報道機関各位 平成 29 年 7 月 10 日 東北大学金属材料研究所 鉄と窒素からなる磁性材料熱を加える方向によって熱電変換効率が変化 特殊な結晶構造 型 Fe4N による熱電変換デバイスの高効率化実現へ道筋 発表のポイント 鉄と窒素という身近な元素から作製した磁性材料で 熱を加える方向によって熱

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配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

平成**年*月**日

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功 ~ 固体電解質を用いたイオン移動で実現低電流 大容量メモリの実現へ前進 ~ 配布日時 : 平成 28 年 1 月 12 日 14 時国立研究開発法人物質 材料研究機構東京理科大学概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構国際ナノアーキテクト

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

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背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

令和元年 6 月 1 3 日 科学技術振興機構 (JST) 日本原子力研究開発機構東北大学金属材料研究所東北大学材料科学高等研究所 (AIMR) 理化学研究所東京大学大学院工学系研究科 スピン流が機械的な動力を運ぶことを実証 ミクロな量子力学からマクロな機械運動を生み出す新手法 ポイント スピン流が

ポイント 太陽電池用の高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造が解明できていなかったため 高性能化への指針が不十分であった 非常に微小な領域が観察できる顕微鏡と化学的な結合の状態を調査可能な解析手法を組み合わせることにより 太陽電池応用に有望な酸化チタンの詳細構造を明らかにした 詳細な構造の解明により

QOBU1011_40.pdf

平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華

平成 28 年 12 月 1 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院工学研究科 マンガンケイ化物系熱電変換材料で従来比約 2 倍の出力因子を実現 300~700 の未利用熱エネルギー有効利用に期待 概要 東北大学大学院工学研究科の宮﨑讓 ( 応用物理学専攻教授 ) 濱田陽紀 ( 同専攻博士前期

磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発

報道発表資料 2008 年 1 月 31 日 独立行政法人理化学研究所 酸化物半導体の謎 伝導電子が伝導しない? 機構を解明 - 金属の原子軌道と酸素の原子軌道の結合が そのメカニズムだった - ポイント チタン酸ストロンチウムに存在する 伝導しない伝導電子 の謎が明らかに 高精度の軟 X 線共鳴光

共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関量子伝導研究チームチームリーダー十倉好紀 ( とくらよしのり ) 基礎科学特別研究員吉見龍太郎 ( よしみりゅうたろう ) 強相関物性研究グループ客員研究員安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 米国マサチューセッツ工科大学ポストドクトラルアソシ

コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに -スピン軌道工学に道 1. 発表者 : 岡林潤 ( 東京大学大学院理学系研究科附属スペクトル化学研究センター准教授 ) 三浦良雄 ( 物質材料研究機構磁性 スピントロニクス材料研究拠点独立研究者 ) 宗片比呂

概要 東北大学金属材料研究所の周偉男博士研究員 関剛斎准教授および高梨弘毅教授のグループは 産業技術総合研究所スピントロニクス研究センターの荒井礼子博士研究員および今村裕志研究チーム長との共同研究により 外部磁場により容易に磁化スイッチングするソフト磁性材料の Ni-Fe( パーマロイ ) 合金と

【最終版・HP用】プレスリリース(徳永准教授)

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

平成22年11月15日

熱電変換の紹介とその応用について.ppt

記者発表資料

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平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

Microsoft Word - basic_15.doc

報道発表資料 2007 年 4 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 電流の中の電子スピンの方向を選り分けるスピンホール効果の電気的検出に成功 - 次世代を担うスピントロニクス素子の物質探索が前進 - ポイント 室温でスピン流と電流の間の可逆的な相互変換( スピンホール効果 ) の実現に成功 電流

ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注

( 全体 ) 年 1 月 8 日,2017/1/8 戸田昭彦 ( 参考 1G) 温度計の種類 1 次温度計 : 熱力学温度そのものの測定が可能な温度計 どれも熱エネルギー k B T を

報道機関各位 平成 30 年 5 月 14 日 東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター 株式会社アドバンテスト アドバンテスト社製メモリテスターを用いて 磁気ランダムアクセスメモリ (STT-MRAM) の歩留まり率の向上と高性能化を実証 300mm ウェハ全面における平均値で歩留まり率の

