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60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 8 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 GABA 抑制の促進がアルツハイマー病の記憶障害に関与 - GABA 受容体阻害剤が モデルマウスの記憶を改善 - 物忘れに始まり認知障害へと徐々に進行していくアルツハイマー病は 発症すると究極的には介護が欠か

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

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報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

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胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹

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60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 20 日 独立行政法人理化学研究所 アルツハイマー病の原因となる アミロイドベータ の産生調節機構を解明 - 新しいアルツハイマー病治療薬の開発に有望戦略 - 高年齢化社会を迎え 認知症に対する対策が社会的な課題となっています 国内では 認知症

生物時計の安定性の秘密を解明

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学位論文の要約

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60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

報道発表資料 2002 年 8 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 局所刺激による細胞内シグナルの伝播メカニズムを解明 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 細胞の局所刺激で生じたシグナルが 刺激部位に留まるのか 細胞全体に伝播するのか という生物学における基本問題に対して 明確な解答を与えま

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

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のとなっています 特に てんかん患者の大部分を占める 特発性てんかん では 現在までに 9 個が報告されているにすぎません わが国でも 早くから全国レベルでの研究グループを組織し 日本人の熱性痙攣 てんかんの原因遺伝子の探求を進めてきましたが 大家系を必要とするこの分野では今まで海外に遅れをとること

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さらにのどや気管の粘膜に広く分布しているマスト細胞の表面に付着します IgE 抗体にスギ花粉が結合すると マスト細胞がヒスタミン ロイコトリエンという化学伝達物質を放出します このヒスタミン ロイコトリエンが鼻やのどの粘膜細胞や血管を刺激し 鼻水やくしゃみ 鼻づまりなどの花粉症の症状を引き起こします

60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 1 月 18 日 独立行政法人理化学研究所 植物の形を自由に小さくする新しい酵素を発見 - 植物生長ホルモンの作用を止め ミニ植物を作る - 種無しブドウ と聞いて植物成長ホルモンの ジベレリン を思い浮かべるあなたは知識人といって良いでしょう このジベ

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

2. PQQ を利用する酵素 AAS 脱水素酵素 クローニングした遺伝子からタンパク質の一次構造を推測したところ AAS 脱水素酵素の前半部分 (N 末端側 ) にはアミノ酸を捕捉するための構造があり 後半部分 (C 末端側 ) には PQQ 結合配列 が 7 つ連続して存在していました ( 図 3

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

< 研究の背景 > 運動に疲労はつきもので その原因や予防策は多くの研究者や競技者 そしてスポーツ愛好者の興味を引く古くて新しいテーマです 運動時の疲労は 必要な力を発揮できなくなった状態 と定義され 疲労の原因が起こる身体部位によって末梢性疲労と中枢性疲労に分けることができます 末梢性疲労の原因の

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

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報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

の遺伝子の変異が JME 患者家系で報告されていますが ( 表 1) これらは現在のところ 変異の報告が一家系に留まり多くの JME 家系では変異が見られない もしくは遺伝学的な示唆のみで実際の変異は見つかっていないなど JME の原因遺伝子とはまだ確定しがたいものばかりです 一方 JME の主要な

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60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 5 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 椎間板ヘルニアの新たな原因遺伝子 THBS2 と MMP9 を発見 - 腰痛 坐骨神経痛の病因解明に向けての新たな一歩 - 骨 関節の疾患の中で最も発症頻度が高く 生涯罹患率が 80% にも達する 椎間板ヘルニア

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研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

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論文の内容の要旨

4. 発表内容 : 研究の背景 イヌに お手 を新しく教える場合 お手 ができた時に餌を与えるとイヌはまた お手 をして餌をもらおうとする このように動物が行動を起こした直後に報酬 ( 餌 ) を与えると そ の行動が強化され 繰り返し行動するようになる ( 図 1 左 ) このことは 100 年以

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4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

統合失調症といった精神疾患では シナプス形成やシナプス機能の調節の異常が発症の原因の一つであると考えられています これまでの研究で シナプスの形を作り出す細胞骨格系のタンパク質 細胞同士をつないでシナプス形成に関与する細胞接着分子群 あるいはグルタミン酸やドーパミン 2 系分子といったシナプス伝達を

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報道発表資料 2007 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 ヒト白血病の再発は ゆっくり分裂する白血病幹細胞が原因 - 抗がん剤に抵抗性を示す白血病の新しい治療戦略にむけた第一歩 - ポイント 患者の急性骨髄性白血病を再現する 白血病ヒト化マウス を開発 白血病幹細胞の抗がん剤抵抗性が

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

赤色 camp 可視化蛍光タンパク質センサーの開発 1. 発表者 : 原田一貴 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻博士課程 2 年 ) 伊藤幹 ( 東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻修士課程 2 年 ( 研究当時 )) 坪井貴司 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻准教授 )

