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212 整形外科と災害外科 66:(2)212~218, 2017. 竹下修平 嶋﨑貴文 松浦恵里子 髙山 剛 非定型大腿骨骨折 (typicl femorl frcture:aff) は骨吸収抑制剤, 大腿骨の弯曲などの因子を背景に生じ, 治療に難渋することがある. 当院では日本整形外科学会骨粗鬆症委員会報告の AFF 治療マニュアル 5) に準拠し, 逆行性を含む髄内釘を第 1 選択とし, 可及的に固定範囲を長くすることを基本治療方針としている. しかし, 大腿骨の弯曲が強い不全骨折では, 上市されている内固定材料では対応困難な症例が存在する. 我々はこれらの対応困難症例に限り, 大腿骨骨切り併用骨接合術を選択肢の一つとしている. これら症例の治療経過を供覧し骨切り併用に至った経緯, 有用性, 問題点につき考察し,AFF に対する当院の治療方針を呈示する. Key words: typicl femorl frcture( 非定型大腿骨骨折 ), isphosphonte( ビスホスホネート製剤 ), lterl owing of femur( 大腿骨外弯変形 ), corrective osteotomy( 矯正骨切り術 ) はじめに高齢者の大腿骨骨折は骨脆弱性を背景として生じる近位部骨折や顆上部骨折の頻度が高いが, 大腿骨転子下および骨幹部に起こり, 特徴的な画像所見や臨床所見を示す骨折として非定型大腿骨骨折 (typicl femorl frcture: 以下 AFF) が報告されている. 日本整形外科学会報告の AFF の登録調査では 2014 年の AFF 登録患者数は 406 例で,2010 年以来ほぼ横ばいで推移している. また同年の大腿骨近位部骨折に対する割合は 0.39% と調査開始以降その割合に大きな変化は認めていない 4).AFF に対する治療方針はより固定力の強い材料を選択し, 可能な限り固定範囲を長くすることが基本であるが,AFF の中には治療に難渋する症例が存在する. 当院で経験したこれらの症例を供覧し, 当院の AFF に対する治療方針を呈示する. 対象対象は 2015 年 4 月から 2016 年 3 月までに当院で経験した AFF 2 例 2 肢である.2 例ともに女性で骨折時年齢は 89 歳,78 歳であった. 症例症例 1 89 歳女性, 左大腿部痛を主訴に当院紹介受診となっ た. 発症までに約 10 か月間の骨粗鬆症治療歴があり, イバンドロネート月 1 回静脈注射, 活性型ビタミン D3 製剤を内服していた. 既往歴に右大腿骨骨幹部骨折, 左大腿骨頚部骨折があり, それぞれに対して骨接合術が行われていた. 骨密度は YAM 値 (Young Adult Men, 以下 YAM)60 % と低下し,totl P1NP 17.0 ng/ml,tracp-5 287 mu/dl と骨代謝は抑制されていた. 単純 X 線撮影にて左大腿骨骨幹部外側皮質で髄内方向に向かう炎様の骨皮質肥厚を呈し, 最遠位には不全骨折線を認め左 AFF と診断した ( 図 1). また左大腿骨は著明な外弯変形を呈し, 外弯 1) 率は 104% であった. 左大腿骨近位部は Dul SC Screw System(KiSCO 社, 日本 ) を用いた骨接合術がなされており, 逆行性に髄内釘を挿入し可能な限り固定範囲を長くすることを術前計画とした. 髄内釘 (T2 Recon Nil, stryker 社, 米国 ) は骨折部をまたぎ, 最近位部が病変部を越える位置まで挿入したが, 大腿骨の外弯が強くこれ以上長い髄内釘の挿入は困難であった ( 図 2). 術後は連日投与型テリパラチド製剤を使用し, 骨折部には低出力超音波パルス (Low Intensity Pulsed Ultrsound, 以下 LIPUS) を併用した. 術後は歩行時に認めていた左大腿部痛は軽減し, 術後 3 週で部分荷重を開始した. 術後 9 週 T 杖歩行が可能な状態となり自宅退院となった. 術後 4 か月の外来受診時に左大腿部痛を認め, 歩行が困難であった. 多久市立病院整形外科 10

