令和元年 6 月 1 3 日 科学技術振興機構 (JST) 日本原子力研究開発機構東北大学金属材料研究所東北大学材料科学高等研究所 (AIMR) 理化学研究所東京大学大学院工学系研究科 スピン流が機械的な動力を運ぶことを実証 ミクロな量子力学からマクロな機械運動を生み出す新手法 ポイント スピン流が

Similar documents
配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

平成**年*月**日

背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

スピン流を用いて磁気の揺らぎを高感度に検出することに成功 スピン流を用いた高感度磁気センサへ道 1. 発表者 : 新見康洋 ( 大阪大学大学院理学研究科准教授 研究当時 : 東京大学物性研究所助教 ) 木俣基 ( 東京大学物性研究所助教 ) 大森康智 ( 東京大学新領域創成科学研究科物理学専攻博士課

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

スライド 1

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

共同研究グループ 理化学研究所創発物性科学研究センター 量子情報エレクトロニクス部門 量子ナノ磁性研究チーム 研究員 近藤浩太 ( こんどうこうた ) 客員研究員 福間康裕 ( ふくまやすひろ ) ( 九州工業大学大学院情報工学研究院電子情報工学研究系准教授 ) チームリーダー 大谷義近 ( おおた

マスコミへの訃報送信における注意事項

互作用によって強磁性が誘起されるとともに 半導体中の上向きスピンをもつ電子と下向きスピンをもつ電子のエネルギー帯が大きく分裂することが期待されます しかし 実際にはこれまで電子のエネルギー帯のスピン分裂が実測された強磁性半導体は非常に稀で II-VI 族である (Cd,Mn)Te において極低温 (

<4D F736F F D DC58F498D65817A88D98FED837A815B838B8CF889CA5F835E834F974C2E646F63>

報道発表資料 2007 年 4 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 電流の中の電子スピンの方向を選り分けるスピンホール効果の電気的検出に成功 - 次世代を担うスピントロニクス素子の物質探索が前進 - ポイント 室温でスピン流と電流の間の可逆的な相互変換( スピンホール効果 ) の実現に成功 電流

トポロジカル絶縁体ヘテロ接合による量子技術の基盤創成 ( 研究代表者 : 川﨑雅司 ) の事業の一環として行われました 共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関物理部門強相関物性研究グループ研修生安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 2 年 ) 研

Microsoft PowerPoint - summer_school_for_web_ver2.pptx

共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関量子伝導研究チームチームリーダー十倉好紀 ( とくらよしのり ) 基礎科学特別研究員吉見龍太郎 ( よしみりゅうたろう ) 強相関物性研究グループ客員研究員安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 米国マサチューセッツ工科大学ポストドクトラルアソシ

<4D F736F F D C668DDA F B5F95F193B98E9197BF5F90F25F8E52967B5F8D488A

高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功 ~ 固体電解質を用いたイオン移動で実現低電流 大容量メモリの実現へ前進 ~ 配布日時 : 平成 28 年 1 月 12 日 14 時国立研究開発法人物質 材料研究機構東京理科大学概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構国際ナノアーキテクト

マスコミへの訃報送信における注意事項

<4D F736F F D C668DDA97705F81798D4C95F189DB8A6D A8DC58F4994C5979A97F082C882B581798D4C95F189DB8A6D A83743F838C83585F76325F4D F8D488A F6B6D5F A6D94468C8B89CA F

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

図は ( 上 ) ローレンツ像の模式図と ( 下 ) パーマロイ磁性細線の実際のローレンツ像

と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

平成18年2月24日

スピントロニクスにおける新原理「磁気スピンホール効果」の発見

特別研究員高木里奈 ( たかぎりな ) ユニットリーダー関真一郎 ( せきしんいちろう ) ( 科学技術振興機構さきがけ研究者 ) 計算物質科学研究チームチームリーダー有田亮太郎 ( ありたりょうたろう ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関物性研究グループグループディレクター十倉好紀

磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発

う特性に起因する固有の量子論的効果が多数現れるため 基礎学理の観点からも大きく注目されています しかし 特にゼロ質量電子系における電子相関効果については未だ十分な検証がなされておらず 実験的な解明が待たれていました 東北大学金属材料研究所の平田倫啓助教 東京大学大学院工学系研究科の石川恭平大学院生

