大規模震災発生に備えたサプライチェーンの構築を目指して 別紙 -3 浅見尚史 2 齋藤輝彦 1 舟川幸治 1 1 渡邉理之 1 港湾空港部港湾物流企画室 ( 950-8801 新潟市中央区美咲町 1-1-1). 2 国土交通省港湾局技術企画課 ( 100-8918 千代田区霞が関 2-1-3) 東日本大震災では, 港湾施設などの被災により物流が停止し国内企業は代替港の利用等によりサプライチェーンの維持を図った. 切迫性が指摘される東海 東南海 南海地震や首都直下地震等が発生した場合, 我が国の国際海上コンテナ貨物の約 8 割を扱う 3 大湾に甚大な被害が発生し, 企業のサプライチェーンは大混乱に陥り, 発災後の復旧 復興にも重大な支障が生じることが予測される. 本論文では, 東日本大震災発生時における物流を実態の踏まえ, 大規模震災により太平洋側港湾が被災した場合の代替輸送需要を定量的に把握した上で, 代替港利用によるサプライチェーンの維持をするために必要な課題を整理し その対応策を提案する. キーワード大規模震災, サプライチェーン, 国際海上コンテナ, 代替輸送 1. はじめに 東日本大震災では港湾施設などの被災により物流が停止したため, 被災した東日本の太平洋側港湾の代替港として日本海側港湾を活用することによりサプライチェーンの継続を図った. 切迫性が指摘される東海 東南海 南海地震や首都直下地震等 ( 以下, 大規模震災 という ) が発生し, 我が国の国際海上コンテナ貨物の 8 割を取り扱う 3 大湾に甚大な被害が生じた場合, 我が国のサプライチェーンにどの様な影響を及ぼすかを定量的に把握した上で, 適切な対策を講じる事が大規模震災発生時においてもサプライチェーンを維持し, 我が国の国際競争力を確保するために必要なことである. 本論文では 東日本大震災でのサプライチェーンを維持するために講じた対策やその際に生じた課題などをアンケート等により把握し, 大規模震災発生時に必要なソフト対策やハード整備の必要性を整理した. 併せて, 国際海上コンテナ貨物の流動解析を大規模震災 7 ケースを想定し, 被災地域の被害状況と企業活動の状況を過去の震災の事例をもとに復旧曲線を活用した生産活動の状況を定量的に把握するとともに, 震災発生後に代替輸送を必要とする貨物がピークを迎える時期を特定し その際の代替港への配分を行った. 最後にそれら分析の結果を整理し 大規模震災発生に備えたハード及びソフト対策の提案をする. 2. 東日本大震災時における物流における課題 (1) 日本海側港湾が果たした役割東日本大震災における日本海側港湾の役割及び課題を把握するため, 荷主 船社 港湾運送事業者約 120 社を対象にアンケートを実施した. その結果, 代替港を利用する理由として, 最も近隣の港湾であった事が最大のポイントであった. しかし, 代替港を利用する事により輸送コストの増大や長距離化による車両や人員の不足等の課題も顕在化した. また 船社が代替港を利用する場合, 荷役作業, 貨物保管, 荷主への引渡など実務上の支障が無い点を最も重視した事が判明した. しかし, 今回代替港として利用された日本海側港湾は, 機能的に不十分な面もあったが, 当該港湾の関係者の尽力により何とか対応出来たとの事であった. 港湾運送事業者では, 貨物の増加により港湾施設や保管施設, 輸送車両, 作業人員の不足が明らかになった. 今回の震災では, 日本海側港湾の代替機能が発揮されたものの港湾施設, 保管施設等の能力不足等の課題が明らかになった. しかし, 太平洋側の港湾運送事業者との連携により代替機能を果たす事が可能となった事も判明した. (2) 北陸地域港湾に求められる役割大規模震災発生時に北陸地域港湾に求められる役割を把握するため, 荷主, 船社, 運送事業者約 150 社を対象にアンケートを実施した. その結果, 船社は平常時に利
