創傷

Similar documents
離島研修での褥瘡処置について

動脈閉塞のある足褥創 創傷足に動脈閉塞があり壊死を伴う潰瘍を認める場合 多くは乾燥ミイラ化を目指されます 乾燥させることで細菌の接着 増殖を抑制しようという意図からです しかし 創面の乾燥は いかなる場合でも壊死部に接した細胞を乾燥から死なせ 壊死部の拡大につながります さらに 乾燥化によって壊死部

< 他者評価 > フィードバックコメント確認日サイン 1 年次 2 年次 3 年次 4 年次

PDF_Œ{Ł¶PDF.pdf

6PRS5-6-1_1210

2011 年 12 月 1 日放送 日本皮膚科学会褥瘡ガイドラインについて ~ 日本褥瘡学会ガイドラインとの相違点 大阪赤十字病院 皮膚科部長立花隆夫 はじめにガイドラインは 特定の臨床状況において 適切な判断を行うために 医療者と患者さんを支援する目的で系統的に作成された文書 であり 褥瘡において

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft PowerPoint - 【逸脱半月板】HP募集開始150701 1930 2108 修正反映.pptx

PowerPoint プレゼンテーション


頭頚部がん1部[ ].indd

標準タイプ 単層タイプ ペルナック *smith&nephew Artificial Dermis コラーゲン使用人工皮膚 規格 メッシュ補強タイプ ドレーン孔タイプ 標準タイプ ( 色コード : 緑色 ) 単層タイプ ( 色コード : 紫色 ) 製品番号 サイズ(mm mm) 包装単位 製品番号

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft PowerPoint - 【千葉講師】看護師の特定行為研修制度の実際


saisyuu2-1

痂皮の下を遊走する上皮細胞 1962 年 モイストウンドヒーリング Healing of skin wounds and the influence of dressings on the repair process 1 痂皮 新生細胞 創面が湿潤していれば創は早く治癒する Dr. George

HPM_381_C_0112

3. 原材料 (1) ドレッシングキット 1 ドレッシングキットドレッシング粘着部 : ハイドロコロイドポート : 熱可塑性エラストマー UV 接着剤 2 ブリッジドレッシングキットドレッシング粘着部 : ハイドロコロイドポート : 熱可塑性エラストマー UV 接着剤ブリッジ : ポリウレタン アク


高齢者におけるサルコペニアの実態について みやぐち医院 宮口信吾 我が国では 高齢化社会が進行し 脳血管疾患 悪性腫瘍の増加ばかりでなく 骨 筋肉を中心とした運動器疾患と加齢との関係が注目されている 要介護になる疾患の原因として 第 1 位は脳卒中 第 2 位は認知症 第 3 位が老衰 第 4 位に

葉酸とビタミンQ&A_201607改訂_ indd

対象 :7 例 ( 性 6 例 女性 1 例 ) 年齢 : 平均 47.1 歳 (30~76 歳 ) 受傷機転 運転中の交通外傷 4 例 不自然な格好で転倒 2 例 車に轢かれた 1 例 全例後方脱臼 : 可及的早期に整復

KangoGakkai.indb

序 創傷治療は皮膚科医にとって最も重要な診療行為の一つである. 皮膚科診療において創傷は頻度が高い疾患の一つであり, 実際に日本皮膚科学会が全国の大学病院, 基幹病院, 診療所の患者数を調査したところ, 創傷 熱傷の患者数は皮膚科受診患者数の第 8 位を占めるほどであった. 皮膚科医は自他ともに認め

Microsoft Word - program.doc

2014_resept_tobira色修正

83.8 歳 (73 91 歳 ) であった 解剖体において 内果の再突出点から 足底を通り 外果の再突出点までの最短距離を計測した 同部位で 約 1cmの幅で帯状に皮膚を採取した 採取した皮膚は 長さ2.5cm 毎にパラフィン包埋し 厚さ4μmに薄切した 画像解析は オールインワン顕微鏡 BZ-9

