プレスリリース Press Release Date : 表題 : がん免疫治療の標的分子 PD-L1 が DNA 修復を介して制御される新たな分子機構を発見 ~ 先端免疫治療において DNA 修復の関わりを示す世界初の研究成果 ~ プレスリリース要約 : 今や国民病とも言える

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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年度 Journal タイトル学生氏名全著者 2018 Hum Immunol Aug;79(8): Analysis of programmed deathligand 1 expression in primary normal human dermal fibrob

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この研究成果は 日本時間の 2018 年 5 月 15 日午後 4 時 ( 英国時間 5 月 15 月午前 8 時 ) に英国オンライン科学雑誌 elife に掲載される予定です 本成果につきまして 下記のとおり記者説明会を開催し ご説明いたします ご多忙とは存じますが 是非ご参加いただきたく ご案

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

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受精に関わる精子融合因子 IZUMO1 と卵子受容体 JUNO の認識機構を解明 1. 発表者 : 大戸梅治 ( 東京大学大学院薬学系研究科准教授 ) 石田英子 ( 東京大学大学院薬学系研究科特任研究員 ) 清水敏之 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 井上直和 ( 福島県立医科大学医学部附属生

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

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共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

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第6号-2/8)最前線(大矢)

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

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解禁日時 :2018 年 8 月 24 日 ( 金 ) 午前 0 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2018 年 8 月 17 日国立大学法人東京医科歯科大学学校法人日本医科大学国立研究開発法人産業技術総合研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 軟骨遺伝子疾患

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

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論文の内容の要旨

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

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別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

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平成24年7月x日

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

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セッション 6 / ホールセッション されてきました しかしながら これらの薬物療法の治療費が比較的高くなっていることから この薬物療法の臨床的有用性の評価 ( 臨床的に有用と評価されています ) とともに医療経済学的評価を受けることが必要ではないかと思いまして この医療経済学的評価を行うことを本研

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一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

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プレスリリース Press Release Date : 2017.12.20 表題 : がん免疫治療の標的分子 PD-L1 が DNA 修復を介して制御される新たな分子機構を発見 ~ 先端免疫治療において DNA 修復の関わりを示す世界初の研究成果 ~ プレスリリース要約 : 今や国民病とも言える がん 治療効果が高いことで注目されている 抗 PD-1 抗体 ですが 一部の患者さんでは効果が十分に得られないため 放射線治療を併用することでその効果を高めよ うと研究が進められています 放射線治療を併用するとなぜ効果が高まるのか その詳しい仕組み は解明されていませんでしたが このたび 群馬大学大学院医学系研究科の柴田淳史研究講師 ( 医 学系研究科長発令 ) 群馬大学重粒子線医学推進機構の佐藤浩央助教らの研究チームが 放射線照 射後の DNA 反応の観点から その仕組みの解明につながる研究を行い 今後のがん治療の発展に大 きな一歩となる発見を行いました この成果は 2017 年 11 月 24 日 ( 日本時間 19 時 ) に国際雑誌 Nature Communications にオンライン版で公開されました 趣旨 目的 : がんは世界的にも最大の死因の一つであり 日本国内でも がんに罹る可能性は男性の 2 人に 1 人 女性の 3 人に 1 人と推測され 日本人にとっての国民病と言えます 現在のがん治療において 京都大学の本庶佑教授らの発見に基づき開発された免疫チェックポイント阻害剤 抗 PD-1 抗体 は その高い治療効果により世界的に注目されている治療方法です ( 図 1)