用していない日本海側港湾への寄港については否定的な意見が大半であった. 荷主等のアンケートでは東日本大震災の教訓を踏まえ, ハード面で港湾施設の増強, 道路や鉄道などのアクセス向上, 走行路における車両高さ制限の改善などの意見があげられた. また ソフト面では, 航路サービスの改善 ( 便数, 航路数 ), 貨物情報システムの充実, 税関の営業地域外からの申告が可能となる FREE ENTRY 制度 の導入や内陸部における燃料供給体制の確立などの意見があった. 3. 大規模震災発生時の影響把握 大規模震災が発生した場合の被災地の国際海上コンテナ貨物 ( 以下, コンテナ貨物 という ) の生産 消費量, 及び太平洋側港湾で扱えるコンテナ貨物取扱量を設定し, 代替港湾に依存することが考えられるコンテナ貨物量を, 平成 20 年外貿コンテナ貨物取扱量及び全国輸出入コンテナ貨物流動調査 1) ( 以下, コンテナ流動調査 という ) を用いて概算した. なお 対象地震は 図 -1 のとおり 1 東海地震,2 東南海地震,3 南海地震,4 東海 + 東南海 + 南海地震 ( 以下, 3 連動地震 という ),5 首都直下地震,63 連動地震 ( 港湾局シミュレーション )( 以下, 3 連動地震 (CASE2) という ),7 元禄地震の 7 ケースを対象とした. (1) 港湾における被害状況の算出大規模震災発生後に平常時利用していた港湾が被災することにより, 取扱不能となるコンテナ貨物量を算出するため以下の a)~e) の条件を設定した. a) 地震動の設定 対象地震 1~5( 以下, 対象 5 地震 という ) 及び 63 連動地震 (CASE2) の地震動の設定は, 中央防災会議 (H15~H17に開催) の検討結果 2)3)4) から市町村別震度を整理した. また,7 元禄地震は, 新編日本被害地震総覧 5) を参考に設定した. b) 津波高の設定対象 5 地震は, 前項と同様に設定し,63 連動地震 (CASE2) 及び7 元禄地震は, 国土交通省交通政策審議会港湾分科会防災部会で示された数値を使用した. c) 生産 消費貨物量の算出コンテナ流動調査の市町村別生産 消費量に, 東日本大震災の事例に基づく震度別の被災状況を考慮した表 -1 に示す生産 消費量の低減率を乗じて算出した. d) 港湾における生産 消費貨物量の設定前項の各市町村の大規模震災発生後の生産 消費量から利用港湾別にコンテナ貨物量 ( トン / 月 ) を算出し, 発災時と平常時のコンテナ貨物量の比を設定した. 更に, 全国のコンテナ貨物量の平成 20 年実績 (17,158 千 TEU/ 年 ) から1ヶ月あたりの貨物量を算出し, コンテナ流動調査から整理した利用港湾別シェアを乗じて平常時の港湾別コンテナ貨物取扱個数 (TEU/ 月 ) を設定し, 大規模震災発生時の低減比を乗じて, 各港湾に取扱要請されるコンテナ貨物量 (TEU/ 月 ) を設定した. d) 港湾施設の被災レベルの設定港湾施設使用可否の判定にあたっては, 過去の履歴等より震度 6 弱以上で港湾機能の停止に陥ると判断し, 耐震強化岸壁以外の施設を使用不可と設定した. また, 津波が発生する場合には, 耐震強化岸壁の有無に拘わらず岸壁天端高を超える津波が想定される港湾は, 当該港湾全体の機能が停止すると設定した. e) 港湾のコンテナ貨物取扱能力港湾規模, 岸壁水深, 荷役機械能力は, スーパー中枢 6) 港湾選定委員会資料及び東日本大震災における新潟港の実績を参考に, 表 -2のように設定した. なお, ガントリークレーンが1 基の場合, 取扱能力を50% に設定した. 4 連動地震 63 連動地震 (CASE2) 1 東海地震 3 東南海地震 3 南海地震 5 首都直下地震 生産 消費量の低減率 備考 震度 7( 震度 6.5 以上 ) 100% 全壊 半壊 ラインと設定し, 震災 震度 6 強 ( 震度 6.0~6.4) 50% 後 6 ヶ月で回復率 50% と設定 震度 6 弱 ( 震度 5.5~5.9) 40% 設備損壊 ラインと設定, 震災後 震度 5 強 ( 震度 5.0~5.4) 30% 6 ヶ月で回復率 100% と設定 震度 5 弱 ( 震度 4.5~4.9) 20% 一部損壊 ラインと設定し, 震災 1 ヶ月で回復率 100% と設定 震度 4 以下 ( 震度 4.4 以下 ) 0 表 -1 生産 消費量の低減率 回復率の設定 ( 発災後 6ヶ月 ) 単位 :TEU/ バース 7 元禄地震 図 -1 想定地震一覧 京浜, 阪神, 名古屋, 北部九州港湾 水深 15m 以上 水深 15m 未満 その他の港湾 年間取扱量 500,000 300,000 100,000 1 ヶ月取扱量 42,000 25,000 9,000 表 -2 コンテナバースのコンテナ貨物取扱能力設定
