研究成果報告書

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様式 C-19 科学研究費補助金研究成果報告書 平成 22 年 6 月 16 日現在 研究種目 : 若手研究 (B) 研究期間 :2008~2009 課題番号 : 研究課題名 ( 和文 ) 心臓副交感神経の正常発生と分布に必須の因子に関する研究 研究課題名 ( 英文 )Researc


研究成果報告書

Doctoral Thesis Studies on Biological Action of Novel Neurosecretory Proteins in Chickens and Rats (Digest) Kenshiro Shikano Division of Integrated Ar

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

< 研究の背景 > 運動に疲労はつきもので その原因や予防策は多くの研究者や競技者 そしてスポーツ愛好者の興味を引く古くて新しいテーマです 運動時の疲労は 必要な力を発揮できなくなった状態 と定義され 疲労の原因が起こる身体部位によって末梢性疲労と中枢性疲労に分けることができます 末梢性疲労の原因の

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

テイカ製薬株式会社 社内資料

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学位論文の要約

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

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平成13年度研究報告

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研究成果報告書

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

平成14年度研究報告

2006 PKDFCJ

研究成果報告書

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グルコースは膵 β 細胞内に糖輸送担体を介して取り込まれて代謝され A T P が産生される その結果 A T P 感受性 K チャンネルの閉鎖 細胞膜の脱分極 電位依存性 Caチャンネルの開口 細胞内 Ca 2+ 濃度の上昇が起こり インスリンが分泌される これをインスリン分泌の惹起経路と呼ぶ イ

Kamakura Women's University 鎌倉女子大学学術研究所報第 12 号 1-12 頁 2012 年 1 空腹 満腹のメカニズム 中枢性摂食調節機構について 太田一樹 ( 管理栄養学科 教授 ) <はじめに> 摂食は 生体のエネルギー供給に不可欠である 1950 年代に視床下部

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脂肪滴周囲蛋白Perilipin 1の機能解析 [全文の要約]

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報道発表資料 2001 年 3 月 8 日 独立行政法人理化学研究所 脳内の食欲をつかさどるメカニズムの一端を解明 - ムスカリン性受容体欠損マウスはいつでも腹八分目 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 脳の食欲をつかさどる情報伝達にはムスカリン性受容体が必須であることを世界で初めて発見し

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

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様式 F-19 科学研究費助成事業 ( 学術研究助成基金助成金 ) 研究成果報告書 平成 25 年 5 月 31 日現在 機関番号 :17701 研究種目 : 若手研究 (B) 研究期間 :2011 ~ 2012 課題番号 : 研究課題名 ( 和文 ) スギ花粉症初期療法が鼻粘膜ヒス

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

微小粒子状物質曝露影響調査報告書

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

研究成果報告書

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

Mincle は死細胞由来の内因性リガンドを認識し 炎症応答を誘導することが報告されているが 非感染性炎症における Mincle の意義は全く不明である 最近 肥満の脂肪組織で生じる線維化により 脂肪組織の脂肪蓄積量が制限され 肝臓などの非脂肪組織に脂肪が沈着し ( 異所性脂肪蓄積 ) 全身のインス

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Isotope News 2017年10月号 No.753

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

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ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

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子として同定され 前立腺癌をはじめとした癌細胞や不死化細胞で著しい発現低下が認められ 癌抑制遺伝子として発見された Dkk-3 は前立腺癌以外にも膵臓癌 乳癌 子宮内膜癌 大腸癌 脳腫瘍 子宮頸癌など様々な癌で発現が低下し 癌抑制遺伝子としてアポトーシス促進的に働くと考えられている 先行研究では ヒ


糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

( 様式甲 5) 氏 名 忌部 尚 ( ふりがな ) ( いんべひさし ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲第 号 学位審査年月日 平成 29 年 1 月 11 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 Benifuuki green tea, containin

PRESS RELEASE (2016/11/22) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

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( 様式甲 5) 氏 名 渡辺綾子 ( ふりがな ) ( わたなべあやこ ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲 第 号 学位審査年月日 平成 27 年 7 月 8 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 学位論文題名 Fibrates protect again

血糖値 (mg/dl) 血中インスリン濃度 (μu/ml) パラチノースガイドブック Ver.4. また 2 型糖尿病のボランティア 1 名を対象として 健康なボランティアの場合と同様の試験が行われています その結果 図 5 に示すように 摂取後 6 分までの血糖値および摂取後 9 分までのインスリ

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

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報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

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, 2008 * Measurements of Sleep-Related Hormones * 1. * 1 2.

