【参考資料1】結核菌病原体サーベイランスシステムと現状

Similar documents
4 月 17 日 4 医療制度 2( 医療計画 ) GIO: 医療計画 地域連携 へき地医療について理解する SBO: 1. 医療計画について説明できる 2. 医療圏と基準病床数について説明できる 3. 在宅医療と地域連携について説明できる 4. 救急医療体制について説明できる 5. へき地医療につ

手順書03

2012 年 2 月 29 日放送 CLSI ブレイクポイント改訂の方向性 東邦大学微生物 感染症学講師石井良和はじめに薬剤感受性試験成績を基に誰でも適切な抗菌薬を選択できるように考案されたのがブレイクポイントです 様々な国の機関がブレイクポイントを提唱しています この中でも 日本化学療法学会やアメ

する 研究実施施設の環境 ( プライバシーの保護状態 ) について記載する < 実施方法 > どのような手順で研究を実施するのかを具体的に記載する アンケート等を用いる場合は 事前にそれらに要する時間を測定し 調査による患者への負担の度合いがわかるように記載する 調査手順で担当が複数名いる場合には

平成 28 年度感染症危機管理研修会資料 2016/10/13 平成 28 年度危機管理研修会 疫学調査の基本ステップ 国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース (FETP) 1 実地疫学調査の目的 1. 集団発生の原因究明 2. 集団発生のコントロール 3. 将来の集団発生の予防 2 1

Microsoft Word - <原文>.doc

【資料1】結核対策について

料 情報の提供に関する記録 を作成する方法 ( 作成する時期 記録の媒体 作成する研究者等の氏名 別に作成する書類による代用の有無等 ) 及び保管する方法 ( 場所 第 12 の1⑴の解説 5に規定する提供元の機関における義務 8 個人情報等の取扱い ( 匿名化する場合にはその方法等を含む ) 9

9 中止基準 ( 研究対象者の中止 研究全体の中止について ) 10 研究対象者への研究実施後の医療提供に関する対応 通常の診療を超える医療行為 を伴う研究を実施した場合 研究実施後において 研究対象者が研究の結果より得られた利用可能な最善の予防 診断及び治療が受けられるように努めること 11 研究

H26_大和証券_研究業績_C本文_p indd

<34398FAC8E998AB490F55F DCC91F092CA926D E786C7378>

第 88 回日本感染症学会学術講演会第 62 回日本化学療法学会総会合同学会採択演題一覧 ( 一般演題ポスター ) 登録番号 発表形式 セッション名 日にち 時間 部屋名 NO. 発表順 一般演題 ( ポスター ) 尿路 骨盤 性器感染症 1 6 月 18 日 14:10-14:50 ア

よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎

第51回日本小児感染症学会総会・学術集会 採択結果演題一覧

<4D F736F F D A835E838A F8B7982D18AC48DB85F20534F A68CEB8E9A E9A8F4390B38DCF2

子宮頸がん予防措置の実施の推進に関する法律案要綱

浜松地区における耐性菌調査の報告

埼玉医科大学倫理委員会

(案の2)

<4D F736F F D20819B8CA48B868C7689E68F D A8CA9967B5F E646F63>

結核発生時の初期対応等の流れ

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

研究課題名 臨床研究実施計画書 研究責任者 : 独立行政法人地域医療推進機構群馬中央病院 群馬県前橋市紅雲町 1 丁目 7 番 13 号 Tel: ( 内線 )Fax: 臨床研究期間 : 年月 ~ 年月 作成日 : 年月日 ( 第 版

褥瘡発生率 JA 北海道厚生連帯広厚生病院 < 項目解説 > 褥瘡 ( 床ずれ ) は患者さまのQOL( 生活の質 ) を低下させ 結果的に在院日数の長期化や医療費の増大にもつながります そのため 褥瘡予防対策は患者さんに提供されるべき医療の重要な項目の1 つとなっています 褥瘡の治療はしばしば困難

検討課題の整理 1 第 1 回合同会議での意見及びその後委員から提出された意見を 第 1 回合同会議の 検討の進め方 ( 下記参照 ) に沿って分類 第 1 回合同会議資料 合同会議における検討の進め方 の抜粋 合同会議においては 以下の順で検討を進める (1) ゲノム指針と医学系指針との条文の整合