<4D F736F F F696E74202D2088E B691CC8C7691AA F C82512E B8CDD8AB B83685D>

研究成果東京工業大学理学院の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授は 英国ケンブリッジ大学の Johannes Knolle 研究員 Dmitry Kovrizhin 研究員 ドイツマックスプランク研究所の Roderich Moessner 教授と共同で 絶対零度で量子スピン液体を示

イン版 (2 月 22 日付け : 日本時間 2 月 23 日 ) に掲載されます 注 )R. Yoshimi, K. Yasuda, A. Tsukazaki, K.S. Takahashi, N. Nagaosa, M. Kawasaki and Y. Tokura, Quantum Hall

<4D F736F F D C668DDA97705F8DC58F4994C581798D4C95F189DB8A6D A C A838A815B ED089EF98418C678D758DC049424D816A5F F8D488A D B2E646F63>

<4D F736F F D C668DDA F8D818EE690E690B C91E D8CA4816A8CB48D A6D92E894C F

Microsoft Word - Web掲載用_171002_非散逸電流スイッチ_確定r - コピー.docx

報道機関各位 平成 29 年 7 月 10 日 東北大学金属材料研究所 鉄と窒素からなる磁性材料熱を加える方向によって熱電変換効率が変化 特殊な結晶構造 型 Fe4N による熱電変換デバイスの高効率化実現へ道筋 発表のポイント 鉄と窒素という身近な元素から作製した磁性材料で 熱を加える方向によって熱

Microsoft Word - 01.doc

報道機関各位 平成 30 年 5 月 14 日 東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター 株式会社アドバンテスト アドバンテスト社製メモリテスターを用いて 磁気ランダムアクセスメモリ (STT-MRAM) の歩留まり率の向上と高性能化を実証 300mm ウェハ全面における平均値で歩留まり率の

氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

論文の内容の要旨

4. 発表内容 : 1 研究の背景グラフェン ( 注 6) やトポロジカル物質と呼ばれる新規なマテリアルでは 質量がゼロの特殊な電子によってその物性が記述されることが知られています 質量がゼロの電子 ( ゼロ質量電子 ) とは 光速の千分の一程度の速度で動く固体中の電子が 一定の条件下で 有効的に

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

がら この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず 熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針 は得られていませんでした 今回 本研究グループは FeSb2 の超高純度単結晶を育成し その 結晶サイズを大きくすることで 実際に熱電効果が巨大化すること またその起源が結晶格子の振動 ( フォノン 注 2) と

マスコミへの訃報送信における注意事項

有機4-有機分析03回配布用

1. 背景強相関電子系は 多くの電子が高密度に詰め込まれて強く相互作用している電子集団です 強相関電子系で現れる電荷整列状態では 電荷が大量に存在しているため本来は金属となるはずの物質であっても クーロン相互作用によって電荷同士が反発し合い 格子状に電荷が整列して動かなくなってしまう絶縁体状態を示し

< 研究の背景と経緯 > ここ数十年に渡る半導体素子 回路 ソフトウェア技術の目覚ましい進展により 様々なモノがセンサー 情報処理端末を介してインターネットに接続される IoT(Internet of Things) 社会が到来しています 今後その適用先は一層増加し 私たちの日常生活においてより多く

可能性も実証しました 1 週間貼り付けても炎症反応を起こさず 装着感がない電極は 医療の現場での長期測定や スポーツにおける動作の詳細な分析を実現する上で必要不可欠な技術で 今後さまざまな応用が期待されます 本研究成果は 2017 年 7 月 17 日 ( 英国時間 ) に英国科学誌 Nature

超高速 超指向性 完全無散逸の 3 拍子がそろった 理想スピン流の創発と制御 ~ 弱い トポロジカル絶縁体の世界初の実証に成功 ~ 1. 発表のポイント : 理論予想以後実証できずにいた 弱い トポロジカル絶縁体 ( 注 1) 状態の直接観察に世界で初めて成功した 従来の 強い トポロジカル絶縁体で

