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日本皮膚科学会雑誌第117巻第14号

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く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

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情報提供の例

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

ある ARS は アミノ酸を trna の 3 末端に結合させる酵素で 20 種類すべてのアミノ酸に対応する ARS が細胞質内に存在しています 抗 Jo-1 抗体は ARS に対する自己抗体の中で最初に発見された抗体で ヒスチジル trna 合成酵素が対応抗原です その後 抗スレオニル trna

2019 年 4 月 1 日放送 第 42 回日本小児皮膚科学会 1 教育講演 2 自己炎症性疾患アップデート 和歌山県立医科大学皮膚科准教授金澤伸雄はじめに自己炎症性疾患は 狭義には 炎症シグナルや自然免疫系の遺伝子異常による希少疾患を指します 臨床的に感染症 アレルギー 自己免疫疾患に似ますが

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導


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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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ごあいさつ バイオシミラーの課題 バイオ医薬品は 20 世紀後半に開発されて以来 癌や血液疾患 自己免疫疾患等多くの難治性疾患に卓抜した治療効果を示し また一般にベネフィット リスク評価が高いと言われています しかしその一方で しばしば高額となる薬剤費用が 患者の経済的負担や社会保障費の増大に繋がる

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蚊を介した感染経路以外にも 性交渉によって男性から女性 男性から男性に感染したと思われる症例も報告されていますが 症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり 性交渉による感染例は全体のうちの一部であると考えられています しかし 回復から 2 ヵ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告

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ごく少量のアレルゲンによるアレルギー性気道炎症の発症機序を解明

治験だより(2010年春号)No.13

Transcription:

汎発性膿疱性乾癬の病因の解明 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 皮膚病態学杉浦一充 ( すぎうらかずみつ ) 准教授 秋山真志 ( あきやままさし ) 教授らの研究チームは 国内 11 施設との共同研究で汎発性膿疱性乾癬の 8 割以上の患者の病因がインターロイキン 36 受容体阻害因子の欠損であることを解明しました 汎発性膿疱性乾癬は厚労省の難治性疾患克服研究事業における臨床調査研究対象疾患 (130 疾患 ) のうちの 1 つです 本研究で得られた結果から 今まで病因不明であった汎発性膿疱性乾癬の病因的診断を正確に行うことができるようになりました さらに 世界的に汎発性膿疱性乾癬の大半の患者に対して インターロイキン 36 受容体を分子標的とした新しい原因療法の開発が期待されます 本研究の成果は 米国研究皮膚科学会 (SID) と欧州皮膚科学会 (ESDR) の共同公式誌 Journal of Investigative Dermatology (5 月 22 日付け ( アメリカ東部時間 ) の電子版 ) に掲載されました

