研究論文 1369 * 須山謙太 1) 伊藤直也 ) 寺島昂 3) 東條智也 ) 飯島晃良 5) 吉田幸司 6) 庄司秀夫 7) Experimental Research on Rapid Combustion in HCCI Engines. Kenta Suyama Naoya Ito Akira Terashima Tomoya Tojo Akira Iijima Koji Yoshida Hideo Shoji HCCI engines have attracted widespread attention as high-efficiency and low-pollution combustion systems. The authors have conducted experiments to visualize rapid combustion in the cylinder accompanied by cylinder pressure oscillations and have also investigated the factors influencing rapid combustion in HCCI engines. The results have shown that in combustion accompanied by cylinder pressure oscillations a highly brilliant flame occurs simultaneously over a wide area of the combustion chamber almost instantaneously. It has also been found that the rapidity of HCCI combustion is influenced by the ignition timing and the quantity of heat produced per cycle by the injected fuel. KEY WORDS: Heat Engine, Homogeneous Charge Compression Ignition, Combustion Analysis, In-Cylinder Visualization, Rapidity of Combustion (A1) 1. はじめに近年, 環境汚染問題や自動車の低燃費化への対応が求められる社会的背景より, それらの課題が解決可能な次世代の内燃機関として予混合圧縮着火 (Homogeneous Charge Compression Ignition 以下 HCCI) 機関が期待され, 広く研究されている (1) ~ (7). HCCI 機関は高圧縮比かつ火炎伝播限界を超えた希薄領域での燃焼が可能であり, シリンダ内局所での燃料濃度不均一性が小さいという特徴を持つ. これらの特徴より, 高効率であり, 窒素酸化物 (NOx) 及び粒子状物質 (PM) の同時低減が可能であることから低公害な燃焼であるとされている. しかし, HCCI 機関はガソリンエンジンにおける点火プラグのような物理的着火起因が存在せず, 着火及び燃焼は混合気の化学反応に大きく影響されるため, 着火時期の制御が困難であり, また, 高負荷時の急峻な燃焼の抑制が必要であるという課題が存在する (8) ~ (1). 特に高負荷時の急峻な燃焼は HCCI 機関の運転領域拡大の大きな妨げになっており, HCCI 機関においても, 条件によっては SI 機関のノッキングのように圧力振動を伴う異常燃焼が起こることが知られている (13). そこで, 著者らはこの HCCI 機関の急峻な燃焼に着目した. 本研究ではボア全面が可視化可能である ストローク可視化エンジンを用いて, 圧力振動を伴うような急峻な燃焼が起こる場合の燃焼の様子を観察し解析した. また, *13 年 3 月 8 日受理. 1) ) 3) ) 日本大学大学院理工学研究科 (11-838 東京都千代田区神田駿河台 1-8-1) 5) 6) 7) 日本大学理工学部 (11-838 東京都千代田区神田駿河台 1-8-1) HCCI 機関の急峻な燃焼が起きる条件を調べるために, HCCI 機関の着火及び燃焼に大きな影響を与えていると考えられる, 圧縮比, 投入熱量, 着火時期, オクタン価が HCCI 機関の急峻な燃焼に与える影響について調べた.. 実験装置及び実験方法.1. 供試機関仕様及び実験条件本実験に使用した供試機関の仕様を表 1 に示す. 供試機関には, シュニーレ掃気方式の二ストローク空冷単気筒ガソリン機関を用い, 回転数は 1 rpm 一定, スロットル開度は全開で実験を行った. 圧縮比は 11, 13, 15 の 3 つの条件で行った. 圧縮比の変化方法は. 章に示す. 