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

図アレルギーぜんそくの初期反応の分子メカニズム

による傷害 ( 二次的な傷害 ) によって誘導されると考えられています TBI による二次性の神経傷害が 問題となっていましたが その詳細な分子メカニズムはこれまで不明のままでした 研究成果研究チームはマウス大脳皮質の TBI モデルを使って ミクログリア及びアストロサイトの応答を詳細に検討しました

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

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現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

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神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

生物 第39講~第47講 テキスト

報道解禁日 : 日本時間 2017 年 2 月 14 日午後 7 時 15 日朝刊 PRESS RELEASE 2017 年 2 月 10 日理化学研究所大阪市立大学 炎症から脳神経を保護するグリア細胞 - 中枢神経疾患の予防 治療法の開発に期待 - 要旨理化学研究所 ( 理研 ) ライフサイエンス

図 Mincle シグナルのマクロファージでの働き

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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すことが分かりました また 協調運動にも障害があり てんかん発作を起こす薬剤への感受性が高いなど 自閉症の合併症状も見られました 次に このような自閉症様行動がどのような分子機序で起こるのか解析しました 細胞の表面で働くタンパク質 ( 受容体や細胞接着分子など ) は 細胞内で合成された後 ダイニン

発達期小脳において 脳由来神経栄養因子 (BDNF) はシナプスを積極的に弱め除去する 刈り込み因子 としてはたらく 1. 発表者 : 狩野方伸 ( 東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻神経生理学分野教授 ) 2. 発表のポイント : 生後発達期の小脳において 不要な神経結合 ( シナプス )

概要 名古屋大学環境医学研究所の渡邊征爾助教 山中宏二教授 医学系研究科の玉田宏美研究員 木山博資教授らの国際共同研究グループは 神経細胞の維持に重要な役割を担う小胞体とミトコンドリアの接触部 (MAM) が崩壊することが神経難病 ALS( 筋萎縮性側索硬化症 ) の発症に重要であることを発見しまし

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報道発表資料 2008 年 7 月 17 日 独立行政法人理化学研究所 単語やメロディーの切れ目に対応する脳活動の記録に成功 - 分節化進行過程の神経活動を 世界で初めて生理学的手法で観察 - ポイント 連続音声に含まれる単語やメロディーの切れ目だけに出現する脳波を発見 脳波の強さは音声分節化と統計

プレスリリース 報道関係者各位 2019 年 10 月 24 日慶應義塾大学医学部大日本住友製薬株式会社名古屋大学大学院医学系研究科 ips 細胞を用いた研究により 精神疾患に共通する病態を発見 - 双極性障害 統合失調症の病態解明 治療薬開発への応用に期待 - 慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄

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を確認しました 本装置を用いて 血栓形成には血液中のどのような成分 ( 白血球 赤血球 血小板など ) が関与しているかを調べ 血液の凝固を引き起こす トリガー が何であるかをレオロジー ( 流れと変形に関わるサイエンス ) 的および生化学的に明らかにすることとしました 2. 研究手法と成果 1)

大学記者クラブ加盟各社 御中

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60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 脳内のグリア細胞が分泌する S100B タンパク質が神経活動を調節 - グリア細胞からニューロンへの分泌タンパク質を介したシグナル経路が活躍 - 記憶や学習などわたしたち高等生物に必要不可欠な高次機能は脳によって実現されています 脳は 神経回路で知られるニューロン 脳構造の維持をつかさどるグリア細胞および血管で構成されています この脳細胞の半数以上を占めているのがグリア細胞で その中でも最も多いのがアストロサイトという星状の細胞です グリア細胞は 脳構造の維持とともに脳内の代謝などを維持する支持細胞と考えられてきましたが アストロサイトは神経伝達の主役であるニューロンと同様に グルタミン酸など種々の神経伝達物質を放出して 神経活動を調節することが分かってきました このアストロサイトに特異的に発現するカルシウム結合タンパク質が S100B です S100B は てんかん患者の脳脊髄液で濃度が高くなる現象が見られていましたが その機能は不明なままでした 理研脳科学研究センター回路機能メカニズムコア神経回路メカニズム研究グループ平瀬研究ユニットらはこの現象に着目し S100B と脳の神経活動の関係を調べました その結果 神経活動の上昇に伴って放出されるグルタミン酸に アストロサイトが反応し S100B を分泌 この S100B が アストロサイトからニューロンへのシグナル伝達物資として働く というシグナル経路が脳内の神経活動を調整することを発見しました S100B の高濃度化は てんかんとともにアルツハイマーの患者の脳脊髄液でも見られることが知られており これらの神経疾患の予防や治療薬開発に貢献すると期待されます