213 図 1 術前単純 X 線撮影. 左大腿骨骨幹部外側皮質で髄内方向に向かう炎様の骨皮質肥厚を呈し, 最遠位には不全骨折線 ( 矢印 ) を認めた.. 骨折部 ( 矢印 ) の拡大図. 図 2 術後単純 X 線撮影髄内釘は骨折部 ( 矢印 ) をまたぎ, 最近位部が病変部を越える位置まで挿入した. 図 3 受傷後の単純 X 線撮影髄内釘近位部での横骨折を認めた.AFF 部を矢印で示す. 11

214 図 4 再手術後単純 X 線撮影髄内釘が入っている大腿骨遠位部を中心に, ロッキングスクリューとワイヤリングを併用した.AFF 部を矢印で示す.(. 正面像,. 側面像 ) 単純 X 線撮影, 単純 CT 撮影では左大腿骨に明らかな異常を認めなかったが, 免荷安静, 原因精査目的に入院とした. 入院 4 日目のトイレ移乗時に左下肢が座面から滑落し, 轢音とともに左大腿部の変形と痛みが出現した. 受傷後の単純 X 線撮影にて左大腿骨髄内釘近位部での横骨折を認めた ( 図 3). 適合性が最も良かった右大腿骨遠位用プレートである NCB-DF (Zimmer 社, 米国 ) を上下翻転して使用することを計画した. 髄内釘が挿入されている遠位部を中心に, ロッキングスクリューとワイヤリングを併用した ( 図 4). 術後も連日投与型テリパラチド製剤,LIPUS を継続した. 再手術後 3 か月半でシルバーカー歩行にてリハビリ療養型施設へ退院となった. 再手術後 6 か月時点でシルバーカー歩行は可能であるが, プレート近位部と大腿外側にかけて疼痛を認めた. 左大腿骨単純 X 線撮影にて骨折部内側の仮骨形成は旺盛だが, 最遠位ワイヤーの折損, 遠位スクリューの ckout を認めた ( 図 5). 今後も厳重な経過観察を行う必要がある. 図 5 再手術後 6 か月の単純 X 線撮影骨折部内側の仮骨形成は旺盛であるが, 最遠位ワイヤーの折損と遠位スクリューの ckout を認めた.AFF 部を矢印で示す. 12

215 図 6 術前単純 X 線撮影. 右大腿骨骨幹部外側皮質で髄内方向に向かう限局性の炎様の骨皮質肥厚が多発し, 外側骨皮質に横方向の不全骨折線 ( 矢印 ) を認めた.. 右大腿骨骨折部 ( 矢印 ) の拡大図. 症例 2 78 歳女性, 右大腿部痛, 両膝痛を主訴に紹介受診となった.3 年前より骨粗鬆症と診断され, イバンドロネート月 1 回静脈注射が開始されていた.2 年前に右橈骨遠位端骨折に対して骨接合術が施行されており, 高血圧, 狭心症, 高コレステロール血症, パーキンソン症候群に対して内服加療中であった. 骨密度は YAM 値 85% であり,totl P1NP 17.5 ng/ml, TRACP-5 245 mu/dl と骨代謝は抑制されていた. 単純 X 線撮影にて右大腿骨骨幹部外側皮質で髄内方向に向かう限局性の炎様の骨皮質肥厚が多発し, 外側骨皮質に横方向の不全骨折線を認め, 右 AFF と診断 1) した ( 図 6). 右大腿骨の外弯率は 84% であった ( 図 7). 術前のテンプレーティングした際のイメージ像では右大腿骨の弯曲が強く, 近位部を適合させると遠位部は髄外へと逸脱してしまい, 十分な長さの髄内釘挿入は困難であった ( 図 8). 症例 1 のような不十分な長さの固定による再骨折のリスクを考慮し, 右大腿骨骨幹部の病変部にて矯正骨切りを行い順行性に髄内釘を挿入し, 顆上部までの長い範囲の固定を得ることを 13 図 7 単純 X 線全下肢撮影.. 右大腿骨の外弯率 1) は 84% であった.

