大学教職員の心臓検診の現状 * 和井内由充子 大学保健管理センターの主要業務のひとつに 健康診断とそれに基づく健康管理がある 突然 死にもつながる心疾患の早期発見と管理は重要 である 大学生の心疾患管理に関しては以前報 告 1-6) した 大学のもうひとつの主要構成員で ある教職員の管理の現状を今回

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1. 期外収縮 正常なリズムより早いタイミングで心収縮が起きる場合を期外収縮と呼び期外収縮の発生場所によって 心房性期外収縮と心室性期外収縮があります 期外収縮は最も発生頻度の高い不整脈で わずかな期外収縮は多くの健康な人でも発生します また 年齢とともに発生頻度が高くなり 小学生でもみられる事もあ

障害程度等級表 心臓機能障害 1 級 心臓の機能の障害により 自己の身辺の日常生活活動が極度に制限されるもの 2 級 - 3 級 心臓の機能の障害により 家庭内での日常生活活動が著しく制限されるもの 4 級 心臓の機能の障害により 社会での日常生活活動が著しく制限されるもの

心房細動1章[ ].indd

8. 胸部 X 線写真 (4 月 11 日 ) 心臓 大血管陰影 ( 右第 1 2 弓 左第 1 4 弓 ) X 線像 : 拡大 の意義 左房拡大所見 心臓の血行力学的回転 心胸郭比の求め方と正常値 心不全における X 線写真の肺野所見 ( 血流の再分布 間質性肺水腫 肺胞性肺水腫 ) 9. 心臓超

平成 30 年度循環ブロック講義重要ポイント 1. 循環器疾患の症候学 (2 月 1 日 ) 狭心症の問診のポイント (Nitroglycerin SAVES angina.) 不整脈の問診のポイント 心不全の重症度を表す NYHA の重症度分類 起座呼吸 発作性夜間呼吸困難 中心性チアノーゼと末梢

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d 運動負荷心電図でSTの低下が0.1mV 以上の所見があるもの ( イ ) 臨床所見で部分的心臓浮腫があり かつ 家庭内での普通の日常生活活動若しくは社会での極めて温和な日常生活活動には支障がないが それ以上の活動は著しく制限されるもの又は頻回に頻脈発作を繰り返し 日常生活若しくは社会生活に妨げと

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受給者番号 ( ) 患者氏名 ( ) 告示番号 72 慢性心疾患 ( ) 年度小児慢性特定疾病医療意 書 新規申請用 経過 ( 申請時 ) 直近の状況を記載 2/2 薬物療法 強心薬 :[ なし あり ] 利尿薬 :[ なし あり ] 抗不整脈薬 :[ なし あり ] 抗血小板薬 :[ なし あり

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1 正常洞調律 ;NSR(Normal Sinus Rhythm) 最初は正常洞調律です P 波があり R-R 間隔が正常で心拍数は 60~100 回 / 分 モニター心電図ではわかりにくいのですが P-Q 時間は 0.2 秒以内 QRS 群は 0.1 秒以内 ST 部分は基線に戻っています 2 S

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循環器 Cardiology 年月日時限担当者担当科講義主題 平成 23 年 6 月 6 日 ( 月 ) 2 限目 (10:40 12:10) 平成 23 年 6 月 17 日 ( 金 ) 2 限目 (10:40 12:10) 平成 23 年 6 月 20 日 ( 月 ) 2 限目 (10:40 1

自動車運送事業者における 心臓疾患大血管疾患 対策ガイドライン 概要版 本ガイドラインのポイント 実践 業者が実施スクリーニング検査事医療機関が実施事業者が実施知識 健康起因事故の原因となる心臓疾患 大血管疾患 疾患の原因と予防 ( 参考 ) 関係法令について 心臓疾患 大血管疾患の早期発見と発症予

臨床所見 ( 申請時 ) 直近の状況を記載症状告示番号 72 慢性心疾患 ( ) 年度小児慢性特定疾病医療意 書 継続申請用 病名 1 洞不全症候群 受給者番号受診日年月日 受付種別 継続 転出実施主体名 転入 ( ) ふりがな 氏名 (Alphabet) ( 変更があった場合 ) ふりがな以前の登

