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血液細胞の成り立ちと働き こつずい 血液細胞は 骨の中にある 骨髄 という組織でつくられます ぞうけつかんさいぼう 骨髄中には すべての血液細胞の基になる 造血幹細胞 があります 造血幹細胞は 骨髄の中で分化し 一人前の ( 機能をもった ) 血液細胞に成熟したあと 血液中に送り出されます 骨髄 ( 血液細胞の 造 場 ) 造血幹細胞 リン 細胞 骨髄 細胞 球 芽球 血管 ( 血 ) 細胞 細胞 球 球 球 球 血球血 血球 体内に 入してきた異物の 去に働きます 出血に際し 血液を め 止血に働きます 肺で を受け取り 全身に びます 通常 血液中のこれらの血液細胞の数は一定範囲になるよう身体のいろいろな仕組みで調整されています 2

骨髄異形成症候群 (M エムディーエス DS) とは 造血幹細胞に何らかの異常が生じて 正常な血液細胞が造られなくなる病気です 造血幹細胞 造血幹細胞に異常が生じると 1 2 3 成熟した血液細胞の数が減少する [ 成熟の途中でこわれてしまう ( 無効造血 )] 血液細胞の正常な働きが障害される? 血液細胞の形が異常になる ( 異形成 ) 正常 異常 血液細胞の数が減少する 正常な働きをする血液細胞が造られなくなる 3

MDS になると どうなるの? 血液細胞が減少し 正常に働かなくなることで様々な症状が現れます 血液細胞の数が減少する 正常な働きをする血液細胞が造られなくなる 赤血球の減少 機能異常 白血球の減少 機能異常 血小板の減少 機能異常 貧血感染に伴う発熱出血傾向 めまい だるさ 動悸 息切れなどの症状がでる 感染が起こりやすくなり発熱を伴う 血が止まりにくくなったり出血しやすくなる 症状が現れる前に 健康診断などで MDS が発見されるケースもあります また 症状の現れ方は患者さんによって異なります 4

MDS が進行すると 急性白血病 へ移行するおそれがあります ( 前白血病状態 ) 白血病へ移行する度合いは患者さんによって異なります MDS になった血液細胞は 病気が進行すると白血病細胞に変化します さらなる変化 MDS になった血液細胞 白血病細胞 芽がきゅう球と呼ばれる 未熟で異常な白血球 芽球は骨髄の中で無秩序に増殖します 白血病化 骨髄や血液中の芽球が一定以上に増えると 急性白血病 と診断します (p10 11 参照 ) 血液中にあふれ出ることもあります MDS の原因は? ほとんどの場合で 原因は不明です 過去に抗がん剤の治療や放射線治療を受けている場合 その後数年経って MDS が発症することもあります MDS は人に感染したり遺伝することはありません 5

MDS の検査法 MDS の主な検査法 検査法 診察 分かること 問診や触診 聴診などで全身症状を確認し 病気の進行度合いを検討します これまでにかかった病気と受けた治療 ( 特にがんの治療 ) を確認します ぞうけつかんさいぼう 家族構成を確認し 造血幹細胞移植の提供者 ( ドナー ) の有無を把握することも ときには必要です 血液検査 血液検査を行って 血液細胞 ( 赤血球 白血球 がきゅう血小板 ) 数や芽球がないか 形態に異常がないかを調べます こつずい 血液検査でMDSが疑われる場合は 骨髄の検査へと進みます 肝臓 腎臓などの機能の確認も併せて行います 骨髄検査 ちょうこつきょうこつ 骨 ( 腸骨または胸骨 ) に針をさして骨の中の骨髄血や骨髄組織を採取し 造血の状態や芽球の有無などを詳しく調べる検査です せんしょくたいけんさ また 採取した骨髄血を用いて 染色体検査 を行い さらに詳細に調べることもあります 骨髄検査は MDS の診断だけでなく 病気の経過や治療効果をチェックするためにも行われます 6

血液検査で調べること 血液細胞の数や形態などを調べて MDS の可能性を疑います MDS が疑われる検査値 赤血球 < ヘモグロビン濃度 > 10g/dL 未満 好中球 1,800/ μ L 未満 血小板 10 万 / μ L 未満 芽球 ( 未熟で異常な白血球 ) 芽球がみつかった場合 顕微鏡で血液細胞を観察して形態に異常がないかを調べ MDS の可能性を疑います 7

