原発依存低下に伴うエネルギー政策の課題と解決策について

Similar documents
Microsoft PowerPoint - Itoh_IEEJ(150410)_rev

2007年12月10日 初稿

原稿メモ

LNGチェーンにおける事業者の変化とわが国の課題に関する調査

Microsoft Word - 報告書.doc

<4D F736F F D E937890AC96F18EC090D195F18D C A E646F63>

リムLNG年鑑2010

各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

内の他の国を見てみよう 他の国の発電の特徴は何だろうか ロシアでは火力発電が カナダでは水力発電が フランスでは原子力発電が多い それぞれの国の特徴を簡単に説明 いったいどうして日本では火力発電がさかんなのだろうか 水力発電の特徴は何だろうか 水力発電所はどこに位置しているだろうか ダムを作り 水を

需要国へと変貌する東南アジアの需要国へと変貌する東南アジアの

第1章

輸入バイオマス燃料の状況 2019 年 10 月 株式会社 FT カーボン 目 次 1. 概要 PKS PKS の輸入動向 年の PKS の輸入動向 PKS の輸入単価 木質ペレット

包括的アライアンスに係る基本合意書の締結について

目 次 Ⅰ. 今後の電力需給見通しと燃料について Ⅱ. 原油 重油を巡る状況について Ⅲ.LNGを巡る状況について IV. 石炭を巡る状況について V. 電力の燃料調達について ( まとめ ) 2

原稿メモ

電解水素製造の経済性 再エネからの水素製造 - 余剰電力の特定 - 再エネの水素製造への利用方法 エネルギー貯蔵としての再エネ水素 まとめ Copyright 215, IEEJ, All rights reserved 2

トラック運送事業の経営実態 全日本トラック協会は全国のトラック運送事業者 2,188 社 ( 有効数 ) の平成 25 年度事業報告書に基づき集計 分析した 経営分析報告書 ( 平成 25 年度決算版 ) をまとめた 全日本トラック協会が平成 4 年度から発行しているこの報告書は 会員事業者が自社の

目 次 Ⅰ. 総括編 1. 世界各地域の人口, 面積, 人口密度の推移と予測およびGDP( 名目 ) の状況 ( 1) 2. 世界の自動車保有状況と予測 ( 5) 3. 世界の自動車販売状況と予測 ( 9) 4. 世界の自動車生産状況と予測 ( 12) 5. 自動車産業にとって将来魅力のある国々 (

Microsoft Word - 18_2

<4D F736F F F696E74202D E9197BF A A C5816A CE97CD82CC90A28A458E738FEA2E B8CDD8AB B83685D>

種類以上 再生可能エネルギー 100% のメニューだけでも 5~60 種類あり 新規参入が低調になりやすい家庭部 門においても 豊富な選択肢が確保されている 表 1: 米国の全面自由化実施州における新規参入状況 自由化中断 廃止州 : 7 州 ( カリフォルニア ネバダ アリゾナ ニューメキシコ モ

2007年12月10日 初稿

(3) インドネシアインドネシアの電力供給は 石炭が 5 割 コンバインドサイクル 2 割 ディーゼル 1 割 水力 1 割 その他 1 割となっている 2015 年の総発電設備容量は PLN 3 が約 8 割 IPP が 2 割弱を 残り数 % を自家発電事業者 (PPU) が占めている 同国で

Microsoft Word - intl_finance_09_lecturenote

(Microsoft Word \224N\203\215\203V\203A\213\311\223\214\223\212\216\221.doc)

3_2

1. はじめに 1 需要曲線の考え方については 第 8 回検討会 (2/1) 第 9 回検討会 (3/5) において 事務局案を提示してご議論いただいている 本日は これまでの議論を踏まえて 需要曲線の設計に必要となる考え方について整理を行う 具体的には 需要曲線の設計にあたり 目標調達量 目標調達

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft PowerPoint - 15kiso-macro10.pptx

