情報解禁日時の設定はありません 情報はすぐにご利用いただけます 基礎生物学研究所配信先 : 岡崎市政記者会東京工業大学配信先 : 文部科学記者会 科学記者会 報道機関各位 2017 年 7 月 25 日 自然科学研究機構基礎生物学研究所国立大学法人東京工業大学 遺伝子撹拌装置をタイミング良く染色体か

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生物時計の安定性の秘密を解明

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

「ゲノムインプリント消去には能動的脱メチル化が必要である」【石野史敏教授】

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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平成 30 年 8 月 17 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出 - バイオ燃料生産における最大の壁を打破 - 要点 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決 オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

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報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

染色体の構造の異常 Chromosomal structural changes

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

図 : と の花粉管の先端 の花粉管は伸長途中で破裂してしまう 研究の背景 被子植物は花粉を介した有性生殖を行います めしべの柱頭に受粉した花粉は 柱頭から水や養分を吸収し 花粉管という細長い管状の構造を発芽 伸長させます 花粉管は花柱を通過し 伝達組織内を伸長し 胚珠からの誘導を受けて胚珠へ到達し

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 12 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 DNA の量によって植物の大きさが決まる新たな仕組みを解明 - 植物の核内倍加は染色体のセット数を変えずに DNA 量を増やすメカニズムが働く - 生命の設計図である DNA が 細胞の中で増えたらどうなるので

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

卵が時間の余裕をつくり精子の変身を助ける 哺乳類の受精卵特有のしくみを解明 1. 発表者 : 添田翔 ( 沖縄科学技術大学院大学ポストドクトラルスカラー / 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻特任研究員 : 研究当時 ) 大杉美穂 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻教授 ) 2. 発

この研究成果は 日本時間の 2018 年 5 月 15 日午後 4 時 ( 英国時間 5 月 15 月午前 8 時 ) に英国オンライン科学雑誌 elife に掲載される予定です 本成果につきまして 下記のとおり記者説明会を開催し ご説明いたします ご多忙とは存じますが 是非ご参加いただきたく ご案

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

長期/島本1

< 用語解説 > 注 1 ゲノムの安定性ゲノムの持つ情報に変化が起こらない安定な状態 つまり ゲノムを担う DNA が切れて一部が失われたり 組み換わり場所が変化たり コピー数が変動したり 変異が入ったりしない状態 注 2 リボソーム RNA 遺伝子 タンパク質の製造工場であるリボソームの構成成分の

報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成

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大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

2. 看護に必要な栄養と代謝について説明できる 栄養素としての糖質 脂質 蛋白質 核酸 ビタミンなどの性質と役割 およびこれらの栄養素に関連する生命活動について具体例を挙げて説明できる 生体内では常に物質が交代していることを説明できる 代謝とは エネルギーを生み出し 生体成分を作り出す反応であること

神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

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研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

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新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

< 染色体地図 : 細胞学的地図 > 組換え価を用いることで連鎖地図を書くことができる しかし この連鎖地図はあくまで仮想的なものであって 実際の染色体と比較すると遺伝子座の順序は一致するが 距離は一致しない そこで実際の染色体上での遺伝子の位置を示す細胞学的地図が作られた 図 : 連鎖地図と細胞学

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

植物が花粉管の誘引を停止するメカニズムを発見

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

生物学入門

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研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

報道発表資料 2002 年 8 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 局所刺激による細胞内シグナルの伝播メカニズムを解明 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 細胞の局所刺激で生じたシグナルが 刺激部位に留まるのか 細胞全体に伝播するのか という生物学における基本問題に対して 明確な解答を与えま


論文の内容の要旨

Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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平成14年度研究報告

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

第 20 講遺伝 3 伴性遺伝遺伝子がX 染色体上にあるときの遺伝のこと 次代 ( 子供 ) の雄 雌の表現型の比が異なるとき その遺伝子はX 染色体上にあると判断できる (Y 染色体上にあるとき その形質は雄にしか現れないため これを限性遺伝という ) このとき X 染色体に存在する遺伝子を右肩に

