触媒懇談会ニュース No. 83 October 1, 2015 触媒学会シニア懇談会 メタロセン重合触媒 元出光興産蔵本正彦 1. はじめにオレフィン重合触媒は 1950 年代の Ziegler-Natta 触媒の発明により PE PP が温和な条件で得られるようになった しかし 初期はまだ活性が

Similar documents
首都圏北部 4 大学発新技術説明会 平成 26 年 6 月 19 日 オレフィン類の高活性かつ立体選択的重合技術 埼玉大学大学院理工学研究科 助教中田憲男

練習問題

官能基の酸化レベルと官能基相互変換 還元 酸化 炭化水素 アルコール アルデヒド, ケトン カルボン酸 炭酸 H R R' H H R' R OH H R' R OR'' H R' R Br H R' R NH 2 H R' R SR' R" O R R' RO OR R R' アセタール RS S

平成 2 9 年 3 月 2 8 日 公立大学法人首都大学東京科学技術振興機構 (JST) 高機能な導電性ポリマーの精密合成法を開発 ~ 有機エレクトロニクスの発展に貢献する光機能材料の開発に期待 ~ ポイント π( パイ ) 共役ポリマーの特性制御には 末端に特定の官能基を導入することが重要だが

(Microsoft PowerPoint - \201\232\203|\203X\203^\201[)

PEC News 2004_3....PDF00

PowerPoint プレゼンテーション

53nenkaiTemplate

酸化的付加 (oxidative addition)

Microsoft Word - æœ•æŒ°ã…Łã……ç´€éŒ¢é•£ã…‹ã…flㅅ㇯ㇹ2019å¹´3朋呷.docx

Microsoft PowerPoint - 有機元素化学特論11回配布用.pptx

Akita University 氏名 ( 本籍 ) 若林 誉 ( 三重県 ) 専攻分野の名称 博士 ( 工学 ) 学位記番号 工博甲第 209 号 学位授与の日付 平成 26 年 3 月 22 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 研究科 専攻 工学資源学研究科 ( 機能物質工学

Microsoft PowerPoint - 第3回技術講演会 修正 [互換モード]

Microsoft Word - 化学系演習 aG.docx

記 者 発 表(予 定)

B. モル濃度 速度定数と化学反応の速さ 1.1 段階反応 ( 単純反応 ): + I HI を例に H ヨウ化水素 HI が生成する速さ は,H と I のモル濃度をそれぞれ [ ], [ I ] [ H ] [ I ] に比例することが, 実験により, わかっている したがって, 比例定数を k

2014 年度大学入試センター試験解説 化学 Ⅰ 第 1 問物質の構成 1 問 1 a 1 g に含まれる分子 ( 分子量 M) の数は, アボガドロ定数を N A /mol とすると M N A 個 と表すことができる よって, 分子量 M が最も小さい分子の分子数が最も多い 分 子量は, 1 H

エポキシ樹脂の耐熱性・誘電特性を改良するポリアリレート樹脂低分子量タイプ「ユニファイナー Vシリーズ」の開発について


2019 年度大学入試センター試験解説 化学 第 1 問問 1 a 塩化カリウムは, カリウムイオン K + と塩化物イオン Cl - のイオン結合のみを含む物質であり, 共有結合を含まない ( 答 ) 1 1 b 黒鉛の結晶中では, 各炭素原子の 4 つの価電子のうち 3 つが隣り合う他の原子との

ポリマーの定義 REGISTRY ファイルでは, 下記の物質をポリマーと定義している 重合度が 11 以上の物質 重合度が不明の物質 重合度が 10 以下で重合後の構造が不明なオリゴマー 3 ポリマーの登録方針 1 原料が異なる場合は, 重合後のポリマーが同一であっても, 異なる CAS 登録番号が

有機化合物の反応9(2018)講義用.ppt

Microsoft Word - 化学系演習 aG.docx

Microsoft PowerPoint プレゼン資料(基礎)Rev.1.ppt [互換モード]

新技術説明会 様式例

1. 構造式ファイルの作成について 平成 31 年度からの少量新規化学物質の申出には電子データ ( ML ファイル形式 ) の提出が必要となります 本講演資料における 構造式ファイル は ML ファイルのことを指しています 経済産業省推奨構造式描画ソフトウェア以下のソフトウェアを用いて ML ファイ