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

01 表紙

概要 214 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症 215 ファロー四徴症 216 両大血管右室起始症 1. 概要ファロー四徴症類縁疾患とは ファロー四徴症に類似の血行動態をとる疾患群であり ファロー四徴症 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖 両大血管右室起始症が含まれる 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症は ファ

臨床調査個人票 新規 更新 189 無脾症候群 行政記載欄 受給者番号判定結果 認定 不認定 基本情報 姓 ( かな ) 名 ( かな ) 姓 ( 漢字 ) 名 ( 漢字 ) 郵便番号 住所 生年月日西暦年月日 * 以降 数字は右詰めで 記入 性別 1. 男 2. 女 出生市区町村 出生時氏名 (

日小循誌 表 年齢 歳 死亡群 合計 9例 3 2 上室性期外収縮 心室性期外収縮 享 表3 房室解離 洞房ブロック 発症後の期間 月 2月 月 房室ブロック LVH例 全例数 心室性および上室性期外収縮 LVHの率 2 33

058 肥大型心筋症

生理検査部門 ( 日 ) 富山市民病院検査科浅井泰代

2

Microsoft PowerPoint - 2.医療費プロファイル 平成25年度(長野県・・

胸痛の鑑別診断持続時間である程度の鑑別ができる 数秒から1 分期外収縮筋 骨格系の痛み 心因性 30 分以内 狭心症食道痙攣 逆流性食道炎 30 分以上 急性心筋梗塞 解離性大動脈瘤 肺塞栓症 急性心膜炎自然気胸 胸膜炎胃 十二指腸潰瘍 胆嚢炎 胆石症帯状疱疹 急性心筋梗塞の心電図変化 R P T

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直接還流するように血行動態を修正する手術 ) を施行する ただ 順調なフォンタン循環であっても通常の慢性うっ血性心不全状態であるため いつかは破綻していくこととなる フォンタン型手術は根治的手術ではない また フォンタン型手術適応外となった群には 効果的な薬物治療はなく ACE 阻害薬 利尿薬の効果

循環器系疾患 特発性拡張型心筋症 1. 概要拡張型心筋症は 心筋収縮と左室内腔の拡張を特徴とする疾患群であり 高血圧 弁膜性 虚血性 ( 冠動脈性 ) 心疾患など原因の明らかな疾患を除外する必要がある 2. 疫学 1998 年に施行された厚生省の特発性心筋症調査研究班による全国調査では 拡張型心筋症

第6章 循環器系

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年301 番 循環器系の疾患 (Cardiovascular Disease) 責任者: 石原正治主任教授 坂口太一主任教授 内科学循環器内科 朝倉正紀教授 峰隆直特任准教授 内藤由朗講師 赤堀宏洲講師 奥原祥貴講師 織原良行助教 正井久美子助教 増山理特別招聘教授 伊賀幹二非常勤講師 駒村和雄非常

心疾患患による死亡亡数等 平成 28 年において 全国国で約 20 万人が心疾疾患を原因として死亡しており 死死亡数全体の 15.2% を占占め 死亡順順位の第 2 位であります このうち本県の死亡死亡数は 1,324 人となっています 本県県の死亡率 ( 人口 10 万対 ) は 概概ね全国より高

を示しています これを 2:1 房室ブロックと言います 設問 3 正解 :1 ブルガダ型心電図正解率 96% この心電図の所見は 心拍数 56/ 分 P-P 間隔 R-R 間隔一定の洞調律 電気軸正常です 異常 Q 波は認めません ST 部分をみると特に V1 V2 誘導で正常では基線上にあるべき

疾患に関する参考資料

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NEW版下_健診べんり2016_01-12

頻拍性不整脈 tachyarrhythmias 速く異常な電気興奮が頻拍性不整脈の原因となります. 様々な種類の頻拍性不整脈を鑑別する上で 12 誘導心電図が有用です. その原因の発生部位により以下のように分類されます. 心室性頻拍 : 心室内に頻拍の発生源が存在. 心室頻拍 心室細動 上室性頻拍