RIETI Highlight Vol.66

企画書タイトル - 企画書サブタイトル -

1 はじめに 日本の原油輸入の 2 割を占める重要なパートナーである中東のアラブ首長国連邦 (UAE) 近年急激な経済成長を背景に 年平均 16 % 以上の電力需要増加が見込まれるこの国で 最近日本の総合商社が取組む大型電力案件の話題が相次いで報じられた 5 月 9 日 UAE のフジャイラ首長国に

< 目次 > 1. 機関の概要と事業環境等 2. 平成 30 年度要求の概要 3. 編成上の論点 1 産業投資の効率的 効果的な活用 4. 編成上の論点 2 収益性の確保

ピクテ・インカム・コレクション・ファンド(毎月分配型)

Microsoft Word - 5_‚æ3ŁÒ.doc

1 食に関する志向 健康志向が調査開始以来最高 特に7 歳代の上昇顕著 消費者の健康志向は46.3% で 食に対する健康意識の高まりを示す結果となった 前回調査で反転上昇した食費を節約する経済性志向は 依然厳しい雇用環境等を背景に 今回調査でも39.3% と前回調査並みの高い水準となった 年代別にみ

特集 ロシア NIS 圏で存在感を増す中国特集 ロシアの消費市場を解剖する Data Bank 中国の対ロシア NIS 貿易 投資統計 はじめに今号では ロシア NIS 諸国と中国との経済関係を特集しているが その際にやはり貿易および投資の統計は避けて通れないであろう ただ ロシア NIS 諸国の側

目次 Ⅰ エネルギー供給の概要 1. 主要国の一次エネルギー供給構成 1 2. 主要国の石油輸入依存度 2 3. 我が国の一次エネルギー供給状況の推移 3 Ⅱ 石油 1. 世界の石油消費量の推移 4 2. 我が国の石油需給原油輸入状況 ( 国別 ) 5 製油所の能力と立地状況 6 石油製品生産量の推

確実に縮小する国内の石油市場 1 我が国の石油製品需要は ピーク時の 1999 年から 3 割減少 2030 年までに更に約 2 割減少する見込み 我が国の石油精製能力と石油製品需要量の推移 我が国の石油製品需要量の見込み 石油精製能力 ( 万 BD)

新電力のシェアの推移 全販売電力量に占める新電力のシェアは 216 年 4 月の全面自由化直後は約 5% だったが 217 年 5 月に 1% を超え 218 年 1 月時点では約 12% となっている 電圧別では 特別高圧 高圧分野 ( 大口需要家向け ) は時期により変動しつつも 全体的には上昇

<4D F736F F F696E74202D F91E58AD15F B C D83582E B8CDD8AB B83685D>

平成 29 年 7 月 地域別木質チップ市場価格 ( 平成 29 年 4 月時点 ) 北東北 -2.7~ ~1.7 南東北 -0.8~ ~ ~1.0 変動なし 北関東 1.0~ ~ ~1.8 変化なし 中関東 6.5~ ~2.8

Microsoft PowerPoint 坂本 豪州QCLNGのFID.ppt [互換モード]

( 参考様式 1) ( 新 ) 事業計画書 1 事業名 : 2 補助事業者名 : 3 事業実施主体名 : Ⅰ 事業計画 1 事業計画期間 : 年 月 ~ 年 月 記載要領 事業計画期間とは 補助事業の開始から事業計画で掲げる目標を達成するまでに要する期間とし その期限は事業実施年 度の翌年度から 3

Microsoft PowerPoint - 811_B04_londonAIM_miyamoto.ppt

1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(217 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43

目次 1. コメ 1 2. 野菜 果実 2 3. 茶 3 4. 薬用植物 4 5. 牛乳 乳製品 5 6. 食肉 6 7. 水産物 7 8. 加工食品 8

2019 年 3 月期決算説明会 2019 年 3 月期連結業績概要 2019 年 5 月 13 日 太陽誘電株式会社経営企画本部長増山津二 TAIYO YUDEN 2017

