細胞膜由来活性酸素による寿命延長メカニズムを世界で初めて発見 - 新規食品素材 PQQ がもたらす寿命延長のしくみを解明 名古屋大学大学院理学研究科 ( 研究科長 : 杉山直 ) 附属ニューロサイエンス研究セ ンターセンター長の森郁恵 ( もりいくえ ) 教授 笹倉寛之 ( ささくらひろゆき ) 研

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

平成14年度研究報告

生物時計の安定性の秘密を解明

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

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2. 看護に必要な栄養と代謝について説明できる 栄養素としての糖質 脂質 蛋白質 核酸 ビタミンなどの性質と役割 およびこれらの栄養素に関連する生命活動について具体例を挙げて説明できる 生体内では常に物質が交代していることを説明できる 代謝とは エネルギーを生み出し 生体成分を作り出す反応であること

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

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研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

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大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

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別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

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抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

クワガタムシの大顎を形作る遺伝子を特定 名古屋大学大学院生命農学研究科 ( 研究科長 : 川北一人 ) の後藤寛貴 ( ごとうひろき ) 特任助教 ( 名古屋大学高等研究院兼任 ) らの研究グループは 北海道大学 ワシントン州立大学 モンタナ大学との共同研究で クワガタムシの発達した大顎の形態形成に

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ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

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の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

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ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

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研究成果の概要ビタミンCを体内で合成できない遺伝子破壊マウス (SMP30/GNL 遺伝子破壊マウス ) に1 水素 (H2) ガスを飽和状態 (0.6 mm) まで溶かした水素水 ( 高濃度水素溶解精製水 ) を与えた群 2 充分なビタミンCを与えた群 3 水のみを与えた群の 3 群に分け 1 ヶ

図 : と の花粉管の先端 の花粉管は伸長途中で破裂してしまう 研究の背景 被子植物は花粉を介した有性生殖を行います めしべの柱頭に受粉した花粉は 柱頭から水や養分を吸収し 花粉管という細長い管状の構造を発芽 伸長させます 花粉管は花柱を通過し 伝達組織内を伸長し 胚珠からの誘導を受けて胚珠へ到達し

発表内容 1. 背景感染症や自己免疫疾患は免疫系が強く関与している病気であり その進行にはT 細胞が重要な役割を担っています リンパ球の一種であるT 細胞には 様々な種類の分化したT 細胞が存在しています その中で インターロイキン (IL)-17 産生性 T 細胞 (Th17 細胞 ) は免疫反応

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

医薬品タンパク質は 安全性の面からヒト型が常識です ではなぜ 肌につける化粧品用コラーゲンは ヒト型でなくても良いのでしょうか? アレルギーは皮膚から 最近の学説では 皮膚から侵入したアレルゲンが 食物アレルギー アトピー性皮膚炎 喘息 アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状を引き起こすきっかけになる

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

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ドリル No.6 Class No. Name 6.1 タンパク質と核酸を構成するおもな元素について述べ, 比較しなさい 6.2 糖質と脂質を構成するおもな元素について, 比較しなさい 6.3 リン (P) の生体内での役割について述べなさい 6.4 生物には, 表 1 に記した微量元素の他に, ど

平成24年7月x日

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

背景 近年, コンピューター, タブレット, コンタクトレンズなどの使用増加に伴い, 国民の約 10 人に 1 人がドライアイだと言われています ドライアイの防止に必要な涙 ( 涙液 ) は水だけでできていると思われがちですが, 実は脂質層 ( 油層 ), 水層, ムチン層の三層で形成されています

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

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4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

Microsoft Word - Ⅲ-11. VE-1 修正後 3.14.doc

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60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 1 月 18 日 独立行政法人理化学研究所 植物の形を自由に小さくする新しい酵素を発見 - 植物生長ホルモンの作用を止め ミニ植物を作る - 種無しブドウ と聞いて植物成長ホルモンの ジベレリン を思い浮かべるあなたは知識人といって良いでしょう このジベ

がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

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細胞の構造

記載例 : 大腸菌 ウイルス ( 培養細胞 ) ( 注 )Web システム上で承認された実験計画の変更申請については 様式 A 中央の これまでの変更 申請を選択し 承認番号を入力すると過去の申請内容が反映されます さきに内容を呼び出してから入力を始めてください 加齢医学研究所 分野東北太郎教授 ヒ

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

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みどりの葉緑体で新しいタンパク質合成の分子機構を発見ー遺伝子の中央から合成が始まるー

界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

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核内受容体遺伝子の分子生物学

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るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

博士学位論文審査報告書

学位論文の要約

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

「ゲノムインプリント消去には能動的脱メチル化が必要である」【石野史敏教授】

植物が花粉管の誘引を停止するメカニズムを発見

コントロール SCL1 を散布した葉 萎 ( しお ) れの抑制 : バラの葉に SCL1 を散布し 葉を切り取って 6 時間後の様子 気孔開口を抑制する新しい化合物を発見! 植物のしおれを抑える新たな技術開発に期待 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 (WPI-ITbM) の木下俊則