マスコミへの訃報送信における注意事項

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平成18年2月24日

スピントロニクスにおける新原理「磁気スピンホール効果」の発見

Microsoft Word - プレリリース参考資料_ver8青柳(最終版)

がら この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず 熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針 は得られていませんでした 今回 本研究グループは FeSb2 の超高純度単結晶を育成し その 結晶サイズを大きくすることで 実際に熱電効果が巨大化すること またその起源が結晶格子の振動 ( フォノン 注 2) と

スピン流を用いて磁気の揺らぎを高感度に検出することに成功 スピン流を用いた高感度磁気センサへ道 1. 発表者 : 新見康洋 ( 大阪大学大学院理学研究科准教授 研究当時 : 東京大学物性研究所助教 ) 木俣基 ( 東京大学物性研究所助教 ) 大森康智 ( 東京大学新領域創成科学研究科物理学専攻博士課

マスコミへの訃報送信における注意事項

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発電単価 [JPY/kWh] 差が大きい ピークシフトによる経済的価値が大きい Time 0 時 23 時 30 分 発電単価 [JPY/kWh] 差が小さい ピークシフトしても経済的価値

PRESS RELEASE (2017/6/2) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

PowerPoint プレゼンテーション

「セメントを金属に変身させることに成功」

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互作用によって強磁性が誘起されるとともに 半導体中の上向きスピンをもつ電子と下向きスピンをもつ電子のエネルギー帯が大きく分裂することが期待されます しかし 実際にはこれまで電子のエネルギー帯のスピン分裂が実測された強磁性半導体は非常に稀で II-VI 族である (Cd,Mn)Te において極低温 (

本研究成果は 平成 28 年 8 月 19 日 ( 米国東部時間 ) に米国化学会誌 Journal of the American Chemical Society のオンライン速報版で公開されました 研究の背景と経緯 超伝導現象はゼロ抵抗や完全反磁性 ( 注 2) を示す科学の観点から重要な物理

研究の背景有機薄膜太陽電池は フレキシブル 低コストで環境に優しいことから 次世代太陽電池として着目されています 最近では エネルギー変換効率が % を超える報告もあり 実用化が期待されています 有機薄膜太陽電池デバイスの内部では 図 に示すように (I) 励起子の生成 (II) 分子界面での電荷生

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図は ( 上 ) ローレンツ像の模式図と ( 下 ) パーマロイ磁性細線の実際のローレンツ像

報道発表資料 2000 年 2 月 17 日 独立行政法人理化学研究所 北海道大学 新しい結晶成長プロセスによる 低欠陥 高品質の GaN 結晶薄膜基板作製に成功 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 北海道大学との共同研究により 従来よりも低欠陥 高品質の窒化ガリウム (GaN) 結晶薄膜基板

平成 27 年 12 月 11 日 報道機関各位 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学大学院理学研究科東北大学学際科学フロンティア研究所 電子 正孔対が作る原子層半導体の作製に成功 - グラフェンを超える電子デバイス応用へ道 - 概要 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (

論文の内容の要旨

スライド 1

第1章 様々な運動

マスコミへの訃報送信における注意事項

sample リチウムイオン電池の 電気化学測定の基礎と測定 解析事例 右京良雄著 本書の購入は 下記 URL よりお願い致します 情報機構 sample

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

共同研究グループ 理化学研究所創発物性科学研究センター 量子情報エレクトロニクス部門 量子ナノ磁性研究チーム 研究員 近藤浩太 ( こんどうこうた ) 客員研究員 福間康裕 ( ふくまやすひろ ) ( 九州工業大学大学院情報工学研究院電子情報工学研究系准教授 ) チームリーダー 大谷義近 ( おおた

氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

熱電材料として注目されるコバルト酸化物 早稲田大学理工学部 寺崎一郎 遷移金属酸化物は機能の宝庫ある物質が注目される理由は, その物質が面白い性質を持っているか, あるいは役に立つ機能を持っているかのどちらかであろう ところが, ある種のコバルト酸化物は面白くて役に立つ 面白くて役に立つ酸化物の代表

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報道機関各位 平成 28 年 8 月 23 日 東京工業大学東京大学 電気分極の回転による圧電特性の向上を確認 圧電メカニズムを実験で解明 非鉛材料の開発に道 概要 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の北條元助教 東正樹教授 清水啓佑大学院生 東京大学大学院工学系研究科の幾原雄一教

