2006 年度 民事執行 保全法講義 第 4 回 関西大学法学部教授栗田隆

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た損害賠償金 2 0 万円及びこれに対する遅延損害金 6 3 万 9 円の合計 3 3 万 9 6 円 ( 以下 本件損害賠償金 J という ) を支払 った エなお, 明和地所は, 平成 2 0 年 5 月 1 6 日, 国立市に対し, 本件損害賠償 金と同額の 3 3 万 9 6 円の寄附 (

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(2) 訴訟費用は 被告らの負担とする 2 被告国 (1) 本案前の答弁ア原告の被告国に対する訴えを却下する イ上記訴えに係る訴訟費用は 原告の負担とする (2) 被告国は 本案について 原告の被告国に対する請求を棄却する旨の裁判を求めるものと解する 3 被告 Y1 市 (1) 本案前の答弁ア原告の

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き一 修正申告 1 から同 ( 四 ) まで又は同 2 から同 ( 四 ) までの事由が生じた場合には 当該居住者 ( その相続人を含む ) は それぞれ次の 及び に定める日から4 月以内に 当該譲渡の日の属する年分の所得税についての修正申告書を提出し かつ 当該期限内に当該申告書の提出により納付

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法的措置の概要(33頁から44頁)170816高崎地方裁判所確認後

なお, 基本事件被告に対し, 訴状や上記移送決定の送達はされていない 2 関係法令の定め (1) 道路法ア道路管理者は, 他の工事又は他の行為により必要を生じた道路に関する工事又は道路の維持の費用については, その必要を生じた限度において, 他の工事又は他の行為につき費用を負担する者にその全部又は一

次のように補正するほかは, 原判決の事実及び理由中の第 2に記載のとおりであるから, これを引用する 1 原判決 3 頁 20 行目の次に行を改めて次のように加える 原審は, 控訴人の請求をいずれも理由がないとして棄却した これに対し, 控訴人が控訴をした 2 原判決 11 頁 5 行目から6 行目

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問 2 次のアからオまでの各記述について 正しいときは を 誤っているときは を選び 所定の解答欄に記入しなさい ( 各 1 点 ) ア会社法の規定により登記すべき事項について 過失で不実の事項を登記した者は その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができない イ株式を1 株未満に

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日税研メールマガジン vol.111 ( 平成 28 年 6 月 15 日発行 ) 公益財団法人日本税務研究センター Article 取締役に対する報酬の追認株主総会決議の効力日本大学法学部教授大久保拓也 一中小会社における取締役の報酬規制の不遵守とその対策取締役の報酬は ( 指名委員会等設置会社以

求めるなどしている事案である 2 原審の確定した事実関係の概要等は, 次のとおりである (1) 上告人は, 不動産賃貸業等を目的とする株式会社であり, 被上告会社は, 総合コンサルティング業等を目的とする会社である 被上告人 Y 3 は, 平成 19 年当時, パソコンの解体業務の受託等を目的とする

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4 手続について Ⅰ 支払督促の手続の流れ 支払督促 訴訟 申立書提出 審査 支払督促発付 債務者の異議申立期間 異議が出た場合 A へ 異議が出ない場合仮執行宣言申立書提出 仮執行宣言付支払督促発付 債務者の異議申立期間 A 訴状 ( に代わる準備書面 ) 提出 呼出状受領 債務者からの答弁書受領

130306異議申立て対応のHP上の分かりやすいQA (いったん掲載後「早く申請してください」を削除)

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到達目標 xlsx

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( 督促 ) 第 6 条市長等は 市の債権について 履行期限までに履行しない者があるときは 法令 条例又は規則の定めるところにより 期限を指定してこれを督促しなければならない 2 市長等は 地方自治法 ( 昭和 22 年法律第 67 号 以下 法 という ) 第 2 31 条の3 第 1 項に規定す

目  次

行政調査の種類 ( 犯則調査を含む ) について 条文を参照して説明することができる ( 法律の根拠の要否を含む ) 行政計画 行政計画の具体例を 条文を参照して説明することができる 行政計画と 委任立法 ( 法規命令等 ) 行政処分の異同を理解している( 法律の根拠の要否を含む ) 都

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事実 ) ⑴ 当事者原告は, 昭和 9 年 4 月から昭和 63 年 6 月までの間, 被告に雇用されていた ⑵ 本件特許 被告は, 次の内容により特定される本件特許の出願人であり, 特許権者であった ( 甲 1ないし4, 弁論の全趣旨 ) 特許番号特許第 号登録日平成 11 年 1