こつずい 骨髄検査で調べること がきゅう 骨髄中の造血の状態や異形成 芽球の頻度を評価します 骨髄の採取のしかた ちょうこつ 腸 骨 と呼ばれる腰の骨に針を刺して骨髄血や組織を採取します きょうこつ また 胸の 胸骨 から採取することもあります 胸骨 腸骨 ベッドの上で消毒をして局所麻酔し 骨髄血 組織を採取します ( 約 20 分程度 ) 採取時は局所麻酔をしますが 麻酔注射自体と 骨髄血を吸引するときには痛みが生じます 外来で実施することが可能です 採取した骨髄血 組織を顕微鏡で観察するとともに せんしょくたいけんさ 染色体検査 で詳細に調べます 8

参考染色体検査とは? 採取した骨髄の細胞に含まれる 染色体 に異常がないかどうかを調べる検査です 正常な場合の染色体 MDS の患者さんの約半数に 染色体が 1 本多かったり 少なかったりなどの異常がみつかります 治療の効きやすさや病気の進行する速さが染色体検査によって分かる場合もあり 治療法を選ぶ際にも大変重要な検査です 9

さまざまな種類の MDS がきゅう MDSは芽球の割合や特徴に応じて分類されます MDS の分類 (WHO 分類第 4 版 2008 年 ) 名称 血液中の芽球の割合 骨髄中の芽球の割合 特徴 単一血球系統の異形成を伴う不応性血球減少症 (RCUD) 不応性貧血(RA) 不応性好中球減少症(RN) 不応性血小板減少症(RT) < 1% < 5% 1 系統で 10% 以上の異形成あり ( ときに 2 系統の血球減少を認める ) 環状鉄芽球を伴う不応性貧血 (RARS) 多血球系異形成を伴う不応性血球減少症 (RCMD) 芽球増加を伴う不応性貧血 -1 (RAEB-1) 芽球増加を伴う不応性貧血 -2 (RAEB-2) ( ) < 5% < 1% < 5% < 5% 5 9% 5 19% 10 19% 環状鉄芽球 が増えている 複数の系統で 10% 以上の異形成あり 芽球 が増えている 分類不能 MDS(MDS-U) 1% < 5% 異形成はないが染色体異常があるものなど 単独 5q- を有する MDS (5q- 症候群 ) < 1% < 5% 5 番染色体の長腕部に欠失 ( 異常 ) がみられる 血液や骨髄中の芽球が 20% を超えると 急性白血病と診断されます 芽球の割合が高いほど 急性白血病へ移行する危険性が高いといわれています MDS が進行すると 分類が変わることもあります 芽球 MDS 白血病 10

参考 MDS の FAB 分類 MDS の分類のしかたには FAB 分類 という方法もあります FAB 分類は 1982 年に発表され その後の医学の進歩を受けて 2001 年に WHO 分類第 3 版が公表されるまで 広く用いられてきた分類法です MDS の FAB 分類 名称 血液中の芽球の割合 骨髄中の芽球の割合 特徴 不応性貧血 (RA) 鉄芽球性不応性貧血 (RARS) < 1% < 5% 環状鉄芽球 が増えている 芽球増加を伴う不応性貧血 (RAEB) 慢性骨髄単球性白血病 (CMML) < 5% 5 19% < 20% 血液中の単球が 1,000/μL 以上 移行期の芽球増加を伴う不応性貧血 (RAEB-t) 5 29% 20 29% WHO 分類と FAB 分類の大きな違いは 芽球が 20% 以上のときに急性白血病と診断すること および CMML を別の病型分類にうつしたことです 現在は 主に WHO 分類が用いられています 11

治療方針を決めるための分類のしかた 予後因子 と呼ばれる検査所見を評価 分類して 予後 ( 治療経過の見とおし ) を予測します これまでの研究により 治療効果を左右するような検査所見が知られています これを 予後因子 と呼び 予後因子を組み合わせて評価することで 予後 と呼ばれる治療経過の見とおしを立てることができます 予後の立てかた (IPSS 分類 ) 1 3 つの予後因子に点数をつける 予後因子 骨髄中の芽球の割合 点数 0 0.5 1 1.5 2 < 5% 5 10% ー 11 20% 21 30% 染色体の異常の有無とその種類 正常または比較的たちのよい異常 その他の異常 たちの悪い異常 血液細胞の減少 0 1 種類 2 3 種類 点数を合計 2 合計点数をもとに予後を 4 段階に分類する 合計点数 0 0.5 1.0 1.5 2.0 > 2.5 予後 ( 治療経過の見とおし ) 良い 悪い Low Int-1 Int-2 High 12