中性子関連技術解説書 1. はじめに 中性子利用技術名 ; 粉末中性子線回折解説書作成者 ; 技術士氏名伊東亮一 粉末中性子線回折は試料に中性子を当て 散乱される中性子線を測定して試料中の原 子構造を調べる分析法です 粉末のままで結晶構造解析ができます 2. 概要 2.1 粉末中性子線回折従来 結晶

PowerPoint プレゼンテーション

マスコミへの訃報送信における注意事項

資料1-2 コンビナトリアルテクノロジーとマテリアルズインフォマティクスの融合によるラボ改革

記 者 発 表(予 定)

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【NanotechJapan Bulletin】10-9 INNOVATIONの最先端<第4回>

Microsoft PowerPoint プレゼン資料(基礎)Rev.1.ppt [互換モード]

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報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

詳細な説明 研究の背景 フラッシュメモリの限界を凌駕する 次世代不揮発性メモリ注 1 として 相変化メモリ (PCRAM) 注 2 が注目されています PCRAM の記録層には 相変化材料 と呼ばれる アモルファス相と結晶相の可逆的な変化が可能な材料が用いられます 通常 アモルファス相は高い電気抵抗


プラズマ バブルの到達高度に関する研究 西岡未知 齊藤昭則 ( 京都大学理学研究科 ) 概要 TIMED 衛星搭載の GUVI によって観測された赤道異常のピーク位置と 地上 GPS 受信機網によって観測されたプラズマ バブルの出現率や到達率の関係を調べた 高太陽活動時と低太陽活動時について アジア

フィードバック ~ 様々な電子回路の性質 ~ 実験 (1) 目的実験 (1) では 非反転増幅器の増幅率や位相差が 回路を構成する抵抗値や入力信号の周波数によってどのように変わるのかを調べる 実験方法 図 1 のような自由振動回路を組み オペアンプの + 入力端子を接地したときの出力電圧 が 0 と

IB-B

重希土類元素ジスプロシウムを使わない高保磁力ネオジム磁石

酸化グラフェンのバンドギャップをその場で自在に制御

他の単元との連関 子どもが獲得する見方や考え方 教師の持つ指導ポイント 評価規準 小学 4 年生 もののあたたまり方 小学 6 年生 電気の利用 ~ エネルギーの工場と変身と銀行 ~ 中学 1 年生 光と音 ( 光のエネルギーを利用しよう ) 中学 2 年生 電流 ( 電気とそのエネルギー ) 電流

EOS: 材料データシート(アルミニウム)

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世界最高面密度の量子ドットの自己形成に成功

振動発電の高効率化に新展開 : 強誘電体材料のナノサイズ化による新たな特性制御手法を発見 名古屋大学大学院工学研究科 ( 研究科長 : 新美智秀 ) 兼科学技術振興機構さきがけ研究者の山田智明 ( やまだともあき ) 准教授らの研究グループは 物質 材料研究機構技術開発 共用部門の坂田修身 ( さか

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富士通セミコンダクタープレスリリース 2013/04/22

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高校電磁気学 ~ 電磁誘導編 ~ 問題演習

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Application Note 光束の評価方法に関して Light Emitting Diode 目次 1. 概要 2. 評価方法 3. 注意事項 4. まとめ This document contains tentative information; the contents may chang

4. 発表内容 : 超伝導とは 低温で電子がクーパー対と呼ばれる対状態を形成することで金属の電気抵抗がゼロになる現象です これを室温で実現することができれば エネルギー損失のない送電や蓄電が可能になる等 工業的な応用の観点からも重要視され これまで盛んに研究されてきました 超伝導発現のメカニズム す

1. 背景強相関電子系は 多くの電子が高密度に詰め込まれて強く相互作用している電子集団です 強相関電子系で現れる電荷整列状態では 電荷が大量に存在しているため本来は金属となるはずの物質であっても クーロン相互作用によって電荷同士が反発し合い 格子状に電荷が整列して動かなくなってしまう絶縁体状態を示し

トポロジカル絶縁体ヘテロ接合による量子技術の基盤創成 ( 研究代表者 : 川﨑雅司 ) の事業の一環として行われました 共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関物理部門強相関物性研究グループ研修生安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 2 年 ) 研