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細胞膜由来活性酸素による寿命延長メカニズムを世界で初めて発見 - 新規食品素材 PQQ がもたらす寿命延長のしくみを解明 名古屋大学大学院理学研究科 ( 研究科長 : 杉山直 ) 附属ニューロサイエンス研究セ ンターセンター長の森郁恵 ( もりいくえ ) 教授 笹倉寛之 ( ささくらひろゆき ) 研究員 ( 現所属 : 愛知医科大学 ) らの研究グループは 三菱ガス化学 ( 株 ) の池本一人 ( いけもとかずと ) 主席研究員 久留米大学医学部の森部弘樹 ( もりべひろき ) 講 師 愛知医科大学医学部の武内恒成 ( たけうちこうせい ) 教授との共同研究で 新規 食品素材 PQQ が 線虫の寿命を 30% 以上延長させることを確認し PQQ が寿命を延長さ せるしくみを明らかにしました 本研究により 細胞膜由来の活性酸素合成酵素と分解酵素の協調的システムによって 生じる低レベルの活性酸素が 寿命延長を引き起こすことを 世界で初めて発見しまし た 線虫は 体を作る細胞が約 1000 個足らずの小さな生物ですが ヒトと同様の組織や遺 伝子を持っています 本研究は 線虫のような小型動物を用いた研究が 哺乳類では 長い時間を要する寿命研究などに 極めて有効であることを示しました したがって 本研究成果は 我々人間の健康寿命の延長 生き生きとした高齢化社会 の構築につながると期待されます この研究成果は 平成 29 年 7 月 4 日付 ( 英国時間 ) 英国科学雑誌 Journal of Cell Science の Advanced Article として 先行掲載されました この研究は 日本学術振興会科学研究費補助金 石橋学術振興基金助成金 大阪大学 微生物病研究所共同研究拠点事業によって 支援されたものです

ポイント 補助食品素材であるピロロキノリンキノン (pyrroloquinoline quinone: PQQ) が 線虫 C. elegans の成虫寿命を 30% 以上延長させることを見出しました PQQ が 細胞膜に存在する活性酸素を合成する酵素を活性化することを明らかにしました さらに 細胞膜で活性酸素が低いレベルに微調整されることが 長寿実現の鍵であること を発見しました 細胞膜の低レベル活性酸素は 生体防御系を強化するシグナルとなることで 長寿が誘導 されることを明らかにしました PQQ は線虫の活性酸素合成酵素だけではなく ヒトの活性酸素合成酵素も活性化すること を発見しました したがって 本研究により ヒトにおいても 線虫と同様なしくみで寿命 が延長される可能性が示唆されます 背景 高齢化社会をむかえている現在 健康寿命を延長する手段の開発および長寿のメカニズムの解明は 社会的 学術的に重要な課題です 線虫 C. elegans( シーエレガンス ) 1) は 寿命が約 3 週間と短く 一度に多数の個体の寿命を測定できること 突然変異体や遺伝子組換え体を容易に利用することができることなどの利点を持っており 老化 寿命を研究する上で理想的なモデル生物です また 線虫の遺伝子の多くはヒトの遺伝子と類似しており 線虫の老化 寿命の研究から 我々ヒトにも保存されている重要な生物学的知見が数多く得られています ピロロキノリンキノン (pyrroloquinoline quinone: PQQ) 2) は 共同研究者である三菱ガス化学株式会社によって合成され 新規食品素材として製品化されています 元来 PQQ は 1970 年頃 補酵素として複数の細菌から発見されました その後の研究で 抗酸化作用 ミトコンドリア新生 神経保護など 生体に有益な生理活性を持つことが報告されました また栄養学的にも重要な物質であることがわかり 1989 年には PQQ を餌から除いたマウスは 発達不全 生殖能力低下 骨不全などの早期老化を表すような症状を示すことが報告されています しかし 動物の寿命への効果は不明でした 研究の内容 まず PQQ を 成虫に成長した後の線虫に与えると 寿命が 30% 以上延長することを発見しました ( 図 1) そこで PQQ がもたらす寿命延長のしくみを明らかにするために 大規模な遺伝学実験や細胞生物学実験を行いました その結果 PQQ が 細胞膜に特異的に存在する活性酸素の合