ガス市場について

参考資料 1 約束草案関連資料 中央環境審議会地球環境部会 2020 年以降の地球温暖化対策検討小委員会 産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会約束草案検討ワーキンググループ合同会合事務局 平成 27 年 4 月 30 日

バイオマス比率をめぐる現状 課題と対応の方向性 1 FIT 認定を受けたバイオマス発電設備については 毎の総売電量のうち そのにおける各区分のバイオマス燃料の投入比率 ( バイオマス比率 ) を乗じた分が FIT による売電量となっている 現状 各区分のバイオマス比率については FIT 入札の落札案

1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(216 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43

企業活動のグローバル化に伴う外貨調達手段の多様化に係る課題

Microsoft PowerPoint - 3rdQuarterPresentations2013_J03.ppt

42

番号文書項目現行改定案 ( 仮 ) 1 モニタリン 別表 : 各種係 グ 算定規程 ( 排出削 数 ( 単位発熱量 排出係数 年度 排出係数 (kg-co2/kwh) 全電源 限界電源 平成 21 年度 年度 排出係数 (kg-co2/kwh) 全電源 限界電源 平成 21 年度 -

緒論 : 電気事業者による地球温暖化対策への考え方 産業界における地球温暖化対策については 事業実態を把握している事業者自身が 技術動向その他の経営判断の要素を総合的に勘案して 費用対効果の高い対策を自ら立案 実施する自主的取り組みが最も有効であると考えており 電気事業者としても 平成 28 年 2

JBICtoday2013_10J

受益者の皆様へ 平成 28 年 2 月 15 日 弊社投資信託の基準価額の下落について 平素より弊社投資信託をご愛顧賜り 厚くお礼申しあげます さて 先週末 2 月 12 日 ( 金 ) 以下のファンドの基準価額が 前営業日の基準価額に対して 5% 以上下落しており その要因につきましてご報告いたし

2018年度 第3四半期累計 1-9月 実績 2017年 19月期 2018年 19月期 増減 () 9,302 9, % +4.1% 営業利益 % 0.0% % +9.7% 親会社の所有者に 帰属する四半期利

1. 世界における日 経済 人口 (216 年 ) GDP(216 年 ) 貿易 ( 輸出 + 輸入 )(216 年 ) +=8.6% +=28.4% +=36.8% 1.7% 6.9% 6.6% 4.% 68.6% 中国 18.5% 米国 4.3% 32.1% 中国 14.9% 米国 24.7%

PowerPoint プレゼンテーション

目次 1. コメ 1 2. 野菜 果実 2 3. 茶 3 4. 薬用植物 4 5. 牛乳 乳製品 5 6. 食肉 6 7. 水産物 7 8. 加工食品 8

表1-4

<4D F736F F D A30318F8A93BE8A698DB782C689C692EB82CC C838B834D815B8EF997762E646F63>

また 関係省庁等においては 今般の措置も踏まえ 本スキームを前提とした以下のような制度を構築する予定である - 政府系金融機関による 災害対応型劣後ローン の供給 ( 三次補正 ) 政府系金融機関が 旧債務の負担等により新規融資を受けることが困難な被災中小企業に対して 資本性借入金 の条件に合致した

スライド 1

電気事業分科会資料

財務省貿易統計

Microsoft Word - 20_2

1 1. 課税の非対称性 問題 1 年をまたぐ同一の金融商品 ( 区分 ) 内の譲渡損益を通算できない問題 問題 2 同一商品で 異なる所得区分から損失を控除できない問題 問題 3 異なる金融商品間 および他の所得間で損失を控除できない問題

日本市場における 2020/2030 年に向けた太陽光発電導入量予測 のポイント 2020 年までの短 中期の太陽光発電システム導入量を予測 FIT 制度や電力事業をめぐる動き等を高精度に分析して導入量予測を提示しました 2030 年までの長期の太陽光発電システム導入量を予測省エネルギー スマート社