Microsoft PowerPoint - H30パワエレ-3回.pptx

コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに -スピン軌道工学に道 1. 発表者 : 岡林潤 ( 東京大学大学院理学系研究科附属スペクトル化学研究センター准教授 ) 三浦良雄 ( 物質材料研究機構磁性 スピントロニクス材料研究拠点独立研究者 ) 宗片比呂

Microsoft Word - Web掲載用 CEMS-KentaroUEDA_他機関確認用_工学部【広報課確認】 - コピー.docx

Microsoft PowerPoint _トポロジー理工学_海住2-upload用.pptx

概要 東北大学金属材料研究所の周偉男博士研究員 関剛斎准教授および高梨弘毅教授のグループは 産業技術総合研究所スピントロニクス研究センターの荒井礼子博士研究員および今村裕志研究チーム長との共同研究により 外部磁場により容易に磁化スイッチングするソフト磁性材料の Ni-Fe( パーマロイ ) 合金と

PRESS RELEASE (2017/6/2) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:


本成果は 以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 戦略的創造研究推進事業総括実施型研究 (ERATO) 研究プロジェクト : 伊丹分子ナノカーボンプロジェクト 研究総括 : 伊丹健一郎 ( 名古屋大学大学院理学研究科 / トランスフォーマティブ生命分子研究所拠点長 / 教授 ) 研究期間

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

スライド 1

目次080225

第1章 様々な運動

Microsoft Word - oiwa_ doc

平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

<4D F736F F D D CE81408E9F90A291E A82CC93AE8DEC8CB4979D82F08CB48E E71838C B82C589F096BE815B2E646F63>

熱電変換の紹介とその応用について.ppt

Microsoft Word - 2_0421

Chapter 1

 

発電単価 [JPY/kWh] 差が大きい ピークシフトによる経済的価値が大きい Time 0 時 23 時 30 分 発電単価 [JPY/kWh] 差が小さい ピークシフトしても経済的価値

 

RMS(Root Mean Square value 実効値 ) 実効値は AC の電圧と電流両方の値を規定する 最も一般的で便利な値です AC 波形の実効値はその波形から得られる パワーのレベルを示すものであり AC 信号の最も重要な属性となります 実効値の計算は AC の電流波形と それによって

ます この零エネルギーの輻射が量子もつれを共有できることから ブラックホールが極めて高温な防火壁で覆われているという仮説が論理的必然でないことを明らかにしました 本研究の成果は 米国物理学会誌 Physical Review Letters に 2018 年 5 月 4 日 ( 米国東部時間 ) オ

論文の内容の要旨 論文題目 Spectroscopic studies of Free Radicals with Internal Rotation of a Methyl Group ( メチル基の内部回転運動を持つラジカルの分光学的研究 ) 氏名 加藤かおる 序 フリーラジカルは 化学反応の過

記者発表資料

Microsoft PowerPoint - hiei_MasterThesis

Microsoft Word - JIKI03.DOC

マスコミへの訃報送信における注意事項

τ-→K-π-π+ν τ崩壊における CP対称性の破れの探索

< 研究の背景と経緯 > 互いに鏡に写した関係にある鏡像異性体 ( 図 1) は 化学的な性質は似ていますが 医薬品として利用する場合 両者の効き目が全く異なることが知られています 一方の鏡像異性体が優れた効果を示し 他方が重篤な副作用を起こすリスクもあるため 有用な鏡像異性体だけを選択的に化学合成

4. 発表内容 : 1 研究の背景と経緯 電子は一つ一つが スピン角運動量と軌道角運動量の二つの成分からなる小さな磁石 ( 磁 気モーメント ) としての性質をもちます 物質中に無数に含まれる磁気モーメントが秩序だって整列すると物質全体が磁石としての性質を帯び モーターやハードディスクなど様々な用途

平成 28 年 12 月 1 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院工学研究科 マンガンケイ化物系熱電変換材料で従来比約 2 倍の出力因子を実現 300~700 の未利用熱エネルギー有効利用に期待 概要 東北大学大学院工学研究科の宮﨑讓 ( 応用物理学専攻教授 ) 濱田陽紀 ( 同専攻博士前期