島津ジーエルシー総合カタログ2017【HPLCカラム】

元素戦略アウトルック 材料と全面代替戦略

第 11 回化学概論 酸化と還元 P63 酸化還元反応 酸化数 酸化剤 還元剤 金属のイオン化傾向 酸化される = 酸素と化合する = 水素を奪われる = 電子を失う = 酸化数が増加する 還元される = 水素と化合する = 酸素を奪われる = 電子を得る = 酸化数が減少する 銅の酸化酸化銅の還元

els05.pdf

改訂履歴 2018/7/30 Ver.1.0 公開 2018/10/02 Ver.1.1 公開 ( 図表 1.1 Marvin JS のダウンロード 利用先 URL を追記 )

研究報告61通し.indd

1/120 別表第 1(6 8 及び10 関係 ) 放射性物質の種類が明らかで かつ 一種類である場合の放射線業務従事者の呼吸する空気中の放射性物質の濃度限度等 添付 第一欄第二欄第三欄第四欄第五欄第六欄 放射性物質の種類 吸入摂取した 経口摂取した 放射線業 周辺監視 周辺監視 場合の実効線 場合

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

内容 1. 化学結合 2. 種類と特性 3. 反応の種類 4. 反応機構 5. 高分子材料の特性 6. 高分子合成 7. 有機構造解析

フェロセンは酸化還元メディエータとして広く知られている物質であり ビニルフェロセン (VFc) はビニル基を持ち付加重合によりポリマーを得られるフェロセン誘導体である 共重合体としてハイドロゲルかつ水不溶性ポリマーを形成する2-ヒドロキシエチルメタクリレート (HEMA) を用いた 序論で述べたよう

Microsoft PowerPoint - 9 京大・後藤先生.ppt

水性アクリルエマルションコアシェル化技術 TFC 製品紹介 大成ファインケミカル

研究報告61通し.indd


<4D F736F F D B82C982C282A282C482512E646F63>

応用有機化学基礎論

Chap. 1 NMR

Microsoft Word - _博士後期_②和文要旨.doc

2004 年度センター化学 ⅠB p1 第 1 問問 1 a 水素結合 X HLY X,Y= F,O,N ( ) この形をもつ分子は 5 NH 3 である 1 5 b 昇華性の物質 ドライアイス CO 2, ヨウ素 I 2, ナフタレン 2 3 c 総電子数 = ( 原子番号 ) d CH 4 :6

分子マシンを架橋剤に使用することで 高分子ゲルの伸張性と靱性が飛躍的に向上 人工筋肉などのアクチュエータやソフトマシーン センサー 医療への応用も可能に 名古屋大学大学院工学研究科 ( 研究科長 : 新美智秀 ) の竹岡敬和 ( たけおかゆ きかず ) 准教授の研究グループは 東京大学大学院新領域創

Site-Selective Radical C-H/C-C Conversion via Decatungstate Photocatalysis

酢酸エチルの合成

ゴムの工業的合成法第 13 回エチレンプロピレンゴム 日本ゴム協会誌 が発生しやすく, 耐油, 耐屈曲げ裂性に劣るなどの特徴がある 1). 2. EPDM の歴史 EPDM は,1955 年に G. Natta 教授とモンテカチーニ社 ( 伊 ) の研究グループにより, エラストマー状のエチレンプロ

Slide 1

架橋点が自由に動ける架橋剤を開発〜従来利用されてきた多くの高分子ゲルに柔軟な力学物性をもたらすことが可能に〜


第3類危険物の物質別詳細 練習問題

木村の理論化学小ネタ 熱化学方程式と反応熱の分類発熱反応と吸熱反応化学反応は, 反応の前後の物質のエネルギーが異なるため, エネルギーの出入りを伴い, それが, 熱 光 電気などのエネルギーの形で現れる とくに, 化学変化と熱エネルギーの関

◎第二回  合成ゴムについて              2001

研究成果報告書

Gifu University Faculty of Engineering

フォルハルト法 NH SCN の標準液または KSCN の標準液を用い,Ag または Hg を直接沈殿滴定する方法 および Cl, Br, I, CN, 試料溶液に Fe SCN, S 2 を指示薬として加える 例 : Cl の逆滴定による定量 などを逆滴定する方法をいう Fe を加えた試料液に硝酸