供試燃料には自己着火が容易な燃料であるノルマルヘプタン (n-heptane ( RON)) 及び自己着火が困難な燃料であるイソオクタン (iso-octane (1 RON)) の混合燃料 (PRF) を使用した. 本実験の燃料条件を表 に示す. Table 1 Specifications of test engine and test condition Stroke Air Cooled Single Cylinder Gasoline Engine Bore Stroke Displacement Type of Scavenging Timing Exhaust Port Closing Timing Effective Compression Ratio Engine Speed Throttle Test Fuel 7 6 mm cm 3 Schnürle 16 deg. BTDC 11, 13, 15 WOT n-heptane ( RON) iso-octane (1 RON) Vol.,No.5,September 13. 1175
Table Fuel injected heat value condition Case No. Octane Number Case 1 Case Case 3 Case Case 5 Case 6 5 Fuel Injected Heat Value [J/cycle] 33 38 33 38 A-D Converter Total Equivalence Ratio, [-].6.7.8.6.7.8 Hi speed Camera Mirror A Quartz Window = 7 mm Spacer Computer Cylinder Pressure Charge Amplifier Cylinder Head Mirror Fig. Quartz Window Exhaust Gas Temperature Heater Laminar Flowmeter Scavenging Gas Temperature Crank Angle Pick-up Dynamometer Fig. 1 Configuration of experimental equipment.. HRR [J/deg.] Hi-speed Camera Intake Gas Temperature Fuel In-cylinder visualization position and compression ratio change method (Hot Flame) HRRMAX [J/deg.] Ignition Timing, IT.1 HRRMAX Crank Angle, Fig. 3 Definition of ignition timing, cool flame timing and ignition delay 測定項目及び測定位置 実験装置の概略図を図 1 に, 可視化実験の測定位置及び圧 縮比の変化方法を図 に示す. 主な測定項目はシリンダ内圧 力 (), 吸気温度 (Tin [K]), 掃気温度 (Tsc [K]), 排気温 度 (Tex [K]) である. シリンダ内圧力はシリンダヘッド側部 に取り付けた水晶圧力変換器を用いることで測定し, 吸気温 dpmax >.3 [MPa] ト出口部に K 型シース熱電対を取り付けて測定した. また, 本実験では圧縮比を変化させるため, シリンダヘッドと石英 観測窓の間に挟むスペーサーの厚みを変化させ, 隙間容積を 度, 掃気温度, 排気温度は, 吸気管, 掃気ポート及び排気ポー 変えることで圧縮比を設定した (図 ). この際, 本研究では -3 使用していないが分光計測を行っており, その光路を確保す -15 TDC 15 Crank Angle, 3 Fig. Definition of knocking るためにピストンヘッド上部に溝を設けてある (図 の A). 可視化画像においてこの溝の部分が明るく光って見える場合 があるが, これは溝がある部分の厚みが厚くなるため明るく.3. 見えていると考えられる. 可視化実験はシリンダヘッド上部 本実験では着火時期 (θit ) を, 熱炎においての熱発 に石英観測窓を取り付け, 鏡を図 のように設置し, 筒内の 生率最大値 (HRRMAX) の 1 % に達した時期とした (図 3). 様子をハイスピードカメラで直接撮影した. なお撮影速度は また, 圧力振動の有無を圧力振動の振幅の最大値で定義した. 5 fps.111 deg. / frame), 解像度は 56 56 pixels で撮影 圧力振動の振幅の最大値 (dpmax) が.3 [MPa] 以上となる した. とき, 圧力振動が起きた定義とした. 定義図を図 に示す. 1176 自動車技術会論文集-Vol_No5本文_+.indd 着火時期および圧力振動の有無の定義 自動車技術会論文集 36 13/9/ 19:1:57