中医協総会の資料にも上記の 抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス から一部が抜粋されていることからも ガイダンスの発表は時機を得たものであり 関連した8 学会が共同でまとめたという点も行政から高評価されたものと考えられます 抗菌薬の適正使用は 院内 と 外来 のいずれの抗菌薬処方におい

(4) 薬剤耐性菌の特性解析に関する研究薬剤耐性菌の特性解析に関する知見を収集するため 以下の研究を実施する 1 家畜への抗菌性物質の使用と耐性菌の出現に明確な関連性がない家畜集団における薬剤耐性菌の出現又はこれが維持されるメカニズムについての研究 2 食品中における薬剤耐性菌の生残性や増殖性等の生

BSL4の稼働合意について

耐性菌届出基準

48小児感染_一般演題リスト160909

事業者名称 ( 事業者番号 ): 地域密着型特別養護老人ホームきいと ( ) 提供サービス名 : 地域密着型介護老人福祉施設 TEL 評価年月日 :H30 年 3 月 7 日 評価結果整理表 共通項目 Ⅰ 福祉サービスの基本方針と組織 1 理念 基本方針

る として 平成 20 年 12 月に公表された 規制改革推進のための第 3 次答申 において 医療機器開発の円滑化の観点から 薬事法の適用範囲の明確化を図るためのガイドラインを作成すべきであると提言したところである 今般 薬事法の適用に関する判断の透明性 予見可能性の向上を図るため 臨床研究におい

平成19年度 病院立入検査結果について

別紙様式 (Ⅴ)-1-3で補足説明している 掲載雑誌は 著者等との間に利益相反による問題が否定できる 最終製品に関する研究レビュー 機能性関与成分に関する研究レビュー ( サプリメント形状の加工食品の場合 ) 摂取量を踏まえた臨床試験で肯定的な結果が得られている ( その他加工食品及び生鮮食品の場合

4 研修について考慮する事項 1. 研修の対象者 a. 職種横断的な研修か 限定した職種への研修か b. 部署 部門を横断する研修か 部署及び部門別か c. 職種別の研修か 2. 研修内容とプログラム a. 研修の企画においては 対象者や研修内容に応じて開催時刻を考慮する b. 全員への周知が必要な

【資料2】最近の結核対策(最終)

名称未設定

染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

Taro-再製造単回使用医療機器基準

資料2 ゲノム医療をめぐる現状と課題(確定版)

3.2013/14シーズンのインフルエンザアップデート(12/25現在)

結核罹患率の推移 人口 10 万対率 1000 全結核 結核緊急事態宣言 1999 * 罹患者定義の変更 * 罹患者定義の変更 100 * 10 塗抹陽性肺結核 喀痰塗抹陽性肺結核 年

( 様式第 6) 病院の管理及び運営に関する諸記録の閲覧方法に関する書類 病院の管理及び運営に関する諸記録の閲覧方法 計画 現状の別 1. 計画 2. 現状 閲 覧 責 任 者 氏 名 閲 覧 担 当 者 氏 名 閲覧の求めに応じる場所 閲覧の手続の概要 ( 注 ) 既に医療法施行規則第 9 条の

PowerPoint プレゼンテーション

2015 年 9 月 30 日放送 カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE) はなぜ問題なのか 長崎大学大学院感染免疫学臨床感染症学分野教授泉川公一 CRE とはカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症 以下 CRE 感染症は 広域抗菌薬であるカルバペネム系薬に耐性を示す大腸菌や肺炎桿菌などの いわゆる

薬剤耐性とは何か? 薬剤耐性とは 微生物によって引き起こされる感染症の治療に本来有効であった抗微生物薬に対するその微生物の抵抗性を言う 耐性の微生物 ( 細菌 真菌 ウイルス 寄生虫を含む ) は 抗菌薬 ( 抗生物質など ) 抗真菌薬 抗ウイルス薬 抗マラリア薬などの抗微生物薬による治療に耐えるこ

