小児神経芽腫の一例

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9章 その他のまれな腫瘍

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

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佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

九州支部卒後研修会症例

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日本呼吸器学会雑誌第47巻第6号

第71巻5・6号(12月号)/投稿規定・目次・表2・奥付・背

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パネルディスカッション 2 Q 専門領域について選択してください 1. 消化器内科 2. 消化器外科 3. 放射線科 1% 4% 3% 21% 4. その他の医師 5. その他 ( 医師以外 ) 71%

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1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( はい / ) 上記外来の名称 対象となるストーマの種類 7 ストーマ外来の説明が掲載されているページのと は 手入力せずにホームページからコピーしてください 他施設でがんの診療を受けている または 診療を受けていた患者さんを

(1) ) ) (2) (3) (4) (5) (1) (2) b (3)..

2010 年 6 月 25 表 身体所見 134 cm 31 kg /60 mmhg 83/ ,

がん登録実務について

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70% の患者は 20 歳未満で 30 歳以上の患者はまれです 症状は 病巣部位の間欠的な痛みや腫れが特徴です 間欠的な痛みの場合や 骨盤などに発症し かなり大きくならないと触れにくい場合は 診断が遅れることがあります 時に発熱を伴うこともあります 胸部に発症するとがん性胸水を伴う胸膜浸潤を合併する

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9 2 安 藤 勤 他 家族歴 特記事項はない の強い神経内分泌腫瘍と診断した 腫瘍細胞は切除断端 現病歴 2 0 1X 年7月2 8日に他院で右上眼瞼部の腫瘤を に露出しており 腫瘍が残存していると考えられた 図 指摘され精査目的で当院へ紹介された 約1cm の硬い 1 腫瘍で皮膚の色調は正常であ

125 2 P 1st washout 2 PB P mg/dL nd washout 2 P 5.5mg/dL< mg/dL <2.5mg/dL P P 2 D D 3 Ca 10

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スライド 1

72 20 Ope / class Alb g/ cm 47.9kg : /min 112/60m

研究協力施設における検討例 病理解剖症例 80 代男性 東京逓信病院症例 1 検討の概要ルギローシスとして矛盾しない ( 図 1) 臨床診断 慢性壊死性肺アスペルギルス症 臨床経過概要 30 年前より糖尿病で当院通院 12 年前に狭心症で CABG 施行 2 年前にも肺炎で入院したが 1 年前に慢性

Sample2 g/dl Target1 : 6.01 g/dl TP Target2 : 8.39 g/dl

32 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 進行期分類の相違点 結果 考察 1 子宮頚癌ではリンパ節転移の有無を病期判定に用いない 子宮頚癌では0 期とⅠa 期では上皮内に癌がとどまっているため リンパ節転移は一般に起こらないが それ以上進行するとリンパ節転移が出現する しかし 治療方法

ヒト慢性根尖性歯周炎のbasic fibroblast growth factor とそのreceptor

1 2 2 ANCA pouci immune IgG C3 ANCA 68 '01 '02 7 UN 14mg/dl, Cr 0.7 mg/dl, -, - ' UN 45mg/dl, Cr 2.4 mg/dl, Ht 29.5%, 4+, cm 61

1. 来院経路別件数 非紹介 30 他疾患経過 10 自主受診観察 紹介 20 他施設紹介 合計 患者数 割合 12.1% 15.7% 72.2% 100.0% 27.8% 72.2% 100.0% 来院経路別がん登録患者数 がん患者がどのような経路によって自施設を受診し

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

1)表紙14年v0

37, 9-14, 2017 : cefcapene piperacillin 3 CT Clostridium difficile CD vancomycin CD 7 Clostridium difficile CD CD associate

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外来在宅化学療法の実際

頸部リンパ節腫張 のコピー.pptx

/12/28 UP 3+, TP 4.2g/dl, Alb 1.9g/dl PSL 50mg/day 1/17 PSL 45mg/day PSL 2006/4/4 PSL 30mg/day mpsl mpsl1000mg 3 2 5/ :90 / :114/64 mmhg

ける発展が必要です 子宮癌肉腫の診断は主に手術進行期を決定するための子宮摘出によって得られた組織切片の病理評価に基づいて行い 組織学的にはいわゆる癌腫と肉腫の2 成分で構成されています (2 近年 子宮癌肉腫は癌腫成分が肉腫成分へ分化した結果 組織学的に2 面性をみる とみなす報告があります (1,

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1 999 年 9 月 30 日 Leiomyomatosis の一例 早坂和正 田中良明 矢野希代志 藤井元彰 奥畑好孝 氷見和久 根岸七雄 * 日本大学医学部放射線医学教室 * 第二外科学教室 Hayasaka, T anaka, Yano, Fujii, Okuhata, Himi, Negi