無電解析出

Microsoft PowerPoint - siryo7

本日の内容 HbA1c 測定方法別原理と特徴 HPLC 法 免疫法 酵素法 原理差による測定値の乖離要因

2 私たちは生活の中で金属製の日用品をたくさん使用していますが 錆びるので困ります 特に錆びやすいのは包丁や鍋などの台所用品です 金属は全て 水と酸素により腐食されて錆を生じますが 台所は水を使う湿気の多い場所なので 包丁や鍋を濡れたまま放置しておくと水と空気中の酸素により腐食されて錆びるのです こ

PowerPoint プレゼンテーション

木村の有機化学小ネタ 糖の構造 単糖類の鎖状構造と環状構造 1.D と L について D-グルコースとか L-アラニンの D,L の意味について説明する 1953 年右旋性 ( 偏光面を右に曲げる ) をもつグリセルアルデヒドの立体配置が

【技術資料】 GPC 法 (SEC 法)入門講座

New Color Chemosensors for Monosaccharides Based on Azo Dyes

化学変化をにおいの変化で実感する実験 ( バラのにおいからレモンのにおいへの変化 ) 化学変化におけるにおいは 好ましくないものも多い このため 生徒は 化学反応 =イヤな臭い というイメージを持ってしまう そこで 化学変化をよいにおいの変化としてとらえさせる実験を考えた クスノキの精油成分の一つで

Microsoft PowerPoint - Engmat09Y09V3pdf.ppt

e - カーボンブラック Pt 触媒 プロトン導電膜 H 2 厚さ = 数 10μm H + O 2 H 2 O 拡散層 触媒層 高分子 電解質 触媒層 拡散層 マイクロポーラス層 マイクロポーラス層 ガス拡散電極バイポーラープレート ガス拡散電極バイポーラープレート 1 1~ 50nm 0.1~1

<4D F736F F F696E74202D C8B4089BB8D8795A882CC94BD899E A>

粘土鉱物担持メタロセン触媒の活性点解析およびポリプロピレン重合への応用

77期上期技術報告会 樹脂劣化の要因調査

化学I

Transcription:

触媒懇談会ニュース No. 83 October 1, 2015 触媒学会シニア懇談会 メタロセン重合触媒 元出光興産蔵本正彦 1. はじめにオレフィン重合触媒は 1950 年代の Ziegler-Natta 触媒の発明により PE PP が温和な条件で得られるようになった しかし 初期はまだ活性が低いため 後処理 ( 脱灰工程 ) が必要であった 当時は その触媒は Ti 化合物が塊のような状態で使用されており 実際の活性点は固体の表面のごく一部しか利用されていなかったため触媒効率も非常に低いものであった その後 活性種である Ti 化合物を Mg 化合物などの表面に担持する担持型高活性触媒の開発により 触媒効率も飛躍的に増大し 無脱灰プロセスなどシンプルプロセスが可能となっていった これらは不均一系触媒の展開である PP では PE と異なり効率だけでなく 立体規則性制御という課題があり 固体表面の活性点制御法としてエステルやシラン化合物などの添加剤を利用する方法等がとられてきた 不均一系触媒の歴史については 既報の触媒懇談会ニュース 1) で詳細に紹介されています 本稿では 均一系触媒のブレークスルーである 1980 年に発明されたメタロセン重合触媒 ( 代表的には Kaminsky 触媒 ) 2) を中心に紹介する 2. メタロセン重合触媒の発明 PE や PP が不均一系触媒を中心に発展していったが 均一系触媒については 当時 V 系触媒が知られていた程度である V 系触媒 (VCl4,V(acac)3/AlEt2Cl など ) は主 触媒 助触媒成分とも炭化水素溶媒に可溶な触媒系であり 低温で PP リビング重合 ( シンジオリッチ PP) が進行することが知られており ブロック PP や末端修飾 PP 製造などが検討されている また エチレンとα オレフィンとの共重合性も良いため 共重合用触媒として検討されている 均一系触媒は 活性点効率が極めて高い (~ 100%) という特徴があったので 均一系触媒で高活性触媒が見出されないかという期待はあった ただ 当時 活性や立体規則性という点ではまだ十分に高いものは得られていなかった メタロセン (Cp2MX2) 触媒に関する研究は Breslow らの Cp2TiCl2/Me3Al 系検討 3) や Reihert らの Cp2TiEtCl/EtAlCl2 系へ微量 H2O を添加することにより エチレン重合で活性が向上することが見出されていた 4) が メタロセン触媒を一躍有名にしたのは 1980 年 Kaminsky らによるメチルアルミノキサン (MAO) を助触媒とする超高活性触媒 Cp2MCl2-MAO(Kaminsky 触媒といわれる ) である 2) 切っ掛けは 学生が誤って水を入れてしまい MAO ができたことによるといわれている 3. カミンスキー (Kaminsky) 触媒カミンスキー触媒の代表例はジルコニウムを利用した Cp2ZrCl2-MAO 系触媒である この触媒はエチレン重合では

