小児神経芽腫の一例 医学科 6 年 W.M 指導医 I.S
症例 症例 1 歳女児 主訴 画鋲の誤飲 現病歴 夕方にソファーの画鋲を誤飲し, 救急外来受診した. その際の胸部単純 X 線写真にて左上肺野に腫瘤を認めた. 精査加療目的で入院となった.
症例 家族歴 特記すべきことなし. 既往歴 特記すべきことなし. アレルギー 卵, 乳製品, 小麦にアレルギーあり. 身体所見 身長 :77.4cm, 体重 :8.995kg 全身像 : 色調問題なし, リンパ節腫脹なし, 左足背に湿疹を認める, 浮腫なし. 胸部 : 心雑音なし, ラ音聴取せず,air 入り良好. その他異常所見なし.
症例 入院時血液検査 WBC 6200 /μl RBC 4.64 104 /μl Hb 8.9 g/dl Ht 30.3% MCV 65.3 MCH 19.2 MCHC 29.4 PLT 394 /μl IgE 104 IU/ml AST 38 IU/l ALT 8 IU/l LDH 281 IU/l ChE 260 U/l T-Bil 0.9 mg/dl TP 6.4 g/dl Alb 4.3 g/dl UN 11 mg/dl Cr 0.21 mg/dl UA 6.2 Na 137 meq/l K 4.2 meq/l Cl 105 meq/l Ca 9.8 CRP 0.04> mg/dl フェリチン 2> ng/ml AFP 27 ng/ml NSE 48.4 ng/ml 尿中 VMA 52.8 μg/ml/cr (5.8~18.1) 尿中 HVA 125.2 μg/ml/cr (10.5~26.4) 基準値は 0-2 歳のもの
胸部単純 X 線写真 ( 救急外来受診時 )
胸部単純 CT( 入院時 )
胸部造影 CT: 動脈相 ( 入院時 )
胸部造影 CT: 遅延相 ( 入院時 )
胸部造影 CT( 入院時 )
胸部 MRI( 入院時 ) T1WI in-phase T1WI opp-phase T1WI FS T2WI
CT 画像所見のまとめ 左後上縦隔を中心として左肺尖部側への膨隆性発育を示す軟部濃度腫瘤を認める. 内部に粗大石灰化を伴い, 淡い不均一な造影増強効果を認める. 隣接する臓器, 血管に明らかな浸潤なし. MRI T2WI で不均一な信号を呈し, 内部に淡く不均一な造影増強効果を認める. 内部に明らかな脂肪成分は確認できない. また脊柱管内への進展を認めない. 遠隔転移 リンパ節転移なし. 年齢, 理学所見に加え画像所見上も神経芽腫が最も疑わしい.
123 I-MIBG シンチグラフィ ( 入院時 )
入院後経過 入院後, 尿中 VMA および HVA の高値認め, また胸部 MRI CT およびシンチグラフィの所見より, 神経芽腫を疑い切除目的で手術施行となった.
病理組織診断 不整結節状の, 白色充実性病変で, 散在性に壊死領域および石灰化を伴っている. 全体が線維性被膜に囲まれた病変. 不規則に線維性結合織で区画された内部に, 腫瘍の増生が認められる. 腫瘍内容として, 集簇性あるいは孤立性に, 神経芽細胞と種々の分化傾向を示す大小の神経節細胞が半数ずつ認められ, 周囲に神経線維が介在している.
病理組織所見 好酸性の細胞質成分の多い神経芽細胞間質組織に富み, 出血 壊死巣や石灰化を含む MKI(Mitosis-karyorrhexis index)=0.9% Neuroblastoma, differentiating subtype
123 I-MIBG シンチグラフィ ( 術後 )
神経芽腫
神経芽腫 神経芽腫は胎生期の神経堤 (neural crest) を起源とする神経芽腫群腫瘍の一つである. 小児領域では中枢神経系以外の固形腫瘍のなかで最多であり,2 歳以下の乳幼児に多い. 約 65% が腹部から,10~15% が後縦隔から発生し, 縦隔発生の神経芽腫は予後の良い例が多い. 神経芽腫患者の約 70% は診断時に転移がみられるが, 予後は診断時年齢, 臨床病期, 生物学的因子と強く関連する. すぐわかる小児の画像診断 p199.
神経芽腫の診断手順 症状 ( 発熱, 腫瘤など ),X 線写真の異常 尿中 VMA/HVA によるスクリーニング 尿中 VMA,HVA 血清 NSE,LDH, フェリチン X 線写真,CT, 超音波,MRI 画像 MIBG シンチグラフィ 骨髄穿刺骨髄生検 生検または摘出 異常なし 異常集積 骨シンチグラフィ X 線所見原純一ら, 小児がん診療ガイドライン 2011 年版, 金原出版,2011.
神経芽腫の画像所見 神経芽腫は CT,MRI で後縦隔傍脊椎部の軟部腫瘤として描出され しばしば脊柱管内に dumbbell 型に進展する. 高頻度に石灰化が認められ, 単純 X 線写真でも 25% で石灰化が確認できるが,MRI での検出は困難である. T1 強調像では低信号,T2 強調像では高信号を呈する.CT では不均一に造影される. 骨, 肝, リンパ節, 骨髄などに転移をきたすことがある. すぐわかる小児の画像診断 p199.