しかし 一部の患者さんでは治療効果が十分に得られないため 放射線治療や化学療法といった従来のがん治療との併用による治療効果の改善が期待されています 私たちの研究室では がん細胞が放射線照射を受けた際に 抗 PD-1 抗体に対する反応性に変化があるかどうかを明らかにするための研究を行っています これまでの研究から 放射線照射を受けたがん細胞では PD-L1(PD-1 によって認識されるがん細胞膜表面上の分子で 抗 PD-1 抗体の効果に影響すると考えられている ) の発現が上昇することが分かっていましたが その詳細なメカニズムは未解明のままでした そこで今回の研究では 放射線照射がどのようにがん細胞の PD-L1 の発現を高めるかの解明を目指しました そして 放射線照射によるがん細胞の PD-L1 発現において DNA 損傷とその修復が重要な役割を果たしている ことを世界で初めて明らかにしました ( 図 2) 共同研究グループ : 群馬大学大学院医学系研究科附属教育研究支援センター研究講師 ( 医学系研究科長発令 ) 柴田淳史群馬大学重粒子線医学推進機構重粒子線医学研究センター助教佐藤浩央群馬大学大学院医学系研究科腫瘍放射線学講座教授中野隆史東京大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター教授宮川清東京大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター助教安原崇哲福島県立医科大学医学部放射線腫瘍学講座教授鈴木義行福島県立医科大学医学部消化管外科学講座教授河野浩二ハーバード大学准教授 (Associate Professor) Kathryn D. Held

研究の背景 : 近年のがん治療において 抗 PD-1 抗体を用いた免疫治療は 革新的がん治療として大きな注目を集めています しかし単剤では治療効果が十分ではない場合があるため 放射線治療や化学療法剤との併用による治療効果の改善が期待されています マウスを用いた実験では すでに 放射線 (X 線 ) 照射と抗 PD-1 抗体の併用が腫瘍抑制効果を高めることが示されており その理由のひとつとして X 線照射によって引き起こされる がん細胞膜表面上の PD-L1 の発現上昇が関与する ことが考えられています しかしながら その PD-L1 の発現上昇の仕組みについては 十分には解明されていませんでした 研究の成果 : 私たちは がん細胞への X 線照射及び DNA 損傷系抗がん剤処理により生じる DNA 損傷シグナル ( 細胞の DNA が切断された際に 細胞自身がこれを修復しようとする一連の反応 ) を伝えるタンパク質である ATM/ATR/Chk1 の活性化が がん細胞の PD-L1 発現上昇を引き起こす仕組みを見出しました これは Chk1 の活性化が タンパク質 STAT1/3 のリン酸化による活性化を促し その下流で IRF1 が発現し この IRF1 ががん細胞に存在する PD-L1 遺伝子上流の DNA 転写開始領域と結合することで PD-L1 を発現させる という分子機構を発見したことになります ( 図 3) さらに X 線照射後の PD-L1 の発現に関わるその他のタンパクを見つけるため DNA 二本鎖切断 (DSB: DNA double strand break) 修復関連因子の検索を行った結果 DNA 修復において中心的な役割を担うタンパク質 Ku70/80 または BRCA2 をノックダウン (sirna をもちいて遺伝子の転写量を減少させ 意図的にその働きを抑えること ) した細胞において 同様に Chk1 の活性化を介し PD-L1 の発現を誘導する作用が高まることを見出しました このうち Ku80(DNA の修復と同時に DNA の切断部を削る DNA ヌクレアーゼ (DNA 核酸分解酵素 )EXO1 の働きを抑える作用を持つタンパク質 ) をノックダウンした細胞における PD-L1 の発現増強が EXO1/BLM を介した Chk1 活性化によって成り立っていることを明らかにしました また Ku80 と同様に DNA の二本鎖切断を修復する BRCA2 をノックダウンした細胞では PARP 阻害剤 (PARP は損傷した DNA を修復する酵素の一つ 阻害剤はこの機能を防ぐ薬剤 ) 処理によっても顕著に PD-L1 発現が増強することを見出しました つまり BRCA2 がノックダウンされると BRCA2 により修復されるはずであった DNA 切断部位でも Chk1 の活性化が促進され その結果 PD-L1 の発現が増強することが分かったのです 加えて DSB が これまで知られていた PD-L1 に関わる経路である STAT1/3-IRF1 経路を活性化させることで PD-L1 の発現上昇を誘発することを明らかにしました 以上の結果から DSB 発生後の DNA 損傷シグナルががん細胞膜表面上の PD-L1 発現上昇を誘発し 免疫反応制御に関わることが示唆されました

