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新とする理由⑴ 政策目的 車体課税については 平成 23 年度税制改正大綱において エコカー減税の期限到来時までに 地球温暖化対策の観点や国及び地方の財政の状況を踏まえつつ 当分の間として適用される税率の取扱いを含め 簡素化 グリーン化 負担の軽減等を行う方向で抜本的な見直しを検討 することとされて

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Transcription:

講演 5 の取り組み 1 ディーゼル自動車における排出ガス対策技術の課題について 環境研究領域領域長 後藤雄一 -75-

の取り組み 1 - ディーゼル自動車における排出ガス対策技術の課題について - 環境研究領域領域長後藤雄一 1 平成 25 年度講演会 目次 1. ディーゼル自動車の排出ガス対策技術について 2. 燃費とオフサイクル 3. リアルワールドと後処理装置の課題 4. 大型車の技術傾向と今後の課題 2 平成 25 年度講演会 -77-

本講演で紹介する内容と視点 ディーゼル自動車の中でディーゼル重量車を中心に ディーゼル自動車の排出ガス対策技術について - 利便性を維持しつつ 排出ガス規制に応じて環境性能を向上する 燃費とオフサイクル - オフサイクル検討会から これからの課題 評価 が複雑になっている現状 - リアルワールドを如何に評価するか 3 平成 25 年度講演会 1. ディーゼル自動車の排出ガス技術 4 平成 25 年度講演会 -78-

NOx 低減率 % 100 80 60 40 20 0 100 排出ガス規制と対応技術 770ppm 650 540 470 400 6.0g/kWh 4.5 3.38 2.0 現在 新短期長期新長期ポスト新長期短期 2016 年規制 0.7 0.4 PM 低減率 % 80 0.7g/kWh 60 40 0.25 20 0.18 0.027 0.01 0 1970 1980 1990 2000 2010 2020 軽油 S 分 エンジン技術 後処理技術 0.5% 0.2% 0.05% 50ppm 10ppm CRS( コモンレールシステム ) VGT( 可変容量ターボ ) EGR( 排気再循環 ) DOC( ディーゼル酸化触媒 ) DPF( ディーゼル微粒子捕集フィルタ -) NOx 還元触媒 5 平成 25 年度講演会 ディーゼル自動車の排出ガス低減技術 排出ガス低減技術は PM の低減と NOx の低減が 2 大テーマ PM と NOx の低減方法は エンジン技術と後処理技術 ( 触媒 ) エンジン技術と後処理技術には 燃料技術 (S 濃度等 ) が重要 エンジン技術 可変機構 反応化学 材料実験 計測燃料化学 電子制御シミュレーション燃料設計 後処理技術 燃料技術 触媒化学 性状制御 Ref. 大聖教授資料から修正 6 平成 25 年度講演会 -79-

交通研における排出ガス低減に関わる研究 調査 ( 例 ) 試験法および基準作りを支援 試験モード作成に当たっての技術的支援試験 (JE05) モードにおける台上再現プログラム開発シミュレーションによる燃費試験尿素 SCR( 選択接触還元触媒 ) の技術基準 / 指針作りに必要な各種試験 実効ある環境改善に向けた分析調査 自動車排出ガス性能劣化状況市場抜取試験の調査 ( サーベイランス ) 自動車環境アセスメントに関する調査粒子状物質の粒子数に係る測定法の確立のための調査ポスト新長期規制適合車におけるオフサイクル試験時の排出ガス実態調査尿素 SCR 車の排出ガス性能の実態調査後処理装置の性能維持対策の検討調査 7 平成 25 年度講演会 ディーゼル自動車の排出ガス後処理装置について 排出ガス規制の強化にともないガソリン車では以前から ディーゼル車では 2002~03 年あたりからほぼ必須 日本ではディーゼル自動車の中でも乗用車は普及が遅れ 大型ディーゼル自動車の排出ガス対策が中心となった NOx PM をエンジン改良と排出ガス後処理装置により低減 PM は エンジン改良と DPF で対策 NOx は エンジン改良と NOx 後処理装置で対策 DOC(Diesel Oxdation Catalyst) ディーゼル酸化触媒 DPF(Diesel Particulate Filter) ディーゼル粒子捕集フィルタ LNT(Lean NOx Trap)/NSR(NOx Storage Reduction) NOx 吸蔵還元触媒 SCR(Selective Catalytic Reduction) 選択接触還元触媒 8 平成 25 年度講演会 -80-