第26回 知的財産権審判部☆インド特許法の基礎☆

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第 5 無効及び取消し 1 法律行為が無効である場合又は取り消された場合の効果法律行為が無効である場合又は取り消された場合の効果について 次のような規律を設けるものとする (1) 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は 相手方を原状に復させる義務を負う (2) (1) の規定にかかわらず

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遺者であったが 事情があって遺贈の放棄をした 民法 986 条の規定によれば 受遺者は 遺言者の死亡後 いつでも 遺贈の放棄をすることができ 遺贈の放棄は 遺言者死亡のときに遡ってその効力を生じるとされているから 前所有者から請求人に対する本件各不動産の所有権移転の事実は無かったものであり 請求人は

審決取消判決の拘束力

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保険給付に関する決定についての審査請求に係る労働者災害補償保険審査官の決定に対して不服のある者は 再審査請求をした日から 3 か月を経過しても裁決がないときであっても 再審査請求に対する労働保険審査会の裁決を経ずに 処分の取消しの訴えを提起することはできない (H23-4B)

併等の前後を通じて 上告人ら という 同様に, 上告人 X1 銀行についても, 合併等の前後を通じて 上告人 X1 銀行 という ) との間で, 上告人らを債券の管理会社として, また, 本件第 5 回債券から本件第 7 回債券までにつき上告人 X1 銀行との間で, 同上告人を債券の管理会社として,

とを条件とし かつ本事業譲渡の対価全額の支払と引き換えに 譲渡人の費用負担の下に 譲渡資産を譲受人に引き渡すものとする 2. 前項に基づく譲渡資産の引渡により 当該引渡の時点で 譲渡資産に係る譲渡人の全ての権利 権限 及び地位が譲受人に譲渡され 移転するものとする 第 5 条 ( 譲渡人の善管注意義

電子記録債権取引における法律上の留意点 (1) 電子記録債権取引全般について (2) 下請法上の取扱いについて (3) 税法上の取扱いについて (4) 法的手続き等について (5) 記録請求等について でんさいネットのコールセンター等に寄せられる照会を参考に解説 1

第 1 節取消訴訟の訴訟要件 処分性 原告適格 狭義の訴えの利益 取消訴訟の訴訟手続的要件第 2 節取消訴訟の排他的管轄 ( 行政処分の公定力 ) 第 3 節取消訴訟の本案審理 違法事由の主張 理由の差替え 基準時

達したときに消滅する旨を定めている ( 附則 10 条 ) (3) ア法 43 条 1 項は, 老齢厚生年金の額は, 被保険者であった全期間の平均標準報酬額の所定の割合に相当する額に被保険者期間の月数を乗じて算出された額とする旨を定めているところ, 男子であって昭和 16 年 4 月 2 日から同

る権利が移転するものとする 2 甲 -2 案 ( 受遺者等が金銭債務の全部又は一部の支払に代えて現物での返還を求めた場合には, 受遺者等が指定する現物での返還の適否を裁判所が判断するという考え方 ) 1 甲-1 案 1に同じ 2 1の請求を受けた受遺者又は受贈者は, その請求者に対し,1の金銭債務の

A は 全ての遺産を社会福祉施設に寄付すると遺言に書き残し死亡した A には 配偶者 B と B との間の子 C と D がある C と D 以外にも A と B との子 E もいたが E は A が死亡する前にすでに死亡しており E の子 F が残されている また A には 内妻 G との子 (

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( 続紙 1 ) 京都大学博士 ( 法学 ) 氏名重本達哉 論文題目 ドイツにおける行政執行の規範構造 - 行政執行の一般要件と行政執行の 例外 の諸相 - ( 論文内容の要旨 ) 本論文は ドイツにおける行政強制法の現況を把握することを課題とするもので 第 1 部 行政執行の一般要件 - 行政行為

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平成 29 年 2 月 20 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 28 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 29 年 2 月 7 日 判 決 原 告 マイクロソフトコーポレーション 同訴訟代理人弁護士 村 本 武 志 同 櫛 田 博 之 被 告 P1 主 文

平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

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ジュリスト No 頁 ) しかし 民事執行法の中に 上記の思想を盛り込まないままで それは 153 条でまかなっていただこう というのは 無理がある 例えば10 万円の給与のうち2 万 5000 円を差し押さえられた債務者が153 条の申立をし 他に収入はないこと ( 複数給与の不存在

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に含まれるノウハウ コンセプト アイディアその他の知的財産権は すべて乙に帰属するに同意する 2 乙は 本契約第 5 条の秘密保持契約および第 6 条の競業避止義務に違反しない限度で 本件成果物 自他およびこれに含まれるノウハウ コンセプトまたはアイディア等を 甲以外の第三者に対する本件業務と同一ま