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

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様式 19 別紙 1 課題番号 LS078 先端研究助成基金助成金 ( 最先端 次世代研究開発支援プログラム ) 実施状況報告書 ( 平成 25 年度 ) 本様式の内容は一般に公表されます 研究課題名研究機関 部局 職名氏名 流産リスク管理に向けた配偶子異数体形成過程の基礎的研究 大阪大学 蛋白質研

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胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹

教育・研究・資金の三位一体による

図 1 ヘテロクロマチン化および遺伝子発現不活性化に関わる因子ヘテロクロマチン化および遺伝子発現不活性化に関わる DNA RNA タンパク質 翻訳後修飾などを示した ヘテロクロマチンとして分裂酵母セントロメアヘテロクロマチンと哺乳類不活性 X 染色体を 遺伝子発現不活性化として E2F-Rb で制御

1. 背景生殖細胞は 哺乳類の体を構成する細胞の中で 次世代へと受け継がれ 新たな個体をつくり出すことが可能な唯一の細胞です 生殖細胞系列の分化過程や 生殖細胞に特徴的なDNAのメチル化を含むエピゲノム情報 8 の再構成注メカニズムを解明することは 不妊の原因究明や世代を経たエピゲノム情報の伝達メカ

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

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酵素消化低分子化フコイダン抽出物の抗ガン作用増強法の開発

報道発表資料 2004 年 9 月 6 日 独立行政法人理化学研究所 記憶形成における神経回路の形態変化の観察に成功 - クラゲの蛍光蛋白で神経細胞のつなぎ目を色づけ - 独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) マサチューセッツ工科大学 (Charles M. Vest 総長 ) は記憶形

上原記念生命科学財団研究報告集, 28 (2014)


CBRC CBRC DNA

報道関係者各位 平成 29 年 2 月 23 日 国立大学法人筑波大学 高効率植物形質転換が可能に ~ 新規アグロバクテリウムの分子育種に成功 ~ 研究成果のポイント 1. 植物への形質転換効率向上を目指し 新規のアグロバクテリウム菌株の分子育種に成功しました 2. アグロバクテリウムを介した植物へ

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RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

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報道機関各位 2017 年 7 月 25 日 自然科学研究機構基礎生物学研究所国立大学法人東京工業大学 遺伝子撹拌装置をタイミング良く染色体から取り外す仕組み ~ 減数分裂期に相同染色体間の遺伝情報交換を促す高次染色体構造の解体を指揮するシグナリングネットワークを特定 ~ 私たちヒトを含む多くの真核生物では 父親と母親から受け継いだ 2 セットの遺伝情報を持っています この遺伝情報を次世代に伝えるには配偶子と呼ばれる特殊な細胞 ( ヒトの場合は精子と卵 ) を形成し ちょうど半分の遺伝情報をその中に分配する必要があります また その際父親と母親の遺伝情報はお互いの遺伝情報を交換することで激しく撹拌され そのことにより生物の多様性は劇的に増大します この目的を果たすために減数分裂期の染色体は 遺伝子攪拌装置 とでも呼ぶべき非常に複雑な高次構造を形成するのですが ひとたび遺伝子の攪拌が終了するとこの構造体を直ちに解消しなければ 次に起こるべき染色体分配に支障をきたしてしまいます 減数分裂の進行において タイミングよくこの染色体高次構造を解消し 次のステップに進める仕組みは謎に包まれていました 今回 基礎生物学研究所 東京工業大学 サセックス大学 ニューヨーク州立大学のメンバーからなる共同研究グループは 真核生物の単純なモデルである出芽酵母を用いた研究により 細胞分裂の進行を制御する分子群が 減数分裂期の高次染色体構造の解体を直接指揮するスイッチ役として働くことを明らかにしました 本研究成果は 2017 年 7 月 10 日に欧州分子生物学機構が発行する専門誌 EMBO Journal( 電子版 ) に掲載されました 研究の背景 有性生殖を行うヒトなどの真核生物は 遺伝情報を次の世代に伝える為に 配偶子と呼ばれる特殊な細胞 ( 精子や卵など ) を形成します その過程で 配偶子に対し親細胞の染色体数の半分だけを正確に分配することが必要で その為に用いられるのが減数分裂と呼ばれる特殊な細胞周期です 減数分裂では 1 回の DNA 複製に続いて 2 回の連続した細胞分裂 それぞれ減数第一分裂 第二分裂が起こります ( 図 1) 特に減数第一分裂においては 相同染色体が分配される点が非常に特徴的であり これは姉妹染色分体が分配される体細胞分裂とは大きく異なります また 減数第一分裂に先立ち 相同染色体同士はその全長に渡って密着し シナプトネマ複合体と呼ばれる複雑な染色体高次構造を形成します ( 図 2) その間相同染色体間では遺伝情報が活発に交換され このプロセスは生命の多様性を生み出す原動力となって来ました 基礎生物学研究所 / サセックス大の坪内英生を中心とする研究グループは 真核生物の単純なモデルである出芽酵母を用いて 遺伝情報交換の場として機能するシナプトネマ複合体の形成と解離のメカニズムの解明に取り組んできました 今回 坪内らは シナプトネマ複合体の解離と細胞周期を結びつけるシグナリングネットワークを特定し その制御機構の解析を行いました

