ゲノム編集の医学への応 田中光一 東京医科歯科大学 難治疾患研究所
ゲノム編集とは? 遺伝子の配列を自在に改変する技術
A と T C と G がペア ( 相補性 ) 染色体と DNA
遺伝子から形質までの過程
ゲノム編集は 相同組換えを利用する 外来遺伝子 標的遺伝子非標的遺伝子 相同組み換え ランダムな挿入 外来遺伝子の分解 標的遺伝子の改変 非標的遺伝子の改変 遺伝子の改変無し
DNA の 2 本鎖切断は 相同組換え効率を上げる 外来遺伝子 1 本鎖切断 標的遺伝子 非標的遺伝子 相同組み換え (1000 倍 ) 2 本鎖切断 標的遺伝子の改変 (1983 年 Szostak がモデルを発表, 1994 年 Jasin が証明 )
ゲノム編集を効率化するには 標的遺伝子部位に DNA2 本鎖切断を起こさせる
どうやって標的部位に DNA 二本鎖切断を起こす のか? DNA を切断する酵素 (FokI) 標的部位を決める情報 ( 塩基配列 ) DNA 切断酵素を塩基配列の情報を基に 標的部位に近づける
どうやって標的部位に DNA 二本鎖切断を起こす のか? 特定の塩基配列を認識できる蛋白質がある DNA 切断酵素と標的部位の塩基配列を認識できる蛋白質を融合させた人工蛋白質を作成すればいい
どうやって標的部位に DNA 二本鎖切断を起こす のか? DNA 認識蛋白質 DNA 切断酵素 DNA 切断酵素 DNA 認識蛋白質 ヒトの DNA の長さ : 30 億塩基対 (3 x 10 9 ) 4 20 = 10 12 20 塩基を認識する DNA 認識蛋白質が必要 (5 -AGTGGGCCTAATCGCGGGTA-3 の配列が存在する確率が 1/10 12 )
ZFN や TALEN によるゲノム編集 第一世代 (1996 年 ) DNA 結合ドメイン : ジンクフィンガー 第二世代 (2010 年 ) DNA 結合ドメイン : 植物病原細菌が持つ転写因子様蛋白質 TALE
第 3 世代のゲノム編集技術 CRISPR/Cas9 システム (2012 年 ) 標的部位の認識 : 蛋白質 RNA DNA 切断酵素 :FokI Cas9
CRISPR/Ca s 9 システム 細胞の標的 DNA Cas9 DNA 分解酵素 crrna tracrrna crrna: 標的の塩基配列と相補的な配列を持つ RNA 塩基対合相互作用により標的 DNA と 2 重ラセン形成
クリスパー (CRISPR/Cas システム ) Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats (CRISPR)/CRISPR-associated genes (Cas) ( クラスター化反復短回文配列リピート / クリスパー関連遺伝子 ) クリスパー 中田篤男と石野良純が 1987 年に発見 CRISPR スペーサー リピート数とファージ感染への 抵抗性が相関する 石野良純教授 ( 現 九州大学 ) 細菌の抗ウイルスシステム?
CRISPR-Cas システムは細菌の免疫機構
Emmanuelle Charpentier Jennifer Doudna
CRISPR/Cas システムを用いたゲノム編集技術の誕生経過 CRISPR 研究 ( 細菌の免疫 ) ゲノム編集研究 Cas9 が RNA 依存性 DNA2 本鎖切断酵素であることの発見により 2 つの異なる研究分野が 2012 年に統合された
クリスパーのゲノム編集への応用 Science 2013 より引用 改変 人工一本鎖ガイド RNA (sgrna) ハサミ Cas9 標的に Cas9 を誘導 精密に標的を狙い撃つ分子のハサミ 標的 DNA 標的 DNA の切断遺伝子欠損 1. 非常に簡単 2. 強力な作用 3. どんな細胞や生物もOK
Dr. Feng Zhang (born 1982) is a PI at MIT and the Broad Institute Dr. Virginijus Šikšnys is a Professor at Vilnius University
遺伝子から形質までの過程
CRISPR/Cas9 システムの応用 基礎研究への応用 In vitroのゲノムワイドな遺伝子機能の解析 (CRISPRsgRNA library) In vivoの遺伝子機能の解析 ( 様々な遺伝子改変生物 ) 疾患研究や医療への応用 疾患モデル動物 細胞の作成と創薬への応用 遺伝子治療 安全な移植臓器の作成 マラリア デング熱 ジカ熱などの撲滅 食料生産への応用 品種改良に要する期間の短縮 高い付加価値や新規形質を持つ品種の作出 資源生産への応用 微生物や植物の品種改良による有用物質の生産効率改善 微生物や植物への新機能付加による有用物質の新規生産