脳血管疾患予防のための保健事業実施計画 データヘルス計画の目的は 脳血管疾患 虚血性心疾患等 糖尿病性腎症による新規透析患者を減らし 健康格差を縮小することにあります このうち 本市では脳血管疾患患者の入院医療費が 1 億 5,600 万円であり 生活習慣病全体の入院医療費の 33.1% と多くを占

心不全とは?(Fig.3) 心機能低下に起因する循環不全 と定義され 心臓が全身の組織における代謝の必要量に応じて 血液を十分駆出できない状態です 発症の仕方により 急性心不全 (acute heart failure:ahf) と慢性心不全 (chronic heart failure:chf)

平成 26 年 ₇ 月 15 日発行広島市医師会だより ( 第 579 号付録 ) 2.NT-proBNP の臨床的意義 1 心不全 ( 収縮及び拡張機能障害 ) で早期より測定値が上昇するため 疾患の診断や病状の経過観察さらには予後予測等に活用できます 2NT-proBNP の測定値は疾患の重症度

心電図判読講座  ~第一回 肥大・拡大~

心臓血管外科カリキュラム Ⅰ. 目的と特徴心臓血管外科は心臓 大血管及び末梢血管など循環器系疾患の外科的治療を行う診療科です 循環器は全身の酸素 栄養供給に欠くべからざるシステムであり 生体の恒常性維持において 非常に重要な役割をはたしています その異常は生命にとって致命的な状態となり 様々な疾患

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要件の判定に必要な事項 1. 患者数 ( 平成 24 年度医療受給者証保持者数 ) 3,144 人 2. 発病の機構不明 ( 心筋収縮蛋白の遺伝子異常が主な病因であると考えられている ) 3. 効果的な治療方法未確立 ( 根治治療なし ) 4. 長期の療養必要 ( 心不全などの治療の継続が必要である

A B V1 Ⅱ Ⅲ 45 V1 Ⅱ V3 Ⅲ V3 avr V4 avr avl avl V4 V5 V5 V6 V6 図 1 体表面12誘導心電図 A 発作時 心拍数220bpm 右軸偏位のregularなwide QRS頻拍を認めた B 非発作時 ベラパミル投与後 洞調律に服した 心拍数112

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2 慢性心不全の症状は 慢性心不全では交感神経が活発になったままとなりますので 脈が速く 不整脈が出やすくな ります この症状が 動悸 です また 呼吸が浅く速いこと 肺での酸素の交換が悪くなって いるので呼吸が荒くなることも特徴で この症状が 息切れ です さらに 手足の筋肉や血管 いひろうかん

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2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

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症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

循環器6) 冠動脈バイパス術 A C 141 循環器 知識 技術 技能 症例 11. 循環器疾患の生化学的診断 ( 新しいバイオマーカーを含む ) A B 135 Ⅳ. 治療 危険因子矯正法 ( 生活習慣変容 ) 135 1) 減塩 A A 136 2) 減量 A A 136 3) 禁

第 3 節心筋梗塞等の心血管疾患 , % % % %

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自動車運送事業者における 心臓疾患大血管疾患 対策ガイドライン 令和元年 7 月 5 日 国土交通省自動車局 事業用自動車健康起因事故対策協議会

第5章 体液

心房細動の機序と疫学を知が, そもそもなぜ心房細動が出るようになるかの機序はさらに知見が不足している. 心房細動の発症頻度は明らかに年齢依存性を呈している上, 多くの研究で心房線維化との関連が示唆されている 2,3). 高率に心房細動を自然発症する実験モデル, 特に人間の lone AF に相当する

虎ノ門医学セミナー

4. 虚血性心臓病 5 5. 肥大型心筋症 (HCM) 6 6. 心肥大を伴うその他の心疾患 7 7. 拡張型心筋症 (DCM) 7 8. 催不整脈性右室心筋症 (ARVC) 7 9. その他の心筋疾患 8 10.Brugada 症候群 先天性 QT 延長症候群 (LQTS) 8 12.