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研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

漢方薬

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汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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2015 年度 SFC 研究所プロジェクト補助 和食に特徴的な植物性 動物性蛋白質の健康予防効果 研究成果報告書 平成 28 年 2 月 29 日 研究代表者 : 渡辺光博 ( 政策 メディア研究科教授 ) 1

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PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

様式 C-19 科学研究費補助金研究成果報告書 平成 21 年 6 月 2 日現在 研究種目 : 若手研究 (B) 研究期間 :26 ~ 28 課題番号 : 研究課題名 ( 和文 ) 炭酸ガスおよび半導体レーザーによるオーラルアンチエイジング 研究課題名 ( 英文 ) Oral an

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博第265号

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

共同研究報告書

能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

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様式 C-19 科学研究費補助金研究成果報告書 平成 23 年 5 月 16 日現在 機関番号 :32666 研究種目 : 基盤研究 (C) 研究期間 :2008~2010 課題番号 :20591103 研究課題名 ( 和文 ) グレリン受容体発現抑制遺伝子改変ラットを用いたグレリンのエネルギー蓄積機構の解明研究課題名 ( 英文 ) Study on energy storage mechanism of ghrelin using transgenic rats whose ghrelin receptor is suppressed 研究代表者芝﨑保 (SHIBASAKI TAMOTSU) 日本医科大学 大学院医学研究科 教授研究者番号 :00147399 研究成果の概要 ( 和文 ): グレリン受容体発現抑制遺伝子改変ラットの表現型からグレリンの体脂肪蓄積作用を明らかにしたが 加齢に伴う体脂肪蓄積機序へのグレリンの関与は不明である 4 8 20 週齢のラットへのグレリン受容体拮抗薬の投与実験から 非ふるえ性エネルギー燃焼機能を担っている褐色脂肪組織への内因性グレリンの抑制が加齢に伴い強まること グレリンのその抑制作用に視床下部背内側核ニューロンが関与している可能性を明らかにした 研究成果の概要 ( 英文 ):Transgenic rats expressing an antisense against ghrelin receptor mrna show reduced adipose tissue. However, it was not clear whether ghrelin is involved in an increase in body fat during aging. This study showed that the inhibitory action of ghrelin on brown adipose tissue increases with aging and that the dorsal medial hypothalamus is involved in its action in rats. 交付決定額 ( 金額単位 : 円 ) 直接経費 間接経費 合計 2008 年度 1,900,000 570,000 2,470,000 2009 年度 900,000 270,000 1,170,000 2010 年度 800,000 240,000 1,040,000 年度年度総計 3,600,000 1,080,000 4,680,000 研究分野 : 医歯薬学科研費の分科 細目 : 内科系臨床医学 内分泌学キーワード : グレリン グレリン受容体 体脂肪 エネルギー代謝 1. 研究開始当初の背景胃抽出物から発見されたグレリンの投与は成長ホルモン分泌促進因子受容体 (GHS-R) を介して成長ホルモン分泌 摂食 体脂肪蓄積を促進することが知られている グレリンは胃のみならず視床下部での産生も報告さ れているが それらの生理学的役割に関しては不明であった 我々はグレリン /GHS-R の働きを明らかにする目的でグレリン受容体発現抑制遺伝子改変ラットを作成し 同ラットが低体脂肪 褐色脂肪組織の重量の増加傾向と UCP1 発現亢進を呈したことから グレリ