超高活性である(t/gZr レベル ) 分子量分布が狭い(Mw/Mn=2) 良共重合性(α オレフィン類 ) である 組成分布も狭い という特徴があった 一方 プロピレン重合では 活性は高く 分子量分布は狭いという共通の特徴を有するが 得られるポリマー (PP) がアタクト (app) であった mm=0.25 mr=0.50 rr=0.25 安全アタクトであり 非常に均質な活性点といえる ただ PP 製品の主流は高融点である結晶性の ipp( アイソタクト ) であり アタクトは副生物との位置づけであった 不均一系触媒 ( 担持型高活性触媒 ) の発展により 副生するアタクト成分が少なくなる方向であったので アタクト成分を有効に製造できる触媒ともいわれた ( 不均一系触媒で得られるアタクトは 溶媒可溶分であり ある程度結晶性を有する低分子量物混合物であり 均一系触媒で得られるアタクトとは厳密的には異なる ) メタロセン触媒は活性点が均質であるのでシングルサイト触媒ともいわれる ( これに対して不均一系触媒は 複数の活性種を有し 分子量分布も広いため マルチサイト触媒といわれる ) 当時 Kaminsky 触媒を評価した時は 特にエチレン重合において その活性が非常に高いのには驚いたものである 重合速度が速いため うまく制御しないと除熱が追い付かなくなるほどあった また 均一系触媒を用いたエチレン重合では 得られた PE が反応器の壁や攪拌翼に付着し 重合時間よりその後の掃除に時間をとられたものである 一方 PP は app であり 生成物がトルエンなどの炭化水素溶剤に溶解するため 溶液状態で得られるので 重合後の掃除は至って簡単であった ただ ポリマーを得るためには溶媒を留去するなど 分離をする必要があった 4. メタロセン触媒の展開 Kaminsky 触媒は前述のような特徴を有 しており 活性が非常に高く また得られるポリマーの分子量分布が狭いといった特徴があるが その魅力を更に引き上げたのが Ewen 5) や Brintzinger 6) らによる立体規則性 (ipp や spp) の発現である メタロセンは不均一系触媒と異なり シクロペンタジエニル (Cp) という有機化合物の配位子を有するため 有機合成で更に置換基を導入したり 架橋構造にするなど自由に修飾ができることである 架橋構造を有する C2 対称型の錯体触媒からは ipp が Cs 対称型の錯体触媒からは spp が得られることが分かった また C1 対称型の錯体からも ipp が得られた 7) このことは メタロセン触媒は 活性点の均質のみならず 活性点の構造制御により ポリマー構造の制御を可能とする技術を手にしたことになった まさに触媒設計への道が開けた その後のメタロセン触媒の開発は 有機金属化学に加え 錯体合成や有機合成 ( 配位子合成 ) に関する研究が精力的に研究され 非常に多くのメタロセン化合物が検討されていった 特にシリレン架橋型メタロセンでは シクロペンタジエニル (Cp) やインデニル (Ind) などに種々のアルキル置換基を導入することにより立体規則性も飛躍的に向上することができ 融点 (Tm) も初期の 130 レベルから不均一系触媒系に近づく 160 を越える PP が得られる触媒が開発されていった 8)9) 一方 架橋構造を持たないメタロセンについても検討がなされ プロピレン重合において Cp2ZrCl2 では末端がビニリデン基の app が得られるが (Me5Cp)2ZrCl2 (Me5Cp: 略号 Cp*) を用いると app ではあるが 末端がビニル基であるα-オレフィンが得られるという興味ある結果が得られた 10) Cp2ZrCl2 触媒 末端 CH2=C(CH3)~ Cp*2ZrCl2 触媒 末端 CH2=CHCH2~ Cp*2ZrCl2 触媒では 4-メチルペンテン-1 (4MP1) など分岐 α-オレフィンモノマーと