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要件の判定に必要な事項 1. 患者数 ( 平成 28 度医療受給者証保持者数 ) 4,667 人 2. 発病の機構不明 ( 心筋収縮蛋白の遺伝子異常が主な病因であると考えられている ) 3. 効果的な治療方法未確立 ( 根治治療なし ) 4. 長期の療養必要 ( 心不全などの治療の継続が必要である

心電図がキライな理由 胸部誘導の肋間がわかりにくい 電極の付け間違いをしていないか不安 結果を聞かれるのがイヤ 患者が女性だと ちょっと 難解な用語ばかり AF? AFL? VT? VF? PSVT? SPVC? PVC? VPC? APC? あぁぁー??? 2

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り ( 狭窄といいます ) 血管が急にけいれんして狭くなったり( 攣縮 ) 血の塊( 血栓 ) が出来て詰まってしまうことがあります 冠動脈が狭く十分に心臓の筋肉に血液が供給されない状態で 胸が締め付けられるような感覚 痛みなどを伴った場合 狭心症とよび 循環器専門施設で冠動脈の状態をカテーテルで調

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平成 28 年度健康診断について 基本健康診断 ( 一次検査 ) 健康保険組合は疾病予防事業として被保険者 被扶養者の皆様の健康診断を実施しています 健診種類 ( いずれかを選択 ) 生活習慣病健診 人間ドック 被保険者 対象者 対象年齢 ( 該当年度末日 (3 月 31 日 ) 基準 ) 年齢制限

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心臓血管外科・診療内容

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また カスタムメイドの 1Fr 電極カテーテルを用いて in vivo で心臓電気生理学検査を施行し His 束心電図記録を行った さらに ex vivo の検討として 摘出心を Langendorff 還流し 電位感受性色素 (di 4-ANEPPS) および高速 CMOS カメラシステムを用いて

3 成人保健

監修 作成作成ご協力者 氏名 有本貴範 所属 山形大学医学部内科学第一講座助教

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図表 1 1,000 万円以上高額レセプト上位 100 位 ( 平成 28 年度 ) 注 : 主傷病名欄の ( ) は調剤レセプト ( 単位 : 円 ) 順位月額医療費 主傷病名 順位月額医療費 主傷病名 順位月額医療費 主傷病名 順位月額医療費 主傷病名 1 106,941,690 フォンウィルブ

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

対象疾患名及び ICD-10 コード等 対象疾患名 ( 診療行為 ) ICD-10 等 1 糖尿病 2 脳血管障害 3 虚血性心疾患 4 動脈閉塞 5 高血圧症 6 高尿酸血症 7 高脂血症 8 肝機能障害 9 高血圧性腎臓障害 10 人工透析 E11~E14 I61 I639 I64 I209 I

CCU で扱っている疾患としては 心筋梗塞を含む冠動脈疾患 重症心不全 致死性不整脈 大動脈疾患 肺血栓塞栓症 劇症型心筋炎など あらゆる循環器救急疾患に 24 時間対応できる体制を整えており 内訳としては ( 図 2) に示すように心筋梗塞を含む冠動脈疾患 急性大動脈解離を含む血管疾患 心不全など

また リハビリテーションの種類別では 理学療法はいずれの医療圏でも 60% 以上が実施したが 作業療法 言語療法は実施状況に医療圏による差があった 病型別では 脳梗塞の合計(59.9%) 脳内出血 (51.7%) が3 日以内にリハビリテーションを開始した (6) 発症時の合併症や生活習慣 高血圧を

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「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

5. 死亡 (1) 死因順位の推移 ( 人口 10 万対 ) 順位年次 佐世保市長崎県全国 死因率死因率死因率 24 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 位 26 悪性新生物 350

健康企業宣言実施結果レポート Step1(Q&A) 質問 実施方法 添付資料 日頃の食生活に乱れがないか声掛けをしていますか? 始業前などに体操やストレッチを取り入れていますか? 朝礼等での声掛けの他 TJK ホームページに掲載されている 野菜は 1 日 350g 食べましょう のパンフ