う特性に起因する固有の量子論的効果が多数現れるため 基礎学理の観点からも大きく注目されています しかし 特にゼロ質量電子系における電子相関効果については未だ十分な検証がなされておらず 実験的な解明が待たれていました 東北大学金属材料研究所の平田倫啓助教 東京大学大学院工学系研究科の石川恭平大学院生

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報道機関各位 平成 29 年 7 月 10 日 東北大学金属材料研究所 鉄と窒素からなる磁性材料熱を加える方向によって熱電変換効率が変化 特殊な結晶構造 型 Fe4N による熱電変換デバイスの高効率化実現へ道筋 発表のポイント 鉄と窒素という身近な元素から作製した磁性材料で 熱を加える方向によって熱電気変換効率が大きく変化することを新発見した 鉄と窒素の組み合わせに限らず 身のまわりにあふれた元素の組み合わせで同様の特性を持つ材料が作れることを示唆 磁石を用いた熱電変換デバイスの開発に応用することで 熱電変換効率を自在にかつ効率よく制御することが可能になる 概要 東北大学金属材料研究所水口将輝准教授 高梨弘毅教授は 福島工業高等専門学校 磯上慎二准教授 ( 当時 現所属 : 国立研究開発法人物質 材料研究機構主任研究員 ) らグ ループとの共同研究によって 型 Fe 4N という特殊な結晶構造をもつ磁性金属の薄膜にお いて 磁場中の熱電変換効果の一つ 異常ネルンスト効果 ( 注 1) ( 注 2) と呼ばれる熱磁気効果 の大きさが 加える熱の方向に応じて大きく変化すること発見しました 風力や太陽光など身の回りのエネルギーを利用する環境発電 ( 注 3) の促進には 熱を電気に 効率的に変換できる材料の開発が不可欠です 熱磁気効果をもつ磁性体は 縦方向の温度 差を横方向の電圧に変換できるため 環境発電に適した材料として注目されていますが 効 率的に発電に利用するためには 熱の方向と電力を取り出す方向をそれぞれ独立に設計 制 御する技術が必要となり 開発が進んでいませんでした そこで研究グループは 鉄と窒素と いう身の回りにあふれる元素の組み合わせから作製できる 型 Fe 4N という特殊な結晶に着目 しました 研究グループが作製した高品位な 型 Fe 4N 薄膜結晶は 熱から電圧への変換効率 が結晶に与える熱の勾配方向に強く影響されることを示しました 今回作製した結晶を用いれば 材料の方向を適切に選択するだけで 熱電効率を変化さ せることができます そのため 発電素子設計に複雑な技術が不要となり より効率的な熱電 素子の開発 環境発電技術への幅広い応用が想定されます また これまであまり熱電変換 素子 ( 注 4) などに活用されてこなかった窒化物薄膜ですが 高い耐食性 機械的強度をもつこと から 酸化物薄膜に替わる新しい研究対象の材料としても期待されます www.tohoku.ac.jp

詳細な説明 研究背景私たちの身の回りに存在する熱 光 振動 電磁波 などのエネルギーを利用して電力に変換する環境発電技術が注目を集めています 特に これまであまり利用されていなかった熱などの微小エネルギーを活用する研究が盛んに行われています また 熱と電子のスピンの相関を用いる熱磁気効果を利用したエネルギー変換材料の創出についても様々な取り組みがなされていますが 熱磁気効果を熱電発電に応用する場合 発電効率を高めるためには 熱勾配の方向と電力を取り出す端子の方向をそれぞれ独立に設計 制御することが必要な技術となり あまり効率的ではありません そのため これらのエネルギー変換材料の熱磁気効果自体に 方向によって物理的性質が異なる性質 ( 異方性 ) があれば 複雑な設計技術は不要となります しかしながら このような熱磁気効果の異方性についてこれまで報告がある材料は 一部 ( 注の超伝導体や希薄磁性半導体などの材料に限られており ユビキタス元素 5) のみから構成される強磁性金属のような 取り扱いやすい材料についての報告はありませんでした 成果の内容今回 水口准教授らのグループは γ 型 Fe 4N という特殊な結晶構造 ( 図 1 に結晶の模式図 ) をもつ磁性金属の薄膜において 異常ネルンスト効果 と呼ばれる熱磁気効果の大きさが 加える熱の方向に応じて大きく変化することを発見しました 本研究では γ 型 Fe4N 磁性体結晶をマグネトロンスパッタ法を用いて 単結晶薄膜として酸化マグネシウム (MgO) 基板上に作製し その異常ネルンスト効果を室温で詳細に調べました 図 1 に示すように この材料の薄膜面内方向に熱の勾配をつけ 発生するネルンスト電圧を測定しました その結果 図 2 に示すように 熱を加える方向によって 発生する電圧が大きく変化し 単一材料として強い異常ネルンスト効果の異方性を示す材料であることが分かりました 本研究で熱電変換素子への応用に用いた異常ネルンスト効果は 古くから知られた現象ですが 発電への応用などにはあまり活用されてきませんでした 異常ネルンスト効果は 熱流の方向と電力を取り出すための電極の方向が垂直関係にあります これは電力の取り出しが熱勾配に影響されないことを意味し 理想的な熱電変換技術といえます そのため これまでは素子の内部で熱を加える方向と電力を取り出す方向をそれぞれ独立に設計 制御することが重要であり 材料自体に熱電変換の効率に方向依存性を持つ方が望ましいと考えられていました 本研究で見いだした 異常ネルンスト効果に強い異方性を示す材料を用いて素子設計を施すことにより 熱電発電効率を飛躍的に高める可能性が示されました

