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ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

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Microsoft PowerPoint - 新技術説明会配付資料rev提出版(後藤)修正.pp

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記 者 発 表(予 定)

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

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平成24年7月x日

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考えられている 一部の痒疹反応は, 長時間持続する蕁麻疹様の反応から始まり, 持続性の丘疹や結節を形成するに至る マウスでは IgE 存在下に抗原を投与すると, 即時型アレルギー反応, 遅発型アレルギー反応に引き続いて, 好塩基球依存性の第 3 相反応 (IgE-CAI: IgE-dependent

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

年219 番 生体防御のしくみとその破綻 (Immunity in Host Defense and Disease) 責任者: 黒田悦史主任教授 免疫学 黒田悦史主任教授 安田好文講師 2中平雅清講師 松下一史講師 目的 (1) 病原体や異物の侵入から宿主を守る 免疫系を中心とした生体防御機構を理

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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

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平成24年7月x日

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

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第6号-2/8)最前線(大矢)

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鳥居薬品株式会社 ( 本社 : 東京都 代表取締役社長 : 髙木正一郎 ) は 全国の通年性アレルギー性鼻炎 花粉症のいずれかの症状を自己申告いただいた本人 (15~64 歳 )4,692 名 ( 各都道府県 100 名 山梨県のみ 92 名 ) と 子ども (5 歳 ~15 歳 ) が両疾患のいず

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医薬品タンパク質は 安全性の面からヒト型が常識です ではなぜ 肌につける化粧品用コラーゲンは ヒト型でなくても良いのでしょうか? アレルギーは皮膚から 最近の学説では 皮膚から侵入したアレルゲンが 食物アレルギー アトピー性皮膚炎 喘息 アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状を引き起こすきっかけになる

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

論文の内容の要旨

アトピー性皮膚炎の治療目標 アトピー性皮膚炎の治療では 以下のような状態になることを目指します 1 症状がない状態 あるいはあっても日常生活に支障がなく 薬物療法もあまり必要としない状態 2 軽い症状はあっても 急に悪化することはなく 悪化してもそれが続かない状態 2 3

Powered by TCPDF ( Title フィラグリン変異マウスを用いた新規アトピー性皮膚炎マウスモデルの作製 Sub Title Development of a new model for atopic dermatitis using filaggrin m

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ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

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順天堂大学 医療 健康 No. 1 ごく少量のアレルゲンによるアレルギー性気道炎症の発症機序を解明 ~ 皮膚感作と吸入抗原の酵素活性が気道炎症の原因となる ~ 概要順天堂大学大学院医学研究科 アトピー疾患研究センターの高井敏朗准教授らの研究グループは アレルギーを引き起こすダニや花粉の抗原に含有されるプロテアーゼ活性 ( タンパク質分解酵素活性 ) が抗原感作 *1 成立後の気道炎症の発症に重要な役割を果たすことを明らかにしました これは プロテアーゼによって損傷された気道上皮から放出されるサイトカイン (IL-33) *2 が抗原特異的 T 細胞 *3 に作用し ごくわずかな吸入抗原量で発症に至る新たな機序によるものであり アレルギーマーチ *4 などの予防や治療法の開発につながると期待されます 本研究成果は米国アレルギー 喘息 免疫学会発行の科学雑誌 Journal of Allergy and Clinical Immunologyのオンライン版 ( 日本時間 2018 年 2 月 6 日 ) で公開されました 本研究成果のポイント プロテアーゼ抗原経皮感作のモデルマウスは少量の抗原吸入で過敏に気道炎症を発症 気道上皮でプロテアーゼ依存的に放出されるサイトカインIL-33が抗原特異的 T 細胞応答を相乗的に増強 プロテアーゼ刺激経路をターゲットとしたアレルギー発症( アレルギーマーチなど ) の予防 治療戦略へ 背景皮膚を介した抗原感作が起点となる喘息 鼻炎や食物アレルギーなどは いわゆるアレルギーマーチに発展することがわかってきています 経皮抗原感作が成立した後の異所 ( 呼吸器 消化管など ) でのアレルギー性炎症の発症には T 細胞やIgE 抗体などの獲得免疫系が関与すると考えられていますが なぜごくわずかな量の抗原にT 細胞が過敏に反応するのかはよくわかっていませんでした そこで私たちの研究グループは 経皮感作後の最初の抗原吸入で気道上皮に何が起こっているのかを明らかにするため 実際の環境下で抗原が有する特性に着目して作用機序を調べました

