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学位論文の要約

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

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子として同定され 前立腺癌をはじめとした癌細胞や不死化細胞で著しい発現低下が認められ 癌抑制遺伝子として発見された Dkk-3 は前立腺癌以外にも膵臓癌 乳癌 子宮内膜癌 大腸癌 脳腫瘍 子宮頸癌など様々な癌で発現が低下し 癌抑制遺伝子としてアポトーシス促進的に働くと考えられている 先行研究では ヒ

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

骨形成における LIPUS と HSP の関係性が明らかとなった さらに BMP シグナリングが阻害されたような症例にも効果的な LIPUS を用いた骨治癒法の提案に繋がる可能性が示唆された < 方法 > 10%FBS と 抗生剤を添加した α-mem 培地を作製し 新生児マウス頭蓋骨採取骨芽細胞を

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( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

第6号-2/8)最前線(大矢)

表1-4B.ai

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

作成要領・記載例

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

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く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

博士の学位論文審査結果の要旨

上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

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ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

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転移を認めた 転移率は 13~80% であった 立細胞株をヌードマウス皮下で ~1l 増殖させ, その組

胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹

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ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC

ABSTRACT

九州大学病院の遺伝子治療臨床研究実施計画(慢性重症虚血肢(閉塞

八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

長期/島本1

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モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の特性と

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酵素消化低分子化フコイダン抽出物の抗ガン作用増強法の開発

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脂肪滴周囲蛋白Perilipin 1の機能解析 [全文の要約]

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2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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博第265号

急性骨髄性白血病の新しい転写因子調節メカニズムを解明 従来とは逆にがん抑制遺伝子をターゲットにした治療戦略を提唱 概要従来 <がん抑制因子 >と考えられてきた転写因子 :Runt-related transcription factor 1 (RUNX1) は RUNX ファミリー因子 (RUNX1

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典


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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

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60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

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がん免疫療法モデルの概要 1. TGN1412 第 Ⅰ 相試験事件 2. がん免疫療法での動物モデルの有用性がんワクチン抗 CTLA-4 抗体抗 PD-1 抗体 2

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

平成 30 年 2 月 5 日 若年性骨髄単球性白血病の新たな発症メカニズムとその治療法を発見! 今後の新規治療法開発への期待 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 小児科学の高橋義行 ( たかはしよしゆき ) 教授 村松秀城 ( むらまつひでき ) 助教 村上典寛 ( むらかみ

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

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立命館人間科学研究No.10



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Transcription:

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- 日中医学協会助成事業 - 前立腺がんの造骨性骨転移のメカニズム解明 研究者氏名中国所属機関日本研究機関指導責任者共同研究者 王麗楊中国医科大学大阪大学歯学研究科教授米田俊之相野誠 要旨 近年日本の男性において急増している前立腺がんは死亡率の第 2 位にランクされている 80% 以上の前立腺癌は造骨性の骨転移を示し 患者の QOL および生存期間を著しく低下させる 前立腺がん発生のメカニズムには未だ不明な点が多く それらを解明するために 動物モデルの確立は不可欠だ しかしながら そのような動物モデルはまだ開発されていない そこで われわれはまず前立腺の造骨性骨転移の動物モデルの確立を試みた 様々な実験を行った結果 ヒト前立腺がん細胞 LNCaP に恒常的活性型 STAT3 を過剰発現させた LNCaP/caStat3 細胞を樹立した この細胞をオスヌードマウスに心注すると 造骨性の骨転移が見られた したがって STAT3 の恒常的活性化は前立腺癌の造骨性骨転移を惹起させることが明らかとなった STAT3 はガン遺伝子であり 恒常的活性化と前立腺がんの悪性度 あるいは転移能との関連がすでに報告されている 前立腺がん発生のメカニズムには未だ不明な点が多いが 危険因子として肥満が知られている 本研究では 前立腺癌の造骨性骨転移における Stat3 ならびに肥満原因遺伝子の一つであるレプチンの関与について検討した がん遺伝子 Stat3 の恒常的活性化によるレプチンの産生増加が前立腺がんの造骨性骨転移の成立 進展に重要な役割を果たしていることが示唆された また本研究により肥満と前立腺がん発生との関連の分子基盤の一端が明らかとなった Key words 前立腺ガン, 骨転移, 肥満, レプチン, STAT3 緒言 : 近年男性において 急増している前立腺がんは 80% 以上が造骨性の骨転移を示し 患者の QOL および生存期間を著しく低下させる 前立腺がん発生のメカニズムには未だ不明な点が多いですが 危険因子として肥満が知られている 前立腺がん患者の血中 leptin が増加していること また高濃度のレプチンは前立腺癌の進展に関与すること さらに ヒト前列腺癌に leptin 受容体が発現することが報告された 一方 leptin の下流因子である STAT3 はがん遺伝子であり 恒常的活性化と前立腺がんの悪性度 あるいは転移能との関連が示唆されている そこで本研究では前立腺がんの造骨性骨転移にお -120-