報告書の主な内容 2012 年度冬季の電力需給の結果分析 2012 年度冬季電力需給の事前想定と実績とを比較 検証 2013 年度夏季の電力需給の見通し 需要面と供給面の精査を行い 各電力会社の需給バランスについて安定供給が可能であるかを検証 電力需給検証小委員会としての要請 2013 年度夏季の電

Special Feature 未来への挑戦 ~ ビジネス現場最前線 ~ 三菱商事は 経営戦略 2015 で掲げる 2020 年頃の成長イメージ の実現に向け 新たなビジネスの可能性に日々挑戦し続けています 本特集では シェールガス革命以降新たな可能性を秘めた 北米産 LNG の販売事業 英国で培っ

スライド 1

ガスプロムが天然ガス輸出戦略を練り直し

Microsoft Word - 第8回「国際不動産価格賃料指数」(2017年4月現在)

untitled

資料 2 接続可能量 (2017 年度算定値 ) の算定について 平成 29 年 9 月資源エネルギー庁

Ⅰ. 世界海運とわが国海運の輸送活動 1. 主要資源の対外依存度 わが国は エネルギー資源のほぼ全量を海外に依存し 衣食住の面で欠くことのでき ない多くの資源を輸入に頼っている わが国海運は こうした海外からの貿易物質の安定輸送に大きな役割を果たしている 石 炭 100% 原 油 99.6% 天然ガ

財務省貿易統計

【ロシア最新経済金融週報】

財務省貿易統計

財務省貿易統計

untitled

<4D F736F F F696E74202D E81798E9197BF A914F89F182CC8CE48E E968D8082C982C282A282C42E >

[ 調査の実施要領 ] 調査時点 製 造 業 鉱 業 建 設 業 運送業 ( 除水運 ) 水 運 業 倉 庫 業 情 報 通 信 業 ガ ス 供 給 業 不 動 産 業 宿泊 飲食サービス業 卸 売 業 小 売 業 サ ー ビ ス 業 2015 年 3 月中旬 調査対象当公庫 ( 中小企業事業 )

欧州天然ガス・LNGの現状と見通し

地域別世界のエアコン需要の推定について 年 月 一般社団法人 日本冷凍空調工業会 日本冷凍空調工業会ではこのほど 年までの世界各国のエアコン需要の推定結果を まとめましたのでご紹介します この推定は 工業会の空調グローバル委員会が毎年行 なっているもので 今回は 年から 年までの過去 ヵ年について主

2. 利益剰余金 ( 内部留保 ) 中部の 1 企業当たりの利益剰余金を見ると 製造業 非製造業ともに平成 24 年度以降増加傾向となっており 平成 27 年度は 過去 10 年間で最高額となっている 全国と比較すると 全産業及び製造業は 過去 10 年間全国を上回った状況が続いているものの 非製造

ための手段を 指名 報酬委員会の設置に限定する必要はない 仮に 現状では 独立社外取締役の適切な関与 助言 が得られてないという指摘があるのならば まず 委員会を設置していない会社において 独立社外取締役の適切な関与 助言 が十分得られていないのか 事実を検証すべきである (2) また 東証一部上場

これは 平成 27 年 12 月現在の清掃一組の清掃工場等の施設配置図です 建替え中の杉並清掃工場を除く 20 工場でごみ焼却による熱エネルギーを利用した発電を行っています 施設全体の焼却能力の規模としては 1 日当たり 11,700 トンとなります また 全工場の発電能力規模の合計は約 28 万キ


Microsoft Word - フランス自転車市況-2011.doc

2017年度第1四半期決算説明会

2. トピックス 中国 インドを除くアジア主要国の特徴について 中国やインドが高い成長を続けている中にあって 韓国 台湾 タイ インドネシアなどの東南アジアの国々の成長率は過去 7 年間を平均すると 4.3% と安定している しかし 成長率には国によって差があり フィリピン ベトナム インドネシアな

