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60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 脳内のグリア細胞が分泌する S100B タンパク質が神経活動を調節 - グリア細胞からニューロンへの分泌タンパク質を介したシグナル経路が活躍 - 記憶や学習などわたしたち高等生物に必要不可欠な高次機能は脳によ


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2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

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60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

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報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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報道発表資料 2006 年 4 月 18 日 独立行政法人理化学研究所 躁 ( そう ) うつ病 ( 双極性障害 ) にミトコンドリア機能障害が関連 - 躁うつ病の発症メカニズム解明につながる初めてのモデル動物の可能性 - ポイント 躁うつ病によく似た行動異常を引き起こすモデル動物の開発に成功 ミト

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 1 月 18 日 独立行政法人理化学研究所 植物の形を自由に小さくする新しい酵素を発見 - 植物生長ホルモンの作用を止め ミニ植物を作る - 種無しブドウ と聞いて植物成長ホルモンの ジベレリン を思い浮かべるあなたは知識人といって良いでしょう このジベ

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

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報道解禁日 : 日本時間 2017 年 2 月 14 日午後 7 時 15 日朝刊 PRESS RELEASE 2017 年 2 月 10 日理化学研究所大阪市立大学 炎症から脳神経を保護するグリア細胞 - 中枢神経疾患の予防 治療法の開発に期待 - 要旨理化学研究所 ( 理研 ) ライフサイエンス

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

のとなっています 特に てんかん患者の大部分を占める 特発性てんかん では 現在までに 9 個が報告されているにすぎません わが国でも 早くから全国レベルでの研究グループを組織し 日本人の熱性痙攣 てんかんの原因遺伝子の探求を進めてきましたが 大家系を必要とするこの分野では今まで海外に遅れをとること

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

記 者 発 表(予 定)

図アレルギーぜんそくの初期反応の分子メカニズム

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

平成14年度研究報告

Microsoft Word - 日本語解説.doc

発症する X 連鎖 α サラセミア / 精神遅滞症候群のアミノレブリン酸による治療法の開発 ( 研究開発代表者 : 和田敬仁 ) 及び文部科学省科学研究費助成事業の支援を受けて行わ れました 研究概要図 1. 背景注 ATR-X 症候群 (X 連鎖 α サラセミア知的障がい症候群 ) 1 は X 染

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

報道発表資料 2005 年 8 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人京都大学 ES 細胞からの神経網膜前駆細胞と視細胞の分化誘導に世界で初めて成功 - 網膜疾患治療法開発への応用に大きな期待 - ポイント ES 細胞の細胞塊を浮遊培養し 16% の高効率で神経網膜前駆細胞に分化させる系

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報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

スライド 1

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界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

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を確認しました 本装置を用いて 血栓形成には血液中のどのような成分 ( 白血球 赤血球 血小板など ) が関与しているかを調べ 血液の凝固を引き起こす トリガー が何であるかをレオロジー ( 流れと変形に関わるサイエンス ) 的および生化学的に明らかにすることとしました 2. 研究手法と成果 1)

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

学位論文の要約

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

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新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

さらにのどや気管の粘膜に広く分布しているマスト細胞の表面に付着します IgE 抗体にスギ花粉が結合すると マスト細胞がヒスタミン ロイコトリエンという化学伝達物質を放出します このヒスタミン ロイコトリエンが鼻やのどの粘膜細胞や血管を刺激し 鼻水やくしゃみ 鼻づまりなどの花粉症の症状を引き起こします

報道発表資料 2006 年 6 月 5 日 独立行政法人理化学研究所 独立行政法人科学技術振興機構 カルシウム振動が生み出されるメカニズムを説明する新たな知見 - 細胞内の IP3 の緩やかな蓄積がカルシウム振動に大きく関与 - ポイント 細胞内のイノシトール三リン酸(IP3) を高効率で可視化可能

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

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図 Mincle シグナルのマクロファージでの働き

れており 世界的にも重要課題とされています それらの中で 非常に高い完全長 cdna のカバー率を誇るマウスエンサイクロペディア計画は極めて重要です ゲノム科学総合研究センター (GSC) 遺伝子構造 機能研究グループでは これまでマウス完全長 cdna100 万クローン以上の末端塩基配列データを

