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(1) 体育・保健体育の授業を改善するために

Transcription:

42 大学に赴任して間もなく二年目が終わろうとしている 学生相手は楽しいが 教育のプロではない すなわち 教育に関するトレーニングを受けているわけではない素人の筆者が その教育を担当しているということに違和感も感じつつ 試行錯誤が続いている もっとも 大学は学びたい者が学ぶところなのか 入学した学生をムリヤリにでも教育するところなのか これは今日的な 根源的な問いである 筆者は 学習したい者が好きなことを学習すればいい という前者のスタンスでいたいと思うが(例えば 出席など取らずともよいと思うが) 学生の期待は後者かも知れないし 社会的にも大学の役割は変わってきているようである 前者であれば教育の技術は必要ないかも知れないが 後者であれば効率的に知識を伝達する技術や学生の潜在能力を高める技術をきちんと習得することも必要となるだろう この問題は 就職あるいはカリキュラムという問題とも関連する 筆者の所属する環境システム工学科は いわゆる 持続可能な開発のための教育 ( サステナ教育?とでも言おうか)の一翼を担うような教育を行うコースであるが この二年間の学生たちの就職活動や実際の就職先を見ると この分野の人材の需要と供給には大きなギャップがある 自身を振り返って 筆者が衛生工学科という学科で学んだ時代を思い起こしてもそうであるが 学生たちの話を聞いていると 自分の専門分野の説明に苦戦しているようである 例えば 水の処理に関しては物理 化学だけでなく生物の知識が必要となる また 環境問題の解決には経済学の素養も必要であるとして 当学科の学生は経済学についても学ぶ 結果として 広く浅く の学習となり 専門性が主張しにくい また 土木 や 建築 などと違って 環境 や サステ特集サステイナビリティ研究の国際的新展開サステナ教育? の奮闘橋本征二はしもとせいじ立命館大学理工学部教授 ( 専門は, 環境システム工学, 資源 廃棄物管理 )

43 ナビリティー は専門分野としての大きな労働市場がなく 大学で学んだことが直接的には活かされない業界に就職する学生が多い もっとも 物事は見方によって変わるのが世の常である 環境問題の解決に向けては 社会の様々な主体がそれぞれの立場で取り組みを進めていかねばならないという視点に立てば そのような教育を受けた学生が様々な業界に就職していくことは むしろ評価されるべきことである ただ 仕事と教育を直接結びつけるのであれば 当学科で何を教えるべきか(広く言えば サステナ教育で何を教えるべきか) つまりカリキュラムの内容について 継続的に考え議論していかなければならない 筆者の頭は まだその一歩を踏み出したところにある 一方で 教育とはそもそも何なのか 専門的な知識を習得することももちろん重要なのだが 必要となる知識や技術は時代や役割とともに変化するものである とすれば 重要なのは その時々で必要となる知識を習得するための幅広い素養であり それを習得しようとする意欲や能力である また 長い人生においては様々な問題に直面することになるだろうが それを乗り越えられると思えるような経験を持っていることが重要であると思う 実は 大学に赴任して一年目の一〇月 研究室配属の募集にあたって そのような思いをベースに置きながら研究室の運営方針を作り これを研究室の案内に掲載した(現在はウェブサイトでも公開している) これは 研究室での活動を通じて磨きたい 三つの力 と そのための環境作りとしての 六つの運営方針 から成る(図1) 高めたい 三つの力 としては 1自ら問題を見つけ 対応を考え 改善の方向を導く能動力 2様々な事柄の相互関係を考慮できるシステム思考力 3コミュニケーション力と国際感覚 を掲げた 1の自ら考え動く力は 今最も求められている能力と言えるだろう 課題を見つけ 解決策を見いだし それを実行する この一連の力は生きる力であり 得られる達成感は生きる喜びでもある 2は 論理的な思考力のことであり 全体像を把握することで今まで見えなかったものを見通せるような力のことである 様々な事柄が複雑に絡み合う環境問題は このような能力を磨くには格好の材料と言える 3のコミュニケーション力には 文章力 プレゼンテーション力 対話力 英語力などが含まれる また 国際化する時代においては 単なる言葉の理解力だけでなく 異なる価値観の受容力も大切である 本エッセイを執筆するにあたり 持続可能な開発のための教育 について少し調べた これも壮大な教育であると思うが そもそも何を目標としているのか 例えば 政府が策定した 我

