TMT/ 可視高分散分光器等による 系外地球型惑星の大気吸収探索 国立天文台 太陽系外惑星探査プロジェクト室 成田憲保
背景 目次 系外惑星の大気吸収探索の方法論 ホットジュピターに対する先行研究 トランジットサーベイの現状 TMT で可能になるサイエンス ターゲットとなる吸収線と達成可能な精度 検討結果と好ましい観測ターゲットについて 補足 (cf. CoRoT-7b の場合 ) (cf. 月食を用いた地球大気吸収の模擬観測 )
系外惑星のトランジット ( 食 ) 系外惑星の軌道が太陽系から見てたまたま主星の前を通過する場合 惑星の公転周期に同期した主星の減光が観測される 少しだけ減光する 月のトランジット ひのでによる 水星のトランジット 系外惑星のトランジット ( 空間的には分解できない ) 太陽系での食現象
トランジット惑星の大気吸収探索 主星 主星の光 惑星および外層大気 主星元素の吸収線 惑星由来の追加吸収 惑星の昼と夜の境目の部分を透過した光を分光し 惑星大気による吸収を調べることができる
初期の理論的予言 雲がないホットジュピターに対する透過光モデル -1.47% (base) -1.53% (base) -1.70% (peak) -1.71% (peak) Seager & Sasselov (2000) Brown (2001) 特に可視領域のナトリウム線や赤外の分子吸収バンドで 強い追加吸収が予想されていた 2009/7/28 5
追加吸収の強さの特徴 惑星による吸収が起こるのは惑星の外層大気のopacityが小さい円環部分 追加吸収量はおおざっぱに ~2πR p H / πr s2 T p / μ ρ p R 2 s H : 大気のスケールハイト T p : 惑星の温度 μ : 大気の分子量 ρ p : 惑星の密度 R s : 主星の半径 惑星の温度 密度 分子量と主星の大きさによる 実は惑星の半径や軌道長半径にはよらない 惑星の高層に雲があるかどうかで吸収量が大きく変わる 雲がないホットジュピターのモデルではナトリウムで~0.2% 雲があると追加吸収量は減る
雲がない状態 (cloudless)
上層に薄い雲 霞がかかった状態 (high cloud/haze)
上層に厚い雲がかかった状態 (high cloud decks)
雲の量と大気吸収の大きさ 雲の量が増えると 惑星大気を透過してくる光が減る ベースラインの減光量は増える 吸収線ごとの追加吸収量は小さくなる
ホットジュピターに対するこれまでの研究 可視領域の検出例 ナトリウム HST/STIS (Charbonneau+ 2002) 地上高分散分光 (Redfield+ 2008, Snellen+ 2008) 赤外領域の検出例 水蒸気 HST/NICMOS (Barman 2007) Spitzer/IRAC (Tinetti+ 2007) メタン Hubble/NICMOS (Swain+ 2008) 赤外の地上高分散分光はこれまでのところ成功していない
最初のナトリウム大気検出例 HD209458b のトランジットを HST/STIS で 4 回観測 ナトリウム線で 0.0232±0.0057% の追加吸収が報告された in transit out of transit Charbonneau et al. 2002 追加吸収量が雲のない理論モデルより著しく少ない 雲の存在?
最近の地上高分散分光によるナトリウム探索例 Snellen et al. 2008 Redfield et al. (2008) NN et al. in prep.