( 全体 ) 年 1 月 8 日,2017/1/8 戸田昭彦 ( 参考 1G) 温度計の種類 1 次温度計 : 熱力学温度そのものの測定が可能な温度計 どれも熱エネルギー k B T を

物性物理学 I( 平山 ) 補足資料 No.6 ( 量子ポイントコンタクト ) 右図のように 2つ物質が非常に小さな接点を介して接触している状況を考えましょう 物質中の電子の平均自由行程に比べて 接点のサイズが非常に小さな場合 この接点を量子ポイントコンタクトと呼ぶことがあります この系で左右の2つ

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft PowerPoint - 04.誘導起電力 [互換モード]

【最終版・HP用】プレスリリース(徳永准教授)

令和元年 6 月 4 日 科学技術振興機構 (JST) 北 海 道 大 学 名 古 屋 大 学 東 京 理 科 大 学 電力使用量を調整する経済的価値を明らかに ~ 発電コストの時間変動に着目した解析 制御技術を開発 ~ ポイント 電力需要ピーク時に電力使用量を調整するデマンドレスポンスは その経済

高校電磁気学 ~ 電磁誘導編 ~ 問題演習

スピンの世界へようこそ!

背景 現代社会を支えるコンピューティングや光通信では, 情報の担い手として, 電子の電荷と, その電荷を変換して生成した光 ( 光電変換 ) を利用しています このような通常の情報処理に用いる電荷以外に, 電子にはスピンという状態があります このスピンの集団は磁石の性質を持ち, 情報の保持に電力が不

<4D F736F F F696E74202D D488A778AEE B4F93B982CC8AEE A2E707074>

記 者 発 表(予 定)

放射線照射により生じる水の発光が線量を反映することを確認 ~ 新しい 高精度線量イメージング機器 への応用に期待 ~ 名古屋大学大学院医学系研究科の山本誠一教授 小森雅孝准教授 矢部卓也大学院生は 名古屋陽子線治療センターの歳藤利行博士 量子科学技術研究開発機構 ( 量研 ) 高崎量子応用研究所の山

: (a) ( ) A (b) B ( ) A B 11.: (a) x,y (b) r,θ (c) A (x) V A B (x + dx) ( ) ( 11.(a)) dv dt = 0 (11.6) r= θ =

平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

untitled

線形弾性体 線形弾性体 応力テンソル とひずみテンソルソル の各成分が線形関係を有する固体. kl 応力テンソル O kl ひずみテンソル

報道発表資料 2008 年 1 月 31 日 独立行政法人理化学研究所 酸化物半導体の謎 伝導電子が伝導しない? 機構を解明 - 金属の原子軌道と酸素の原子軌道の結合が そのメカニズムだった - ポイント チタン酸ストロンチウムに存在する 伝導しない伝導電子 の謎が明らかに 高精度の軟 X 線共鳴光

詳細な説明 研究の背景 フラッシュメモリの限界を凌駕する 次世代不揮発性メモリ注 1 として 相変化メモリ (PCRAM) 注 2 が注目されています PCRAM の記録層には 相変化材料 と呼ばれる アモルファス相と結晶相の可逆的な変化が可能な材料が用いられます 通常 アモルファス相は高い電気抵抗

スライド 1

Transcription:

令和元年 6 月 1 3 日 科学技術振興機構 (JST) 日本原子力研究開発機構東北大学金属材料研究所東北大学材料科学高等研究所 (AIMR) 理化学研究所東京大学大学院工学系研究科 スピン流が機械的な動力を運ぶことを実証 ミクロな量子力学からマクロな機械運動を生み出す新手法 ポイント スピン流が運ぶミクロな回転がマクロな動力となることを実証した 磁性体で作製したマイクロデバイスにスピン流を注入した結果 電流による影響を排除した純粋なスピン流のみでデバイスを振動させることに成功した 電気配線なしで振動を起こせるため 配線が困難なマイクロ機械デバイスの動力に応用できる可能性がある JST 戦略的創造研究推進事業において ERATO 齊藤スピン量子整流プロジェクトの針井一哉研究員 ( 日本原子力研究開発機構先端基礎研究センター特定課題推進員 ) 齊藤英治研究総括 ( 研究当時東北大学金属材料研究所 材料科学高等研究所教授 現東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻教授兼任 ) 前川禎通グループリーダー ( 理化学研究所創発物性科学研究センター上級研究員 ) らの研注 1) 究グループは マイクロメートルスケールの磁性絶縁片持ち梁 ( カンチレバー ) を作製し そこに磁気の流れであるスピン流注 2) を注入することでカンチレバーを振動させることに成功しました カンチレバーは絶縁体なので 電流は一切流れず 磁気の流れであるスピン流だけを流すことができます この結果により スピン流が運ぶミクロな量子力学的回転がマクロな動力となることが実証されました 今回作製した素子では 加熱によってスピン流を注入するため カンチレバー上に電気配線することなく振動を起こすことができます そのため 本手法は配線が困難なマイクロ機械デバイスの動力などに応用できる可能性があります 本成果は2019 年 6 月 13 日 ( 英国時間 ) Nature Communicati ons オンライン版で公開されます 本成果は 以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 戦略的創造研究推進事業総括実施型研究 (ERATO) 研究プロジェクト 齊藤スピン量子整流プロジェクト 研究総括齊藤英治 ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 研究期間平成 26 年 11 月 ~ 令和 2 年 3 月上記研究課題では 電子スピンが持つ整流性に注目し これを基礎とした物質中のゆらぎの利用原理の構築と スピンを用いた新たなエネルギー変換方法の開拓を目指します 1

< 研究の背景と経緯 > 電子は電気的な性質に加えてスピンと呼ばれる自転的な性質を持っており 物質の磁気的な性質はスピンに強く関わっています スピン流とは スピンの流れのことで 磁気の流れ ともいえます スピン流は電流と同じように情報を伝送するキャリアとして利用できると考えられており 例えば 強磁性体 ( 磁石 ) にスピン流を流し込むことで磁石の向きを反転することができます この現象は磁石の向きでビットを表す次世代メモリーである磁気ランダムアクセスメモリー (MRAM) の基本技術となっています 一方で スピンは自転的な性質なので ミクロな回転と見なすこともできます それでは物体の回転運動をはじめとするマクロな機械運動をスピン流によって引き起こすことはできないのでしょうか 本研究では スピン流によって物体の機械運動が生み出せることの実証を目的としました < 研究の内容 > 本研究では磁性絶縁体を加工して作製したマイクロメートルスケールの構造体に磁気的な波としてスピン流を注入することで その構造体の機械運動を生み出せることを検証しました ( 図 1) まず スピン流が流れやすいイットリウム鉄ガーネット(YIG:Y 3 F e 5 O 12 ) を用いて 集束イオンビーム加工装置注 3) によりカンチレバー構造を作製しました さらに このカンチレバーにスピン流を注入するために カンチレバーの根元付近に白金 (Pt) 細線からなるヒーターを熱源として形成しました このヒーターに交流電流を流すことで熱流が発生し スピンゼーベック効果注 4) によって生成されたスピン流がカンチレバーの先端に向かって伝搬していきます 一般に 物体には振動しやすい固有周波数というものがあります この固有周波数と同じ周波数の外力を与えると共鳴が生じ 小さな外力でも大きな振動を作ることができます 今回の実験では 熱流由来の力とスピン流由来の力が発生するため 両者を分離して スピン流由来の振動だけを測定する必要があります そこで ヒーターの交流周波数と試料に加えた外部磁場の周波数を変化させ スピン流由来の力のみがカンチレバーの共鳴周波数に一致するように設定しました この時 熱流は磁場の周波数変化の影響を受けないため 熱流の効果を除外することができます このような実験系を用いてスピン流を注入し カンチレバーの振動を測定しました スピン流を注入しない状態では 環境のノイズによるカンチレバーの微小な振動のみが観測されました ( 図 2 挿入図の小さなピーク ) ここにスピン流を注入すると カンチレバーの振動に明瞭なシグナルが現れました ( 図 2) 電流の有無や磁場の向きを変えた測定から このシグナルが現れる条件がスピン流注入によって生じる力と整合していることが確認されました < 今後の展開 > 今回作製した磁性絶縁体のマイクロ機械構造体 ( カンチレバー ) では カンチレバー上に電気の配線を作り込む必要がありません そのため 配線の作り込みが困難な機械構造体を駆動する手段の 1 つとして 磁性体を利用したマイクロ機械デバイスやナノ機械デバイスへの応用が期待されます 2