CRISPR/Cas9 の疾患基礎研究への応用
緊急に克服すべき疾患 : 癌 糖尿病 認知症 うつ病 ( 多因子疾患 : 遺伝子因子と環境因子の相互作用で発症 ) 遺伝子因子の方が確実な結果を期待できる プレシジョン メディシン ( 精密医療 ) 万人の健康情報 ( ゲノム情報 病歴 生活習慣 ) を収集画期的な新薬開発を目指す 疾患に関与する遺伝子異常を 治療に結びつけるには 遺伝子の機能解析が必要である 疾患の遺伝子異常を再現したモデル動物が重要
CRISPR/Cas システムの開発により 疾患モデル動物の作成が加速した (Science 2012) 従来の作成方法 (1~2 年 ) CRISPR/Cas システム (1 ヶ月 )
従来の遺伝子治療の問題点 従来の遺伝子治療 : 正常な遺伝子を付加 ( 染色体のランダムに位置に遺伝子が挿入 ) 癌遺伝子の活性化により白血病が相次ぎ 中止 治療する細胞 ガン遺伝子の活性化 ガン化 ウイルス 標的部位に正常な遺伝子を挿入することにより 副作用の少ない正確な遺伝子治療が可能
CRISPR/Cas9 の医療への応用 1. 遺伝子治療 2. マラリアなどの感染症の撲滅 3. 移植臓器の作成
HIV-1/AIDS の治療 HIV-1がTリンパ球やマクロファージに感染し これら免疫細胞の機能を障害する HIVウイルス HIVウイルス ゲノム編集で CCR5 を破壊 HIV ウイルスの感染には CCR5 遺伝子が必須 HIV ウイルスは細胞に感染できない
AIDS 患者の遺伝子治療の概略 AIDS 患者 T リンパ球の採取 CCR5 の破壊 CCR5 欠損 T リンパ球を患者に戻す CRISPR/Cas システム
癌の免疫療法の効率化 CAR-T (Chimeric antigen receptor T-cell) 療法
Clinicaltrial.gov に登録されているゲノム編集を用いた臨床試験
ヒト受精卵の遺伝子治療 ( 変異遺伝子を正常に修復 )
遺伝子異常の種類と治療法 置換した塩基を正常に戻す 正常な遺伝子を挿入
ヒト受精卵にゲノム編集を応用した最初の例 ( 中国 2015 年 ) つの精子を受精した受精卵を用い -globin gene を標的にしたゲノム編集
ヒト受精卵における HBB 遺伝子の改変効率 オフターゲットの遺伝子改変
ゲノム編集のオフターゲット オフターゲット : 標的以外の場所を切断 オフターゲット オフターゲット オンターゲット オンターゲット オフターゲット
米国の国際幹細胞研究協会は 潜在的リスクの広範な科学分析が行われ それと並行して社会的 倫理的な影響に関する広範な一般討論を行う間 ヒトの臨床的なゲノム編集を試みることは中止すべき 英国の ヒト受精 発生学委員会 は ヒト受精卵の正常な発達に必要な遺伝子を調べる目的で ヒト受精卵のゲノム編集をすることを認めた 受精後 7 日以内の受精卵に改変を加え その影響を解析し 改変された受精卵は 14 日以内に廃棄する
ヒト 3PN 受精卵にゲノム編集を応用した 2 例目 ( 中国 2016 年 )
正常なヒト受精卵にゲノム編集を応用した最初の例 ( 中国 2017 年 )
正常なヒト受精卵にゲノム編集を応用した 2 番目の例 ( 米国 2017 年 ) ( 肥大型心筋症 )
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通常の遺伝子挿入 遺伝子ドライブ 抗マラリア遺伝子 Cas9 ガイド RNA ガイド RNA 抗マラリア遺伝子 Cas9 Cas9 ガイド RNA 受精卵に注入 受精卵に注入
通常の遺伝子挿入 雄 雌
遺伝子ドライブ
豚からの臓器移植 問題点 1. ウイルス感染 (porcine endogenous retrovirus) 2. 免疫拒絶
豚からの臓器移植 豚のゲノムにある 62 個のレトロウイルス全てを CRISPR/Cas9 技術で欠損した細胞株を作成 Genome-wide inactivation of porcine endogenous retroviruses Yang L, et al., Science 350:1101, 2015
egenesis
中内啓光教授
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