ディーゼゼル排出ガス PM, SOF) ( NOx, ディーゼル後処理装置の複雑化 DOC DOC -SOF -SOF NO NO2 -SOF DOC 最初はPM 対策のDOCから最近のDOC+DPF+SCR+DOCまで 最近では 後処理装置の一体化をめざす -PM DPF -NOx SCR DOC -NH3 -SOF -PM -NOx NO NO2 DOC DPF SCR DOC -SOF -PM -NOx DOC DPF LNT/NSR DOC DOC : 酸化触媒 SCR : 選択接触還元触媒 LNT/NSR : NOx 吸蔵還元触媒 9 SOF: 可溶性有機成分 : 尿素水 : 燃料 -NH3 -HC 有 / 無 Ref. 大聖教授資料から修正 平成 25 年度講演会 1990 後処理装置の制御技術の高度化 DOC PM 低減 要素技術および制御技術の向上により後処理装置の浄化率は大きく向上しており 排出ガス低減技術の中核に 短期規制 (1994) DOC, DPF 長期規制 (1998) 2000 新短期規制 (2003) 新長期規制 (2005) DOC, DPF SCR, LNT/NSR フィードバック制御 NOx,PM 低減 ポスト新長期規制 (2009) 2010 DOC, DPF, SCR ポストポスト新長期規制 (2016) フィードバック制御 NH 3 スリップ防止のフィードバック制御 DPFによる背圧増加防止のDPF 再生フィードバック制御統合化制御 EGR, 燃料噴射やVG turbo 等のエンジン制御と後処理装置制御を全体として最適化制御 統合化制御モデルベース制御 2020 モデルベース制御 制御対象の物理値をモデルにより計算計測値とモデル値を比較することによりフィードバックやフィードフォワード制御 Ref. Report of After-treatments Technology Trend (2004.3), Japan Fine Ceramics Association 10 平成 25 年度講演会 -81-

新長期規制時における PM 対策の違い (DPF 採用の有無 ) 後処理装置で NOxを主に低減 と PMを主に低減 の 2つの流れ (NOx 後処理装置 ) (DPF) h) PM(g/kW 0.25 0.18 長期規制 新短期規制 DPNR エンジン改良 (EGR 等 ) DPF ベースエンジンエンジン改良 ( 燃焼高効率化等 ) 0.027 新長期規制尿素 SCR 0 2.0 NSR 3.38 4.5 NOx (g/kwh) 11 DPNR : Diesel PM-NOx Reduction system 平成 25 年度講演会 DPF の有効性と取扱いの厄介さ ディーゼル機関の PM はフィルタで濾過すれば低減可能 という発想は古くからあったが 捕集された PM( ほとんどはすす ) をどう処理するかは課題であった - すす は大気中では 600 以上でないと燃焼しない - が DPF 内を均一にその温度にするのは難しく 上昇しすぎると溶損 すす の処理方法について 連続再生式 (Continuous Regeneration = CR DPF) 走行中に適宜再生を行う この方式により ようやく一般に普及 ( 再生は都市内走行では主に燃料添加し 前段の酸化触媒で昇温させて強制再生で行う ) NO を NO 2 ( 酸化剤 ) にしてすすの酸化開始温度を 280 まで下げる効果も (CRT TM DPF の導入は ディーゼル車からの PM 排出を大幅に減少し SPM の大気環境基準の達成に大きく貢献している JM) しかし DPF の強制再生は 燃費も悪化し 一時停車など通常の走行とは異なる運転をユーザーに強いるため運送業者からは現在でも不評 12 平成 25 年度講演会 -82-