内容 日本のエネルギー需給の動向 日本のエネルギー需給の展望 2

ご参考資料 オーナー経営者経営者の意識調査 - 概要 - 調査期間 2003 年 9 月 1 日 ~10 月 31 日 調査機関日本では ASG グループが本調査の主体になり 日経リサーチ社に調査を委託した 調査の一貫性を保つために 各国のデータの取りまとめは 国際的な調査機関である Wirthli

Microsoft Word - N_ _2030年の各国GDP.doc

Transcription:

原発依存低下に伴う LNG 調達の課題と解決策 平成 23 年 12 月 13 日 財団法人日本エネルギー経済研究所 1. はじめに東日本大震災以降 発電用の LNG 需要が急増している これは言うまでもなく 全国の原子力発電所 54 基のうち 運転されているのは 8 基に過ぎない状況で LNG 火力発電所が代替電源の主役となっているからである 2011 年 4-9 月の統計を見ると 日本の LNG 輸入量は 3,888 万トンで 前年同期比で 14% の伸び率となっている LNG 価格も上昇傾向にある 通関統計によると 2011 年 4 月の全日本輸入平均価格は約 $13/MMBtu であったが 10 月には約 $17/MMBtu まで値上がりした LNG 輸入のほとんどが長期契約で行われていることを考慮すれば この価格は数多くある長期契約の平均価格に近いと考えられる 一方 スポット LNG 価格の上昇率は輸入平均価格のそれを上回っている Platts や Energy Intelligence といったスポット推定価格を公表している機関によると 4 月着分のスポット推定価格は $9-10/MMBtu 前後であったが 10 月着分は $15-16/MMBtu 前後にまで上昇した 一方 2011 年 4-10 月の欧米市場を見ると 米国のヘンリーハブ価格が $4/MMBtu 前後 英国の NBP 価格が $8-9/MMBtu 欧州最大の LNG 輸入国であるスペインの平均輸入価格が $12-13/MMBtu でそれぞれ推移した 従って 特に米英価格と比較して アジア向け LNG 価格には大きな アジア プレミアム が存在し 拡大している この結果 2011 年 4-10 月の LNG 輸入総額は前年同期比で 4 割拡大している これは国富の流出という点でも懸念すべき問題である アジアの LNG 輸入国の中では 中国はパイプラインガス輸入量を着実に増加させており 韓国もロシアからのパイプラインガス輸入を検討している これらのパイプラインガスが LNG 価格よりも安価であれば ジャパン プレミアム が起こる可能性もある エネルギー安全保障を 国民生活 経済 社会活動 国防等に必要な 量 のエネルギーを 受容可能な 価格 で確保できること と定義するならば 現在の状況は 特に価格面において LNG 供給安全保障の強化を迫っているとも言えよう その方策として 様々な手段があるが 突き詰めればそれらの手段は供給量増加 ( 確保 ) 策と消費量抑制策に分類出来る 本稿では 前者のうち 特に現在議論されている LNG 調達の集約化 LNG プロジェクト開発への政府支援 パイプラインによる天然ガス輸入を検討する 2. LNG 調達の集約化 LNG の安定的かつ戦略的な調達のために 調達主体を集約化あるいは一元化することが有効ではないかという議論は 日本が世界最大の LNG 輸入国であるにもかかわらず 電力 ガス事業者が個別に LNG 調達を行っていることが 日本全体のバーゲニングパワーを損なっているのではないか という認識に基づいている 韓国のように LNG 調達が一元化されたことはないが 電力 ガス市場自由化以前は 日本の LNG 調達もある程度は集約化されていた すなわち 新規 LNG プロジェクトが立ち上がる際には 電力 ガス事業者が買主コンソーシアムを結成して LNG を購入するという形態が一般的であった これは バーゲニングパワー強化というよりも LNG プロジェクトを立ち上げるためには 複数の買主によって需要をアグリゲートする必要があったからである しかし 自由化が進展するに伴って このようなコンソーシアムは次第に結成されなくなってきた その理由は 電力及びガス市場における競争が進むにつれて 自由化以前のように同一の価格や引取条件で LNG を調達することに各買主がメリットを見出せなくなったからである 一般的には 電気事業者が価格水準よりも引取のフレキシビリティを重視するのに対して ガス事業者は低価格を志向する これは 電気事業者にとっては LNG が燃料ポートフォリオの一つであることに対して ガス事業者にとっては LNG が唯一の原料であることに起因する また 買主間の優先事項が多様化する中で コンソーシアム間でのコンセンサス形成に要する時間やコストが敬遠されたこと - 1 -