縦隔発生腫瘍の鑑別 縦隔は次のように 4 つの区分に分けられる. 1 上縦隔 : 左腕頭静脈が気管正中線と交差する高さまで 2 前縦隔 : 気管前縁 ~ 心後縁を結ぶ線 3 中縦隔 : 前, 後縦隔の間の縦隔 4 後縦隔 : 胸椎前縁から 1cm 背側を結ぶ線 縦隔発生腫瘍と好発部位 上縦隔 甲状腺腫, 副甲状腺腫, リンパ管腫, 神経原生腫瘍前縦隔 胸腺腫, 奇形腫, 甲状腺腫, 悪性リンパ腫中縦隔 甲状腺腫, 悪性リンパ腫, 食道腫瘍後縦隔 神経原性腫瘍, 悪性リンパ腫 百島祐貴著, 画像診断コンパクトナビ,2012.
神経芽腫の予後 神経芽腫の予後因子は診断時年齢, 病期, 病理分類, 腫瘍細胞内の染色体数 (DNA index), 腫瘍組織中の MYCN 癌遺伝子の増幅である. 病期の決定には INSS( 国際病期分類 ) が用いられ,INSS 分類は術後の病期分類で, 原発腫瘍の広がりや骨 骨髄などの転移巣の有無によって決定される. 原純一ら, 小児がん診療ガイドライン 2011 年版, 金原出版,2011.
病期定義 神経芽腫の臨床病期 (INSS) 1 限局的腫瘍で, 肉眼的に完全切除. 組織学的な腫瘍残存は不問. 同側のリンパ節に組織的な転移を認めない ( 原発腫瘍に接し, 一緒に切除されたリンパ節転移はあってもよい ). 2A 2B 限局的腫瘍で, 肉眼的に不完全切除. 原発腫瘍に接しない同側リンパ節に組織学的に転移を認めない. 限局的腫瘍で, 肉眼的に完全または不完全切除. 原発腫瘍に接しない同側リンパ節に組織学的に転移を認める. 対側のリンパ節に転移を認めない. 3 切除不能の片側性腫瘍で, 正中線 ( 対側椎体縁 ) を越えて浸潤. 同側の局所リンパ節の転移は不問. または, 片側発生の限局性腫瘍で対側リンパ節転移を認める. または, 正中発生の腫瘍で椎体縁を越えた両側浸潤 ( 切除不能 ) か, 両側リンパ節転移を認める. 4 いかなる原発腫瘤であるかにかかわらず, 遠隔リンパ節, 骨, 骨髄, 肝, 皮膚, および / または他の臓器に播種している.( 病期 4S は除く.) 4S 限局性腫瘍 ( 病期 1,2A,2B) で, 播種は皮膚, 肝, および / または骨髄に限られる (1 歳未満の患者のみ ). 骨髄中の腫瘍細胞は有核細胞の 10% 未満で, それ以上は病期 4 である.MIBG シンチグラフィが行われるならば骨髄への集積は陰性. Brodeur GM, et al.revisions of the international criteria for neuroblastoma diagnosis, staging, and response to treatment. J Clin Oncol 1993 ;11 ( 8 ): 1466 1477.
神経芽腫のリスク分類と治療 低リスク群 : 以下の 3 つの条件のうち, いずれかに属する 1.MYCN 遺伝子増幅がない病期 1,2A,2B 2.MYCN 遺伝子増幅がない病期 3 の乳幼児例 3. 病理分類で予後良好群に属し,DNA index が 1 以上の病期 4S 中間リスク群 : 以下の 4 つの条件のうち, いずれかに属する 1.MYCN 遺伝子増幅がない 1 歳 ~1 歳半の病期 3 の乳幼児 2.MYCN 遺伝子増幅がない 1 歳未満の病期 4 の乳児 3.MYCN 遺伝子増幅がなく, 国際病理分類で予後良好群に属し,DNA index が 1 以上の 1 歳 ~1 歳半の病期 4 の乳幼児 4.MYCN 遺伝子増幅がなく, かつ国際病理分類で予後良
神経芽腫のリスク分類と治療 高リスク群 : 以下の 4 つの条件のうち, いずれかに属する 1.MYCN 遺伝子増幅がある病期 2A,2B,3,4,4S 2.MYCN 遺伝子増幅がない 1 歳半以上の病期 3 の乳幼児で, 国際病理分類で予後不良群に属するもの 3.MYCN 遺伝子増幅がない,1 歳半以上の病期 4 4.MYCN 遺伝子増幅がない 1 歳 ~1 歳半の病期 4 で, 国際病理分類で予後不良群もしくは DNA index が 1 を示すもの 診断から 3 年後の生存率は, 低リスク群 :90% 以上, 中間リスク群 :60~80%, 高リスク群 : 約 30% と推定されている. Pizzo PA, Poplack DG: Principles and Practice of Pediatric Oncology, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia (2006) pp 933-970.
まとめ 年齢, 理学所見, 画像所見より左後縦隔由来の神経芽腫と診断された. 本症例は術後 INSS で病期 1 であった. 病理組織診上, 分化型の神経芽腫の診断で,Mitosis-karyorrhexis index(mki) も 0.9% と軽度で, 予後因子と合わせて低リスク群と判断した. 福留伸幸著, 小児腫瘍神経芽腫の細胞学的特徴, 千葉科学大学紀要,1,175-178,2008.
結語 今回, 神経芽腫の一例を経験した. 年齢 理学所見とともに, 術前の画像所見が診断に有用であった.