅱ 以外の避難所や災害時要援護者関連施設については 市町村の地域防災計画との連携を図りハード施策に取り組む (3) 職員のスキルアップと技術の伝承 1 被災地への派遣応援による技術力の向上他県において大規模な災害が発生した際に職員を速やかに派遣可能な体制を事前に整え 現地における応援作業を通した経験の積み重ねを図る また 現地での災害対応状況について 可能な範囲で調査を行う さらに 被災県が災害対応について課題等を整理した際には 聞き取り調査を行い災害対応に関する情報の蓄積を図る これらの調査結果や経験については職員間で情報共有を図るとともに 今後の施策へ反映し防災体制の充実を図る 2 技術発表や定期的な講習会の開催職員を対象とした定期的な勉強会や外部講師を招いた講習会を開催し スキルアップを図る また 技術研究発表会においてもこれまでの取り組み成果について発表するなど情報の発信と技術の蓄積 新たな知見の導入に努める * 5 他の安全な建物がなく替えられない避難所 8