スライド 1

本書の内容 がん体験者の悩みや負担に関するデータベースについて全国のがん体験者 7,885 人を対象とした実態調査結果から抽出された悩みや負担は 2 万 6 千件余りでした この悩み等を 静岡がんセンターで作成した 静岡分類 にそって体系的に整理し がん体験者の悩みや負担に関するデータベースを構築し

DESIGN-Rについて DESIGNとは 褥瘡の状態を その深さ (D) 滲出液 (E) 大きさ (S) 炎症 / 感染 (I) 肉芽組織 (G) 壊死組織 (N) ポケット (P) の7 項目で評価する判定スケールであり その重度 軽度を大文字 小文字で表した褥瘡重症度分類用と 治癒過程をモニタ

cover

はじめに この冊子は 社会医療法人孝仁会北海道大野記念病院において行われているかいちょうろうへいさそう 回腸瘻閉鎖創の手術部位感染に対する予防的局所陰圧閉鎖療法の有効性評価 という臨床研究について説明したものです 担当医師からこの研究についての説明をお聞きになり 研究の内容を十分にご理解いただいた上

資料2-4 重症下肢虚血疾患治療用医療機器の臨床評価に関する評価指標(案)

日本フットケア学会雑誌 Vol.15 No. 4 図 1 下肢末梢動脈疾患指導管理加算 申請施設数の推移 日本透析医学会施設会員名簿 2017 年度より ( 全国 4,026 施設として ) 表下肢末梢動脈疾患指導管理加算の届け出施設の割合が高い県日本透析医学会施設会員名簿 2017 年度版より一部

I: 研究の背景と目的超高齢化社会の我が国では 高齢者人口は増加し続け 2025 年には 3,657 万人となり 2042 年には 3,878 万人に到達すると見込まれている 1) 高齢者介護の必要性が指摘されて久しい しかし 実際に介護サービスを受けている高齢者における 様々な臨床的なトラブルに関

日本職業・災害医学会会誌第54巻第6号

2017 年 9 月 14 日放送 第 80 回日本皮膚科学会東京支部学術大会 7 シンポジウム 7-1 下肢静脈瘤の治療 NTT 東日本関東病院皮膚科主任医長出月健夫 下肢静脈瘤とは下肢静脈瘤は とても患者数の多い疾患です 症状が目に見えますし ある程度重症になってくると湿疹 脂肪織炎 皮膚潰瘍な

針刺し切創発生時の対応

PowerPoint プレゼンテーション

本文/開催および演題募集のお知らせ

いつも、大変お世話になっております

2018 年 10 月 4 日放送 第 47 回日本皮膚アレルギー 接触皮膚炎学会 / 第 41 回皮膚脈管 膠原病研究会シンポジウム2-6 蕁麻疹の病態と新規治療法 ~ 抗 IgE 抗体療法 ~ 島根大学皮膚科 講師 千貫祐子 はじめに蕁麻疹は膨疹 つまり紅斑を伴う一過性 限局性の浮腫が病的に出没

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

放射線併用全身化学療法 (GC+RT 療法 ) 様の予定表 No.1 月日 経過 達成目標 治療 ( 点滴 内服 ) 検査 処置 活動 安静度 リハビリ 食事 栄養指導 清潔 排泄 / 入院当日 ~ 治療前日 化学療法について理解でき 精神的に安定した状態で治療が

透析看護の基本知識項目チェック確認確認終了 腎不全の病態と治療方法腎不全腎臓の構造と働き急性腎不全と慢性腎不全の病態腎不全の原疾患の病態慢性腎不全の病期と治療方法血液透析の特色腹膜透析の特色腎不全の特色 透析療法の仕組み血液透析の原理ダイアライザーの種類 適応 選択透析液供給装置の機能透析液の組成抗