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の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

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論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

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論文の内容の要旨

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PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

平成16年6月  日

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

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60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋肉をコントロールする大脳や脊髄にある運動神経細胞が徐々に死に 動けなくなる病気です 発症すると 思考能力や感覚を失わないまま 全身の筋肉が麻痺し 寝たきりになります 2~5 年後には呼吸系の筋肉麻痺のため 人工呼吸器が欠かせない状態となります この病気は 侵された運動神経細胞を修復しない限り 根本的な治療が難しいですが 幹細胞を移植しても軸策の成長が遅いことや 神経ネットワークを正しく形成するかという難問が解決されていません 理研脳科学総合研究センターの山中研究ユニットは 米国カリフォルニア大学サンディエゴ校 京都大学 共立薬科大学と共同で ALS のモデルマウスを使って 病気の進行に二つのグリア細胞 アストロサイト と ミクログリア が深く関与していることを発見しました 二つの細胞の増殖や病的変化を組織学的に調べた結果 これら二つのグリア細胞の病的変性 (ALS で見つかった原因遺伝子 SOD1 の変異の発現 ) が ALS の進行を促進し 取り除くと進行を遅くすることがわかりました 本研究成果は ALS の進行を食い止める ALS 治療法の開発につながると期待されます

報道発表資料 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - ポイント 新しい遺伝型 ALS モデルマウスを用いて ALS 病態の進行メカニズムを解明 グリア細胞であるアストロサイトとミクログリアの異常が ALS の進行に関与 2 種類のグリア細胞を標的とした ALS の進行を遅らせる治療法の開発に期待独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) は 神経変性疾患の一つで 全身の運動麻痺を起こす神経難病である筋萎縮性側索硬化症 (ALS) のモデルマウスを用いて ALSの進行に関与する細胞群を発見しました 理研脳科学総合研究センター ( 甘利俊一センター長 ) 山中研究ユニットの山中宏二ユニットリーダーらと 米国 カリフォルニア大学サンディエゴ校 京都大学 共立薬科大学の共同研究による成果です 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋肉を支配する大脳と脊髄にある運動神経細胞が 徐々に死んでいく原因不明の神経難病です 発症すると 認知や思考の能力が保たれたまま 全身の筋肉の麻痺が進行し 寝たきりとなります 通常は 発症から 2 年ないし 5 年で 呼吸をつかさどる筋肉の麻痺のため 人工呼吸器なしには生存できなくなる重篤な疾患です 研究グループはこれまでに ヒトの遺伝型 ALSで発見されたSOD1 遺伝子 1 の変異を 特定の細胞群で 選択的に除去できる新しいモデルマウスを開発し ALSに関与するすべての細胞群の働きを検討してきました 今回 このモデルマウスを用いて ALSの治療の標的となる細胞群の同定を行いました その結果 脳内で神経細胞とともに存在するグリア細胞の一つであるアストロサイトに発現している変異 SOD1 を取り除くことにより ALSの進行と運動ニューロンの細胞死を顕著に遅らせることができることを発見しました また アストロサイトは 神経系にある別の種類のグリア細胞であるミクログリアに起因する異常な炎症反応を制御していることを突き止め このことがALSの病態進行に重要な役割を果たしていることを解明しました グリア細胞は 神経細胞が緻密な脳のネットワークを作る際 これを補佐する脇役と考えられてきましたが 最近の研究では 脳内で重要な働きをしていることが次々とわかってきています ALSの進行を遅らせる治療の標的として 運動神経ではなく グリア細胞であるアストロサイトとミクログリアが有効であることを世界で初めて示した画期的な知見です 今回の成果を踏まえ グリア幹細胞を移植する方法などによる ALSの治療法の開発に大きく寄与することが期待されます 本研究成果は 英国の科学雑誌 Nature Neuroscience オンライン版(2 月 3 日付け : 日本時間 2 月 4 日 ) に掲載されます * 本研究は 文部科学省科学研究費 上原記念生命科学財団 公益信託 生命の彩 ALS 研究助成基金より研究助成を受けて行われました