岩手医科大学医学部及び附属病院における人を対象とする医学系研究に係るモニタリング及び監査の実施に関する標準業務手順書 岩手医科大学医学部及び附属病院における 人を対象とする医学系研究に係る モニタリング及び監査の実施に関する標準業務手順書 岩手医科大学 第 1.0 版平成 29 年 10 月 1 日

2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

Microsoft PowerPoint - 参考資料4 【1202最終版】サーベイランス概要

国際的な人の移動の活発化に伴い 国内での感染があまり見られない感染症について 海外から持ち込まれる事例が増加している デング熱などの蚊が媒介する感染症 ( 以下 蚊媒介感染症 という ) についても 海外で感染した患者の国内での発生が継続的に報告されている 我が国においては 平成二十六年八月 デング

症候性サーベイランス実施 手順書 インフルエンザ様症候性サーベイランス 編 平成 28 年 5 月 26 日 群馬県感染症対策連絡協議会 ICN 分科会サーベイランスチーム作成

スライド 1

(3) 利用 保管方法 要介護認定情報等の申出にて発生する厚生労働省 大学内での倫理審査の文書 研究方法のマニュアル等は 研究室で適切に管理する 厚生労働省より提供を受けた要介護認定情報等の保存媒体の保管場所は 研究室の戸棚に保管し 施錠する 要介護認定情報等の利用場所は 研究室のみとする サーバ室

12_モニタリングの実施に関する手順書 

公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

スライド 1

スライド 1


アレルギー疾患対策基本法 ( 平成二十六年六月二十七日法律第九十八号 ) 最終改正 : 平成二六年六月一三日法律第六七号 第一章総則 ( 第一条 第十条 ) 第二章アレルギー疾患対策基本指針等 ( 第十一条 第十三条 ) 第三章基本的施策第一節アレルギー疾患の重症化の予防及び症状の軽減 ( 第十四条

<95E58F578E968BC688EA BBB81458DC48BBB8AB490F58FC782C991CE82B782E98A E396F A4A94AD CA48B868E968BC6292E786C7378>

移植治療による効果と危険性について説明し 書面にて移植の同意を得なければならない 意識のない患者においては代諾者の同意を得るものとする 6 レシピエントが未成年者の場合には 親権者からインフォームド コンセントを得る ただし 可能なかぎり未成年者のレシピエント本人にも分かりやすい説明を行い 可能であ

< F2D817988C482C682EA94C5817A895E97708E77906A2E6A7464>

別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

医療機関における診断のための検査ガイドライン

SGEC 附属文書 理事会 統合 CoC 管理事業体の要件 目次序文 1 適用範囲 2 定義 3 統合 CoC 管理事業体組織の適格基準 4 統合 CoC 管理事業体で実施される SGEC 文書 4 CoC 認証ガイドライン の要求事項に関わる責任の適用範囲 序文

地方衛生研究所におけるカルバペネム耐性腸内細菌科細菌検査の現状 薬剤耐性研究センター 第 1 室 鈴木里和

< F2D816994D48D FA957493FC816A >

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

<4D F736F F D20926E C5E B8FC797E192E88B CC8DC489FC92E88E9696B D2E646F63>

523 Kekkaku Vol. 86, No. 5 : 523_528, 2011 薬剤耐性結核の医療に関する提言 日本結核病学会治療委員会 社会保険委員会 抗酸菌検査法検討委員会 薬剤耐性結核 特に多剤耐性結核は 治癒率が低く治 その基礎的 臨床的有用性については多くの報告がなさ 癒したとしても

PowerPoint プレゼンテーション

一について第一に 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号 以下 感染症法 という )第十二条の規定に基づき 後天性免疫不全症候群(以下 エイズという )の患者及びその病原体を保有している者であって無症状のもの(以下 HIV感染者 という )(以下 エイズの患者等

質の高い病理診断のために 病理技術 診断基準の標準化を 目指した精度評価を実現します

Taro-H24.10.jtd

オクノベル錠 150 mg オクノベル錠 300 mg オクノベル内用懸濁液 6% 2.1 第 2 部目次 ノーベルファーマ株式会社

事務連絡 令和元年 6 月 21 日 ( 公社 ) 岡山県医師会 ( 一社 ) 岡山県病院協会 御中 岡山県保健福祉部健康推進課 手足口病に関する注意喚起について このことについて 厚生労働省健康局結核感染症課から別添のとおり事務連絡が ありましたので 御了知いただくとともに 貴会員への周知をお願い