汎発性膿疱性乾癬の病因の解明 ポイント 汎発性膿疱性乾癬は厚労省の難治性疾患克服研究事業における臨床調査研究対象疾患 (130 疾患 ) のうちの 1 つ いままでは汎発性膿疱性乾癬の病因はその特殊希少型と考えられている家族性汎発性膿疱性乾癬以外は不明であった 本研究によって 本邦の汎発性膿疱性乾癬の 8 割以上の症例の病因はインターロイキン 36 受容体阻害因子の欠損であることを証明した また 尋常性乾癬の膿疱化症例ではインターロイキン 36 受容体阻害因子の欠損はほとんどなく 病因的に汎発性膿疱性乾癬とは異なる疾患であることを証明した 名古屋大学医学部附属病院では 汎発性膿疱性乾癬の病因的診断 (IL36RN 遺伝子の変異解析 ) を実施している 汎発性膿疱性乾癬の大半の患者に対して インターロイキン 36 受容体を分子標的とした新しい原因療法の開発が期待される 要旨名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 皮膚病態学杉浦一充 ( すぎうらかずみつ ) 准教授 秋山真志 ( あきやままさし ) 教授らの研究チームは 国内 11 施設との共同研究で汎発性膿疱性乾癬の 8 割以上の患者の病因がインターロイキン 36 受容体阻害因子の欠損であることを解明しました 汎発性膿疱性乾癬は厚労省の難治性疾患克服研究事業における臨床調査研究対象疾患 (130 疾患 ) のうちの 1 つです 急激な発熱とともに全身の皮膚が潮紅し 無菌性膿疱が多発する 時に致死的な 慢性炎症性皮膚疾患です 世界中に患者はみられ 日本では 1,500 人弱の患者が登録されています ( 特定疾患個人調査票による ) 汎発性膿疱性乾癬のなかでも希な 家族内に患者が多くみられる家族性汎発性膿疱性乾癬 ( 常染色体劣性型式の遺伝性疾患 ) については チュニジア フランスの合同研究チームにより その病因がインターロイキン 36 受容体阻害因子の欠損であることが 2011 年 8 月に報告されました 研究チームは 2012 年 6 月 本邦にもインターロイキン 36 受容体阻害因子欠損症 ( 家族性汎発性膿疱性乾癬 ) が存在することをはじめて報告しました さらに研究を進め 本邦の汎発性膿疱性乾癬と類縁疾患 ( 総数 33 例 ) を名大病院を含めた 12 施設から集め 解析した結果 汎発性膿疱性乾癬の患者の 8 割以上はインターロイキン 36 受容体阻害因子欠損症であることを明らかにしました さらに これまで汎発性膿疱性乾癬と同一疾患と見なされていた尋常性乾癬という疾患の膿疱化ではインターロイキン 36 受容体阻害因子の欠損はほとんどみられないことを証明しました 本研究で得られた結果から 今まで病因不明であった汎発性膿疱性乾癬の病因的診断を正確に行うことができるようになりました さらに 世界的に汎発性膿疱性乾癬の大半の患者に対して イ

ンターロイキン 36 受容体を分子標的とした新しい原因療法の開発が期待されます 本研究の成果は 米国研究皮膚科学会 (SID) と欧州皮膚科学会 (ESDR) の共同公式誌 Journal of Investigative Dermatology (5 月 22 日付け ( アメリカ東部時間 ) の電子版 ) に掲載されました 1. 背景乾癬は慢性の炎症性皮膚疾患です 汎発性膿疱性乾癬は乾癬の一亜系に分類されます 汎発性膿疱性乾癬は厚労省の難治性疾患克服研究事業における臨床調査研究対象疾患 (130 疾患 ) のうちの 1 つです 小児期と 30 歳代に発症することが多い疾患です 国内登録患者数は 1,500 人弱です ( 特定疾患個人調査票による ) 急性汎発性膿疱性乾癬(von Zumbusch 型 ) や疱疹性膿痂疹 小児汎発性膿疱性乾癬などが含まれます これまでは 非常に稀と考えられている家族性汎発性膿疱性乾癬 ( 常染色体劣性遺伝型式の遺伝性疾患 ) 以外は病因が不明でした 汎発性膿疱性乾癬の症状は 急激な発熱とともに全身の皮膚が潮紅し 無菌性膿疱が多発します ( 図 1) 生涯 再発を繰り返します 経過中に全身性炎症に伴う臨床検査異常を示し しばしば粘膜症状 関節炎を合併するほか まれに呼吸器不全 眼症状 二次性アミロイドーシスを合併し 時に死に至ることもあります 病理組織学的に Kogoj 海綿状膿疱を特徴とする角層下膿疱を形成します 乾癬の一亜系である尋常性乾癬が先行ないし併発する例としない例がありますが この文書では便宜的に 尋常性乾癬が先行しない かつ 伴わない汎発性膿疱性乾癬を汎発性膿疱性乾癬と呼び 尋常性乾癬が先行ないし伴った汎発性膿疱性乾癬のことを尋常性乾癬の膿疱化と呼ぶことにします 家族性汎発性膿疱性乾癬の病因はインターロイキン 36 受容体阻害因子の欠損であることがチュニジア フランスの合同研究チームにより 2011 年 8 月に明らかにされました 研究チームは 昨年 本邦においてもインターロイキン 36 受容体阻害因子欠損症が存在することをはじめて証明し 報告しました 2. 研究成果国内 12 施設での共同研究にて 11 例の汎発性膿疱性乾癬 ( 尋常性乾癬が先行しない かつ 伴わない汎発性膿疱性乾癬 ) 20 例の尋常性乾癬の膿疱化 ( 尋常性乾癬が先行ないし伴った汎発性膿疱性乾癬 ) 2 例の急性汎発性発疹性膿疱症の IL36RN 遺伝子 ( インターロイキン 36 受容体阻害因子をコードする遺伝子 ) の変異を解析しました その結果 汎発性膿疱性乾癬 11 例中 9 例にインターロイキン 36 受容体阻害因子の欠損がありました これに対して 尋常性乾癬の膿疱化では 20 例中 2 例にのみ インターロイキン 36 受容体阻害因子の欠損がありました 急性汎発性発疹性膿疱症 2 例中ではインターロイキン 36 受容体阻害因子の欠損はありませんでした 以上の結果より 汎発性膿疱性乾癬の大半はインターロイキン 36 受容体阻害因子欠損症であることが明らかになりました ( 図 2) インターロイキン 36 受容体阻害因子の欠損となる IL36RN 遺伝子の変異パターンは 2 種類ありました ハプロタイプ解析を行ったところ この 2 つのパターンは創始者変異 (founder mutation) であることが示唆されました インターロイキン 36 受容体阻害因子の欠損については 免疫組織化学という手法で インターロイキン 36 受容体阻害因子欠損症の患者では 本当に皮膚にインターロイキン 36 受容体阻害因子が欠損していることを確認しました ( 図 3)

