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技術資料 176 OpenFOAM を用いた沿道大気質モデルの開発 Development of a Roadside Air Quality Model with OpenFOAM 木村真 *1 Shin KIMURA 伊藤晃佳 *2 Akiyoshi ITO 1. はじめに自動車排出ガスの環境影響は, 道路沿道で大きく, 建物など構造物が複雑な気流を形成するため, 沿道大気中の自動車排出ガス濃度分布も複雑になる. したがって, 近年,CFD (Computational Fluid Dynamics: 数値流体力学 ) を用い沿道の気流分布を詳細に予測し, 局所的な自動車排出ガスの濃度分布を算出する手法が注目を集めている.7 年度から11 年度の5ヵ年で実施されたJapan AutoOil Program (JATOP) 1) では,CFDを利用した沿道大気質モデル ( 以下,JATOPモデルと略記) を開発し, 沿道大気質の環境評価を可能にした. CFDのソフトウェアの多くが市販ソフトウェアであるが, 近年, 無償のCFDソフトウェアが使用されつつある. これらの中には, 商用 CFDソフトウェアに匹敵する精度, 機能を有しているものもあり,CFDコスト削減の観点から大きな期待を集めている. そこで, 本研究は, 無償 CFDソフトウェアとしてOpenFOAM 2) を用いてJATOP 沿道大気質モデルに代替可能なモデル ( 以下,OpenFOAMベースモデルとする ) を開発し, 低コストで利用できる沿道大気質モデルの実現を目指す. 本稿では, 開発において, 都市形状を簡易的に模擬した形状と実都市形状を用い,JATOPモデルとの比較をした結果をまとめる. ーの概要を示す. このモデルは, 気流計算 ( 定常解析 ) を実施し, そこで得られた気流計算結果と自動車排出量分布を用いガス拡散輸送方程式 ( 定常解析 ) を解き, 排出ガスの空間濃度分布を予測する仕組みである. 3 次元形状データ ( 実都市形状データなど ) OpenFOAM 用の計算格子作成 排出量分布を計算格子に割り当て 拡散計算用排出量分布データ 拡散計算 計算結果 計算結果 排出量分布データ 気流計算 Fig. 1 沿道大気質モデルの計算フロー概要 2. 2 気流計算気流計算では,OpenFOAMのデフォルトソルバであり, 非圧縮性流体の定常解析ソルバである simplefoamを用いた. 乱流モデルに標準 kεモデルを使用し, 壁面の境界条件に壁関数を用いた. また, 対流項の離散化にはTVD 系のスキームを使用した. 2. 計算手法 2. 1 沿道大気質モデルの計算フロー概要 OpenFOAMベースモデルは, 基本的に,JATOP モデルのフローと同じである 3).Fig. 1に計算フロ *1 一般財団法人日本自動車研究所エネルギ 環境研究部 *2 一般財団法人日本自動車研究所エネルギ 環境研究部博士 ( 工学 ) 2. 3 拡散計算 OpenFOAMには拡散計算を実施できるソルバがデフォルトで搭載されていない. そのため, ユーザ側でソースコードを書き換え, 対応するソルバを作る必要がある. 本研究では, 気流計算で用いたsimpleFoamのソースコードをベースに拡散計算用ソルバを作成した. なお, 作成したソルバ 1

は,simpleFoam と同様, ガス濃度の定常解を求 めるものである. 3. 簡易型都市キャノピーモデルを用いた拡散計算の実施簡易型都市キャノピーモデルとは, 単純形状の構造物と道路に相当する谷の部分で構成された形状であり, 複雑な都市形状を簡易的に表現したものである. 自動車排ガスなどの拡散計算の基本的な問題としてよく使用される. 簡易型都市キャノピーモデルは, 計算格子が単純であるため, 両モデルで同一の計算格子を設定できる. そのため, 計算格子の依存性を排除したモデルの比較ができ計算スキームや乱流モデルなどの影響を確認する場合に適している. 本章では, 簡易型都市キャノピーモデルを用い, JATOPモデルとOpenFOAMベースモデルの計算の比較を行い, が JATOPモデルと同等の精度を有しているか確認する. 3. 1 計算領域 Fig. 2に本計算で使用した簡易型都市キャノピーモデルの概略図を示す. 図中の赤色の部分から, 自動車排出ガスを模擬したガス ( 以下, パッシブガスとする ) を発生させている. 3. 2 計算条件 Table 1に計算条件を示す. 表からも分かるように,JATOPモデル,OpenFOAMベースモデルともに同じ計算条件を与えている. また, 計算格子についても同一形状のものを使用している. 3. 3 計算結果 JATOPモデルとOpenFOAMベースモデルの平均気流速度分布とパッシブガスの平均濃度分布の比較を行う. ここでは代表として,x = 72,94および116m 位置で計算結果を見る. Fig. 3に主流方向の平均速度分布を示す. いずれの位置においても,JATOPモデル,OpenFOAM ベースモデルの速度分布が良く一致し, 気流計算において,OpenFOAMベースモデルはJATOPモ (a) 概略図 (b) 寸法 ( 単位 :m) Fig. 2 簡易型都市キャノピーモデル Table 1 簡易型都市キャノピーモデルの計算条件 沿道大気質モデル 計算領域 Fig. 2 参照 ( 計算格子幅 :1m) 流入速度 1 m/s ガス発生速度 1 kg/(m 3 sec) デルと同等の精度を有していることが確認できた. Fig. 4にパッシブガスの平均濃度分布を示す. 図より,JATOPモデルに比べ,OpenFOAMベースモデルの濃度分布が少し大きな値を示した. 考えられる理由としては, 対流項離散化スキームの取り扱いが厳密に異なることなどが影響しているものと考えられる. 4. 実都市形状を用いた拡散計算の実施次に, 実際の沿道を再現した3 次元都市形状 ( 実都市形状 ) を用い計算した結果を示す. 気流計算に関しては, 前章と同様,と OpenFOAMベースモデルの比較を行う. なお, 拡散計算は,JATOPモデルを用いた計算を実施で 2