院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ


48 表1 主な術前末梢 ll検査値 GPT 311U AFP ALP l8 l IU CA n9 nil 2n9 ml 2U m1 LDII 3361U CA125 Ou lni GOT 211U CEA RBC ALB 3 7g dl Ilb l2 09dl A G 1 42 Ht

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表 1 入院時検査所見 11,500L 471 L 17.0 gdl.3 L ph 7.49 PaCO 37.8 mmhg PaO 67.4 mmhg HCO 3.6 meql B E 1. meql 141 meql K 3.9 meql Cl 108 meql Ca 8.4 mgdl P 4.5

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原発不明がん はじめに がんが最初に発生した場所を 原発部位 その病巣を 原発巣 と呼びます また 原発巣のがん細胞が リンパの流れや血液の流れを介して別の場所に生着した結果つくられる病巣を 転移巣 と呼びます 通常は がんがどこから発生しているのかがはっきりしている場合が多いので その原発部位によ

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D. 感染症 E. 溶血性貧血 F. ( 骨 ) 髄外造血 G. 膠原 ( 血管 ) 病 H. 脾損傷 I. その他 1. サルコイドーシス約 60% に脾腫 造影により 2~3cm 大の多発性結節性病変 石灰化を伴う壊死巣 2. 血液透析充実性脾病変 A. 悪性腫瘍 1. リンパ腫 ( ホジキン病

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094 小細胞肺がんとはどのような肺がんですか んの 1 つです 小細胞肺がんは, 肺がんの約 15% を占めていて, 肺がんの組 織型のなかでは 3 番目に多いものです たばことの関係が強いが 小細胞肺がんは, ほかの組織型と比べて進行が速く転移しやすいため, 手術 可能な時期に発見されることは少


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59 20 : 50 : : : : : 2 / :20 / 25 GTP /28 5/3 5/4 5/8 6/1 1 7kg 6/9 :178.7cm :68.55kg BMI:21.47 :37.3 :78 / :156/78mmHg 1

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表 1. 罹患数, 罹患割合 (%), 粗罹患率, 年齢調整罹患率および累積罹患率 ; 部位別, 性別 A. 上皮内がんを除く ; 部位別, 性別 B. 上皮内がんを含む 表 2. 年齢階級別罹患数, 罹患割合 (%); 部位別, 性別 A. 上皮内がんを除く B. 上皮内がんを含む 表 3. 年齢

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< 高知県立幡多けんみん病院 年院内がん登録 ( 詳細 )> 性 ~9 ~9 ~9 ~9 ~9 ~9 ~9 9~ 総計件数比率 口腔 咽頭食道胃結腸直腸肝臓胆嚢 胆管膵臓喉頭肺骨 軟部皮膚乳房子宮頸部子宮体部卵巣前立腺膀胱腎 他の尿路 女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男

筆頭演者の利益相反状態の開示 すべての項目に該当なし

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1 8 ぜ 表2 入院時検査成績 2 諺齢 APTT ALP 1471U I Fib 274 LDH 2971U 1 AT3 FDP alb 4 2 BUN 16 Cr K4 O Cl g dl O DLST 許 皇磯 二 図1 入院時胸骨骨髄像 低形成で 異常細胞は認め

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小児神経芽腫の一例 医学科 6 年 W.M 指導医 I.S

症例 症例 1 歳女児 主訴 画鋲の誤飲 現病歴 夕方にソファーの画鋲を誤飲し, 救急外来受診した. その際の胸部単純 X 線写真にて左上肺野に腫瘤を認めた. 精査加療目的で入院となった.

症例 家族歴 特記すべきことなし. 既往歴 特記すべきことなし. アレルギー 卵, 乳製品, 小麦にアレルギーあり. 身体所見 身長 :77.4cm, 体重 :8.995kg 全身像 : 色調問題なし, リンパ節腫脹なし, 左足背に湿疹を認める, 浮腫なし. 胸部 : 心雑音なし, ラ音聴取せず,air 入り良好. その他異常所見なし.

