平成 18 年度厚生労働科学研究費補助金 ( 循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業 ) 日本人の食事摂取基準 ( 栄養所要量 ) の策定に関する研究 主任研究者柴田克己滋賀県立大学教授 Ⅲ. 分担研究者の報告書 11. 高 α- トコフェロールあるいは高 γ- トコフェロール摂取に伴うビタミン E の 血中濃度変化と運動トレーニングの影響 分担研究者森口覚 山口県立大学教授 研究要旨ビタミン E は日本人の食事摂取基準 25 年版から α-トコフェロール (α-t) としての摂取でその栄養摂取状況を考えることとなり 人体への生理作用に対する影響について興味が持たれる. 我々はすでに食物アレルギーの発症 進展とビタミン E との関連や高齢者の細胞性免疫能の低下とビタミン E に関する研究を実施し 何れも高いビタミン E 摂取がアレルギー発症を抑制したり 高齢者の低下した免疫能を改善することを見出し 報告している その際 必要なビタミン E 摂取量は通常の約 2 倍であり この量を毎日の食事から取ることはまず無理であることからサプリメントの使用が考えられる また 米国などでは摂取エネルギーの約 4% を脂質から摂取しており その結果として γ-トコフェロール (γ-t) の摂取が高いことが知られている そこで 本研究では α-t や γ-t の高い摂取がビタミン E の血中濃度にどのように影響するのかを検討した さらに 運動トレーニング (6 km/ 時で 3 分 / 日 5 日 / 週 4 週間 ) に伴う血中ビタミン E 濃度の変化について若年女性を被験者として検討した
A. 目的抗酸化作用を有するビタミン E の高い摂取が動脈硬化をはじめと種々の疾患の発症 進展を予防することが知られている また 高齢者や食事の脂質エネルギー比の高い欧米諸国では 体内の酸化状態が高く 血中ビタミン E 栄養状態にも影響することが懸念される さらに 一般に油脂中には α タイプよりも γ タイプのビタミン E が大量に含まれていることから 油脂の高い摂取が血中ビタミン E(α および γ-トコフェロール ) 濃度にどのように影響するか興味が持たれる また 有酸素運動によっても血中過酸化脂質の上昇することが知られており その際にはビタミン E が抗酸化作用を示すことも明かとなっている そこで 本研究では女子大学生を対象として 高 α-トコフェロール (α-toc) および高 γ-トコフェロール (γ-toc) 摂取ならびに運動トレーニングに伴う各々の血中濃度変化について検討した B. 方法 ⑴ 対象者とビタミン E の服用本研究は 健康な女子大学生 19 名 ( 年齢 ;19 21 歳 ) を対象として実施された 対象者を placebo 群 (5 名 ) α-toc 群 (7 名 ) および γ-toc 群 (7 名 ) に分類し α-toc 群には mg/ 日の α-toc γ-toc 群には mg/ 日の γ-toc を毎日服用してもらった 3 週間後の早朝空腹時に採血し 血漿を得た また placebo 群にはビタミン E を可溶化した油脂 ( ビタミン E 除去 ) のみを服用させた 尚 本研究は 山口県立大学倫理委員会において審査され 承認後 二重盲検法によって実施された ⑵ 運動トレーニング各ビタミン E を服用後 4 週目から4 週間 ルームランナーを用いて運動トレーニングを開始した 運動トレーニングとして毎日 時速 6 km で 3 分間の歩行運動を行った 運動トレーニング終了日の翌日 早朝空腹時に採血し 血漿を得た ⑶ 血漿 α-toc および γ-toc 濃度の測定血漿 α-toc および γ-toc 濃度の測定は HPLC 法により測定 (Ueda et al, 1987) を行った C. 結果 ⑴ 高 α-toc および γ-toc 摂取に伴う血中濃度変化 3 週間 mg の α-toc または γ-toc 摂取後の血中 α-toc および γ-toc 濃度をそれぞれ図 1に示した α-toc 群では血中 α-toc 濃度が有意に上昇した (p <.1) が γ-toc 群では逆に有意な低下 (p <.1) を認めた 一方 γ-toc 濃度については γ-toc 群において有意な上昇 (p <.1) を認めたが α-toc 群では逆に有意な低下 (p <.1) がみられた ( 図 2) ⑵ 運動トレーニングに伴う α-toc および γ-toc の血中濃度変化 4 週間 毎週 5 日間の歩行運動によっても 血中 α-toc 濃度にはほとんど変化はみられなかった ( 図 3) また 血中 γ-toc 濃度は運動前に比べ運動後に有意な低下 (p <.5) を認めた ( 図 4) D. 考察本研究結果から α-toc および γ-toc の高い摂取は 各々の血中濃度の有意な上昇を
誘導する一方で もう一方の血中濃度を有意に抑制する可能性が示唆された Wu ら (27) も α-toc のサプリメントにより好中球中の γ-toc 濃度の低下することを見出している また Reboul らは γ-toc が α-toc の吸収を阻害することを見出し 報告していることから 高 γ-toc 摂取に伴う血中 α-toc 濃度の低下は γ-toc による α-toc の吸収阻害によるのかもしれない 欧米諸国のように食事からの脂質摂取が高い場合 血中ビタミン E 濃度の動態にも影響があること markers of oxidative stress and inflammation in type 2 disbetes. Clin. Chem,m 27. Feb 1, 27. 3. Reboul, E., et al.:effect of the main dietary antioxidants (carotenoids, gamma-tocopherol, polyphenols, and vitamin C)on alpha-tocopherol absorption. Eur. J. Clin. Nutr., Jan 31, 27. ことが考えられ 特に α-toc 濃度の低下と γ-toc 濃度の上昇が考えられ これが健康状態にどのように影響するかさらに検討が必要である また 4 週間の運動トレーニングに伴い 血中 α-toc 濃度にはほとんど変化はみられなかったが γ-toc 濃度は有意な低下を認めた この結果から 運動トレーニングに伴う過酸化脂質産生の抑制に働くビタミン E としては α-toc よりも γ-toc の方が優れている可能性が考えられるが 今後 さらに検討が必要である E. 文献 1. Ueda, T. and Igarashi, O.:New solvent system for extraction of tocopherols from biological specimens for HPLC determination and the evaluation of 2,2,3,7,8-pentamethyl-6-ehromanol as an internal standard. J. Micronutr. Anat., 3, 185-198, 1987. 2. Wu, J.H.Y., et al.:effects of α-tocopherol and mixed tocopherol supplementation on
3 25 *** **p<.1, ***p<.1 ( vs 摂取前 ) 2 15 ** 5 前後前後前後 placebo 群 α-toc 群 γ-toc 群 図 1 3 週間の高 α-toc および γ-toc 摂取後の血漿 α-toc 濃度の変化
12 ***p<.1 ( vs 摂取前 ) *** 8 6 4 2 *** 前後前後前後 placebo 群 α-toc 群 γ-toc 群 図 2 3 週間の高 α-toc および γ-toc 摂取後の血漿 γ-toc 濃度の変化
3 25 2 15 5 placebo 群 α-toc 群 図 3 高 α-toc 群における運動トレーニングに伴う血中 α-toc 濃度の変化
12 *p<.5 ( vs 運動前 ) 8 * 6 4 2 placebo 群 γ-toc 群 図 4 高 γ-toc 群における運動トレーニングに伴う血中 γ-toc 濃度の変化