資料 3-2 科学技術 学術審議会先端研究基盤部会量子科学技術委員会 ( 第 3 回 ) 平成 28 年 5 月 1 日 平成 28 年 5 月 1 日第 3 回量子科学技術委員会 光格子時計の測地分野での利用可能性 国土交通省国土地理院測地部物理測地課矢萩智裕 Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism Geospatial Information Authority of Japan 1
はじめに 国土地理院の使命 : 正確な位置の基準を与える ( 計測する ) こと 高さ ( 標高 ) の計測 現在は水準測量を主に標高を決定 コスト面 長距離での精度で課題もあり 本日の話題 〇日本における 高さ の決め方 - 水準測量の現状と課題 〇測地分野での光格子時計の利用 - 測地アプリケーションとしての期待 〇今後の展望 - 光格子時計への期待と利用に向けた課題 2
高さ基準系における 3 つの 高さ 標高 = 楕円体高 - ジオイド高 実用的な高さ 幾何学的な高さ ( 地表の形状 ) 標高の基準 ( 平均海水面 ) 標高 平均海面 ( シ オイト ) から地表までの高さ ( 例 ) 日本の標高の基準 : 東京湾平均海面 水準測量から決定 楕円体高 地球楕円体面から地表までの高さ GNSS 測量から決定 アメリカの GPS 衛星や日本の準天頂衛星等の測位用人工衛星 ジオイド高 ( 参考 ) 重力の影響 地表面 ジオイド 地球楕円体面から平均海面までの高さ 重力の等ポテンシャル面の一つ 地球内部の質量分布の不均質を反映した凹凸あり 標高 陸地 重力 重い物質 水平な地表面でも重力分布によって水が流れる 標高決定には重力を考慮する必要あり 3
水準測量 水準儀と二本の標尺で高低差 ( 比高 ) を測って標高を決める 標尺間は 最大で 1m レベルと標尺間は等距離 水準測量による標高測定 水準測量の様子 重力の等ポテンシャル面が平行なら 観測比高の和 = 標高 実際は地下の質量分布により勾配が変わり 等ポテンシャル面は平行ではない B つまり Σiδhi (AB 間の標高 ) 重力ポテンシャル数 を定義 W = -Σi (δhi gi) 経路によらず一定値 ( 保存量 ) ジオイド 4
水準測量結果からの標高算出 地下の重力の分布について なんらかの仮定を導入し ジオイド ~ 地表間の平均の重力値で割ったものが標高 標高 = 重力ポテンシャル数 / 地下の平均的な重力値 1 正標高 日本の標高 地下の重力分布を仮定して求めた 各点の地下の重力値の平均値で補正 ΔF=Σ i gi γ γ h i +H -γ 2 力学高理論的に計算可能な重力値で補正 P ( 緯度 45 度における正規重力値 ) ΔH=Σ i g i γ γ h i G p γ - 水準点 P H Q G Q -γ γ 求める比高 Δh ΔF: 正標高補正量 (m) ΔH: 力学高補正量 (m) g i : 各水準点における重力値 (mgal) Δh i : 各水準点間の観測比高 (m) γ : 基準緯度 45 での正規重力値 (mgal) H P H Q : 水準点 P Qでの正標高 (m) 求点は概算正標高 G P G Q : 水準点 P Qでの鉛直平均重力値 (mgal) 鉛直平均重力値 : 地表からジオイド面までの平均重力値 水準点 Q Q 1 P 観測比高 静水面 等ポテンシャル面 ジオイド面 P Q 5
水準測量による標高決定の課題 1 維持管理に多くの時間と費用が必要 一等路線は 24,km で全国を網羅 基本路線 (14,km) を 1 年かけて繰り返し観測 結果を網平均することで標高を計算 空間的 時間的に整合した値 ( 例 )H23 東北地方太平洋沖地震後の標高改測 水準測量実施におよそ半年を要した 一等路線基本路線 点数等級点間距離 基準水準点 84 15km 水準点 17,5 一等水準点 13,825 2 km 二等水準点 3,141 2 km (H27.4.1 現在 ) 6