dp/d B.111 deg. 3.3 deg. Case 1 (Without ) C 3 1 Case 1 ( = 11) Case ( = 11) Case 3 ( = 11) D 1..5 Tsc = 363 K. -3-15 TDC 15 Crank Angle, Fig. 5 1. deg. 3.111 deg. 8.3 deg. Case ( (dpmax =.3)) Typical waveforms (Change Qt, Constant Tsc) 3 実験結果及び考察 3.1. 圧力振動を伴う HCCI 燃焼の筒内可視化 高負荷時の急峻な燃焼の際にみられる圧力振動を伴う燃焼 の様子を観察するために, 掃気温度一定で投入熱量を増加さ せる実験を行った. 図 5 に Case 1, Case, Case 3 の燃料条件 で, 圧縮比 11, 掃気温度 363 K 一定としたときの筒内圧力, 熱発率, dp / d の測定波形を示し, そのときの筒内可視化画 像を図 6 に示す. 図 5 の圧力波形に着目すると Case, Case 3 の条件では圧力振動が起こっていることが確認できる (領 域 B). また, 熱発生率と dp / d の測定波形に着目すると投入 6. deg. interval a.111 deg. 11.3 deg. Case 3 ( (dpmax =.8)) 熱量の増加に伴い着火時期が進角し (矢印 C), dp / d の最大 値も増加していることが確認できる (矢印 D). これらのこと より掃気温度一定で投入熱量を増加させると燃焼が急峻にな り, ある条件を超えると圧力振動を伴うような燃焼が起きる ことが確認できる. ここで, 図 6 の筒内可視化画像に着目す ると, 圧力振動が確認されない Case 1 の条件では火炎が発生 から終わりにかけ徐々に分散して生じているが, 圧力振動が 起こっている Case の条件では短い期間 (interval a) に大き な領域で同時に火炎が急速に発生しており, それらの火炎の 輝度が高くなっていることが確認できる. また, より強い圧 力振動が起きている Case 3 の条件の方がより大きな領域で, interval b 9. deg. Fig. 6 Visualization results (Change Qt, Constant Tsc) 輝度も高い燃焼になっていることが分かる (interval b). これ は, 火花点火機関において末端ガスが急激に自着火し, 圧力 の圧力上昇率を低減させるために燃料濃度や温度, EGR 濃度 振動によりノッキングが生ずるのと似たように, HCCI 機関 等に斑をもたせ, 分散して自着火させることは圧力上昇率の においても燃焼室内の温度差等で自着火しやすい場所から自 低下には有効ではあるが, 条件によっては, 本実験の実験結 着火が起こり, 自着火していない部分はこの自着火した火炎 果のように圧力振動を伴うような燃焼が起きる可能性がある に断熱圧縮され, 急激に燃えることで図 6 のような輝度の高 と考えられる. なお, 以上の HCCI 機関においての急峻な燃 い燃焼が起きたと考えられる. そして, そのような急激な燃 焼時における圧力振動の発生モード, 周波数特性および火花 焼が圧力振動を起こす原因となっていると考えられる. この 点火機関のノッキングとの比較については今後調査, 解析す ことは, 圧力振動が起きていない条件ではこのような急激な る必要があると考える. 燃焼がみられないことからも確認できる. よって, HCCI 機関 Vol.,No.5,September 13. 自動車技術会論文集-Vol_No5本文_+.indd 37 1177 13/9/ 19::
dp / d max. 1..5 I F J Case 1 ( 11) Case 1 ( 13) Case 1 ( 15) Case ( 11) Case ( 13) Case ( 15) Case 3 ( 11) Case 3 ( 13) Case 3 ( 15). - -15-1 -5 TDC 5 1. - -15-1 -5 TDC 5 1 Fig. 7 Ignition timing vs. dp / d max (PRF ) Fig. 8 Ignition timing vs. dp / d max (PRF, Case 1) dp / d max. 1..5 E Case 1 ( 11) Case 1 ( 13) Case 1 ( 15) 3.. HCCI 機関の燃焼の急峻さに及ぼす要因 HCCI 機関の燃焼の急峻さに及ぼす要因を調べるために, 圧縮比, 投入熱量を変化させた実験を行った. 図 7 は Case 1 Case, Case 3 の燃料条件で, 圧縮比をそれぞれ 11, 13, 15 と変化させたときの着火時期と dp / d max の関係を示した図である. なお, 本研究では圧力振動の有無を. に示す定義に従い判断しており, 圧力振動が起きている条件は白抜きプロットで示し, 圧力振動が起きていない条件では塗りつぶしたプロットで示してある. 