化学ポテンシャル (Chemical potential) Gibbs の自由エネルギー : G=H-TS Enthalpy:H=U+PV Entropy:S ml m L 1 化学ポテンシャルは 1 分子 ( 粒子 ) 当たりのギブス自由エネルギーであり 濃度が寄与するよるエネルギーである 水に溶けた脂質分子の化学ポテンシャル : 0 w X w 0 micel,m w RT ln 0 w 仮定 : 脂質分子の単体と m 固の分子からなる集合体の間で平衡が成立する これらの化学ポテンシャルは等しい X w RT ln : 水中に単体として存在する分子の標準化学ポテンシャル : 水中に単体として存在する両親媒性分子のモル分率 X m : 水中でミセル (micel) として存在する脂質集合体の標準化学ポテンシャル :m 個の分子からなる脂質集合体に含まれる脂質分子のモル分率 f w m 個の分子からなる脂質集合体 ( ミセル micelle)) 中の脂質分子の化学ポテンシャル : 0 0 RT X micel, m micel, m ln m m 臨界ミセル濃度 (Critical Micelle Concentration, CMC) と洗剤の界面活性作用 (Detergent) 油汚れをミセル内に包み込み水中に遊離させる m
すべての m に対して 水に溶けた脂質分子の濃度 Xw に対する脂質集合体の大きさの分布関数である次式が成立する micel 0, m w RT ln X w RT ln f w 0 ユニタリー ポテンシャルの差 micel, m w と活量係数 w が与えられ れば ln X w RT m が与えられた Xw において最大値をもつ条件から 最適な脂質 集合体の大きさが求められる ln X m m f 脂質二重層の極性 - 非極性界面の自由エネルギーに対する寄与は疎水性相互作用と静電的な反発力が考えられる μ m 0,S =γ(a-a p )+C/A =γa+c/a A: 界面での 1 分子の面積 A p : 極性基の面積 bulk term に含めることができる γ: 疎水自由エネルギー密度 3.5 10-20 J nm -2 C: 反発力自由エネルギーの定数 1.15 10-20 J nm 2
生命 ( 生きている細胞 ) の定義生体系の基本的な性質 1. 外界との区画 Separated by envelope 2. 代謝の維持 Maintaining a metabolism 3. 複製による増殖 Propagating by replication 4. 進化 Undergoing Dawinian evolution 5. 細胞機能の制御 Controlling cell function
大腸菌の生きている状態 ( 非平衡状態 / 定常状態 ) と平衡状態 大腸菌構成生体分子の結合エネルギーの総和 -6.9836x10 10 ev 非平衡状態 大腸菌の構成元素の数炭素原子 :5.83x10 9 水素原子 :9.83x10 9 酸素原子 :2.67x10 9 窒素原子 :1.55x10 9 充分な時間 0.07 ev だけ平衡状態からずれている タンパク質 核酸 糖質 脂質などの生体分子の結合エネルギーの総和と平衡状態で生成する分子の結合エネルギーの総和との比較 -7.482x10 10 エネルギーを最小にする結合の分布 ev 平衡状態 C-H (98.7 kcal/mol): 4.064x10 9 C-C (82.6 kcal/mol): 9.64x10 9 N N (225.8 kcal/mol): 0.78x10 9 O-H (110.6 kcal/mol): 5.34x10 9
生命と定常状態 生物の非平衡状態は近似的には定常状態であり 生体内では常にエント ロピーが生成している 定常状態を維持するためには 系内で絶えず生 成されたエントロピーの源を外部から補給しなければならない 非平衡状態におけるエントロピー生成速度 エントロピー生成速度 の時間変化を考える 生物は開放系であり つねに負の符号をもつ内部項 定まらない外部項 と符号の に分けられる 定常状態ではすべての状態量 は時間によって変わらず これはエントロピーについても成り立ち である d S ds dt d dt e T d i S dt des dis 0 dt dt di 0 dt i 0 des ここで dt であるので 0 dt となり 系の不可逆過程を打ち消すように 系内に負のエントロピーの流れがある