(2) 代替輸送貨物量の推計 a) 生産 消費活動及びコンテナターミナル復旧曲線大規模震災発生直後には, 様々な要因から長期にわたって生産 消費活動の停滞やインフラの使用不能な状態が続くことが予測される. 東日本大震災や阪神大震災では, 生産 消費活動の再開と平常時利用していた港湾等のインフラの復旧時間にずれが生じ, 代替輸送貨物量のピークが発災直後では無いことを踏まえ, 生産 消費活動の再開に要する復旧時間と港湾施設等の復旧時間を考慮し, 代替輸送貨物量の算出を行った 表 -1 及び図 -2 に示す生産 消費活動の復旧曲線を東日本大震災における宮城県での事例を基に作成した. また, 港湾施設の復旧曲線は, 東日本大震災では, 震度レベルがそれほど大きくなかった地域でも津波被害により長期間にわたり使用が困難となった事を踏まえ, 被災原因を地震動と津波による場合で区分した. なお, 地 震被害は, 図 -3 に示す阪神大震災の神戸港の事例を用い 津波被害は, 図 -4 に示す東日本大震災の仙台塩釜港の事例をもとに作成した. b) 地震別要請貨物量のピーク前項で, 設定した復旧曲線を基に, 生産 消費の復旧曲線と港湾施設の復旧曲線を重ね合わせ, その差が最大となるケース毎の代替輸送量は, 表 -3 の様になり,2 東南海地震,43 連動地震,5 首都直下地震及び 63 連動地震 (CASE2) では発災から 1 ヶ月後に,1 東海地震で 3 ヶ月後,3 南海地震で 5 ヶ月後, 最も復旧に時間を要する 7 元禄地震では 6 ヶ月後にピークを迎えることが判明した. (3) 代替輸送需要の推計結果前節の結果,2 東南海地震,43 連動地震,5 首都直下地震,63 連動地震 (CASE2),7 元禄地震では,10 万 TEU/ 月を超える代替輸送が発生し, 被災港湾が所在するブロック ( 図 -5) 内で代替需要を補完することが不可能であり他ブロックの港湾へ代替輸送を必要とすると結果となった. 施設被害が想定される港湾 代替輸送貨物量 東海地震 清水, 御前崎, 三河, 四日市 約 2 万 TEU/ 月 東南海地震 清水, 御前崎, 名古屋, 四日市 約 11 万 TEU / 月 南海地震 清水, 四日市, 堺泉北, 和歌山下津, 福山, 大竹, 徳島小松島, 高松, 三島川之江, 高知, 細島 約 2 万 TEU/ 月 図 -2 東日本大震災における生産 消費活動の復旧曲線 3 連動地震首都直下地震 清水, 御前崎, 名古屋, 四日市, 堺泉北, 和歌山下津, 水島, 福山, 大竹, 下関, 徳島小松島, 高松, 三島川之江, 高知, 細島千葉, 東京, 横浜, 川崎, 清水, 四日市 約 14 万 TEU / 月約 16 万 TEU / 月 3 連動地震 (CASE2) 清水, 御前崎, 名古屋, 三河, 四日市, 大阪, 堺泉北, 和歌山下津, 水島, 福山, 大竹, 下関, 徳島小松島, 高松, 三島川之江, 高知, 細島 約 29 万 TEU / 月 元禄地震 千葉, 東京, 横浜, 川崎, 清水, 四日市 約 46 万 TEU / 月 表 -3 大規模震災発生後の代替輸送貨物の最大需要量 図 -3 阪神大震災におけるコンテナターミナルの復旧曲線 北陸ブロック 東北ブロック 中国ブロック 関東ブロック 中部ブロック 九州ブロック 近畿ブロック四国ブロック 図 -4 東日本大震災におけるコンテナターミナルの復旧曲線 図 -5 地方ブロック割り図