意義 課題 展望 本研究成果は 1) 新材料開発という応用的な成果と 2) 特異な現象の発見という学術的な 成果の両方の意義があります 1) 新材料開発という応用的な成果例えばマイクロメートルサイズの素子設計を行う際に 本成果を用いれば 材料の方向を変えることにより 最適な熱勾配を選択して付与することが可能になるため 極めて高効率な熱電変換素子への開発につながる可能性を秘めています また 材料自体の方向を変化させるだけで熱電効率を変化させることができるため 例えば熱勾配に対して回転体を作製して接触させることにより 出力可変な熱電素子の開発にもつながります さらに 鉄は人類に最も親しい磁性元素であり 窒素は大気の 80% を占めていることから 本成果で開発した鉄と窒素からなる結晶は元素戦略的観点からも価値の高い材料です 窒化物材料は今日広く使われている酸化物材料に比べ 様々な結晶の形 ( 結晶配位 ) を作ることが期待できるため 未知の機能性材料創製の可能性が期待できます また 酸化物と比較して一般的に高い電気伝導性 耐食性 機械的強度が得られるため 今後は酸化物に次ぐ窒化物スピントロニクス研究分野の開拓が期待されます 課題としては 原理的に窒素は高温では溶融せずに分解してしまうため 作製が容易ではない点ですが 近年の結晶成長技術の革新により作製できる材料の幅は拡がっています 2) 特異な現象の発見という学術的な成果本研究で開発した材料は 電気抵抗 ( あるいはホール抵抗 ) にはほとんど異方性が無いにもかかわらず 熱磁気効果だけに異方性が現れます この現象は 材料が金属であること さらに室温で観測されることを考えても極めて特異な現象です この結果は 異常ネルンスト効果が 熱勾配で生じた伝導キャリアの流れがローレンツ力で横方向に曲げられるという単純な描像だけでは説明できないことを示しており 学術的にも興味深い成果です 同じような結晶構造をもつ Fe-Al 不規則合金薄膜で同様の実験を行いましたが 図 3 に示すようにこのような異方性は確認されませんでした そのため 本研究の特殊な現象の要因として 鉄原子および窒素原子に特有の強い軌道混成から生じる電子相関が関係していると考えられます この詳細は解明されておらず 未知の物理が潜んでいる可能性もあるため 今後のさらなる研究課題として進展が期待されます 今後の展開今後は さらに熱電特性の異方性を大きくするための材料開発と 磁性体のナノ構造を制御する研究を進めていきます また 本研究成果を利用した熱電素子を試作し 実際に熱電効率の向上に資することを実証していきます 本成果を有効的に活用することにより 我々の身近なところで高効率な熱電発電が普及する可能性があるため IOT 社会におけるエネルギー源への利用や 宇宙探査機用の電源等 極限環境で用いられる熱電材料の高性能化に向けた展開も期待されます