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肥満者の多くが複数の危険因子を持っている 肥満のみ約 20% いずれか 1 疾患有病約 47% 肥満のみ 糖尿病 いずれか 2 疾患有病約 28% 3 疾患すべて有病約 5% 高脂血症 高血圧症 厚生労働省保健指導における学習教材集 (H14 糖尿病実態調査の再集計 ) より

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* 和井内由充子 大学保健管理センターの主要業務のひとつに 健康診断とそれに基づく健康管理がある 突然 死にもつながる心疾患の早期発見と管理は重要 である 大学生の心疾患管理に関しては以前報 告 1-6) した 大学のもうひとつの主要構成員で ある教職員の管理の現状を今回は報告する 心 疾患の発見には, 問診票 1), 内科診察 ( 聴診 ) 2), 3- 心電図検査 6), 胸部 X 線撮影が有用であるの は学生健診と同様であるが, 教職員では血液検 査も実施している 特に血漿 B 型ナトリウム 利尿ペプチド (BNP) 濃度測定 7-9) は心疾患の スクリーニングに有用である それらの項目を 心臓関連項目とし, 教職員健康診断での有用性 を検討した 対象と方法平成 23 年度秋の教職員健康診断でいずれかの心臓関連項目を受診した6,086 人を対象とした 男性 3,081 人 女性 3,005 人で, 平均年齢は 40.2 歳 (19 歳 ~72 歳 ) であった 当センターでは全教職員にすべての項目を実施しているわけではなく, 法律面, 費用面を踏まえて独自の基準で実施している 項目別受診基準と実際に受診した人数を表 1 に示した 胸部 X 線撮影は結核予防の観点から当大学の健康保険に未加入の教職員も含め全員に実施を促した 問診票は健康保険加入者のみ, 心電図検査は健康保険加入者のうち心疾患の増加する30 歳以上ある 表 1 教職員健康診断 ( 心臓関連項目 ) の受診者数 項目受診基準人数 ( 男 : 女 ) 年齢 ( 平均 ± 標準偏差 ) 問診票 全員 5,995 (3,029 : 2,966) 40.2±11.44 内科診察 40 歳以上 2,927 (1,851 : 1,076) 50.0± 7.57 心電図 30 歳以上, あるいは高血圧, 症状, 既往のあるもの 4,774 (2,711 : 2,063) 43.8±10.00 胸部 X 線撮影 全員 * 5,887 (3,037 : 2,850) 40.4±11.47 血漿 BNP** 濃度 40 歳以上 2,864 (1,809 : 1,055) 50.4± 7.21 いずれかの項目 *** 6,086 (3,081 : 3,005) 40.2±11.44 * 胸部 X 線撮影のみ健康保険未加入者も受診可能 ** BNP:B 型ナトリウム利尿ペプチド *** 雇用時は,BNP 以外のすべての項目の受診 単位 : 人 単位 : 歳 * 慶應義塾大学保健管理センター 27