スライド 1

<4D F736F F D208DBB939C97DE8FEE95F18CB48D EA98EE58D7393AE8C7689E6816A2E646F63>

●子宮頸がん予防措置の実施の推進に関する法律案

平成28年度 第1回 臨床研究に関する研修会

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

法律第三十三号(平二一・五・一)

平成 26 年度微生物リスク管理基礎調査事業 ( 分離菌株の性状解析 ) 委託事業仕様書 1 事業の趣旨 ( 目的 ) 本事業は 食品媒介有害微生物を原因とする食中毒のリスク管理措置を検討するため 家畜の糞便等から分離されたカンピロバクター属菌株 サルモネラ属菌株 リステリア モノサイトジェネス菌株

1. 研究の名称 : 芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍の分子病理学的研究 2. 研究組織 : 研究責任者 : 埼玉医科大学総合医療センター病理部 准教授 百瀬修二 研究実施者 : 埼玉医科大学総合医療センター病理部 教授 田丸淳一 埼玉医科大学総合医療センター血液内科 助教 田中佑加 基盤施設研究責任者

近年患者数が多く公衆衛生上の重要性が増しているノロウイルスについて ヒトへの 感染経路における食品 ( カキを中心とした二枚貝とその他の食品別 ) の寄与率やヒトの 症状の有無による食品への汚染の程度を明らかにする研を実施する 2 調査事業 (1) 食品用器具 容器包装に用いられる化学物質のリスク評

東京大会と感染症サーベイランス ~ 普段とどこがちがうのか ~ 疾患疫学が変化する可能性 多数の訪日外国人の流入 多くのマスギャザリングイベント 事前のリスク評価に基づいたサーベイランスと対応の強化の必要性を検討する 体制構築の観点から 行政と大会組織委員会の責任範囲と協力体制の構築が必要 国内移動

Microsoft Word - todaypdf doc

Microsoft Word 【医学系指針】ガイダンス(溶け込み)

Photo Report

Microsoft Word - 【要旨】_かぜ症候群の原因ウイルス

平成 22 年第 2 四半期エイズ発生動向 ( 平成 22(2010) 年 3 月 29 日 ~ 平成 22(2010) 年 6 月 27 日 ) 平成 22 年 8 月 13 日 厚生労働省エイズ動向委員会

◎外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律

Microsoft PowerPoint - 【資料9-2】春日伸予委員提出資料

「蛋白質発現・相互作用解析技術開発」産業科学技術研究開発基本計画

遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律の概要 目的国際的に協力して生物の多様性の確保を図るため 遺伝子組換え生物等の使用等の規制に関する措置を講ずることにより 生物多様性条約カルタヘナ議定書 ( 略称 ) 等の的確かつ円滑な実施を確保 主務大臣による基本的事項の公表 遺

Microsoft Word - *Xpert Flu検討 患者用説明書 修正.docx

untitled

別紙様式 (Ⅱ)-1 添付ファイル用 本資料の作成日 :2016 年 10 月 12 日商品名 : ビフィズス菌 BB( ビービー ) 12 安全性評価シート 食経験の評価 1 喫食実績 ( 喫食実績が あり の場合 : 実績に基づく安全性の評価を記載 ) による食経験の評価ビフィズス菌 BB-12

取組みの背景 これまでの流れ 平成 27 年 6 月 日本再興戦略 改訂 2015 の閣議決定 ( 訪日外国人からの 日本の Wi-Fi サービスは使い難い との声を受け ) 戦略市場創造プラン における新たに講ずべき具体的施策として 事業者の垣根を越えた認証手続きの簡素化 が盛り込まれる 平成 2

表1-4.ai

Transcription:

1 参考資料 1 結核菌病原体サーベイランスシステムと現状 御手洗聡 結核予防会結核研究所抗酸菌部 Professor/Head, Department of Reference and Research, Research Institute of Tuberculosis