Microsoft Word RevK_UserManual-VACATS.doc

立命館21_松本先生.indd



立命館20_服部先生.indd




立命館16_坂下.indd



立命館人間科学研究No.10



立命館21_川端先生.indd

立命館14_前田.indd

立命館17_坂下.indd


立命館人間科学研究No.10


立命館19_椎原他.indd

立命館人間科学研究No.10

立命館19_徳田.indd


北海道体育学研究-本文-最終.indd


皮膚欠損用創傷被覆材に関するQ&A

70 頭頸部放射線療法 放射線化学療法

皮膚は角層も真皮も共に分厚くて 体重を支えて 物理的刺激に耐えられる構造になっていますが 通常の遊離植皮では そのような踵の皮膚本来の役割を十分に果たすことはできません そこで 踵の皮膚の機能を再現するための工夫を考えました それは アキレス腱部の皮膚など 踵に隣接した皮膚を脂肪組織も含めて移動させ

外来在宅化学療法の実際

Microsoft PowerPoint - 森様資料送信する

豚繁殖 呼吸障害症候群生ワクチン ( シード ) 平成 24 年 3 月 13 日 ( 告示第 675 号 ) 新規追加 1 定義シードロット規格に適合した弱毒豚繁殖 呼吸障害症候群ウイルスを同規格に適合した株化細胞で増殖させて得たウイルス液を凍結乾燥したワクチンである 2 製法 2.1 製造用株

地震防災ハンドブック 第2章

平成 28 年 10 月 17 日 平成 28 年度の認定看護師教育基準カリキュラムから排尿自立指導料の所定の研修として認めら れることとなりました 平成 28 年度研修生から 排泄自立指導料 算定要件 施設基準を満たすことができます 下部尿路機能障害を有する患者に対して 病棟でのケアや多職種チーム

はじめに 緩和ケア期には四肢や顔面 体幹部に浮腫を発症することがあります また発症していたリンパ浮腫ががんの進行で悪化することもあります がんの進行を抑える抗癌剤の一部には 副作 用で重症の浮腫を来すことがあります 緩和ケア期の浮腫の要因 病態は複雑で 癌性疼痛や神経麻痺 しびれなど 浮腫を治療する

グラニューフォームキット製品_K-D-003_ indd

0.45m1.00m 1.00m 1.00m 0.33m 0.33m 0.33m 0.45m 1.00m 2


<924A814092BC8EF72E656339>

第41回

1. 重篤な不正出血の発現状況 ( 患者背景 ) (1) 患者背景 ( 子宮腺筋症 子宮筋腫合併例の割合 ) 重篤な不正出血発現例の多くは子宮腺筋症を合併する症例でした 重篤な不正出血を発現した 54 例中 48 例 (88.9%) は 子宮腺筋症を合併する症例でした また 子宮腺筋症 子宮筋腫のい

1 Q A 82% 89% 88% 82% 88% 82%

佐賀大学附属病院 高度救命救急センター                 阪本雄一郎

販売名 : アドバンテージ ( 承認番号 : 22300BZX ) 別紙 改訂箇所を _ 下線で示しております < 新記載第 5 版 > 適切な項目へ記載した < 旧記載第 4 版 > 警告 1. 適応対象 ( 患者 ) 以下の患者には TVT 術を実施する際のリスクと利点を慎重に検討

当院療養病棟における 褥瘡患者の割合とその傾向

Aesculap Titanium Ligating Clips and Appliers チタンクリップアプライヤー Surgical Technologies

要望番号 ;Ⅱ 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 1) 1. 要望内容に関連する事項 要望 者 ( 該当するものにチェックする ) 優先順位 学会 ( 学会名 ; 日本ペインクリニック学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 2 位 ( 全 4 要望中 )

3 ⑹ 職業復帰訪問指導料 76 * 点検しましょう 78 2 検査料 79 ⑴ 振動障害に係る検査料 79 3 画像診断料 80 ⑴ コンピューター断層撮影料 80 * 点検しましょう 81 リハビリテーション料 処置料 1 リハビリテーション料 84 ⑴ 疾患別リハビリテーション料 84 ⑵ A