これらの発見は これまで未解明だった DNA 損傷 修復から PD-L1 発現までの分子機構につ いての理解を大きく広げました がん免疫治療の研究分野における期待 : がん細胞が有する多種多様な変異により DNA 損傷後のシグナル伝達機構に異常をきたしている場合 放射線治療後の PD-L1 発現誘導が生じない可能性が考えられます この場合 放射線治療と抗 PD-1 抗体の併用が必ずしも有効でない可能性があります 一方で がん細胞内で DNA 修復欠損やシグナル伝達が過剰になる場合には PD-L1 発現誘導が亢進し免疫抑制が生じるため 抗 PD-1 抗体の併用が有効になることが考えられます 本研究の結果は 放射線治療や化学療法といった従来の DNA 損傷誘導型のがん治療と 免疫治療の併用の有効性 科学的妥当性を支持するものであり 今後のがん治療において重要な基礎的根拠となると考えます 複雑な DNA 修復ネットワークの中から 放射線治療と抗 PD-1 抗体治療を繋ぐ分子機構を解明することは 当該分野の大きな進歩となり得ます 社会的意義とこれからの展望 : 本研究により どの DNA 修復遺伝子が失活するとがん細胞内の PD-L1 発現が変動するかが予測可能になるため 今後の放射線治療と免疫治療の併用を行う上での治療前効果予測精度向上に貢献できるのではないかと考えています 現時点で 抗 PD-1 抗体の医療費は高額のため 医療費圧迫が問題視されており 実際に異例の薬価引き下げも行われました

このように抗 PD-1 抗体は高額な治療薬であるため 化学療法 放射線治療後の抗 PD-1 抗体治療併用の有効性を患者さんごとに予測できれば 医療費における経済的メリットへと繋がるのではないかと考えます また 今後の研究により 放射線誘発 PD-L1 発現に関わる DNA 修復因子を阻害することで これまで抗 PD-1 抗体治療の効果が十分でなかった患者さんに対しても その治療効果を高めることが可能となるかもしれません 掲載論文雑誌名 :Nature Communications(2017 年 11 月 24 日 : 日本時間 19 時 オンライン掲載 ) DNA double-strand break repair pathway regulates PD-L1 expression in cancer cells Hiro Sato Atsuko Niimi Takaaki Yasuhara Tiara Bunga Mayang Permata Yoshihiko Hagiwara Mayu Isono Endang Nuryadi Ryota Sekine Takahiro Oike Sangeeta Kakoti Yuya Yoshimoto Kathryn D. Held Yoshiyuki Suzuki Koji Kono Kiyoshi Miyagawa Takashi Nakano and Atsushi Shibata# (# 責任著者 ) 本研究は 武田科学振興財団 細胞科学研究財団 第一三共生命科学研究振興財団 科学研究費 助成事業 (JP26701005 and JP17H04713 JP16H05388 JP17K16420 and JP15K19771) に よる支援を受けて行われました 本件に関しますお問い合わせ先 : 研究について 国立大学法人群馬大学重粒子線医学推進機構重粒子線医学研究センター助教佐藤浩央 国立大学法人群馬大学大学院医学系研究科 附属教育研究支援センター 研究講師 ( 医学系研究科長発令 ) 柴田淳史 研究室 HP: http://shibatalab.com 取材対応窓口国立大学法人群馬大学昭和地区事務部総務課広報係長田原美粧 ( たはらみさ ) TEL :027-220-7895 FAX :027-220-7720 E-mail: m-koho@jimu.gunma-u.ac.jp