2 感染症サーベイランスの目的 感染症の動態を明らかにし 国民が疾病に罹患しないよう情報を提供すること 新たな流行の把握 感染症 ( 状況 ) の推移 疾病側 ( 患者 ) 発生状況 リスクグループ 因子 治療経過 集団感染 病原体側 ( 微生物 ) 特定の株の流行 薬剤耐性情報 対策のモニタリングと評価

3 病原体サーベイランスの必要性 分子疫学調査 感染動態の把握 未解明感染ルートの発見 薬剤耐性の現状把握 標準治療法の設定のための情報 耐性の予防及び研究 公衆衛生上の意識の亢進 薬剤耐性状況の推移の把握 結核対策の正否の評価 新薬開発への情報提供

4 日本を含む西太平洋地域における多剤耐性 MDR-TB in Western Pacific Region (2002-2007) Tomsk Oblast(2005) N: 15.0% P: No data 中国全土 (2007) N: 5.7% P: 25.6% モンゴル (2007) N: 1.4% P: 27.5% 内モンゴル自治区 (2002) N: 7.3% P: 41.9% 北京市 (2004) N: 2.3% P: 11.7% 上海市 (2005) N: 3.9% P: 12.4% 香港 (2005) N: 0.9% P: 8.0% 黒竜江省 (2005) N: 7.2% P: 30.4% フィリピン (2004) N: 4.0% P: 20.9% 日本 (2007) N: 0.4% P: 4.1% N: New P: Previously treated インドネシア (2004) N: 2.0% P: No data The WHO/IUATLD Global Project on Anti-Tuberculosis Drug Resistance Surveillance. Anti-Tuberculosis Drug Resistance in the World. Report No. 4. 2008. Geneve. WHO/HTM/2008.394.

5 病原体サーベイランスの効果 分子疫学 集団感染の有無の判断 集団感染事例間の関連性の確認も可能 タイピング情報のデータベースを集積し 患者間の疫学的情報と併せて分析することにより 感染の地域や集団に対する集積性や地域内の伝搬状況の詳細を知ることも可能 データベースを集積して系統的に解析することにより 疫学的に高病原性と考えられる菌株の存在を特定することも可能と考えられ 迅速なタイピング技術と併用すれば接触者健診範囲の正確な設定など 結核対策への積極的応用も考えられる 薬剤耐性 薬剤耐性の推移を観察することにより 結核対策の適正性を評価可能 新たな耐性結核の流行 ( 流入 ) が把握可能 耐性結核菌株の解析による診断法 対策等の開発が可能

6 日本の結核疫学的特異性 分子疫学的調査の前提として 罹患率や有病率などの疫学的パラメーターがある程度以下であることが必要と思われる 結核菌は基本的に多重感染するため 高蔓延状況下で個人が何度も感染にさらされる環境では感染ルートの解明上の有用性が低下すると考えられる 低蔓延状況下で一対一対応の感染が想定される状況であれば 感染性の情報も信頼性が高くなり さらにクラスター形成率等の情報も解釈が容易となる 反対に 病原性 について考えるのであれば ある程度高まん延状況下で 個別の事例に関する感染要因が希釈された状況での 集団的感染動態 が結核菌の病原性を反映していると言えるかも知れない 結核中蔓延状況にある日本は それらの意味で世界的に大変にユニークであり システムの構築に数年はかかることを考慮すると 今この時点から広域的分子疫学データベースの構築を開始しなければ重要な科学的知見を失ってしまうであろう

7 結核菌病原体サーベイランスの因子 網羅的病原体 ( 結核菌 ) サーベイランスの構築には少なくとも四つの因子が必要と考えられる 病原体( 結核菌 ) の分離同定と保存 統一 標準化された解析方法( 精度保証を含む ) と実施機関の確保 分子疫学情報と臨床情報のリンク 情報を利用し医学的に介入するシステム( エフェクター )

8 病原体サーベイランスシステム 感染症疫学状況の継続的モニタリングと評価による永続的状況改善 状況評価 疾病状況 臨床診断 医学的介入 正確な検査 大規模サーベイ問題! 情報解析 情報収集