図 7 を用いて, 圧縮比, 投入熱量, 着火時期が HCCI 機関の燃焼の急峻さに与える影響を調べ, 3..1 ~ 3..3 までに示す. また, 図 7, 8, 1, 13 のプロットは全て単一サイクルを示したものである. 3..1 圧縮比が燃焼の急峻さに与える影響圧縮比が燃焼の急峻さに与える影響を調べるために, 図 7 の Case 1 の燃料条件のみを抜き取ったものを図 8 に示す. 図 8 に着目すると圧縮比を高めると全体的に着火時期が進角し, dp / d max の値も大きくなっている傾向はみられるものの ( 矢印 E), 同一の着火時期でみると dp / d max の値に大きな変化がないようにみえる. また, 圧力振動もほぼ同じ領域で起きていることが分かる. そこで, 圧縮比の変化が与える影響を詳細に調べるために, Case 1 の燃料条件で着火時期を一定にして圧縮比を 11, 13, 15 と変化させたときの筒内圧力, 熱発生率, dp / d の測定波形を図 9 に示す. 図 9 の筒内圧力, 熱発生率波形に着目すると, 圧縮比を変化させても, 主燃焼時の挙動にあまり変化がみられないことが確認できる. また, dp / d の波形にも変化がみられない. これは, より高圧縮比の方が高圧で自着火するため, 急峻な燃焼になりやすいと考えられるが, 高圧縮比では, 燃焼室形状の扁平化等により冷却損失が増加する等の影響もあると考えられる. これらの結果, 圧縮比を変化させても燃焼の急峻さに大きな違いが生じなかったものと考えられる. つまり, 図 7, 8 に示される投入熱量の増加や着火時期の進角の影響の方が相対的に大きく, 圧縮比の影響は明確には現れなかったものと考えられる. dp/d dp/d 3 1 1..5. 3 1 1..5. -3-15 TDC 15 3 Crank Angle, Fig. 9 Typical waveforms (Change, Constant IT ) G H Case 1 ( = 11) Case 1 ( = 13) Case 1 ( = 15) IT = - 7 deg. ATDC Case 1 ( = 13) Case 3 ( = 13) IT = - 1 deg. ATDC -3-15 TDC 15 3 Crank Angle, Fig. 1 Typical waveforms (Change Qt, Constant IT ) 3.. 投入熱量が燃焼の急峻さに与える影響図 7 に着目すると, 着火時期が同じ条件では投入熱量が多い条件の方が dp / d max の値が高くなっていることが確認でき, 直線 J を超えると圧力振動を伴う燃焼が起きていることも確認できる ( 領域 F). このときの燃焼の詳細を調べ 1178 自動車技術会論文集
dp/d 3 1 1..5. K dp/d max =.85-3 -15 TDC 15 3 Crank Angle, Fig. 11 Typical waveforms (Change Q IT, Constant dp / d max) るために, Case 1, Case 3 の燃料条件で着火時期, 圧縮比を同一としたときの筒内圧力, 熱発生率, dp / d の測定波形を図 1 に示す. 図 1 の圧力波形に着目すると, 投入熱量が多い Case 3 の条件では圧力振動が起きていることが確認できる ( 領域 G). また, このときの dp /d の値も大きくなっている ( 矢印 H). これは, 投入熱量が大きいために単位時間での発生する熱量が増加したためであると考えられ, 投入熱量は燃焼の急峻さに影響を与えると言える. 3..3 着火時期が燃焼の急峻さに与える影響図 7 に着目するとどの燃料条件, 圧縮比においても着火時期が進角すると dp /d max の値も大きくなっていることが確認できる ( 矢印 I). また, 圧力振動の有無に着目すると, 投入熱量が少ない条件の方がより進角した条件まで圧力振動が起きないことや, 着火時期が遅い条件の方が圧力振動が起こる dp / d max の値が高いことが確認できる ( 線 J). 例えば着火時期 -1 deg. 付近をみると dp / d max が.7 ~.8 になったときに圧力振動が起き始めているのに対して, 着火時期 - 5 deg. 付近をみると dp / d max が 1. くらいになったときに圧力振動が起き始めていることが確認できる. そこで, dp / d max を一定として着火時期を変化させた場合の測定波形の比較を行った. 図 11 に Case 1, Case 3 の燃料条件で, dp / d max, 圧縮比を一定として着火時期を変化させたときの筒内圧力, 熱発生率, dp / d の測定波形を示す. 