第 15 週 人が人たる脳と心の科学 ( 化学 ) 先進理工学科 化学生物学研究室 准教授 生体機能システムコース 瀧真清 1
A.I. を使ったチャットは可能となったが http://cleverbot.com/ 感情を併せ持つ人工知能を作るのは極めて難しい (3 歳児程度でも無理 ) The Asahi Shinbun GLOBE, G-2, 人工知能, 2012.09.16 2
脳と心の化学 ベンゼン環よって支配された 我々の心 : 3
カントの人間学 (18 世紀 ) 高度 人間学 の中で 知り得ない と述べているような人間の脳も 少しずつ科学で解明 知性 : アミノ酸 (H 2 N-CH(-R)-COOH) によって作られる 感情 : アミノ酸が酵素によって 1 工程分解された アミン (H 2 N-R) によって作られる 原始的 猛毒分子だが 使用量がごく微量で良い利点がある 意欲 : ペプチド ( アミノ酸の重合物 ; 蛋白質分解物 ) によって作られる 4
人間の脳の進化 神経の電線に 絶縁体が覆うよう進化した! 電流効率が 100 倍に! 電気的漏洩なし! 高度 知性 100m/s: 音速の 1/3( 速い!!) 足の指先踏まれても 瞬時に痛い! 心 感情 原始的 意欲 脳と心の化学 大木幸介著 裳華房 5
知 ハイテクな有髄神経 ( デジタル PC) の場合 : 神経回路は どこまでも増やせる ( 頭はどこまでも良くなる ) 電気を利用した情報伝達 一時的に ON: 短期記憶 有髄神経伝達物質 グルタミン酸 ( 味の素 ) 受け取った細胞の電位発生を促し 興奮させる Figure 15-4c Molecular Biology of the Cell ( Garland Science 2008) 6
アミノ酸の一つ ( グルタミン酸 ) は ( 蛋白質の構成分子としてだけでなく ) 神経の情報伝達物質としても働く 本アミノ酸を神経伝達物質として生物が選んだ理由を推測してみる グルタミン酸 ( 味の素 ) 興奮 ( 電位を発生させる ) 酵素 GABA 脱 CO 2 リラックス ( 電位の発生を抑える ) 7
線路のつなぎ目のような 細胞と細胞とのつなぎ目 電気信号を 物質に変換している 狭いので 小型で化学的に安定で 体内でありふれた分子を使うのが有利 電気信号は デジタル信号 ( インパルス )! パルスの数によって 迅速 正確 定量的に伝わる 朝日新聞 2012.04.02 8
人間の脳の進化 Core2Duo: ただし デジタル CPU とアナログ CPU とが 1 台ずつ inside 私が人工知能 (AI) を創製するなら これを模倣する 高度 知性 感情 原始的 心 意欲 神経系は進化したが その元になった古いアナログ神経系 ( ホルモン ) は退化せずに残っている 9
原始的な アナログ型神経伝達物質 ( ホルモン ) 意欲 : ヒトの性欲の素ペプチド N 末端 : ピロ型 性周期 ( 排卵 ) など 性の全てを調整 ベンゼン環が 2 つも入っていることが興味深い ( 後述 ) 参考 : ハエ ( ) の性欲の素は の炭化水素 C 末端 : アミド型 戸田, Dickson, Cell Reports, 1, 1 (2012). ( オーストリア分子病理学研 ) 10
原始的な アナログ型神経伝達物質 ( ホルモン ) 意欲 : ヒトの性欲の素ペプチド N 末端 : ピロ型 性欲ペプチドは 動物共通のやる気の素ペプチド の進化型? N 末端 : ピロ型 やる気の素ペプチド C 末端 : アミド型 C 末端 : アミド型 やる気を 性欲に限定種を ヒトに限定 11
やる気の素ペプチド やる気になる状態 側坐核に多く存在するやる気ペプチド受容体蛋白質 (TRHレセプター) に結合する TRHレセプター ( 人間でのみ発達 ) 意欲を感じる側坐核 ( そくざかく ) の血流が活発になる やる気になる MRI 画像 12
人間の脳の進化 高度 知性 心 感情 原始的 意欲 13