q 開放系でエントロピーの流れは js js と表わされ 熱の流れの T i i i ないとき (q=0) エントロピーの流れは物質の流れによってのみ起こる このとき定常状態で j s js i i 0 i となる この式は 系に取り込まれた物質のもつエントロピーは それが系外に放出されたときにもつエントロピーより小さいことを示している 熱力学的な表現では 生物は取り入れた秩序性の高い物質( 低エントロピー ) を熱力学的に消化し エントロピーを大にして系外に放出していることになる 植物は太陽エネルギーを利用して この秩序性の高い物質を生成しているシステムである
化学反応 (Chemical reaction) A + B C を考える 衝突理論 (Collision theory) では 1) 化学反応が起こるには A 分子と B 分子の衝突が必要である 衝突頻度は運動エネルギーと濃度に比例する 衝突により近接した A 分子と B 分子の対が反応して C 分子になるにはエネルギー障壁 ( 活性化エネルギー Activation energy) を越えることが必須である 化学反応の平衡 : 一般に化学反応は可逆的であり 孤立系では最終的に平衡状態 (Equilibrium state) に達する 反応速度 (velocity = rate ) は一次反応として表わすことができる これらの関係は実験的に決定される k +1, k -1 : 反応速度定数 (rate constant) 平衡の条件 : よりとなり 平衡定数 K eq が定義される
化学反応の活性化エネルギーと自由エネルギー変化 エネルギ 座標 反応物 A+B 自由エネルギー変化 ΔG A+B C 遷移状態 反応座標 化学反応の平衡状態 活性化エネルギー 生成物 C Gibbs の自由エネルギー : G=H-TS Enthalpy:H=U+PV Entropy:S 平衡定数 :Keq=[C]/[A][B] 化学反応でも定圧変化では系のエンタルピーの変化量と系に与えられたエネルギー量は等しい 反応の自由エネルギー変化 ΔGo で平衡定数 K eq が決定する ΔG o =-RT log e K eq
標準自由エネルギー変化 (ΔG 0 ) と平衡定数 K eq の関係 K eq log 10 K eq ΔG 0 [kcal] 0.001-3 4.089 0.01-2 2.726 0.1-1 1.363 1 0 0 10 1-1.363 反応物と生成物の比を表す平衡定数 K eq を 10 倍または 10 分の 1 にした場合に対する自由エネルギー変化 ΔG 0 を表にしてある これに対応する自由エネルギー変化は 2 倍と 2 分の 1 である 100 2-2.726 1000 3-4.089 自由エネルギー変化は化学反応の平衡定数を決定するが 反応速度とは無関係である
生体の合成反応と反応の結合 H OH 合成 ( 脱水縮合 ) 分解 ( 加水分解 ) +H 2 O エネルギ 座標 活性化エネルギー H OH ΔΕ ΔG を多く生成させるには ATP の加水分解反応を結合させる 2 つの反応を結合させたものは ΔG<0 となるので右側の割合を多くさせることが可能となる 反応座標
化学反応の速度を決定する因子 化学反応速度の温度依存性を示す Arrhenius の式速度定数 k と絶対温度 T との関係式 または k Aexp E a : 活性化エネルギー (Activation energy) A: 頻度因子 (Frequency factor), 前指数因子 R: 気体定数 Ea は狭い温度範囲では一定であるとみなせる 見掛けの活性化エネルギーこの仮定が正しいかどうかはと Ea RT の関係の実測値が直線になることを その反応について検証する 温度が高くなる程 また 活性化エネルギーが低下する程に反応速度は増加する 酵素蛋白質の役割は活性化エネルギーを低下させて化学反応の速度を増加させることである