図アストロサイトからニューロンへの伝達物質 S100B のシグナル経路 ( 上 ) と海馬領域でのグリア細胞の分布 ( 下 ) 図海馬領域でのグリア細胞の分布

報道発表資料 2008 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 脳内のグリア細胞が分泌する S100B タンパク質が神経活動を調節 - グリア細胞からニューロンへの分泌タンパク質を介したシグナル経路が活躍 - ポイント 神経活動の上昇時 グリア細胞から S100B タンパク質放出をマウスで確認 放出された S100B は 後期糖化最終産物受容体の活性化を介し神経活動を調整 アルツハイマー病やてんかんなどの神経疾患の予防や治療薬開発に期待独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) は ニューロンとともに脳を構成しているグリア細胞 1 の一種アストロサイト 2 が 神経活動の上昇に伴ってカルシウム結合タンパク質 3 S100Bを分泌し 神経活動を調整することを発見しました 理研脳科学研究センター ( 田中啓治センター長代行 ) 回路機能メカニズムコア神経回路メカニズム研究グループ平瀬研究ユニットの酒谷誠一研究員と平瀬肇ユニットリーダー 行動遺伝子学技術開発チームの糸原重美チームリーダー 金沢大学大学院医学系研究科の山本博教授らの研究グループによる成果です 脳は ニューロン グリア細胞および血管から構成されています グリア細胞は ヒトの脳細胞の半数以上を占め その中でも最も数の多いのがアストロサイトです 従来 グリア細胞は 脳構造の維持のほかに 脳内の代謝や細胞外環境を維持する支持細胞であると考えられてきました しかし近年 アストロサイトがニューロンと同様に 種々の神経伝達物質 ( グルタミン酸やATP 4 など ) を放出し 周囲の神経活動を調節することが示唆され 注目を集めています S100Bは アストロサイトに特異的に発現しているカルシウム結合タンパク質です 今回 S100Bが 神経活動の上昇に伴って分泌されることや 分泌されたS100Bがアストロサイトからニューロンへのシグナル伝達物質として働き 脳内で神経活動を調節していることを世界で初めて発見しました アルツハイマー病やてんかんなどの神経疾患患者の脳脊髄液中では S100Bの濃度が高いことが知られており 今後 これらの神経疾患の予防や治療薬開発に寄与するものと期待されます 本研究成果は 米国の科学雑誌 The Journal of Neuroscience ( 10 月 22 日号 ) に掲載されます 1. 背景脳は ニューロン グリア細胞および血管から構成されており 中でもグリア細胞 ( 図 1) は ヒトの脳細胞の半数以上を占めています 従来グリア細胞は 脳構造の維持のほかに 脳内の代謝や細胞外環境の維持をする支持細胞であると考えられてきました しかし近年 グリア細胞のなかでも最も数の多いアストロサイトが ニューロンと同様に 種々の神経伝達物質 ( グルタミン酸 ATP セロトニンなど ) を放出し 周囲の神経活動を調節することが示唆され 注目を集めています このアストロサイトに特異的に発現しているタンパク質が S100B というカルシウム結

合タンパク質で 細胞外へ分泌されることが知られていますが その機能についてはよく知られていませんでした 2. 研究手法と成果研究グループは てんかん患者の脳脊髄液中に含まれる S100B の濃度が高くなっていることに注目し S100B が脳の神経活動に何らかの形で影響していると予想しました そこで S100B の遺伝子を欠損させたマウス (S100B 欠損マウス ) に神経回路を興奮させる作用を持つカイニン酸を投与しました カイニン酸は痙攣 ( けいれん ) 脳波を誘発することで知られていますが この痙攣脳波を海馬 5 で計測したところ S100B 欠損マウスの脳波の振幅が減衰していることを見いだしました 次に S100B 欠損マウスに 局所的に S100B タンパク質を微量注入すると カイニン酸投与時の脳波の振幅が増大することが分かりました また 野生型のマウスに S100B の抗体を局所注入して細胞外の S100B の機能を抑えると 脳波の振幅は減少し S100B 欠損マウスに類似した状況となりました さらに S100B タンパク質受容体の 1 つである RAGE( 後期糖化最終産物受容体 ) 6 を欠損させたマウスでも S100B 欠損マウスと同様に脳波の減衰を観測しました 次に 実際に S100B がアストロサイトから細胞外に分泌されていることを検証するために 生きたままの海馬をスライスした標本から ELISA 法 7 を用いて 細胞外に分泌された S100B タンパク質の濃度を測定しました その結果 カイニン酸投与後に細胞外の S100B の濃度が 5 倍以上も増加していました 海馬では S100B が アストロサイトだけに発現していることから 増加した S100B はアストロサイトから分泌されていると言えます また 薬剤によって 神経活動の際に起こるニューロン間の接合部位であるシナプスからの神経伝達物質放出を阻害すると S100B の分泌量が減少しました このことから 神経活動に伴ってシナプスから放出された神経伝達物質をアストロサイトが感受して S100B の分泌が引き起こされていることが分かりました さらに アストロサイトに発現することが知られている代謝型グルタミン酸受容体 3 型 (mglur3) 8 を遮断すると S100B の分泌が阻害されることから S100B が分泌されるには mglur3 の活性化が重要であることが示唆されました 今回 S100B がアストロサイトからニューロンへのシグナル伝達物質として働き 脳内で神経活動を調節していることを世界で初めて発見しました また S100B の分泌には神経活動 とりわけシナプスからの神経伝達物質の放出と mglur3 の活性化が重要であることが分かりました さらに アストロサイトから細胞外に分泌された S100B による神経活動の調節は その受容体である RAGE の活性化を介した機構であることが示唆されました ( 図 2) 3. 今後の期待これまで グルタミン酸や ATP といった神経伝達物質がアストロサイトから放出され シナプス伝達効率を変化させることが知られていましたが アストロサイトから分泌されるタンパク質が神経活動を調節するという報告はありませんでした 今回の発見を足がかりに S100B というタンパク質がシナプス機能にどのように作用するのかを解明することにより グリア細胞 ニューロン間における相互作