No. 2 内容私たちは ダニ主要アレルゲンと構造が類似したパパイヤ由来のプロテアーゼ ( パパイン : 食肉加工に用いられ職業性アレルゲンとしても知られる ) をモデル抗原として選択しました これを重要な抗原感作ルートと考えられる皮膚に塗布して感作を成立させたマウスは 少量の抗原の吸入によって気道炎症を発症しました この反応は吸入時の抗原のプロテアーゼ活性を失活させると起こらなかったことから 発症には抗原のプロテアーゼ活性を必要とすることが明らかになりました ( 図 1) その機序として プロテアーゼは気道上皮のバリアを破壊して抗原捕捉を促進します さらに プロテアーゼによって損傷を受けた気道上皮からサイトカインであるインターロイキン33(IL-33) が放出されます そして その受容体を発現する2 型ヘルパー T 細胞 (Th2) が気道に数多く浸潤し T 細胞受容体とIL-33 受容体の同時刺激が相乗的にT 細胞応答を増強していることがわかりました ( 図 2) 抗原感作が成立した後のアレルギー性炎症の発症にはT 細胞やIgE 受容体などの抗原の構造を認識する獲得免疫系が中心的に関与すると考えられてきました しかしながら 感作成立後の発症は単に抗原構造の認識だけでなく プロテアーゼ活性の刺激が共在することによって開始し 最小量の抗原吸入に対して過敏に炎症反応が誘発されることが 本研究結果から新たに明らかになりました 今後の展開本研究により 呼吸器アレルギーの発症において環境アレルゲンに含まれるプロテアーゼ活性が想定以上に重要であることが初めて示唆されました 最初の発症のきっかけは抗原構造だけでなくプロテアーゼ活性などの刺激が共在することが必要なため プロテアーゼで刺激される生体内の経路の阻止は発症の予防や治療に繋がると考えられます 今後は プロテアーゼ活性による上皮損傷やその下流の経路などを標的とし 経皮感作を起点としたアレルギーマーチ等に対する新しい予防 先制介入 治療戦略の策定に向けて研究を進めていきます

No. 3 少量の抗原 ( プロテアーゼ活性あり ) 少量の抗原 ( プロテアーゼ活性なし ) 気道上皮のバリア機能減弱 気道上皮細胞の損傷 正常な気道上皮 抗原取り込み Th2 誘引物質 IL-33 抗原取り込み通常レベル Th2 誘引物質低 IL-33 低 T 細胞受容体 IL-33 受容体 IL-33 受容体陽性 Th2 浸潤 増殖 IL-33 受容体陽性 Th2 少ない Th2 サイトカイン産生亢進 Th2 サイトカイン少ない アレルギー性気道炎症発症! 発症に至らず! 図 1. 少量の吸入抗原にプロテアーゼ活性がないと呼吸器アレルギーは発症しない プロテアーゼ活性を有する抗原と接触した気道上皮はバリア機能が減弱し細胞が損傷を受けた異常な状態となり 図示した機序によってアレルギー性気道炎症を発症する ( 左 ) たとえ経皮抗原感作が成立して抗原特異的 Th2 細胞が体内に存在する状態であっても 吸入される少量の抗原がプロテアーゼ活性をもたない場合にはアレルギー性気道炎症は発症しない ( 右 )