情を司る神経伝達物質 原始的な無髄神経 ( アナログ PC) の場合 : アルカリ性で猛毒のアミンを使う ( 例 : ドーパミン ヒスタミン アドレナリン ) アミノ酸 ( ヒスチジン ) 酸性 アルカリ性 全体として中性 酵素 -CO 2 アミン ( ヒスタミン ) アルカリ性幸い 脳神経系にはアミン分解酵素が多いので 毒性は抑えられる 酸性 :COOH + H 2 O COO - + H 3 O + アルカリ性 :NH 2 + H 2 O OH - + NH 3 + 14
快感 / 創造分子 ( ドーパミン ) 人間の脳でのみ使われる ( 感情 ) ベンゼン環でなければ作れない強力な作用 A 10 神経 ( 快感 覚醒の神経 ) に作用 アミノ酸 ( チロシン ) 酵素 アミン ( ドーパミン ) ドーパミンの過剰分泌 : 創造的な天才 or 精神分裂病? ( 俗に言う 天才と狂人とは紙一重 ) 水溶性向上 参考 : トルエン 15
怒り ( ノルアドレナリン ) 恐れ ( アドレナリン ) ドーパミンから 更に酵素変換される これら分子の割合 ( バランス ) によって性格が形成 犬猫 猿はそういえば笑わない? 喜 人間だけが使用 ドーパミン ( 快感 / 創造 ) 多すぎると 元気になりすぎて躁病 少なすぎると 鬱病 怒 哀 殆どの動物が使用 ( 前述のやる気の素ホルモンにより分泌 ) ノルアドレナリン ( 怒り 覚醒 ) 魚の脳内でも使用されている アドレナリン ( 恐れ 悲しみ ) 16
ドーパミン結合蛋白質 精神安定剤 喜 人間だけが使用ドーパミン ( 快感 / 創造 ) ドーパミン結合蛋白質に結合して ドーパミン経路を遮断し 心を落ち着かせる ( 元気のありすぎる人を治療する ) x 予想とは真逆で 鬱病に絶大な効果 ( 元気がなさすぎる人を治療する ) 17
精神安定剤 怒 ノルアドレナリンは 細胞膜蛋白質に結合せず自由な状態 脳内で作用できる 覚醒 ( 怒 ) 状態がおさまらない ノルアドレナリンに結合する細胞膜蛋白質 ーパミン合蛋白質 x 予想とは真逆で 鬱病に絶大な効果 ( 元気がなさすぎる人を治療する ) ノルアドレナリンの吸収を阻害し 脳からノルアドレナリンがなくならないようにする 18
情はベンゼン環で駆り立てられる ベンゼン環は自然界にて稀少で特別なもの エネルギーとなる糖質 : ベンゼン構造は全くなし ( 分解利用できないから ) 脂質 : 例外除き 全くなし ( 細胞膜に 特別な化学反応性は不必要 ) 男性ホルモン 環化酵素 例外 : 女性ホルモン ベンゼン環が男女差をつくった!! 19 発ガン物質の殆どにはベンゼン環が 少しでもベンゼン環の利用を間違えると恐ろしいことに
タバコの功罪 Acetylcholine receptor ドーパミン 喜 アセチルコリンまたはニコチン アセチルコリン受容体蛋白質に アセチルコリンが結合し ドーパミン ( 快感 創造分子 ) が出る アセチルコリンとニコチンとの構造類似性 ニコチン Acetylcholine receptor に結合するアゴニスト ( アゴニスト : 同じ働きをする物質のこと ) アセチルコリン 20
アセチルコリン受容体蛋白質 基質結合ポケットの拡大図 ニコチン分子 参考 : アセチルコリン ニコチンとアセチルコリン受容体蛋白質との結合体 PDB ID: 1UW6 P. H. N. Celie et al., Neuron, 41, 907 (2004). 21
ニコチンを擬態する禁煙薬 ニコチン分子 bupropion 分子 アメリカで広く用いられている日本では未承認 ニコチンのかわりに結合するので タバコを吸ってもあまり満足感が得られなくなる 禁煙薬としての効果が確認される前は 鬱病治療薬として研究 販売されていた 従って 禁煙時の離脱症状である気分の落ち込みを防ぐ効果も期待できる 22