1. 背景 ALS は 全身の筋肉を支配する運動神経細胞を選択的 かつ進行的に障害し 呼吸筋を含む全身の筋肉麻痺を引き起こす原因不明の神経変性疾患です 現在のところ 有効な治療法は見つかっていません 現在 日本では約 6,000 人の ALS 患者がいると推定されています 患者の苦痛に加え 介護者にも長期にわたる重度の介護が必要となるため その原因の解明と治療法の開発が強く求められている疾患です ALS において最も特徴的な病変は 運動神経に起こる細胞死ですが その周囲に存在するグリア細胞でも病的変化がみられます これまでグリア細胞の病的変化は 神経変性に伴い 2 次的に起こる変化であるのか ALS 病態に積極的に関与するものであるのかは明らかになっていませんでした ALS の約 1 割は遺伝性です 遺伝性 ALS では 原因遺伝子を手がかりとしてモデル動物を作成するなどといった遺伝子工学的手法を用いて研究を行うことが可能であるため 遺伝性 ALS をターゲットとして病態解明に向けた研究が進められています 最近の研究成果として ヒトの遺伝性 ALS では SOD1 遺伝子の優性変異が最も多く 2 割の患者で見られることがわかっています 変異型ヒト SOD1 遺伝子を導入したマウスは ヒト ALS の病態をよく再現していることから モデル動物として広く研究に利用されています この SOD1 遺伝子は 神経細胞やグリア細胞をはじめとした全身のいたるところの細胞に発現しているにも関わらず 運動神経に選択的に細胞死を引き起こすことが知られています しかしながら これまで ALS の発症や進行に関与する細胞群は よく知られていませんでした 研究グループは 特定の細胞群から選択的に変異型の SOD1 を除去できる新たなモデルマウス LoxSOD1 G37R を作成し ALS に関与するすべての細胞群の関与を明らかにする研究を進めてきました その結果 グリア細胞の 1 種であるミクログリアが ALS 進行に関与する細胞群であることを明らかにしました (Boillee & Yamanaka et al, Science, 2006) しかし その進行メカニズムは未解明であり さらに神経系で最も主要なグリア細胞であるアストロサイトが ALS の病態に寄与しているかどうかは 未解決の問題として残されていました 2. 研究手法と成果研究グループは 特定の細胞群から選択的に変異型の SOD1 を除去することができる新たなモデルマウス LoxSOD1 G37R と 運動神経およびアストロサイトだけに選択的に Cre タンパク質 2 を発現するマウスを交配することにより 変異型 SOD1 を運動神経 あるいはグリア細胞の一つであるアストロサイトから除去したモデルマウスを作成し 疾患の発症時期 / 生存期間 / 罹病期間 ( 疾患の進行 ) 3 を調べました ( 図 1) 次に アストロサイトから変異型 SOD1 を除去したモデルマウスを用いて アストロサイトやミクログリアに的を絞り これらの細胞の増殖や病的変化を組織学的に調べました アストロサイトやミクログリアのグリア細胞では 誘導型一酸化窒素合成酵素 (inos) 4 を発現し 薬物を用いた刺激などによって過剰に一酸化窒素を放出し 神経細胞に障害を来すことが知られています 今回作成したモデルマウスにおいて これらのグリア細胞のいずれかで 疾患の進行期に inos を発現し