Medical Journal of Aizawa Hospital

Microsoft PowerPoint _140316褥瘡のケア_講義.pptx

Microsoft PowerPoint - 印刷用 K-net dr身原(2014).pptx

平成21年度 介護サービス事業者における事故発生状況

V-Loc_141106_soto

Transcription:

創傷 6(3):103-107, 2015 103 < 症例報告 > 高齢者の弁状創に対する PICO* 創傷治療システムの使用経験 朝日林太郎 *, 桑原大彰 **, 小川令 **, 百束比古 ** Key Words: 弁状創, 陰圧閉鎖療法,PICO 序文高齢者の皮膚は真皮の菲薄化や皮下組織の減少など, 加齢による形態学的変化が生じている このため, 比較的わずかな外力により, 四肢や顔面に広範な弁状創を生じる場合がある 弁状創の治療方法としては, 弁状に剝脱された皮膚を正確に元の位置へ戻すとともに, 壊死を防ぐことが重要であるが, 初診時において創縁の血行が保たれているようにみえる場合においても, 創縁の離解や皮膚の壊死をきたすこともある これにより, 上皮化までに時間がかかる場合や, 二期的に植皮術を要する例も少なくない 今回われわれは高齢者の弁状創に対して PICO* 創 傷治療システム (Smith & Nephew 社製, 以下 PICO) を用いることで, 特にコンプライアンスの不良な高齢者に対して, 最小限の処置で良好な治療結果が得られたため報告する 症例症例 1:100 歳, 男性 介護老人保健施設入所中に転倒して当科外来受診となった 左上腕に径 6cm 大の弁状創を認めた 創の深さは皮膚全層に至るもので, 脂肪組織が露出していた 弁状創の皮膚は菲薄であり, 暗紫色を呈していた 創部洗浄後, 弁状創の皮膚を元の位置へ戻し,PICO による持続陰圧閉鎖療法 (negative pressure wound therapy:npwt) を開始 図 1 症例 1 左上腕の径 6cm 大の弁状創に対して PICO を装着した * 会津中央病院形成外科 美容外科 ** 日本医科大学付属病院形成外科 美容外科 2015 年 2 月 21 日受領 2015 年 5 月 13 日掲載決定

創傷 6 3 103 107, 2015 104 a b 図 2 弁状創は植皮様に生着 一部皮膚欠損部位も保存的加療にて上皮化し良好な創治癒が得られた a 受傷後 5 日目 b 受傷後 16 日目 図 3 症例 2 左膝部の径 10 cm 大の弁状創に対して PICO を装着した した 図 1 介護老人保健施設にて機械トラブルな PICO による NPWT を開始した 図 3 介護老人保 どなく経過して 受傷後 5 日目外来受診時に PICO を 健施設にて機械トラブルなどなく経過して 受傷後 5 解除した 被覆材は創面に固着することなく容易に剝 日目外来受診時に PICO を解除したが 創縁の壊死や がすことができ 弁状創の皮膚は植皮と同様な経過で 創離解など認めることなく 良好な創治癒が得られた 生着を認めた 一部限局して皮膚欠損を認めたため抗 生剤含有ワセリン軟膏 ゲンタシン にて軟膏処置 を継続し 受傷後 16 日目で創閉鎖が得られた 図 2 症例 2 94 歳 女性 介護老人保健施設入所中に転 図 4 考 察 皮膚は加齢に伴い 肉眼的にも組織学的にもさまざ 倒して当科外来受診となった 左膝部に径 10 cm 大の まな変化をきたす 真皮や皮下組織では ヒアルロン 弁状創を認めた 創の深さは皮膚全層に至るもので 酸やコンドロイチン硫酸など酸性ムコ多糖類 膠原線 脂肪組織が露出していた 弁状創の皮膚は菲薄であっ 維 弾性線維などはいずれも減少し 菲薄化する 1 たが 色調は良好であった 関節可動部であったた これにより皮膚の弾力性は低下して脆弱化し わずか め 6-0prolene にて数ヵ所縫合処置を行ったうえで な外力により容易に皮膚は全層で剝脱するため 転倒

