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(1-4) 広帯域地震計による観測 ( 東京大学地震研究所 ) ア. 広帯域地震観測網の展開 2011 年 1 月 26 日から始まった新燃岳の本格的なマグマ噴火をうけて実施された科学技術振興調整費による緊急研究で展開された広帯域地震計 (Trillium 120 秒計 )( 赤二重丸 ) と空振計の観測網 ( 白二重丸 ) は 2011 年 3 月末には現地収録で観測を開始した 4 月 9 日までには 携帯電話によるモバイルテレメーター化が 7 観測点で完了し 4 月 15 日までに 3 観測点での有線テレメーター化が完了した 観測点の配置図を既存の地震研究所 ( 赤 ) 気象庁( 青 ) 防災科学技術研究所( 緑 ) の定常観測点 他大学の臨時観測点 ( 黄 ) とともに 図 1-4-1 に示す なお 今回設置した観測網のデータはすべて公開される 表 1-4-1 に観測点の情報をまとめる 図 1-4-1 観測点配置図 表 1-4-1 観測点の情報 観測点名観測項目緯度経度標高 (m) 観測開始備考 P01 ( 小野田農場 ) 広帯域地震観測 31.98778 130.87368 605 3/27 商用電源 モバイルテレメーター P02 ( 上江小学校 ) 広帯域地震観測 32.03215 130.84750 259 3/25 独立電源 モバイルテレメーター P03 ( 白鳥温泉下湯 ) 広帯域地震観測 空振観測 31.97801 130.83138 696 3/27 商用電源 有線テレメーター P04 ( 岡元小学校 ) 広帯域地震観測 空振観測 32.02143 130.78592 274 3/27 独立電源 モバイルテレメーター P05 ( 栗野岳レクリエーション村 ) 広帯域地震観測 31.94497 130.78170 763 3/25 独立電源 モバイルテレメーター P06 ( リンデンパークゴルフ場 ) 広帯域地震観測 31.98863 130.72827 493 3/25 独立電源 モバイルテレメーター P07 ( グリーン光芳 ) 広帯域地震観測 31.92488 130.72100 238 3/25 独立電源 モバイルテレメーター P08 ( 三体小学校 ) 広帯域地震観測 31.88329 130.78238 317 3/27 商用電源 有線テレメーター 29

P09 ( 霧島高等学校 ) 広帯域地震観測 31.86677 130.73773 201 3/25 独立電源 モバイルテレメーター P10 ( 霧島開発 ) 広帯域地震観測 31.89535 130.81134 594 3/27 商用電源 有線テレメーター P11 ( 幸ヶ丘小学校 ) 空振観測 31.98150 130.91400 384 3/28 商用電源 有線テレメーター P12 ( 永久津小学校 ) 空振観測 32.02300 130.97233 240 3/28 商用電源 有線テレメーター 烏帽子観測点 (EBS) 空振観測 31.89790 130.85628 950 3/27 地震研究所の定常観測点に空振観測を追加 霧島火山観測所 (KVO) 空振観測 31.94746 130.83927 1200 3/27 地震研究所の定常観測点に空振観測を追加 図 1-4-2 に代表的な観測点と広帯域地震計 高性能微気圧計の写真を示す 独立電源の観測点はソーラーパネルによりバッテリーに充電しており 数日の悪天候でも観測が継続されるように設計されている 広帯域地震計は温度変化によるノイズを押さえるため 地中約 1mの深さに設置し周辺を断熱カバーで覆うことによりノイズ低減を図っている a) b) d) c) e) 図 1-4-2 広帯域地震計 a):p05 観測点 b):p07 観測点 c): 広帯域地震計のマンホール d): 広帯域地震計 e): 高性能微気圧計 イ. 霧島火山の地震活動この観測網は 既存の地震観測網が新燃岳 御鉢付近の霧島連山東部に集中しているため手薄と成っている霧島連山西部を中心に展開された 一方 地殻変動データなどから 今回の噴火活動にマグマ 30