(AB) * C はエネルギーの単調降下経路で V=k * [(AB) * ] と表される 一方 (AB) * は原系 A+B と平衡にある とみなせるので Eyring の遷移状態理論 活性複合体 (AB) * を導入して 反応機構を [(AB) * ]/{[A][B]}=K * 以上より V=k * [(AB) * ] =k * K * [A][B] となる したがって 速度定数は k=k * K * である ΔG*=-RT lnk* A+B (AB) * C と仮定する さらに ΔG*=ΔH*-TΔS* k=k* exp(-δg* /RT) と表すと より K*=exp(-ΔG* /RT) であるから = k* exp(δs* /R) exp(-δh* /RT) となる 反応速度は遷移状態と原系との平衡で決定される
原始生命の誕生と進化 進化とはエネルギー利用システム ( 物質代謝系 ) の進化である 生体高エネルギー物質の ATP を生成する原始的な反応はピルビン酸キナーゼ (pyruvate kinase) で触媒されるカップリングした反応と考えられる ホスホエノールピルビン酸 ピルビン酸 (phosphoenolpyruvate) ADP+P i ATP (pyruvate) ホスホエノールピルビン酸は加水分解で ΔG=-14.8kcal/mol の自由エネルギーを放出する
細胞中に存在する各種の高エネルギー物質 物質 自由エネルギー量 [kcal/mol] ホスホエノールピルビン酸 -14.8 グリセリン酸 -1,3- 二リン酸 -11.8 ホスホクレアチン -10.3 アセチルリン酸 10.1 ATP -7.3 グルコース-1-リン酸 -5.0 フルクトース-6-リン酸 -3.8 グルコース-6-リン酸 -3.3 グリセリン酸 -3-リン酸 -2.4
生物進化の代謝系からの説明 生物進化代謝の進化栄養の様式 母種生物 (0) A A が利用可能 ATP 栄養となる有機化合物 A からエネルギーを得る母種生物 (0) [Horrowitz, N.H.: Proc.NAS 31 (1945), 153] 酵素蛋白質の遺伝的な変化が類似な分子の利用を可能にする ATP ATP ATP B A A が枯渇すると B を A に変換する酵素を作る変異種 (1) が繁殖する B が用可能 C B A C が用可能 B も枯渇すると C を B に変換する酵素を作る変異種 (2) が繁殖する D C B A Dが用可能 Cも枯渇すると DをCに変換する酵素を作る変異種 (3) が繁殖する この酵素蛋白質により代謝経路が伸展する この過程を順次に進めることで物質 エネルギー代謝の経路を伸展させた過程が生物の進化となった 生物の進化とはエネルギーの利用形態が進化することである 藻類 植物により太陽エネルギーが利用できるようになった
生体の基本的な高エネルギー分子 ΔG=-7.3 kcal/mol ( 自由エネルギー変化 ) ATP(Adenosine TriPhosphate) E 0 =-0.32 V ( 酸化還元電位 ) NAD(Nicotine Dinucleotide) Adenine
ニコチンアミドの酸化型と還元型と電子の移動 酸化型 還元型 酸化還元電位が E 0 = -0.32 V のとき 酸化型と還元型の濃度が等しい E =Eo-(RT/nF)ln([ 還元型 ]/[ 酸化型 ]) リン酸 (PO 4 ) が結合しているのは光合成系に存在する NADPH であり 存在しない構造がミトコンドリアに存在する NADH である
酸化還元反応と酸化還元電位 (Redox potential) 酸化還元電位酸化還元反応 R O+ne に対して イオンを透過する膜の両側でイオンの濃度差があるときにイオンの透過で生じる電位差を表すネルンスト (Nernst) の式を用いて E = E - RT e 0 F log e n [R] [O] と定義される E 0 : この系の標準電極電位 [R]: 還元体 Rの活動度 [R]: 還元体 Rの活動度 [O]: 酸化体 Oの活動度酸化還元電位と自由エネルギー変化の関係 ΔG=-nFE e F はファラデー定数