研究の成果 シナプトネマ複合体は減数第一分裂前期の開始と共に形成され始め 前期の中盤でその形成が完了し相同染色体はその全長に渡って密着します ( 図 2) 同時に 密着した相同染色体間で相同組換えが活発に誘導され遺伝情報が交換されます これは減数分裂期特有の現象で 体細胞分裂期の相同組換えが姉妹染色分体間で起こるのとは対照的です 相同組換え反応が継続する間 細胞は減数第一分裂前期内に留まり シナプトネマ複合体構造は維持されます ところが ひとたび相同組換え反応が完了すると細胞周期は減数第一分裂前期を脱して中期に進行し シナプトネマ複合体は染色体上から素早く解離します 研究グループは細胞周期の進行とシナプトネマ複合体の解離がどのようにコーディネートされているのかを探索する過程で 真核生物の細胞周期を制御するタンパクキナーゼがシナプトネマ複合体の解離調節の鍵となっていることを見出しました ( 図 3) それらは 細胞周期の原動力と呼ばれるサイクリン依存性キナーゼ (CDK1) DNA 複製開始のタイミング制御に重要なことが知られている Dbf4 依存性 Cdc7 キナーゼ (DDK ) 及び主に M 期で機能することが知られるポロキナーゼです 特に今回 研究グループは DDK の活性を調節する Dbf4 のリン酸化がシナプトネマ複合体の解離調節の鍵となることを見出しました この過程で重要になってくるのが減数第一分裂前期内で活発に起こっている相同組換え反応です 減数第一分裂前期中では 相同組換え反応を監視しているメカニズムがあり 相同組換え反応の終了が近づくとポロキナーゼの発現が誘導されると共に CDK1 の活性が上昇します この際 発現したポロキナーゼは Dbf4 と直接相互作用してそのリン酸化を促します 同時に活性が上昇した CDK1 も Dbf4 のリン酸化に寄与し この Dbf4 リン酸化がシナプトネマ複合体構成タンパク質の分解を引き起こすことで 染色体からのシナプトネマ複合体の解離を誘導するスイッチになっていることが明らかになりました また 減数第一分裂前期中では相同染色体間の遺伝情報の交換を促進するために 体細胞分裂期型の組換え経路が抑制されているのですが 細胞が減数第一分裂前期から出ると 体細胞分裂期型組換えが直ちに再活性化することを見出しました 今回の研究により 染色体構造が減数分裂期型から体細胞分裂期型に戻る際に その変換を司る主要な情報伝達系を明らかにしたと考えています 今後の展望 減数分裂のメカニズムは体細胞分裂のメカニズムの上に構築されていると考えられますが 両者に非常に大きな違いがあるのもまた事実です 特に減数第一分裂期においては染色体分配様式が異なるだけでなく遺伝情報の撹拌という 体細胞分裂期とは全く異なる機能が付加されるのです こういった機能の付加は 可逆的であるという特徴があり 細胞は極めて迅速に減数分裂期型から体細胞分裂期型へと染色体構造を変換する能力を備えています このような染色体のダイナミックな動態はヒトを含む高等真核生物でも保存されていることから 同様のシグナリングネットワークが減数分裂から体細胞分裂への染色体構造変換に関与しているのか 今後興味が持たれるところです

