ロタウイルスワクチンをめぐる話題
ロタウイルスの歴史 ロタウイルス ( レオウイルス科 ) Photo from Dr. Kapikian. 1973 年 オーストラリアの Dr. Bishop が下痢症患者の便から原因と思われるウイルスを発見 その形状からロタウイルスと命名 ロタ はラテン語で 車輪 を意味する このウイルスが乳幼児の重傷下痢症の主な原因であることが判明 培養細胞で培養可能 ワクチン開発ロタシールド (1998 年 ) 1999 年撤収ロタリックス (2004 年 ) ロタテック (2006 年 ) 2011 年 ~2012 年日本でワクチン接種開始
重症下痢症の原因となる病原体の割合 先進国 発展途上国 ロタウイルスは 入院を必要とする重症下痢症症例の半数近くを占める
ロタウイルス感染症の概要 9 10 11 12 / 1 2 3 4 5 6
ロタウイルスの感染病理
ロタウイルスの形状と性質 1 2 3 4 5 6 7 89 10 11 Double stranded 11 segment RNA VP1 VP2 VP3 VP4 NSP1 VP6 NSP3 NSP2 VP7 NSP4 NSP5,6 Single-layer Double-layer Triple-layer l ゲノムは 2 本鎖 RNA 11 本の遺伝子分節を持つ l 11 本の遺伝子は 6 種類の構造蛋白と 6 種類の非構造蛋白をコードしている l 直径約 75 nm の正二十面体構造 ( スパイク蛋白 (VP4) を含めると約 100 nm) l 外殻 内殻 コア蛋白からなる 3 重構造を持つ l エンベロープを持たない ( 石鹸やアルコール消毒は無効 ) l 培養細胞で継代可能 ( トリプシンによる VP4 の開裂が必要 )
ロタウイルスのゲノム構造と機能 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 ゲノムセグメント VP1 VP2 VP3 VP4 NSP1 VP6 NSP3 機能 RNAポリメラーゼ (RdRp) RNA 結合蛋白 RdRpの機能補助グアニルトランスフェラーゼヘマグルチニン スパイク 細胞への接着 RNAに結合 zinc finger 内殻 (inner capsid) タンパク翻訳開始因子 Genome size 3302 bp (segment 1 ) 667 bp (segment 11) Total 18556 bp NSP2 VP7 NSP4 NTPase helicase 外殻 (outer capsid) タンパク エンテロトキシン 多機能酵素 NSP5,6 RNA 合成補助
ロタウイルスの分類 VP67 A, B, C VP6 ( 内殻 ) VP7 ( 外殻 ) A VP4 ( スパイク ) B C 2% Serogroup D E F G
ロタウイルスの分類 A 80 VP6 ( 内殻 ) G type VP7 P type VP4 Wa G1P[8]P[8] = P1A = P1A[8] DS- 1 G2P[4] VP7 ( 外殻 ) VP4 ( スパイク ) G type 27 11 P type 35 13 90 G1P[8] G2P[4] G3P[8] G4P[8] G9P[8] 11 VP7 - VP4 - VP6 - VP1 - VP2 - VP3 - NSP1 - NSP2 - NSP3 - NSP4 - NSP5 Wa G1- P[8]- I1- R1- C1- M1- A1- N1- T1- E1- H1 DS- 1 G2- P[4]- I2- R2- C2- M2- A2- N2- T2- E2- H2
日本におけるロタウイルスサーベイランス (2004-10) ロタウイルス型別の検出割合 (2004-10)
ロタウイルスの遺伝子再集合 ( リアソートメント ) 異なる型のウイルスが同時に感染すると遺伝子が組み換わったリアソータントが出現する
ロタウイルスワクチン 第一世代 ロタシールド (RotaShield) サルロタウイルスをベースにしたリアソータントの 4 価の生ワクチン 被接種者 人に 1 人と推定される腸重積症を副反応として起こす疑いにより市場から撤収 元来 生後 ~ ヶ月は腸重積の好発時期である 腸重積の好発時期にワクチンを接種していたため ワクチンにより腸重積を誘発しやすかった? サルロタウイルスが腸重積の誘発に関わっている? ( 他種のロタウイルスは誘発しない ) 腸重積の発症機序については結論は出ていない 改良 第二世代 ( 現行のワクチン ) ロタリックス (Rotarix): ヒトロタウイルスを弱毒化した単価の生ワクチン ロタテック (RotaTeq): ウシロタウイルスをベースにしたリアソータントの 5 価の生ワクチン
ロタウイルスワクチン
ロタウイルスワクチン いずれのワクチンも腸重積のリスクを上昇させない いずれのワクチンも感染防御率 7 割 重篤化阻止率 9 割以上であり 同等の効果が得られる
ロタテックの組成 ウシロタウイルス ( 親株 ) G1 G2 G3 G4 P1 ウシロタウイルスに ヒトロタウイルスの G1, G2, G3, G4, P1 を組み換えた 5 種のリアソータントウイルスの混合物
アメリカにおけるロタウイルスワクチンの効果
ロタウイルスについてのまとめ l ロタウイルスゲノムは 11 分節の 2 本鎖 RNA で構成される l 乳幼児の重症下痢症の主な原因ウイルスである l 内殻タンパク (VP6) の血清型により A~G の 7 群に分類される 流行株のほとんどは A 群ロタウイルス l 外殻タンパク (VP7:G type) とスパイクタンパク (VP4:P type) の遺伝子型が流行の把握に重要 l 複数の株間で容易に遺伝子再集合 ( リアソートメント ) を起こす