ンは褐色脂肪細胞に抑制的に作用し エネルギー燃焼を抑制することによりエネルギー蓄積作用を示すと考えてきた さらに 正常ラットで認められたグレリンによる褐色脂肪組織内のノルアドレナリン分泌抑制作用は グレリン受容体発現抑制遺伝子改変ラットでは認められなかった ヒトにおける加齢に伴う体脂肪蓄積機序には 脂肪分解作用のある成長ホルモンの分泌低下の関与が考えられている しかしながら この機序へのグレリンの関与に関しては不明である 非ふるえ性熱産生機構で重要な働きをしている褐色脂肪細胞は交感神経系により促進的調節を受けている しかしながら 褐色脂肪組織内のノルアドレナリン分泌へのグレリンの抑制作用が加齢に伴いどのように変化するのか あるいは加齢に伴う変化が無いのか 全く不明である 2. 研究の目的本研究では 加齢に伴う体脂肪蓄積機序へのグレリンの関与の有無 特に褐色脂肪組織での交感神経終末からのノルアドレナリン分泌へのグレリンの抑制作用の変化の有無を明らかにすることを目的とした この目的に沿い 3 年間で (1) 褐色脂肪組織内の交感神経活動へのグレリンの脳室内あるいは末梢投与効果の加齢に伴う変化を明らかにする (2) グレリン受容体拮抗薬である D-Lys 3 -GHRP6 を脳室内投与した時の褐色脂肪組織内のノルアドレナリン分泌の変化への加齢による影響の有無を明らかにする (3) D-Lys 3 -GHRP6 の脳室内投与による視床下部の Fos 発現を免疫組織化学的に明らかにし さらにそれらの変化への加齢による影響も検討する (4) D-Lys 3 -GHRP6 を脳室内投与し酸素消費量や摂食行動の変化を解析する 3. 研究の方法 (1) 体脂肪の少ない 4 週齢 (100-130 g) 体脂肪増加の始まる 8 週齢 (230-250 g) 体脂肪が蓄積した 20 週齢 (480-500 g) のウイスター系雄ラットを用いた エーテル麻酔下で褐色脂肪組織内に透析プローブを刺入後 リンゲル液にて灌流し 無麻酔無拘束下灌流液中のノルアドレナリン分泌を経時的に測定した 基礎分泌が安定した後 グレリンを 2 nmol/kg 体重の濃度で脳室内へ または 120 nmol/kg 体重の濃度で静脈内へ投与し グレリンによる褐色脂肪組織内のノルアドレナリン分泌への影響を各週齢ラットにて比較した (2) 10 μg の D-Lys 3 -GHRP6 を各週齢ラットの脳室内に投与し 褐色脂肪組織内のノルアドレナリン分泌の変化を (1) と同様の方法で測定した (3) 10 μg の D-Lys 3 -GHRP6 を各週齢ラットの脳室内に投与し 視床下部の Fos 免疫活性の変化を免疫組織化学的に解析した (4) さらに 10 μg の D-Lys 3 -GHRP6 を脳室内投与し 酸素消費量と摂食行動の変化をそれぞれ 180 分間 90 分間にわたり解析した 4. 研究成果 (1) 4 週齢ラットにおいてグレリン脳室内投与により投与直後から 40 分後まで褐色脂肪組織内のノルアドレナリン分泌は抑制された 8 週齢ラットでは 4 週齢ラットと同様にグレリンの脳室内投与により投与直後から 40 分後までノルアドレナリン分泌の抑制が認められた しかしながら 20 週齢ラットにおいてはグレリンの脳室内投与によるノルアドレナリン分泌抑制作用は認められなかった 4 週齢ラットにおいてグレリン静脈内投与により生理食塩水投与群と比較し投与後 20

分から 60 分後まで褐色脂肪組織内のノルアドレナリン分泌の抑制が 8 週齢ラットではグレリン投与後 20 分から 40 分後までノルアドレナリン分泌の抑制が認められた 20 週齢ラットにおいてもグレリン投与により投与後 20 分から 40 分後までノルアドレナリン分泌の抑制が認められたが 抑制の程度は軽かった これらの結果から加齢に伴い褐色脂肪組織支配の交感神経の外因性グレリンに対する感受性は低下することが示された また 20 週齢ラットの褐色脂肪組織重量は 8 週齢ラットのそれと比べ低下し 褐色脂肪細胞中に脂肪滴の蓄積が認められ UCP1 mrna 発現は有意に減少していた したがって加齢に伴い褐色脂肪組織の機能低下 即ちエネルギー燃焼低下が生じ これも体脂肪蓄積の一因になると考えられる (2) グレリン受容体拮抗薬の脳室内投与は 4 週齢ラットではノルアドレナリン分泌に影響を与えず 8 週齢では投与直後から 20 分間 20 週齢では投与直後から 40 分間のノルアドレナリン分泌を有意に増加させた それぞれのノルアドレナリン頂値は 8 週齢で基礎値の 1.4 倍 20 週齢では 1.6 倍であった さらに 20 週齢は 8 週齢に比較し 低用量の拮抗薬にも反応してノルアドレナリン分泌の上昇が認められた 以上の結果から 8 週齢以上では内因性グレリンの褐色脂肪組織でのノルアドレナリン分泌抑制作用が存在し さらに 8 週齢よりも 20 週齢ラットでグレリンに対しより敏感に反応してノルアドレナリン分泌抑制が生じている可能性が示された 褐色脂肪組織はエネルギー燃焼の重要な組織であること 20 週齢の血中グレリンは他の群と比較して有意に高く 加齢に伴いラット血中グレリン濃度が上昇することからも 加齢に伴いグレリ ンによる褐色脂肪組織の機能抑制作用が強まり その結果 エネルギー燃焼が弱まり脂肪が蓄積し易くなっている可能性が示された (1) で認められた 20 週齢ラットでグレリン投与に対する褐色脂肪組織内のノルアドレナリン分泌抑制反応が加齢に伴い減少していたのは (2) の実験結果から 20 週齢ラットでは内因性グレリンの分泌量が増し 褐色脂肪細胞の機能を既に十分に抑制しているためであると考えられる (3) 8 20 週齢ラットへの D-Lys 3 -GHRP6 の脳室内投与は視床下部背内側核における Fos 発現量を対照群と比較して有意に増したが 4 週齢ラットでは視床下部背内側核における Fos 発現量は影響を受けなかった 同グレリン拮抗薬のラット脳室内投与は視床下部室傍核における Fos 発現に影響を与えなかった 視床下部背内側核は前視索野や室傍核 腹内側核等の体温調節や熱産生調節を担っている神経核から投射を受け 延髄縫線核ニューロンを介して褐色脂肪組織へ興奮性入力を送っていることが明らかになっている また視床下部背内側核のニューロン活性化が褐色脂肪組織の熱産生を促進するという報告もあることから グレリンによるエネルギー代謝抑制に グレリンによる視床下部背内側核ニューロン機能抑制が関与している可能性が示唆された 4 週齢ラットではグレリン受容体拮抗薬である D-Lys 3 -GHRP6 投与後に視床下部背内側核の Fos 発現の変化が認められなかったことは 体脂肪蓄積の増加する前の 4 週齢ラットでは視床下部背内側核へのグレリンの抑制作用は未だ生じていないと考えられる この結果は (2) の褐色脂肪組織内のノルアドレナリン分泌へのグレリン受容体拮抗薬の効果が 4 週齢ラットでは認められず 8 週齢と 20 週齢ラットで認められたという結果と一致し グレリンの視床下部背内側核を介する褐色脂

