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不整脈に起因する失神例の運転免許取得に関する診断書作成と適性検査施行 の合同検討委員会ステートメント 改訂のための補遺 3 日本不整脈心電学会 日本循環器学会 日本胸部外科学会 不整脈に起因する失神例の運 転免許取得に関する診断書作成と適性検査施行の合同検討委員会ステートメント 改訂 ワーキンググループ 渡邉英一 安部治彦 渡辺重行 栗田隆志 河野律子 野田崇 河村光晴 新田隆 平尾見三 1

ステートメント 2017 年改訂 1.ICD 患者の自動車運転制限期間の変更について植込み型除細動器 (ICD) 患者における ICD 適切作動後の自動車運転制限期間は EU 諸国では適切作動後 3 か月間 1 また 米国のステートメントでは 6 か月間とされている 2, 3 一方 わが国では ICD 適切作動後の自動車運転制限期間は, 意識消失の有無にかかわらず 12 ヶ月間と定められているため ICD 患者の日常生活や就労を含めた社会生活上でも大きな支障をきたしていると考えられる 上記 3 学会において その後の ICD デバイスの診断 治療アルゴリズムの更なる改善が著しいこと等を考慮し わが国独自の臨床データに基づく検討を行う必要があると考え 国内データに基づいて 2010 年以降順次ステートメントの改訂を行なってきたところである 4,5 尚 今回のステートメント改訂は 警察庁交通局運転免許課との協議により平成 29 年 9 月 1 日から施行されることになっており 医師が作成する診断書も一部改訂されている ( 参考資料 ) ので 注意されたい 今回 ICD 患者における自動車運転中の ICD 適切作動時の意識障害の予測発生率を 全運転免許保持者の年間交通事故発生率 (0.653%) と比較し 前者が後者に比し十分低値であるかどうかについて国内データを用いて検討した 検討症例は 1997 年から 2014 年までの間に国内で ICD 適切作動を認めた 886 症例 ( 計 1415 イベント ) である 植込みから初回作動までの期間は平均 1.7 年であり また 初回作動から 2 回目作動までの期間は平均 0.6 年であった 計 1415 イベントの中で 失神を伴う適切作動は 134 イベント (9.5%) であった このデータをもとに 従来の報告と同様に ICD 作動による運転中の意識障害発生の予測発生率を 3 か月ごとに算出し 全運転免許保持者の年間交通事故発生率と比較した ( 下図 ) 2

( 図説明 ) 毎日 8 時間睡眠をとり 1 時間運転した際の運転中の作動による意識障害発現率 = 365 再適切作動率 ( ) 0.095 1 再適切作動後の平均観察期間 16 * 平成 27 年度交通事故発生件率は 0.653% であった ( 警察庁交通局交通企画課交通事故統計による ) 適切作動後 3 か月が経過した時点で自動車運転中の意識障害発生の予測発生率は 0.106% と算出され この値は平成 27 年度交通事故発生件率 0.653% の 1/6 以下となる 即ち 自動車運転中の意識障害発生の予測発生率は 3 か月が経過すれば全運転免許保持者の年間交通事故発生率より十分低値であると考えられる この結果 ICD の適切作動発現時は, それが意識障害や意識消失を伴っていなければ 運転制限期間は ICD 作動後 3 か月間とする との診断書発行を肯定する論拠とした 6 二次予防目的での ICD 植込み患者には 6 ヶ月間の運転制限が果たされ ICD 適切作動がなければその後 運転を控えるべきとは言えない 旨の診断書記載が可能となる しかし 一次予防目的での ICD 植込み患者に関しては 二次予防での ICD 植込み後 6 ヶ月間運転制限期間を経た後の ICD 適切作動率より更に低いことが国内データで確認されている ( 資料 4 1 2 一次予防を目的とした ICD 植込み患者の運転制限について を参照のこと ) 従って ICD 植込みには入院治療が必要であることを考慮した上で 従来の一次予防 ICD 植込み後の運転制限期間を 30 日間から 7 日間に短縮した リード交換後の運転制限期間に関しては 従来 30 日間の運転制限が設けられていた しかし リード抜去を伴う 伴わないに関わらずリード交換手術では新規リード植込みを入院治療で行なう点に関しては新規 ICD 植込みの場合と同じである 従って 過去 3 ヶ月以内に ICD 適切作動のない患者におけるリード交換手術後の運転制限期間は 30 日間から 7 日間に短縮した 今回の検討により 不整脈に起因する失神例の運転免許取得に関する診断書作成と適性検査施行の合同検討委員会ステートメント (ICD 関連部分 ) は下記の如く変更になる ( 下線部が 2017 年改訂部分 図 1および表 1 参照 ) 1) 一次予防での ICD 新規植込み患者では 自動車運転制限期間は植込み後 7 日間とする 2) ICD 植込み後に ICD 適切作動 あるいは意識消失を生じた症例 ( 不適切作動により意識消失した症例を含む ) においては, 運転を控えるよう指導し その後 3 か月 3

