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2. 実験方法試料調製 TiN ナノ粒子の調製には C 3 N 4 テンプレートを用いて行った 7) C 3 N 4 テンプレート調整には前駆体であるシアナミド (CH 2 N 2, CA; 99%, Aldrich) をコロイダルシリカ (Ludox HS-40, ~ 12 nm, Aldrich) を用いて 重量を 1 : 1 として混合し 550 C に加熱した 得られたサンプルをフッ化水素アンモニウム (NH 4 HF 2 ) で洗浄し シリカテンプレートを除去した後 蒸留水 エタノールで洗浄しメソポーラス構造を有する C 3 N 4 を得た このテンプレートの細孔径はシリカの粒径を反映し 約 12 nm であった TiCl 4 をエタノールに溶解させ エトキシドとしたものを前駆体とし テンプレートに含浸させた状態で 1073 K 3 h 窒素中で焼成を行うことによりテンプレートが分解し 生じる分解物により前駆体が窒化されることで TiN ナノ粒子が得られた また燃料電池セルへの実用を考えた場合 酸性 酸化雰囲気に晒されるため 組成が変化し性能劣化することが考えられる そこで本研究では 0.5 M H 2 SO 4 にて 80 24 h 処理をしたサンプルも測定した Ti-Fe 系材料は錯体重合法を応用し 既報の方法に従って行った TiCl 4 および FeCl 2 をメタノール中に溶解させ クエン酸およびポリエチレングリコールを混合し 金属イオンをポリマー内に高分散化させた状態で担体カーボン状に高分散担持させ その後にアンモニア中で焼成を行うことで窒化させている 調製したサンプルの TEM 像から 金属元素は原子状に高分散担持されていることが分かっている XAFS 測定方法 XAFS 測定は Spring-8 の BL01B1 にて行い 定位置出射二結晶分光器を用いた 結晶面は Si (111) を用い, ミラー角度は 8 mrad,4 象限スリットは高さ :1 mm 幅:5 mm で測定した 透過法で測定を行う場合はイオンチャンバー内のガスは,Ti K-edge(4.965 kev) においては I0,I の検出にそれぞれ He (70%)/ N 2 (30%),N 2 (100%) で満たし Fe K-edge(7.112 kev) の際は I0 に He(50%) / N 2 (50%) I に N 2 (85%) / Ar(15%) をそれぞれ用いた エネルギー補正は Ti フォイルを用いた.Fe-Kedge を蛍光法にて測定を行う場合は I チャンバーの代わりにライトル検出器 (Kr(100%)) を用いて測定した. 当初は Ti-Kedge の蛍光測定も行う予定であったが BL01B1 備え付けのバナジウムのフィルターがなく 自作のフィルターも無かったため今回は測定していない 全ての測定はステップスキャンモードで測定した. 解析条件測定したスペクトルの解析は REX2000 Ver.2.3 プログラム (Rigaku) を用いて行った.

3. 結果 C 3 N 4 テンプレートを用いて調製した窒化チタンのナノ粒子は 事前に行った X 線結晶構造解析 (XRD) から TiN の結晶構造を持っており X 線光電子分光法 (XPS) による解析から 表面組成はある程度酸化されており Ti 2p 軌道のスペクトルから Ti 4+ になっていることが示唆されている Fig. 1 に C 3 N 4 を用いて調製したナノサイズの TiN (nano-tin) および参照として用意した市販品の TiN(ref-TiN), の XANES の結果を示す Pre-edge においてはこの両者は似ているものの 4980 ev 程度に表れるピークにおいては これらには差があり C 3 N 4 で調製したナノサイズの TiN は市販品の TiN(ref-TiN) の構造とは異なり 高 ev 側にシフトしていることから 酸化が進行している可能性があることが分かった また nano-tin を酸処理したサンプルは XRD パターンにはピークがあまり表れないため結晶構造をあまり持たないことが分かっているが XANES 測定により酸化が進行しており TiO 2 -rutile 構造になっていることが分かった Fig. 1. ナノサイズ TiN 酸処理した TiN および各種リファレンスの XANES スペクトル Fig. 2 に Ti K-edge の EXAFS スペクトルを示す ナノサイズの TiN の第二近接のピーク 2.49 Å は 市販品の TiN の値 2.57 Å と異なり 市販品の TiN と構造が異なることを裏付けるデータとなった また酸処理を施された試料は XANES での結果と同様 rutile 構造を持つ TiO 2 であることが示唆された