発表論文雑誌名 :Applied Physics Express( 公益社団法人応用物理学会発刊学術雑誌 ) 英文タイトル :Dependence of anomalous Nernst effect on crystal orientation in highly ordered - Fe4N films with anti-perovskite structure 全著者 :Shinji Isogami, Koki Takanashi and Masaki Mizuguchi DOI:10.7567/APEX.10.073005 専門用語解説注 1 異常ネルンスト効果磁化した磁性体に熱流を流した際 磁化の向きと熱流の向きの外積方向に電圧を生じる現象 電圧の向きと大きさは磁性体の材料ごとに異なり 材料が持つ異常ネルンスト係数の符号と大きさによって決まります 注 2 熱磁気効果 金属や半導体に温度勾配による熱流があるとき 外部から磁場をかけると電位差や温度差が 生じる現象 熱流磁気効果と呼ばれることもあります 注 3 環境発電照明や振動 廃熱 体温 電磁波等の身の回りのエネルギーを利用して電力に変換する発電方法 エネルギーハーベスティングとも呼ばれ 近年 環境意識の高まりと省電力デバイスの普及により これまで利用されていなかった環境中のエネルギーを利用することが注目されています 注 4 熱電変換素子ゼーベック効果 ペルティエ効果 トムソン効果などの 熱と電気を関係づける現象を利用した素子の総称 例えば 2 種類の異なる金属または半導体を接合して 両端に温度差を生じさせると起電力が生じるゼーベック効果は 熱エネルギーを電気エネルギーに変換する現象であり ゼーベック素子に応用されています 注 5 ユビキタス元素ユビキタス (ubiquitous) は 遍在性をあらわす言葉であり 資源面から見て ありふれた入手しやすい元素のことを指します 例えば 地球上の地表付近に存在する元素の質量割合を示す クラーク数 が大きい元素ほど ユビキタス元素ということになります クラーク数が一番大きい元素は酸素であり ケイ素 アルミニウム 鉄の順に続きます 共同研究機関および助成 本研究成果は 科学技術振興機構 (JST) 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) 超空間制御に基づく高度な特性を有する革新的機能素材等の創製 ( 研

究総括 : 瀬戸山亨三菱ケミカル株式会社執行役員横浜研究所研究室長 ) における研究課題 ナノ超空間を利用した熱 スピン 電界交差相関による高効率エネルギー変換材料の創製 ( グラント No.JPMJCR1524 研究代表者: 水口将輝東北大学金属材料研究所准教授 研究期間 : 平成 27~32 年度 ) および日本学術振興会科学研究費助成事業 ( 科学研究費補助金 ) 基盤研究 (S) における研究課題 規則合金スピントロニクス材料の新展開 ( 課題番号 25220910 研究代表者: 高梨弘毅東北大学金属材料研究所教授 研究期間 : 平成 25~29 年度 ) の一環として行われました 参考図 図 1 γ 型 Fe4N の結晶構造図と異常ネルンスト効果の測定方法 γ 型 Fe4N の単結晶の高品位な薄膜を作製しました この薄膜に結晶の異なる方向から熱勾配を加えて 熱勾配と磁場の双方に垂直な方向の電圧 ( 異常ネルンスト電圧 ) を測定しました

図 2 γ 型 Fe4N 薄膜の異常ネルンスト電圧の磁場依存性 γ 型 Fe4N 単結晶薄膜の異なる結晶方位から熱勾配を加えると その方向によって電圧が 大きく変化することを見いだしました 図 3 A2 型 Fe-Al 薄膜の異常ネルンスト係数の Al 組成依存性 γ 型 Fe4N に似た結晶構造をもつ A2 型 Fe-Al 単結晶薄膜で Fe と Al の組成を変えて異常ネルンスト効果の測定を行いましたが γ 型 Fe4N のように熱勾配の方向で電圧の大きさが変わるようなふるまいは見られませんでした この結果は 本研究結果がγ 型 Fe4N に特有の現象であることを表しています

本件に関するお問い合わせ先 研究内容に関して東北大学金属材料研究所先端エネルギー材料理工共創研究センター氏名水口将輝 TEL:022-215-2377 Email:mizuguchi@imr.tohoku.ac.jp 報道に関して東北大学金属材料研究所情報企画室広報班横山美沙 TEL:022-215-2144 FAX:022-215-2482 Email:pro-adm@imr.tohoku.ac.jp