症例 入院時血液検査 WBC 6200 /μl RBC 4.64 104 /μl Hb 8.9 g/dl Ht 30.3% MCV 65.3 MCH 19.2 MCHC 29.4 PLT 394 /μl IgE 104 IU/ml AST 38 IU/l ALT 8 IU/l LDH 281 IU/l ChE 260 U/l T-Bil 0.9 mg/dl TP 6.4 g/dl Alb 4.3 g/dl UN 11 mg/dl Cr 0.21 mg/dl UA 6.2 Na 137 meq/l K 4.2 meq/l Cl 105 meq/l Ca 9.8 CRP 0.04> mg/dl フェリチン 2> ng/ml AFP 27 ng/ml NSE 48.4 ng/ml 尿中 VMA 52.8 μg/ml/cr (5.8~18.1) 尿中 HVA 125.2 μg/ml/cr (10.5~26.4) 基準値は 0-2 歳のもの

胸部単純 X 線写真 ( 救急外来受診時 )

胸部単純 CT( 入院時 )

胸部造影 CT: 動脈相 ( 入院時 )

胸部造影 CT: 遅延相 ( 入院時 )

胸部造影 CT( 入院時 )

胸部 MRI( 入院時 ) T1WI in-phase T1WI opp-phase T1WI FS T2WI

CT 画像所見のまとめ 左後上縦隔を中心として左肺尖部側への膨隆性発育を示す軟部濃度腫瘤を認める. 内部に粗大石灰化を伴い, 淡い不均一な造影増強効果を認める. 隣接する臓器, 血管に明らかな浸潤なし. MRI T2WI で不均一な信号を呈し, 内部に淡く不均一な造影増強効果を認める. 内部に明らかな脂肪成分は確認できない. また脊柱管内への進展を認めない. 遠隔転移 リンパ節転移なし. 年齢, 理学所見に加え画像所見上も神経芽腫が最も疑わしい.

123 I-MIBG シンチグラフィ ( 入院時 )

入院後経過 入院後, 尿中 VMA および HVA の高値認め, また胸部 MRI CT およびシンチグラフィの所見より, 神経芽腫を疑い切除目的で手術施行となった.

病理組織診断 不整結節状の, 白色充実性病変で, 散在性に壊死領域および石灰化を伴っている. 全体が線維性被膜に囲まれた病変. 不規則に線維性結合織で区画された内部に, 腫瘍の増生が認められる. 腫瘍内容として, 集簇性あるいは孤立性に, 神経芽細胞と種々の分化傾向を示す大小の神経節細胞が半数ずつ認められ, 周囲に神経線維が介在している.

病理組織所見 好酸性の細胞質成分の多い神経芽細胞間質組織に富み, 出血 壊死巣や石灰化を含む MKI(Mitosis-karyorrhexis index)=0.9% Neuroblastoma, differentiating subtype

123 I-MIBG シンチグラフィ ( 術後 )

神経芽腫

神経芽腫 神経芽腫は胎生期の神経堤 (neural crest) を起源とする神経芽腫群腫瘍の一つである. 小児領域では中枢神経系以外の固形腫瘍のなかで最多であり,2 歳以下の乳幼児に多い. 約 65% が腹部から,10~15% が後縦隔から発生し, 縦隔発生の神経芽腫は予後の良い例が多い. 神経芽腫患者の約 70% は診断時に転移がみられるが, 予後は診断時年齢, 臨床病期, 生物学的因子と強く関連する. すぐわかる小児の画像診断 p199.

神経芽腫の診断手順 症状 ( 発熱, 腫瘤など ),X 線写真の異常 尿中 VMA/HVA によるスクリーニング 尿中 VMA,HVA 血清 NSE,LDH, フェリチン X 線写真,CT, 超音波,MRI 画像 MIBG シンチグラフィ 骨髄穿刺骨髄生検 生検または摘出 異常なし 異常集積 骨シンチグラフィ X 線所見原純一ら, 小児がん診療ガイドライン 2011 年版, 金原出版,2011.

神経芽腫の画像所見 神経芽腫は CT,MRI で後縦隔傍脊椎部の軟部腫瘤として描出され しばしば脊柱管内に dumbbell 型に進展する. 高頻度に石灰化が認められ, 単純 X 線写真でも 25% で石灰化が確認できるが,MRI での検出は困難である. T1 強調像では低信号,T2 強調像では高信号を呈する.CT では不均一に造影される. 骨, 肝, リンパ節, 骨髄などに転移をきたすことがある. すぐわかる小児の画像診断 p199.

縦隔発生腫瘍の鑑別 縦隔は次のように 4 つの区分に分けられる. 1 上縦隔 : 左腕頭静脈が気管正中線と交差する高さまで 2 前縦隔 : 気管前縁 ~ 心後縁を結ぶ線 3 中縦隔 : 前, 後縦隔の間の縦隔 4 後縦隔 : 胸椎前縁から 1cm 背側を結ぶ線 縦隔発生腫瘍と好発部位 上縦隔 甲状腺腫, 副甲状腺腫, リンパ管腫, 神経原生腫瘍前縦隔 胸腺腫, 奇形腫, 甲状腺腫, 悪性リンパ腫中縦隔 甲状腺腫, 悪性リンパ腫, 食道腫瘍後縦隔 神経原性腫瘍, 悪性リンパ腫 百島祐貴著, 画像診断コンパクトナビ,2012.