(4) 大規模震災によるサプライチェーンへの影響評価前項での結果を基に, 大規模震災による影響は, 今回検討に使用したデータの場合, 東海 南海地震では代替輸送需要が発生するものの, 同一ブロック内での対応が可能であることから, 輸送距離や人員確保の問題が小さく, サプライチェーンにおける混乱は限定的であると判断される. しかし, 他の大規模震災では, 同一ブロック内での対応が困難であることから, 通常時は利用していない地域への輸送が必要となるため, どの地域の生産 消費貨物がどこの港湾を利用することとなるかを定量的に把握するめ図 -6 の方法で検討を行った. 以下, 他ブロックへと代替輸送が必要となる地震ケースについて, 各港湾への分配結果を述べる. a) 東南海地震中部ブロックで超過したコンテナ貨物は 大阪, 堺泉北, 敦賀, 伏木富山等を中心に配分される結果となった. 特に, 敦賀港などでは約 5,000TEU/ 月の代替輸送貨物の要請が発生しており, 通常時の 2 倍程度の取扱を強いられる状況となることが予測される. b) 3 連動地震中部ブロックで超過したコンテナ貨物は 横浜, 大阪, 三河, 川崎, 敦賀, 伏木富山港を中心に配分される結果となった. 特に, 敦賀港などでは約 5,000TEU/ 月以上の代替輸送貨物の要請が発生しており, 通常時の 2 倍程度の取扱を強いられる状況となることが予測される. c) 首都直下地震関東ブロックで超過したコンテナ貨物は, 名古屋, 東北, 新潟, 三河, 御前崎, 伏木富山, 茨城, 直江津港等を中心に広範囲な代替港利用が必要となることが予測される. d) 3 連動地震 (CASE2) 中部ブロックで超過したコンテナ貨物は, 神戸, 横浜, 川崎, 敦賀, 舞鶴, 伏木富山港等を中心に代替港利用が必要となることが予測される. e) 元禄地震関東ブロックで超過したコンテナ貨物は, 大阪, 名古屋, 神戸, 堺泉北, 新潟, 御前崎, 敦賀, 伏木富山, 舞鶴, 茨城, 金沢, 東北ブロック港湾, 直江津港等を中心に, 最も広範囲な代替港利用が必要となる結果となった. なお 平常時に京浜港を利用しているコンテナ貨物は, 図 -7 のように東京, 神奈川を中心に関東圏であり, 殆どが神奈川以東の荷主である. 4. 航路別のコンテナ船型の分析 この章では, これまでの検討では, コンテナ貨物の代替輸送量の流動予測を行ったきたが, これらのコンテナ貨物の配分がなされるためには, それに対応した航路の設定が不可欠であり, 方面別の船型を分析し, 大規模震災発生時の課題を検証した. (1) 方面別のコンテナ船の船型分析 a) 北米 欧州航路北米 欧州方面の輸出入コンテナ貨物は, 荷主アンケートでは, 災害時に近隣港湾を利用する条件として, 代替港に北米 欧州航路の開設がなされること と言う意見が多く見られること, また船会社へのアンケートでは, 被災していない港湾で対応する との意見から既存航路が就航している, 太平洋側港湾を大規模震災発生時においても利用すると考えられる. 一方, 北米 欧州航路のコンテナ船が寄港する条件として, 図 -8 のように水深 -14m 以上の岸壁が必要であることから, 大規模震災発生時に代替港として機能できる港湾は, 東京, 横浜, 名古屋, 大阪, 神戸港 ( 以下,5 大港という ) での対応 中部 7% 東北 7% 茨城 10% 栃木 6% その他群馬 5% 京浜港 ( 東京港 横浜港 川崎港 ) 輸出入コンテナ背後圏 ( 重量ベース ) 千葉 12% 埼玉 12% 神奈川 21% 東京 17% 図 -7 京浜港のコンテナ貨物の仕出向地の割合 代替輸送貨物の生産 消費地別に算出 欧州航路 3 66% 北米 欧州輸出入貨物 その他地域輸出入貨物 北米航路 12% 64% 2 東南アジア航路 35% 41% 17% 東京, 横浜, 名古屋, 大阪, 神戸港へ 陸上輸送距離が最短の港湾へ 東アジア航路 29% 68% 取扱能力の余力有 取扱能力の余力無 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 陸上輸送距離が最短の港湾へ 図 -6 代替港への代替輸送貨物配分検討フロー ~7.9m 8~9.9m 10~11.9m 12~13.9m 14~15.9m 16m~ 満載必要岸壁水深が把握できたコンテナ船のみ整理 出典 : 国際輸送ハンドブック2011 Sea-web 及びWorld Shipping Encyclopaediaより作成 図 -8 我が国に寄港するコンテナ船の満載必要岸壁水深