を供給したと推定されるマグマ溜りは 韓国岳北西に位置しており 2008 年 8 月の微噴火以降にも韓国岳西方で発生する地震活動があったが 観測網が手薄なために十分な震源決定精度が得られていなかった 今回の観測網整備により 深部マグマ活動に関連する地震活動や地震波をこれまで以上に精度を上げて捉えることが期待される 次に 2008 年以降の霧島連山の地震活動とこの観測網の整備による震源決定精度の向上について述べる 霧島火山群の新燃岳では 2008 年 8 月 22 日に噴火した後 2010 年 3 月 ~7 月の一連の噴火活動を経て 2011 年 1 月 19 日の小噴火及び 26 日以降の爆発的噴火を含む噴火活動活発化に至った ここでは この期間における火山性地震活動と震源の推移をまとめる 図 1-4-3 2008 年 7 月 ~2011 年 1 月に霧島火山群周辺で発生した地震の分布 は韓国岳火口 は新燃岳火口 は御鉢火口を示す 図 1-4-3 に 2008 年 7 月 ~2011 年 1 月に霧島火山群周辺で発生した地震の分布を示す 主な震源域は 新燃岳火口周辺直下 御鉢火口周辺直下 韓国岳の西方及び北方に広がる震源域である 図 1-4-4 には霧島火山周辺で発生する地震活動のうち 新燃岳周辺で発生するもの ( 図 1-4-4(a)) と 韓国岳西方及び北方の震源領域で発生するもの ( 図 1-4-4(b)) の日別頻度を表したものである 新燃岳周辺においては 2008 年 8 月の噴火直前の群発地震活動以前は静穏であったが 8 月 19 日より激しい群発活動が起こり 8 月 22 日の噴火に至った その後徐々に発生数は少なくなり 2009 年 5 月頃の群発活動の後は一段と活動が低調になったが 2009 年 12 月発生数が増加し 2010 年の 3 月 ~7 月の噴火活動が起こった また 2010 年 9 月 ~10 月からは明らかに活動度が高まり 2011 年の噴火活動活発化に至った 韓国岳西方及び北方の地震活動は 2008 年 8 月の噴火以降目立つようになったが 時々まとめて発生するのが特徴である やはり 2009 年 12 月以降は発生頻度がやや高まったように見える また 2010 年 9 月 ~10 月に新燃岳直下の地震活動が明らかに高まったことに同期して この領域でも激しい群発活動が起こっている (9 月 18 日に 48 10 月 2 日に 20) その後も 比較的高い活動度を保っている 図 1-4-4(c) は 国土地理院が観測している電子基準点のうち えびの- 牧園間の斜距離を示している 2009 年 12 月より伸びているが これは 韓国岳西方にあるマグマ溜まりの体積増加の結果と解釈されている 斜距離の伸び始めと地震活動の活発化が同期していることから 韓国岳西方におけるマグマ活動と関連していることが推察される また 斜距離変動は 2010 年 9 月 ~10 月に様子が変わっているが これと 韓国岳西方及び北方領域の群発活動 新燃岳直下の地震活動の活発化と同期しており マグマ溜まりへのマグマ供給量 マグマの新燃岳への移動などと地震活動が関連していると考えられる 31

(a) (b) (c) 図 1-4-4 霧島火山周辺の地震活動と地殻変動 霧島火山群の韓国岳西方及び北方では マグマ溜まりの変動と関連していると思われる地震が発生しているが 2011 年 4 月 -5 月期にも図 1-4-5 に示すような活動が起こっている 特に 4 月 9 日には 27 回を記録しているが これは 2010 年 9 月 19 日に記録した 48 回に次ぐ回数となっている ここでは 本研究で展開した地震観測網のデータを既存の観測網のデータと合わせて震源決定を行なった結果を示す 図 1-4-6 に得られた震源分布を 図 1-4-7 に震源の時間変化を示す 4 月 9 日の群発活動 5 月 2 日の群発活動が それぞれまとまった位置で発生している 参考までに GPS のデータ解析から推定されているマグマ溜まりと思われる圧力変動減の水平位置をプロットしてあるが 茂木モデルを仮定した場合に求められる位置は 震源域に隣接しているように見える 新設された地震観測点データを用いることにより震源決定精度が向上しているため 今後 データをためることによって 地殻変動源との関係 この領域の地震発生の意味を議論できるようになると期待される 32