予後因子 や 予後 をもとにリスク分類し 身体状態などを含め総合的に治療方針を決めます リスク分類を決めるながれ 予後 ( 治療経過の見とおし ) Low Int-1 Int-2 High 低リスク群 高リスク群 リスク分類と年齢 身体状態に応じて治療方針を決めます (14 ページ以降をご参照ください ) 13

治療法を決めるときには MDS の治療法は 未だ確立したものではありません しかし 最近 分子病態の解明による新しい薬剤が登場したことで 新たな治療法の展開が急速に進んでいます 検討される治療法の長所と短所を知り 主治医との相談の上で患者さんご自身が治療法を決めることが大切です また ここで紹介する治療法以外にも 未だ承認されていないくすりを使う場合や 新しい治療法を研究するための 臨床試験 への参加をお願いする場合があります 他の治療法との違いを含め 説明を十分に受けた上で それらの治療を受けるかどうか決めてください 14

それぞれの治療法の紹介 年齢 リスク群などを総合的に考えて 治療法が決められます ぞうけつかんさいぼう造血幹細胞移植 ( 16 ページ ) 唯一 MDS の治癒が期待できる治療法で す 全てのリスクの MDS が対象となりますが 移植を行うためには 年齢や身体状態 ドナーの有無などの条件があります また 移植には一定の危険が伴うことも知っておく必要があります 薬物療法 ( 18 20 ページ ) くすりを用いて芽球を減らしたり 病態を改善させる治療法です 化学療法剤 や DNA メチル化阻害薬 は がきゅう 芽球の多い高リスクの MDS に対して 免疫 調節薬 のレナリドミドは 5q 欠失のある低リスクの MDS に対して検討されます 年齢や身体状態などを十分に考慮して行います 支持療法 ( 21 ページ ) 不足した血液細胞を輸血などで補う治療です 造血幹細胞移植や薬物療法が行えない場合などは 支持療法のみで経過観察することもあります 感染や出血への対処も含まれます 15

それぞれの治療法 ぞうけつかんさいぼう治癒が期待できる 造血幹細胞移植 正常な造血幹細胞を移植して造血を回復させる治療法です 強力な治療を行って造血幹細胞など血液細胞をほぼ完全に破壊したあと 正常な造血幹細胞を移植して造血を回復させる治療法です 造血幹細胞移植は身体に大きな負担がかかる治療法です 移植を受けるかどうかは 十分に治療法を理解した上で決定してください ( 移植の詳細は本シリーズ5 造血幹細胞移植 参照 ) 造血幹細胞移植の基本条件 おおむね 55 歳以下であること 心臓や肝臓など主要な内臓の働きが保たれていること HLA が一致する同胞ドナーがいること 状況に応じて HLA が1つだけ異なる血縁ドナーや非血縁ドナーからの移植を検討することもあります 基本条件をもとに 患者さんの状態に応じて移植が検討されます 移植前の治療を弱めた ミニ移植 という方法もあります ミニ移植は高齢者や臓器障害をもつ患者さんでも行える可能性があります 16

造血幹細胞移植のながれ 17

それぞれの治療法 病態や病状に応じて選択される 薬物療法 高リスク MDS に検討される治療法 ( 薬剤 ) です 芽球の数を減らす化学療法 抗がん剤を用いて芽球を壊し 芽球の数を減らすことを目指します 芽球 化学療法 芽球を壊す 芽球の多い MDS MDS より移行した急性白血病 芽球の少ない MDS 治療法 患者さんの年齢や身体状態などを考慮してくすりの種類や数 投与量を決めていきます 少量抗がん療法 多剤併用療法など 化学療法の主な副作用 消化器症状 ( 悪心 嘔吐 食欲不振 口内炎 下痢 腹痛など ) 脱毛 けん怠感 血液細胞の減少による貧血 発熱 出血 など これらの症状が現れたときや 何か変だ と感じたときは 医師や看護師にご相談下さい ここに示した症状以外の副作用が現れることもあります 18