216 計画した. 骨折部を中心に楔状に骨切りを行い, 大腿骨の弯曲を矯正し髄内釘 (Gmm 3 Long Nil, stryker 社, 米国 ) を順行性に挿入した ( 図 9). 術後は連日投与型テリパラチド製剤,LIPUS の併用を行 図 8 術前のテンプレーティングした際のイメージ像髄内釘の近位部を適合させると, 遠位部は髄外へと逸脱し挿入困難であった. 図 9 術後単純 X 線撮影骨折部 ( 矢印 ) を中心に楔状に骨切りを行い, 髄内釘を順行性に挿入した. (. 正面像,. 側面像 ) 14

217 図 10 術後 6 か月の単純 X 線撮影骨折部 ( 矢印 ) の仮骨形成は良好であった.(. 正面像,. 側面像 ) い, 術後 10 週 T 杖歩行で自宅退院となった. 術後 6 か月の外来受診時には骨折部の仮骨形成は良好で, 術前認めていた右大腿部痛は軽快し T 杖歩行が可能であった ( 図 10). 考察 AFF はビスホスホネート製剤の長期使用による骨 6) 代謝抑制との関連を指摘する報告がある. ビスホスホネート製剤をはじめとする骨吸収抑制剤の長期投与により, 長期にわたって著しく骨代謝回転が抑制された状態 (severely suppressed one turnover: 以下 SSBT) となり, 古い骨単位が増加し骨材質低下を招くことが病態の一つと考えられている.AFF の病態として SSBT の関与が大きい症例ではより固定力の強い材料を選択し, 可能な限り固定範囲を長くすべきであると考える. またこのような SSBT の関与が大きい不全骨折例では, ビスホスホネート製剤などの骨吸収抑制剤を中止し, 免荷や荷重制限に加え LIPUS を併用するなどの保存療法についても報告がある 3). 一方で, ビスホスホネート製剤非使用例または短期使用例など SSBT を背景としない AFF 症例も存在し, 大腿骨の外弯変形が AFF のリスクになるという報告がみられる 7). 大腿骨の弯曲が強い症例においては, 大腿骨内側骨皮質に大きな圧迫力が, 外側骨皮質に大きな牽引力が加わり続ける 2). この内外で相反する異常な応力が骨折のリスクと推測される. 本症例では 2 症例ともにビスホスホネート製剤による骨粗鬆症治療歴は比較的短期間 ( 約 10 か月, 約 3 年間 ) であり, 大腿骨の外弯率はそれぞれ 104%, 84% と高度であったことから AFF の病態として大腿骨の弯曲の関与も大きいと考えられた. AFF の病態に関して骨吸収抑制剤長期使用による SSBT と大腿骨の弯曲変形のどちらが主因かを判断し, 治療戦略を考える必要がある. 後者では内固定材料に適合しないことが多く, 大腿骨の矯正骨切りを行い通常の髄内釘で対応することを一つの選択肢としている. 大腿骨の弯曲を矯正することで大腿骨に働く異常な応力の分散が期待でき, さらに髄内釘単独での一塊とした強固な固定が可能となる. 一方で, 骨切り部偽関節のリスクやいわば医原性骨折に対するテリパラチド製剤の使用の是非などの問題点も挙げられ, 今後の症例の蓄積と注意深い経過観察が望まれる. 15

218 結語当院における AFF に対する治療方針を呈示した. 大腿骨骨切り併用骨接合術は, 内固定材料に適合しない高度外弯変形を伴う AFF に対する治療の選択肢の一つと考えられた. 参考文献 1) 藤巻芳寧ら : 大腿骨外弯変形における X 線学的検討. 関節外科,21:1144-1151, 2002. 2) 岸本勇二ら : 大腿骨骨幹部骨折の治療に難渋した骨 Pget 病の 1 例. 整外と災外,59:606-609, 2010. 3) Lee, Y. K., et l.: Predicting need for fixtion of typicl femorl frcture. J. Clin. Endocrinol. Met., 98:2742-2745, 2013. 4) 日本整形外科学会骨粗鬆症委員会 : 非定型大腿骨骨折 2014 年登録例調査結果. 日整会誌,90:417-419, 2016. 5) 日本整形外科学会骨粗鬆症委員会 : 非定型大腿骨骨折診療マニュアル. 日整会誌,89:959-973, 2015. 6) Odvin, C. V., et l.: Severely suppressed one turnover: potentil compliction of lendronte therpy. J. Clin. Endocrinol. Met., 90:1294-1301, 2005. 7) Sski, S., et l.: Low-energy diphysel femorl frctures ssocited with isphosphonte use nd severe curved femur: cse series. J. Bone Miner. Met., 30:561-567, 2012. 16