神経芽腫の予後 神経芽腫の予後因子は診断時年齢, 病期, 病理分類, 腫瘍細胞内の染色体数 (DNA index), 腫瘍組織中の MYCN 癌遺伝子の増幅である. 病期の決定には INSS( 国際病期分類 ) が用いられ,INSS 分類は術後の病期分類で, 原発腫瘍の広がりや骨 骨髄などの転移巣の有無によって決定される. 原純一ら, 小児がん診療ガイドライン 2011 年版, 金原出版,2011.

病期定義 神経芽腫の臨床病期 (INSS) 1 限局的腫瘍で, 肉眼的に完全切除. 組織学的な腫瘍残存は不問. 同側のリンパ節に組織的な転移を認めない ( 原発腫瘍に接し, 一緒に切除されたリンパ節転移はあってもよい ). 2A 2B 限局的腫瘍で, 肉眼的に不完全切除. 原発腫瘍に接しない同側リンパ節に組織学的に転移を認めない. 限局的腫瘍で, 肉眼的に完全または不完全切除. 原発腫瘍に接しない同側リンパ節に組織学的に転移を認める. 対側のリンパ節に転移を認めない. 3 切除不能の片側性腫瘍で, 正中線 ( 対側椎体縁 ) を越えて浸潤. 同側の局所リンパ節の転移は不問. または, 片側発生の限局性腫瘍で対側リンパ節転移を認める. または, 正中発生の腫瘍で椎体縁を越えた両側浸潤 ( 切除不能 ) か, 両側リンパ節転移を認める. 4 いかなる原発腫瘤であるかにかかわらず, 遠隔リンパ節, 骨, 骨髄, 肝, 皮膚, および / または他の臓器に播種している.( 病期 4S は除く.) 4S 限局性腫瘍 ( 病期 1,2A,2B) で, 播種は皮膚, 肝, および / または骨髄に限られる (1 歳未満の患者のみ ). 骨髄中の腫瘍細胞は有核細胞の 10% 未満で, それ以上は病期 4 である.MIBG シンチグラフィが行われるならば骨髄への集積は陰性. Brodeur GM, et al.revisions of the international criteria for neuroblastoma diagnosis, staging, and response to treatment. J Clin Oncol 1993 ;11 ( 8 ): 1466 1477.

神経芽腫のリスク分類と治療 低リスク群 : 以下の 3 つの条件のうち, いずれかに属する 1.MYCN 遺伝子増幅がない病期 1,2A,2B 2.MYCN 遺伝子増幅がない病期 3 の乳幼児例 3. 病理分類で予後良好群に属し,DNA index が 1 以上の病期 4S 中間リスク群 : 以下の 4 つの条件のうち, いずれかに属する 1.MYCN 遺伝子増幅がない 1 歳 ~1 歳半の病期 3 の乳幼児 2.MYCN 遺伝子増幅がない 1 歳未満の病期 4 の乳児 3.MYCN 遺伝子増幅がなく, 国際病理分類で予後良好群に属し,DNA index が 1 以上の 1 歳 ~1 歳半の病期 4 の乳幼児 4.MYCN 遺伝子増幅がなく, かつ国際病理分類で予後良

神経芽腫のリスク分類と治療 高リスク群 : 以下の 4 つの条件のうち, いずれかに属する 1.MYCN 遺伝子増幅がある病期 2A,2B,3,4,4S 2.MYCN 遺伝子増幅がない 1 歳半以上の病期 3 の乳幼児で, 国際病理分類で予後不良群に属するもの 3.MYCN 遺伝子増幅がない,1 歳半以上の病期 4 4.MYCN 遺伝子増幅がない 1 歳 ~1 歳半の病期 4 で, 国際病理分類で予後不良群もしくは DNA index が 1 を示すもの 診断から 3 年後の生存率は, 低リスク群 :90% 以上, 中間リスク群 :60~80%, 高リスク群 : 約 30% と推定されている. Pizzo PA, Poplack DG: Principles and Practice of Pediatric Oncology, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia (2006) pp 933-970.

まとめ 年齢, 理学所見, 画像所見より左後縦隔由来の神経芽腫と診断された. 本症例は術後 INSS で病期 1 であった. 病理組織診上, 分化型の神経芽腫の診断で,Mitosis-karyorrhexis index(mki) も 0.9% と軽度で, 予後因子と合わせて低リスク群と判断した. 福留伸幸著, 小児腫瘍神経芽腫の細胞学的特徴, 千葉科学大学紀要,1,175-178,2008.

結語 今回, 神経芽腫の一例を経験した. 年齢 理学所見とともに, 術前の画像所見が診断に有用であった.