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平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2018 年 10 月 4 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 アルツハイマー病の新規病態と遺伝子治療法の発見 新規の超早期病態分子を標的にした治療法開発にむけて ポイント アルツハイマー病の超早期において SRRM

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

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別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

「ゲノムインプリント消去には能動的脱メチル化が必要である」【石野史敏教授】

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共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

生物時計の安定性の秘密を解明

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

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2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

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報道発表資料 2004 年 9 月 6 日 独立行政法人理化学研究所 記憶形成における神経回路の形態変化の観察に成功 - クラゲの蛍光蛋白で神経細胞のつなぎ目を色づけ - 独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) マサチューセッツ工科大学 (Charles M. Vest 総長 ) は記憶形

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

記 者 発 表(予 定)

平成24年7月x日

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

飢餓適応 細胞内品質管理などのさまざまな役割を担うことが分かってきており その破たん は神経変性疾患 腫瘍など多様な疾患と関連することが報告されています オートファジーの分子機構 制御機構 生理機能 疾患との関連などを研究するうえで オートファジー活性の定量的な測定法の存在は必須となります これまで

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60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

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論文の内容の要旨

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

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抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

解禁日時 :2018 年 8 月 24 日 ( 金 ) 午前 0 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2018 年 8 月 17 日国立大学法人東京医科歯科大学学校法人日本医科大学国立研究開発法人産業技術総合研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 軟骨遺伝子疾患

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2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

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のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

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汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

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の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 20 日 独立行政法人理化学研究所 アルツハイマー病の原因となる アミロイドベータ の産生調節機構を解明 - 新しいアルツハイマー病治療薬の開発に有望戦略 - 高年齢化社会を迎え 認知症に対する対策が社会的な課題となっています 国内では 認知症

細胞外情報を集積 統合し 適切な転写応答へと変換する 細胞内 ロジックボード 分子の発見 1. 発表者 : 畠山昌則 ( 東京大学大学院医学系研究科病因 病理学専攻微生物学分野教授 ) 2. 発表のポイント : 多細胞生物の個体発生および維持に必須の役割を担う多彩な形態形成シグナルを細胞内で集積 統

本件に関する問い合わせ先 ( 研究内容について ) 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所技術安全部生物研究推進課主任研究員塚本智史 TEL: FAX: 千

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RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

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研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

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2014年

記 者 発 表(予 定)

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Microsoft Word 「ERATO河岡先生(東大)」原稿(確定版:解禁あり)-1

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解禁時間 ( テレヒ ラシ オ WEB): 平成 27 年 7 月 14 日 ( 火 ) 午後 6 時 ( 日本時間 ) ( 新聞 ) : 平成 27 年 7 月 15 日 ( 水 ) 付朝刊 プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 平成 27 年 7 月 10 日国立大学法人東京医科歯科大学国立研究開発法人日本医療研究開発機構 飢餓により誘導されるオートファジーに伴う 細胞内 アミロイドの増加を発見 過度な食事制限はアルツハイマー病を加速する可能性を示唆 ポイント 長らく謎であった脳神経細胞での誘導性オートファジーの存在を直接的に証明しました アルツハイマー病における飢餓状態は病態に悪影響を与える可能性を示しました その際に 脳内の重要部位において細胞内ベータアミロイドが増加することを示しました 神経細胞の内部に生じるアミロイド沈着と神経細胞死の関連をはじめて示しました これらの成果はアルツハイマー病の病態解明と新規治療法開発への応用が期待できます 東京医科歯科大学 難治疾患研究所 / 脳統合機能研究センター 神経病理学分野の岡澤均教授の研究グループは 生きた脳の中の神経細胞におけるオートファジーを観察する技術を世界で初めて開発し アルツハイマー病態におけるオートファジーの新たな役割を解明しました この研究は平成 26 年度から始まった文部科学省 革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト ( 平成 27 年度から日本医療研究開発機構へ移管 ) および平成 22 26 年度 文部科学省新学術領域研究 シナプス ニューロサーキットパソロジーの創成 などの支援のもとでおこなわれたもので その研究成果は 国際科学誌 Scientific Reports( サイエンティフィックレポーツ ) に 2015 年 7 月 14 日午前 10 時 ( 英国時間 ) にオンライン版で発表されます 研究の背景と結果の概要 1. アルツハイマー病を初めとする神経変性疾患は 細胞の内外に異常タンパク質が蓄積することが病理学的な特徴です アルツハイマー病では 細胞外にベータアミロイドと呼ばれる異常タンパク質が沈着する老人斑と 細胞内にタウタンパク質が凝集する神経原線維変化の2つが起こります 一方 異常タンパク質を除去する細 1) 胞機構として ユビキチン プロテアソーム系とオートファジー系の2つの分解系が知られ さらに オートファジーには 常に一定レベルで働いている基礎的オートファジー (basal autophagy) とカロリー制限などで活性化する誘導性オートファジー (induced autophagy) があることが知られています これまで 誘導性オートファジーが脳以外の組織においては大きな役割を果たすことは知られていましたが 脳組織での誘導性オートファジーの 1