して利用できる低分子量プロピレンオリゴ マーが得られた これは置換基導入により β-h 脱離でなく β-me 脱離が起きるから と考えられている 11) また 水素添加によ り活性は向上し しかも 連鎖移動による 末端飽和はほとんど起きていないなど興味ある結果も得られた 12) Cp2ZrCl2 Cp*2ZrCl2 Et(THInd)2ZrCl2 ipr(cp)(flu)zrcl2 また Waymouth らにより 未架橋型メタロセンのインデニル基にバルキーなフェニル基などを付けることにより 回転が制御され スイッチメカニズムで重合が進行し ステレオブロック型の軟質系 PP が得られるなど興味ある結果が発表された 13) 一方 エチレン重合では 置換基が導入されたメタロセンを始め 拘束幾何型 (CGC) 錯体など疑似メタロセン型の錯体も開発され 14) HDPE や LLDPE などで高温溶液重合や気相重合 ( 粉体床重合 ) などでの工業化が進んだ しているのが メチルアルミキサン (MAO) である MAO は有機 Al であるトリメチルアルミニウム (Me3Al) と水との縮合生成物である Me3Al + H2O -(AlMeO)n- +CH4 有機 Al は水と激しく反応するため禁水性物質として知られている しかも Me3Al は汎用に使用されているトリエチルアルミニウム :Et3Al) よりも低沸点であり 空気中に出すとすぐに自然発火する化合物である MAO 合成は 禁水性物質と水を反応させるものであり 合成には十分な注意が必要である 当時 反応をマイルドにするために CuSO4 5H2O などの結晶水を利用する方法が多く用いられた Me3Al はアルキル基を 3 個有する 3 官能性である 一方 H2O は 2 官能性であるため 反応させ過ぎると一部架橋構造ができたり はたまた Al (OH)3 まで進行してしまうのでいかに反応制御するかがポイントであった メタロセン触媒として主触媒のメタロセンは 分子構造が明確であるが 助触媒である MAO の構造は非晶質であり 解析しにくいものであった 一般に 鎖状構造や環状構造のものと考えられているが 縮合度の異なるものの混合物や集合体であると共にそれぞれも会合した分子集合体である MAO には 反応によっては MAO 以外に未反応の Me3Al がフリーもしくは付加した形で存在するものもあると考えられている 触媒性能向上のために Me3Al の量を徹底的に除去した dry-upmao なども検討されている 拘束幾何型 (CGC) 錯体 5. メチルアルミキサン (MAO) についてメタロセン触媒の重要な助触媒の働きを 6. 助触媒について助触媒 MAO の働きとしては 活性種 ( カチオン種 ) を安定化する ( 弱配位性アニオン ) であると考えられた その他にもメタロセン (Cp2MCl2) のアルキル化や系のスカベンジャーとしての働きもするなど多様な働きをすると考えられた メタロセン触媒は 活性種である遷移金