化学合成独立栄養生物 還元型無機化合物の酸化によってエネルギーを獲得し 炭酸固定を行なう細菌であり 硝化細菌 硫黄酸化細菌 鉄細菌 水素細菌など アンモニア酸化細菌 : アンモニアを酸化して亜硝酸にするエネルギーで NAD(P)H と ATP を得ている ニトロソモナス ユーロパエア Ammonia monooxigenase NH 3 +O 2 +2[H] NH 2 OH+H 2 O Hydoxyamine oxidoreductase NH 2 OH+H 2 O+O 2 HNO 2 +2H 2 O 亜硝酸酸化細菌は亜硝酸を酸化して硝酸にするエネルギーで NAD(P)H と ATP を得ている ニトロバクター ヴィノラドスキイ 亜硝酸 oxidoreductase 2HNO 2 +2H 2 O+O 2 HNO 3 +2H 2 O
イオウ酸化細菌 イオウ酸化細菌はイオウ元素 硫化物 チオ硫酸を硫酸までに酸化するエネルギーで NAD(P)H と ATP を得ている H 2 S S+2[H] Sulfur oxigenase S+O 2 +H 2 O H 2 SO 3 H 2 S 2 O 3 S+ H 2 SO 3 亜硫酸ーチトクロム C reductase H 2 SO 3 +H 2 O H 2 SO 4 +2[H] 深海の熱水鉱床で噴出する熱水には硫化水素が含まれており そこにはイオウ酸化細菌の集団が形成されている これを食べるカニ ハマグリ ヒトデ 環形動物などの生態系が形成されている 生物は非平衡状態を維持するためにエネルギーを NAD(P)H と ATP に変換するシステムを必要としている
生体内でのエネルギーの利用 ブドウ糖 ( グルコース ) の酸化 [ 試験管内 ] C 6 H 12 O 6 + 6O 2 6CO 2 + 6H 2 O + 686 kcal/mol [ 生体内 ] 解糖系 2ATP 2NADH=6ATP ピルビン酸 アセチル CoA 2NADH=6ATP TCA 回路 6NADH=18ATP 2FADH 2 =4ATP 2ATP 以上の代謝経路で 1 分子のグルコースから 38 分子の ATP が生成 (277 kcal/mol) 砂糖 ( 蔗糖 )= ブドウ糖 + 果糖 Sucrose=glucose+fructose NADH と FADH 2 は電子伝達系で ATP を生成する
解糖系 (Glycolysis) 原始発酵系 TCA cycle Acetyl-CoA CO 2 と H 2 O を生成し ATP へのエネルギー変換が完結する
TCA 回路 ( クエン酸回路 ) ピルビン酸 ( 酸化的脱炭酸 )
ヒ タミン B 群 : 酸化的脱炭酸の反応において補酵素として作用 ピルビン酸の酸化的脱炭酸 ΔG =-8kcal/mol
嫌気的な環境での ATP 生成 酸素が存在しない ( 不十分 ) な条件下でも乳酸へ代謝することで ATP を生成できる この乳酸が筋肉痛などの疲労感の原因となる 乳酸の 4 分の 1 を TCA 回路での ATP 生成に使用することで残りの乳酸を再びグルコースに合成する
地球生物の進化進化とはエネルギー利用系の進化である 1) 原始海洋に始原細胞が誕生していた 40 億年前 環境 : 化学進化で蓄積した豊富な有機化合物を含む原始海洋酸素を含まない還元的な原始大気生物種 : 嫌気性細菌 嫌気性ラン藻エネルギー産生代謝 : 発酵代謝 ( 解糖系 )= 高エネルギー物質の利用 2) 生合成代謝の獲得 環境 : 原始生物の異常な繁殖で海洋が貧栄養化生物種 : 生合成代謝を獲得した生物エネルギー産生代謝 : 発酵代謝 ( 解糖系 )+ 生合成代謝 ( 産生エネルギーの利用 ) 新規に高エネルギー物質を利用できるようになる代謝経路の延長による環境への適応進化 3) 細菌による太陽光の利用 環境 : 低分子の栄養物質も枯渇生物種 : 光合成細菌 化学合成細菌エネルギー産生代謝 : 炭酸同化 (CO2 から自己物質を合成 ) 発酵代謝 ( 解糖系 ) 4) 藻類による光合成 環境 : 発生する酸素ガスで大気組成が変化生物種 : ラン藻エネルギー産生代謝 : 光合成による炭酸同化 (CO2 から自己物質を合成 ) 水素供与体として水を利用 有毒な酸素が発生 5) 現在の生態系におけるエネルギー代謝 ホロヴィッツの仮説 環境 : 現在の組成の大気生物種 : 現存生物エネルギー産生代謝 : 光合成生物 ( 光合成系によるATP 産生 カルヴィン回路 ) 非光合成能生物 ( 解糖系 TCA 回路 電子伝達系 ATP)