存在が認められないという報告 (Mizushima et al, Mol Biol Cell 2004; など ) がある一方で カロリー制限等による誘導性オートファジーが神経変性疾患における異常タンパク質の凝集を除き 症状を改善するとの結果が多数報告されており (Ravikumar et al, Nat Genet 2004; など ) 神経細胞における誘導性オートファジーの有無は決着していませんでした また 高等動物における誘導性オートファジーには インスリン受容体から mtor (mammalian target of rapamycin) を介するシグナル経路が重要と考えられているため 糖尿病や高カロリーがリスクファクターと言われるアルツハイマー病の病態理解の上でも この決着は重要でした そこで本研究では 神経細胞における誘導性オートファジーの有無 を明らかにすることを第一の目的としました マクロオートファジー 2) を特徴付けるオートファゴゾーム 3) のマーカー分子である LC3 から作製した融合蛍光タンパク質 (LC3-EGFP) を脳内に発現させて 生きたマウスの脳内部でダイナミックに変化するオートファゴゾームを2 光子顕微鏡で観察する方法を開発し 脳における飢餓誘導性オートファジーが 神経細胞において実際に存在することを証明しました さらに マウス脳の同じ場所を継続的に観察することにより 脳内のオートファゴゾーム形成に概日リズム (circadian rhythm) があることを発見しました 2. 次に アルツハイマー病では オートファジーが病態を抑制するのかそれとも進行させるのか という特異 的な問題点がありました オートファジーは細胞内の異常タンパク質を除去するシステムであることから 病態 を抑制すると思われます 実際 変性疾患の一つであるポリグルタミン病のモデルマウスでは誘導性オートファ 2

ジーが症状を改善するとの報告があります (Ravikumar et al, Nat Genet 2004; など ) 一方で アルツハイマー病においては オートファジー系の膜はベータアミロイド産生の場であり オートファジーを活性化すると細胞外アミロイドが増加すること (Yu et al, J Cell Biol 2005; Nixon et al, J Neuropathol Exp Neurol, 2005) アルツハイマー病モデルマウスにおいてオートファジーに必須の遺伝子 Atg7を欠損させると細胞外ベータアミロイドが減少するという結果 (Nillson et al, Cell Rep 2013) が報告されていました これらの研究結果は オートファジーがアルツハイマー病態を進行させることを示唆しています そこで本研究では アルツハイマー病におけるオートファジーの功罪 を明確にすることを第二の目的としました 結果として アルツハイマー病態では飢餓による誘導性オートファジーが亢進しているものの エンドサイトーシス亢進によって細胞外から取り込んだベータアミロイドを十分に分解処理出来ず 細胞内にベータアミロイドを溜め込むこと さらにはこの細胞内アミロイドの増加はアルツハイマー病で侵されやすい脳内の重要部位で起こることが明らかになりました また 細胞内にベータアミロイドが増加した神経細胞を詳細に観察すると 一部は細胞が膨張して破裂し ベータアミロイドを周辺にまき散らす像も得られました これらの結果は アルツハイマー病態に飢餓状態が重なることによって引き起こされる細胞内のベータアミロイドの増加が細胞死につながり 病態の悪化を加速する可能性を示しています 3