属当たりの活性は非常に高くなったが 使用する助触媒 (MAO) の量が遷移金属に対して 1,000 倍から 10,000 倍と非常に多い 特に原料の Me3Al は汎用の Et3Al などの比べ高価であるので 助触媒当たりの活性も気にしなくてはならず 種々の検討がなされた MAO の主な働きとして 弱配位性のカウンターアニオンとして考えられており Jordan らにより 同様な働きをするカウンターアニオンとして特殊なボロン化合物が見出された 15) 特にベンゼン環に F が多く入った (C6F5) を有するボラン (B(C6F5)3) やボレート ( [ Ph3C ][ B(C6F5)4 ] や [PhNMe2H][ B(C6F5)4] など ) も効果的に働くことが分かってきた また 粘土鉱物なども担体助触媒として利用できる 16) など広がりを見せている 7. 新規ポリマーの創出 Kaminky 触媒の発明を切っ掛けに 新たな材料も見いだされた PP の立体規則性制御の話がでてきた同じ頃 1985 年に 全く別のアプローチで新規樹脂 ( シンジオタクチックポリスチレン :sps) が発明された 17) これはメタロセンを必ずしも必須としないが CpTiCl3 や Cp*TiCl3 などのハーフメタロセンが活性が高い sps は Tm=270 と高融点の結晶性樹脂であり ips に比べ結晶化速度も速く 工業材料として注目され その後 改良を加えて工業化された このように Kaminsky 触媒の発見は 新たな材料の創出 ( プロダクト変革 ) にもつながっている CpTiCl3 8. ポストメタロセン触媒への展開 メタロセン触媒は 世界中の大学 企業で盛んに研究がなされた その結果 この分野の研究は 1980 年から 2000 年にかけて一気に進んだといえる メタロセン触媒も狭義のビス Cp( シクロペンタジエニル基を2 個有するもの ) から モノ Cp( シクロペンタジエニル基を1 個有するもの ) を含めた広義のメタロセンまで非常に多くの化合物が合成され 評価された ipp では 立体規則性はかなり向上していったが Mg 担持型高活性触媒で得られたものよりも融点 (Tm) が若干低い これは メタロセン触媒では 1-2 挿入以外に不規則な2-1 挿入や1-3 挿入が混ざることが原因と考えられている 高立体規則性 ( 高融点 ) は不均一系担持型高活性触媒が広く用いられ メタロセン触媒は 特長のある良共重合性 ( 均質な組成分布 ) を活かしたランダム PP の製造 16) や低立体規則性 PP の製造 18) など特徴を活かした用途展開が図られている メタロセン触媒を機に触媒設計が進み その後 Brookhart 19) や Gibson 20) らによる Ni や Fe Co Pd などの後周期遷移金属とジイミンやピリジンビスイミンなどの中性配位子からなるエチレン高活性触媒も見いだされた これらも配位子の構造により PE( 鎖状及び分岐 ) やエチレンオリゴマー (α オレフィン ) が得られる また エチレンと極性モノマーとの共重合体が得られる結果も得られ 後周期遷移金属錯体触媒には エチレン重合のみならず これまで課題であった極性モノマーとの共重合体製造への期待が膨らんだ ただ ランダム共重合までいかず 末端に極性基が入ったもので極性基の含有量も少なかった しかし 特殊な配位子を有する Pd 錯体を用いるとランダム共重合体が得られるという結果が得られてきている 21) ただ 極性モノマーとの共重合はまだ活性が低いようである これらの触媒は 前述のメタロセン触媒に対してポストメタロセン触媒と呼ばれ

る 更に O や N などのヘテロ原子を有するキレート型錯体は Ti などの前周期錯体へと展開が広がっており エチレン超高活性触媒が見出されている 22) 更に希土類においても良好なホモ重合 共重合触媒が見出されてきている 23) 最近では エチレンオリゴマーへの展開も期待されており 3 量体 (1-ヘキセン) や 4 量体 (1-オクテン) などの選択合成触媒も前周期 24) 後周期 25) ともに見いだされており 更なる広がりをみせている 8. おわりにメタロセン触媒は 1980 年の Kaminsky 触媒の発明を機に触媒や新材料創出においていくつものブレークスルーを生み出してきた これらの研究の中からいくつも工業化まで進んでいる 携わった多くの研究者に敬意を表したい 今後も触媒技術の発展が新たな芽の創出 工業化への貢献がなされていくことを期待したい メタロセン触媒については多くの論文や総説 26) が書かれているので詳細はそれらをご覧いただきたい 不均一触媒 均一系触媒の開発 両方に携わった者として書きとどめたものである ご参考になれば幸いです 参考文献 1) 触媒懇談会ニュース,No.63,64,69,75 2)(a)H.Sinn,W.Kaminsky,H.J.Vollmer, R.Woldt,Angew.Chem.Int.Ed.Engl., 19,390(1980) (b)h.sinn,w.kaminsky, Adv.Organomet.Chem.,18,99(1980) 3)(a)W.P.Long,D.S.Breslow,J.Am.Chem. Soc.,82,1953(1960) (b) W.P.Long,D.S.Breslow,Justus. Liebings Ann.Chem.,463(1975) 4)K.H.Reihert,K.R.Meyer, Makromol.Chem.,169,163(1973) 5)(a)J.A.Ewen, J.Am.Chem.Soc.,106,6355(1984) (b) J.A.Ewen,R.L.Jones,A.Razavi, J.D.Ferrara,J.Am.Chem.Soc.,110,6255 (1988) 6)W.Kaminky,K.Kulper,H.H.Brintzinger, F.R.W.P.Wild,Angew.Chem.,Int.Ed. Ebgl.,24,507(1985) 7)S.Miyake,Y.Okumura,S.Inazawa, Macromolecules,28,3074(1995) 8)T.Mise,S.Miya,H.Yamasaki, Chem.Lett.,1853(1989) 9)W.Spaleck,F.Kuber,A.Winter,J. Rohrmann,B.Machmann,M.Antberg, V.Dolle,E.F.Paulus,Organometallics, 13,954(1994) 10)M.Watanabe,J.Matsumoto,M. Kuramoto,M.Uoi,Poym.Prep.Jpn., 37(2)134(1988) 11)L.Resconi et al.,j.am.chem.soc.,114, 1025(1992) 12) J.Matsumoto,M.Watanabe,M. Kuramoto,M.Uoi,Poym.Prep.Jpn., 37(2)135(1988) 13)(a)G.W.Coates,R.M.Waymouth, Science,267,217(1995) (b)e.hauptman,r.h.waymouth, J.W.Ziller,J.Am.Chem.Soc.,117,11586 (1995) 14)K.W.Swogger,Speciality Polyolefins Conference,Prep.,155(1992) 15)(a)R.F.Jordan,C.S.Bajgur,R.Willet,B. Scott,J.AmChem.Soc.,108,7410(1986) (b)c.sishta,r.m.hathron,t.j.marks, J.Am.Chem.Soc.,114,7875(1992). 16)(a) 平成 13 年度高分子学会賞 ( 技術 ) (b) 田中栄司, 第 3 回触媒科学国際フォーラム (2007) 17)(a)N.Ishihara,T.Seimiya,M.Kuramoto,M.Uoi,Macromolecules,19,2464(1986) (b)n.ishihara,m.kuramoto,m.uoi, Macromolecules,21,3356(1986) (c)syndiotactic POLYSTYRENE