形 1 (a) x = 72 m (a) x = 72 m 1 (b) x = 94 m (b) x = 94 m 1 (c) x = 116 m Fig. 3 気流平均速度分布 (c) x = 116 m Fig. 4 パッシブスカラーガス平均濃度分布 きなかったため, 結果の比較は行っていない. 4. 1 計算領域 Fig. 5に計算で使用した計算領域を示す.Fig. 5 の (a) がJATOPモデル,(b) がOpenFOAMベースモデルの計算領域である. いずれも計算領域の大きさは4km 4km.2kmとしている. 実都市形状は領域中心部に設置し, この領域は細分割により計算格子の解像度を上げており, 最小格子幅を 2.5mに設定している. Fig. 5からも分かるように, 両者の計算格子の 状は異なる. これは,JATOPモデルとOpenFOAM ベースモデルの計算格子生成機能が異なることに起因する. また, 本計算で用いた実都市形状は, 川崎市川崎区池上新田公園自排局周辺である. 4. 2 計算条件 Table 2に計算条件を示す. 計算格子以外は, JATOPモデル,OpenFOAMベースモデルともに同じ計算条件を与えている. 3

に建物等構造物の影響が現れやすい. 図より, これらの決定係数を算出したところ, 決定係数は約.94となり,JATOPモデルとOpenFOAMベースモデルの気流計算の結果は良く一致し, この計算結果からも,OpenFOAMベースモデルはJATOP モデルと同等の精度を有していることが確認できた. (a) 風速 [ ] (m/s) 1 1 R 2 =.936 1 1 風速 [JATOPモデル] (m/s) (b) Fig. 6 気流速度の相関 Fig. 5 実都市形状計算用の計算領域 Table 2 実都市形状における計算条件 沿道大気質モデル 計算格子の生成 の計算 OpenFOAM 付属の計算格子 格子生成機能を使用 生成機能を使用 実都市形状 川崎市川崎区池上新田自排局周辺 ( 池上と略記 ) 計算領域 4km 4km.2km 最小格子幅.75m 2.5m 流入風向 風速 北風,1 m/s 排出量分布データ 池上,5 年平日正午 (JATOP 排出量推計データを使用 ) 排出ガス NOx 4. 3. 2 拡散計算結果 Table 2に示すように, 自動車排出量分布データとしてJATOPの排出量推計データを使用した. 排出ガスはNOxで, 時間帯は5 年の平日の正午を想定した. Fig. 7に計算結果を示す.Fig. 7 (a) は割り当てた自動車排出量分布を可視化したもので,(b) は空間に広がるNOxの平均濃度分布を3 次元的に可視化したものである.Fig. 7 (b) より,NOxが北風に流されながら沿道周囲に拡散している様子が見られ, 本モデルは, 実都市形状を用いた場合でも, 排出ガス拡散計算が機能していることを確認した. 4. 3 計算結果 4. 3. 1 気流計算結果 ( モデル比較 ) Fig. 6には,JATOP,OpenFOAMベースモデルの計算空間の同一位置における気流速度 ( 北向きの気流速度 ) の相関を示す. これらプロットを取得した領域は, 実都市が存在する範囲で, かつ地上から8m 以下の領域である. この領域は, 気流 4

を実施可能にした. 2) 簡易型都市キャノピーモデルおよび実都市形状を用いて, 気流 拡散計算を行ったところ, 気流計算では, 本開発モデルはJATOP 沿道大気質モデルと同等の性能を有していることを確認した. しかし, 排出ガスの拡散計算においてJATOPモデルとの結果と差が出ており, この差の原因については今後詳細な検討が必要である. (a) 排出量分布 今後の課題として, 上記, 拡散計算の精度検証のほか, 本モデルの予測結果をより実現象に近づけるための検討を行う. 本研究は, 一般財団法人石油エネルギー技術センターが実施した自動車と石油の共同研究 (JATOP) の一環であり, 経済産業省の平成 23 年度委託事業として実施されたものである. (b) 空間濃度分布 Fig. 7 NOx 排出量分布および空間濃度分布 5. まとめ以下に, 本研究の成果 知見をまとめる. 参考文献 1) 石油エネルギー技術センターホームページ : http://www.pecj.or.jp/japanese/jcap/index_j.asp 2) OpenFOAMホームページ : http://www.openfoam.com/ 3) 伊藤晃佳ほか :JATOP 沿道自動車排出量推計モデル,,123 1) OpenFOAMを用いた沿道大気質モデルを開発し, 実都市における自動車排出ガスの拡散計算 5