研究成果の意義 本研究により 脳神経細胞においても飢餓誘導性オートファジーが存在し さらにマクロオートファジー 2) の活動性には日内変動があることを示しました さらに本研究成果は アルツハイマー病態におけるオートファジーの活性化が細胞外から細胞内へのベータアミロイドの取り込み促進に働くものの 細胞内部でのベータアミロイドの分解処理には不十分であり むしろ細胞内にベータアミロイドが蓄積して細胞膨張を伴う細胞死につながる可能性を強く示唆しています 今日では 過度なカロリー摂取などの生活習慣がアルツハイマー病進行を早める要素であることが広く認められています しかし 脳内で細胞外のベータアミロイド濃度がある程度高まった後では むしろ カロリー制限によってオートファジーを過度に活性化することがアルツハイマー病態を悪化させるリスクとなることが 本研究成果から想定されます これは 食習慣を通じた認知症予防 治療を今後進める際に重要なポイントと考えられます また アルツハイマー病のゲノムワイド関連遺伝子解析 (GWAS) においてオートファジー関連遺伝子が優位な相関を示していることから (Lipinski et al, Proc Natl Acad Sci USA, 2010) アルツハイマー病においてオートファジーが機能不全に陥っている可能性も疑われます この点も カロリー制限による過度なオートファジー促進がアルツハイマー病の増悪因子となりうることを示唆しています また アルツハイマー病では細胞外のベータアミロイド沈着 ( 老人斑 ) が有名ですが 細胞内ベータアミロイド沈着についても 2000 年に岡澤教授らが細胞内アミロイド沈着を発見 (Shoji et al, Mol Brain Res 85, 221-233, 2000, 東京大学 神経内科 金澤一郎教授のもとで行われた成果 ) して以後 関連する多くの報告が蓄積し 現在では共通認識となりつつあります また 近年では細胞内ベータアミロイドが主な所見と考えられるアミロイド前駆体タンパク質の遺伝子変異を持つ家系も日本発で報告されるなど (Tomiyama et al, Ann Neurol 2008; Umeda et al, J Neurosci Res 2011) 病態上の役割も議論されていました 細胞内のベータアミロイドの蓄積に着目した本研究成果を元に 以前報告された細胞内シグナル異常との関係 さらには細胞死の分子機構が明らかにされ アルツハイマー病の病態理解と治療法開発につながることが期待出来ます さらに本研究成果は 細胞内ベータアミロイド蓄積が細胞死を経て細胞外での蓄積のシードとなる可能性も 示唆しており 細胞内外のベータアミロイド沈着と細胞内のタウタンパク質沈着を結ぶアルツハイマー病の総 合的な理解への布石となる知見とも考えられます 用語の解説 1) オートファジー : 細胞が持つ自己貪食 ( 自食 ) の機能 マクロオートファジーでは小胞体由来とも考えられる細胞内の2 重膜構造が ミトコンドリアなどの細胞内小器官 細胞内異常タンパク 異物などを取り込んで 消化酵素を含むリソソームと結合して 消化する オートファジーの様式には オートファゴゾームを介するマクロオートファジー オートファゴゾームを介さないミクロオートファジー シャペロンタンパク質などを介するシャペロン介在性オートファジーの3つがあることが知られている 4

2) マクロオートファジー : 上記の細胞内 2 重膜構造が細胞内小器官などを取り込み オートファゴゾームとなったのちに 細胞外から取り込んだ異物を包んでいる膜構造であるエンドソームと融合し さらには消化酵素を含む膜構造であるリソソームと結合して内容物を分解し 細胞外に放出するとされる一連の機能を呼ぶ 一般にオートファジーという場合はマクロオートファジーを意味することが多い 3) オートファゴゾーム : 上記の細胞内 2 重膜構造のこと 自食の対象となるものを包み込む機能がある 問い合わせ先 < 研究に関すること> 東京医科歯科大学難治疾患研究所 脳統合機能研究センター神経病理学分野岡澤均 ( オカザワヒトシ ) TEL:03-5803-5847 FAX:03-5803-5847 E-mail:okazawa.npat@mri.tmd.ac.jp < 事業に関すること> 日本医療研究開発機構脳と心の研究課 100-0004 東京都千代田区大手町 1-7-1 TEL:03-6870-2222 FAX:03-6870-2244 E-mail:brain-pm@amed.go.jp < 報道に関すること> 東京医科歯科大学広報部広報課 113-8510 東京都文京区湯島 1-5-45 TEL:03-5803-5833 FAX:03-5803-0272 E-mail:kouhou.adm@tmd.ac.jp 5