成 / 分解系に働きかけることで 細胞膜上では 低いレベルの活性酸素 ROS 3) が生じることが わかりました そして この低レベル活性酸素が 細胞内の生体防御応答に重要な遺伝子群を 機能させ 生体防御を強化することで 長寿を実現していることが明らかになりました ( 図 2) 研究の意義 活性酸素 ROS 3) は 蛋白質 脂質 DNA などの生体高分子を損傷させることが知られています ROS は 主に ミトコンドリアから発生すると考えられ その ROS によって起こる生体分子の損傷が 老化促進の原因であるとする 酸化ストレス理論 は 広く受け入れられてきました しかしながら 近年 mtros と呼ばれる ミトコンドリアから産生される 低レベルの ROS は むしろ 寿命を延長するという例が 次々と報告されてきました したがって 従来の 活性酸素 ROS は老化 短命の主因である という考えは もはや 否定されており 現在では 低レベルの ROS は 寿命に有益であり ROS は生体内での濃度により 寿命にとって有利にも不利にも働く という考えが主流になっています 今回の研究の意義の 1 点目は ミトコンドリア由来の長寿を誘導する低レベルの ROS 以外に も 細胞膜由来の低レベルの ROS が長寿を引き起こすことを 世界で初めて発見したことで す また 今回の研究の意義の 2 点目は ミトコンドリア由来の低レベル ROS(mtROS) であれ 今 回発見した細胞膜由来の低レベル ROS であれ 生体内での低レベルの ROS の産生は 長寿を 誘導する本質である ことを明らかにしたことです そして 今回の研究の意義の 3 点目は 従来まで 全く不明であった 長寿を誘導する低レベルの ROS を産生するしくみ について 世界に先駆けて 解明することに成功したことです PQQ は デュアルオキシダーゼ 4) と呼ばれる細胞膜由来の ROS 産生酵素を活性化します ( 図 3) デュアルオキシダーゼによって生成された ROS は ペルオキシダーゼ 5) によって分解さ

れることで 細胞膜で低レベルの ROS が生成されます すなわち 我々は はじめに ROS が過剰に産生されても 分解によって ROS の濃度を 長寿にとって適切なレベルに調整するという 合成 / 分解 システムを用いた巧妙なしくみで 長寿を誘導する ROS が生成されていることを突き止めました 従来 ROSが老化促進の原因であるとする 酸化ストレス論 に基づき 老化防止を目的として ビタミン類などの ROS を除去する抗酸化剤が利用されてきました しかしながら 大規模な疫学的調査の結果 ビタミン類 ( 抗酸化剤 ) には寿命延長効果がないことが報告されています 今回の研究成果から ビタミン類による寿命延長効果がなかったことの説明として 抗酸化剤が従来の 老化を促進するROS だけではなく 細胞膜由来の ROS やミトコンドリア由来の mtrosといった低濃度で働く 長寿を促進する ROS も 消去してしまった可能性が考えられます 実際に 我々は 抗酸化剤である N-アセチルシステインが PQQによって生じる 細胞膜由来の低レベルROS によって誘導されるはずの寿命延長効果を完全に打ち消すことを確認しました ( 図 4) 以上のように 本研究では PQQは 細胞膜由来の低濃度 ROS を産生することで長寿を促進するという 全く新しい作用を持つ寿命延長物質であることが明らかになりました 用語説明 線虫 C. elegans( シーエレガンス ) 1) : 世界中で広く研究に利用されている実験動物 体長約 1mm で透明な体をもち 自然界では土壌に生息 成虫は わずか 959 個の細胞からなる個体であるが 神経系 消化器系 表皮系など 我々ヒトと似た組織を備えている ピロロキノリンキノン (pyrroloquinoline quinone: PQQ) 2) : メタノール アルコール脱水素酵素の補酵素 (redox cofactor) としてバクテリアから単離された 多くの食品に含まれ 補助食品としても市場に流通している 三菱ガス化学株式会社は高純度のPQQ (biopqq) の大量生産に成功している 活性酸素 (ROS) 3) : 酸素分子が より反応性が高い分子に変換されている化合物の総称 た

とえば 過酸化酸素 (H 20 2) は代表的な活性酸素である 活性酸素は 主に ミトコンドリアな どで酸素を代謝する過程で生成されることが知られている ROS は Reactive oxygen species の略称 デュアルオキシダーゼ (Dual oxidase) 4) :NADPH オキシデースに属する活性酸素合成酵素であり 細胞膜に存在する 一般に 甲状腺ホルモンの合成 消化器系における病原性細菌の殺菌 皮膚におけるコラーゲン分子の重合に重要な役割を果たしている ペルオキシダーゼ (Peroxidase) 5) : 活性酸素の一種である過酸化酸素 (H 20 2) を水 (H 20) と酸素 (0 2) とに分解する酵素 論文名 Journal of Cell Science Lifespan extension by peroxidase/dual oxidase-mediated ROS signaling through pyrroloquinoline quinone in C. elegans ( ピロロキノリンキノンを介したペルオキシダーゼ / デュアルオキシダーゼ由来の ROS シグナルによる C. elegans の寿命延長 ) Hiroyuki Sasakura, Hiroki Moribe, Masahiko Nakano, Kazuto Ikemoto, Kosei Takeuchi,Ikue Mori ( 笹倉寛之 森部弘樹 中野昌彦 池本一人 武内恒成 森郁恵 )