肪細胞の機能抑制は少なくとも 4 週齢では始まっていないことを示唆するものと考えられる グレリン脳室内投与により視床下部背内側核のニューロペプタイド Y ニューロンに Fos が発現し このニューロンの活性化がグレリンの摂食促進作用に関与しているとの報告がある グレリンは弓状核のニューロペプタイド Y ニューロンに対しては興奮性に プロオピオメラノコルチンニューロンに対しては抑制性に作用することも知られている 本研究結果から視床下部背内側核にもグレリンにより活性化するニューロンに加え グレリンが抑制的に作用するニューロンが存在する可能性が示唆され D-Lys 3 -GHRP6 投与により Fos が発現したニューロンにはグレリンによる抑制が解除されたために活性化した可能性が考えられた (4) 明期における 8 週齢雄ラットへの D-Lys 3 -GHRP6 の脳室内投与は 投与から 90 分間の摂食量には変化を与えなかったが 投与から 10 分後の酸素消費量を投与前と比較し増加させた 以上の結果から明期において内因性グレリンはエネルギー消費を抑制することでエネルギー蓄積に促進的に作用している可能性が示された グレリン受容体拮抗薬の摂食行動への影響が認められなかったことは 内因性グレリンが摂食調節機構に関与していないことを示唆するのか さらに詳細な検討が必要であると考えられる 5. 主な発表論文等 ( 研究代表者 研究分担者及び連携研究者には下線 ) 目 ).Genetic suppression of ghrelin receptors activates brown adipocyte function and decreases fat storage in rats. Regulat Pept 審査有り 160(2010)81-90. 2 Mano-Otagiri A, Ohata H, Iwasaki-Sekino A, Shibasaki T. Ghrelin suppreses noradrenaline release in the brown adipose tissue of rats. J Endocrinol 査読有り 201(2009) 341-349 学会発表 ( 計 3 件 ) 1 眞野あすか加齢に伴う体脂肪蓄積機序におけるグレリンの役割について第 37 回日本神経内分泌学会学術集会平成 22 年 10 月 22 日京都市 2 眞野あすかグレリンによるエネルギー蓄積作用の加齢に伴う変化についての解析第 82 回日本内分泌学会学術総会平成 21 年 4 月 24 日前橋市 3 眞野あすかグレリンの褐色脂肪組織におけるノルアドレナリン分泌抑制作用への加齢の影響第 81 回日本内分泌学会学術総会平成 20 年 5 月 18 日青森市 6. 研究組織 (1) 研究代表者芝﨑保 (SHIBASAKI TAMOTSU) 日本医科大学 大学院医学研究科 教授研究者番号 :00147399 雑誌論文 ( 計 2 件 ) 1 Mano-Otagiri A, Iwasaki-Sekino A, Nemoto T, Ohata H, Shibasaki T. (9 番 (2) 研究分担者眞野あすか (MANO ASUKA) 日本医科大学 医学部 講師

研究者番号 :50343588 根本崇宏 (NEMOTO TAKAHIRO) 日本医科大学 医学部 講師研究者番号 :40366654 大畠久幸 (OHATA HISAYUKI) 日本医科大学 医学部 助教研究者番号 :80256924