創傷 6(3):103-107, 2015 105 図 5 PICO* 創傷治療システム 図 4 受傷後 14 日目創縁の壊死や離解を認めず一次治癒が得られた などにより四肢にU 字型やV 字型の広範な弁状創を受傷することが少なくない また加齢した皮膚は, 血管内皮機能の低下で内出血が生じやすく, 弁状創は暗紫色となるため, 血流を確認するのが困難なときもある 特に高齢者の場合, 血管の石灰化などにより皮膚末梢の血流も低下しているため, 阻血壊死をきたすリスクが若年者と比べて高く, 注意が必要である 2) 弁状部分の幅が 5mm 程度で小さい場合は, 紡錘状に弁状部分を切除して縫合することで, 壊死や変形をきたすことなく一次治癒させることができる場合が多いが, 弁状創が広範な場合は, 弁状部分を切除すると縫縮することができなくなるため, なんらかの工夫が必要となる このような場合, 薄く斜めに削られた創縁を垂直に切除して, 層を合わせながら縫合処置が施行される方法や, 弁状に剝離した皮膚を切離して皮下組織を薄層化し, 植皮として生着させるといった方法の報告もある 3) いずれの方法においても, 弁状創の皮下は広範に剝脱されており皮膚の連続性が途絶えているため, 死腔や血腫を形成しないように注意が必要である 創部の適度な圧迫は, 死腔や血腫の形成を防ぐのみならず, 創部の浮腫の軽減や瘢痕形成の軽減にもつながるため非常に重要であり, このためタイオーバー法などが用いられる場合もあるが, これらの手技を外来で行うには時間を要し, やや煩雑である 4) 今回われわれが使用した PICO は,2011 年 3 月よりカナダにて Smith & Nephew 社から発売が開始され, わが国では 2014 年 7 月より保険収載が可能となった新しい NPWT システムである ( 図 5) NPWT は既存治療に奏効しない難治性創傷の治癒を促進させることを目的とした治療方法であるが, 現在植皮片の固定など幅広い用途で使用されており 5,6), わが国に おいては数種類の NPWT デバイスの使用が可能である 他の NPWT システムと比較した場合,PICO の最大の特徴としては, 浸出液を保持するキャニスターをなくし, ドレッシング材で浸出液を処理しながら, -80mmHg の均一な陰圧閉鎖環境を維持する点である キャニスターがないという特性上,PICO に適した浸出液量は少量 ~ 中等量までとなっているが, シンプルで小型 軽量な構造になっているため, 外来通院でも使用が可能である また, 構造のみならず, 手技においてもドレッシング材を貼付して周囲を付属のフィルムで補強し, スイッチを入れるのみで, 非常に簡便である ドレッシングのパッドの製品規格は 8 種類あり, 創面に合わせて適切なサイズを選択する必要がある 今回われわれは, 高齢者の転倒による上肢および下肢の弁状創に対して,PICO を利用することで, タイオーバーのような煩雑な手技を要さず, 陰圧閉鎖環境を維持することにより適度な圧迫を継続することができ, 簡便に良好な治療結果を得ることができた さらに, 弁状創の血流を気にせず, 固定してしまうことで, たとえ血流がなくても, 植皮のような機序で生着させられる可能性も示唆された 症例 1 においては, 弁状創の皮膚は非常に薄く色調は暗紫色であったが, 植皮様に生着させることができた 症例 2 においては, 創部がやや広く関節部にかかるものであったため, 数ヵ所縫合処置を行い皮膚のズレが生じないように補強を行ったが, 弁状創皮下に浸出液が貯留することなく, 創部の離解や辺縁の壊死などもきたさずに経過し, 一次治癒させることができた いずれの症例においても, 良好な皮膚の固定と創部全体の圧迫は自宅においても維持され, ドレッシング交換も不要で, 浸出液管理も良好であった われわれの施設における高齢者への PICO の使用例としては, 弁状創以外にも小範囲の分層植皮術後の植