DPF の課題と解決法は? 如何にDPF 再生をするか * ポスト噴射による排気昇温 オイル希釈の問題 * 酸化触媒の前置 CRT (Johnson Matthey) * 酸化触媒の担持 DPX (Engelhard) * 燃料への触媒添加 DPFへの灰分堆積 圧力損失の低減 新しいDPFの開発 潤滑油灰分の堆積 潤滑油消費量低減 低灰分オイル採用 担持触媒の硫黄被毒 軽油の低硫黄化 高温による除去 ( 燃費悪化 ) 日本のような低速走行が多い交通環境では DPF の再生を如何に行うかは重要な課題であるが今のところ定期的な排気昇温による強制再生のみ 13 平成 25 年度講演会 大型車の NOx 低減技術の主流は? エンジン側では EGR が主流 後処理装置では 尿素 SCR と LNT/NSR の 2 方式が技術的な競争 大型車では 尿素水供給インフラの課題があったが 燃費の観点から最終的には尿素 SCR システムが主流となった (HC-SCRの例もある) 尿素 SCRシステムでは N 2 O NH 3 等の排出 排気温度が低い時の浄化性能が十分でないことが課題 14 平成 25 年度講演会 -83-

尿素 SCR システムの概要 ( 尿素 :urea からできる ) アンモニアを使って 酸素共存下で NOx 浄化 ( 還元 ) 性能を発揮できる システムの代表的 Urea 構成例 tank 前段酸化触媒の機能維持が重要 Dosing module 尿素水からアンモニアへ CO(NH2)2+H 2 O 2NH3+CO2 N 2 O NH 3 排出の可能性 Exhaust Diesel DOC1 DPF DOC2 DOC1 SCR Engine Engine ポスト新長期 NH 3 slip NO NO 2 NO 以降装着 NO 2 NOx reduction reduction Urea injection DOC: Diesel Oxidation Catalyst NOx 還元反応 4NO+4NH3+O2 4 N2+6H2O (2) 6NO2+8NH3 7N2+12H2O (3) NO+NO2+2NH3 2N2+3H2O (1) 数字の順に好ましい (NO と NO2 が等モルあるといい ) 15 平成 25 年度講演会 2. 燃費とオフサイクル 16 平成 25 年度講演会 -84-

オフサイクルにおける排出ガス低減対策検討会における交通研の取り組み 交通研は 実態把握と対策について技術的支援を行ってきた オフサイクルにおける排出ガス実態調査 重量車メーカーによるエンジンダイナモ排出ガス試験 交通研によるシャシダイナモ排出ガス試験 実態調査とメーカーヒアリングから得られた結果を基に対策の提案 技術的対策について行政に具体的提案を行い 年度内に行政による業界団体への検討結果の報告 ディフィートストラテジー (Defeat Strategy: 排出ガス対策 制御無効化戦略 ) の適用禁止の早期徹底の要請等へとつながり その社会への 平成 25 年度 17 影響を最小限に抑えることに貢献した また 技術基準の改正にも反映 講演会 調査から得られた検討項目 ディフィートデバイスの明確化 ( ディフィートデバイス : 排出ガス対策無効化装置 ) 自工会の自主基準をベースとしたディフィートデバイス / 許容される保護機能の明確化 現在導入されている保護機能を考慮し 閾値 ヒステリシスを具体化 定量化 燃費試験と排出ガス試験の同一化 ( 後述 ) 標準車型における JE05 モード排出ガス試験時のカーボンバランス法で燃費を測定し シミュレーション燃費と比較 追加試験の実施 JE05 モードでは出現しない保護機能確認 ( ディフィートデバイス防止 ) のための追加試験 JE05 モード以外での排出ガス量を抑制するための追加試験 (WNTE WHSC の前倒し等 ) OBD II の早期導入 (OBD:On Board Diagnostics, 車載式故障診断 ) 2016 年次期規制開始後 3 年以内に導入することとしている OBD II の早期導入 後処理装置レイアウトに係るエンジンベンチ認証試験の見直し 同一エンジンでも後処理装置のレイアウト位置によって排出ガス量が大きく異なるため 後処理装置にとって厳しい条件となるようなエンジンベンチ認証試験への見直し 18 平成 25 年度講演会 -85-