間の観察により ICD の作動 ( 抗頻拍ペーシングを含む ) も意識消失もみられなければ 運転を控えるべきとは言えない 旨の診断を考慮して良い 3) ICD 交換の前に 運転を控えるべきとは言えない 患者において ICD 本体交換後は7 日間を観察期間とし その間は運転を控えるよう指導 ( 免許保留 ) する また ICD リード交換または追加を行った際には 術後 7 日間を観察期間とし その間は運転を控えるよう指導 ( 免許保留 ) する 4) CRT はペースメーカと CRT-D は ICD の植込み後と それぞれ同様に取り扱う 5) ICD 適切作動による 3 ヶ月間の運転制限終了後 運転再開時には新たに公安委員会へ医師の診断書を提出する 本ステートメント改訂の最終ページに具体的な診断書作成の流れを図 1 に 今回のステート メント改訂のまとめを表 1 に示しているので参考にして下さい ( 図 1 は 警察庁交通局運転免許 課より提供 ) 2.ICD 患者の準中型免許取得に関する適性について車両総重量による運転免許区分は普通免許 中型免許 大型免許に3 区分されていたが 2017 年 3 月から新たに総重量 3.5-7.5 トンの準中型免許が新設され4 区分 ( 普通免許 準中型免許 中型免許 大型免許 ) となった ICD 患者の準中型免許取得の適性に関しては 必ずしも適性なしとは言えない しかし いかなる免許区分であっても ICD 患者の職業運転は認められない点に関しては従来と同じである 4

参考文献 1. Vijgen J, Botto G, Camm J, Hoijer CJ, Jung W, Le Heuzey JY, Lubinski A, Norekval TM, Santomauro M, Schalij M, Schmid JP and Vardas P. Consensus statement of the European Heart Rhythm Association: updated recommendations for driving by patients with implantable cardioverter defibrillators. Europace. 2009;11:1097-107. 2. Epstein AE, Baessler CA, Curtis AB, Estes NA, 3rd, Gersh BJ, Grubb B, Mitchell LB, American Heart A and Heart Rhythm S. Addendum to "Personal and public safety issues related to arrhythmias that may affect consciousness: implications for regulation and physician recommendations: a medical/scientific statement from the American Heart Association and the North American Society of Pacing and Electrophysiology": public safety issues in patients with implantable defibrillators: a scientific statement from the American Heart Association and the Heart Rhythm Society. Circulation. 2007;115:1170-6. 3. Epstein AE, DiMarco JP, Ellenbogen KA, Estes NA, 3rd, Freedman RA, Gettes LS, Gillinov AM, Gregoratos G, Hammill SC, Hayes DL, Hlatky MA, Newby LK, Page RL, Schoenfeld MH, Silka MJ, Stevenson LW, Sweeney MO, American College of Cardiology F, American Heart Association Task Force on Practice G and Heart Rhythm S. 2012 ACCF/AHA/HRS focused update incorporated into the ACCF/AHA/HRS 2008 guidelines for device-based therapy of cardiac rhythm abnormalities: a report of the American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines and the Heart Rhythm Society. Circulation. 2013;127:e283-352. 4. 不整脈に起因する失神例の運転免許取得に関する診断書作成と適性検査施行の合同検討 委員会ステートメント 改訂のための補遺 日本不整脈心電学会ホームページ (2010.06.23 掲載 ) 5. 不整脈に起因する失神例の運転免許取得に関する診断書作成と適性検査施行の合同検討 委員会ステートメント 改訂のための補遺 2 日本不整脈心電学会ホームページ (2015.08.03 掲載 ) 6. Watanabe E, Abe H, Watanabe S. Driving restrictions in patients with implantable cardioverter defibrillators and pacemaker. J Arrhythmia, in press 5

図 1 6

表 1: ステートメント改訂のまとめ ( 赤字が今回改訂分 ) 7

参考資料 ( 改訂された診断書様式 ) 8

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