図 11 の圧力波形に着目すると, 着火時期が早い Case 1 の条件では圧力振動が起こっているが ( 領域 K), 着火時期が遅い Case 3 の条件では圧力振動が起こっていないことが確認できる ( 領域 L). これらより, HCCI 機関の圧力振動は圧力上昇率だけではなく, 着火時期や投入熱量も影響し, これらの影響により圧力振動の起こりやすさが変わってくると考えられる. また, 着火時期は dp /d max と圧力振動の有無の両方に影響を与えていることから, HCCI 機関の急峻な燃焼に大きな影響を及ぼしていると考えられる. L dp / d max =.85 Case 1 ( = 13) Case 3 ( = 13) dp / d max dp / d max. 1..5. -15-1 -5 TDC 5 1 15 Fig. 1 Ignition timing vs. dp / d max (PRF 5). 1..5 dp/d M N. - -15-1 -5 TDC 5 1 3 1 1..5. 3.3. オクタン価の変化が燃焼の急峻さに与える影響オクタン価の変化が燃焼の急峻さに与える影響を調べるために, オクタン価の変化が dp / d max や圧力振動の有無に影響を与えるかどうかを調べた. 図 1 にオクタン価 5 である Case, Case 5, Case 6 の燃料条件で圧縮比をそれぞれ 11, 13, 15 と変化させたときの着火時期と dp /d max の関係を示す. また, オクタン価 の場合と比較するために, 図 13 O Case ( 11) Case ( 13) Case ( 15) Case 5 ( 11) Case 5 ( 13) Case 5 ( 15) Case 6 ( 11) Case 6 ( 13) Case 6 ( 15) Case ( 11) Case ( 13) Case ( 15) Case 5 ( 11) Case 5 ( 13) Case 5 ( 15) Fig. 13 Ignition timing vs. dp / d max (PRF and PRF 5) Case ( = 11) Case 5 ( = 11) IT = - 3.5 deg. ATDC -3-15 TDC 15 3 Crank Angle, Fig. 1 Typical waveforms (Change Octane number, Constant IT ) Vol.,No.5,September 13. 1179
に Case, Case 5 の燃料条件での着火時期と dp /d max の関係を, 図 1 に Case, Case 5 の条件で, 圧縮比, 着火時期を一定としたときの筒内圧力, 熱発生率, dp /d の測定波形を示す. 図 1 よりオクタン価 5 の条件でも圧縮比は燃焼の急峻さにあまり影響を与えていないことが分かる. また, オクタン価 の条件である図 7 と同様に, 投入熱量の増加や着火時期の進角により dp /d max は増加し ( 矢印 M), 着火時期が遅い条件の方が圧力振動の起きる dp /d max の値が大きくなることも確認できる ( 線 N). ここで, 図 13 に着目すると, オクタン価が増加すると全体的に着火時期が遅くなる傾向はあるが, 着火時期が同じであれば dp /d max の値に大きな差はないことが確認できる. また, 圧力振動が起こる dp /d max の値も変化せず ( 領域 O), 図 1 の測定波形にも大きな変化はない. また, 炭化水素燃料の高温酸化反応領域での反応は, 燃料の種類 ( 分子構造 ) にはあまり依存しないことが知られている (1). 以上より, オクタン価の変化, すなわち分子構造の変化は着火時期を変化させる効果はあるが, 着火時期が同じであれば燃焼の急峻さにはあまり影響を与えないと考えられる.. 結論本研究では, ボア全面が可視化された ストローク可視化エンジンを用いて, 筒内圧力測定, 筒内可視化を行った. これにより, HCCI 機関の急峻な燃焼が起きた際の燃焼の様子や, HCCI 機関の急峻な燃焼に影響を及ぼす要因について明らかにした. 得られた結論を以下に示す. (1) 掃気温度一定で投入熱量を増加させると燃焼が急峻になり, ある条件を超えると圧力振動を伴うような燃焼が起きることが分かった. () 圧力振動を伴う急峻な燃焼が起きている場合の筒内可視化画像を観察すると, 短い期間に大きな領域で同時に輝度の高い火炎が発生していることが確認された. さらに, より強い圧力振動が起きている条件の方が大きな領域でより輝度の高い燃焼が起きていることも分かった. (3) 圧縮比の増加は着火時期を進角させる効果はあるが, 着火時期を同じにすれば燃焼の急峻さにあまり影響を与えないことが分かった. () 投入熱量を増加させると, 同一の着火時期であっても dp /d max の値は高くなり, ある条件を超えると圧力振動を伴う急峻な燃焼となることが分かった. (5) 着火時期によって圧力振動が起き始める dp /d max の値に違いがあることが分かった. よって, HCCI 機関の圧力振動は圧力上昇率だけでなく着火時期も影響していることが分かった. (6) オクタン価の変化は着火時期を遅角させる効果はあるが, 着火時期を同一とすれば dp / d max や圧力振動にあまり影響を与えないことが分かった. 