異常細胞の増殖を抑制する新しい薬剤 DNA メチル化阻害薬 ( アザシチジン ) MDS の発症に関係している DNA( 遺伝子 ) のメチル化を阻害することで異常細胞の増殖を抑制します 造血幹細胞移植が行えない高リスクの MDS 高リスク MDS の予後の改善 アザシチジン 低リスクの MDS の一部 異常細胞の増殖を抑制 投与法 : アザシチジンは皮下または静脈内に注射します 投与スケジュール ( 例 ) 1 サイクル 7 日間投与 1 日 1 回 (75 mg /m 2 ) 28 日間 休薬 (21 日間 ) 1 サイクル 繰り返す 7 日間投与 1 日 1 回 (75 mg /m 2 ) 28 日間 休薬 (21 日間 ) 患者さんの状態によって 投与量を減らしたり休薬期間を延長することがあります 詳しくは主治医にご確認ください 19

染色体異常 (5 番染色体長腕欠失 ) のある低リスク MDS に検討される新しい治療薬です 5 番染色体の長腕部に欠失 (5q-) がある低リスク MDS に用いられる免疫調節薬 ( レナリドミド ) 免疫調節薬には がん細胞を攻撃する細胞のはたらきを助けるなどの作用があります レナリドミドには 5 番染色体の長腕に局在する遺伝子に関係する何らかの作用があると考えられています 5 番染色体の長腕部に欠失がある低リスク MDS 貧血が改善する 5q- の染色体異常をもつ細胞が減る レナリドミド レナリドミドの服用方法 1 日 1 回 主治医から指示された数のカプセルを服用します 投与スケジュール ( 例 ) 1 サイクルレナリドミドを服用する (21 日間 ) 休薬 (7 日間 ) 28 日間 繰り返す 安全に服用いただくために 決められた管理手順に従って治療を続ける必要があります 詳しくは主治医にご確認ください 20

それぞれの治療法 不足した血液細胞を補う 支持療法 輸血療法 不足した血液細胞を輸血で補う治療法です 輸血療法は他人の 血液 を輸血するので一種の臓器移植とも考えられ 身体に大きな負担をかける可能性のあります このため 輸血は厳重な管理とチェック体制のもとで行われます 輸血療法のおおまかな手順 ( 例 : 赤血球の輸血の場合 ) 1 血液型の確認 2 交差適合試験 3 輸血 輸血する血液と患者さんの血液を実際に混合し 異常が起こらないことを確認します ( 交差適合試験といいます ) * 輸血用の血液は 献血された血液を 日本赤十字社 で可能な限りの検査をした上で供給されていますが 感染など重篤な副作用はゼロではありません 輸血する基準 赤血球 血小板 症状が安定しているが出血傾向のある場合 血小板数が 5,000/ μ L 以下 ヘモグロビン濃度 7g/dL 以下 患者さんの状況によって異なります 化学療法中や 感染症などの合併症により出血傾向が強い場合 血小板数が 20,000/μL 以下 主な副作用 極めてまれだが重篤なもの 起こりやすいもの ショック 肺障害 発熱 じんましん GVHD 輸血した血液が身体を攻撃してしまう副作用 ウィルス感染 ( 肝炎ウィルスや HIV ウィルス ) の危険性もゼロではありません 21

てつかじょうしょう 鉄過剰症 : 赤血球の輸血で生じる副作用 赤血球をつくる原料である 鉄分 は 通常 体内の量がほぼ一定に保たれています しかし頻回に赤血球を輸血すると 輸血によって体内に入った鉄分を体外へ出しきれず 次第に溜まってしまい 過剰な鉄分がさまざまな臓器に障害を与えます ( 鉄過剰症 といいます ) 鉄過剰症は肝臓や心臓などの働きを弱め ときには直接生命に影響を与えるおそれがあります このため もとの血液疾患に対する治療とともに 継続して 過剰な鉄分を体外に出す必要があり このような働きをする鉄キレート剤 ( デフェラシロクス ) を毎日服用する事がすすめられます 鉄 鉄 鉄 鉄 鉄 鉄 サイトカイン療法 サイトカインとは もともと身体のなかで血液細胞の産生を促している物質です これらをくすりとして投与し 血液細胞を補う治療を サイトカイン療法 といいます サイトカイン 血液細胞になれ!! サイトカイン療法は効果的な支持療法ですが 長期的な安全性が確立していないなどの課題もあります 22

これから治療を受けるにあたって 外来で治療を受けるときの注意点 症状がなくてもくすりは必ず服用してください かならず定期的に診察を受けてください とくに血液検査が重要です 体調管理に注意してください もし体調がおかしいときは すぐに医師に相談してください 研究がすすむ MDS の治療 MDS では 新しいくすりや治療法の研究が進められています このような新しい治療法によって MDS の治療戦略や分類 治療成績の変わる可能性があります 23

ONC023CI(N001)1RM 2012 年 1 月作成