ていないかについても検討しました その結果 以下のことが明らかになりました (1) 運動神経で変異型 SOD1 を除去した場合 ( 図 1: 実験 1) 運動神経において変異型 SOD1 を除去すると ALS モデルマウスの発症時期が約 50 日遅延し 生存期間が約 42 日延長しましたが 罹病期間の延長は見られませんでした (2) アストロサイトで変異型 SOD1 を除去した場合 ( 図 1: 実験 2) ALS モデルマウスの発症時期にほとんど変化はありませんでしたが 進行を著明に遅延させることでその生存期間を約 60 日延長しました 罹病期間は約 2.2 倍延長しました ( 未除去群の約 39 日に対し 除去群では約 87 日 ) このことは病気の進行を遅らせることができたことを意味しています ( 図 2) (3) アストロサイトにおいて変異型 SOD1 を除去したモデルマウスアストロサイトにおいて変異型 SOD1 を除去した ALS モデルマウスの脊髄病巣では ミクログリアの増殖や活性化が著しく抑制され ( 図 3) Cre タンパク質を発現しているアストロサイト ( 変異型 SOD1 が除去されて正常化したアストロサイト ) が多い環境では 活性化ミクログリアは少なくなっていました ( 図 4) (4) 一酸化窒素を産生している細胞はミクログリア ALS モデルマウスの脊髄病巣で主に一酸化窒素を産生している細胞は ミクログリアでした 以上のことから 運動神経における変異型 SOD1 による毒性 5 は ALS の発症に強く関与し アストロサイトに発現する変異型 SOD1 による毒性は ALS の進行に積極的に寄与していることが明らかになりました 変異型 SOD1 を有するアストロサイトがミクログリアに病的変化を起こし ミクログリアから一酸化窒素や炎症性のサイトカイン 6 などの神経障害性の物質を放出することにより 運動神経を傷害するため ALS の病態がさらに進行すると考えられます このことは 運動神経死と疾患の進行が これら 2 種類のグリア細胞 ( ミクログリアとアストロサイト ) に由来する病的変化に強く影響され これらを正常化することによる ALS 治療の可能性を実験的に証明したことになります ( 図 5) 3. 今後の期待本研究で得られた知見は ALS の進行を遅らせる標的として 運動神経ではなく グリア細胞が有効であることを示す画期的なものです また このようなグリア細胞の病的変化は ALS の大部分を占める非遺伝性 ALS でもみられます ALS の治療は 当然ながら患者が病気を発症してから行われるため 病気の進行を遅らせることが唯一の治療法であり その点で ALS の疾患進行に深く関与するグリア細胞は 遺伝性のみならず すべての ALS 患者の治療の標的細胞として有望であると考えられます 今後の研究の方向性としては グリア細胞に起こる分子病態を明らかにして 治療の標的となる分子を同定することを目指しています また グリア細胞を健康にする別の方法として 幹細胞移植などが考えられます ALS の治療において 運動

神経そのものを 幹細胞などを用いて移植する方法は 移植した神経が正しいネットワークを形成するかという点と 軸索伸長速度が遅い ( 約 1m の軸索を再生させるには約 2 から 3 年を要する ) という点で困難を抱えています これに対し グリア細胞を標的とした幹細胞治療や 薬剤投与などの方法は 運動神経ではなく その周囲の非神経細胞であるグリア細胞を正常化することから 神経細胞を用いた方法よりも簡便であるため 有効な ALS 治療の開発につながると期待されます ( 問い合わせ先 ) 独立行政法人理化学研究所脳科学総合研究センター山中研究ユニットユニットリーダー山中宏二 ( やまなかこうじ ) Tel : 048-467-9677 / Fax : 048-462-4796 脳科学研究推進部嶋田庸嗣 ( しまだようじ ) Tel : 048-467-9596 / Fax : 048-462-4914 ( 報道担当 ) 独立行政法人理化学研究所広報室報道担当 Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715 Mail : koho@riken.jp < 補足説明 > 1 SOD1 遺伝子 ( スーパーオキシドジスムターゼ遺伝子 ) 酸素に依存する生物の細胞内で発生する有害な活性酸素であるスーパーオキシドを解毒する反応系を触媒する酵素がスーパーオキシドジスムターゼである 遺伝型の ALS では この遺伝子に変異が見られる 2 Cre タンパク質大腸菌に由来する酵素 特定の DNA 配列 (Lox 配列と呼ばれる ) を認識し その間にある DNA を除去する 特定の細胞群における遺伝子の働きを調べる目的で Cre タンパク質を細胞群選択的に発現するマウスが研究によく使われている 3 発症時期 / 生存期間 / 罹病期間 ( 疾患の進行 ) 発症時期 : ALS の症状を示し始めた時期 ( 本研究では体重減少の開始点 ) 生存期間 : モデルマウスの誕生から死亡までの期間罹病期間 : 発症時期から死亡までの期間 (= 生存期間 発症時期 ) 罹病期間が延長すると 病気の進行が遅延したと考えられる 4 誘導型一酸化窒素合成酵素 (inos: inducible NO synthase)