 

2 譲渡禁止特約の効力改正前は 譲渡禁止特約を付した場合は債権の譲渡はできない ( ただし 特約の存在を知らない第三者等には対抗できない ) とされていましたが 改正法では このような特約があっても債権の譲渡は効力を妨げられないことを明記しました ( 466Ⅱ 1) ただし 3に記載するとおり 債務

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被告に対し, 著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として損害額の内金 800 万円及びこれに対する不法行為の後の日又は不法行為の日である平成 26 年 1 月 日から支払済みまで年 % の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である 1 判断の基礎となる事実 ( 当事者間に争いのない事実又は後掲の各

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保険法 判例研究 9 Aは 平成 9 年 1 月 10 日に死亡し 訴外 B(Aの子 ) はAの本件保険契約の契約者の地位を承継し 保険金受取人をBに変更した Bは 本件保険契約の保険期間の終期の前である 平成 17 年 8 月 27 日に死亡し その後 上記保険期間の終期である同年 9 月 28

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2006 年度 民事執行 保全法講義 第 4 回 関西大学法学部教授栗田隆

T. Kurita 2 目 次 1. 執行文に関する争いの解決 ( 民執 32 条 -34 条 ) 2. 請求異議の訴え ( 民執 35 条 ) 3. 執行停止の裁判 ( 民執 36 条 37 条 )

執行文の付与等に関する異議 (32 条 ) 債権者 執行文付与申立て 執行文付与拒絶 債権者 異議 書記官 事件の記録の存する裁判所の裁判所書記官 執行文付与 異議 債務者 裁判所 裁判所書記官の所属する裁判所 T. Kurita 3

執行文をめぐる救済 執行文付与に関する異議申立についての裁判は その内容いかんにかかわらず一審限りで 不服申立は許されない 特殊執行文については 付与の訴えあるいは付与に対する異議の訴えの道が残されている ( 執行文付与の一般的要件の存在も審査の対象となる ) Q 単純執行文については 付与の訴えや付与に対する異議の訴えが認められていない理由は 何か T. Kurita 4

T. Kurita 5 執行文付与の訴え (33 条 ) 債務名義につき特殊執行文付与の要件が存在することの確認を請求する訴え ( 手続上の確認の訴え ) 実務上は 裁判所書記官または公証人はその趣旨の執行文を付与しなければならない旨の主文を掲げる

T. Kurita 6 執行文付与に対する異議の訴え (34 条 ) 債務名義につき特殊執行文付与の要件が存在しないことの確認を請求する訴え ( 手続上の確認の訴え ) 紛争の1 回的解決のために 異議事由の同時主張が要求されている

T. Kurita 7 債務名義を争う方法 判決の取消し 訴え提起 第一審判決 = 仮執行宣言つき 被告控訴 仮執行宣言付き判決については 上訴により債務名義自体の取消を求めることができる 事実審の口頭弁論終結 = 既判力の標準時 判決確定 判決確定後に再審事由が判明した場合には 再審の訴えにより 債務名義自体の取消を求めることができる

確定判決による執行を実体法上の理由により争う場合 T. Kurita 8 訴え提起 既判力の標準時前の弁済を理由に執行債権の存在を争うことはできない 事実審の口頭弁論終結 = 既判力の標準時 判決確定 既判力の標準時後の弁済を理由に執行債権の不存在を主張して 執行の不許を求めることができる

T. Kurita 9 請求異議の訴え (35 条 ) 債務名義に表示された執行債権の存在や内容を争って 債務名義に基づく執行の不許 ( 執行力の排除 ) を求める訴え 1000 万円の執行債権について300 万円だけ弁済した場合のように 一部の排除もある

T. Kurita 10 練習問題 判決確定 被告 Y は原告 X に金 1500 万円を支払え Y が X に弁済 執行 X が確定判決に基づいて金銭執行の申し立てをしようとしている Q Y は どうしたらよいか

T. Kurita 11 債務名義を争う方法 - 執行証書の場合 執行証書作成委任 執行証書作成 執行開始 執行証書の成立に関する瑕疵も 請求異議の訴えにより主張することができる ( 転用型 ) 執行債権の消滅に関する事由は 執行証書に既判力がないので いかなる時期のものでも請求異議の訴えにより主張することができる

T. Kurita 12 執行が完了した場合 執行債権が存在しないにもかかわらず債務名義を悪用して申し立てられた強制執行が完了してしまえば 特別のことがない限り 請求異議の訴えの利益はない この場合には 債務者は 執行により奪われた利益を不当利得として返還請求することができる