Fig. 2. ナノサイズ TiN 酸処理した TiN および各種リファレ ンスの Ti K-edge の EXAFS スペクトル Fig. 3 に Fe K-edge の XANES スペクトルを示す XANES からは最近接の配位数等の情報が得られるが 今回 Fe のみを使用し 錯体重合法にて調製したサンプル (Fe PC method) の XANES スペクトルは 比較サンプルとして測定した FeO( 六配位 ) Fe 2 O 3 ( 八配位 ) FePO 4 ( 四配位 ) の中で FePO 4 と最も近く 四配位であることが示唆された Fe 錯体を利用した触媒における ORR の活性点は Fe-N 4 結合の四配位構造にあるといわれており 8) 今回の測定では第一近接の元素が何であるかは分からなかったものの 本研究室の錯体重合法を用いた調製法においても 同じような四範囲の構造を形成する可能性を示唆する結果となった Fe とともに Ti を加えたサンプル (Fe-Ti PC method) においても この 4 範囲の構造は保たれていることが分かる しかし Ti を加えることによる変化はほとんど見られず 複合化しているのかは今回の測定では見られなかった

Fig. 3. 錯体重合法で調製した Fe 触媒 Fe の他に Ti を混合して調製 した触媒 およびリファレンスの Fe K-edge の XANES スペクトル 4. 結論燃料電池用カソード触媒として近年申請者らが報告した TiN 系触媒 および錯体重合法で調製した Fe 系 Fe-Ti 系触媒の酸化状態 および微細構造の解析を XAFS 測定にて行った ナノ粒子の TiN は 市販品のバルキーな TiN とは微細構造が異なることが分かった 殆んど ORR 触媒活性を示さないバルキーな TiN が ナノ粒子化によって活性が発現する要因の一つが 本研究に見られた微細構造の変化であるということが考えられる 今後 XPS 測定や電子顕微鏡写真の解析等も組み合わせることで より厳密に解析を行う また劣化後の TiN は rutile 型の TiO 2 となり 触媒活性を失うということが分かった また Fe 系触媒においては 多くの Fe に関する既報の研究において触媒活性点とみなされている Fe-N4 が 本研究室の調製法でも得られていることを示唆する結果が得られた 5. 参考文献 1) R. Jasinski. Nature, 202, 1212 (1964) 2) A. Ishihara, K. Lee, S. Doi, S. Mitsushima, N.Kamiya, M. Hara, K. Domen, K. Fukuda, K. Ota,Electrochem. Solid-State Lett., 8, A201 (2005). 3) R. Ohnishi, Y. Takahashi, A. Takagaki, J. Kubota, K.Domen, Chem. Lett., 37, 838 (2008).

4) R. Ohnishi, M. Katayama, K. Takanabe, J. Kubota, K. Domen, Electrochim. Acta, 55, 5393 (2010) 5) F. Yin, K. Takanabe, M. Katayama, J. Kubota, K. Domen, Electrochem. Commun., 12, 1177 (2010) 6) J. Chen., K. Takanabe, R. Ohnishi, J. Kubota, K. Domen, et al., Chem. Comm., 46, 7492 (2010) 7) A. Fischer, M. Antonietti, A. Thomas, Adv. Mater. 19, 264 (2007) 8) F. Jaouen, M. Lefèvre, J.-P. Dodelet, M. Cai, J. Phys. Chem. B, 110, 5553 (2006)