一酸化窒素合成酵素とは L- アルギニンを基質として一酸化窒素 (NO) が合成される過程で触媒として作用する酵素の総称である ほ乳類の一酸化窒素合成酵素は 3 種類あり 神経型 (nnos) 誘導型 (inos) 血管内皮型 (endothelial NOS) が知られている 誘導型 NOS は 平常状態では出現せず サイトカインの存在下でマクロファージやミクログリアなど種々の細胞で誘導され 産生された一酸化窒素により病原体を殺す生体防御機能の一部を担う また 組織障害誘発因子としても注目されている 5 変異型 SOD1 による毒性遺伝型の ALS では SOD1 遺伝子に変異が見られるが この酵素の活性が失われるために運動神経の細胞死が起こるのではなく 変異型の SOD1 が酵素活性とは無関係の毒性を発揮することが神経細胞死の原因と考えられている しかし 現時点でその毒性の詳細は不明である 6 サイトカイン細胞から分泌されるタンパク質で 特定の細胞に情報伝達をするものをいう 特に免疫 炎症に関係したものが多く 極めて微量でその効果を発揮する 細胞の増殖 分化 細胞死 あるいは創傷治癒などに関係するものがある

実験 1: 新しい ALS モデルマウス LoxSOD1 G37R と 運動神経において選択的に Cre タンパク質を発現する Cre マウスを交配する この交配実験で 変異型 SOD1 を運動神経のみで除去することによる ALS 発症と疾患の進行時期への効果を検討する 実験 2: ALS モデルマウス LoxSOD1 G37R と アストロサイトにおいて選択的に Cre タンパク質を発現する Cre マウスを交配する この交配実験で変異型 SOD1 をアストロサイトのみで除去することによる ALS 発症と疾患の進行時期への効果を検討する

図 2 アストロサイトの変異型 SOD1 を除去した ALS モデルマウスの発症時期 生存期間 および罹病期間 ALS モデルマウス (Cre - : 青 ) とアストロサイトから変異型 SOD1 を除去した ALS モデルマウス (Cre + : 赤 ) における発症時期 (a) と罹病期間 (b) および生存曲線 (c) グラフ中に各群の平均生存期間 ( 平均日数 ± 標準偏差 ) を示した Cre + では 発症時期に変化がなく 罹病期間が著明に延長していることから 疾患の進行が遅延したことがわかる 図 3 アストロサイトから変異型 SOD1 を除去した場合のミクログリアの活性化

発症前 発症期 疾患早期の ALS モデルマウス (Cre - ) およびアストロサイトから変異型 SOD1 を除去したモデルマウス (Cre + ) の 腰部脊髄におけるアストロサイト ( 緑 :GFAP 抗体による染色 ) と活性化したミクログリア ( 赤 :Mac2 抗体による染色 ) 発症期から疾患の進行につれて見られるミクログリアの活性化が アストロサイトを正常化することで改善している 図 4 疾患進行期の ALS モデルマウスの脊髄病巣におけるアストロサイトでの Cre タンパク質の発現と活性化ミクログリアの相関 疾患進行期の ALS モデルマウス ( アストロサイト Cre マウスと交配したもの ) の脊髄病巣における Cre タンパク質を発現しているアストロサイト ( 変異型 SOD1 が除去されて正常化したアストロサイト ) の数と 活性化ミクログリアの数は逆相関している ( ピアソンの相関係数 r は 強い逆相関を示している ) 図 5 ALS におけるグリア細胞が寄与する神経細胞死のメカニズム

ALS 発症は運動神経内で起こるさまざまな病的変化の集積によって起こると考えられる (1) ミクログリアは運動神経からの未知の因子 (2) や変異型 SOD1 を発現したアストロサイトに由来する因子 (3) により強く活性化され 細胞障害性サイトカインや一酸化窒素の放出 (4) によりさらに運動神経を傷害して 疾患の進行に深く関与する アストロサイトはまた 運動神経を直接傷害する有害因子を放出しうることが知られている (5) 運動神経死と疾患の進行は これら 2 種類のグリア細胞 ( ミクログリアとアストロサイト ) に由来する病的変化に強く影響され 非細胞自律性の神経細胞死を来すと考えられる (6) 神経変性がグリア細胞から神経栄養因子が失われるために起こるのか あるいは有害なサイトカインなどの分子によるものであるのかは 今後解明すべき課題である