大型車の排出ガス試験と燃費試験では車両仕様が別 重量車 車速 (km/h) 90 80 70 60 50 40 30 20 10 JE05 モード ( 車速ベース ) 車速 駆動力 シャシダイナモメータ 0 ( シャシダイナモ試験 ) CVS 装置 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 経過時間 ( 秒 ) 重量車エンジンの排出ガス PM 測定 ( エンジンベンチ試験 ) ダイリューショントンネル 試験対象のエンジンとその代表車型のデータから エンジンの試験条件を決める 換処理エンジン回転 トルク変 排出ガス分析計 フィルター捕集装置 19 軸トルク計ダイナモメータダイナモメータ制御装置 アクチュエータ 平成 25 年度自動運転システム講演会 車速 (km/h) 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 排出ガス試験と燃費試験でエンジン運転モードが違う JE05 モード ( 車速ベース ) 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 経過時間 ( 秒 ) 排出ガス試験のエンジン運転モード ( このモードで排出ガスエンジンベンチ試験 ) 燃費マップ JE05 運転モード 変換プログラム ギアシフト位置の決定 エンジン回転数とトルクの計算 = エンジン運転モードが異なる 燃費試験のエンジン運転モード 都市内運転モード都市間運転モード 車両の仕様標準車型 ( 排出ガス ) 代表車型 ( 燃費 ) 排出ガス試験と燃費試験で車両仕様が異なる 変換処理 車速 vs. 時間 エンジン回転数 / トルク vs. 時間 Torque (Nm) このモードで燃費計算 Engine torque Engine speed 燃費計算 Engine speed (rpm) * シミュレーション前に 燃費マップ作成のための試験を行う 燃料消費量 燃費 20 end = F.C. i i start Ref.: JARI, Survey Report on Evaluation Methods for Heavy Vehicles, March 2003 平成 25 年度講演会 20-86-

エンジン運転モードが違うことによる影響 排出ガス試験のエンジン運転モードを利用して排出ガス規制への適合を行う 燃費試験のエンジン運転モードを利用して燃費試験でよりよい燃費への適合を行う それぞれの適合は 最近の高度化した電子制御エンジンシステムでは意図の有無に関わらず個別に最適化ができてしまう 結果として 各試験に個別に適合したエンジンシステムが通常の運転条件でオフサイクルの挙動を示す場合がある 21 平成 25 年度講演会 リアルワールドで後処理装置が機能する? 本来はリアルワールドの通常の運転条件では後処理装置が機能するべき 今回 ディフィートストラテジー の明確な規定と使用の禁止を導入 ディフィートストラテジー とみなさない保護制御を限定的に定義 ディフィートストラテジー (Defeat Strategy): ディーゼル重量車の排出ガスを悪化させるエンジン制御 演繹的な対策を行ったが 将来的には実態把握からの帰納的な制度等も入れる必要性は? リアルワールドからの実態把握が出来る帰納的な仕組みが必要 ( サーベイランスや PEMS 試験等 ) 22 平成 25 年度講演会 -87-

PEMS とは? PEMSとは 車両に搭載し, 実路走行時の排出ガスをリアルタイムに測定する装置 PEMS(Portable Emission Measurement System: 車載排出ガス分析システム ) PEMS の搭載例 車両総重量 8t の重量車の荷台部分に PEMS を搭載 Ref. JAMA-JARI : 2011 年 10 月 13 日自技会秋季学術講演会 23 平成 25 年度講演会 従来試験装置と PEMS との違い PEMS を車両に装備する方法が課題 計測環境 実路は時々刻々と変化 排出ガス分析計 標準ガス類 駆動用バッテリ ピトー管式排出ガス流量計 型式認証用排出ガス試験モードなどで計測 実路 ( 公道 ) で計測 シャシーダイナモメータおよびエンジンダイナモメータ 従来試験装置 PEMS Ref. JAMA-JARI : 2011 年 10 月 13 日自技会秋季学術講演会 24 平成 25 年度講演会 -88-