< 参考図 > 図 1 実験のセットアップ図イットリウム鉄ガーネット (YIG: 黄色部分 並んでいる紫の矢印がスピン ) により構成されるカンチレバーの根元部分に スピン流検出用の白金 (Pt: 茶色部分 ) からなる熱源 ( ヒーター ) を形成した ヒーターに電流を加えて熱流を発生させることによりカンチレバー先端方向 (x 方向 ) に向かってスピン流 ( 紫矢印の振動 ) を引き起こし カンチレバー先端を上下矢印の方向 (z 方向 ) に振動させる 図 2 カンチレバーの振動特性スピン流を注入した際のカンチレバー振動特性 スピン流を注入しない状態では環境からのノイズによる小さなピークのみが観測された ( 挿入図 ) が スピン流注入によりシャープなシグナルが現れている 電流の有無や磁場の向きを変えた測定から このシャープなシグナルが現れる条件がスピン流注入によって生じる力と整合していることが確認された 3

< 用語解説 > 注 1) 片持ち梁 ( カンチレバー ) 板飛び込みの飛び板のように 一端を固定し もう一端を固定せず自由にしている構造体のこと 注 2) スピン流 スピン角運動量の流れ 例えば電子は電気的な自由度である電荷と 磁気的な自由度で あるスピン角運動量を持っており 前者の流れを電流 後者の流れをスピン流と呼ぶ 注 3) 集束イオンビーム加工装置 イオンを電界で加速し細く絞ったビームを用いて 試料を加工する装置 ナノスケール での微細加工が可能である 注 4) スピンゼーベック効果磁性体に温度差を与えることによってスピン流が生成される現象で 齊藤英治教授らが2008 年に発見した スピントロニクス分野において 汎用性の高いスピン流源としての応用が期待されるとともに スピン流と垂直な方向に起電力が発生する現象 ( 逆スピンホール効果 ) と組み合わせることで熱電変換素子としての応用可能性が示唆されている < 論文タイトル> Spin Seebeck mechanical force ( スピンゼーベック効果による機械的な力 ) DOI:10.1038/s41467-019-10625-y < 関連サイト> ERATO 齊藤スピン量子整流プロジェクトWEBサイト : https://www.jst.go.jp/erato/saitoh/ja/index.html 本プロジェクトにおける過去の研究成果を掲載しています スピンワールド: http://www.spinworld.jp/ ERATO 齊藤量子スピン整流プロジェクトのアウトリーチサイトです スピン科学やその基礎となる磁石の物理をやさしく解説しています <お問い合わせ先 > < 研究に関すること> 齊藤英治 ( サイトウエイジ ) ERATO 齊藤スピン量子整流プロジェクト研究総括東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻教授東北大学材料科学高等研究所 (AIMR)/ 金属材料研究所教授 980-8577 宮城県仙台市青葉区片平 2-1-1 4

<JSTの事業に関すること> 古川雅士 ( フルカワマサシ ) 科学技術振興機構研究プロジェクト推進部 102-0076 東京都千代田区五番町 7 K s 五番町 < 報道担当 > 科学技術振興機構広報課 102-8666 東京都千代田区四番町 5 番地 3 日本原子力研究開発機構広報部報道課 100-8577 東京都千代田区内幸町 2-2-2 東北大学金属材料研究所情報企画室広報班 980-8577 宮城県仙台市青葉区片平 2-1-1 東北大学材料科学高等研究所広報 アウトリーチオフィス 980-8577 宮城県仙台市青葉区片平 2-1-1 理化学研究所広報室報道担当 351-0198 埼玉県和光市広沢 2-1 東京大学大学院工学系研究科広報室 113-8656 東京都文京区本郷 7-3-1 5