いは高血圧や心疾患を疑わせる症状, 既往のあるもの, 内科診察と血漿 BNP 測定は特定健診の対象である40 歳以上のみの実施とした また雇用時健診を兼ねている場合は,BNP 以外のすべての項目の受診とした 各項目で所見あり ( 有所見 ) と判定した基準と検討を要する所見 ( 要検討 ) と判定した基準およびそれぞれ対象となった人数を表 2 に示した 問診票では, 動悸, 胸痛, 失神などの自覚症状の記載があるもの, 虚血性心疾患の既往のあるもの, 現在治療中あるいは経過観察中の心疾患のあるものを有所見とし, かつすべて要検討例とした 内科診察では心雑音あるいは心音異常のあるものを有所見かつ要検討例とした 心電図検査では正常範囲内以外をすべて有所見としたが, その中から日本人間ドック学会のガイドライン 10) を参考に要検討例を抽出した 胸部 X 線撮影では心 大血管陰影に何らかの異常のあるものを有所見とし, 前述のガイドライン 10) を参考に心陰影の拡大, 大動脈の拡張, 心臓術後陰影を要検討例とした 血漿 BNP 濃度は男性 30pg/ml 以上 女性 40pg/ml 以上を有所見かつ要検討例 7) とした 要検討例は, 必要に応じ循環器専門医の面接や, 心エコー図検査 11,12) あるいはホルター心電図検査 13) などの精査を指示した その検討結果を踏まえて, 最終的に管理不要, 新規管理, 管理継続の判定を行った 成績 1. 有所見および要検討の割合健康診断項目別に受診数に対する有所見および要検討例の比率を図 1 に示した 有所見率は心電図が16.2% と高かったが, そのうち検討を要したのは約半数にとどまった 胸部 X 線撮影では有所見率は4.9% であったがその約 7 割が要検討となった 他の 3 項目では有所見例を すべて要検討としたが, 問診票が2.6%,BNP が 2.1%, 内科診察が0.9% と低値であった なお, 単独項目ではなく重複項目が該当したものが多くみられたため, いずれかの項目が有所見, 要精査となったものは各項目の合計より少なくなり, 有所見率は18.0%, 要検討率は10.8% であった 2. 事後処置要検討例のうち要面接, 要精査数を表 3 に示した いずれかの項目で面接となったのは 21 人, 精査の指示となったのは98 人であった 内科診察は全体の人数は少数だが面接や精査となる比率が高かった 次に精査となる比率が高かったのは BNP と心電図であった 逆に胸部 X 線撮影と問診票は処置不要例が多かった 3. 最終判定要検討例の最終的な判定を図 2 に示した 全体では前年からの管理継続は31.3% で, 新規管理が19.2%, 管理不要が49.5% であった 健康診断項目別では, 新規管理となった率の高かったのは心電図, 内科診察,BNP の順であった 一方胸部 X 線撮影では75% が管理不要と判定された 4. 要管理疾患詳細新規, 継続を含めた要管理疾患の詳細を表 4 に示した 非特異性 ST-T 変化や Q 波異常など心臓の器質的異常を伴わない心電図上の異常が176 人と多く, 期外収縮などの不整脈が80 人, その他多い順に, 虚血性心疾患, 心臓弁膜症, 先天性心疾患と続いた 新規管理となったものは, 心電図異常と不整脈が多かった 28

慶應保健研究 ( 第 30 巻第 1 号,2012) 表 2 健康診断項目別有所見数および要検討数 項目有所見判定基準人数 * 要検討判定基準人数 * 問診票下記項目に はい の記載のあるもの 153 同左 153 自覚症状 : 動悸, 脈がとぶ, 失神, 胸痛等 98 虚血性心疾患の診断や治療を受けた 20 現在治療, 経過観察中の病気 : 心疾患, 不整脈等 53 内科診察下記所見のあるもの 27 同左 27 心雑音 15 心音異常 ( 心音の不整を含む ) 12 心電図 正常範囲内 以外すべて 772 以下の所見のあるもの 381 顕著な洞性, 心房性不整脈 27 心房細動, 粗動 6 上室, 心室期外収縮 80 上室性頻拍, 心室頻拍 2 房室, 心室調律, 房室解離, 補充収縮 1 人工ペースメーカ 2 房室ブロック 18 完全右脚, 左脚ブロック, 心室内ブロック 44 WPW,LGL 症候群 18 QT 延長症候群,Brugada 症候群 5 Q 波異常,R 波減高 29 右房, 左房負荷 1 右室, 左室肥大 12 高度の高電位, 低電位 22 非特異性, 虚血性 ST-T 変化 163 胸部 X 線心 大血管陰影のすべての異常 286 以下の所見のあるもの 188 撮影 心陰影の拡大 177 大動脈の拡張 25 心臓術後陰影 16 BNP 男性 30pg/ml 以上, 女性 40pg/ml 以上 59 同左 59 いずれかの項目 1,093 658 * 小文字数字は内訳別内数単位 : 人 WPW:Wolff-Parkinson-White, LGL:Lown-Ganong-Levine, BNP:B 型ナトリウム利尿ペプチド 20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 問診票内科診察心電図 部 線 い れか 有所見率要検討率 B :B トリウム利尿 チド 図 1 有所見例と要検討例の受診数に対する割合 29