Wiley(2010) (d) 平成 10 年度高分子学会賞 ( 技術 ) 18)(a) 平成 23 年度高分子学会賞 ( 技術 ) (b) 武部智明, 南裕, 金井俊孝, 成型加工, 21,202(2002) (c) 武部智明, 南裕, 高分子,89,853(2010) 19(a)L.K.Johnson,C.M.Killan,M. Brookhart,J.Am.Chem.Soc.,117, 6414(1995) (b) L.K.Johnson,S.Mecking,M. Brookhart,J.Am.Chem.Soc.,118,267 (1996) (c) B.L.Small,M.Brookhart,A,M.A. Bennett,J.Am.Chem.Soc.,120,4049 (1998) (d)b.l.small,m.brookhart, J.Am.Chem.Soc.,120,7143(1998) (e)s.d.ittel,l.k.johnson,m. Brookhart,Chem.Rev.,100,1169(2000) 20)G.J.P.Britovsk,V.C.Gibson,B.S. Kimberly,P.J.Maddox,G.A.Salon,A.J.P.White,D.J.Williams,Chem.Commun., 84,9(1998) 21) A.Nakamura,S.Ito,K.Nozaki, Chem.Rev.,109,5215(2009) 22)(a) 平成 17 年度高分子学会賞 ( 科学 ) (b)t.matsugi,t.fujita,chem.soc,rev., 32,1264(2008) (c) 寺尾浩志, 永井直, 藤田照典, 有機合成化学合成協会誌,66(5),444(2008) (d) 三谷誠, 藤田照典, 高分子,62(5),230 (2013) 23)(a) 平成 23 年度高分子学会賞 ( 科学 ) (b) 西浦正芳, 侯召民, 高分子,63(3),166 (2014) 24)(a)B.Hessen,J.Mol.Cat.A:Chemical, 213,129(2004) (b) 木下晋介, 三谷誠, 藤田照典, ファインケミカル,36(12)12(2010) 25)(a) 特公表 2002-532249 Phillips Petroleum Company (b)t.agapie,s.j.schofer,j.a.labinger, J.E.Bercaw,J.Am.Chem.Soc.,126, 1304(2004) 26)(a) メタロセン触媒と次世代ホ リマーの展望,( シーエムシー出版 )(1993) (b) メタロセン触媒によるホ リオレフィン製造 ( 反応工学研究会レホ ート-8), 高分子学会 (1997) (c) 槇尾晴之, 藤田照典, 触媒,54(5)347 (2012) (d) 野村琴広, 触媒,54(7),466(2012) など