3. 今後の展開本研究にて汎発性膿疱性乾癬の大半がインターロイキン 36 受容体阻害因子欠損症であることが判明しました この知見は 世界共通の医学的事象であることが予測されるため 今後汎発性膿疱性乾癬の治療法として インターロイキン 36 受容体を分子標的とした治療法の開発が展開されていくことが期待されます 新薬の開発はこれからの課題です 名古屋大学医学部附属病院では 汎発性膿疱性乾癬の病因的診断 (IL36RN 遺伝子の変異解析 ) を実施しています この疾患が疑われる患者を受け持ちの先生は 患者さんをご紹介いただけると幸いです 診断から ( 通院可能な方は ) 治療まで診療させていただきます 論文名 The majority of generalized pustular psoriasis without psoriasis vulgaris is caused by deficiency of interleukin-36 receptor antagonist 米国研究皮膚科学会 (SID) 欧州皮膚科学会(ESDR) の共同公式誌 Journal of Investigative Dermatology( ジャーナル オブ インベスティゲーティブ ダーマトロジー 5 月 22 日付け ( アメリカ東部時間 ) の電子版に掲載 ) 補足説明 インターロイキン 36 炎症性サイトカイン インターロイキン 1 ファミリーの一つ インターロイキン 36α,β,γの 3 つのサブタイプがあります インターロイキン 36 受容体に結合し 炎症を惹起します インターロイキン 36 受容体阻害因子炎症抑制性のサイトカイン一つ インターロイキン 36 受容体に結合し インターロイキン 36 のインターロイキン 36 受容体への結合を阻害し 炎症を抑制します 主に表皮角化細胞から分泌されます ハプロタイプハプロタイプは 生物がもっている単一の染色体上の遺伝的な構成 ( 具体的には DNA 配列 ) のことです ヒトなどの二倍体生物の場合 ハプロタイプは各遺伝子座位にある対立遺伝子のいずれか一方の組合せのことです 創始者変異個体群の中の特定個体に生じた突然変異が 遺伝的浮動で広がっていった場合 その元になった変異を指します 日本人のインターロイキン 36 受容体阻害因子欠損症では 昔 二人の日本人に生じた突然変異 ( 創始者変異 ) のそれぞれが 時代を経て日本人全体に広がっていき インターロイキン 36 受容体阻害因子欠損症の原因となっていると考えられます 免疫組織化学抗原抗体反応の特異性を利用して, 特定のタンパク質の組織内分布などを 特異抗体を用いて検出する方法のことです 本研究ではインターロイキン 36 受容体阻害因子を検出しています