図 1-4-5 霧島火山周辺の地震活動 (2011 年 4~5 月 ) 図 1-4-6 2011 年 4 月 ~5 月に霧島火山群韓国岳西方及び北方で発生した地震の分布 は韓国岳火口 は新燃岳火口 は御鉢火口を示す 図 1-4-7 韓国岳西方及び北方で発生した火山性地震の時系列分布 (2011 年 4 月及び 5 月 ) 左図 2011 年 4 月 右図 5 月 それぞれの図の左上は震央分布 左下は経度 - 深さ分布 右上は震央分布の緯度方向の時系列 右下は深さ分布の時系列を表す 時系列の数値はその月の日付 33

さらに 今回の観測網による震源決定精度の向上を確認するため 同じ震源データセットで広帯域地震観測網の読み取りを加えた場合 ( 図 1-4-8(a)) と従来のデータのみで決定した場合 ( 図 1-4-8(b)) の比較を図 1-4-8 に示す 図中の黄丸は地殻変動データに茂木モデルを仮定して宛は目を行った場合のソースの位置である 今回の観測データを加えることにより 震央の東西方向の決定精度が向上している 韓国岳西方の活動は地殻変動源の直上付近に集中しており この地震活動が上部地殻内にあるマグマ溜りの活動に密接に関連していることが推察される (a) (b) 図 1-4-8 観測網構築による震源決定精度の向上の確認 (a) 同じ震源データセットで広帯域地震観測網の読み取りを加えた場合 (b) 従来のデータのみで決定した場合 本研究では 広帯域地震観測網の整備と合わせて 高性能空振観測網も整備した 地震と空振の並行観測は火口活動を把握する上で有効であることが本研究で明らかになったが その詳細は (1-5) の 空振計による観測 の項で詳細に記述する ここでは地震と空振の相関解析により明らかになった噴火前兆と見られる火口近傍の微動振幅変化について報告する 新燃岳火口の北 約 1kmの観測点 SMN において 2010 年 12 月 5 日にマイクロフォン ( 白山工業 SI102) を設置し 空振観測を行っている 同じ場所に設置している空振計と地震計 ( 上下動 ) との相関関係のパターンを調べることにより 波形からだけでは分かりにくい火口活動やその変化を検出することができる 今回 噴火前である 12 月 6 日からの連続変化を詳細に調べた結果 2011 年 1 月 18 日の昼前に 今回の噴火活動につながる顕著な変化の開始が発生していることが分かった 12 月 6 日 ~1 月 18 日には 空振の振幅が増加すると地震の振幅も増加している これは 地震 空振の相関パターンから風のノイズによる増減である事が判明している 1 月 18 日 11:29 から 空振の振幅と連動しない地震振幅の増加が始まった このとき 最初の増加時に空振の振幅も増加しているが 地震と空振の相関パターンに不連続な変化が見られ 変化の始まりは明らかである 1 月 19 日 23 日の火口活動の後には 地震振幅は一度低下するが すぐに回復する そのまま通常より振幅の大きい状態が続き 噴火に至る 2 月 8 日には平均的な振幅レベルは噴火前まで下がっているが 地震の発生による一時的な振幅増加は時折発生している 34