T. Kurita 13 執行反対名義 執行してよい 債務名義 執行機関 執行してはならない 反対名義 (39 条 1 項 1 号など ) 執行申立て 執行取消しの申立て 債権者 債務者

T. Kurita 14 請求異議の訴えの性質 形成訴訟説特定の債務名義に基づく強制執行の不許を宣言し 債務名義の執行力を排除する判決を求める形成の訴えである 命令訴訟説執行債権を巡る実体関係を確定し その確定結果を執行関係のコントロールという目的に適した形で執行機関に宣言 ( 命令 ) することを求める訴えである 新確認訴訟説債務名義に表示された請求権の不存在 内容の変更等を確認し それを執行手続に反映させるために執行不許の宣言を主文に掲げる特種な確認訴訟である

T. Kurita 15 訴訟物の基準 債務名義説主張されている異議事由の種類 内容にかかわらず 執行力の排除が求められている債務名義の単複異同が請求異議の訴訟物を単複異同を決すると見る見解 実体関係説 異議権説債務名義の執行力の排除を求める手続法上の形成権たる異議権を訴訟物とし 異議の発生事実の性質上の分類に従い その種類ごとに訴訟物ありとする見解

T. Kurita 16 訴訟物の基準ー実体関係説 単一説 = 債務名義に表示された実体法上の法律関係を訴訟物と見る見解 二分説 = 請求権の存在を争う異議請求と給付義務の態様たる条件期限を争う異議請求とを区別する見解

訴訟物の基準ー異議権説 異議原因説 ( 異議事由説 ) 主張される請求異議の事由ごとに訴訟物がある 異議態様説異議の態様を次の 4 つに分類し それぞれごとに訴訟物が異なる 但し 訴訟物が異なっても 同時主張の強制がある 1. 請求権の存在 2. 請求権の内容 ( 給付義務の態様 ) 限定承認による責任限定 3. 債務名義の成立の瑕疵 4. その他債務名義の利用についての信義則違反 権利濫用 T. Kurita 17

請求異議事由ー強制執行の濫用 被害者 X 自動車事故による損害賠償請求 加害者 Y 将来営業不能になることを前提にして 賠償金額を算定した判決が確定 Y が事故を苦にして自殺 Y の老親が相続 X は判決確定後に堂々と営業を営む X が確定判決に基づき老親の財産に対して強制執行 X 請求異議の訴え Y の老親 判決は 口頭弁論終結後の事由により執行に適さなくなった 強制執行は権利濫用にあたる 請求異議認容 T. Kurita 18

T. Kurita 19 請求異議事由ー標準時後の形成権行使 買主 X 所有権確認請求 所有権移転登記請求 認容判決確定 売主 Y X 所有権移転登記抹消登記請求 Y 前訴判決前から存在した詐欺による取消権を判決確定後に行使した

T. Kurita 20 最判昭和 55 年 10 月 23 日民集 34-5-747 売買契約による所有権移転を請求原因とする所有権確認請求訴訟が係属した場合に 当事者が右売買契約の詐欺による取消権を行使することができたのにこれをしないで 事実審の口頭弁論が終結され 右売買契約を認める請求認容判決があり 同判決が確定したときは もはやその後の訴訟において所有権の存否を争うことは許されない

T. Kurita 21 執行文付与訴訟と請求異議訴訴訟との関係 執行文付与訴訟の中で 被告は 実体上の請求権の不存在 変更 消滅などの請求異議事由を主張することができるか 執行文付与に対する異議訴訟において 原告は 実体上の請求権の不存在 変更 消滅などの請求異議事由を主張することができるか

T. Kurita 22 事例 執行文付与訴訟の場合 債権者 X 手形金請求 Y 債務者 死亡 認容判決確定 執行文付与の訴え 相続 Z 相続人 債権放棄があった 反対債権があるから相殺する

T. Kurita 23 見解の対立 消極説判例はこの立場 積極説債務者がそれを主張しなかった場合の取り扱いに関して更に説が分かれる 1. 失権肯定説現実に主張できたか否かにかかわりなしに失権する 2. 折衷説一つでも主張すれば 他の請求異議事由についても失権する 3. 失権否定説主張の有無にかかわらず 失権を否定

T. Kurita 24 最判昭和 52 年 11 月 24 日民集 31-6-943 執行文付与の訴えにおける審理の対象は条件成就や承継の事実の存否のみに限られる 執行文付与の訴えにおいて執行債務者が請求に関する異議の事由を反訴としてではなく 単に抗弁として主張することは 右両訴をそれぞれ認めた趣旨に反するものであって 許されない