表 3 要検討例の事後処置 項目 要面接 要精査 処置不要 問診票 8 (5.2) 19 (12.4) 126 (82.4) 内科診察 8 (29.6) 8 (29.6) 11 (40.7) 心電図 8 (2.1) 83 (21.8) 290 (76.1) 胸部 X 線撮影 4 (2.1) 16 (8.5) 168 (89.4) BNP 1 (1.7) 17 (28.8) 41 (69.5) いずれかの項目 21 (3.2) 98 (14.9) 539 (81.9) ( ) 内は各項目における比率 単位 : 人 (%) い れか 部 線 心電図内科診察問診票 0 20 40 60 80 100 管理不要管理中 規管理 B :B トリウム利尿 チド 図 2 健康診断項目別最終判定 表 4 要管理疾患内訳 疾患名人数 * 虚血性心疾患 24 (2) 先天性心疾患 15 (0) 心房中隔欠損症, 心室中隔欠損症, ファロー四徴症, 大血管転位, 他 心臓弁膜症 19 (3) 僧帽弁逸脱症, 大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症, 他 特発性心筋症 6 (0) 不整脈 80 (39) 心房細動, 発作性上室性頻拍, 心室期外収縮, 他 心電図異常 176 (76) 非特異性 ST-T 変化,Q 波異常, 左室肥大, 他 大動脈瘤 2 (1) その他の心疾患 11 (6) 心不全, 高血圧性心疾患, 心筋炎後遺症, 他 計 333 (127) *( ) 内は新規管理者 単位 : 人 30

慶應保健研究 ( 第 30 巻第 1 号,2012) 考察当大学の教職員は19 歳から72 歳の年齢層の広がりがあるが, 約半数が40 歳以上と心疾患の増加してくる年齢層である 毎年の定期健康診断は, すでに発症した心疾患の発見のみならず, その原因となる高血圧, 脂質異常などの早期発見とその後の指導や治療にも有用である 健康診断項目の中で特に心疾患の発見に有用な基本項目は, 自覚症状や既往歴などの問診, 心音の聴診, 心電図, 胸部 X 線撮影での心大血管陰影の読影であろう さらに当大学では2005 年より血漿 BNP 濃度の測定を実施 9) してきた 問診, 聴診に関しては, 所見の存在はそのまま事後処置の必要性の検討に値すると考えた 血漿 BNP 濃度に関しては, 有所見すなわち要検討となるカットオフ値が設定 7) されている 一方, 心電図所見や胸部 X 線撮影での心 大血管陰影に関しては, 正常範囲とはいえない種々の所見が見られるが, それらの所見の重要性は一定でなく, 施設により検討を要するか否かの判定基準も異なってくる 各施設へのアンケート調査からまとめられた人間ドック協会の管理基準 10) は当施設での判定基準とほぼ一致しており, 要検討例の抽出には問題がないと思われる ただし単独では検討に値しないが他の健康診断項目でも重複して有所見の場合は, 意味のある所見である可能性があり, 個別の判断が必要であろう 健康診断項目別で見ると, 要検討となったのが最も多かったのは心電図であった 特に非特異性 ST-T 変化は多く見られる所見であり, 前年と比べて変化の見られるものは積極的に精査の対象とした ほとんどは心エコー図検査上明らかな異常がなく, 自覚症状のない時点での病的意義は不明であるが, 今後心疾患の発症につながる可能性があるため経過観察とした 次に 多く見られた心室, 上室期外収縮も器質的心疾患に伴うもの以外は治療の対象とならないものが多く, 経過観察のみとした 一方, 即治療対象となる所見は心房粗 細動や上室, 心室頻拍などであり, 今回新規発見のものは直ちに医療機関受診を勧めた 心電図は有所見も要検討も多く, 心臓関連項目の中ではやはり最も重要な位置づけであると言わざるを得ない 胸部 X 線撮影では, 心胸郭比 50% 以上を心拡大と判定したため多数が該当し,188 人が要検討例となった 心拡大は全例で前年と比較し, 明らかに拡大が進行したもののみに精査を実施したたが, 心疾患の新規発見は最も少なく, 75% は管理不要と判定された 健康診断での心拡大の診断はやや過剰診断となる可能性があるが, 他の項目との重複所見がある場合は積極的に精査を検討すべきと考える BNP に関しては心疾患の管理中の例が多く見られ, その値の変動が心不全の経過観察に有用と思われた 有所見が少なくても要精査, 要面接, 要管理となる率が高いのは内科診察であった 心音の聴診は心疾患の管理に重要であることが再確認された 総括 1. 大学教職員の健康診断で, 問診票, 内科診察 ( 聴診 ), 心電図検査, 胸部 X 線撮影, 血漿 B 型ナトリウム利尿ペプチド (BNP) 濃度測定を心臓関連項目とし, 心疾患管理への有用性を検討した 2. 有所見率は心電図が16.2% と高かったが, そのうち検討を要したのは約半数にとどまった 胸部 X 線撮影では有所見率は4.9% であったがその約 7 割が要検討となった 他の 3 項目では有所見例をすべて要検討としたが, 問診票が2.6%,BNP が2.1%, 内科診察が0.9% 31