図 1 体細胞分裂と減数分裂の違い 減数分裂の大きな特徴はその第一分裂にある 減数第一分裂前期においては相同染色体同士がお互いを認識して接着し その遺伝情報を交換する また 減数第一分裂では相同染色体が分配されるが これは姉妹染色分体が分配される体細胞分裂や減数第二分裂とは大きく異なる

図 2 減数第一分裂前期における染色体高次構造 減数第一分裂前期において相同染色体が密着し遺伝情報の交換をするために 染色体は特徴的な高次構造を形成する この構造体をシナプトネマ複合体という この構造体においては相同染色体同士がその全長に渡って一定の間隔をおいて密着するので 電車の線路のような構造体が電子顕微鏡による観察で認められる

図 3 減数分裂期の染色体高次構造の解離を指揮するシグナリングネットワーク 減数第一分裂前期から中期にかけて 染色体高次構造は急速に染色体から解離するが その過程には細胞周期の制御に関わる 3 つのタンパクキナーゼが関与している その制御において中心になるのが Dbf4 依存性 Cdc7 キナーゼの調節因子 Dbf4 のリン酸化である 発表雑誌 雑誌名掲載日 The EMBO Journal 2017/7/10 電子版先行掲載 ( 冊子媒体は 9/1 出版予定 ) 論文タイトル : Fundamental cell cycle kinases collaborate to ensure timely destruction of the synaptonemal complex during meiosis 著者 :Bilge Argunhan, Wing Kit Leung, Negar Afshar, Yaroslav Terentyev, Vijayalakshmi V Subramanian, Yasuto Murayama, Andreas Hochwagen, Hiroshi Iwasaki, Tomomi Tsubouchi, Hideo Tsubouchi DOI:10.15252/embj.201695895

研究グループ 基礎生物学研究所 / 英国 サセックス大学 : 坪内英生基礎生物学研究所 : 坪内知美東京工業大学 / 英国 サセックス大学 : Bilge Argunhan, Negar Afshar 東京工業大学 : 村山泰斗 (7 月 1 日より国立遺伝学研究所所属 ) 岩﨑博史英国 サセックス大学 : Wing Kit Leung, Yaroslav Terentyev 米国 ニューヨーク州立大学 : Vijayalakshmi V Subramanian, Andreas Hochwagen 研究サポート 本研究は 文部科学省科学研究費助成事業 英国 Biotechnology and Biological Sciences Research Council Medical Research Council などの支援のもとで行われました 本研究に関するお問い合わせ先 基礎生物学研究所幹細胞生物学教室坪内英生 TEL: 0564-55-7695 E-mail: htsubo@nibb.ac.jp 東京工業大学科学技術創成研究院細胞制御工学研究センター岩崎博史 TEL: 03-5734-2588 E-mail: hiwasaki@bio.titech.ac.jp 報道担当 基礎生物学研究所広報室 TEL: 0564-55-7628 FAX: 0564-55-7597 E-mail: press@nibb.ac.jp 東京工業大学広報 社会連携本部広報 地域連携部門 TEL: 03-5734-2975 FAX: 03-5734-3661 E-mail: media@jim.titech.ac.jp