No. 4 プロテアーゼ抗原環境皮膚 抗原提示細胞 バリア破壊 抗原取り込み促進 プロテアーゼ抗原 刺激 損傷した上皮細胞からの IL-33 放出 気道 気道上皮 Th0 Th2 細胞へ分化 MHC クラス II 抗原ペプチド断片 T 細胞受容体 経皮的に抗原感作! Th2 Th2 を誘引する分子を産生 遊走 Th2 IL-33 IL-33 受容体 Th2 サイトカインの産生増強 気道炎症発症! 図 2. 抗原のプロテアーゼ活性は最小量の抗原曝露によって呼吸器アレルギーを発症させる ( その作用機序 ) ダニ 花粉などにはプロテアーゼ ( タンパク質分解酵素 ) が含有されており それ自体がアレルゲンとなる ( プロテアーゼ抗原 ) プロテアーゼ活性は上皮のバリア機能を破壊して抗原取り込み効率を促進すると共に 損傷された上皮細胞から IL-33 が放出されて抗原特異的 T 細胞に作用する プロテアーゼ活性の消去や IL-33 の欠損によって発症は阻止される

113-8421 東京都文京区本郷 2-1-1 順天堂大学医学部 医学研究科 用語解説 No. 5 *1 感作 異物である外来の抗原が侵入するとこれを認識する T 細胞や抗体が体内で生産されるようになります この過程を感作と呼びます 感作の成立後に再び同じ抗原が侵入するとこれらの T 細胞や抗体が反応して アレルギーなどの免疫応答が誘導され 炎症などの症状が現れます ( 発症 ) *2 サイトカイン (IL-33) サイトカインとは細胞から産生される生理活性タンパク質の総称で細胞間相互作用に関与します IL-33 はサイトカインの一種です IL-33 は上皮細胞や血管内皮細胞の核内に存在し 細胞障害によって短時間のうちに細胞外へ放出されます プロテアーゼ刺激によっても放出されることが知られています *3 抗原特異的 T 細胞 抗原提示細胞は抗原タンパク質を細胞内で断片化し それにより生じた抗原ペプチド断片を主要組織適合抗原 (MHC) にはまり込んだ形で細胞膜上に提示します この抗原ペプチド -MHC の複合体を特異的に認識するのが抗原特異的 T 細胞です T 細胞はヘルパー T 細胞とキラー T 細胞に分類されます Th2 細胞 (2 型ヘルパー T 細胞 ) とはヘルパー T 細胞の亜群であり IL-4, IL-5, IL-13 などのいわゆる Th2 サイトカインを産生します IL-4, IL-5, IL-13 はそれぞれ IgE 産生 好酸球増殖 粘液産生に関与しており Th2 細胞はアレルギーにおいて重要な役割を担っています *4 アレルギーマーチ アトピー素因のある人にアレルギー疾患が次々に発症することをアレルギーマーチと呼びます 典型的には 皮膚症状から始まり 消化器症状や気管支喘息 鼻炎へと進展します 近年 皮膚を介した抗原感作が起点であるとする説が有力になっています 原著論文 雑誌名 : Journal of Allergy and Clinical Immunology タイトル : Airway inflammation after epicutaneous sensitization of mice requires protease activity of low-dose allergen inhalation 著者 : Izumi Nishioka, Toshiro Takai, Natsuko Maruyama, Seiji Kamijo, Punyada Suchiva, Mayu Suzuki, Shinya Kunimine, Hirono Ochi, Sakiko Shimura, Katsuko Sudo, Hideoki Ogawa, Ko Okumura, Shigaku Ikeda Doi:10.1016/j.jaci.2017.11.035 なお 本研究は順天堂大学大学院医学研究科アトピー疾患研究センター 皮膚科学講座との共同研究として 文部科学省科学研究費 JSPS 基盤研究 (C) (JP25461711, JP26860759, JP17K10007) の支援を受け実施されました < 研究内容に関するお問い合せ先 > 順天堂大学大学院医学研究科アトピー疾患研究センター 准教授高井敏朗 ( たかいとしろう ) TEL: 03-5802-1591 FAX: 03-3813-5512 E-mail: t-takai@juntendo.ac.jp http://www.juntendo.ac.jp/graduate/laboratory/labo/atopy _center/k4.html < 取材に関するお問い合せ先 > 順天堂大学総務局総務部文書 広報課担当 : 長嶋文乃 ( ながしまあやの ) TEL: 03-5802-1006 FAX: 03-3814-9100 E-mail:pr@juntendo.ac.jp http://www.juntendo.ac.jp