日本における PEMS の現状 2008 年 10 月 9 日から車載排出ガス計測勉強会 ( 交通研主催 ) を開催 ( 研究機関 JAMA-JARI, 大学 計測器メーカー他 ) 環境省中央環境審議会第 11 次答申で今後 PEMSの導入検討 欧米ではPEMSを使った規制を導入又は導入予定 PEMS による測定器としての精度と計測手法を検討 米国と欧州それぞれの PEMS による 排出ガス試験法の比較検討 日本に PEMS による排出ガス試験法を 導入する場合の課題 (PEMS の搭載 方法等 ) の明確化 EPA Measurement Allowance Study Preliminary testing @CE-CERT 排気管 Ref. HORIBA 資料 25 平成 25 年度講演会 3. リアルワールドと後処理装置の課題 26 平成 25 年度講演会 -89-

リアルワールドの走行と後処理装置の機能不全 ガソリン自動車では排気温度が高い それでも触媒のLight off を避けるため コールドスタート試験対応で触媒はエンジン排気ポートへ近づけた ディーゼル自動車では 規制時期によりガソリン自動車と比べ後処理装置の導入が遅かった ディーゼル自動車では ガソリン自動車に比べもともと排気温度が低いことから SCR 後処理装置の機能が発揮しにくい アイドル状態での長時間運転 バス等の低速運転での発進停止などの低速走行から HC 被毒 ガソリン車に比べて長い走行距離からオイルや燃料中の S や P による被毒 これら走行状態から触媒劣化による後処理装置の機能不全 27 平成 25 年度講演会 尿素 SCR 後処理装置の被毒 (HC S P) アイドル状態での長時間運転 バス等の低速運転での発進停止から HC 被毒 定期的な排気温度の昇温処理により概ね対策 ガソリン車に比べて長い走行距離からオイルや燃料中のSやPによる被毒 前段酸化触媒の被毒 ( 主に S) 原因究明が課題 触媒劣化による後処理装置の機能不全 一時劣化に対しては 排気ガス昇温等による回復対策 永久劣化に対しては 未然防止対策 ( 新たな耐久劣化試験の追加 ) 28 平成 25 年度講演会 -90-

大型車の後処理装置に関する課題 後処理装置による排出ガス性能の劣化が早期に見つからなかった理由 2007 年の交通研フォーラムにおいて 1 台の使用過程 SCR 大型車の HC 被毒による排出ガス悪化を報告 1 台のみでは一般的な内容か判別できないので N 数増しに時間がかかった 商用車では 仕事に車を使っていることから使用過程車をサンプルして試験することが大変 認証時はエンジンベンチ試験により行い 使用過程時はシャシダイナモによる計測のため 測定結果の比較が簡単ではない 将来導入予定の OCE( オフサイクル試験法 ) を含めた WHDC( 重量車排出ガス試験法 ) OBDによりかなりの課題は対応できる 複数の試験サイクルからランダムに選択する方法もある PEMS を利用した実使用条件下での排出ガス試験が望ましい 使用実態に近い排出ガス性能を把握する制度等の確立 ( サーベイランス等 ) 車検制度等の既存制度を活用 (NOx 検査等 ) 29 平成 25 年度講演会 大型車の技術傾向と今後の課題 エンジンの高出力化とダウンサイジング 筒内圧の増加によるエンジン構造への負荷大エンジン構造の強化と耐久性が必要 燃費向上のための高効率化による排気温度の低下 後処理装置の活性化温度の低減が必要 (Cu 触媒等の導入 ) 後処理装置を排気ポートに近づけるなどの乗用車のアプローチが参考に 電動化に伴うエンジン 後処理制御の複雑化 とその評価方法 30 平成 25 年度講演会 -91-

ご清聴有難うございました! 31 平成 25 年度講演会 -92-