が不可欠であると予測される. b) 東南アジア 東アジア航路図 -12 のように我が国のコンテナ貨物取扱量の約 7 割を占めるアジア方面へのコンテナ貨物にについては, 全国の港湾で航路を有していること等から代替輸送を 5 大港以外でも行うことが十分に考えられる. 現在, 我が国に寄港しているコンテナ船の満載必要岸壁水深の割合は, 図 -11 に示す分布となっている. このことから, 大規模震災発生時には,5 大港以外の港湾でも代替輸送貨物の取扱が行われるものと考えられる. しかし, 北米 欧州航路の船舶の大型化によりかつて北米 欧州航路に就航していた船舶が東南アジア航路に就航する事例が見られ, 船舶の大型化が進みつつあると考えられる. そのため, 東南アジア航路については,-14m 程度の満載喫水を有している船舶の受入についても考慮することも重要である. (2) 大規模震災発生時における船型における課題前節での船型分析結果を基に, 大規模震災発生時の代替港における, 港湾施設の課題を抽出した. a) 北米 欧州航路北米 欧州航路の場合, 既存航路の活用が必要となるため, 東日本大震災でも東日本の港湾に寄港せず, 名古屋, 神戸等の影響を受けていない港湾に変更する状況となるが, 既存の港湾施設で, 大型船舶の受入が可能なため, コンテナ貨物量の増大による影響は限定的と判断される. b) 東南アジア 東アジア航路アジア向け航路では, 図 -9 のように我が国の約 7 割のコンテナ貨物量を占めるものであり, 東日本大震災において秋田, 酒田, 新潟港などが, 代替機能を果たしたように, 大規模震災発生時にも東アジア地域とのコンテナ貨物は, 東アジア航路が就航している地方の港湾でも相当量の代替利用が可能であると予測される. しかし, 東南アジア航路は就航している地方の港湾が少なく, 太平洋側港湾が被災した場合, 近年増加しつつある大型船舶 欧州 11% その他アジア 5% 北米 14% 南米 東南アジア 22% 東アジア 42% 韓国 4% 中国 37% 東アジア中国韓国東南アジアその他アジア欧州北米南米アフリカオセアニア 図 -9 我が国のコンテナ貨物の国別割合 に対応したコンテナ専用の -14m 以上の水深を有する岸壁が無いため, 釜山や上海港等の外国の港湾でのトランシップによる輸送に頼ることとなる. 5. 大規模震災発生後のサプライチェーンの維持における課題 これまで, 東日本大震災を踏まえたアンケート調査結果, 代替輸送貨物の需要量と各港湾への貨物配分, 及び我が国に就航する船型の検討により大規模震災発生時のサプラチェーンの変化予測を行なってきた. 最も代替輸送貨物が発生する, 首都直下型地震等では, 通常時に利用していない港湾の利用が必要となり, 作業員の数も含めた荷役体制, コンテナヤードの取扱能力, 背後の保管倉庫等, 緊急的な対応が困難な課題を有している港湾では, 大きな混乱が生じると予測される. また, 警察庁が発表した首都直下型地震が発生した際の交通規制 ( 案 ) よると, 東京を中心に, 主要な高速道路が静岡, 山梨, 群馬, 栃木, 茨城までの広範囲に及ぶ規制を実施することとなる. このような場合, 茨城, 栃木, 群馬, 埼玉等からの発着貨物は, 日本海側を経由して名古屋や大阪等の遠方までの輸送を強いられることとなり, 輸送の長距離化, それに伴う車両や人員の不足, 高速道路の交通規制による都市内交通が復旧の比較的早い幹線道路への一極集中など多様な問題が発生し, サプライチェーンへ大きな影響を及ぼすものと予測される. また, 企業ヒアリングなどによると 震災という非常事態においても, 生産され在庫状態にある商品は出荷するため, あらゆる手段を講じる必要がある とのことから, 大規模震災が発生しても, その企業の国際競争力を失わないため, あらゆる手段でサプライチェーンの継続を目指すことが明らかである. それをどのように実行していくかが大きな課題である. 