も大きい しかし これらよりも重要なのは このようにコンソーシアム解体が進んだ 2000 年代前半の LNG 市場が概ね買手市場であり 個別調達を行っても調達価格にそれほど影響しなかったことである 2000 年代後半に LNG 市場が売手市場化するに伴って 徐々に個別調達の見直し論が台頭してきた その中で 大手買主から中小事業者への二港揚げ 二次供給という形態で 一部では実際に調達集約化が進行している しかし 東日本大震災以降 LNG 需要が大幅に増加し LNG 価格のアジアプレミアムが拡大するにつれて 大手買主間での調達も集約化し 可能であれば韓国のように調達を一元化すべきだというのが昨今の調達集約化論である しかし 調達集約化が実際に LNG 価格低減に帰結するか否かは冷静な議論が必要である 確かに 調達集約化によって交渉力が強化される可能性は高い とは言え 買主間での優先事項が引取柔軟性向上と価格低減とで分裂されたままでは 価格低減に絞って売主との交渉がされるとは限らない また 調達がほぼ一元化されている韓国や台湾と比較して 日本の LNG 輸入価格が必ずしも高いとは言えない 同じく調達が現時点ではほぼ一元化されている中国の LNG 輸入価格は 日韓台と比較して大幅に低い しかし これは供給量の大半を占める 2 つの LNG 長期契約価格が契約締結当時の買手市況を反映して非常に低いからであり 売手市場化してから締結された長期契約価格は値上がりしている 一方 日本の個別調達による契約でもそれなりに低い価格のものもあることから 調達集約度の高さとの因果関係は必ずしも明確ではない 結局のところ 調達を集約化しても市況を覆すような価格条件を得ることは容易でないが 少なくとも不必要な価格上昇を抑制する効果は期待出来る 従って 調達集約化を進めるに際しては 各買主の優先事項を可能な限り一致させた上で 戦略的な調達体制を構築することが必要である 図 1 北東アジアの LNG 輸入価格 $/MMBtu 18 16 14 12 日本韓国台湾中国 10 8 6 4 2 0 2006 年 1 月 2006 年 4 月 2006 年 7 月 2006 年 10 月 2007 年 1 月 2007 年 4 月 2007 年 7 月 2007 年 10 月 2008 年 1 月 2008 年 4 月 2008 年 7 月 2008 年 10 月 2009 年 1 月 2009 年 4 月 2009 年 7 月 2009 年 10 月 2010 年 1 月 2010 年 4 月 2010 年 7 月 2010 年 10 月 2011 年 1 月 2011 年 4 月 2011 年 7 月 ( 出所 ) Energy Intelligence - 2 -