と低値であった 3. 要検討例のうち, いずれかの項目で面接となったのは21 名, 精査の指示となったのは98 名であった 内科診察は全体の人数は少数だが面接や精査となる比率が高かった それ以外で精査となる比率が高かったのは BNP と心電図であった 逆に胸部 X 線撮影と問診票は処置不要例が多かった 4. 要検討例の最終的な判定では前年からの管理継続は31.3% で, 新規管理が19.2%, 管理不要が49.5% であった 項目別では, 新規管理となった率の高かったのは心電図, 内科診察,BNP の順であった 一方胸部 X 線撮影では75% が管理不要と判定された ペプチド (BNP) 濃度測定の健康診断への活用. 慶應保健研究 25:71-75, 2007 9 ) 河邊博史 : 血漿 B 型ナトリウム利尿ペプチド (BNP) 濃度測定の臨床応用. 慶應保健研究 29: 83-88, 2011 10) 人間ドック成績判定及び事後指導に関するガイドライン作成小委員会 : 人間ドック成績判定及び事後指導に関するガイドライン. 健康医学 17: 124-140, 2002 11) 和井内由充子 : 健康診断における心エコー図検査の有効利用に関する検討. 慶應保健研究 21: 33-38, 2003 12) 和井内由充子 : 健康診断における心エコー図検査の有効利用に関する検討 ( 第 2 報 ). 慶應保健研究 25:15-19, 2007 13) 和井内由充子 : 健康診断におけるホルター心電図検査の有効利用に関する検討. 慶應保健研究 23:51-55, 2005 5. 要精査, 要面接, 要管理となる率が高い内科診察や, 有所見, 要検討の多い心電図は, 心臓関連項目の中では重要な位置づけであると思われた 文 献 1 ) 和井内由充子, 他 : 大学生の心臓検診における問診票の有効利用について. 慶應保健研究 29: 5-9, 2011 2 ) 和井内由充子 : 健康診断における内科診察の今後. 慶應保健研究 22:23-26, 2004 3 ) 和井内由充子 : 大学生の心疾患管理者の検討 心電図検査の有用性について. 慶應保健研究 15:38-43, 1997 4 ) 和井内由充子 : 大学新入生の健康診断における心電図検査の評価. 慶應保健研究 16:23-29, 1998 5 ) 和井内由充子 : 大学新入生の健康診断における心電図検査の評価 ( 第 2 報 ). 慶應保健研究 17: 29-34, 1999 6 ) 和井内由充子 : 大学新入生の健康診断における心電図検査の評価 ( 第 3 報 ). 慶應保健研究 20: 29-32, 2002 7 ) 河邊博史, 他 : 健康診断における血漿脳性ナトリウム利尿ペプチド (BNP) 濃度測定の意義と有用性. 慶應保健研究 19:1-8, 2001 8 ) 田中由紀子, 他 : 血漿ヒト脳性ナトリウム利尿 32