本論文では, 太平洋側で発生が懸念される大規模震災を事例に, 各種検討を行なってきた. しかし, 日本全国どこでも大きな災害に見舞われる可能性を指摘されている昨今, 平常時のサプライチェーンと非常時のサプラーチェーンを構築する手段を常に持ち合わせていかなければ, グローバル化する生産活動の中で日本企業の存在価値が失われる懸念があり, そのような事態に備えた対応策として以下のとおり提案する. (1) 物流ポータルサイトの構築東日本大震災では, 様々な情報がインターネットを通じて公表されたが, 情報源が多様であるため, どの情報源が正確か判断できず, 直接電話連絡を取るなどの混乱が発生した. 平常時に使用していない港湾へのアクセスルートの情報や代替港の税関, 航路, 代理店等の情報を一元的にまとめ公式ポータルサイトが構築されれば, 情
報の混乱が回避できることが予測される. (2) バックアップ港湾の指定本論文では, 大規模震災が発生することにより, 広範囲にわたりサプイラーチェーンの混乱が発生することが判明したが, 平常時から災害発生を想定したバックアップ港湾を指定し, 地域間で平常時から訓練を行うなど防災体制を構築する必要がある. また, 国際競争の激しさを増す製造業においては, 釜山トランシップ等の他国に頼らないサプライチェーンを構築していくことが重要であり, 我が国のコンテナ貨物量の 7 割を占める東南アジアや東アジア方面との貨物需要に対応した港湾施設をバックアップ港湾において整備することが望まれる. (3) サプライチェーンの見直し大規模震災が発生し, 平常時に利用していない港湾が代替港となる場合は, 平常時と比較し多量の貨物を取扱うことになり, 取扱能力の不足から既存ユーザー優先に取扱をすることが予測される. この場合, 代替港を初めて利用する貨物は滞留することが予測され, このような事態を回避するため, 平常時からある一定量の貨物を代替港で利用をしていくことも重要であり, そのような観点を含めたサプライチェーンの見直しが必要である. (4) 地域間連携災害発生時には, 被災地での作業人員や車両の不足はもとより代替港周辺においても同様の事態の発生が想定される. 大規模震災発生後は 一時的な生産 消費活動が低迷するものの, 生産活動の再開やインフラの復旧により代替港の役割が重要となり, 代替港における港湾機能の能力不足や作業員不足等の問題が顕在化することが予測される. このような事態に備え, 被災地の港湾労働者や荷役機械等を非常時に提供するシステムを構築するなど, 平常時から地域間連携を取るための協議会等を設置していくことが必要である. 6. おわりに 本論文では, これまでの既存資料及び東日本大震災での実体験から各種検討を実施しいくつかのモデルケースにおけるサプライチェーンの維持に必要な課題を整理した. しかし, 実際は港湾背後の道路の規制, 製造拠点そのものの機能停止等, 今回想定していなかった被害やが発生することも予測される. 今後示される新たな大規模震災に対する知見などを踏まえ, 非常時に備えた在庫量や物流ルート等の見直しを含めた新しいサプライチェーンを構築し, 大規模震災発生時にも我が国産業の国際競争力の維持していけるよう取り組むことが重要であると考える. 謝辞 : 最後に, 本論文を執筆するにあたりアンケートやヒアリングにご協力いただいた関係者の方々に協力をいただきました. ここに感謝致します. 参考文献 1) 国土交通省 : 平成 20 年度全国輸出入コンテナ貨物流動調査 2) 中央防災会議 : 東海地震に係わる被害想定結果 (H15.3.18) 3) 中央防災会議 : 東南海, 南海地震等に関する専門調査会 (H15.9.17) 4) 中央防災会議 : 首都直下地震対策専門調査会 (H17.2) 5) 東京大学出版社 : 新編日本被害地震総覧 1996, 宇佐美龍夫 6) 国土交通省 : スーパー中枢港湾選定委員会資料 (H14.12.6 ) 7) 国土交通省北陸地方整備局 : 東海 東南海 南海地震発生時に北陸管内港湾が担うべき役割と課題について