3. LNG プロジェクト開発への政府支援日本の買主が LNG プロジェクトに関与し 日本政府は資金面でしかるべき支援をすべきであるという議論は 買主主導でプロジェクトを立ち上げれば 価格低減に資する影響力を行使できるのではないか という期待に基づいている これは 石油において典型的である自主開発政策を LNG にも適用することである 実は 日本企業の LNGプロジェクトへの出資は古い歴史がある 1972 年に運開したブルネイ LNGには三菱商事が出資しているし 1977 年に運開したインドネシアのボンタン アルン LNG には日本側コンソーシアムである JILCO( 日本インドネシア エル エヌ ジー ) が 20% を出資している JILCO への出資者は LNG 買主である関西電力 中部電力 九州電力 大阪ガス 東邦ガス 新日本製鉄に加えて 東京電力 東京ガス 日商岩井 ( 現双日 ) 伊藤忠商事 住友商事 トーメン ( 現豊田通商 ) 丸紅 三井物産 三菱商事 日本興業銀行( 現みずほ銀行 ) が含まれる それ以降も 日本の買主が LNG を購入するプロジェクトには 日本企業が参加し 政府も JOGMEC や国際協力銀行を通じて資金面での支援をすることが一般的となっている ボンタン アルン LNG を除けば 日本の電力 ガス事業者の上流進出は 2000 年代まで起こらなかった しかし 電力 ガス市場での競争が激化し LNG の安定的 戦略的な調達の必要性が高まるにつれて 2006 年に運開したダーウィン LNG 以降 電力 ガス事業者自身による LNG プロジェクト参加例が増加している 上流進出は LNG プロジェクトの立ち上げを容易にすることで 物理的な量の確保に有効である 特に初期の LNG プロジェクトは 日本側の支援なしには実現することは困難であったと思われる 但し 権益取得と中長期契約によって上流事業に対するコミットメントを強化しても 天候 事故による供給途絶や資源ナショナリズムによる供給リスクは 阻止出来ない可能性が高い 従って 上流権益取得もプロジェクト期間全体での量の確保を保証するものではない 一方 上流進出と低価格は今のところ特に相関性が認められない 少なくとも過去の事例では 契約締結当時の市況 ( 見通し ) が価格決定に大きな影響をもたらしたと考えられる 上流進出によって ナチュラルヘッジ効果 1の期待は出来る しかし 価格変動リスクを 100% ヘッジするためには 売主としての自社権益分のLNG 販売量と買主としての購入量を一致させる必要があるが 投資規模が大きくなりすぎること 産ガス国の国営石油会社が権益を過半数取得する場合も多いことから 必ずしも現実的とは言えない 従って 上流進出を行うとすれば資源ナショナリズムが相対的に弱い 豪州 米国 カナダといった国々が有望となる 一方 上流権益を取得することにより ガス田 液化プラント情報が入手 ( 情報非対称性が是正 ) 出来ることから 当該プロジェクトとの価格交渉に利用することは理論上可能である このように 上流進出についても 価格低減への特効薬とはならない むしろ 投資するプロジェクトの選定を誤ると 輸出国の資源ナショナリズムや 価格競争力の欠如によって 多額の損失を被る可能性もある 従って LNG プロジェクトへの政府支援に際しては 個別案件のリスクやコスト競争力について精査を官民が協力して進めることが重要である 1 上流権益を保有しておくことで 価格上昇の場合でも上流権益からの利益によって 実質的な LNG 調達価格を抑制するという考え方 - 3 -

1971199719992001200320052007969マレーシアブルネイインドネシア 009 図 2 日本の LNG 輸入価格の推移 $/MMBtu 20 カタールオマーンアラブ首長国連邦 イエメンノルウェーロシア 15 251アメリカトリニダード トバゴアルジェリア エジプトナイジェリア赤道ギニア 10 オーストラリア 5 0 1973197519771979198119831985198719891991199319952( 注 ) 日本企業が参画している輸出国は折れ線 参画していない輸出国は点で表記している ( 出所 ) 日本貿易月表 4. パイプラインによる天然ガス輸入日本のLNG 輸入が急増するにつれて 北東アジア向けのパイプラインガスへの注目が高まっている 2009 年末に中国がトルクメニスタンからパイプラインガスの輸入を開始したが カザフスタンやウズベキスタン またミャンマーからの輸入も近い将来に開始される トルクメニスタンから中国向けの天然ガスは 北京までの輸送費を考慮しても $12/MMBtu 程度とされており 日本向けの LNG 価格を下回る 中国は 国内需要を満たすために LNG に続いてパイプラインガスも導入しているのであるが パイプラインガス輸入量は堅調に増加している これは 少なくとも現時点ではパイプラインガスが LNG より価格競争力があるからである 中国の LNG 買主は LNG 価格交渉において パイプラインガスの存在を交渉カードとして利用していると思われる また 韓国も北朝鮮経由でロシアからのパイプラインガス輸入を検討している 韓国向けパイプラインは 北朝鮮のトランジットリスクが高いものの 韓国の LNG 買主が LNG 価格交渉カードとして利用したいと考えていても不思議ではない - 4 -