9 病原体 ( 結核菌 ) サーベイランスの現状 1. 診断 病原体の分離と保存 日本では結核菌の分離と保存は病院検査室あるいは検査センターで主に行われている 患者管理のためであり 基本的に公衆衛生上の用途ではない 結核菌は基本的に四種病原体等に分類され 検査室のバイオリスク対策が求められ 菌の保管にも管理区域内での施錠可能な保管庫が必要である 多剤耐性結核菌 ( 三種病原体 ) の所持には施設基準を満たした上で厚生労働大臣への届出が必要である 譲渡されない限り滅菌廃棄される 結核菌 ( 分離菌 ) の生菌としての移動は四種以外容易でない 三種病原体の移動には公安の許可と適切な運搬体制が必要 発送が免許制でないため 梱包の精度も不確定

10 病原体 ( 結核菌 ) サーベイランスの現状 2. 実施方法と施設の確保 分子疫学 ( 遺伝子タイピング 耐性遺伝子等 ) 方法の標準化ができていない ( 事実上 JATA-12/-15?) 地域を越えた比較 あるいはそのためのデータベースができていない どの程度の 地域的範囲 をユニット ( 効果的範囲 ) とすべきかも評価さ れていない 薬剤耐性 ( 薬剤感受性試験 ) 病院あるいは検査センターにおいてデータは日々量産されているが こ れを効率的に収集 解析するシステムがない 遺伝子タイピング 薬剤感受性試験共に精度保証システム ( 内部精度管理 外部精度評価 訓練機構 ) が存在しない

11 薬剤感受性検査外部精度評価における基準達成施設率 0 20 40 60 80 100 (%) 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 56.3 54.1 66.7 65.2 63.4 75.6 84.1 84.3 日本結核病学会抗酸菌検査法検討委員会が行った結核菌薬剤感受性検査外部精度評価によると 2004 年から 2011 年までの評価において基準 ( イソニアジドとリファンピシンの感度 特異度が 95% 以上 ストレプトマイシンとエタンブトールを含む 4 薬剤の全てで一致率 90% 以上 ) を満足した施設の割合は 54.1 84.3% であった ( 年度毎に参加施設数は異なる )

12 結核菌病原体サーベイランスの現状 3. 分子疫学情報と臨床情報のリンク 感染症法第 15 条を根拠とすれば 感染症の発生状況 動向及び原因に関する調査 の基礎的要件として分子疫学調査を実施することは可能 研究として実施されている場合は 疫学研究に関する倫理指針 を遵守する必要があり 原則的に個人の特定が可能な情報を収集しようとする場合 事前に対象者からインフォームド コンセントを得る必要がある インフォームド コンセントを前提とすると 必要な病原体 疫学情報リンクが得られない場合がありうる

13 病原体サーベイランスシステムの利益と課題 接触者 接触者 接触者健診上有用な感染動態情報の提供 薬剤耐性機構や毒力解析 新技術開発のための試料 情報提供 接触者 結核患者 タイムリーな薬剤耐性情報 病原体と臨床情報 病原体サーベイランスシステム ( 解析 評価 還元 ) 結核対策の適正性の評価 適切な精度保証合理的な検査方法の確立予算 人材確保バイオリスク管理

14 病原体 ( 結核菌 ) サーベイランスのためのステップ 多剤耐性結核菌の三種病原体等指定の見直し 最も重要な解析対象を失わないための基本的条件 標準的遺伝子タイピング法の設定 広域での有用性を評価するには 暫定的でも標準的方法が必要 広域 ( 自治体を超えた範囲 ) での遺伝子タイピングデータの利用価値の評価 行政調査としての実施 研究を前提としない検体 情報収集 精度保証 ( 感受性試験 遺伝子タイピング ) の必要性 検査室の精度がわからない状態での病原体サーベイランスは質的に問題

15 地域サーベイランスのネットワーク化 A B E A B C D C 階層構造 情報の集積が容易 レファレンス経路が明確 分業化が可能 組織が硬直化しやすい? 相互接続構造 地域間の参照が容易 バックアップ体制の構築が比較的容易 ネットワークへの予算措置 レファレンス機能?

Thank you. 16