創傷 6(3):103-107, 2015 106 図 6 92 歳, 女性 左足背部糖尿病性潰瘍に対して網状植皮を施行し, 固定に PICO を用いた 植皮片は良好に生着した 表 1 症例 1 に対して縫合処置を行った場合と PICO を使用した場合の保険診療点数の比較 創傷処理筋肉に達するもの 5cm 以上 10cm 未満 (1,680 点 ) キシロカイン 1% ポリアンプ 10ml(10 点 ) 縫合処置を施行した場合 抗生剤含有ワセリン軟膏 2g(2 点 ) 計 1,692 点 初回加算(2,650 点 ) 局所陰圧閉鎖処置(270 点 ) PICO を使用した場合 処置用材料(375 点 ) 陰圧創傷治療用カートリッジ(2,160 点 ) 計 5,455 点 皮片の固定などに使用しており, 良好な結果が得られている ( 図 6) NPWT による植皮片の固定は多くの報告がされているが 5,6), 通常の NPWT デバイスでは入院加療が必須であった PICO を用いることで, 術後早期に NPWT を継続しながら, 外来通院加療とすることが可能である PICO を使用する際の注意点であるが, 抗凝固剤内服患者に対する本システムの適応は禁忌になっているため, 特に高齢者の場合においては, 既往および内服薬の十分な確認が必要である また, 陰圧により感染性老廃物はある程度除去することができるものの, 創部感染が生じた場合は閉鎖環境により増悪する可能性が高く, 汚染を伴う創部への使用は十分に注意する必要があり,PICO の添付文書にも明記されている PICO を使用した場合の患者負担額は,NPWT の 適応期間と創部の大きさによって異なる 今回われわれが経験した 2 症例はいずれもドレッシングサイズ 15cm 20cm( パッドサイズ 10cm 15cm) を用いて, 5 日間外来での NPWT を行った 表 1 に今回の症例 1 に対して, 縫合処置を行った場合と,PICO を用いて外来での NPWT を行った場合の, 処置に要する保険診療点数の比較を示す 現状においては通常の創傷処理を行った場合と比較して,PICO を適応した場合, 患者負担額がやや高額になることが難点であるといえる しかし創閉鎖までの期間短縮や, 自宅での処置が不要である点などを考慮すると, 一次治癒の見込みがむずかしい症例や, 二期的な植皮術が必要となる可能性のある症例などにおいては, 患者および家族に十分な利点がある方法であると考える

創傷 6(3):103-107, 2015 107 結語高齢者の弁状創に対する治療方法として,PICO は有用な選択肢の 1 つであると考える 本論文について他者との利益相反はない 文献 1) 鈴木定 : 加齢による皮膚の変化とそのケア乾燥 掻痒 湿疹を中心に 加齢による皮膚の変化. 総合ケア, 2004; 14: 28-33. 2)Imayama S:Aging changes of the blood vessels in the skin. Nagoya Medical Journal, 2000; 43: 113-9. 3) 江頭佑美, 副島宏美 : 下腿弁状創の初期治療についての考察一期的縫合 VS 皮弁切除遊離植皮. 日形会誌, 2010; 30: 495-6. 4) 南和彦, 平林慎一 : 日常診療に役立つ形成外科基本手技のコツ 新鮮外傷に対する処置擦過傷, 挫創, 弁状創に対する処置の基本. 形成外科, 2004; 47: S23-S27. 5) 川上善久, 高木誠司, 大慈弥裕之 : 陰圧閉鎖療法の理論と実際 上肢に対する陰圧閉鎖療法植皮の固定としての陰圧閉鎖療法. PEPARS, 2015; 97: 39-47. 6) 橋本麻衣子, 林明照, 猪股直美, ほか : 小児における局所陰圧閉鎖療法の経験. 日形会誌, 2014; 34: 746-50.