分子科学的脳トレ ( 創造力を鍛える方法 ) 良い睡眠を取って ドーパミンを脳内にためる ドーパミン合成経路は 睡眠中に活性化される 創造を要求する思考は 側坐核の A 10 神経が活動しうる 快感を生じる快適な環境下 で行 う やる気ペプチドが受容体に結合し 側坐核 ( そくざかく ) の血流が活発になる 喜 やる気になる上に ドーパミン分泌も促す ドーパミン : 創造分子 MRI 画像 やる気 + ドーパミン 創造 23
本日のまとめ 心をつかさどる分子 ( 神経伝達物質 ) は 蛋白質を作るパーツ ( アミノ酸 ) を流用しており 芳香環構造を含んでいる 神経伝達物質 : 感情 :( アミノ酸が脱炭酸した ) アミン意欲 :( 蛋白質加水分解物である ) ペプチド 24
おわりにー雑感ー 人間の制御できる範囲を超えそうな ( 超えてしまった ) 突出した科学技術と 殆ど進展していないそれとが混在する 動物のクローンは作れるし PC や IT の発展はすごい 癌はなおっていないし エネルギー問題も決定打がない ストレスや鬱 新型インフルやゴミ問題など 新たな憂いも 完全な科学技術などなく 沢山の矛盾やリスクの上に現代社会は成り立っている 科学技術を適切に扱うためには 哲学と倫理が不可欠 それらの土台づくりが 大学や大学院 ( 高等教育 ) の役割と私は考える 特に技術者志望の人に考えていただきたいこと : 問題の本質は何なのか それを踏まえて自分 ( 達 ) には何ができるか 何をやるべきか やってはいけないか? 25
H25 年度生物学期末試験 (50 点満点 : レポート形式 ) 問 : 以下の設問に対し 科学的かつ論理的に回答せよ その際 一般の大学一年生が分からない専門用語の乱用は厳禁 ( 減点対象 ) とする つまり 難解な語句や言い回しを使用することなく 自分なりの言葉で簡潔に分かりやすく論述すること 図表や化学構造式を使うなど 視覚的にも見やすい工夫をすることも望ましい 1. DNAと蛋白質とを比較し お互いの分子構造や役割のA. 共通点 B. 類似点 C. 相違点 D. 互いの関連性 についてそれぞれ述べよ ( 配点 25 点 )
2. 酵素と抗体とを比較し お互いの分子構造や役割の A. 共通点 B. 類似点 C. 相違点 D. 互いの関連性 についてそれぞれ述べよ ( 配点 25 点 ) 3. ボーナス問題 ; 難問のため 回答は必須ではないある種のヨーグルトを食べ続けるとインフルエンザにかからなくなる と言われている インターネットや論文等で実験データおよび原理を検証せよ その上で あなた自身が正しい科学的根拠に基づいて考察し その真偽について結論付けよ なお 上記キーワード ( DNA 蛋白質 酵素 抗体 ) を最低一回は本文中に使用すること
注意点 提出日時 場所 : 2/14( 金曜 ; 厳守のこと ) 東 6 号館 3 階事務室前のレポート提出用ボックス 何らかの事情があって提出が遅れる場合は 正当な理由をこの日までに連絡すること 連絡なき遅提は採点の対象としない 補講を含め 6 割以上の出席を満たしている人のみが 期末試験の受験資格を保有する 自分が今何回出席しているか等の 出席回数に関する質問は受け付けない ( 受講している以上 毎回出席するのが当然である ) 学籍番号と名前は明記すること 参考文献や web の URL は明記すること 自分が考えた事柄ではなく 調べた事柄に対して出典の記載がない場合は 盗作とみなし減点の対象となる
本文は手書きのみ受け付ける ( 手書きの履歴書などを書くとき 読み手の立場に立って書くトレーニングを兼ねる ) 殴り書きや著しい汚染のあるレポート等は受け付けないので 丁寧に書くこと 不正行為について : 全く同一内容 ( 人の丸写し ) のレポートがあった場合は 双方をカンニングとみなし厳正な処置を取る ネットの単なるコピペにはある種の対策をとっており 発覚した場合には剽窃と見なし 同様の処置を取る 本期末レポートは 試験です 試験は厳正なものであり 出席基準を満たしていても 単位を出さないこともあります もちろん 全員が合格の最低基準を満たしていたら 全員合格もあり得ます 昨年度 : 出席基準を満たしているにもかかわらず不可になった人は レポート提出者の 4%