図 1-4-9 2010 年 12 月 6 日 ~2011 年 1 月 28 日の期間の新燃北観測点 ( 火口から 1m) における 地震上下動 (SU) と空振 (MC) の振幅変化. それぞれの信号は 1-7Hz の周波数帯域で平均振幅を計算. このように 火口近傍の観測点での微動レベルが噴火活動 火口活動を把握する上で有効なデータであることが明らかになったので 新燃岳の活動の全体像を把握するため 2011 年 1 月 18 日 5 月末までの間の新燃北 (SMN) 観測点 (2 月 7 日まで ) 霧島南(KRS2) 観測点 (2 月 8 日から ) における微動レベル (1Hzより高周波数側のエンベロープ振幅を10 秒毎に平滑化 ) と気象庁の高千穂河原の傾斜計 (KITK_N)(bytap 補正済み ) 気象庁の遠望観測資料から整理した噴煙活動のデータを並べて表示した結果を図 1-4-10 に示す 1 月 26 日の準プリニー式噴火以降 1 月 28 日深夜から1 月 31 日まではBL 型地震と微動が多発し この間に韓国岳北西に向いた傾斜変化が継続している この間 新燃北観測点の微動エンベロープ振幅は1E-6 以上の高いレベルを維持しており 多くの爆発的噴火が観測されている しかし 傾斜と爆発的噴火には明瞭か対応が見られない 2 月 8 日以降になると 爆発的噴火の前に傾斜変化が見られるようになる 例えば 2 月 10 日までと2 月 28 日朝 3 月 4 日昼の間 やや微動エンベロープ振幅が高く噴火が多く観測されているが この期間以外では噴煙を1000m 以上まで上げる噴火活動の前に高千穂河原傾斜計の南北成分 (KITK_N) が山上がりと成る変化がよく対応している なお 2 月 22 日深夜の傾斜変化に対応する噴火活動の記録はないが 悪天候のために確認できていないと思われる 地震記録には噴火活動があったことを示唆する波形が記録されている 4 月以降は微動が断続的に発生しているときに 傾斜変化が緩やかに元に戻り 対応する噴火が見られないケースも増えてきている 35

図 1-4-10(a) 霧島山の微動レベル 傾斜データ及び噴煙活動 (2011 年 1 月 ) 図 1-4-10(b) 霧島山の微動レベル 傾斜データ及び噴煙活動 (2011 年 2 月 ) 36

図 1-4-10(c) 霧島山の微動レベル 傾斜データ及び噴煙活動 (2011 年 3 月 ) 図 1-4-10(d) 霧島山の微動レベル 傾斜データ及び噴煙活動 (2011 年 4 月 ) 37

図 1-4-10(e) 霧島山の微動レベル 傾斜データ及び噴煙活動 (2011 年 5 月 ) ウ. ハーモニック微動の解析新燃岳の火口に溶岩ケーキが形成された 1 月 30 日 2 月 3 日の時期に 比較的振幅の大きな ハーモニック微動 が観測された この微動は噴火活動が準プリニー式から火口内にマグマが上昇して爆発的噴火活動に移行する時期に対応しており その発生源についての考察することは 今回の噴火メカニズムを理解する上で重要である そこで 2011 年 1 月 31 日 2011 年 2 月 3 日に発生したハーモニック微動に関して 広帯域地震計で観測された記録を元に考察を行った 観測された微動の代表的な波形例を図 1-4-11 に示す これらに微動の内もっとも振幅が大きい 2 月 3 日の 6 時 8 分に発生した微動について その波動の定性的特徴から 発生源に関する一考察を行った 図 1-4-12 微動と同時に観測された空振 図 1-4-11 観測された微動の代表的な波形例 波形の拡大図 まず この微動の非線形性を検証するため 相関次元を指標とするサロゲートデータ解析を行った その結果は データが線形相関を持つデータや線形相関を持つデータに単調な非線形変換を施すことに 38

よって得られるデータであるとする帰無仮説は有意水準 0.05 の危険率で棄却された つまり この微動が調和振動子の重ね合わせで励起された可能性はきわめて低いと言える 図 1-4-12 に微動と同時に観測された空振波形の拡大図を示すが その波形的な特徴からも 非線形性が強いことが伺える 図 1-4-13 微動の特徴 的な部分の切り出し区間の代表的な波形例 図 1-4-14 区間 4 の微動の相関図 図 1-4-15 区間 5 の微動の相関図 図 1-4-16 区間 6 の微動の相関図 図 1-4-17 区間 8 の微動 39 の相関図