ける leptin および STAT3 の役割を検討した 対象と方法 : 1. 最初の実験として LNCaP 細胞における leptin signaling について検討した 2. STAT3 の役割を詳細に検討するために LNCaP に恒常的活性型 STAT3 を過剰発現させた LNCaP/caStat3 細胞を樹立し 皮下移植モデルと脛骨骨髄内移植モデルを作成した 3. LNCaP/caStat3 細胞から産出するレプチンは造骨性増大に関与するかどうか また leptin は autocrine 増殖因子であるかどうかについて 検討した 4. レプチンの造骨性増大の促進するメカニズムを検討するために ヒト顎骨細胞由来 初代培養骨芽細胞様細胞である HAOB 細胞を樹立した 結果 : 1.leptin は stat3 のリン酸化を時間依存的に促進した この結果より LNCaP 細胞は 機能的な leptin 受容体を有していることが示唆された また leptin は LNCaP 細胞の増殖を促進した さらにこの効果は STAT3 の阻害剤 AG490 により 抑制された 2.LNCaP/Stat3 細胞は 高い増殖能を示し またオスヌードマウスの皮下に移植すると 腫瘍形成をしめした 一方 LNCaP/ 細胞は腫瘍原性を示していなかった さらに脛骨骨髄に注入すると 腫瘍の造骨性増大を呈した 一方 LNCaP/ 細胞はこの効果を示していなかった 3.LNCaP/Stat3 担癌動物においては 血中の人 leptin 濃度が著名に上昇していた それに一致して 骨内で増大する LNCaP 腫瘍は leptin 受容体発現が増加していた また MicroArray 法によっても LNCaP/caSTAT3 細胞の leptin 受容体の発現増加が確認された 4. LNCaP/caStat3 細胞は骨髄中で 著名な造骨性増大を示したが leptin 中和抗体処理により この効果は阻害された 5. さらにレプチンアンタゴニスト及び中和抗体は LNCaP/caStat3 細胞の増殖を抑制した したがって レプチンは前立腺がんにおいて autocrine growth factor であることが示唆された 6. LNCaP/caStat3 の培養上清は HAOB 細胞の分化及び石灰化を促進した これらの効果はレプチンアンタゴニストの添加により消失した 7.leptin は LNCaP/caStat3 培養上清と同様に HAOB の分化を促進した 8. このようなレプチンの作用の分子メカニズムを検討した結果 leptin は STAT3 及び ERK のリン酸化を促進することが western 法や免疫蛍光法により 示された 9. さらに STAT3 の inhibitor AG490 および ERK の inhibitor U0126 は leptin により増強された HAOB 細胞のアルカリホスファターゼ活性を抑制した 以上の結果より leptin による STAT3 及び ERK の活性化が骨芽細胞の分化に密接に関与することが示唆された -121-

考察 : ヒト前立腺癌 LNCaP 細胞において がん遺伝子 Stat3 の恒常的活性化はレプチン産生およびレプチン受容体の発現増加を誘導することがわかった leptin は autocrine 因子として前立腺癌細胞の増殖を促進し 一方 paracrine 因子として骨芽細胞の分化を促進することにより 前立腺がんの造骨性増大の成立 進展に重要な役割を果たしていると考えられる STAT3 および ERK の活性化はレプチンの骨芽細胞調節機構に関わることが明らかとなった また本研究により肥満に伴う血中 leptin 濃度の上昇は 前立腺がんの造骨性増大を促進することが示唆され したがって肥満と前立腺がん発生との関連の一端が示唆された castat3 castat3-122-

Obesity Adipose Circulating Leptin leptin autocrine pstat3 PCa progression LEPR PCa/caSTAT3 leptin paracrine pstat3 Osteoblastogenesis Osteoblastic growth 参考文献 : 1. Abdulghani J et al., Stat3 promotes metastatic progression of prostate cancer. Am J Pathol. 2008 172:1717-28. 2. Sharma D et al., Leptin promotes the proliferative response and invasiveness in human endometrial cancer cells by activating multiple signal-transduction pathways. Endocr Relat Cancer. 2006 13:629-40. 3. Baillargeon J et al., Obesity, adipokines, and prostate cancer in a prospective population-based study. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2006 15:1331-5. 4. Gade-Andavolu R et al., Molecular interactions of leptin and prostate cancer. Cancer J. 2006; 12:201-6. 5. Handschin AE et al., Leptin increases extracellular matrix mineralization of human osteoblasts from heterotopic ossification and normal bone.ann Plast Surg. 2007;59:329-33. 注 : 本研究は 2009 年 7 月 25 日 < 第 27 回日本骨代謝学会 >にて口演発 ; 2009 年 9 月 13 日 < 第 31 回米国骨代謝学会 (ASBMR)> にて口演発表 2009 年 11 月 6 日 < 第 26 回 Naito 学会 > にてポスタ 発表 作成日 :2010 年 3 月 9 日 -123-