用の新しい展開が生まれると期待できます また アルツハイマー病やてんかんなどの神経疾患患者の脳脊髄液中で S100B の濃度が高いことから 今後これらの神経疾患の予防や治療薬開発に寄与するものと注目されます ( 問い合わせ先 ) 独立行政法人理化学研究所脳科学総合研究センター平瀬研究ユニットユニットリーダー平瀬肇 ( ひらせはじめ ) Tel : 048-467-6918 / Fax : 048-467-9652 脳科学総合研究推進部鈴木一郎 ( すずきいちろう ) Tel : 048-467-9596 / Fax : 048-467-4914 ( 報道担当 ) 独立行政法人理化学研究所広報室報道担当 Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715 Mail : koho@riken.jp < 補足説明 > 1 グリア細胞神経系を構成するニューロンではない細胞の総称 アストロサイト オリゴデンドロサイト ミクログリアなどの細胞に分類される 2 アストロサイト中枢神経系に存在するグリア細胞の 1 つ 多数の微小突起を有し 形態が星状 ( アストロ ) に見えることからアストロサイトの名称を持つ アストロサイトの微小突起はニューロンとニューロンの接点であるシナプスを被覆する 3 カルシウム結合タンパク質カルシウムイオンと結合するタンパク質 カルシウム結合タンパクには多くの種類があり 細胞内のカルシウム濃度を緩衝するカルモジュリンや筋繊維にあるトロポニンなどが有名 4 グルタミン酸 ATP グルタミン酸は 哺乳類神経系において興奮性神経伝達物質として作用するアミノ酸である ATP は アデノシン三リン酸 (Adenosine TriPhosphate) の略 生体内で用いられるエネルギー保存および利用に関与するヌクレオチドである 5 海馬海馬は大脳辺縁系に属する脳の部位 脳の記憶や空間学習 空間認知に関わる

6 RAGE( 後期糖化最終産物受容体 ) AGE (advanced glycation endproducts: 後期糖化最終産物 ) と結合する受容体 S100B のほかにもがん転移に関与する HMGB1 タンパク質やアルツハイマー病で神経を破壊するアミロイド β タンパク質にも結合し 細胞内へシグナルを伝達する 7 ELISA Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay( 酵素免疫測定法 ) の略 抗原抗体反応を利用して試料中のタンパク質の濃度を定量する際に用いられる方法 8 代謝型グルタミン酸受容体 3 型 (mglur3) 代謝型グルタミン酸受容体は グルタミン酸と結合すると G タンパク質と共役し 細胞内のセカンドメッセンジャーを介して細胞にシグナルを伝達する 代謝型グルタミン酸受容体 3 型は 活性化されると環状アデノシン一リン酸 (camp) 産生を抑制する 図 1 海馬領域でのグリア細胞の分布 緑色と赤色は それぞれ S100B と GFAP( グリア細胞線維性酸性タンパク質 ) の免疫染色による局在を示す スケールバーは 50μm

図 2 アストロサイトからニューロンへの伝達物質 S100B のシグナル経路 1 シナプスから放出された神経伝達物質 ( グルタミン酸 ) は 2 代謝型グルタミン酸受容体 3(mGluR3) の活性化を介して 3S100B を細胞外に分泌する 4 分泌された S100B は その受容体 RAGE の活性化を介して 5 神経活動を調節する