44 が国における 国連持続可能な開発のための教育の10 年 実施計画 における 育みたい力 を見てみると 問題や現象の背景の理解 多面的かつ総合的なものの見方を重視した体系的な思考力 批判力を重視した代替案の思考力 データや情報を分析する能力 コミュニケーション能力 リーダーシップ 人間の尊重 多様性の尊重 非排他性 機会均等 環境の尊重といった持続可能な開発に関する価値観 市民として参加する態度や技能 などが挙げられている 結果論ながら 研究室で掲げている 三つの力 はこれらと整合しているようである 実のところ これらの力は環境問題の解決やサステナビリティーの実現に必要というだけでなく 企業の採用担当者が求める一般的 普遍的な力でもある 日常の講義や実習も そのような力を高めることを背後に置きながら行うべきものであり 極論すれば 学習している知識や技術はその力を高めるための材料と言ってもいいだろう このような考えのもと 三つの力 を磨く環境作りとして 六つの運営方針 を掲げた 折角与えられた機会なので これについても紹介して読者のご意見を仰ぎたい まず 研究室の運営をできるだけ学生主体で行う ことである ゼミの準備や司会者 報告者の調整 合同ゼミの準備や各種イベントの開催 学生研究室の物品管理や環境改善など 学生主体で行い 大学院生や教員がこれをサポートする これにより 1能動力や3コミュニケーション力を磨く 次に 早く卒業研究 修士論文に着図 1 研究室で掲げた 3 つの力と 6 つの運営方針.

45 手し 試行錯誤する時間をつくる 最初の方針と同じく 研究も自主性に基づいて行う 悩む時間をたくさん作り 教員はできるだけ疑問を投げかけ 学生は自らそれに答えるように努力する これにより 1能動力や2システム思考力を高める 三つ目には 事件は会議室で起きてるんじゃない 現場で起きてるんだ! を旨とする を掲げているが この方針は学生の印象にも残るようだ 研究を進める上では 現場に足を運んで観察し あるいは様々な人と対話するように仕向けている 良いものは 机上の空論と現場の制約が行ったり来たりしてできあがるからである これには 三つの力 全てが関連する 四つ目の システム思考に基づいて政策 企画の立案と評価に貢献する研究を行う は システム をその名に掲げる環境システム工学科として重要な方針と考えている 表面的な現象だけでなく その背後にある様々な事象を考慮して システム思考 で政策の立案や評価に貢献する研究を行っていく これには 1能動力や2システム思考力が関連する 五つ目は 年に数回 他大学との合同ゼミを開催し 卒業 修了までに学会発表する である 合同ゼミや学会では 普段とは全く違った視点で意見をもらうことができ また 普段接していない人にも分かりやすいプレゼンテーションが求められる これは とても新鮮な 目から鱗 体験であり 3コミュニケーション力の向上に役立つ 最後に 留学生 外国人研究者を積極的に受け入れ 研究室を国際化する である 国際化する世界に合わせて 研究室もできるかぎり国際化し 異なる価値観 意見と交流する機会を作ることを意図したものである これにより3コミュニケーション力を高める 以上 六つの運営方針 を掲げたはいいものの 未だ十分に実現していないものが多い それぞれの方針を具現化するための仕組みについても 日々改善点に気づいているような状況である 運営方針自体も この間に微妙に変化してきている 新任の教員としては まだまだ考えの及ばないところが多くあり このような試行錯誤を繰り返しているところであるが 今後も皆さまのご指導を仰ぎながら サステナ教育 ひいては教育全般について奮闘を続けたいと思う