トランジット惑星サーベイの現状 CoRoT 2006/12/27 打ち上げ Kepler 2009/3/6 打ち上げ
初の系外地球型惑星 CoRoT-7b ライトカーブ Leger et al. (2009) 公転周期 :0.85 日 半径 :1.7 地球半径 質量 :4.8 地球質量 視線速度 Queloz et al. (2009)
背景のまとめ トランジット惑星に対して 大気の透過光分光ができる ホットジュピターでは地上高分散分光観測でナトリウムが検出できている TMT 完成までには多様な地球型惑星が発見されていると考えられる ( 赤外でも高分散分光が可能になれば分子探索が可能 )
TMT/ 高分散分光器での観測可能性 特に集光力が大きくなることで 達成できる SNR が上がる 木星型はもちろん 地球型惑星までターゲットになりうる 実績のある可視領域の高分散分光観測で系外地球型惑星のナトリウムD 線と特に面白いと言われる酸素 A 線の追加吸収の検出可能性を見積もった
すばる /HDS での実績 HD189733b の 1 時間のトランジット観測結果
すばる /HDS での実績 HD189733b の 1 時間のトランジット観測結果 V = 7.7 の K1 型星 1 時間のトランジット観測で SNR ~ 850 /pix @ 5893A 波長分解能 R ~ 120000 (0.3 slit) continuum 領域を用いてblaze functionを補正 CCDの非線形性を補正 トランジット外も同程度の時間観測 ナトリウムD 線を積分すると SNR ~ 7000 となった ほぼポアソンノイズを達成
TMT にスケーリングすると すばる /HDSの1 時間の観測で SNR ~ 7000 (V=7.7) 公転周期が数十日以上の惑星は1 晩中トランジットする トランジット観測時間は 8 時間以上 ( ただし 別の日にトランジット外データを撮る必要あり ) TMTの口径はすばるの約 3.6 倍 SNR は約 10 倍の ~70000が達成できる (~0.0014%)
地球型にスケーリングすると 雲のない大気モデルでホットジュピターは ~0.2% の追加吸収 T p / μ ρ p R 2 s の関係式を用いると 地球は ~0.01% ( ただし 正確には地球型惑星の大気モデルを解くべき ) V=9 くらいまでの主星なら雲の有無の判断は可能 雲が少なければナトリウムを検出することも可能
酸素追加吸収は見えるか? 地球の場合 ナトリウムより酸素吸収の方が顕著に検出された Palle et al. (2009) 月食を用いた地球大気の透過光分光の結果
拡大図 地球と同じような大気組成の惑星があれば ナトリウムより酸素の方が追加吸収が顕著かもしれない ( なお この観測は R~960 程度で SNR~200 程度 )
解析方法の課題 こんなに簡単にできるだろうか?
解析方法の課題 問題点 地球大気の広くて強い吸収に埋もれている SNRが小さい 波長分解能が低いと大気吸収線同士がブレンドする continuum 領域が少ない (blaze functionの補正が難しい ) Instrumental Profileが時間変化する 解決策? 波長分解能をできるだけ高く設定する 固有視線速度の大きな主星だと有利 高速自転星 +ヨードセルなどでIPを測定してdeconvolution
検討結果のまとめ TMT/ 可視高分散分光器を用いると V=9 より明るい主星の地球型惑星は雲の有無を確認できそう 酸素については 解析は難しそうだがやる価値はあるかも 好ましいターゲットは 主星が小さいほどよい (K 型星 M 型星など ) 主星の固有視線速度が大きいほどよい (SNRが上がる) 惑星の密度が小さいほどよい ( オーシャンプラネットなど ) 2018 年までの課題 透過光分光のスキルアップ ( 特に酸素 A 線に対して ) 地球型惑星の大気モデルから透過光のモデル計算が必要 そのテンプレートとなる月食の追加観測が必要
補足スライド
CoRoT-7b は CoRoT-7b に対する透過光分光 主星の CoRoT-7 は V=11.7 の K0V 型星 公転周期 0.85 日 軌道長半径 0.0172 AU 質量 4.8 地球質量 半径 1.7 地球半径 ほぼ地球密度 昼側の平衡温度は2500 K ( 酸化物などが蒸発する ) 惑星から流出するさまざまな原子大気が見える可能性 すばる /HDS では SNR が低くて見込みが薄い 達成できる SNR が 1 トランジットで ~300/pix 以下 TMT/ 可視高分散分光器だとこのサイエンスが可能となる
月食中の月に映るもの この赤い光は何か? (2000 年 7 月ぐんま天文台 )
赤い光 = 地球の透過光 地球大気を透過してきた光が月に映ることで赤く見える 太陽 月 地球 月食中の赤い光を分光することで地球の模擬観測が可能 理論が合わせるべきテンプレートスペクトルを取得できる
cf. 地球照 (Earthshine) 地球に反射した光が新月に映った光 太陽 月 地球 地球照を分光することで地球の反射光の観測が可能
光 赤外同時分光観測 Palle et al. (2009) 2008 年 8 月 16 日部分月食 カナリア諸島 La Palma Observatory 2.5m Nordic Optical Telescope (optical) 4.2m William Herschel Telescope (IR/ZJ,HK band) 合わせて0.3 2.5μm 同じセットアップで地球照をreferenceとして観測 HITRAN などの line-list で分子線の同定
可視領域 : 検出された原子 分子 Ca II, O 3, O 2, H 2 O, O 4, + NO 2 ( 未同定 ) Ca II は電離圏のイオン? Na D 線は検出できなかった 赤外領域 : O 2, H 2 O, CO 2, O 2 -O 2, O 2 -N 2, (ZJ band) H 2 O, CO 2, CH 4 (HK band) 地球照との比較 地球照でもほぼ同じ分子を検出できた Ca II, O 2 -O 2, O 2 -N 2 などは月食でのみ顕著な吸収 どのくらいの高度の吸収を見ているのかによる 解釈するための精密なモデルが必要