参考文献 (1) Zhao, H. (Editor): HCCI and CAI engines for the automotive industry, Woodhead Publishing and CRC Press 7, 5p () 飯田訓正, 伊藤一敏, 木戸口和浩, 高瀬繁寿, 吉田行輝 : ストロークメタノール機関の ATAC 運転時におけるラジカル発光像の解析, 自動車技術会論文集 Vol. 9, No., p. 9-1 (1996) (3) 森川弘二, 金子誠, 伊藤仁, 最首陽平 : 予混合圧縮着火ガソリン機関の研究 ( 第一報 ) -エンジンシステムの検討と圧縮着火の現実 -, 自動車技術会論文集 Vol. 33, No., p. 11-1 () () 金子誠, 森川弘二,, 伊藤仁, 最首陽平 : 予混合圧縮着火ガソリン機関の研究 ( 第二報 ) - 混合気成層化による着火の制御について-, 自動車技術会論文集 Vol. 33, No., p. 15-18 () (5) 窪山達也, 森吉泰生, 畑村耕一, 山田敏生, 高梨淳一, 藤井徳明, 浦田泰弘, : 排気ブローダウン圧力波を利用して過給する 1 HCCI ガソリンエンジンの研究, 自動車技術会学術講演会前刷集 No.1-8, p. 7-1 (8) (6) 養祖隆, 山川正尚, 廣瀬敏之, 田中重行, 中山竜太, 草鹿仁 : ガソリン HCCI 機関における燃料特性と自己着火に関する検討 ( 第 1 報 ) -オクタン価の異なるパラフィン系燃料を用いた解析-, 自動車技術会論文集, Vol., No 1, p. 99-1 (9) (7) 養祖隆, 山川正尚, 田中重行, 草鹿仁 : ガソリン HCCI 機関における燃料特性と自己着火に関する検討 ( 第 報 ) - 燃料成分が異なる同一オクタン価のモデル燃料を用いた解析 -, 自動車技術会論文集, Vol. 1, No 3, p. 63-68 (1) (8) 飯島晃良, 庄司秀夫 : 発光 吸収計測による予混合圧縮着火燃焼の研究, 自動車技術会論文集, Vol. 38, No. 6, p. 83-88 (7) (9) Saitou, K., Otagiri, Y., Takahashi, Y., Iijima, A., Yoshida, K., Shoji, H., : A Study of Ignition Characteristics of an HCCI Engine Operating on a Two-component Fuel, SAE Int. J. Engines, Vol. 3, Issue, p. 59-536, 1 (1) Takahashi, Y., Suyama, K., Iijima, A., Yoshida, K., Shoji, H., : A Study of HCCI Combustion Using Spectroscopic Measurements and Chemical Kinetic Simulations -Effects of Fuel Composition, Engine Speed and Cylinder Pressure on Low-temperature Oxidation Reactions and Autoignition-, SAE Int. J. Engines, Vol. 5, Issue 1, p. 5-33, 1 (11) 須山謙太, 高橋勇介, 齋藤健児, 飯島晃良, 吉田幸司, 庄司秀夫, : EGR を用いた HCCI 機関における冷炎及び自着火挙動に関する研究, 自動車技術会論文集, Vol. 3, No., p. 357-36 (1) (1) 須山謙太, 寺島昂, 東條智也, 飯島晃良, 吉田幸司, 庄司秀夫, : 異なる圧縮比における EGR が HCCI 燃焼に与える影響, 日本械学会論文集 (B 編 ), Vol. 78, No. 791, p. 5-58 (1) (13) Andreae, M., Cheng,W., Kenney, T., Yang, J., : On HCCI Engine knock, SAE Paper 7-1-1858, p386-39, 7 (1) 越光男 : エンジン燃料の燃焼化学反応機構, 機械の研究, Vol. 56, No. 1, p. 115-1 () 118 自動車技術会論文集