水準測量による標高決定の課題 2 路線が長くなるほど誤差が累積 水準測量における誤差要因 標尺の熱伸縮に伴う誤差 日射の片照りにより南北路線で影響 温度鉛直勾配による光路屈折の誤差 高低差のある路線で影響 補正に使用する重力値誤差 正標高補正時の重力値に含まれる誤差 天文 / 海洋潮汐等による時間変化 潮汐運動に伴うポテンシャル面の傾斜変化 大気 / 海洋 / 積雪等による変化 荷重に伴う地表面 / ホ テンシャル面の傾斜変化 っ 計測を繰り返すことによって累積 水準測量の許容範囲 :k ( 路線長 ) 未発表データのため 画像を表示しておりません 7
宇宙測地技術を用いた標高測定 GNSS 衛星を活用した標高決定 GNSS 衛星 GNSS 測量で楕円体高を測定 ジオイド高の分布があれば楕円体高から標高を計算可能 高精度ジオイド モデルの提供 ( 日本のジオイド 211) 楕円体高 h (GNSS 測量 ) GNSS 測量機 水準点 H 標高 ( 水準測量 ) N ジオイド高 重力ジオイド モデル JGEOID28 ジオイド高データ (GNSS 結果 - 水準結果 ) 日本のジオイド 211 8
ジオイド モデルの整備と課題 高精度ジオイド モデルの整備 GNSS 測量から水準測量と整合した迅速な標高決定が可能 標準偏差 :1.9cm 最大差 :8.3cm (-6.2cm) GNSS 衛星と GNSS 稠密観測網 (GEONET) 実測ジオイドとジオイド モデルとの差 課題 ジオイド モデル : 楕円体高と標高との換算テーブル 水準測量の誤差やモデル誤差を内包 現在は低次の水準測量にのみ GNSS 測量が利用可能 9
光格子時計 21 年に東大の香取秀俊教授が発案 レーザ光の干渉で形成した光の格子に 1 万個の原子を閉じ込め レーザ冷却で原子のドップラー効果を抑制 原子が吸収する光の周波数を測定することで時間の歩度を計測 時計精度 : 1 1-18 s ERATO 香取創造時空間プロジェクト HP より セシウム原子時計と比べて約 1 倍の精度 高さや運動に伴う時間の歩度の違いを計測 重力ポテンシャル差の算出 高精度な高低差計測ツールとしての利用可能性 1
重力ポテンシャル差と比高 相対論的測地学 (Relativistic geodesy)(bjerhammar,1986) アインシュタインの一般相対性理論より IERS Conventions 21 の式 (1.7) 〇ジオイド面上 (U E = 62,636,853 m 2 s -2 ) 1 秒あたり 1 億分の 7 秒の歩度の遅れ 〇高低差 1m の重力ポテンシャル差 約 1 1-16 秒の歩度の差 〇光格子時計の精度 ( 約 1 1-18 秒 ) で計測できる量 重力ホ テンシャル差 : 約.1m 2 s -2 高低差 : 約 1cm 11
水準測量と光格子時計による比高差比較 東大地震研 ( 本郷 )~ 理研 ( 和光市 ) との間で水準観測を実施 期間 H25.1/18~H26.2/28( 延べ作業 :15 日 ) 距離 36.6km 相対重力測定 9 点理化学研究所 ( 和光市 ) 相対重力測定 (9 点 ) 東大地震研 ( 本郷 ) 水準測量 (36.6km) っ 観測結果を香取研へ提供 光格子時計の測定結果と比較 未発表データのため 画像を表示しておりません 12
標高決定に係る光格子時計への期待 水準測量による標高決定の課題 測定に要する時間 / 費用コストが大きい 測定回数や距離に依存して誤差が累積 時間分解能が低い 光格子時計の強み 地上で重力ポテンシャル差を直接計測できる現状唯一の手段 距離に依存した計測誤差がない 計器ドリフトの心配がなく高精度な連続観測が可能 物理基準に基づかないため 機器検定等の必要が無く再現性が高い 測地分野での利用可能性 標高体系の根幹となる基準点としての利用 距離に依存せず迅速に高精度な標高を決定 水準測量と組み合わせた迅速な復旧 復興測量の実施 高精度ジオイド モデルの維持管理のための利用 GNSS 水準測量の高精度化 13
利用に向けた課題 測地学的利用に向けた光格子時計の課題 遠隔地間の安定したファイバネットワークの構築 装置の小型化 軽量化 重力ポテンシャル差の観測精度向上 重力ポテンシャル差 測地学的比高への換算手法の精査 14