つぎに この微動を励起する非線形ダイナミクス ( 非線形微分方程式系 ) に制約を与える必要条件を読み解くため 微分方程式の位相的な取り扱いを行う ここでの大きな仮定は 観測された微動が非線形微分方程式の解として近似的に解析できるとしている点である しかし 空振が火口付近から発せられていることからも推測されるように これらの微動は火道内部に発生源があると推定される さらに 微動の卓越周期は約 1 秒程度で 火口から約 500m の新燃北観測点で観測された記録は波動伝播に影響がきわめて少なく 上記の仮定が成り立っていると考えられるデータである そこで 微動データの時間軸を適当な長さに切り 各区間で ( 近似的な ) 解の相図を作成し その位相幾何学的な特徴を読み解いていく 図 1-4-13 に微動の特徴的な部分の切り出し区間を示す そのうちの区間 4 5 6 8 の相図を図 1-4-14 図 1-4-17 に示す 図 1-4-16 に示した部分がこの微動で比較的定常な状態と成っている部分で その相図は方程式系が 2 重ポテンシャルを持つ事が必要条件であることを示している 図 1-4-18 火道内部モデルの概念図つぎに この様な位相的特徴を再現する可能性のある火道内部のモデルとして 単純化した Collapsible Tube の集中定数モデルとの比較を試みる 図 1-4-18 がこのモデルの概念図である Collapsible Tube 部分の弾性 質量保存 上流 下流での運動量保存 下流での運動量流速方程式 蒸留でのエネルギー保存 Tube 部での流体慣性の変化を組み込んで方程式系を構成している この数理モデルにおいて 流体粘性を若干変化させることにより 各区間での位相的特徴を再現する相図が得られる その比較を図 1-4-19~ 図 1-4-22 に示す 比較したモデルパラメータは Tube 部分の断面積を現すパラメータの時間微分である 図 1-4-19 は観測とモデルの波形と 1 回微分までの相図を比較しているが 図 1-4-20 1-4-22 は 1 回微分 2 回微分の相図を比較している この集中定数の数理モデルにより 観測された微動の位相的特徴 ( 定性的特徴 ) がある程度再現できている このことは この時期の微動が火道内部での流体の動きにより励起されている可能性を示すものである 図 1-4-19 観測とモデルの波形と 1 回微分までの相図 40

図 1-4-20 図の左が観測 右がモデルから計算された相図 図 1-4-21 図の左が観測 右がモデルから計算された相図 図 1-4-22 図の左が観測 右がモデルから計算された相図 41

エ. 広帯域地震計で捉えた 6 月 29 日の噴火に先行する長周期シグナル 2011 年 6 月 29 日 10 時 27 分に発生した新燃岳噴火に先行した長周期の地震動を 広帯域地震計で捉えることが出来た 霧島南観測点の広帯域地震記録を地動変位に変換したものを図 1-4-23 に示している 記録は南北成分 ( 火口に向かう方向 ) と上下成分を示している 噴火の約 4 分前から長周期のシグナルが見られ 火道内部を噴出物 ( 発泡したマグマなど ) が上昇することに伴う圧力変動により励起されたと考えられる 広帯域地震記録から傾斜成分を取りだした結果を図 1-4-24 に示す 新燃岳火口方向が下がる傾斜変化が噴火開始後から顕著に見られる ( 図 2 の緑のライン ) このように 噴火に先行して火道内部で起こっている現象を広帯域地震記録で捉えることに成功した このデータの定量的評価は今後の課題である 図 1-4-23 霧島南観測点の地動南北成分 ( 上 ) と上下成分 ( 下 ) 図 1-4-24 広帯域地震記録から取り出した傾斜成分. 噴火 ( 赤破線 ) 後に火口側が下がる傾斜変化が確認できる ( 緑のライン ) 42