' ' 3.4 4.6 10 4 TCID 50 /ml 100 ng/ml ST 1.9 10 6 / ml 10 15 10 VP6
ELISA TFB VP6 60 901.5 10 6 /ml
RNA 10% Trizol LS RNA PAGE RNA 10% Tris- Glycine buffer 30mA 3hr SYBR Gold G1P[8] Wa G1P[8] Hochi G4P[8] 69M G8P[10] WI61G9P[8] A
RT- PCR Rotavirus genome (dsrna) primers PCR PCR products
RT- PCR Wa PrimeScript 1st strand cdna Synthesis Kit (Takara) PCR Prime STAR Max / Prime STAR GXL (Takara) 1% (bp) 10000 VP1 VP2 VP3 VP4 VP6 VP7 NSP1 NSP2 NSP3 NSP4 NSP5 3000 2000 1500 1000 500 VP6, NSP4, NSP5
ロタウイルスワクチン
2011年夏よりワクチン投与開始 ワクチン非接種者のみ ワクチン接種者 非接種者混在 ワクチン防壁 野外流行株のみ 野外流行株 ワクチン株混在
2012 7 2013 4 100000" 50" 90000" 45" 80000" 40" 70000" 35" 60000" 30" 50000" 25" 40000" 30000" 20" 15" 20000" 10" 10000" 5" 0" Jul/12" Aug/12" Sep/12" Oct/12" Nov/12" Dec/12" Jan/13" Feb/13" Mar/13" Apr/13" 0"
0" 10" 20" 30" 40" 50" 60" 70" 80" 45% 2013 4
2012 7 2013 4 80" 70" 60" 50" 40" 30" 20" 10" 0" Jul.12" Aug.12" Sep.12" Oct.12" Nov.12" Dec.12" Jan.13" Feb.13" Mar.13" Apr.13"
G1P[8] G1, 2, 3, 4, P[8]
背景 2011 11 2012 7 H23- - - 005 山口大学医学部附属病院
2012 年に検出されたロタウイルス VP7 および VP4 遺伝子型 G9P[8] 31% G3P[8] 6% G1P[8] 63% 6 6 44 5 54 16 3 G PG1P[8] 80 63% G3P[8] 8 6% G9P[8] 40 31%
ロタウイルスのゲノムと構造 Genome segment Funcgon 1 VP1 コア蛋白 RNA ポリメラーゼ (RdRp) 2 3 4 VP2 VP3 コア蛋白 RdRpの機能補助コア蛋白 グアニリルトランスフェラーゼ VP4 ヘマグルチニン スパイク 細胞への接着 5 6 NSP1 VP6 RNAに結合 IFNシグナル抑制内殻 (inner capsid) タンパク 7 8 9 NSP3 NSP2 RNAに結合 ウイルスmRNAの翻訳 NTPase helicase Genome size (SA11) 667 (NSP5) ~ 3302 bp (VP1 ) Total 18556 bp 10 11 VP7 NSP4 NSP5,6 外殻 (outer capsid) タンパクエンテロトキシン 多機能酵素 RNA 合成補助 11 VP7 - VP4 - VP6 - VP1 - VP2 - VP3 - NSP1 - NSP2 - NSP3 - NSP4 - NSP5 Wa G1P[8] G1- P[8]- I1- R1- C1- M1- A1- N1- T1- E1- H1 DS- 1 G2P[4] G2- P[4]- I2- R2- C2- M2- A2- N2- T2- E2- H2
RT- PCR Enzyme: PrimeSTAR GXL DNA polymerase (Takara) VP NSP (bp) 1 2 3 4 6 7 1 2 3 4 5 3000 1500 1000 500 2012 Microbiology and Immunology 56(9):630-8
G1P[8] 2/3 DS- 1- like
NSP1 Wa-like A1 A2 DS-1-like A3
l 2012 年に日本で検出された G1P[8] 型ロタウイルス 7 検体について全 11 セグメントの遺伝子型構成を解析したところ Wa-like 遺伝子型構成 (G1-P[8]-I1-R1-C1- M1-A1-N1-T1-E1-H1) が 2 検体 DS-1-like 遺伝子型構成 (G1-P[8]-I2-R2-C2- M2-A2-N2-T2-E2-H2) が 5 検体であった l DS-1-like G1P[8] がロタウイルス重症事例における主流行株になったという報告は過去に無く 現時点では 世界的に見ても異例である 今後 この株が長期に渡り流行を引き起こすか否か ロタウイルスワクチンの効果が及ぶのか 監視を続ける必要がある l 重症事例に認められた DS-1-like 遺伝子型構成 (G1-P[8]-I2-R2-C2-M2-A2- N2-T2-E2-H2) は 我が国において本年度主要流行株となりつつある 片山班では 重症事例前検体の 8 割以上となることが予測されている この現象は オーストラリアなどワクチン先行国の動向を探る必要がある l 我が国において 従来の GP 遺伝子型解析だけでは把握できない多様なウイルス株 ( リアソータント ) が既に存在している これには 急速に普及したワクチンの防壁が関与している可能性がある これらを監視するためには 全遺伝子型構成解析による分子疫学調査が今後も必要不可欠である