図 3 中国 韓国のパイプラインガス輸入計画 ( 出所 )JOGMEC 日本がパイプラインガス輸入を行うとすれば 輸出国は事実上ロシアとなる ロシアから日本向けのガスパイプラインはソ連時代から検討されてきたが 経済的 政治的な理由からこれまで実現してこなかった パイプラインガスだから安い (LNG だから高い ) と言う議論は 様々な条件に左右されるため必ずしも正しくはないが パイプラインガス輸入に経済合理性があり LNG 価格交渉を有利に進められるのであれば 日本としてもパイプラインガス輸入の可能性を排除すべきではない 大陸欧州で 部分的にしろ価格低減につながるような石油リンクからスポット価格への価格決定方式変更が実現した理由は 既存供給源である輸入パイプラインガスを代替する LNG が存在したからである 日本もパイプラインガスを検討するだけでも LNG 価格交渉カードとして利用出来るであろう さらに パイプラインガス輸入に呼応した国内パイプライン形成が不可欠であることから 国内ガスインフラ整備が進むことも期待出来る 但し 朝鮮半島経由でパイプラインガスを輸入する場合には 当然ながら大きなトランジットリスクを抱え込むことになることには留意すべきである 5. まとめ東日本大震災がもたらした福島第一原子力発電所の事故 及びそれに影響された原子力発電所の稼働停止は 全国で電力不足を引き起こしている 代替電源としての LNG 火力の重要性はこれまでになく高まっており 発電用 LNG 需要が急増し LNG 価格も上昇傾向にある 今後 天然ガス (LNG) の役割がより大きくなることを鑑みると より競争力のある価格条件で安定的に LNG を調達することは 日本の国益にとって重要である 本稿では LNG 調達価格低減について 調達集約化 LNG プロジェクト開発への政府支援 パイプラインガス輸入を検討した どの方策も価格低減効果に直結するわけではなく 大きな市況トレンドを覆すことは容易ではない 結局のところ 供給より需要が多ければ タイムラグはあれど価格には上昇圧力がかかるからである しかし 需給の逼迫や緩和はサイクルであるから 現在の売手市場もいずれ終る 現在のアジアプレミアムは日本にとって大 - 5 -

きな問題ではあるが 北米 豪州 ロシア 東アフリカ イラクといった地域で新規 LNG プロジェクト開発計画に拍車もかかっている これらのプロジェクトに経済合理性があれば 日本向けの供給力として実現するであろう また 日本の原子力発電所の再稼働状況や 世界経済の失速程度では LNG 需要増加が下方修正される可能性もある 市況トレンドを作るのは供給量や需要を上下させるこのような事象であり 調達戦略の優劣ではない 従って 現在の売手市場の中では 不必要な価格上昇を抑制するために また価格変動サイクルの中で価格下落が生ずる場合において適切に対応するために 調達集約化 LNG プロジェクト開発への政府支援 輸入パイプラインガス導入といった方策のリスクや限界を認識した上で LNG 買主は戦略的な LNG 調達を進めるべきである お問い合わせ :report@tky.ieej.or.jp - 6 -